第10話『初仕事』
ん――?
突然の浮遊感。
いやぁこの感覚、2度目かなー。
目を開くと同時に、風がしたから吹き上げてきた。
「ってまたおーーーーちーーーーてーーーーるーーーー!!!」
うわぁぁぁぁああああ!!!
近づいてくる壮大な世界。
今度はどこ……!?
うわっ何かこのままだと……また森かぁぁあああ!!!
「え――?」
目の前のファーナが目を覚ます。
「え……コウキ?」
俺の顔をみて首を傾げる。
キュンとした。
こんなときでも可愛いと思ってしまった俺はアホですか!!!?
「 え? え??? お、落ちてる……!!?」
混乱してるみたいだ。
…………まぁ、普通はそうだよね……。
その姿を見ると、チョットだけ冷静になれた。
「ファーナ!! 目瞑ってっ!」
「は、はいっ」
ええい!!
落ちるのも2回目!!
前大丈夫だったんだから平気だろ!!!
俺は腹を括ってファーナを両手で抱き抱えるように持ち、着地に備えた。
――コレが、シキガミとして1回目の仕事だ……!!!
なにがあってもファーナは俺が守るっ!!!
何も出来ないけどねーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
ドゴォォォォオオオオンッ!!!
前回よりも激しい音で着地した。
砂煙が舞い上がって周りは見えない。
――よかった。木は避けたみたいだ。
足元を確認するとやっぱりクレーターが出来ていた。
「……ファーナ大丈夫?」
「は、ははははいっっっだだ大丈夫ですっっあのっあのっおろしていただけますか!?」
バタバタと暴れるお姫様。
「はいはい」
自分で俺に抱きついてきていた分もあって密着状態だったのだ。
俺もなんとなく落ち着かない気持ちでファーナを地面へと下ろす。
「おや珍しいですねそんなに慌てるリージェ様は」
土煙が晴れる。
――そこに立っていたのは長い銀色の髪をたなびかせる――ヴァンツェ・クライオン。
その髪は頭の後ろで束ねられているが小さな風にもなびくような繊細な髪だ。
切れ目でかなりの2枚目だが、クールということはなく優しい笑顔を浮かべたりもしている。
眼鏡がいい効果を出して、更に穏やかな人物像を思わせる。
「ヴァン! なんで……?」
「私にも良くはわかりません……業務中だったと思うのですが」
うーんと額に手を当てる。
あぁ……巻き込んだな……コレは……。
ファーナと一緒に微妙な顔をしてから笑いする。
「ヴァンは大丈夫だったの?」
そいや俺たちみたいな素晴らしい音は他には聞こえてこなかった。
「はい。私は術士です。緩衝は地属性の基本ですから簡単なことです」
「そっか〜ならよかった」
はっはっは。一件落着だな。
「……私から見ればお二人の方が不思議ですが……いったいどうやって?」
訝しげな顔で俺を見るヴァン。
「ん? さぁ……俺は着地しただけだ。2回目だから結構自信はあったよ」
ヴァンもファーナも唖然と俺を見る。
「……コウキ、これからはもうチョット考えて行動してください」
ちょっと怒った顔ような不満そうなでファーナが俺を睨んだ。
「…………〜〜……すみませんでした」
正直に謝って、こういう不測の事態も2度目なのは黙っておこうと思った。
マジマジと俺を見ていたヴァンが何かを閃いたように手を打つ。
「コウキ……ちょっと失礼……」
またヴァンが俺の肩に右手を置いて、今度は何かを呟く。
「――収束:30…ライン:右の詠唱展開」
ヴァンの右手から線のような光が走る。
「術式:
ィィイイン!!
チョットだけチリッとした痺れが走ると、一気に文字が宙を舞った。
たくさんの文字が俺の中からズルズルと出てく。
ちなみに、俺の感覚ではなんとも無い。
「はは――っすごいですよコウキ……! 貴方は本当に……!」
シキガミなんですね……!
歓喜に震えた声でヴァンが言う。
「す、ごい……こんなにたくさんの術式が、身体を作っているの……!?」
「ええそうですリージェ様。これだけあれば動く魔術書みたいなものですよ……」
「俺にはさっぱりだけど……すげぇの?」
「すごいです……! 身体の中に自然干渉呪詛が書き込まれています。
恐らくさっきのはそのおかげですね……」
おお! 何か知らんがすごいっ!
しばらく宙を舞っていた文字が次々と俺の身体に舞い戻る。
「――てことは今のが魔法?」
「魔法ではないですね。私のは法術に相当します」
「ほ、ほうじゅつ……?」
簡単に言うと世界の法則に従った術を使うことが出来るらしい。
それが『法術』……恐らく、俺が思っている『魔法』に一番近い概念だ。
そしてこっちの世界で言う『魔法』とは――『自然』であるとヴァンは言う。
「ふふっコウキ。魔法は貴方ですよ。貴方は意識しなくても魔法を使う。
いえ……存在自体も、魔法のようなものです。貴方は――この世界に、守られてます」
この世界は、貴方の味方です――と、彼女は言う。
手を握る。
血潮の感覚があり、鼓動もある。
それでも、この身体は『シキガミ』と言われる特異なものなのだ。
聞きたいことがまた増えたよメービィ……。
「ファーナ〜とりあえずここからどうすればいいの?」
とりあえず周りを見回す。
カードのお陰で神殿の客間に居たのが見事に山の中だ。
「メービィが言うには、カードに書かれていることをこなせばいいらしいですが……」
「ほほう。カードね。さっきのやつか? 何処?」
「コウキ……まさか手放したのですか?」
「はっはっはっは……残念ながら俺の手にはファーナしかいなかったしなぁ〜」
むむっと困ったような恥ずかしいような上目遣いで俺をにらむ。
あーちくしょ〜どうするかな〜?
