ex.そして、その詩は。

*Mayo...






仕事から帰ってテレビをつける。
今日はアスミが出るっていってたドラマがある。
ばっちり録画の準備もしてあるし。
また美優と3人で集まれたときにからかうネタにしてやろうと思う。

いっちーが死んでもう5年。
この間お墓参りは終わらせた。
あのときからバラバラになった私達、
結局シロユキは学校に来なくなってギリギリで学校を卒業。
アタシと美優は短大に進み、アスミが演劇で有名な大学にスカウトされてそっちへ。
卒業してすぐ、デビューした。
初めはモデルっぽい仕事をしていたらしいがまぁ……そっちはそっちで似合っているが、
やっと目標に近づけたと電話で嬉しそうだった。

美優は美優でなんだか夢があったみたい。
卒業と同時に東京へ行って、最近は忙しいみたい。
何をやっているのかは、聞いても教えてくれない。ちぇ〜。
ほんと、5年なんてすぐだった。
あのとき、あんなにいっぱい事件が起きて―――。
なのに、もうみんな忘れたように笑ってられる。
それが、大人になるってことだろうか……?


―――あの後の啓ちゃんは、正直悲惨だった。
左手の神経の断裂で完全に左手から先の感覚を失った。


―――……同時に、夢だったレーサーを諦めることになった。


そのことに本人より酷くショックを受けたのは、シロユキだった。
お医者さんに殴りかかる勢いで何とかしてくれと頼み込んだが、それは無理らしく、
リハビリで直るかもしれないが、それは見えない壁に挑み続けるようなものだということだ。
危うく本当にお医者さんを殴りそうになったシロユキをけーちゃんが止めて
その左腕で思いっきり殴ると


「阿呆!! お前はお前の夢だけ見てろ!!
 なんならついでに俺の分も上乗せしとけ!!」


だってさ。
―――ホントアイツはいい友達を持ってる。
けーちゃんはレーサーを諦めて、教師になったみたいだ。
この間、陽花に採用が決まったと聞いた。
うん。ホントけーちゃんなら見本になるような教師になってくれると思う。







そして―――アイツは。






『今日のゲストはスノウの皆さんですこんばんわ〜!』
『ちわーっす!』
全員が頭を下げる。
―――テレビの中に知り合いの顔があるなんて、少しだけ優越感。
『スノウはデビューして5週年も経つんですね〜
 それなのに皆さんまだまだお若い……皆さん同い年でしたよね?』
『えぇ僕等全員今年で22ですよ』
アレは―――多分シンセを弾いていた人だ。
『それじゃ、高校卒業ですぐデビューってことですよね……?』
『はい。そうです。
 インディーズからの予定だったんですけど一気にきてしまいました。』
眼鏡の―――多分ベースの人だったかな……。
『すごいですね! しかもそこから出した曲全部チャートの1位を獲得してますし』
『それは聞いてくださってる皆さんのお陰っすよ!』
元気がいいこの人はドラムの人だ。間違いない。
『それでは今日披露していただく曲は、放送されるのは
 初めてということですがどういったコンセプトで……?』
『はい。この曲は―――』
シロユキがそこで初めて口を開いた。
もう慣れきった態度でマイクを握るシロユキ。

―――もう、別人のように笑顔を見せる。




『オレの、大切な友達の為に書いた詩です』
『あれ? それって俺?』
『僕だよね?』
『オレに決まってんだろ?』
『安心しろ。オマエラじゃない』
『『『酷い!』』』

『あはははっ仲が良いんですね〜!
 ―――それではスタンバイお願いいたします!
 曲はスノウで―――!』




『Dear ALL!』




アタシは画面に釘付けになる。
シロユキはギターをかき鳴らして叫ぶ。


それは―――、一つの物語。















少年は一人の少女を好きになった。
その子は夢を持っていて少年は何も持っていなかった。
少女は少年にギターをくれた。
少年はギターを鳴らし歌い始めた。

たった一つ出来ることを見つけた。
キミがくれた僕の夢になった。
その欠片だけを信じていつも歌った。
なぁ、キミに僕の声は聞こえているか?


