Vivid Vox Bowling!



前編











体育館に全校生徒が集まって、ガヤガヤと騒がしい。
校長が前に立ってマイクのスイッチを入れた。
キィーンという音が一度体育館に響いて、みんなが舞台に注目した。

校長「えーおはようございます皆さん」

疎らにおはようございます。と声がする。

校長「本日集まってもらった理由は2・3年生は分かっているでしょう。
 1年生は初めてでしょうから説明いたします」

丁寧な言葉からピリピリとした緊張感が走る。
俺はこのイベントを知っている。
かつて兄貴が通った道。俺がかつて目指していた道のイベントの一つ。

校長「本日から4日、学校は休みとなります。」

ざわっと1年生が騒ぐ。
誰もそんな話は聞いていないのだろう。
このイベントを知っているのは兄弟がいるか、クラブの先輩に教えてもらったりした人だけだ。
校長の話はそんな1年生を抑えるようにして進む。

校長「土日にかかる為、事実6日分の休みがありますが―――」

校長が一度話しを止めた。


校長「絵を描いてもらいます」


え? といろいろな所から声が上がる。

校長「期限は月曜日。どんな絵でも構いません。

 全校生徒の絵を先生全員と有名な画家さんをお招きして採点、投票します。
 今まで美術部が有利だと言われることが多かったのですが、
 美術部でなくとも3年連続優勝を果たした人もいます」
そう。それが俺の兄貴、水ノ上優一によって成された栄光の一つ。

校長「要はどれだけ先生の心を掴む作品が描けるか。その一点だけの話です」

ざわざわと話し声が広がる。

校長「描き方、紙、道具などは問いません。
 鉛筆一本で書き上げてもらっても結構、水彩でも油絵でもなんでもいいです。
 空想でも写生でも好きなように描いてください」

やった、適当に描いて休めばいいじゃんーとか、そんな声が聞こえる。

校長「あぁ、一つ重要なことを言い忘れていました
校長はめがねをすっと上げると、ついに言い放った。

校長「―――ただの休みではありません。優勝者には景品があります

ピタリと体育館を占領していた会話が止んだ。

校長「過去の例ですと―――その年の修学旅行が外国になったり、
1クラスで焼肉パーティーをしたり、ある人は1年間食堂を無料で使ってましたねぇ……」

校長は光るめがねを中指で押し上げる。
―――やるな、全校生徒はその雰囲気に呑まれている。
俺の周りで数人、生唾を飲む音がした。


校長「最近ではペア旅行券……なんてのもありましたし」


ピシィ!!!
空気が変わった。
特に男子は戦闘態勢に入ったようだ。
睨むように舞台を見上げる。
ていうかそんなの許して良いのか学校め。

校長「他にも努力次第で優秀賞には成績に関係するように……おっと。
 まぁ今日の連絡はそんな所です。皆さんいい絵を描いてください―――」

本当にそれだけで学校は終了。
許されるのかこれが……。
コレが、俺達の真剣勝負の始まりだった―――!










柊「涼二がんばらねぇとなっ」

柊が体育館を出た所で話を振ってくる。

涼二「おう。とりあえず勝ちたいとは思ってるぞ」
柊「は? 違うって。アレみろよ」

そういって柊は親指で自分の後ろの方を指差す。
そこには詩姫と京が立っていた。
それと、顔ぐらいしか知らない男達。

生徒「俺、織部さんの為に優勝するから!」
詩姫「え、いや―――?」
生徒「いや、俺が秋野さんとっ」
京「あ、ははは……」

狼狽する詩姫と渇いた笑いで追い詰められていく京。
―――あいつらっ!

涼二「柊!」
柊「あいよっ」

俺と柊はその男達の前に割り込む。

涼二「いくぞ、詩姫、京」

そういって俺達は男の群れを割って抜け出す。
無数の敵視を掻い潜り俺達は安全圏に達した。
俺は二人を振り返る。

涼二「……ふぅ危なかったな。気をつけろよ二人とも?」
柊も後ろを振り返りながら言う。
柊「今年は結構危ないらしいしなっ! 多分遊園地ホテルの宿泊券を突きつけられるぞ」

