第２４話『無対の双剣』
忍者ってニンニン言わない。
バレるじゃん？
シキガミだってシキシキ言わない。
当然だろ？
シキガミらしくしろってどうすればいいんだ……？
おっといけね。
俺は視線を戻してファーナを見た。
今日は真剣に剣と向かい合っている。
不釣合いかと思いきやそうじゃない。
あまり大きくも無いし西方の剣に走った術式模様が綺麗で意外とファーナに合う。
話はガラッと変わるが今日は雨。
あまりカードでぶっ飛ぶにはリスクの高い日なので休養日だ。
と、見せかけて修行中だ。
「こう！ こう！ くいっ！！！」
剣を２撃切り出して最後に腰を捻って姿勢を正す。
ちなみに剣を振っている最中だ。
「最後の動きは余計に見えたのですが……」
俺を見ていたファーナが少し訝しげに俺を見た。
冗談を交えつつ俺はファーナに剣術を教えている。
「いや、ふざけてる様に見えるけど姿勢が戻るからまた同じ動きも出来るし
回避もできる一石二鳥の必殺技よん？」
「そ、そうなのですか……」
「ん〜アキにも見てもらったほうがいいなぁ。片手剣ならしも両手だしな……」
アキは両手の大剣、アウフェロクロスを駆る超力持ちだ。
竜眷属はその怪力は標準装備だとヴァンから聞いた。
あと、怪力っていうとキレるらしいという秘密も。
……あれ？ 最初の日に俺を運んでくれたのダルフのおっちゃんって聞いたけど
実はアキだけで運べたんじゃ……？
ま、まぁいい。深い詮索は火事の元だ。
「すみません……私が非力なばかりに」
「ま、鍛錬だね。術の方もやってるんだろ？
その『西方の剣』と術式の相性も良いみたいだし杖に使えるって言ってたよなヴァンが」
西方の剣に掘り込まれたラインが、炎術志向のものらしい。
東方の剣の方にもそれがあってこちらは風術志向。
「はい。そのようですね。まだあまり長く振り回せませんから
杖として使う方が多いでしょう」
「ふむふむ……。ちなみに術を剣に通すと威力が上がるの？」
「上がりますね。大体１０％程度ですが範囲と距離が広がり、威力が向上するようです」
「１０％！ すごいな。１０％を嘗めたらダメだぞ？
１００マナが１１０マナ分になるんだぞ？
１００リージェが１１０リージェになっちゃうんだぞぉ！？」
お、恐ろしや１０％……！
「そ、そうですが何故そんなに凄むのですか」
ファーナが軽く引く。
「いや……消費税には苦しまされた記憶がね……」
そう、あれは寒い寒い冬の日。
俺は買い物の為にスーパーに寄った。
無論タイムサービス展開中だ。
俺は目当てのものを神速でゲットすると、レジに向かった。
その時はまだ買い物に慣れてなかったため（それでも十分主婦クラスだが）
頭の中と財布の中を照らし合わせることが出来なかったのだ。
そして、事件は起きた。
なんと５円足りなかったのだ。
必死に５円を探す俺。
恥ずかしい……！
それ以上に悔しい……！！
こんな事態も想定できなかったのか俺は……！！？
途方にくれる俺。
そして唖然とするレジの人。
後ろに並んでいる人たちも失笑。
後ろのおばあちゃんが、優しく５円を俺にくれた。
――涙が溢れた。
返品しろよ。
「コウキ、何処を見てるのですか？」
「遠い、あの日、さ」
フッと前髪をかきあげる。
青春のほろ苦い１ページだ。
ファーナは首を傾げて、剣を振り出した。
「――ふっ！ ……っふ！」
剣の風きり音が響く。
指導って暇だな……とりあえずファーナには基礎体力をつけて貰わないといけない。
だから我武者羅でも動くことは必要だと思う。
筋トレってそんなもん。
「ファーナ、ちょっとメービィのとこ行ってきてい？」
「ふっ！ ……あ、はい。わかりました。
あ……そういえば、メービィがコウキに話すことがあると言っておりました」