届かぬ声を大きくするために少年は毎日歌った。
その歌を聞いてくれた見知らぬ少女は笑顔をくれた。
少年は歌い続けたその少女の為に。
声枯らし叫ぶのはこの声の想いだけ信じているから。

少年は歌う何時までも。
たった一つの想いが届くなんて思っちゃ居ないが
僕は歌うことしか知らないから。
たった一つの想い掲げて僕は叫び続けるんだ―――!


なぁ、僕の声はまだ届かないのか?
悲しむ少女に僕は何もしてやれないのに。
なぁ、僕の声が届くことがないのか?
それなら僕はもう歌うことをやめるのに。

少女の涙を作るあの影も
僕には覆い隠すことも出来ない。
失って走って叫んで泣いて
僕にに出来ることが無くなって。
歌うことを諦めて俯いている僕に
歌えというのはまたキミだから
 僕は歌うよ


少年は歌う何時までも。
たった一つの約束が僕を支えるものだった
僕の為に失ったその夢は
たった一つの絆だと信じきって走るから

少年は叫ぶ何時までも。
たった一つの信念がキミから貰った勇気だから
僕のために走ってくれたあの人に
たった一つのありがとうを届けるために叫ぶんだ


少年は歌う何時までも。
たった一つの想いが届くと信じているよ
きっと今も泣いてるあの子にも
たった一言「好きだ」って! 叫び続ける何時までも

















―――涙が、止まらない。
アイツは、馬鹿だ。
ねぇ、アタシは、夢なんて持って無かったよ?
―――きっとそれが、あたしに会う前に好きだった先生のことだろう。
見知らぬ少女がアタシなら、まだ、私に恋したままじゃない。
「バカ……っ」
そう漏らして―――独り暮らしのソファーの上で涙した。



















*Shiroyuki...










ゴールデンウィーク前に久しぶりにこっちに戻って来た。
「いやーたっだいま〜っと……詩姫は学校か」
靴を無造作に脱いで家に上がる。
今は詩姫の一人暮らしになっている家。
母さんに連絡すると明日には帰ってくるらしく鍵だけ先にオレに届けてくれた。
よって詩姫が居なくてもオレは家に入れたというわけだ。うん。
もう夕方でそろそろ夕飯時だ。
……ふふ、電気消しといて詩姫をびびらしてやろぅ。
そう思ってソファーに寝転がる。
はぁ……疲れた。
何ヶ月ぶりのオフだ……?
あぁ……3ヶ月か……確か正月代わりに1日だけ……
その前……? 半年間ぐらい仕事だらけだったような……。
今回の休みだって強制的に取ってきたからマネージャー泣いてたけど。
ゴールデンウィークは仕事するから勘弁してくれって頼み込んだ。
結果、4日ほど休めることになった。
ちぇ。世間では1週間は休みだというのに。
まぁそれでも奮発してくれたみたいだ。
オレたちはこの故郷に戻ってそれぞれ羽を休めることになった。
タツミチは向こうに彼女が出来たからそっちにいるけどな。
おっと。スキャンダルされるから秘密な。
ま、いずれバレるけどな。











―――?
意識の外で気配が動く。
ん……寝ていたみたいだ。
「……たら押して」
知らない声が聞こえる。
急にオレも目覚める。
パッと電気がついた瞬間ガバッと起き上がった。
そして反射的に目の前に居たそいつの腕を掴む。
「―――!? みず―――」
の上!?
夢でも見ているのだろうか―――そこには、水ノ上優一と同じ顔をしたやつがいた。
「いやぁぁぁぁっ!!!」
後ろから悲鳴のようなこえが聞こえたかと思うと―――

パガーーーンッ!!