あからさまに二人は引いた。
詩姫が恐る恐る聞いてくる。

詩姫「こ―――断ったら―――?」

俺はちょっとだけ考える。

涼二「村八分ってとこじゃないか?」
京「……まぁ、ある意味敬遠されるよね……」

京がそう続いた。
なかなか厳しい所がある。

詩姫「―――か、勝つしかないね、涼二っ」

詩姫が必要以上に身構える。
ちょっと脅しすぎたかな。

涼二「ま、気楽に行こう。あいつらが勝たない限りは大丈夫なんだから」

不意に京が満面の笑みを見せる。

京「ヒ〜メちゃんっ♪」
詩姫「え?」

詩姫の耳元で何かぼそぼそと囁くと、
ボンッと音を立てて詩姫が真っ赤に茹で上がった。

涼二「……詩姫?」

俺が手を差し出すとスタンガンを当てられたみたいに弾けのいた。
口をパクパクさせながら壁に張り付く。

涼二「……京、何言ったんだ」
京「え〜別に大したことじゃないよ?
 ただ優勝したら涼二と遊園地宿泊だねっていっただけだよ?」

破壊力抜群じゃないですか。

涼二「……苛めないであげてくださいよ」

俺はため息をつきながら小悪魔を諭す。

京「やだなぁ苛めてないよ? ヒメちゃん可愛い〜」

語尾にハートをつけて詩姫に抱きつく。
残念ながら俺もそう思ってしまった。不覚……。

―――さて、残念ながらこの街は写生に向かない。
一応海岸ぐらいあるが、そんなもの。
せっかく6日という長い時間がある。
俺はみんなと別れると一度家に戻り、泊まり準備をした。
俺の脳裏にはある。
自然がたくさんあって、かつ写生に向いている場所。

小草町―――。

確かそう呼ばれていた。
俺の婆ちゃんちがある。
時計を見る。午前11時過ぎ。
これから向って着くのは3時ぐらいだろうか。
コンコンッとノックが響く。

涼二「何ー?」

ガチャっとドアが開く。

母「あれ? 涼ちゃんどこか行くの?」
涼二「あぁ。婆ちゃんちに行こうと思って」
母さんにはあらかじめこのイベントのことは伝えてある。
兄貴もこのイベントの時は、大抵家には帰ってこなかった。
母「―――そう。この街は写生に向かないって優ちゃんの口癖だったもんね」

そう言って母さんは少し寂しそうに笑う。

涼二「あぁ。俺もそう思うよ」

俺は制服を着たままスポーツバッグを肩にかけて準備完了。
シャツとか下着とか、その他必要なものがちょっとだけ入っているだけなので軽いものだ。

母「駅まで送るわ」
涼二「うん。ありがと」

簡潔に言葉を交わして階段を降りる。


母「さ、みんな行きましょう」


―――何故、こいつらがいるんだろう。


詩姫「あ、お世話になりますっ」
京「涼二遅いよ〜?」

はぃ?
な、なんだ?

母「柊君は家の方から直接駅に行くって。さ、いきましょ?」

いや、呼んだ覚えないけど。

涼二「で、コレ何の集団?」
母「え? みんなで行くんでしょ? おばあちゃんち」
涼二「いや、言ってねぇけど」
母「ん? おばあちゃんにはもう言ってあるわよ?」

話がかみ合ってない。
みんなには一言も何も話していない上に、
ばあちゃんちに行くことすらさっき決めたばっかりなのに。
……さすが不祥母。
俺の行動はすべてお見通しらしい。










―――小草町。
一日数本しか通ってないバスを使ってしかたどり着けないその町。
しかもバス停から住宅街までが更に長く、ぬかるんだ田んぼ道を永延と歩かなければならない。
午後3時過ぎ、俺はその土地に降り立った。
冬全開の今、周りに何もないこの町は、超絶寒い。
制服にコートを着込んでいても寒い。
まぁこれから歩く道を考えれば、ちょっとはマシかもしれないが。
俺は辺りを見渡す。
バスが発車し、俺たちを置いてどこかに消える。

涼二「―――で、なんでお前らが居んの?」
詩姫「だって涼二について行けば絶対良い場所行くでしょ?」
柊「右に同じくー」
京「左に同じくー」
夕陽「前に同じくー」
朝陽「ごめんね、みんな止まんなくて」
夕陽「あーちゃん流れをとめちゃだめだよっ」

―――ずいぶんと多いな。
ちゃっかり泊まりの準備も万端らしい。
まぁ古い家で離れもあるし、大丈夫だろ。多分。

涼二「……まぁ今から帰れってのも酷だしな。あと携帯通じないから迷うなよ」
詩姫「い、田舎だねすっごい」
京「ここってなんていう町?」
涼二「小草町」
柊「名前がもうちっちゃいよな」
夕陽「確かにっ……み゛ゅっ」

