第18話『それぞれの剣』

幼い頃に言われた。
あなたは神子だと。
私にはよく分からなくて、首をかしげた。
お母様は私を抱いて泣いた。
なんども何度も、ゴメンねと繰り返した。
良くわからなかったけど私も泣いた。

そしてその日、メービィに逢った。

優しい夢だったのを覚えている。
私とだけは話せるとその夢の人は言った。
それからしばらくはその夢を見なかった。
私の知性がまだまだ拙かったからだろう。

数年経って、またメービィと夢で逢うようになった。
その姿は――私。
鏡に映すように同じで、私と同じ考えを持っていた私。
メービィとはかつて彼女が神になった時の名前。
炎に魅入られた私の名前――。

彼女に神子とシキガミという存在を教えられた。
ショックだった。
危険な存在であるという自分に。
私は自ら神殿へ住むことを決めた。
城に居てはお父様やお母様にも迷惑をかけてしまうと……。

彼女は私の態の良い友達だった。
同じ思いを持ち、決して反りの合わないことは無い。
城という閉鎖空間で――それもその地位で『友達』になり得るような人は居なかった。

彼女は言った。
アナタに友達をあげる、と。
それが――シキガミのことだった。

想い焦がれた。
とても楽しみだった。
同時に不安だったけれど――
彼女がそういうのだから間違いなく私の友達となり得るのだろうと。


そして――コウキが来た。

不思議な人だった。
はじめてみた時は大きなライオンとの戦い。
武器を持たずただその攻撃を避けていた。
劣勢の状況でひたすら受けるのみ。
私は足が竦んだ。
その戦いが怖かった。
でも、そんな状況でコウキはライオンに飛び乗って思いっきり蹴った。
その場に居た全員が驚いたと思う。
でもそのライオンは、獣になって暴れだした。
危ない――そう思って詩を歌った。
それに反応したコウキが炎月輪を握った。
あ――そう、このとき確かなつながりを感じた。

『武器が欲しい!』
『――どうやって、こいつに一発ぶちこんでやろうか!!』

諦めていない思考の声。
それを感じることができた。

嬉しかった。
繋がりを実感できた。
コレがシキガミと神子のつながり……。
コウキの心が、その強さが伝わってくる。
私はそのまま――歌っていた。

私の前に道が開く。
コウキへと真っ直ぐ。
私に気付いたコウキが振り返った。
思っていたよりも幼く見えた。
男の人に対して使うことの無かった可愛いという言葉が当てはまる綺麗な顔。
それでも背が私よりずっと高くて、男の人というのが分かる出来かけた体つき。

従者として、友達として、シキガミとして――貴女の元へ届けます。

彼と一緒にいるのは楽しかった。
予想外、奇想天外。
お城に居たときが嘘のように世界が色づいた。
私の世界と言えば夢で語ってくれるメービィの話やヴァンツェの話で作った私だけの世界。
それは不明瞭な夢物語でしかなかった。

コウキはそこから一瞬で外に連れ出してくれた。
さらにアキという友達までくれた。

世界が光で満ちてきた。





彼が――私の世界を作った。

























「あ……あー……?」
眼を覚ました。
なんとなく朝っぽい雰囲気を感じ取って体を起こす。
目覚まし時計って奴が無いから朝の時間は夜寝る時間によって決まる。
大体6時間ぐらいで起きてしまう俺は布団を恋しがることなく起き上がった。
「朝飯……には早いか……」
頭をくしゃくしゃと掻いて外を見るとまだ朝日が出たばかりだ。
フラフラ〜と起き上がって水場に足を運ぶ。
顔を洗うと意識がしっかりして朝のいい空気を肺いっぱい吸い込んだ。
「ん〜っ何すっかな〜」