「み゜っ!?」
ありえない声が出たことを確認しつつオレは再び夢の世界へと落とされた―――。
















それは、5年前のデジャヴュ。
オレの前に現れた水ノ上涼二は―――水ノ上優一にそっくりだった。
「……涼二です」
「……あ? あぁぁあぁ? あ!」
二人を交互に見る。
「でっかくなったな詩姫っ! 涼二っ!」
ポンと手をたたいてそう言った。
『今頃!?』
二人して息ぴったりだ。
オレは一人で納得してうんうん唸る。
はー時間は人を変えるんだな〜ほ〜。
そして、涼二で目を止める。

涼二は―――確か、歌をやめた。
5年前詩姫を泣かして……それでも優一になる、と。
「つーことは……涼二、歌やるのか?」
聞いてみたかった。
こいつがここに居るっていうのは―――。

「ハイ」

力強く、涼二は頷いた。
「そっかっ!」
オレは嬉しくて笑いが止まらなかった。














涼二が帰って詩姫を問い詰める時間となった。
「おら、詩姫。せっかくなんだから聞かせろよ、今、涼二とどう?」
「ど、どうって……」
あからさまに視線を漂わせながら動揺する詩姫。
すっげぇからかいがいがある。
「いや、違うな。まだ涼二は好きか?」
「―――…」
詩姫は答えないで顔を真っ赤にして俯く。
―――それが答えだ。
「―――はっ……この純情ラブマシーン1号が」
けっこっちは色恋なんてもう―――。
痛すぎて泣くこともできないので考えるのをやめる。
「い、意味わかんないよっ!」
「うっせぇっ。あ゛、一発殴んの忘れてた」
そういえばそうだ。
絶対チョップ以上の攻撃で殴ると決めていたのに。
そんなことを言うオレを詩姫が睨む。
「相変わらず鈍そうだなあいつも」
ニシシっと詩姫に笑いかける。
「さ、水ノ上の涼二君は最近どうなんだ?」
「ど、どうって」
また同じく言いよどむ。
ふむ。進み具合としては心もとないといった所か。
「いろいろ。学校では?」
「学校? 学校ではすごいよ涼二。
 入試で一番だったんだって。それに学年順位も1位だったよ!」
あー……ますます水ノ上っぽい。

「はーん……じゃ、クラブはサッカーだな?」
「え? なんで知ってるの?
 そう、サッカー部でねっ1年生でレギュラー取れるかもって! すごいよねっ!」
ま、水ノ上がそうだったからな。
―――アイツを追いかけてたなら。そうするだろう。
「っぽいな……。んで、さらに歌もやる、と?」
「うんっ一緒に最近カラオケ行くようになったよ!
 カラオケ行ってるだけでどんどん上手くなるんだ涼二っ! 凄いよね!」
すごいすごい。さっきからそればっかだな……。
まぁそう思うってことはそんだけ見てるんだろうけど。
「ははー涼二をよーく見てるな詩姫」
「―――っっ! そ、そんなでもないよ!?」
真っ赤になってブンブン長い髪を振って否定する。
「いやいや。命短し恋せよ乙女ってな。頑張りたまえよ。うははは〜
 して隊長、メシはまだかね?」
「も〜……わかってるよすぐ用意するからまってて」
「うぃ〜」
オレは久しぶりに食う詩姫の手料理に期待しつつテレビをつけて大人しく待つことにした。