がっつり夕陽に首固めが決まる。

朝陽「それは失礼でしょっ」
夕陽「ご、ごめっ……くるしぃ〜〜」

……仲むつまじいことで。
俺は歩き出した。
いつまでも何も無い寒い場所に立っているのもつらい。

ひたすら歩くことで、なんとか舗装された道路にたどり着くことが出来た。
柊「うわっなんじゃこりゃっネイティブリーゼントって!」

町並みは田舎。超田舎。激田舎。テラ田舎だ。

夕陽「あーちゃんっ駄菓子屋さんがあるっ!」

ひび割れたアスファルトの間から大量の草が生えている。
逞しいことで。

柊「涼二っ! 見ろコレっすげぇぞ」

柊は嬉しそうに道端から生えた一本のススキを指差す。
周りを見てもススキは生えておらずそこの隙間からだけ生えていた。
……だからなんだ。

涼二「いいだろ、そんなの。さっさと行こう」

そういって俺は歩き出す。

柊「あ、まってって〜っあ。」

柊は勢いあまってそのススキを抜いてしまったようだ。

京「ん? 早く行こうよ暗くなっちゃうよ?」
涼二「あぁ。柊っそんなんいいから行くぞ〜」
柊「へいへい」

俺は正月の記憶を頼りに婆ちゃんちに向って歩いた―――。







婆ちゃんは快くみんなを泊めることを了解してくれた。
俺たちは荷物を置いて、早速この辺を歩き回ってくることに決めた。
この町は自然が多く、建物も趣のあるものが多い。
改めてその町並みを見ると、すごく面白い。

詩姫「ね、ね! 涼二っあれって上れるの?」

彼女が面白そうに指差すのは鳴滝山と呼ばれる山だ。
ハイキングコースもあるし、この辺じゃ散歩がてら上る人もいるそうだ。

柊「うっしゃ! 行ってみようぜ!」
夕陽「あーちゃんっあたしたちも行こうよ!」
朝陽「あ、夕陽っ階段の方は危ないよ」

言ってさっさと登り始める柊たち。
まぁ、いいか。
俺たちも後についてアスファルトの坂を上り始めた。



京「大丈夫? ヒメちゃん」
詩姫「だ、いじょうぶっ」

そのわりに一歩一歩が重そうだが。
柊と近澤姉妹の姿はもう見えない。
多分もう頂上に座っているのではないだろうか。
とはいえ数十分も登ると結構いい感じの景色が見えてきた。
俺は詩姫たちを待ちながら、ちょくちょくと山道に足を踏み入れる。
あっち側に回ると景色が良さそうだ。

京「涼二? 何か見つけた?」

二人がようやく追いついたようで。

涼二「あぁ、もうちょっと向こうに行って見たいと思って……大丈夫か詩姫?」
詩姫「……だ、駄目かも」

大きく呼吸を繰り返して、本当にきつそうだ。

涼二「そこの山道の階段で休もうか。陰になってるし」
詩姫「う、うん」

詩姫を階段に座らせて、休ませる。
京が面倒を見てくれるらしいので俺は山道を更に獣道に外れて、山を回る。
サクサクと山肌沿いを回っていくとちょっと開けた崖のような場所に出た。
お、結構いい場所発見。

海と山をふんだんに含んだ青々とした景色が広がる。
風を避けれる開けた場所だ。
寒いが何とかなりそうだ。
何やら悲鳴のようなものが多数聞こえるがそれを無視すれば最高だ。
……。
なんだ?
悲鳴……というか雄たけび? のようなものが下から迫ってくる。
……熊か!?
いや、熊ってこんな禍々しい声だったか!?
な、何にせよ、嫌な予感がビンビン伝わってくる。
詩姫たちのところに戻ろう。

 があぁぁぁああああああああぁぁぁ……!!!!

―――っ!
ソレはものすごい勢いで近づいてきた。
おぞましいほど背筋に鳥肌が立つ。
しかも多分、山道―――!!
俺は走り出した。
ありえない悪寒だ。

間に合え―――!!

