第05話「市場へ」


*幸輝<コウキ>

日は高かったが俺の体を考えてくれたらしく神子様とやらとの面会は明日だとアキは言っていた。
んでもってアキは報告に行くとかで家を出て行ってしまった。
ふむ。どうしよう。
体は妙に元気で、せっかく他の世界に来ておいて一日中寝るなんて出来るわけがない。
取りあえず俺は用意されていた服を着てアキの家から出た。
父親の服だそうだ。
……正直、あんまカッコよくない。
でも学ランはこの村を見ると目立つと思う。
俺は諦めて辺りを見回す。






アキは一人でこの家に住んでいるらしい。
両親も兄弟もいないそうだ。
可哀想だが何も言わなかった。
俺も同じような境遇で可哀想なんて安っぽい言葉は聞き飽きてる。
俺は言葉なんて欲しくなかった。
だから俺も何も言えなかった。
ただ――。
「うっし――」
俺に出来ることがあるならしてあげようと思った。
それが俺の恩返しでもあるし、過去の俺がやって欲しかったことだと思う。
「まずは――」
何しよう。
いきなり俺は行動に困った。
「おぉい! そこの若いの!」
「え?」
みしらぬおっちゃんが俺に手招きしている。
俺は首を傾げながら取りあえず近付いてみる。

「なんですか?」
「おぉ、時間があったらこれ運ぶの手伝って欲しいんだ」
みたこと無い野菜がずらり。
「これをどうするんですか?」
「あぁ夕方までに市場に運ぶんだ。今日もう一人の奴が急に休んでな。
 どうにも間に合いそうじゃねーんだ」
それは大きな籠に入っていて背負って行くみたいだ。
まぁ別にやることは無かったし、地理もない。
一緒に市場に行くのもいいな。
「いーですよ」
「おぅ。悪いなそっち背負ってくれ」
俺は言われた通り籠についている紐に両手を通して立ち上がる。
「いよっ」
覚悟していたほどの重さも無く意外とスムーズに立ち上がった。
これなら2個同時に行けそうだ。
一方、おっちゃんは何故かギリギリの表情を見せている。
「だ、大丈夫なんですか?」
「ったりめぇよ…」
だから顔がギリギリだって。
まぁ引けないところもあるんだろう。
俺は籠を下ろすと大量にある籠のもう一つを取り二つを同時に持ち上げる。
それでやっと最初に思ってたぐらいの重さだ。
「む、やるな…俺も一つ…」
「それはやめてください。行きましょう」
「へいへい。わかったよ」
なんて言いながら歩き出した。
俺もそれに続いて歩き出す。

「おい、若いの。どこから来た? 名前は?」
どこからって言われてもな。
「コウキっす。ちょっと遠い所から。森に入ったら迷って……」
「はっはっは! そりゃ災難だったな」
豪快に笑うおっちゃん。
このおっちゃんは俺をここまで運んでくれた人らしい。
まぁさすがにアキが運んで来るには無理があるかもしれない。
「俺はダルフってんだ。よろしくな」
「どうも。暗くなって森を抜けた崖のところで襲われまして」
「そんであんな崖っプチに倒れてたのか。何に襲われたんだ?」
「え、あぁなんか三つ目の」
「グールウルフか! はっはーよく生きてたなぁ」
「俺もそう思います」
すかさず肯定した。
だって奇跡だしね。
しばらくそうやって歩き続けると賑かそうな固まりがみえてきた。
「あそこですか?」
「おぉ。あれだ。あれがグラネダの市場だ」
「近いんですねこっちの村と」
「あぁ俺たちが野菜を届ける一番のお得意先さぁ。さ、とっとと届けよう」
「うぃっす」

市場は凄く賑わっていて俺たちのような運搬業者も多い。
「おーい! こっちだ!」
「あ、はい!」
夕方の市場というのも珍しいが、ここでは一日こうなんだそうだ。
人で溢れかえっていて足の踏み場も無いってやつか。
俺は揉みくちゃにされながらおっちゃんを見失わないように追う。
目的地に着いた頃にはヘトヘトに疲れていた。

「つっかれたー!」
籠を渡して座り込む。
「はっはっはっ! まぁ2籠同時に運んだんだ無理もないさ。
 ほら、お前の分だ」
そういって投げてよこされたのは数枚の紙。
折られてぼろいが多分お金だろう。
「これ…」
「受け取れよ。お前さんが働いたんだ」
キラッと前歯が光るイカしたポーズのおっちゃん。
「…どもっす。いくらですか? これ」
「ん? 3000リージェだ。こっちの紙幣は見た事無いのか?」
「えぇ、ま、まぁ」
別の世界から来たとは言わず、旅の途中で行き倒れたことになっている。
まぁこっちではよくあるらしいが。

