ex.想い伝わる歌になる
*Shiki...



ん〜……どっかで見たんだよなぁ絶対っ……
あたしは頭を捻って記憶を搾り出すが微妙に出てこない。
あの人……遊幹かさって言ったらさっき涼二から月九のドラマであるだろって言われた。
あぁ! って頷いたけどあたし実は知らない。
……ごめん……知った顔してた……。
詩姫ちゃんにもやってもらいたいことがあるんだよ〜って言われて此処に立っている。
ここは校舎と校舎の間。
渡り廊下……と言えばそうだ。
周りには出し物のテント。そして校舎を挟んだ体育館からはお兄ちゃんの声。
……ライブ? そんなの聞いてない……。あたしも行きたいなぁ。
でも言われたことを忠実に守ってるあたしは紛れも無く犬タイプだろう。
うぅ……。
人通りも多く、さっきからひそひそと

「大告白の子じゃない?」

とか

「彼氏待ってるんだよっ」

とか色々聞こえる。
―――穴があったら……いや、ホントもう穴掘って隠れたいって感じだ。
ドリルください誰か。
「やっほ〜詩姫ちゃんっお待たせっ」
ひらひらと手を振りながらそのお姉さんがやってきた。
「あ、遊幹さん!」
お願いだからここから開放してください〜と視線を送る。
「ごめんね〜告白後で目立つのに待たせっぱなしで。
 もうすぐ髪の長いお姉さんが走って、わたしの場所を聞いてくると思うからあっちって言ってね?
 そしたら彼氏君の所に戻るといいよっ」
そういうと自分がもと来た道を指差す。
「は、はぁ……。もうすぐって?」
「すぐだよ〜ホント。じゃありがとね詩姫ちゃん」
あたしにぎゅ〜っと抱きつくとお礼を述べてポテポテと歩き去っていく。
「あ、いえ―――」
なんていうかみやちゃん見たいで可愛い。

周りの声が、「新しい世界の不倫」に変わった。





*Keisuke...




ふぅ……っと煙をふいた。
青空に舞い上がって空気に染まる。
「また随分と手の込んだことだな」
「うんっあの二人にはこのぐらいのドラマがないとっ」
体育館とは魔逆の食堂前のベンチで昔の友人と思い出話をしていた。
「なんか飲むか?」
「あっ! じゃぁイチゴバナナオレ〜」
OKと頷くと自動販売機にお金を突っ込みイチゴオレを押しすぐにバナナジュースを押す。
こうするとジュースがミックスされるのだ。
「あはっなつかし〜」
「ほれ」
その甘そうなジュースを渡すとあまり変わらないふわふわとした柔らかい笑みを見せた。
「うん。ありがと。
 ほんと助かっちゃったよ〜高井君が居なかったら体育館取れなかったしっ」
「大したこと無いさ。どうせイベント予定もなかったしな。
 演劇部には悪いが今年は相手が悪い」
今白雪がライブに使っている体育館。
皆演劇部とのバッティングを避けてイベントを誰も入れなかったわけだが―――
それがまた都合のいい材料になった。
丁度バンドの後と言うこともありセッティングもばっちりだしな。
「―――まぁ、なんだな。自分のためのストーリーは書かなかったのか?
 作家になったからやってるんだろこういうの」

「ふふふっだってあの二人はわたしの理想だもんっ」

得意げに笑う彼女はジュースを飲みきるとゴミ箱へとカップを捨てる。
「ん。じゃっわたしそろそろ行かないとっ」
「仕上げか? 精が出るな」
上機嫌に歩き出す彼女を紫煙をはきだしながら見送る。
「それも今回はダブルだからねっ」
「ダブル?」
首を捻る。何がダブル?
「それはあとのお楽しみ〜それじゃ、遊幹かさ先生の次回作にご期待を〜」
「おう。またな」
跳ねるように歩いて校舎の向こう側に彼女は消えた。
懐かしい感覚に浸りながら壁に背を預けて空を見上げる。


―――?
パタパタと戻ってくる足音が聞こえる。
「なんだ?」
忘れ物でもしたか?
俺はその出入り口に目をやった。
「た、高井君っ!?」
黒い髪をサラッと流して俺の前で立ち止まる。
それは高校時代から変わらずの美人。
―――山菜アスミだった。









*Mayo...


リアルタイムに書き換わるシナリオ。
選択肢は無限。
エンドレスにはなることの無い―――たった、1度の人生。


―――体育館は満員で人がドアから溢れていた。
遥か遠くのステージの上で、アイツが声を張っていた。

遠いよ……っバカっ……!

