第17話『決意の始まり』
コウキがカードにマナを通して2度目の旅立ちとなる今回。
今度は準備を整えての出発を期した。
変わったものと言えばヴァンとファーナの服ぐらいのものだが。
ヴァンに法術を習い始めたファーナは、
濃い赤の裾の長い術士服にブーツを履き、頭に羽根のような髪飾りをつけ、
術士用の白い皮手袋に線形模様の描かれたグローブなるものをつけている。
そして一番上から白めのマントを羽織ったスタイル。
勧められたコウキは頑なにマントを拒んだが。
ヴァンも同じように戦闘用の術士服を纏っていた。
使い込まれた落ち着いた緑の服を着て、その上から外套を纏う。
束ねた銀の髪からはもう隠すことなく耳を出していた。
それと、腰に一本ステッキ……のようなものを持っている。
使用するときには伸びるそうだ。
コウキから見れば警棒らしいが。
なんにせよ――恥ずかしげもなく着こなせる彼らを、すげぇと思った。
そんな、世界の話。
次に飛ばされたのは東部2町向こうの洞窟だ。
カードはまたもや
『【洞窟を攻略せよ!】だ! がんばんなぁ!』
とだけ残して消えた。
……役にたたねぇ……。
「収束:50 ライン:左の詠唱展開 術式:
動物の形を纏った火が3つに分かれてモンスターに飛び掛る。
その炎はモンスターを焼き、小箱になった。
術式の奔った左手を下げるとフゥッとファーナが溜息をついた。
それと同時にパチパチと拍手が鳴り響く。
「すげー! 法術カッコいい!」
コウキは楽しそうにそういう。
「はい。お見事です。やはり炎術相性は抜群ですね。
それでは次のステップ用にもう少し大きな術式を教えましょう」
「ねー俺にも教えてよー」
「コウキは十分強いじゃないですか……」
呆れたようにファーナがそう言った。
「そうだ、コウキジッとしててください」
「うぃ」
コウキは案山子のポーズで静止する。
誰にも突っ込まれること無くポンッとヴァンが右肩に手を置いた。
――……次は華麗な変身ポーズで静止しようと考えながらとりあえず動かない。
「――レベルが上がってます。
もうそろそろ戦女神の祭壇に呼ばれるかもしれません」
「戦女神の祭壇?」
「はい。コウキに戦う力を与えている戦女神が頃合だと思えば会うことになるでしょう」
祭壇に呼ばれるメリットは無いわけではない。
話の進み方や場合によってはその場で新しい能力を与えてもらったり、
戦女神に際しては『命名』を受けることがある。
『命名』とはその人固有を表す戦闘スタイルに与えられる名前。
「たとえばですが『
この世に二人とおらず、死ぬまでその名前を使うことが出来ます。
『命名』を受けたときその名前は戦女神の石版に一人ずつ書き残されていきます。
それはとても名誉なことで名前持ちには仕事も良く回ってくるようになりますし、
そのまま王国兵の隊長などになったりすることもあります」
「へぇぇ〜戦女神ってのはメービィ?」
「メービィは戦女神ではなく加護神ですからね。
戦女神は戦神ランバスティを主格とする戦いに関する能力を与えるに特化した神です。
戦女神は万人平等で存在は1人ではありません。
全てに平等に力を与え、戦い生き抜く様を楽しみ……その死を愉しむ。
――ある意味一番残酷な神です。
ですが確かにその力は強大で、私たちには必要な力。
借りるに越したことはありません」
「へぇー」
「コウキさんって本当に何も知らないんですね?」
「はわっ!? アキ酷いっ!」
傷つける気の無い言葉なのは分かっているが、だからこそ酷い。
酷くいじけたポーズでのの字を書く。
「え、あっごめんなさいそういう意味じゃなくて……」
「いーんだいーんだっ
別の世界から来たんだよ〜って言われてもまぁ信じ難いよなぁ
しかもこのクソ童顔ときたらあほな事しかやらないし
キ○ガ○といい勝負ぐらいだと思ってるんだぁ……」
「そこまで言ってないですよっ!?