ヤバイ……この家の平和さは毒だ……。
走りすぎていた時間が、一気に歩き始めてオレは暇をもてあます。

―――やっぱり明日も、涼二を連れてこさせていじるか……
ニヤリと、自分の顔がニヤつくのがわかった。










母さんがバタバタと玄関から飛び出たりしながら二人を迎える。
この家意外と凄いぞ?
今インターホン押すと世界を飛び回るモデルかオレが出迎える。
「あ、聞いたぞ? 榎本の弟がいたんだってな」
冷蔵庫からビールを引っ張り出しながら涼二に言う。
「え、あぁ。榎本ね。居たけど?」
「あ、シロユキあたしもっ」
ピシッと小学生のようにアピールをするあいつにはチュウハイで十分だ。
「榎本さん……お兄ちゃんの彼女だよね?」
「ば、ちげぇよっマヨネーズなんか彼女にしねぇっ!」
うわっ自分で言ってアレだがガキみてぇ!
「はは〜んそんなこと言って〜? 色々榎本さんの為にやってたみたいじゃ〜ん?」
なんだか乗ってきたみたいで詩姫がニヤニヤとオレを攻め立てる。
てか、詩姫こえぇよ……。
「んなんじゃねぇよ……」
とガキ見たいな大人の前にチューハイを置いて、自分もカシュッとビール缶の蓋を開ける。
「え〜? だってお兄ちゃんとメールが続いてる女の人あの人しか居ないじゃん」
「ばっ……! 別に、あいつが続けるだけで、大したことじゃっ……」
つかなんでメールしてることしってるんだ……!?
も、もしかして覗かれたのかオレの携帯!?
ぬふふと怪しからん笑いでオレを見る詩姫。お、おのれ……!

「あ、開かないッしーちゃん開けてー」

……となりでチューハイの蓋が開けられず娘に託す親が一人。
「あ、ダメだよお母さんっ」
パッと詩姫に缶を取り上げられる。
「えっ? なんでなんで〜? 開けてよぅ! 返してよぅ!」
バタバタと子供のように暴れる母さん。
「お母さん酔ったら……脱ぐじゃんか!」
……そいやそうだったな。
いつエログラビアに入るのかとオレは思っていたが意外と健全に過しやがった。
「涼二が居るんだからそんなことさせないんだからっ」
確かに他人が居るのにして欲しくない。
織部家の汚点だ。ある種。
「う〜。かえせっ」
パッと詩姫に飛びつく母さん。
「あ、ちょっとっやめてっ」
「ふふっほーらバスタークラッシュスタンバーイ」
お、大人気ない……!
暴力というかなんというかだが、力にその手段を任せている。
「―――ひっ」
詩姫の顔が微妙な顔で固まる。
ちょっとして観念したようにため息をついた。
「わかったよ、開けたげる」
「わーい」

グィッと詩姫はその缶を一気飲みし始めた。

「え!?」
「お、おい詩姫―――!?」
何してんだお前……!?
「―――…んっぷはっ!!」
ガンッと机に缶を叩きつける。
……カラだ。
「ひ、ヒドイよしーちゃん!」
「だーめっお母さんに飲ませると絶対良いこと起きないんだからっ」
その言葉を聞いた母さんはしーちゃんのばかー!
と叫びながらリビングから飛び出して行った。
「だ、大丈夫か詩姫?」
涼二が詩姫に問う。
「え? あぁ大丈夫大丈夫。初めて飲んだけろ」


大丈夫じゃない。


「あれぇ〜? 何か、暑くないぃ〜?」
パタパタと上着を掴んであおぎだす。
「はっはっは。詩姫にゃ酒ははえぇよっ」

「お兄ちゃん!!!」

いきなりオレに指差して睨む詩姫。
「え、あ?」
いきなりのことで呆気に取られる。
「大体―――お兄ちゃんがはっきりしないかりゃ榎本しゃんが可哀想○×※△!!!」
よく分からない言葉を発して思いっきりオレに缶をぶつけた。
「へもぐろびんっ!?」
や、やべぇ……!
とにかくやべぇ!
オレはこそこそとリビングから消えて様子見を始める。
詩姫が上着を脱ぎ始める―――。
それを止める涼二が詩姫に押し倒される。

いい展開だ!

是非録画せねば!
オレは親の部屋にあったであろうデジカメを捜しに行こうと振り返る。
―――とそこにすでにそいつを持ってきていた母親が立っていた。
親指を付き合わせるとそのまま撮影に入った―――。





















―――は、はは……可哀想―――か。

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