今日は何をしてみんなを驚かせようか。

エンターテイナーの性である。






















「おはよう御座いますリージェ様、アキさん」
「おはよう御座いますヴァンツェ」
「お、おはようございますヴァンさん」
朝の静かだが騒がしい酒場での朝食。
あまりにも礼儀正しい二人にアキが押され気味だ。
「コウキはまだなのですか珍しい」
4人がけの椅子に座りながらヴァンが二人を見る。
「一番に起きてそうなんですけどね〜」
「またどこかで油売っているのでしょう。部屋にはいませんでしたから」
「まぁひとまず朝食ですね。注文をとりましょう。お二人はもう頼まれましたか?」
「いえまだです」
それに頷くとヴァンがウェイターを呼ぶ。


「はいは〜いご注文ですか?」



「…………何やってるんですかコウキ」
現れたのは紛れも無く壱神幸輝。
天下無双のシキガミと呼ばれる存在。
あまりの事態に皆絶句し、辛うじてファーナがコメカミを抑えながら言葉を出した。
「ウェイター」
「そうじゃなくてですね……」
「バイト?」
「違いますっ何故そんな所で働いているのですっ!」
堪忍袋の緒が切れたのかコウキに向かって叫ぶファーナ。
「びっくりした? びっくりした?」
その様子のファーナに悪びれることもなく笑いかけるコウキ。
「それはもちろんですっ」
その言葉を聞いたコウキは果てしなく嬉しそう笑う。
「うはははっなんかバイトの子が遅れちゃうらしくてさ、チョットだけバイト中
 モーニングの間だけだからすぐだよ」
「はぁ……全く本当に予想外の所から出現しますねアナタは……」

「褒め言葉だねっ! してご注文はいかが?」
改めて店員らしくコウキは振舞う。
ヴァンがそんなコウキに軽く笑うとそのままモーニングを3つ注文した。
「飲み物はコーヒーと紅茶が選べるけどどうする?」
メモを取りながら器用に皆を見回すコウキ。
「あ、わたしは紅茶でおねがいします」
「私もです」
「コーヒーでお願いします」
アキとファーナが紅茶を、ヴァンがコーヒーを頼む。
「了解っと。直ぐできると思うからちょっと待っててよ」
そう言ってそのまま慣れた歩調で机の間を歩いて行った。




「……なんで?」
今頃になってアキが笑いながら言う。
理由は分かっているのだが思わず突っ込んでしまう。
「まさか今日の朝まで驚かされるとは思いませんでした……」
「根っからの芸人ですね」
こうして、その日の朝もコウキの目論見は成功した。






















「いやー久しぶりに楽しかったっ」
満足げに整えられた街道を歩くコウキ。
賄いで朝食代はタダだったし、さらに給料が出た。短かったので100Rほどだが十分だと思う。
「慣れてましたもんねコウキさん」
「ずっとそういうバイトやってたからねー。要領が分かれば応用は簡単っ」
「まったく……誰にも断らず勝手な行動を取らないでください。
 ……貴方は本当に何処へ行くかわからないんですから」
首輪をつけて紐でつながないとダメですかっとファーナが強く言う。


「……ちょっとそっちの趣味は……」

視線を外して空笑いするコウキ。
「コ・ウ・キ〜」
顔を紅く染めてファーナがコウキに掴みかかる。
「うひゃっやめてご主人様〜!」
それから素早く逃れたコウキ走りだす。
歳相応――ではない気もするが二人とも満更でもなく楽しそうだった。

整えられた街道はモンスターが出ることは少なく、暖かい日差しと心地の良い風が森から吹く。
「平和ですね〜」
「追いついたらお茶でも提案しますか」
「そうですね〜」












「きゃぁぁっ!」
「なんかでたぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」




思いっきり走りながら道を戻ってくる二人。
その後ろにはグリズリー3体が並々ならぬ形相で追いかけてきていた。
「……お茶はもう少し後ですね〜」
「コウキはモンスターハンターに天性の才能があるんじゃないかと思うんですが……」
言って二人はファーナたちの元へ走った。




