でもデンキとかもっと便利なものがいっぱいあるって聞いたし、
わたしは信じてますよ〜?
でもコウキさんって歳が低く見えますよ?」
「その言葉そっくり返しますぞアキっ」
きぃーーっと奇声をあげてコウキが服の袖を噛む。
「壊れてますよコウキ」
冷静にその姿に突っ込んでくれるヴァン。
「コウキっていくつですか?」
そういえば、とファーナがコウキに聞く。
「じゅうななぁ〜……いうな! 言うな! そんな眼で俺を見るなっ! 痺れる!」
「……まだ身長があるからいいようなものの。良い様に女装すればばれませんよ?」
「バレたことねぇよっ!」
コウキの叫びが洞窟に木霊した。
思い出したくも無い中学校の体育大会。
3年生の仮装大会で締めくくる最大の行事になるのだが――。
例によって例のごとく、だ。
俺は喜月と武人に捕まると、女子の軍勢に投げ込まれた。
目の前には化粧道具とウェディングドレスを持った女子たちが――!
『喜月っ!? タケぇ!? みんな何をっえっ何でぬがsあああAAAAああああAh!』
色々な物を失った気がする。
俺のウェディングドレス姿は受けが良く、
武人と新郎新婦役で歩き回るだけで周りから溜息が聞こえた。
他のクラスの男子を誘惑してその年の優勝を勝ち取った。
勝因は喋らなかったこと。
それからというもの俺は牛乳を飲み、筋トレを欠かさなかった。
「ごめんなさい」
真摯に頭を下げるアキ。
「申し訳ありませんでした……」
気まずそうに口元を押さえて目を逸らすファーナ。
「……すみません。バレないだろうなと思ってしまいました」
眼鏡を光らせてぶっちゃけるヴァン。
3人が全員謝った。
「身長は伸びたから最近は言われることは無くなってたけどねーーーー」
コウキの暗黒歴史。
触れてはいけなかったらしく、夕日に向かって走っていった。
洞窟の中なのだが。
光るものが飛び散っていたが気にしないように3人はコウキを追って歩き始めた。
「うぉわあああああああああなんかでた何か出た何か出た! 踏んだ!」
例によって例のごとく、すぐにモンスターを連れて戻ってきた。
「
アキが大剣を真っ直ぐ投げる。
一直線にコウキの後ろのコケの生えたゴーレムを突き刺す。
ジャラッと鎖を引こうとして、その先がゴーレムに掴まれていることに気づいた。
ファーナが唄う。
コウキの手に炎月輪が出現し、振り返りざまに投げる。
それはゴーレムの胴体に当たると、炎を走らせて胴体を真っ二つに切り裂いた。
そのまま後ろに大きく跳んでゴーレムから距離を取る。
アキも剣を手元に引いた。
――そのときゴーレムは再生した。しかも
「増えたぞ!?」
「そんなっ!?」
「収束:1200、ライン:左の詠唱展開固定」
ヴァンは大きく床に左手をつける。
「術式:
地面が一面凍る。
ゴーレムはバランスを崩して大きく膝をついた。
「侮ってはいけません! ゴーレムは粉々に砕けるまで再生し続けます!」
「ファーナっ! アレ使ってみようぜ!」
アレ。
昨日の夢で教わった、炎月輪の新しい詩。
「わかってますっ」
その声を聞いて両手を大きく開いて構えた。
『炎を束ね宙を舞い、月の元に舞い降りぬ』
ギチッ!
コウキの持っている炎月輪が音を立てる。
『二対の輪の咆哮』
その一つ一つをゴーレムに向かって投げた。
『極炎の舞踏』
二つの炎月輪が紅く光る。
そして――
『
ドガァアァンッ!!