何でこんな所にメンバー全員が揃っていてライブなんてのをしているのかは分からないが―――。
とにかく、スゴい。
歓声とジャンプで熱気を帯びた空気が体育館から流れ出る。
一緒に走ってきてたはずのアスミが消えてあたしが一人で外に立ち尽くす。
と、とりあえず待つしかないよね……終わった後なら―――。


「ちなみに、終わるの待っててもそのあとサイン攻めに会ってるだろうからダメだと思うよ?」
「!?」
急にあたしの隣に誰かが立っていた。
あたしの思っていたことに的確に答えを出した。
帽子にサングラスをしている女性。
長い金色の髪がキラキラと太陽に反射して眩しい。
…………誰!?
「ん? 初めまして。遊幹かさです」
「……遊幹かさって……作家の?」
な、わけないよね?
この上なく怪しいその遊幹という人に視線をやる。
「あっ知ってるんだっ嬉しいな〜!

 でもでも、今そんなこと言ってる場合じゃないんだよ真夜?」

「……え?」
その遊幹かさという人は、あたしを正面に見据えて、サングラスと帽子を取った。
―――髪が流れる。
クルクルと柔らかいウェーブであたしを見る大きな目には見覚えがあった。

「美優……!!?」


高校を卒業して、違う短大に行って……そのあとは知らなかった。
「うんっ久しぶり真夜っ!」
ふわりと笑う彼女は変わらなくて。
とても大きな存在に見えた。
「美優ぅ……っ」
教えてくれないって言うのは、嫌われたからだとずっと思っていた。
でも、こうやって彼女はあたしの目の前で笑ってくれた。
―――だから、無性に嬉しくて―――。泣いていた。
「泣いちゃダメだよ真夜。やることあるでしょっ!」
「でもっ……美優あたし、美優にずっと嫌われたと思ってっ……」
涙を流すアタシを手を伸ばしてよしよしと撫でてくれる。
―――嬉しい。
こんなにも嬉しいと思えたのは何年ぶりだろう。
彼女はあたしににっこり笑いかけると


「真夜の声なら、届くよっ!」



そう言って大歓声の中を指差した―――。









*Asumi...



―――っ……っ!
私はその人を前に固まった。
な、何でこんな所に……っっ!!?
「なんだ?」
私を見るとハテナと首を傾げる。
「山菜? どうしたんだ?」
「いや、あの……美優を探してるんだけど……」
元凶……というかあの子のシナリオの最後を聞きにここに来てって言われてたんだけど……っ
な、なんで居るのが高井君なの……!?
「坂城ならさっきあっちに言ったぞ? すれ違わなかったのか?」
「う、うん。途中で織部の妹ちゃん立ってたから聞いてみたんだけどこっちって……」
ま、まさか……っ
あの子も今回選ばれた役者で―――っ
台本もここから先は書かれていなかった。
台本に「Double」と書いてあったのは―――
「……? どうした?」
「え、あ……ううん。なんでもない……っ」
「なんだ? あ、坂城のアレに巻き込まれてたんだろ?」
「うん……まぁそんなとこね」
一息置いて心を落ち着ける。
うむ。と私の一言に頷いてジュースを奢ってやろうと自動販売機にコインを入れた。
「何がいい?」
―――懐かしい食堂前のカップジュースの自動販売機。
「……ミルクティー」
「あいよ。さっき坂城はバナナイチゴオレ飲んで行ったぞ?」
「あの子の甘い物好きって変わんないのね……」
ミルクティーが入って終了の音が鳴る。
高井君はそれを左手で取り出すと私に差し出した。
―――左手?
「高井君―――? 左手って……」
「ん? あぁ、リハビリにさ、左手ずっと使うようになっててさ、癖なんだ」
「そうなんだ……やっぱりまだ……」
高校生最後のあの時期。
水ノ上君が死んだと伝えられたあの日。
シロユキと一緒に事故にあったって聞いた。
二人とも包帯だらけで、
高井君は左腕の肘から先の感覚が無くなったって―――。

「いや、もう治ってるぞ? 勢い余って両利きなんだ今」

なんて、気を利かせていた私がバカみたいに思える一言を発した。
「……は?」
「いや、だから治ってるんだって。なんなら車でドリフトしてやろうか?」
左腕をグルグルと回しながら笑う。
なんで治した証明にドリフトをするのかは不問にしたいと思う。
だって―――懐かしいあの笑顔は子供みたいに純粋だから。
「―――直ったんだ……」
「あぁ。まぁ直すのに4年もかけたし、もうレースには戻れないがな。
 でも意外とこの先生っていう職業も性に合うんだ。だからさ―――」
両手を見ていた視線を上げて彼はあの人同じ笑顔で私を見た。

「―――良かった……っ」

「な、何で泣くんだ? おい、やま―――」
彼の口が私の名前を呼ぶ前に私は彼に抱きついていた。






「ずっと―――……ずっと、好きでした……っ」










*Shiroyuki...


