第25話『新しい出会い!』
*コウキ
「よし……飛ぼうかっ!」
俺はカードを持ってみんなを見回す。
「はい。お願いします」
ファーナが言ってヴァンとアキが頷く。
「本当に準備はいい? 忘れ物無い? お弁当持った? おやつは20リージェまでだよ?」
「あはははっ大丈夫ですよコウキさんっ」
「コウキが一番心配ですよ」
「はっはっは! 何の〜っ! 無かったらアドリブで切り抜けるっ!」
無駄に男気を見せてみたりする。
「お弁当も?」
ふふっと悪戯に聞き返すアキ。
「たかる!!」
グッと拳を握って叫んだ。
だって腹減ったらたかる。
常套手段だ。
中学校時代はよく喜月の弁当をたかったなぁ……
そうあれは思い出すのも遠い三年前……。
「きつきぃ……腹減った……」
「そうか」
「きつきぃ……弁当無い……」
「そうか」
「きつきぃ……はーらーへーっーたー……」
「ご飯が無いならお菓子を食え」
「財布じゃなくて人生ごと余裕ない……」
「…………ふーん……」
ガタッ
俺は喜月の隣の席から離れて教室の端に移動して蹲る。
ぐぅと鳴った腹の音に、教室中の声が止まった。
「いいよ!! やるよ!! 食えよほらっ!!!」
いい加減ぶちぎれた喜月が弁当を投げて寄越す。
「わーいっさすが喜月っ!!」
「い、壱神君? コレも食べる?」
私小食だから食べきれないの〜とクラスメイトがパンを一つ分けてくれる。
「マジでっ!? ありがとうっっ!」
「いっ君これもあげるよ」
同情という看板を背負ってもう一つパンを貰う。
「ホントっ!? マジでいいのっ!?」
「これはおやつに……ね?」
「うはっマジでっっありがと……う御座います先生!」
さらに先生から飴玉を何個か。
喜月の同情を引くためにやったのだが意外な反響があった。
「……俺の弁当は返せ…………」
ほろ苦い話を思い出しながら話したところでアキに大爆笑される。
「あっははははははっっ」
「お願いですから忘れ物しないでくださいコウキ……」
呆れるファーナとお腹を押さえながら笑い続けるアキ。ヴァンはニコニコと俺達の様子を見て笑っていた。
「ははっそいつはどうかな?」
持ち物といっても俺はウェストリュックに軽く食料と薬が入っているだけだ。
服装も軽いもので、濃緑のハイネックのシャツに濃い目の赤い羽織衣をして、
剣のクロスベルトで縛っている。
アキの勧めで籠手を買って着用している。高かったー。
タケヒトとの戦闘の記憶から肩とかにも防具着込んだほうがいいのだろうが
動きの早さが売りなのであまり重いものはつけれない。
茶色っぽいズボンは幅のあるポケットの多いタイプで走り回りやすく、物が持ちやすくなった。
破けても修復しやすいタイプだ。子供にお勧め。
俺が子供って言う意味じゃないぞっ。
後ブーツが結構いいやつを買った。高かったー。くぅ。
職業的に走り回るためやっぱり足の負担は考えた方が良いとアドバイスを貰ったので
足にしっかり固定できるブーツタイプの通気の良い編みこみの靴を履いている。
……今までスニーカーでした。ええ。
そんなこんなで双剣を腰に差してうごきまわっている。
何ていうか……実際ありえないよこれ……。
今絶対ハリウッドとかで上映中だよこれ……。
「それじゃ飛びまーす! よん! さん! ……! ……!」
「何故そこで声を消すのですか?」
意味は無い。撮影ならこれだよね。うん。
テレビっぽくカウントを消して指折りでカウントダウン。
なんとなく分かっているマナをカードに流すとカードが光を持つ。
その光が俺たちを包んだと思うと――
空間が飛んだ。
「ジェレーーーーーーーーーーーイド!!!」
ハスキーな声が街中に響き皆が振り返る。
町の中心の噴水広場で叫んでいるのは黒髪の元気そうな女の子だ。
いや、もう元気満々だが。
噴水の端に寝転がる白髪の男に怒鳴りつけていた。
飄々とした風貌の男で自分を怒鳴りつける存在を面倒くさそうに見上げた。
「んあ……なんやアスカ……トイレは向こうやぞ?」
「死ねっ!! アンタやる気あんの!?」
「ないなぁ」
さも当たり前のように彼は言い放ってまた噴水の端に寝転がった。
天気がよく素晴らしい昼寝日和。
「酷くムカつくわっっ!! 死ねっ!!」
「かっかっかっ! まぁゆっくり行こうや。ゆっくりシェス…タ……ぐぅ」
「だから寝るなぁああああ!!!」
「うっさいな〜ワイの中の人がびっくりするやろ?」
「やっぱいっぺん死ねっ! 居ても虫歯菌ぐらいでしょっ!」
「けっけっけっ。なんせ悪魔の身でねぇ。
あぁ、ワイの昼寝は一日3回、朝飯後昼飯後夕飯後三十分以内開始ってきまってんねん」
「なに薬の服用時間みたいな言い方してるのよっ!