アラン・ゾ・グラネダ――
絶壁を背に聳え立つ城。
その城下町は大きく発展を続けている。

「へぇ〜グラネダ、ね。舌噛みそうだな」
城の後ろ『世界の断崖』の上。
二つの影がその風景を見下ろしていた。
「そういうな。こちらの世界ではこういった名前は普通なのだ」
言葉遣いこそ固いがお互い警戒している風ではない二人組み。
一人は深い緑の長い髪で左右に分けて括っている女性。
横顔から見える凛とした印象が美人、という言葉を思わせる。
濃群青の裾の長い厚手の服を着込んで、術士用の純白の手袋をしていた。
だが腰に下がる細身の剣がその姿が騎士のようにも見える。
「はっはっはっ! まぁ気にしちゃいねぇよ。どうするんだシェイル?
 寄って行くのか?」
「まさか。自ら敵地に赴かなくても良かろう。グラネダは神子の扱いが丁寧だと聞く。
 下手にばれれば王国兵が相手だろうよ」
「そうかよ。まぁ市場が離れてるんだろ? メシぐらい食っていこうぜ」
「……そうだな。主が言うならそうしよう」
「なんだよ〜つれねぇな」

「……ふん。行くぞ」


「へーい」
少し色黒で長身の黒髪の少年――腰から一振りの剣が下がっている。
彼が返事をするとその断崖絶壁に架かる石橋に歩いた。
























「うっしゃー! 帰ったー!」
コウキが町の門をくぐって騒ぐ。
こういう輩は大して珍しくないのか人の視線が集まることは無かった。
「お疲れ様です皆さん」
「いえいえ。リージェ様が一番お疲れでしょう。神殿へお戻りになられますか?」
「そうですね――」
そう言ったところでピタリと視線を止める。
「あ、アキっこの町ってよく分かる?」
「え、ま、まぁそれなりにですけど」
「鑑定屋行こうぜっアキっ。ファーナ先戻ってて。すぐ戻るから」
「いえ、私も行きます」
キリッとした表情でコウキの横につく。
「そう?」
「ファーナ無理しない方がいーよ?」
「大丈夫です行きましょうっ」
妙に気合の入った言い方で皆を促す。
「うん……?」


市場とは違った活気を見せるグラネダの街。
道具屋や武器屋も多く、良く発展している。
グラネダの街は最初に作られた1番街を筆頭に9番街まで。
城から遠くなるほど新しい町並みになる。
だが、一番古い町並みを持つ場所こそ、武器や防具の老舗がある。
クラスの高いパーティーは大抵1番街にいることになる。

その1番街の大通りから一本だけ道を外れた通りに鑑定屋は存在した。
アキが言うには良く父が利用したと。
当然ここ以外にも鑑定屋は多く存在するのだが。
鑑定屋の仕事はまずアイテムの鑑定。
良い武器は戦女神から『命名』を授かる。
武器の『強さ』は神々の『神性』が与える強さと同じ概念だ。
良いものほど肉体充実を感じたり、術量が違ってきたりする。

もう一つ、鑑定屋の仕事は買取。
武器相応の値段で買い取ることだ。
鑑定屋によっては何らかの手数料といって買取額を誤魔化す輩も少なくは無い。
買い取った武器や道具はそれぞれ店に卸す。そういうサイクルだ。

最後に――捜索依頼だ。
マナの宿る武器は、モンスター化しやすく、長く放置すると消えることが多い。
コレクターなどがよくそうなるため、捜索依頼というのが鑑定屋に来る。
冒険者から買取ったものを見つかった場合手数料を上乗せして依頼主に売る。
そういった仕事が鑑定屋だ。












「こんにちわ〜」
「――……おぉ。トラヴクラハの娘か久しいのぅ」
ゴーグルのような眼鏡をしたドワーフの爺さんがカウンターの向こうに座っていた。
そのゴツゴツとした小さな体を高い椅子の上に座らせている。
「ちわっす。鑑定お願いします」
「ほう? ついに冒険者か? 新顔だな。こっち来い」
「はい。はじめまして。コウキです」
「うむ。ワシはバラムだ。……そっちは――も、もしかして神子殿か?」
「はい。ファーネリア・R・マグナスと申します」
「は、ははは……申し訳ない王女様。小汚い場所で――」
「いえ。お構いなく。今は私も冒険者の身分ですから」
「てことはお主はシキガミか?」
「まぁ一応。あんま気にしないで欲しいっす」
「ほう。話せるなお主。……ぬ? ……オイそっちのエルフ」
「お久しぶりですバラム氏」

