VOX ver0.5
SCENARIO_PROT SAGIZUKA
MAKING_WRITER EKIYA

声を―――声を聞いてください。
どうか、声を聞いてください。
こっちを見てくれるだけでいい。
ただ、その存在を認めてください。
それだけでいい。

存在する意味を。

―――声を―――

虚空に向かって吸い込まれるように。


ただ、叫んだ。



ワタシハ、ココニイル。



VOX







一人の男がいた。
近年稀に見る天才で、音楽なんてのをやっていて。
成績も平凡以下、運動も平均。
そんな彼が唯一“歌”に天才だった。

歌い出せばみんなが振り向いた。
その声には全て意味があるように思えた。
空気の振動が感情。
言葉が、温度。
叫びが鼓動だった。
その声は血液のようで、それが全てだった。

「学校なんかじゃ俺は計れない」

そんなことが口癖で夢追い人だった。
そう、彼の夢はシンガーでデビューも決まっていたのだ。
だが性格は思いの外ヘタレで、思い切りが無く優柔不断な人だった。
何の特技かは知らないが、虚勢を張るのが上手かった。
そして一番不思議だったのはマイクを持った瞬間に別人になれることだ。
大量のお客の声援に足を震わせて何度も舞台でこけるのだが、一度マイクを持つとライヴが終わるまでは別人になっているのだ。
いつも舞台袖からマイクを持って出ればいいのにと思っていた。
聞く分にそれは面白いからやらせなかったらしい。
そんなヘタレな彼がどうやってデビュー出来たのかというと全く正反対な友人がいたからだ。

彼の友人は、コレもまた天才で類は友を呼ぶというか、学校の方はからっきしの癖に、
ギターだけは10年に一人の天才的な技術を身につけていたらしい。
茶髪で垂れ目の怒髪。口を開けば思ったとおりの言葉遣い。
怒ると口より先に手が出て、バイクを無免許で乗り回す不良らしい不良な人だった。
そんな彼の悪行は、才能の前に霞んでいたが。



―――当然、彼は当たり前のようにデビューをし、その歌で人々を魅了した。

何ら変哲も無い事実。
よくある話。

その人が1万人のファンの前で倒れるまで。


それは突然だった。
誰も予期しなかった。
ニュースで騒ぎ立てられて彼が初めて新聞の一面を飾ったのはそんな事だ。
免許を取って悪行をしなくなった友人にも、それは衝撃の事実だった。
事務所も友人もその人の両親もメディアに凄く問い詰められた。

それでも、そんなものは1週間のものだった。
病院で出された結果は、過労。
事務所はただ平謝りだ。
ただその両親は慰謝料とかそういったものは求めなかった。
無理していないかを聞いたときに彼はいつも楽しいから苦にはならないと答えていたからだそうだ。
彼の気持ちを考えて、彼の仕事にだけは彼の責任であるのだから―――と。
冷たいとメディアは言うが実際はそんな所にこの言葉の意味は無い。


彼は死んだ。

舞台の上で。

それはそれは幸せそうに笑いながら。

心残りがあればこういうだろう。

“歌いたい”




―――VoX―――


*Shiki...



「おはようっ」
「んーおはようみやちゃん」

恒例朝の挨拶。
目の前の家は幼馴染の家で玄関を出れば鉢合わせすることが多かった。
それは当然行く学校も同じで、同じ学年の子が居るのだ。
当然のことだ。

「ひめちゃんどうしたの? 今日は寝不足?」
「いやっそんなことも無いけど?」

気心の知れた仲で、体調不良でもあろうものなら背中に打ち身が出来ただけでバレる。
そんな心配性な彼女は秋野京<あきの みやこ>という。
性格は優しくて優等生。
美人というよりはかわいいという表現の似合う背の小さい子だ。
まぁそれはあたしから見ればという話なのだが。