??「はっ……嬢……!! 一番に―――!!」

そこには今にも襲い掛からんばかりの獣が。
実際には人として認識は出来たが、行動は動物のソレと同じ。
本能のままに動く狂戦士だ。

涼二「て―――めぇ!!」

言うと同時に俺は思いっきりそいつを蹴り飛ばす。
獣めいたうめき声を上げて、森へと吹き飛ぶ。

涼二「大丈夫かっ! 詩姫っ! 京!!」
京「……りょ、涼二っ……っヒメちゃん」
涼二「詩姫が!?」
京「寝てたんだけど……」
涼二「寝てたのか!!? 何もされてないんだな?」
京「う、うん。いきなりそこから登ってきて、私たちに襲い掛かってきたから……」
涼二「さ、災難だったな。いろんな意味で……こんなところさっさと―――」

ドゴッ!!
後頭部に、衝撃が走る。

涼二「ガ―――!」
京「涼二!!!」

悲鳴めいたミヤコの叫び。

??「嬢は……俺が―――……守る……!」

その言葉を聞いて俺は意識を失った。










??「このマラソン大会って他校まで参加してんのか?」
??「それはないと思うけど……もしかしたら、たまたま写生かなにかに来ていて、それで巻き込まれちゃったのかも……」










詩姫「涼二っ! 涼二っ!!」

その声に目を覚ますと視界いっぱいが詩姫だった。

涼二「近いよ……」
詩姫「よかったっっよかったぁぁぁっ」
涼二「だぁぁまたかよっ! 大丈夫だって! 泣くなってっ……」


京「涼二っ!」


ガバッと俺から離れる詩姫。
涼二「大丈夫だったか京?」
京「うん……私も気を失ってたから」
涼二「……あいつに殴られたのか?」
京「ううん? 私たちに向かってきて、違う、って言ってまた登っていったから。私はそこで気を失ってたみたい」
涼二「そうか……柊たちが心配だな俺は上に行く。二人とも山を降りてばあちゃんちで待っててくれ」
詩姫「ううんっあたしはついてくよ」
京「私も。危ないよ涼二1人じゃ」

まぁ確かに二人で下らせても危ないのには変わりない。

涼二「……まぁ危ないと思ったらすぐに戻るぞ。行こう」
京「あれ? 二人で続きしないの?」
詩姫「み゛ゃっっ!?」
涼二「するかっ! とっとと行くぞ!」




3人は逆に俺たちを探して降りてきたらしく、すぐに合流できた。
そして例の奴のことを話すと俺たちは山を降りた。
ちなみに柊たちはその狂人には会ってないらしい。


夕陽「あー熊かぁ〜会えなかったなぁ」
朝陽「……人なんでしょ?」
涼二「ぱっと見」
柊「酷い子っ! そこんとこどうですか京ちゃん」
京「ぱっと見」
詩姫「みやちゃんも容赦ないっ!?」
夕陽「あたしたち、みかん食べてただけだもんね〜?」
柊「ね〜?」
涼二「この盗人共め」
朝陽「わ、私は食べてないよ?」
涼二「…………信じてるよ」
朝陽「今の間は!? 今の間は何!?」

詩姫「ね、ねっアレって学生かな?」
京「あ。ほんとー。同い年ぐらいの人たちだねー」
柊「あ? 歩き方おかしくない?」
涼二「おかしいな……。怪我でもしてるのか?」
朝陽「でも一応引率の先生みたいな人がいるみたいだから大丈夫なんじゃないの? ……足引き摺ってるけど」
夕陽「大丈夫だよ〜。きっと」
涼二「……だな。冷えてきたし帰って夕飯にしようか」
全員『さんせーっ』







京「涼二は大人しく待っててね?」
涼二「……はい……」

悲しいかな料理の下手な涼二は厨房からハブられる。

柊「うはっはっはっは! じゃ俺は手伝うかな〜」
涼二「……くっ!」

柊にさえ遅れを取ってかなり悔しそうだ。
ポツンと部屋に取り残される涼二―――と夕陽。

涼二「……行かないのか?」
夕陽「う、うん……あたしはあんまり料理得意じゃなくて……」
涼二「仲間!」

涼二は言って夕陽の手を握って上下にふる。

夕陽「あ、ああぁぁのっ」
涼二「うん?」










涼二「くぅ……! ここだっ」
夕陽「あっそんなっ……うぅあたしだってっ」
涼二「ん……ならここを攻めるっ」
夕陽「あっダメっダメぇっ!」
柊「……なにやってんだ?」

いつの間にかそっと襖の間から覗いている柊。
なんで覗いてるんだ。
ちっ。違うのかと舌打ちして部屋に入ってきた。

涼二「白黒つけてるんだよっ!」
夕陽「次はあたしが白なんだからっ」
柊「リバーシでか……で、どっちが勝ってんだ?」
涼二「俺が常に白だ」
夕陽「うーーーっ負けないんだからーーっ」
柊「勝ち方知ってるからなこいつえげつねぇ」
涼二「何事にも戦法というのがある」
柊「将棋ならいい勝負が出来るんだがな……他は刃がたたねぇし」
涼二「なんならリバーシと同時進行してやるよ」