「てめぇ!! なんでここに居やがる!!」

急に机に乗り出してバラムが大声を出す。
「それは失礼。すぐにでも消えますが」
「目障りだ!! とっとと失せろ!!」
「それでは皆さん私は外にいますので」
それだけ言って本当に外に出て行くヴァン。
何が……?
「……すまんな。アイツだけは前世代から気に食わんのだ。
 ほれ、鑑定するブツはどれかの?」
「あ、あぁはい。この袋です」
「ほう随分多いな……もしかしてもう冒険者始めて長いのか?」
「いやいや。旅立ったのは2日前のヒヨッ子っすよ」
「2日でか!? はっはっはっ! コウキと言ったか。才能あるぞ」
「信じられないことにこれは今日分です」
アキがそういうと、一度笑うのをやめてコウキを振り返ってまた笑い出す。
「はっはっはっはっはっ!! 面白いなお前らっ……何の冗談だ?
 この量は普通ギルドパーティ10人ぐらいで出かけてやっとじゃぞ」
量にして3人分のリュックいっぱいになった
言いながら袋のアイテムを出す。
「ほう。これだけあれば『御用品』もあるかもしれんな」
御用品とは捜索依頼の出ているアイテムのことだ。
一つ一つを眼鏡を通して名前を見ていく。
「"青眼のツルギ""デュラミ製・薔薇刺繍のシャツ"お、早速御用品じゃの……ほう"アラム製・戦の靴"……」
次から次へと名前を晒すアイテム。

「何その最初のドラミ製とかアトム製とか」
珍しいので見ていた鑑定の最中にはっとして聞いてみた。
アイテムの名前はわかるけど。
「コウキ。なんですかその変な名前は……
 デュラミとアラムは有名なブランドです」
「マジで!? ビトンとか!?」
「ミトン?」
 ファーナに笑顔で聞き返される。
「いや、有名なブランド……うん。ごめん」
「わかればいいです」
 まぁこっちの世界にいればわかるよねブランド。
 ブランドモノって姉さんが好きだったけど姉ちゃんはこれっぽっちも興味を示さなかったなぁ。
 まぁ俺もだけどね。
「へぇ〜ブランドねぇ。なんかに関係あるの?」
「ありますよ。主に神性が上級に行くと今のようなブランドの服や装備を整えるべきだといわれています。
 ブランド自体が加護を受けているのでとても性能がよいと言われているのです」
「なるほど。でも高いんでしょ?」
「それはそれなりに値は張ります。
 何せブランドがあるとはいえ作っている人間は一人ですから。
 需要が供給を上回れば値も上がるというものです。
 尤もそういう人たちに限って、人を選ぶのですからそこまで高くはならないのですが」
「えっじゃぁブランドって名前?」
「そうです。
 職人芸として完成した人々なのです。
 わたくしたちは“奇跡の芸術師<マエストロ>”と呼びます。
 マエストロたちの作った作品は瞬く間に売れ、ほぼオーダーメイドの状態です」
「……そんなのが落ちてていいのかなぁ」
「それはなんとも……。
 というか無名の流れ作業で作られた出来合いのものの方が多いので
 それにめぐり合うコウキのほうがどうにかしているのかと」
「それ俺の扱い酷くね?」
「褒めているんですよ?」
 くすくすと小さく笑うファーナ。
「ちぇー」
 ファーナとの会話に膨れて再び爺さんのほうに視線を移す。