「……なんでお前等がここに居るんだ?」
オレたちが卒業して新しく出来た体育館の舞台袖の控え室で呆れ返ってそいつらを見回した。
数人の団体が外で張っているのをみると、お忍びみたいだ。

「だって〜シロユキが人生最大のイベントを迎えるって言うし?」
タツミチがヘラッと笑う。
なんだそれは。
「先生の頼みだからな」
サツキが眼鏡をくいっと上げてそのレンズを光らせる。
「先生……? なんでまた」
オレは首を捻って自分のバンドメンバーを見回す。
毎日のように顔を合わせているこの面々。
なんだよ。家に帰ってるんじゃなかったか?
「さーね〜……あ! こんな所にドラムが置かれてるじゃないか!?」
夏を目の前にして半袖を着ているソウジが舞台に上がってドラムに座る。
絶対こいつ演劇部に入部できねぇよ。
「あれ? こんなところにシンセが置いてあるぞ?」
タツが軽い足取りでそれに寄っていく。
「お? こんなところにベースが落ちてるじゃないか」
あらかじめ持っていたベースを一度置いて拾い上げるサツキ。
「お前等絶対狙ったろ!? な、狙ってるんだろ!?」
それぞれが定位置について音あわせを始めた。
「あれ〜? マイクがあいてるな〜?」
わざとらしくソウジが頭を掻く。
「あっちゃ〜そりゃ困ったぁ〜誰か歌える人はいないのかねっと?」
タツミチはニヤニヤとオレを見る。


「……仕事じゃねぇんだぞ?」
「知ってる。たまには趣味でやったっていいじゃないか。昔みたいにな」
ブンッ……と低い音が体育館に響く。

何人かの生徒がオレたちをみて声を上げる。
「おい! スノウだぞ!」
「え!? ライヴやるの!!?」
「みんな演劇の体育館行っちゃったよ……!?」

ソウジがドラムでリズムをとる。
オレの足元にはさっき使われていたやつだろうか……ギターが放置されていた。
―――借りるか……。
持ち主には、後で謝ろうとオレはそのギターを拾い上げた。

…………オレのじゃねぇか…………

何処まで用意周到なんだこいつら……そう思って顔を上げると
反対側の舞台袖で先生が小さく手を振っていた。

伴奏が始まる。
オレもギターを持つと、途中から一気にかき鳴らす。
『わあああああああああああ!!!!』
数十名だろう。本当に少人数が舞台の近くに寄ってくる。
更に音を聞いてか一般客が入ってくる。
更に続いて、何人もの学生が体育館へ走って来た。
次第に場所を埋めていく体育館。
オレは3人が弾き始めた曲―――それに従って歌い始めた。
プログラムも何も無い、ゲリラライブ。
オレ達の原点に戻ってオレは歌いだした―――!




体育館はすぐに満員になって―――
いつも通り、歓声に埋もれてオレたちは音楽を届け続ける。
オレはマイクを通して叫び続ける。

歌を歌うのはオレの義務だ。
才能があり、それで誰かの心を揺さぶる。
感動が行動や、安らぎの原動力となりえる誰かの為、オレが歌う。
でも。
それだけの理由ではない。オレにもこの歌を届けたい人が居る。

この声が届くのは―――いつなんだろうか。
もう……あいつの声は、オレに聞こえないけど―――

オレと同じ傷を負った。
誰かを好きになった。思いっきり傷ついた。
怖くなった。
どうやって好きになればいいのか分からなくなった。
今笑っても涙流しても解決できない事は時間だけが解決してくれる。
人の死を忘れていく事は悲しい事なのかも知れないが引きずって進めないことよりはずっとマシだ。
今誰を想っているのかとか、しらねぇけど。
真っ直ぐ笑ってて欲しいんだよ。伝わっちゃいねぇだろうけど。

傷跡はなぞると思い出して痛い気がするけど。
それはもう傷じゃなくなった。
笑い飛ばして進めばいい。

演技だけじゃなくて。泣いたり笑ったり怒ったりしてるそいつのすべて。
そいつがただただ感動してくれるだけでオレは惹きこまれていった。

オレはソイツの事が好きだったんだよ。
それに気付いたのは全部終わった後だったけど。
馬鹿だオレって何回も言ってみたけど。憧れから好きに変わった先生よりもソイツの方がでかい存在になっていたのは確かだった。