「そっか。んじゃ行ってくるー！」
「はい。行ってらっしゃいませ。私はこのまま続けております」
「おうっ頑張れっ！」
俺は言って剣を振り出したファーナをを見届けると
神殿の広場から出て聖堂の祭壇への扉へ向かった。
何時でも荘厳にそびえる大聖堂の奥。
その扉を開けるとまたもう少し古い扉が現れる。
俺はその扉を気軽に開けて中に踏み入った。
空間が変わる瞬間というのが分からない。
本当に入った瞬間に祭壇の前へと招かれている。
しかし……
いつもと雰囲気の違う空間。
いつもは奉納品を照らす多く祭壇自体が赤く熱い雰囲気を出している空間だった。
だが今日は――違う。
――広い。
コロシアムのような円筒形の空間の中心が少しだけ高くなっている空間。
客席のような段になっていたりするからコロシアムであっているのだろう。
古い煉瓦で造られた灰色の空間。
闘技場となる場所には沢山の剣が突き刺さっている。
――その全てが双剣。
「あ、あれ？ どこだここ」
映画のセットか！？
でか過ぎるよな……つか映画って無いか。
でも心当たりはある。
戦いの場、双剣……。
鑑定屋バラム爺さんが言っていた――戦女神。
「ようこそ、戦女神ラジュエラの祭壇へ――コウキ」
ガシャ……
重い鎧の軋む音が聞こえた。
俺はその音の方向に振り向く。
それは、コロシアムの中心に立っていた。
無骨な鎧を纏った戦士。
その特徴は――剣。
１、２さんよんごろく７――８本。
肩から覗く２本、腰に４本そして体の前に２本。
その２本の腕に対してあまりに多い剣。
だが、その存在がその剣全てに意味があると思わせる。
「戦女神ラジュエラ……」
「左様。はじめましてシキガミコウキ。そう構えることも無い」
「ああ……そうか俺に双剣の力を貸してくれてるっていう戦女神――」
「そうだな。キミの場合は悪戯心で無対の双剣だが」
いきなりぶっちゃけちゃった！
「気まぐれ！？ なんかのノリでやっちゃった！？」
「いいじゃないか。キミにはぴったりだ」
ポンポンっと肩を叩かれる。
人を窓際に追いやってキミにはぴったりだと嫌味を言われる平社員のキモチが分かった。
「うおおおっこの女神様滅茶苦茶だよっ！」
決して彼女的には嫌味ではないのだろうが。
「もとより戦いの女神。戦いに関しては何にでも興味を持つしやりたいことも多い。
私の力を持って戦うのだ。色々見てみたいだろ？」
「はぁ……まぁ借りてる身でどうこうは言わないけどさ……
結構強いっぽいよ？」
「そのようだな。まぁ、キミが元々聖霊クラスというのもあるのだろうが。
面白い。ノヴァと対決するのも見ものだな」
「誰さノヴァって。つか物騒な事言わないでよ」
「ノヴァは我々の加護する最強の剣士だ」
「なんで複数形！？ しかも最強かよっ！ ぜってぇ戦わないからなっ！」
「何故だ？ まぁいい。いずれノヴァから来る」
「うおおおっやめろよとめろよ！」
そんなのが来た日には俺崖から飛んででも逃げるぞ！？
そんな俺を見てラジュエラは詰まらなさそうに腕を組んで言い放つ。
「嫌だ」
「嫌だ！？ 女神様が嫌だって言った！？」
ちゃんと俺にはフルボイスで聞こえてるからなっ！
すっごいムスッとした顔だったぞ今っ！
「嫌に決まっているだろ。二人が戦うのが見れると思うだけで心躍るのだ。
恐らくその日は全戦女神が下界に舞い降りるだろう」
「全戦女神って……どのぐらいいるのさ」
「１６００だ」
「ごふっ！？ 何その軍勢！？ みんなラジュエラみたいな格好してるんだろ？」
「まぁそうだな」
想像する。
ラジュエラが１６００人。
俺とノヴァという誰かを囲んで――
こえええええええええええ！！！
「……む、失礼なことを考えてないかコウキ」
「滅相もナイっ！ ただラジュエラが１６００人居たら……」