「嘘だぁ。目が赤いもん。絶対寝不足。なんかやってたでしょ〜?」
「うぅ、そうやってあたしの私生活を暴くのやめない?」
「いいじゃんっ毎朝の日課だよ」
「日課にしないで〜っ」
「ふふ。正直に白状しちゃいなさい」
「映画見てただけだよっ」
「へぇどんな?」

そんな毎朝はわりと楽しかったりする。
日常として割り切れば―――これがいつもどおり。

「あ、リョウジっ!」

てけてけと走り寄って行く彼女。
どーんっなんて口で言いながら衝突事故を起こすとその人と親しく話し出した。
あたしも少しだけペースを速めて二人に追いつくと朝の挨拶を交わした。

「おはよ」
「ああ、おはよシキ。
 ミヤコの事故癖治せないか?」

整った顔を訝しげに歪めて不服そうに口を尖らせた。
サッカーをやっている為か足が長い男の子。
身長はあたしより少しだけ高く、体格は割と細身だ。
今は教科書やらサッカーの道具やらの入ったスポーツバッグをぐりぐり押し付けてみやちゃんをいじめている。
彼は水ノ上涼二<みずのうえ りょうじ>という駅前のマンションに住んでいたりする子だ。
住宅地に住んでいる私達とは学校へ行く途中の道でよく会う。

「無理言わないでよっ掴んでも引きずられるしっ」
「……詩姫もその体格の割りに軽すぎる体重とか力の無さを何とかした方がいいんじゃないのか?」
「軽いのはいいことだよっ」
「よくねぇよ。太れと言ってるんじゃなくてもっと平均的に頑張れよ」
「へ、平均だよ?」
「こうも京と発達の差を見せ付けられるとなぁ……」

みやちゃんと胸を比べるな胸をっ。
身長なら圧倒的にあたしが勝ってるよっ。

「育てたくても、育たない人だって居るんだよ!?」
「運動の話だよ……運動しろ」
「うぅ……」
でも今明らかに絶対確実に胸に目線が行ったぁっ!
「―――はぁ、今にお兄さんみたいに倒れるぞ。
 ほれ、京っあそこにシュウを発見した。直ちに爆撃を開始せよ!」
「はぁいっ」

素直な返事で走り出すと2メートル手前で足音を消して加速。

「どーーーんっ!」
「ぎゃーーーーーー!!」

ベチンッと見事に痛い音を立てて彼は電柱にぶつかる。
見事にお目当ての人物を撃沈した。
今日も不幸だね……シュウ君……。


「みやちゃん手加減は!?」
「あの辺で忘れてたよ」
「落としたらすぐに拾ってぇぇぇ!」

朝から不憫なのは士部柊<はにべ しゅう>という男の子。
みやちゃんの追突により見事電柱に顔面体当たりをした。
髪は短く鋭い目つきが特徴でわりと恐がられたりするが接してみるとこんな風に面白い人だ。
身長が凄く高くガタイのいい柔道家だ。
一度試合を見に行ったことがあるけど凄く強い。
県内でも指折りの猛者で、大会があればかならず入賞している。
……普段はこんな扱いだが凄い人なのだ。

「おっす。今日も不憫だな」
「おいっす。てめぇ後で覚えてろよチクショウ。ひめっちもおはよ」
「うんおはよー柊君。今日は朝練無かったんだ」
「さすがに試験前だからな。涼二だってそうだろ」
「まぁな。出てもいいけど一人じゃ楽しくないんだよな」
「あはっ涼二は余裕だもんね試験」

この涼二君。凄く頭がいい。
サッカーでも活躍しているしデキスギ君的存在だ。
なんでも出来過ぎ。うらやましい。

「普通だ」

そう言い張る本人。
悪気は無いらしい。
二番の子とかハンカチ引っ張りながら悔しがりそうだ。

「普通の人が一番上にいられると私達立場無いなぁ」
「じゃぁ超余裕だ」
「ウゼェ……」
「どうしろってんだよ……」

悩みどころである。



学校は4人とも同じ私立陽花学園。
よくある進学系の学校で普通科、特別進学科が存在する。
運動系の部活にも力が入っていて普通科には推薦で入ってくる子が多かったりする。