頭をかきながら空を見上げる。
ん?
なんか斜め前方から青い飛行物体αがなんとなくこっちに爆進中。
だってちょっとづつ光が大きくなってるしね。
あれだ、ある一定を超えると一気にものが大きくなるから……
え、まて、たんま。
あれ、その方向って、間違いなく俺らだよね?
「あ、あぶないっ!!!」
咄嗟に二人を左右に押して俺が真ん中に残ってしまう。
直げ――き゜
ガスッッッ!! ――ズザザザザザザザザザ!!!
その青い流星は俺の脳天を貫いた。
世界が一回転半と青空が数メートルスライドする。
『コウキ!?』
二人の声と走り寄る足音が聞こえた。
しばらくすると視界に金と銀の髪の二人が覆った。
「大丈夫ですか!?」
「コウキしっかり!」
「……おっす。なかなか激しいつっこみだったネ」
二人に大丈夫。と手を振る。
「か、カード……!? 貴方のところに戻ってきたのですね!?」
「『俺を忘れるなぁぁ!!!』みたいな激しい帰還だったなコレ」
額に張り付いた何かを引っぺがしながら言う。
『てめぇ!! このオレを忘れるなぁぁぁぁぁ!!!』
「言った!? 今このカードしゃべりやがりませんでした!?」
『おうおうおう! オレッチもメービィ様のシキガミの端くれでぇい!
喋りの一つや二つはするってもんさぁ!!』
「しかもえっらい江戸っ子だよこのカード! よっ! おっとこまえー!」
『おう! わかってんじゃねぇか! それでこそシキガミってモンでぇ!』
乗ったよ!! やばいこいつ面白い!!
「カードが喋るとは……コウキ貴方は本当に面白いものをたくさん持ってきますね」
感心したように覗き込むヴァン。
俺も起き上がることを忘れて話しかける。
「で、なんなんだよお前っシキガミ? 紙っぽいなやたら」
『何ぃ!? 失礼な小僧だなてめぇ!』
「怒るなよ男前の顔が台無しだぜ〜? んで、何なのさ?」
顔無いけどな。
『おぉっ! 忘れるとこだった! コウキ、俺はオメーに言わなきゃいけねぇことがある!』
「何?」
『生きろ』
「何そのメッセージ性の高い一言!?」
『冗談でぇ』
「冗談にもして欲しくないけど!」
洒落を言うカードとか粋すぎだろ!!
『そんじゃ、今回の試練の内容を言うぜ』
「最初に言おうよ」
もっとも。と金銀の二人がうなずく。
『こまけぇ事は気にすんじゃねぇって。
今回は……一番楽勝だな。
ここはルアン・デ・セイン。アラン・ゾ・グラネダからもそう遠くねぇ』
「セインなのですか!?」
その話にファーナが声を上げた。
「弱りましたね……よりによってセインとは……」
ヴァンもあごに手を当てて何かを考え込む。
「セイン? 何がどうなってるの?」
「セインはグラネダと国交が無く、閉じた国です。……さらにグラネダと同じく、神子保有国です」
あー……そういえば言っていたな……神子同士、シキガミ同士はいがみ合うものだって。
「その上セインは今あまり友好的な国ではありません。アラン・ナ・ユークリタスの戦争なども……」
ヴァンが歴史的な話を始めようとしていたが思わずその腰を折ってしまう。
「頭に引っ付いてるルアンとかアランとかは何なの?」
歴史云々より一般常識がない。地名の命名規則のようなものがあると気付いてそれを聞いてみた。
「地方……というか区域と言えばわかりますか。四つの方角ではありますが、国を言う場合には区分ですね」
「あぁ、3丁目みたいな」
「……まぁえてしてその通りなのですがもう少しましな表現は無いのですか……?」
俺の表現にヴァンが口を押さえてブルブル震えている。
机があったら叩いてるだろう。
ファーナもマナを気合と言った時と同じ顔をしていた。
「いっそ笑ってくれよヴァン!!」
「まぁ、コウキにはそんな感じなんでしょうね……」
「まただよ! 今日3回目だよ! 悪かったな!! 単純で悪かったな!!」
夕日に向かって走りたくなった。
明日はどっち!
『大丈夫でぇ。別に城にいくわけじゃあねぇ。用があんのはそこの山さぁ』
「上に旗でもさしてくるのか?」
得意だぜそういうの。よく『幸輝参上!』の旗を人んちにさして帰った。
お子様ランチの上にだってやったことがある。
店長に酷く笑われた。
『いや、[この山を攻略せよ]だ』
それは酷く曖昧な指令。
「具体的に何すればいいのさ」
『おう。この山のどっかにゃ、メービィ様の神性のかけらが落ちてる。
形をもってこの世界に落としてる。まぁそれを集めるのが仕事ってわけよォ』
「それを集めるとどうなるの?」
『あ、時間切れでぇ。またな!』
「おい!!! 肝心なとこ無視かよ!!!」
急に光が消えて沈黙するカード。
俺の叫びだけが道に木霊した。
「……メービィの喚ぶシキガミはどうしてこうも無駄話が好きなんでしょう……?」
金の女性が困ったよう呟く。
「まぁ、賑やかで良いではありませんか」
それに銀の青年はそう括った。
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