「いたら？」
「絶景だなと」
「そんな光景想像するな」
あくまで表情は変えないラジュエラ。
しかし確実にコメカミに来ているっぽい。
「いえっさー！」
俺は全力でこの話題を回避することに決めた。
「……あれ？ なんで俺に見えるのラジュエラ」
「あぁ、本当だな」
「気付こうよ！！ 俺に今触ったよオネエさん！」
身長は俺と同じか少し高いぐらい。
鎧を纏った……目を開いていない美人のお姉さんだ。
髪は金で全身が白銀の鎧に覆われた騎士とも呼べそうな出で立ち。戦女神と言われるのも納得できる。
細い腰にゴツイベルトをしておりそこに沢山剣がぶら下がっている。
ラジュエラはどうやらわざととぼけている様で、一瞬俺を見てフッと笑って無表情に戻った。
「お姉さんとはまた随分だな。少し嬉しいぞ」
「嬉しいのかよ！ その割には随分と無表情ですけどっ！」
「何。コレは神性の性分だ。我々は誰しも表情を変えない。
いや……感情を出すのは――戦場だけだ」
ピリッとした空気が流れる。
「でも今嬉しいって言ったねオネエさん」
それはすぐに解除された。
「む……上げ足を取るなコウキ。多少の心の動きぐらいある」
「そりゃよかった。取り合えずオネエさん俺の双剣について教えて？」
「む。無対の双剣については君がプラングル初だ。
同型の双剣、大小の双剣、同銘の双剣は存在するが、
キミのような無差別に剣を持つ人間はいない。
同型とはまさに双剣として作られた左右同じ型の剣。
大小も双剣としてつくられ太刀と小太刀として振るう。
同銘は剣を打った銘主が同じだということだ。あまり性能に差が無く振るいやすい。
そしてキミが無対の双剣。
元々効率が良くないからな。
剣によって威力にも差が出てしまう。
その辺は臨機応変に対応しなくてはならない。
つまり両手の使い方が非常に難しいのだ。
だがキミはどんなものでも手に持てば剣だ。
キミは特性を理解し動かなくてはならない。
戦闘スタイルは剣を変える度に変わるだろう。
というかコウキ、お姉さんで固定する気か」
「嫌？」
「痒い。ラジュエラと呼べ」
「オネエさん」
「…………斬るぞ？」
「あーーーーっどうどう〜ラジュエラ、ラジュエラね」
「あまり巫山戯るな」
「わかったよオネエさん」
……
……
……
プスッ！
「ほぎゃああああああ！？ ちょっと刺さってますよ！？
二の腕にプスッと来ましたよ今！！？」
見えなかったけど！！
なんかそっぽ向いてるしっ！！
「煩い。あまり巫山戯るなと言っただろう」
「巫山戯てなんかないっ！ 俺は本気だっ！」
「何がだ？」
「オネエ美人だろ？ 笑うともっと美人だぞ？」
「笑う……？ 我に笑えと言うかコウキ」
「あぁ言うね。絶対笑わせてやる」
「――そうか」
ラジュエラは俺から数歩離れる。
そして、剣を取った。
赤と青の
それぞれ同じ形の洋剣だ。
模様である螺旋が左右対になっている。
「構えろコウキ。我らの至極の悦び――とくと味わえ」
「ち、ちがっそういうんじゃ――」
気付いた瞬間にはラジュエラは走り出していて、
俺が剣を引き抜いたときには目の前までやってきていた。
お互いの双剣が交差する。
キィィンッ！！
火花が散った。
――二撃目がくる！？
俺は直感だけで飛び退きながら下から振り上げられようとしていた二撃目を止めた。
彼女は構うことなくそのまま剣を振りぬく。
「うわっ……！」
とても女性の腕力とは思えない勢いでそのまま後ろに弾き飛ばされた。
５メートルほど吹き飛ばされてこけそうになりながら着地する。
踏ん張った方の左足が錆びた剣を踏み倒していた。
彼女はまた俺に走り寄ってくる。
ラジュエラは本気だ――！！
そう思った瞬間に体が動いていた。
同じくラジュエラに向かって俺は走り剣を突き出した。