あたしは普通科に通常の受験で入った。
涼二とみやちゃんは特別進学科の方でハイレベルな勉強をしている。
あ、あたしにはこっちの勉強についていくだけで精一杯。
クラスは涼二とみやちゃんが同じA組。
あたしと柊君がC組。
特進クラスの子が集まるA、B組みから普通科がC〜Fとなっている。


―――通常、学校が始まって終わるまで接点は無い。

「オリベ」

憂鬱な毎日。
みやちゃんと一緒のクラスがいいなぁ。

「織部」

涼二とも一緒だし……。
特進Aの評価も凄くいい。
あのクラスは楽しそうだ。

「コラ。返事しろ織部詩姫さん」
「へっ」
「へっじゃない。もっとマシな返事しろ」
「あっ……ごめん啓ちゃん」
「啓ちゃんじゃない。先生だ」

ガツッ
名簿の角があたしの頭を襲った。
つぼを心得ているようで軽く振り下ろしているだけなのに超痛い。

「ひ、ひどいっ! 乙女の頭を何だと思ってるの!?」
「織部のは飾りだと思ってるが。まぁいい」
「よくないっ」
「柏木」
「はい」
「無視しないでー!」
「じゃぁ無限に呼び続けてやろうか。織部、織部」
「無視してー!」

クラスに響く笑い声。
あたしと先生が知り合いなのは有名で、先生はあたしのお兄ちゃんの同級生だ。

「さて、今日は昨日宿題を出していたと思うがやっていない奴は今のうちにやっておけよ。授業の終わりに集める。
 今日は教科書132ページから続きだな。
 ノートを取るなら本文を先に写しておくといい」

啓ちゃんは高井啓輔<たかい けいすけ>という名前は平凡な先生だが非常に生徒の人気が高い。
それも授業が分かりやすいというのと宿題の許容が他の先生より断然いいからだ。
若くてカッコいいと評判で、サッカー部の顧問。
それもそうだ今年で23の若い腕利き教師が女子高生からみて魅力的に見えないわけは無いだろう。
―――まぁ、あたしは昔から慣れ親しんでるから別にそうも思わないんだけど、良く啓ちゃんのことを聞かれることがあるし。
割と啓ちゃんに対しての受付嬢扱いされていたりする。
まぁ追い返す話題ならたくさんあるのでフィルター代わりになってはいるのだが。
意味の分からない逆恨みされたりすることもあるのでその扱いも嫌だが。


と、まぁ色々話はずれてしまったが、涼二とみやちゃんに会える時間が少ないのだ。
柊君は柊君で友達が多いのでいろんなクラスを行きかっているし。
特進のクラスに休憩時間で遊びに行けなくも無いがそもそも校舎が別なので行って帰るだけで大分時間が取られる。
何より自分の教室とは空気が違って超息苦しいというか視線が気になって……。
友達が居ないわけじゃないけど―――中学生より前からずっと一緒だった4人が急に離れ離れになったみたいで嫌だった。
―――そう、幼馴染というやつだ。
あたしとみやちゃんは本当に小さいときから。
涼二と柊君は小学生の時からずっと。
下校時間が違ってもクラブで全く会えなくても、共通する時間が1つあった。


「メッシーメシー! ごはん! ライス!」
「煩いな……連呼しなくてもにげねぇよ」
「あっ柊君また重箱なんだ」
「そう……またなんだよ……みんな手伝えよ」

ゴトンとその包みを机に開け放つ。
柊君のお母さんは豪気な人で、気が向いた日に重箱でお弁当を持たせる。
―――割と月一ぐらいで。

「あははははっみんなでつつこっかあたし今日はパンのつもりだったから助かるかもー」
「いくらなんでも一段丸ごとおにぎりってどうなんだよ……
 家族で遠足に行く勢いじゃんか」
「とりあえず食えってことだろ」
「そうだね〜食べよっかっ」