赤い紙幣が1000リージェ。
んで青いのが500緑が100、黒いのが10。
細かいのはこのコインだ。
キィンと甲高い音を立てて弾いたコインをキャッチしてまじまじ見つめる。
10円銅貨に似ているが多分1リージェってやつだろう。
1って彫ってあるし。
うん。文化の違いって面白い。
ごそごそとポケットに仕舞いこむと奥のほうからもう一枚コインが出てきた。
「……? 何だコレ」
さっきの1リージェとは違うコバルトブルーの1と書かれたコイン。
……? なんだ? マジで。
まぁ、いろんなコインがある見たいだし、とりあえず硬貨と一緒に仕舞っておくか。
おっちゃんはこっちでやる別の仕事に行ってしまった。
放置かよ。
とも思ったがまぁいいか。
バイト代ももらったし。
どれだけの価値があるのか良くわからないが、
野菜やらが4、5リージェで売ってるって事は結構あるのかもしれない。
俺も取りあえずうろうろする事にする。
服屋を見つけた。
ポケットに入ってるお金を確認。
とりあえず安そうな服の値札を見る。
……買えるな。
俺は適当な服を見繕ってお店の人のところへ行く。
「すいません」
「はい、いらっしゃいま――」
がばっと女性店員がいきなり俺の肩を掴む。
「あなた!」
「!? な、なに!?」
目が怖い。
何かいけないことをしただろうか?
こっちにしかないマナーとかか!? それはマズイ!
「……かわ……いい、顔してるじゃない? うちでバイトしない?」
……そうでもなかった。
ただの変な人か。
この手の人には何故か慣れている。
……俺の周りには変人が多かったしね……。
ただでさえウチの姉が可愛い可愛いと俺の顔を撫で回すのに、
外でまでその童顔に突っ込まれたくは無い。
「……いえ。それはまた考えさせてもらいます、とりあえずこれを……」
「ちょっとまって、あっちの方にあなたに似合いそうな服が……」
「え、いや、あの」
「アネンチェー! ちょっと来てー!」
店員は仲間を呼んだ!
そんなナレーションが頭をよぎる。
それから、俺の着せ替えショーが始まった……。
店番しろよ……。







なんかゴワゴワするがまぁ着慣れればこんなもの。
なんか店の人が色々と着せて来てキャーキャー騒いでいたが、
良さげな服をまけてくれたのでよしとしよう。
袋をもらってさっきまで着ていた服を入れて、知らない市場を歩く。
いろいろな人が居る。
耳の長いきれいな人とか。
えっと……エルフって言うんだっけ?男も女もみんな綺麗だ。
背のちっちゃいおじさんとか。
ドワーフとか? ……男なの? 女なの?
面白い。
さっきまでの疲れを忘れて、俺は歩き回る。
旅人、というのはたいてい何かしらの武器を装備していたり、
魔法が使えそうな人は大抵装飾品が多い服を着ていたりしている。
まわりにきれいな光がふよふよと浮いていたり。
さ、触ってみたい。
キョロキョロ、ウロウロと歩く。
だって面白い。

「ちょっとお兄さん! これやっていってよ!」
いきなり手を掴まれて、俺はどこかへと引きずられる。
「へ?」
間抜けな声を出して俺は引きずられる。
なんだか群集が輪を作っているその中心へと俺は連れいていかれる。
「さーさー! 勇敢な挑戦者が現れたよ!」
俺を引きずったガタイのいい兄ちゃんが大声で叫ぶ。
「えぇ?」
俺は依然、状況を理解できない。
何イベントだ!?

「ルールはいたって簡単!
 ここに居る偉大な冒険者アルベントに一発当てるだけ!」
いや、そんなん言われても。
俺はそのアルベントという人に視線を向ける。
……2mはゆうにある身長。
何よりライオンをの顔がそのまま引っ付いているのに驚きだ。
野次の仲から聞くには獣人、というタイプの人らしい……。
でかい斧。
俺を見て不適に笑う。
いや、ちょっとまて。
俺、丸腰だし。
「ちょ――」
「さて、どちらに賭けるかは決まりましたか!?」
しかも賭けかよ!
是非負けるほうに全額賭けさせてもらいたい。
「倍率は2倍と10倍! さぁ張ったぁ!!!」
10倍!?
今の俺の全財産10倍に増えたらいくらだ!?
是非かけさせてもらいたいものだ。
俺死んでも勝つぞ?
全員が札みたいなものを持って掲げる。
周りから女の人がお金と札を集めて回る。
そういう形式の賭け事のようだ。
「よし、それじゃはじめぇ!!」
全員のを集め終わったのを確認して、合図が下される。
……って俺か!?
俺は目の前の相手を振り返る。
思いっきり斧を振りかぶっていた。
「ちょ、ま――」
俺はダッシュでその攻撃を避ける。
さっきまで俺が居た場所に、深々と斧が刺さっている。

……ふふ、む・りっ!!

見たところ、防具はつけていないが、ガタイが良すぎる。
すでに人間じゃないしっ!
つか、あのでかい斧を軽々振り回す時点で間違ってる。
もう一撃に備えて、相手は斧を構える。

……つか、死ぬ。
狼以来の戦慄を覚えて相手と対峙する。
だれか……助けて……。

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