ラジュエラには予想外だったのか剣でそれを防ぐ。
「――ほう」
薄く彼女は笑った。
その勢いのまま俺は２撃３撃を繰り出す。
それは彼女に容易く弾かれて――更に、俺は廻りだす。
４撃、それは右手を左から右へと凪ぐ胴の一撃。
高速で思考して最善を体が感じ取る。
５撃、６撃。それは彼女にとって予想外。体を大きく反らした俺から上下の攻撃。
その隙を見て彼女は俺の体に突きを放つ。
間一髪それを体を捻って避けて少し距離を開けると体勢を整えた。
「はははっ……！ 面白いなコウキ！ キミの動き方はおかしい」
「悪かったなっ！ 我流なんだよっ出来立てほやほやのなっ！」
「いいさ。キミはそれでいい。それでこそ我の選んだ無対の剣主だ。
コウキ――我らの悦びは戦いだ。
戦ってそのさなかで叫び、思考し、感情をぶつけろ。
キミが戦う全てが――我らの喜びだ」
彼女は剣を収めて俺に向き直る。
俺もそれに習って剣を収めた。
「それでは、キミにひとつスキルをあげよう」
スキル……技量とか手腕とかそんな意味だ。
「キミは見たことがあるだろう？ タケヒトだったか……そんな子と戦った時の話だ」
『一式！ 逆風の太刀！！』
一瞬その光景が思い浮かんだ。
タケヒトの放った逆風の太刀はヴァンの法術を真っ二つに切った。
正直、マジでカッコよかった。
「あのカッコいいやつ！？ すげぇー！」
「そこまで喜んでもらえるとは意外だな。キミは戦うのがあまり好きではなさそうだが」
「……体を動かすのは得意だよ。
モンスターを切るのは怖かったけど、やらないと俺が死んじゃうし。
守るために必要ならこの世界では仕方ないと思う。
ラジュエラが俺に戦う力を貸してくれてるならありがたく使わせてもらうし、
技をくれるって言うなら貰わないと。
俺はまだ強くなって――守らないといけないものがある」
ラジュエラの瞳は閉じられていて見ることは出来ない。
だが、その顔を俺は真剣に見た。
「――好い。好いなコウキ。姫を救うナイトにはピッタリの性格だろう。
キミの決意……確かに聞いた」
ブワッ！
今居た空間が流れて行く様に一気に消えた。
「な――！？」
『いいかコウキ。スキルとは【術式】だ』
声が空間に響く。
俺の手にはいつの間にかまた剣が握られている。
目の前には――タケヒト。
「た、タケ！？」
『それはキミの記憶だ。迷うな、彼は強い』
大太刀を横に構えて俺に襲い掛かってくる。
ドクン……！！
痛いぐらい強く巡った。
体中が――熱く、燃えるよう。
鮮明にタケの走りよる姿が見える。
――確かな殺意を湛えたタケが俺に斬りかかる。
流石に間合いが広い。
俺は横なぎの一撃を後ろに下がってかわし――間違えたことに気付いた。
……一式！ 逆風の太刀！！
両刃の刀に宿る紫電と暴風。
――コレには、このぐらい間合いをあけただけじゃ意味が無い――！！！
俺はタケヒトの間合いへと吸い寄せられる。
風を以って、風を割る――逆風の太刀！
下から、太刀が振り上げられる。
姿勢を崩した俺が剣を出した所で斬られるは必至。
何か、助かる方法は――時間が止まったように俺は迫るタケヒトの剣に魅入る。
ドクドクと体を巡る血が、訴える。
戦え、と。
！！
何だ！？
！！
……！？
！ コウキ！
確かに響いた戦女神の声。
それは、言葉であったが言葉ではない。
――そう、神言語だっただろうか。
本来なら意味が通らないその言葉に、俺の体が反応した。
タケヒトの剣に対して体を開いて両手の剣を左肩に振りかぶった。
「――！」
体のマナが剣に集まる。
感覚的にそれを感じた。
それは俺達の象徴の焔に変わって、熱く光る。
「術式：
確かな熱を持って、それは真下に振り下ろされた。
剣速では俺が上回っている。
丁度、俺の体とタケヒトの体の間で剣が触れた。