 さっと持ってくるっと一回転。
 ブランドと名前を確認して、リストにメモを残して次へ。
 書いてある奴もあれば無い奴もたくさんある。
 まだ気になることがあるんだけど。
「……どうやって名前って見るんだろ?」
「うむ? ははは解読術式を編みこんだメガネじゃな普通は」
「え? おっちゃん違うのか?」
コウキがそう聞くと得意げに笑う小さな老人。
「ワシは天眼でな。何もしなくても見える。コレは逆にその力を抑えるメガネじゃ」
「てんがん? 抑えないとダメなの?」
「あぁ。天眼は寿命を削る。はっは。ワシはまだ長生きしたいもんでな」
そう言ってまた鑑定に戻る爺さん。
その作業は淀みなく、素早く行われた。

「ふむ。こんなものじゃな。後は無銘の安物じゃ」
「へぇ〜すげぇ!
 でもなんで剣のほうにはそのブランドって無いんだ?」
「ふむ。剣はブランドじゃないからのう。
 剣を評価するのは戦女神じゃ。
 戦女神は戦わないものを評価しない。
 もし芸術としてそれが評価されたならマエストロと呼ばれるだろうが、
 武器を作るものは特別でなまた別に呼び名がある」
「別のって?」
「技巧の職人<ティーターン>じゃの」
「へぇ……なんでだろ。やっぱ戦うためのものだから?」
「じゃろうな。アルマの職人もティーターン。
 武器は戦うための物じゃ。
 美術品として使うというために作ったのなら、戦女神は名を与えん。
 そう、戦う武器を作っている職人にとってそれほど残念なことは無いだろうよ」
「そっか。じゃぁ美術品の名前がついたらコレクターに買われる感じ?」
「じゃな。それがモンスター化したものを回収するのが冒険者の仕事じゃよ」
「へぇ〜っ。そうなんだ。よくわかんないけど世界は回ってるって感じ?」
「はっはっは。循環こそが世界じゃよ。
 さて、どうするかの?」
 爺さんが俺たちに聞いてきた。
 どれを売ってどれを持っていくか決めないといけないらしい。

「はい。ありがとう御座います。ツルギと――ナイフはコウキさん使いますか?」
「うーん……あ、爺さんっコレ見て欲しいんだけど」
言って自分の腰についている双剣を外してバラム爺さんに見せる。

「ほう。……"西方の剣"と"東方の剣"じゃの。
 あまり名高くはない……がお主、コレは真の双剣ではないぞ」

「マジでっ!?」

「本当なら"西方の剣"2つか"東方の剣"2つの方が好ましいからのう。
 性能が2分して使いにくくなっておる。
 どちらか使いやすいと思うほうがあるか? 相性問題もあるしのう」
「いや……むしろコレしか使ったことないからよく分からないけど……
 使いやすいとは思うんだ。短いけど刃の広い"西方の剣"が敵の攻撃を良く弾くし、
 逆に刃の長い"東方の剣"で切りつける……そういう使い方をするんだけど」
「ほう――そもそもお主、"双剣"の相性持ちかの」
「双剣……?」
「ふむ。興味がわいた。少し見させてもらおうかの」
そう言ってバラム爺さんはゴーグルを外した。


金色の目が俺を見る。
不思議だ。全てを見透かされているような気がする。
「――ふむ。やはり"双剣"だな。珍しい。戦女神ラジュエラの加護者だのぅ。
 ラジュエラの加護者は必ず二刀持ちでな。そもそもの加護者数が最も少ない。
 っと見すぎは体に悪い。そろそろ終わりにしよう」
そういってもう一度その瞳をゴーグルに収める。
「対にならぬ双剣持ちか。はははまぁそれも面白い。
 両手に持てればなんでもよいのじゃからのぅ」
「はぁ……じゃぁこれからは強い剣を見つけたら即付け替えればいいってこと?」