それからはずっと言えなかった事を後悔してる。
ずっと好きだったって言えない馬鹿野郎だけど。
オレは止まらずにずっと進み続けることにした。
それはそんな事に後悔して止まってる場合じゃないって教えてくれた言葉。
 『あんたには―――歌があるじゃない』

ただオレの義務。
オレの選択した道。
この歌と。声と、言葉で。進み続けるんだ――。




「シロユキーーーーーーーーーー!!!」



確かに、聞こえた。
オレは歌うのをやめて会場を見渡す。

殆ど迷うことなく、彼女を見つけた。

「―――っ!!!」
オレはマイクを捨てて、観客の中へと飛び込む。
アイツが居た。
もう、あえないと思っていたあいつが、居た。
アイツの声を確かに聞いた。
「どいてくれ!!」
オレは観客を掻き分けて突き進む。
無理矢理突き進んでいるためところどころで悲鳴が上がる。
だが、そんなことを気にしていられない。
「真夜!!!」
あいつが、居たんだ。人ごみの中を掻き分けてすすむ。
真ん中ぐらいまで来ただろうか。
見えたのは入り口の向こう。
―――遠い、くそ……っ!
届かないのに光に向かって手を伸ばす。
コレが最後でいい。
お前がオレに歌えというならオレは何時までだって歌う。
お前がオレを呼ぶんならオレはいつだって駆けつける。

最後でいいんだ。

オレの言葉を―――聞いてくれ。
「真夜っ!!」
頼むっオレの前からもう……っ




消えないでくれ……っ





「シロユキっっ」
「!?」


目の前の人の壁を突き破って、そいつはオレに抱きついてきた。
オレはバランスが取れず尻餅をつくようにこける。
―――……ま、よ―――?

オレたちを中心に、小さな空間が出来る。
オレに飛びついてきたのは紛れもなく榎本真夜。
―――変わらない。
あのときと全く変わらない真夜だ。
オレ達は人目を憚らずその場で抱き合っていた。
「良かったっっシロユキだ……っ」
「当たり前だろバカ……っどういう風の吹き回しだ」
オレに埋めていた顔を起こすと真夜は立ち上がる。
涙が宿るうつろな目を拭って、一呼吸。








「あたしはシロユキが好き!!!」









今の声で更にオレ達二人の空間が広がった気がする。
真夜は言って、顔を真っ赤にして涙目になった。
「―――く、ははははっっ!!」
オレは笑いながら立ち上がる。
―――は、はは……。
恥ずかしいならやめればいいのに。
「おせーよバーカっ」
「うるさいっばかっ」

―――自然に、口を重ねる。


『ひゅーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
 おめでとうお二人さーーーん! あ、マイク借りますね』

その声と同時に周りがワッと声を上げた。

「……信慈……」
真夜がしまった、と言う風に声を上げる。
『いやいや結構!! ほらもういっチョ!!
 キース! キース!』
上手いこと扇動が聞いて回りが手拍子とキスコールで埋まる。
「し、信慈っっ!! あんた―――」
オレは怒る真夜の頭をオレに向けてにっこり笑う。
「みせつけるぞ」
「ん―――!!?」

『きゃーーーーーーーーーーっ!!』








『おおおおお!!!? ちょ、それ教育によくな……
 ああっシロユキさん! そんなディーーーープ!!!?』











*** しばらくお待ちください ***










「はいどいてー、そらどいてー」
酸欠でぐったりしている真夜を舞台袖に運び込んで寝かす。
羞恥か酸欠か、全身が真っ赤だ。
ふ、修行不足だな。
微妙によくなったのかバッと起き上がってキッと睨む真夜。

「〜〜〜お、覚えてなさいよばかぁぁぁぁ〜〜!!」

「あぁ、忘れねぇよ」
不敵な笑みをにやっとやるとまた真っ赤になって倒れた。
「ははは〜さすが白雪さん。うちの姉ちゃんよろしく。初心なんでお手柔らかに」
「はっ。我慢できたらな」
「わお。これまた野獣な発言。ええ、ええ。お好きなようにどうぞ。
 あ、妹さんさっき部室でストロベリーでしたよ?」
「な、なにぃ!? 部室だとぅ!?」
涼二の野郎……! なんて場所で……! くっ! ならオレは屋上か……!?
ゴッ!
いい音がオレの脳を走り抜ける。
「いらんこと考えるなバカっ! バカーーー!!」
真っ赤になって涙目でオレを叩く真夜。
オレは笑顔を固定して真夜をニヤニヤと見ていた。
「可愛いな」
拳が刺さりかけているところで真夜に言う。