柊「王手っ!」
夕陽「端とったっ」
涼二「同じく2−伍角。王手。端? あぁほい。コレで四隅以外白な」
柊・夕陽『ひどっ!?』




朝陽「はいはーいっご飯出来たよ〜机片付けて〜」
柊「あ、お母さんがきたっ」
朝陽「お母さんじゃないっ」
夕陽「ママーお方付け出来たよ」
朝陽「夕陽、ご飯抜きね?」
夕陽「ごめんなさいっ!」
詩姫「んっしょ……と。あ、みやちゃーん! 一つご飯のお皿が足りなーい!」
京「分かった〜あ、奈知恵さんコレお願いしていいですか?」

いきなり騒がしくなって大きな机が彩られる。
ちなみに、奈知恵とは婆ちゃんの名前だ。

柊「おーすげーっ」
涼二「悪いねばーちゃん。大人数で」
奈知恵「ええよ。ええよ。優ちゃんもいっぱい友達連れてきてたからねぇ。
 こういうことは少ないからね。婆ちゃんは嬉しいよ」
涼二「あはは。そっか。んじゃぁいただきますかっ」

全員『いただきまーすっ!!』














―――1日目は無事、終了した。
なんとか、だ。
この町は景色もいいし趣もある。かなりの好条件だ。

……ただ、猛獣の件を除けば。
明日はもっと安全そうな場所を探そう。
















――――――2日目

古い町並みも多く色々あるみたいだ。
なんか頭が出っ張ってるのが歩いてる。

柊「うわ、リーゼントかよダッセ」
翔「あ? あんだとコラ」

しかも聞こえちゃてるよ。頑張れ柊。

柊「あれ?」
翔「おぉ?」

二人はマジマジとお互いを上から下まで確認する。

柊「もしかして、翔ちゃんかっ!!?」
翔「やっぱり柊ちゃんかっ!!?」


あっはっはっは!ひっさしぶりじゃねーかっ!
と言いながら抱き合ってぐるぐる回る。
暑いし、キモイ。
どうやら片田舎で知り合いに出会ったようだ。リーゼントの。

柊「お前が居なくなってから、大会が楽しくなくてなぁ」
翔「999勝999敗で止まってるんだよなぁ確か懐かしいなぁオイ」

お前らどんだけ試合大好きなんだよ。
格闘ゲームならそれ以上表示されなくて0に戻るぞ。
心の中でそう突っ込む。

柊「なぁどっか休める場所ねぇか? 寒いしな……」
翔「あん? こんぐらいでへばったのか? 修行がたんねぇなっ!」

そういいながらガタガタ震えているのは気のせいだろうか。

柊「何言ってんだ見よ。あのか弱いレデー達を」」
翔「おぅ! マブいじゃねぇか! あぁ? コレか? お前のコレか??」

マブいって……それにその突き立てた親指もあってねぇし。彼氏かよ。
何処から突っ込めば良いんだ!!

柊「いや、全部こいつのコレだ」

グッと親指を立てる。
壮絶な誤解を生むような事を言う柊。
まぁ、それはあまりにも信じがたいだろうからこの人も―――

翔「ぁんだとぉ!!? てめぇ!! コラ!! ちょっとつらかせやぁ!!」
涼二「信じてるのかよ!」

そんな俺をケタケタと柊が笑う。

柊「こいつバカだからな。日ごろの恨みだっ思い知れっ」
涼二「ちょ、違うぞっ」

俺の襟首を掴みかかりにきていた手を掴んで止める。
が、野性っぽい力で押し切られ掴み上げられる。

翔「女の子達に謝れぇ!!」

顔ちけぇーーー!
なんだ!? この展開は理不尽すぎるっ
―――隣でニヤニヤ笑ってる柊に本気でブチ切れた。
目の前で喚きたてるリーゼントの革ジャンの襟元を掴んで、思いっきり頭突きをかました。

涼二「っっせぇ!!! 俺が好きなのは詩姫だけだ!!!!」

しばらく額を付け合ったままで硬直する。
理由が分からなければかなり怪しいだろう。

翔「―――ふん。決めた相手がいるなら何も言うことはねぇよ」

そう言って手荒く俺を突き放した。
誰もソレがこみ上げた涙を拭う為だとは誰も気づかない。
今になって額に痛みがじんわりとやってくる。
ポンポンと。肩を叩かれた。
振り向くとほっぺたに指が刺さる。

京「涼二、大告白〜」

そういってその指で木陰に居た詩姫を指す。
真っ赤になって固まる詩姫がそこに居た。
近澤姉妹がつついているが反応していない。
……柊、絶対後でシメる。








翔「近くにある休み場所ねぇ……あぁ、ボーリング場があるぞ。
  ゲーセンもあるしみんなよく行くな」
柊「へぇ。じゃぁそこでいいや行こうぜ〜」

その翔という奴についていくこと10分ほど。
……10分は近く、なのか?