「まぁそういうことだ。ほれ。この"地聖の宿るナイフ"は"西方の剣"と取り替えるといい」
「うぃっす」
「"青眼のツルギ"はわたしが貰っても大丈夫ですか?」
「OKー。でもアルマあるのに持つの?」
軽くて便利なのにーとコウキは言う。
「アルマはマナが切れると使えなくなりますから……なるべく温存するようにしたいんです」
「ファーナ、俺ってマナが切れると動かなくなるのか?」
「なるでしょう。普通の人でもマナを使い切ると動けないですから」
「あ、そうなんだ」
 意外と大事らしいマナ。ロープレじゃ倒れないのにな。
 そろそろいいかなと思った時に爺さんが口を開く。
「王女様はどうなさるのかな?」
「私ですか……?」
「そう。術だけではいざと言うときに痛い目をみますぞ?
 無銘じゃがこの小さめのナイフなども――」
爺さんが本当に軽そうに小さいナイフを持つ。
しかし、ファーナはそれを見ては居なかった。

「……"西方の剣"」

その剣を見て呟く。
刃は40cmほどだろうか。幅の広い――数日だがコウキの剣。
東方の剣より細工が多く、鍔の部分には文様が彫られている。
「……え?」
「その"西方の剣"を使いたいです」
「……左様ですか。それではコレも。他は買取でよろしいかな?」
「はい。お願いします」
アキがそう答えると爺さんは計算を始めた。







「ほんとに使うの?」
コウキがやっていたように腰の後ろにベルトで剣をぶら下げるファーナ。
「使います。振り方はコウキが教えてくれますか?」
少し嬉しそうにコウキを見上げる。
「あぁ……まぁいいけど」
「お願いしますっ」
その剣を選んだのに大した意味は無い。
あるとすれば――コウキの使っていたものだから。ただそれだけ。
この剣は私を守ってくれる――そんな気がした。




















お金を受け取って外に出る。
「終わりましたか」
ヴァンはドアのすぐ横にもたれかかっていた。
「終わった終わったっ今回は前より多いぞっ5万になったっ」
「ほう。素晴らしい」
……微妙に不機嫌だった。
「ヴァンなんで爺さんと仲悪いんだよ」
「ストレートですね……まぁ昔からなんですが反りが全く合いません。
 バラム氏が悪いわけでも私が悪いわけでもありません。お気になさらずに」
「そうなのですか? 他にも理由がありそうですが」
「気にしないでください。さぁ行きましょう」
そう言うと先に歩き出すヴァン。
残された3人はそれぞれ首を傾げてヴァンの後を追った。






























「あーっちゃぁ……街まできちまったな」
短い髪をぽりぽりと掻く少年。
あまり悪びれたりはしていない。
「早く店を決めないからだ」
容赦の無い言葉が送られるが何処吹く風といった表情の少年。
「城の近くだから1番街か……こっちのがいい店ありそうじゃん」
「このあたりは昔からある老舗が多いと聞くが……」
「へぇ。シェイル。あそこの酒場入ろうぜ」
「良かろう」
「うっし。昼飯昼飯〜」












「腹減った〜」
腹がギューーーン! と鳴る。
「あははははっ鳴りすぎですよコウキさんっお昼抜きで歩きましたからね〜」
あまりのキレの良さにアキが爆笑する。
「ふむ……城に帰ってからだと夜まで待たねばなりませんがいかがいたしますか?」
「少し食べるぐらいなら構わないでしょう」
「そこの酒場でいいですか?」
「行くったべるっ!」



「いらっしゃいませ〜4名様で。それでしたらあちらの席へどうぞ」
「お〜意外とオシャレな酒場?」
コウキは椅子に座りながら小奇麗な空間を見回す。
「改装したばかりなのでしょう。私が前に来たときにはもう少し狭かったですし」



カタンッと椅子立てかけた"東方の剣"が倒れた。
「おっと……」
手を出そうとすると後ろに座っていた人が手を貸してくれる。

「あ、すんませ……」
「いや、きにす……」























『どぅぅぅううううえっ!!!?』


























お互い椅子から飛び退いて対峙する。
酒場中の視線がそこに集まった。

「タケぇ!!!?」
「コウキ!!!?」

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