「……うぅ……」

視線を泳がせて自信なさげに寄り添ってくる。
あーーーーもーーーーだめかもしれない。
おいちゃん押し倒していいでしょうか。

「あーーーあーーーっっご馳走様でした。
 お願いだからやめてください!
 LoveLove過ぎて目に毒っす。
 なんていうかどっか違うとこ行ってやれよ。
 殺意が沸きかねない」
といいつつオレ達二人に中指を立てる信慈。
「ち」
オレは真剣に舌打ちをする。
「それにお客さん待ってますよ〜?」
はぁ〜と溜息をついて舞台を指差す信慈。
ざわざわと向こうから声が聞こえていた。
「……あぁ。んじゃ、行ってくるわ」
それが、オレの仕事―――いや、義務だからな。
オレは名残惜しいながらそこから立ち上がる。
すると、服の袖が小さく握られていて進めなかった。
上目遣いでオレを見上げる真夜。
「白雪……」
「あん?」





「……す、好きだよ?」
「オレもだ」





このドバカップルはぁぁぁ!!! っと信慈が頭を抱えて悶えた。











*Miyu...






「シロユキーーーーーーーー!!!」








真夜が叫んだ。
歌っている途中の―――歓声の中。

その思いを込めて。

歌っていたあの人は―――歌うのをやめて舞台を降りた。
演奏は分かっていたかのように止められず、演奏され続ける。
観客が突然の行動に驚き叫ぶ。
「真夜!!!」
その叫びが徐々にこちらへと近づいてくる。
真夜も後ろの人たちを掻き分けて、前へと進む。

体育館の中心で二人は出会う。

巻き起こる歓声。

わたしは帽子をかぶってサングラスをかけた。
半分だけ書いた台本が今、二人のヒロインによって―――
ううん。見せてもらった分も入れて三人、かなっ
その三人によって完成させられた。
―――わたしは台本とペンを一本取り出すと題名にきゅっと二重線を引いた。
Doubleだった文字は―――Tripleに書き換えてわたしはそれをカバンに仕舞った。
早速帰って書かなきゃっ!
あ、その前にメールっメール。
わたしは携帯をひらいて受信ボックスから目当ての人のメールを開いて返信からメールを打ち始める。
便利だな〜なんで高校のときに持ってなかったんだろっ

先に帰るねっ(*^^)vV

そう一言書いてメールを送信した。




体育館から歓声が上がる。

何が起きているのかは想像がつく。
―――キスコールとそれがおさまっての歓声。
ふふ、ホント恥ずかしい人たち。特に織部兄妹が。
坂城美優として、わたしの理想だったあの人たちに拍手を送る―――。
カラガラと引いているカバンがスキップにあわせて弾む。
上機嫌にわたしは空を見上げて歌を口ずさんだ。

「たった一言「好きだ」って、やっと少女に届いたね♪」

上機嫌に歩きながら、そんな歌を口ずさんで―――





























VOX〜トリプルコンチェルト〜 Finished...



VOXならびにVOXPROTOTYPEをご覧になられた皆様。
まことにありがとう御座います。
作者は涙で前が見えません。嘘です。

ゆみきかさ、は逆さに読んでいただきたい所。
さて、彼女を指揮に置いて、3つの話が交差しました。
一つ目は、偶然に。彼達のキッカケと勇気になりえた恋。
二つ目は、真実にたどり着いたあの子の本当の恋。
三つ目は―――目を逸らしたくなるほど熱いあいつ等の恋。
自分で書いてあれですが真面目に読みたくない部分ですね。笑っちまう。
奏でられた三つの恋を成功に導く指揮の手腕は白雪の上を行く―――。
彼を、彼女等を一番近くで見ていた彼女がその役に一番適していた、と言うのもひとつ。
投げっぱなしが駅谷的にきついのでどうしても拾いたかったというのも一つ。
いっちーは青空を背景に爽やかに笑ってます。
最後に美優がメールを送ったのはタツミチだということを記しておきましょう。

コレでVOX系は全部終了。もうぐうの音も出ません。多分。ごめん嘘です。
駅谷は思い立ったが吉日系の人間なんでね。
それでは本当に最後まで読んでくれた皆様に心からの感謝を述べ、
終わらせていただきたいと思います。
本当にありがとう御座いました。

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