爆炎が2体のゴーレムを飲み込んで、炎月輪は爆発する。
「連式:――!」
ヴァンが言葉を言ったか言わないかぐらいで全員の目の前に壁が展開する。
「う、わっ」
「あぶないっ!」
岩の塊が四散しあたりに飛び散る。
「――すごい……」
「危なすぎて使いづらいなぁ……ファーナ大丈夫?」
「は、はい。なんともありません」
「ふぅ、危機一髪ですね」
展開した壁をヴァンが軽く叩く。
それはいとも簡単に砕けて光になった。
「助かったよヴァン。ありがとう」
「いえ。パーティーとして当然です」
「今、連式の呪文が無かったようなのですが……」
ファーナが首を傾げてヴァンを見る。
「もしかして……神言語ですか?」
真剣な表情でアキがヴァンに問う。
「おや、ご存知でしたか……」
「じゃ、じゃぁ貴方は――"
「……はいそうです。私は戦女神から命名を受け――ディヴォクス……
神言の預る者の名を戴きました。」
「だ……」
「大神官じゃないですかあぁ!?」
珍しくアキが大声を上げる。
「それってさっき聞いたやつ!?」
「そうですね」
「で、大神官ってどういうことですかヴァンツェ」
大神官に睨みをきかせるお姫様。
「はい、神官の最高位ですね」
「とぼけないでくださいっ!」
「……はは、私ヴァンツェ・クライオンはアシュビニッツ聖堂の元神官で
大神官の座を戴いておりました。
尤も、それはディヴォクスの名を冠した後でしたが」
アキがフラッと卒倒しかける。
「あ、アキっ!?」
「わ、わたしこのパーティーにいて大丈夫なんでしょうか……」
「大丈夫! 俺も凡人だから!」
「コウキさん……コウキさんはシキガミ様でしょう……?
クラス第2位の貴い存在じゃないですかぁ……」
ふっと意識を飛ばしかけるアキ。
「し、しっかりしろっ2位も4位も大差ない!」
「はははは。アキさん。私はもう大神官は降りてますから。
それに城の仕事の方も後任に預けてきたので、実質アキさんとなんら変わりはありません。
クラスだけを見ればアキさんのほうが上に当たります」
「そっそんなっ恐れ多いですっ! 命名まで受けれてませんしっ」
今度はバッと起き上がるとぺこぺこと頭を下げる。
忙しいことこの上ない。
「まさか今のが神性の宝箱のモンスターだったとは……」
コウキがその箱を手にとる。
「ふふ……知ってるぜ? スライド式なんだろっ……!?」
しかしその意に反して箱はピクリともしない。
「な、なんだっ!? このっ!」
更に上に引っ張ったり叩いたりするが何も起きない。
「……あ、開かないんですか?」
「パス……」
「え、あ、はい」
アキは小箱を不思議そうに見た後、コウキと同じくあけるための行動をいくつか取る。
当然のごとく開かず、首を傾げる。
「……あっ……えいっ」
ちょっとした悪戯心、箱を捻った。
カコンッ
「あ、開いた」
「メーーーーーーーービーーーーーーーーィ!
俺をいじめてそんなに楽しいかぁぁっ!!!」
洞窟にコウキの叫びが再び木霊した――。
「うぅぅぅ……みんなが……みんなで……俺を苛める……」
神様が敵ならどうしようもないじゃないか……っ
「そ、そんなのじゃないですよきっと。ちゃんと意味があるんですってっ」
しくしくとコウキがうな垂れているのをアキが慰めながら帰りの道を歩く。
カードは2の文字を記して、また沈黙した。
今日攻略した洞窟から2町……といっても普通に歩くと2日かかる距離なのだが、
途中の町で1泊することになった。
「あー大丈夫かなお金が……」
「大丈夫です。私が――」
「あ、拾ってるアイテム売ればいいのか」
パンパンになっている自分のリュックを叩く。
冒険者家業というのも意外と面白いものかもしれない。
「そんなことしなくても私が」
「断固拒否する」
そこでやっと視線をファーナにやって言い放った。
「な、何故です!?」
「それは自分で稼いだ金じゃないから。
いいか人間自立するには衣食住の世話は自分でしなきゃいけない。
この世界だって同じだろう? いつまでも誰かに頼るわけには行かない」