『ビバキザキ!』という青い看板が見えた。
こう、なるべく無視したいデザインだ。


翔「アレだ」
涼二「やっぱりアレなのか」
柊「ありえないセンスだな」
夕陽「いろいろね」
京「む、むしろ全部……?」
詩姫「だってあの看板の写真の人実写だよ……?」
朝陽「店長だったりしてね?」
夕陽「まさか〜」

自動ドアが開いて店の中へ入る。
寒かった外の空気とは一転して、暖かい空間に変わる。

店長「らっしゃい!!!
VOX組『いたーーーーーーーーーー!!!』

恐るべし田舎……!





翔「へぇ〜写生ねぇ。また辺鄙なところまでご苦労なこった」
柊「だろ〜? 何もこんなクソ田舎まで来なくてもいいのになぁ」
翔「おい小草町ナメんなよ!」
柊「舐めてねぇよ馬鹿にしてんだよ」
翔「殺す!」
涼二「殺るなら静かに殺れよ……」
柊「止めろよ!?」
翔「ったく……あん? あれは……アリス嬢! ……とナルタク……けしからん!」

言って、自動ドアの向こうへと出て行く。
何か揉めたあと、またボーリング場に戻ってきた。




拓哉「あんだよ! ……どちらさん?」
有栖「……あれ? どっかで見たよあの制服……」
拓哉「制服……? なんかのコスプうぇい!!」
有栖「何?」
拓哉「いやっイタイイタイ! そこなんかある! 秘孔かなんかが!」
有栖「バカな事言わないのっもう」

咲那「やっほ〜有栖っ」
彩七「なんじゃ小鬼。お前も居たのか」
拓哉「ひどっ!」
彩七「ん……? 小鬼め。ついに仲間を呼びおったか」
拓哉「全部俺のせいにするのかよっ!」

涼二「なんか収拾つかない大所帯になったな……」
詩姫「ど、どうする?」
柊「決まってんじゃねーか……ここはボーリング場だぞ?」
翔「よし! じゃぁ交流会のボーリング対決といくか!!」
柊「いーねぇ!!」
全『はぁ!?』
拓哉「意味わかんねぇよ!」
有栖「そうよ。確かに昨日山の途中で見かけたけど、それだけよ」
涼二「……見かけた? なぁ、昨日熊かなんか居なかったかあそこ」
拓哉「熊……に近いのは居たな」
彩七「ほぅ。おぬしらもしかして山道におったのか?」
京「そうですけど……なんだかすごい人に襲われて……」
Vivid組『……あーあ……』
拓哉「はいはい……そういうことね……それこいつだわ」
彩七「こやつ、またたびを嗅いで理性を失ってな」
咲那「あはははっまぁイっておいでよ〜」

言って翔を差し出す。

翔「何の話だ?」

涼二「問答……!」
京「無用!」

後ろに回った涼二から渾身の手刀と視界が奪われたころには京からの鳩尾へのエルボーが決まっていた。











柊「ほい、みんな引いて引いてー」
涼二「どっから持ってきやがった」
柊「はい! 王様だーれだ!?」
拓哉「そのクジ!?」
彩七「ふむ。王様じゃのう。5番は死ね」
拓哉「今俺のをチラッと見たろ!? 見ただろ!?」
涼二「……俺も五番なんだが……」

翔「つぅわけで、だ。同じ番号がペアだ。
 4人ぐらいが1つのレーンでやりゃいいだろ」
咲那「はーい用紙これねー適当に2ペアずつ書いてー」
涼二「あれ?でもそっち1人足りなくない?」
翼「じゃぁ僕も混ぜてもらおうかな」

VOX組『Σ(゜∀゜;)!?』

拓哉「翼……いつからいたんだよ?」
翼「え? 初めからいたけど」

彼には光学迷彩でも付いているんだろうか。






―――クジは、運命のようにその対戦相手を振り分けた。









後編へ続く

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