いいから起きてつ〜ぎ〜に〜い〜く〜の〜!!」
「あいだだだだっ!! 耳だけは引っ張るな!! もげる!!」
彼女は意外にもその言葉に大人しくしがたい耳が解放された彼は一瞬ホッとした。
「選ばしてあげる行く? 死ぬ?」
それも束の間、彼にとっての究極の選択が待ち構えていた。
「い……行かせていただきます……」
作戦名はいのちをだいじに、だ。
「よろしい。んじゃ行くわよジェレイド。寝てたら死なすから」
「へぇい……」
こんなんマジでシキガミかいな……むしろ死神やろ……。
と男が呟く。
「あ゛あ゛ん?」
般若の形相で彼女が振り向いた。
しまったと思ったときにはもう遅い。
ゴリッ!!
「アガッッッ!? そ、そりゃアカンて……」
しかし次の瞬間には彼の左わき腹から抉る様な爽快なアッパーの衝撃が内臓を貫いていた。
この痛さといったら泣くに泣けない、吐くに吐けない。
ただひたすら悶えることのみ許される。
「オラッいくよ」
自称悪魔は悶えたまま引きずられていった。
「ここは……?」
「山の頂上に落ちてきたな〜ここ何処?」
俺とファーナがキョロキョロと周りを見渡す。
おおっすげぇぞっ! 登山をしてないけど登山の感動!
晴れ渡った大陸が青々と広がり、遠くまで見渡せる。
「ここはトランの中部山岳地帯です。
今度はアランに帰るまでに数週間を要するでしょう」
「あーグラネダ大丈夫かな……。セインが攻めて来ない?」
「元シキガミの国王様がいらっしゃいますから大丈夫でしょう
……と、言いたい所なのですが、国王様も王妃様も神子とシキガミと言う存在では無くなっています。
兵力で劣ることはありませんが、もしもと言うことはあります」
「うわっやばくないそれ?」
「まぁセインも戦争したばかりですから。兵力や兵糧の蓄えもしなければなりません。
第一、セインの神子も旅に出るハズです」
「そう見せて攻め入るのが戦略じゃないの?」
「裏をかくことも大事です。
セインを見たところ、特に優秀な参謀がいるようではありませんでした。」
「ちなみに、ヴァンの職業は?」
「ただの財務大臣ですよ」
「うっそだぁ……」
この男絶対軍事参謀の一端を担いでたはずだ。
強いわ頭いいわカッコいいわほんと余すとこなくすげぇ……。
「で、何でもいいからとりあえず喋れよカード」
『おう! なんでぇ覚えてたのかよ!』
「なんだよっ覚えてなきゃ喋らないつもりだったのかよっ!」
『たまにはな!』
「それすっげぇ困るからやめろよっ! 今度は何するのさっ!」
今度は用件をちゃんと聞こうと単刀直入に聞く。
『なんでぇ。いつも通り簡単さぁ。
この山の頂上伝いにノアン方角に歩いていつも通り神性の宝箱の化身と戦うだけでェ』
「へぇ? ちなみにノアンってどっち?」
『右の方でぇ』
「誰から見てだよっ」
『オレッチに決まってんだろ?』
「お前どっちが表でどっちが裏だよ! 更に上下はどっちさ!