他の二人は沈黙してコウキとファーナを見守る。
王女を無視したり諭したりするのは世界中でコウキだけだろう。
ファーナがいじける様に言葉を失うと
「……では私もそうすることにします」
コウキの言葉に大人しく従った。
夕方には1つ目の町について、そこで宿を取ることになった。
宿と酒場を兼ねた場所を見つけ、そこに1泊することになった。
「結局いくらになったの?」
そうきいてパンをかじる。
ここに来る前に鑑定屋により拾ったアイテムを売り払った。
「2万2千リージェですね」
「わ。すごい。ちょっと行って来ただけなのにそんなに稼いでたんですね」
アキが手を合わせて笑う。
「えぇ皆さんの努力の賜物です。4等分してあります。
それぞれお好きなように使ってください。
あ、宿代は出しておきましたのでそれを差し引いて丁度一人5千になります。」
「で、でも私はあまり役には立っていないのですが……」
ファーナが申し訳なさそうに言う。
「そんなことはありません」
そう言ってヴァンはファーナの手を取って小さく何かを唱えた。フワッと文字が見えてすぐに消えてしまう。
「ほう。やはり。本日でリージェ様は神性位22位となりました。ちなみにコウキが来る前までは24位でした」
「おお!」
「でも、皆さんの方が断然高いですから……やはり足手纏いになってしまっていると思うのです」
少し困ったような顔で笑う。
「ふふ。ですからそんなに悲観なさらないで下さい。
リージェ様は神性位などものともしない唯一無二のものがあるではありませんか」
「それは?」
気になるのでファーナより先に俺が聞いた。
ファーナもその言葉の続きを息を呑んで待っている。
「ええ。ズバリ炎術相性です。例えば私の炎術相性を1炎とすると……」
「すると?」
「1太陽ですかね」
でけぇー!
「単位がさっきと違う!? 1太陽は何炎なの!?」
「六百億炎ぐらいです」
「よくわかんないけど凄い! ファーナ凄い!」
ヴァンが術で褒めるだなんて相当凄いに違いない。
俺がそういうと彼女はプルプルと首を振ってきゅっと眉をひそめてヴァンを睨んで抗議を始めた。
「て、適当な事を言わないでくださいヴァンツェ。コウキはすぐ信じてしまいますっ」
「ええ。申し訳ありません。ついからかってしまいました」
はっと俺は踊らされていたことに気付く。ヴァンはクスクスと笑ったあとファーナに優しく微笑んで見せた。
「しかし貴女がその相性に凄い事は嘘ではありません。彼の賛美は真っ直ぐ受け止めてあげてください」
少し納得がいかなさそうに口を噤んだが瞳を伏せて頷いた。
ヴァンはついでに、と全員を見回して自分達の状況を話すと言い、一口だけ水を飲んだ。
「私は名もちとはいえ神性クラスが第18位なので総合戦力的にはアキやコウキと大差ありません。
コウキは聖霊クラスですから100パーセントの付与能力を行使できますし、
アキも竜人位なので100パーセント近く……更に竜神の加護者ですから単純な戦闘ならば頭一つ飛びぬけています」
やっぱりアキは凄いのか、と彼女を見るとうーん、と曖昧に笑ってみせた。
「何にせよ私がまだまだ足手まといですね……申し訳ありません……」
「いえ、リージェ様の神性は試練をこなすごとに上がっているみたいです。
つまりこなすごとに能力幅が上がり、強くなれます」
「ん……? てことはさ、ヴァンが神性クラス上げればまだまだ強くなれるの?」
1つクラスが上がればかなり強くなるんじゃないだろうか。
「まぁ……それはそうですが神性クラスとは上げるのが容易ではありません。
私につく戦女神は試練を好みますから何かしら手を加えてくるでしょう」
顎に手をあててむぅっと唸るヴァン。
しかしそれも束の間、すぐに穏やかに笑顔を見せた。
「しかしコウキを見ていると強くならざるを得ませんからね。
できるだけの努力は試みるつもりです」
「俺?」
不意を突かれて口に食べ物を頬張った状態でヴァンにふりかえる。
「えぇ。ここ数日でのコウキは著しく成長しています。