―――昼食。
コレだけは変わらず4人で食べる。
あたしの一日の一番の楽しみであり、一番癒される時間だ。

「やっぱレイさんのメシは大人数で食べないとな」
「たりめぇだよ。ウチのオカンは分量が多い料理作らないとストレスが溜まっちまうんだよ」
「あはははっでも思いっきり作れるって爽快なんだよ〜」
「確かにっ」

柊君のお母さんの玲さんはあたし達にも優しい。
柔道の道場をやっていて、そこの練習生の人たちに良くご飯を振舞うんだそうだ。
そのせいもあってだろう。ご飯の分量は異様に多い。
今日はパンを買いに行く必要はなさそうだ。

「ほれひめっち。たーんとお食べ」
「ありがとー」

紙皿と割り箸が出てくるあたり、複数人を想定して持たせている。
―――というかこの分量あればあたし達4人全員が賄えるのでは……。

「……さすがに2人じゃ無理だよな……俺もそっち食う」
「……スマン。ウチのアレは手加減を知らないんだ」
「あは……やっぱり残したらアレだよね」

涼二が自分のお弁当は放課後にでも、と紙皿と割り箸を取る。
みやちゃんもそれに習って紙皿と割り箸を受け取った。
アレ、とは。

「……残したら一本背負い制度はまだ残ってるんだね」

士部家伝統。残したらその場で一本背負い。
男でも女でも容赦なく投げるので有名だ。

「アレはあの家に居る限りなくならねぇよ……」

キラリと目の端に涙が見えた気がした―――。
みんな、例外なく引きつった笑いで手を合わせた。
―――体験者にしか分からない辛さがある。
ここの全員は体験者だから、余計にわかるのだが。
まぁ、料理が不味いわけじゃない。
むしろ美味しいし、このバリエーションは食べているだけで楽しい。
と、いうわけで。


『いただきますっ』


あたし達の楽しい昼食タイムの始まり。




「あ、この列はツナマヨっぽいよ」
「あっ私この梅好きだな」
「それにしても朝から3段のメシって元気だな玲さん」
「あのオカンが元気が無い日って無いぞ」
「確かに」
「涼二のお母さんも好きだよねぇこういうの。
 いっぺん持ち回りでご飯作るの提案しようよ」

不意にやられると今日のようにご飯が余ることになるし。
食べてもらえないのは玲さんじゃなくても悲しいだろう。
考えながらもごもごと咀嚼をしていたものを嚥下して涼二が言う。

「いいけど、詩姫のおばさんは不在だろ?」
「あたし作るよー」
「四人分? 重箱で?」
「がっ……んばるよー!」
「それなら私も手伝うよひめちゃんっ
 そういうことならお母さんも張り切っちゃって手伝わせてくれないだろうし」
「みやちゃんありがと〜」

あたしも割と料理が得意な方だ。
それもこれも小学生以前から多忙な両親のおかげで家事全般はあたしがこなしてきた。
一応兄妹で兄が居るのだが、彼も多忙な毎日というか、子供の頃から家ではゴロゴロしている邪魔者でしかなかった。
昔は一流ギタリストとして名を馳せていたが、今はニートにも劣るただの食いつぶしに成り下がっている。
あぁ人間って堕落できるんだなっていうお手本を見せてもらった。
―――でも、あの人を誰もせめることはしない。
あの人は夢にだけは一途で”彼”が居なくなるまでは真っ直ぐバカ正直に生きてた。
それはギターの腕が物語っていて、ギターの練習を怠っていた日を見たことが無い。
―――それは……今でも。
―――……ちゃんとチンして食べるものは作ってきたけど食べているんだろうか。

「……お兄さんは元気か?」

あたしの顔を見て察したのか涼二がそんなことを聞いてくる。
あたしにはシロユキと言う名前の兄がいる。
漢字で書くと白雪なのだが、かなり自分の名前を気にしている。
そんな名前とは裏腹に顔は茶髪で垂れ目で紛う事無き不良なのだ。