ドンッッッッ！！！
逆風が爆ぜる。
タケヒトの剣の放つ風が俺の剣の放つ熱によって熱風を撒き散らす。
火花を散らす剣と剣。
俺の二刀がタケヒトの一刀を押さえる。
「ま、け、るかあああああああああああああっ！！！」
剣をへし折ってやろうと俺は力を込めてその火花を散らす。
剣の熱は次第にタケヒトの剣を溶かして――
ギィンッ！！
青に光った剣が音を立てて折れた。
ヂリ……！
そして――紫電の軌跡を残して、タケヒトが消えた。
デジタルの世界に置いて行かれた様な残響。
真っ暗な世界がまたあのコロシアムに戻った。
「終わったな。習得だ」
満足げな顔で俺を見下ろすラジュエラ。
俺はと言うと手や足をまじまじと見ていた。
強制的に何かを焼きこまれたみたいな感覚が有る。自分の体じゃないみたいなフワフワとした感覚が体の色々な所にあった。
「は、はぁ〜〜〜っ……なんなんだ今の？」
俺は息を大きく吐いて座り込んだ。
「うむ。今のはさっきも言ったとおりキミの記憶だ。
キミの記憶にある一番強い者がスキル習得時には現れる。
そしてスキルを駆使して倒す。それが習得条件だ。
ちなみに負けると死ぬ」
「おおおおい！！！ さりげなく凄く危険なことやらすなよ！」
「先に言えばよかったか？
しかしな。現実は待ってはくれないのだぞ？
心の準備が出来ていないときに限って難敵は現れるものだ」
た、確かに飯を食おうとしたときにタケヒトは現れたけど……。
意外と的を得ているラジュエラの言葉に返すことが出来ないでいると、
彼女が少しだけ笑ったように見えた。
「それにしても死ぬって酷くない……？」
「我が殺した訳ではないからな。我々が生死干渉を許されるのは我が殺す者のみだ。
余談だがスキルはその体に焼き付けるために強いだけではなく戦って最もショックを受ける者を選ぶ。
故に身近な人間が現れるのは常だ」
ラジュエラはそう言って、腕を腰に当てると満足したかのように小さく頷く。
「まぁ気に病むなコウキ。キミはすぐに強くなる。今回はまず一つだ。
彼もこの世界に来てから剣を振り始めた。スタートは同じだ。
あとは――キミ次第だということだ」
「俺次第……」
「そうだ。自分に才能が無い場合は人一倍努力しなければならない。
また、努力するものに追いつこうとするにも努力しなければならない。
天才？ 教えられずに強い奴など居ないのだよ。
キミは――どうする？」
「はははっ選択肢が努力するしかねぇや」
でも、それが正しい選択だ。
キツキのように与えられた才能もない。しかもアイツは努力をする。
タケヒトのように一途に体を鍛えた訳でもない。アイツは練習を怠らない。
なら俺も――
勢いよく立ち上がって彼女を振り返った。
「頑張るよ俺っありがとうラジュエラっ！」
ファーナと一緒に剣を振ろう。
もし時間が余れば炎月輪を持たせてもらおう。
俺がシキガミとして出来ること。
彼女が神子としてやらなければならないこと。
俺の返事に満足げに頷くと彼女は肩から覗いていた剣を一つ抜いて高々と掲げた。
「我が加護者コウキに戦の加護あらんことを
我が二対の剣技は貴公が元に預けよう。
――それではコウキ。
また会おう」
剣が銀色に優しく光る。
その光に景色と体が消されていく。
その光のままに俺は目を閉じた……。
コッ……
足が地面につく感触。
俺はゆっくりと目を開けた。
『ようこそ神々の祭壇へ。私加護神メービィがもてなさせていただきます』
「おっす！ 結構久しぶりメービィ！」
毎日のように通っていたため日が開くと久しぶりに思える。
『はい。お久しぶりですコウキ。それでも毎日のように来てくれて私は嬉しいです』
ふふっと柔らかく笑うメービィ。
「うん。日々聞きたいことが増えるからね〜