剣を振り慣れたのでしょう? 初めに合った戸惑いが見られません」
「あーそうかも。カッコいいことに二刀だし……なんで俺二刀なんだろ?」
立てかけた剣を見て思ったことを口に出す。
それに答えたのはファーナだった。
「炎月輪のせいでしょう。アレは元々投擲の武器ですが、コウキは二刀の剣として使っています」
「あーだって前衛がいないんだもん」
「わたしがでましょうか?」
「非常に面白いことにこのパーティー誰も前衛に出ることなく戦えますからね」
遠くの敵を見つけて、炎月輪を投げて、アキが剣を投げて、
ファーナとヴァンが法術を打てば大体の敵は沈む。
そんな全員を見回してファーナが何かを決心して拳を握った。
「私が前衛に……!」
キラキラとしてやる気に満ちたいい眼だった。
『無理無理無理無理!』
間髪居れずコウキとアキに否定される。
「な、何故ですっ私だってまだ成長途中っ進める道は一つではありませんっ」
「体の話? ぎゃぁぁぁっ!? 痛いッファーナっ頬っぺたもげるっ!」
「今はそんな話をしていませんっ……!!」
「だめだよっなんていうか……」
アキが言いづまる。
「……に、似合わないよ?」
「っ似合う似合わないではないでしょうっ」
ファーナの意見も尤もだが、アキの意見もだ。
「……第一、剣とか振れる……?」
「………………ふ、振れますよそのぐらいっ…………たぶん……」
「ふぅ……それでは後ほど法術の講義といきましょう」
そう言ってヴァンが席を立つ。
「ヴァンツェっ! あなたも私をバカにするのですかっ」
そう言ったファーナにヴァンが振り向くとペコリと頭を下げた。
「いえ。お任せください私が鉄の刃をも凌駕する術をお教えしましょう」
そういって眼鏡を上げて不敵に笑うヴァンがいつも以上に頼もしい存在に見えた。
ふぅーあいかわらずでっかい月だなー。
部屋にもどって窓から見える空を見上げた。
ついでに空気を入れ替えるために窓を開く。
「いい風入るなー」
「そうですね」
期待していなかった答えが返ってきた。
「お? ファーナ?」
「ふふふっ奇遇ですね」
「まったくだ。んなこともあるんだな……」
「そうですね……」
何を言うでもなく二人の静かな時間が流れる。
珍しく、喋らなくても満たされている空間。
たまにはいいかなと月を眺めた。
「コウキ……」
「ん?」
「コウキは強いんですね」
「あぁ……ファーナが居るからな」
「……え……?」
思わずコウキを振り返る。
「ん? 神子が居るから炎月輪が持てるし――今日みたいな大きな技も使える」
笑顔を見せながら月を見続けるコウキ。
「あ、あぁっそういうことですか……」
忙しなく視線を漂わせるファーナ。
「カードが神性を通ったからもう次の詩教えてくれるのかな……?」
「分かりません……ですが私はいつものように夢で逢うことになります。
ですから……今度は力の制御の仕方でも聞いておきますね」
「あぁそうしてくれると助かる。アレはいくらなんでも巻き込みすぎだよな」
「……ですね。危うくアキやヴァンツェを傷つけてしまうところでした……コウキ」
決意を込めた瞳がコウキを見る。
「ん――……?」
振り向いたコウキはその強い瞳に魅入った。
「もっと……もっと私は強くなります」
「……」
「コウキの為に……私達を手伝ってくれる仲間の為に」
その決意を、人に伝えた。
それは、偽りではないという証明。
「あぁ……強くなろうな」
「はい……。少し冷えてきましたね。私は先に失礼します」
「うん。おやすみファーナ」
「はい。おやすみなさいコウキ……良い夢を」
そういってファーナは窓を閉めた。
空を見上げた。
月は冷たく、世界を照らす。
「だよなぁ……」
うじうじ悩んでないで、ファーナの為にも、ヴァンやアキのためにも強くならないと――。
少年少女の夜は更ける。
それぞれの思いを抱いて――その試練が開始された。
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