「元気といえば元気なんじゃないかなぁ。病気はしてないし」
「そっか……」
「もう、2年経つんだっけ……白雪さん最近元気になってきてるみたいだけど」
「そうだな。あーシロの兄ちゃん最近見たぞ」
「えっ外に出てるんだ」

あたしが家に居る間は外に出ている姿を見ていない。
てっきり引きこもりなんだと思ってた。

「うん。コンビニに居た」
「声かけなかったのか?」
「いや……なんかリポDとか栄養ドリンク買い占めてたから声かけ辛くてな……
 何に使うんだろうなアレ……」
「…………」
「ひ、ひめちゃん? 震えてるよ!? 超震えてる!」

「……買い物はあたしに言えって言ってるのに……
 大体栄養ドリンクなんてそんな所で買い占めなくてもデパートの薬局とかで箱で売ってるし
 そっちの方が断然安いに決まってるじゃん……
 そのお金で一体何日分の食費に……うぅ……」

「……ひめっち……! オレが悪かった。
 分かったから、なっ超苦労してるの分かったからっ! 帰って来い!」

―――織部家、財政管理はあたしの仕事。
親ですら無駄遣いの多いアタシの家は収入支出が共に多い。
お父さんお母さんの仕事で必要だったりするものは仕方ないとしても
お兄ちゃんの無駄遣いには腹が立つ。
―――今日帰って説教だ。
腹いせにオカカおにぎりとカラアゲをお皿にとってがっつく。
あぁこの豪快な味付けはあの人にしか出来ないだろうなぁ。おいし。
やっと半分ぐらい無くなっただろう重箱のおかずを見ているとなんとなく兄繋がりで思い出す。

「そういやもうすぐか。イチ兄の―――」

命日、だ。
口にはしないがすぐに涼二が反応する。

「あぁ、うん。今年もみんな来るのか?」
「おう。オレは行くぞ」
「私も行くよ―――去年は散々だったけど。今年は大丈夫だろうから」

イチ兄。あたしはそう呼んでいた。
水ノ上優一<みずのうえ ゆういち>は涼二のお兄さんで―――
そう、2年前に1万人の前で倒れた天才。
去年はお墓の前でメディアの人たちがたかっていて、お墓参りどころじゃなかった。

「あたしも。じゃぁみんなで行かない?」
「そうだな。試験終わって夏休みの初めだからみんなで集まろうか。
 そのあとはついでに遊びに行こっか」
「そうだねーっここんとこ勉強ばっかりで全然遊びに行けてないしっ
 カラオケ行きたいなあたしっ!」
「詩姫はそればっかだよな」
「いいじゃん! あたしの唯一の楽しみ!」
「ひめちゃん上手いもんね〜」

今はもう、殆ど行かなくなったが、昔はレッスン教室に通ったりして本格的に歌をやっていたことがある。
お兄ちゃんが帰ってきてから、そんな暇はなくなったのでもう大分行っていないが。
時間が出来たら顔を出してくれと言われている。
大分いっていないので先生は拗ねてそうだが。
まぁそれだけの話。
人より少し上手い歌い方を知っているだけで大したことは無い。

「せっかく背が高くて歌が上手いのに。シンガー目指せば?」
「背が高いのは関係なくない……?

 それにあたしは。嫌いだし」

「―――……まぁ、そうだよな」

涼二は苦々しく笑いながらお皿におかずを取った。

―――嫌いだ。
アーティストと名を上げたあの人も、今じゃあの様で。
あたしが尊敬したあの人の歌も今じゃ思い出の歌でしかない。
あの人たちをあんな風にした職業が大っ嫌いだ。
目標だったのに。
あの人たちがキラキラしてて眩しくて大好きだった。


いつの間にか重箱は綺麗に片付いて、みんな満腹でゆったりと駄弁っていた。
梅雨だけど天気のいい今日は清々しい風が教室を吹き抜けていた。
―――まだ、セミは鳴いていないけど。
夏の始まりだった。





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