あ、そだそだ。さっきラジュエラって言う戦女神の祭壇に招かれたんだけど
ここって連鎖するんだなっ！」
ラジュエラの祭壇から直接ここに招かれた。
俺はてっきり出直すのかと思ったのだが。
『はい。祭壇としての空間は同じですから。
戦女神が祭壇に招くのは貴方がレベルアップして次のスキルを渡す時です。
ただ例外として精霊位の貴方は、彼女らと対等である立場を持っている為に何らかの交流が有るかもしれません。
きっと、貴方が望めば応えるような方たちも居るはずです。
ですからその時は２度祭壇へ呼ばれる事になります。
私が招かない場合は連続しません』
「なるほど、なるほど？
……うーん？ 他に俺が行くかもしれない祭壇とかってあるの？」
ふとした疑問。
神子とシキガミが他にも居るってことは他の祭壇もあるってことだろ？
つぅことは招かれればそこに行くこともあるんじゃないのか。
『そうですね。貴方が神々に会いたいと思うなら何処にでも行く機会はあるでしょう。
でも、浮気はしないでくださいね？』
浮気って……
「さりげなく脅してない？」
確かにラジュエラとか美人だったけどさ。
めちゃくちゃけん制されてる気がする。
一塁を凝視するピッチャーって感じだ。
見すぎ見すぎ。恥ずかしいでしょ。
『気のせいですよ？』
きっとこの言葉も笑顔。
あぁ女の子ってわかんないよ姉ちゃん……。
「んでさー。聞きたいこと２００個あんだけどどっからいっとく？」
『そんなにあるのですか！？』
「んーじゃぁ１００分の１の２個にまけたげる」
『は、初めから２個って言ってくださいコウキ……いくらでも訊いて頂く事はいいのですが』
ファーナに似てきたなぁメービィ。
元々同じ存在だから仕方ないんだろう。
「うははは。んじゃ２つ〜！
一つは歌の強制戦闘について。
もう一つはシキガミ同士の戦いについて……。
あの歌って俺たちに戦闘を強制するためのものなんだな？」
『――……はい。最初にも言ったように貴方達は
すべてのアルマと同じように、使用者の意思に従います。
ファーネリアが歌っている間貴方は剣なのです……。
歌に勝つためには歌うしかありません。
……ファーネリアを責めないであげてください……
彼女は貴方が友人と戦っている間ずっと悩んでいました。
貴方が苦しんでいるのを見て、何度も歌いやめようとしました。
しかしそれは貴方を殺す行為です――だから……』
「責めるなんてしないよ。俺はファーナには感謝してる。
一生懸命……俺を理解しようとしてくれるし、支えようとしてくれる。
そんな子を責めるなんて俺にはできないよ」
『ありがとう御座いますコウキ……
次はシキガミ同士の戦いについてでしたか』
「うん。何で俺たちは、殺しあわなきゃいけないんだ？」
友達なのに――と声を荒げそうになるのを押さえて冷静に聞こうと祭壇を見上げた。
『そうですね――出会ってしまったのですから真実をお話します……』
この戦いに参加する神子・シキガミペアは８組。
焔、氷、紫電、疾風の自然系統の神子４人。
黄金、覇者、法則、不動の
ラグナロクとは――？
それは世界の終焉などではない。
世界の始まりでもない。
それは――神として相応しくなくなった者を、【消す】ことだ。
メービィの言っていることが嘘という訳ではない。
彼女は本当に世界に絶望し、世界に堕ちることを望んでいる。
――だからラグナロクの対象になったのだ。
他にも神にふさわしくないとされたものがその神の椅子から消える運命にある。
その中で――たった一人。
たった一人が輪廻からやり直すことが出来る。
たった――ひとりしか、救うことの出来ない――戦争だ。
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