もっと分かりやすい言い方で言えよ!!」
『っはっはっは!! コウキからみ――』
淡い光を残してカードはその役目を終える。
「うおおい!!!」
なんでもいいから言ってから消えてくれ!
あれか!? 真相はWEBで調べないとダメなのか!!?
ウチにはパソコンが無かったが。
ノアンが北、ルアンが南、アランが東、トランが西らしい。
俺は日本人でした。
一時は星を見ないと方角が分からないというファーナとヴァンに焦ったが、
アキが持っていたコンパスのようなものに救われてノアン方角に歩く。
ちなみにコンパスは針が十字で綺麗に全ての方角を指し示していた。
凄くない? 磁力じゃなくて世界のマナの流れに敏感な針でそれを感知するんだと。
「そんなに見なくても……よく売っていますよこんなもの」
「いやーいざって時にスッと出せるってカッコいいよ?」
「そ、そうですか?」
えへへっと照れたように笑う。
自然とえらいえらいと頭を撫でていた。
ちなみに、アキは年上でした。
ありえん。
ダン! と大きく石を蹴飛ばす音と同時に二つの影が森から飛び出た。
明らかに何かかから逃げるように後ろを気にして、何かの影が見えた時に
「うおおおおおっ!! だから言ったやんっ! 無茶すんなド阿呆!」
「仕方ないでしょっっ!! 飛んでたんだから大丈夫だと思うじゃない!
あああもう男でしょ何とかしなさいよ!!」
全力で走りながら罵り合う二人が後ろから迫る飛行物体から逃げる。
「こんなときだけ男扱いかよっ! つかできたらやってるちゅうねん!
お前こそシキガミやろがっ何とかせいっ!!」
「第2が有効じゃないんだからどうしようも無いじゃないっ!」
「第3使うかぁ!?」
「馬鹿っ! 無意味に決まってるでしょあんなのっ!」
「うぉっ!? 今背中にニュルってきた!! ニュルって!!」
「遊ばれてるわっっ!! もうっっ死ねばいいのにーーーーっ!!!」
二人を追いかけているのは大型のグリフォン。
女性の方は双頭の矛を携えており、その舌を弾いているが男の方は徒手空拳でやられるがままだ。
何も隔てるものの無い山の頂上でひたすら逃げるために走る。
「うがあああっ! 気持ち悪いわっっ!! 新しい世界に目覚めるやろくそーーーっ!!」
「男なら新しい世界にでも何にでも目覚めて女の子を逃がしなさいよ!!」
「無茶言うなや!! シキガミやろ!? アスカ行け!!」
「死ねっ!! 最低ーーーーーっ!!!」
「
『炎月輪!!』
「術式:
アタシ達二人を避けて3つの衝撃がその後ろにぶち当たる。
青い髪の女性が鎖を手繰り寄せて自分の身を相手に引き寄せる。
アタシ達の間を、黒髪の男の子がありえない速さで走りぬけ、炎を走らせる。
圧倒される連携、そのスピード。
前衛の二人が斬りつけた後同時に距離を取ると、
丁度そのタイミングで二人の術士から放たれた炎がグリフォンを覆った。
呆気に取られてアタシ達はその光景を見る。
グリフォンは一度炎に身を焼かれるが、自ら冷気の壁を出し打ち消す。
「術式:紅蓮月!!!」
間髪いれずにグリフォンに斬りかかる少年。
刀身が真っ赤に染まると軌跡を引いてひたすらに紅い線が奔る。
不覚にも、綺麗だなと見とれていた。
ィィィイイインッッ!!!
「術式:
ギィィンッッッッ!!!
剣が光を帯びて彼女の手から放たれる。
あっと言う間だった。
さっきまでアタシ達を追いかけていた存在は突き立てられた十字架によってその役割を終えた。
「大丈夫ですか?」
銀色の髪の男性が私達に話しかけてくる。
優しく余裕のある男性の笑み。
よく見ると耳が長く、エルフの男性だということが分かった。
――メチャメチャカッコいい。
「は、はいっあの、ありがとうございますっ!」
「……えらい御背らしゅうなったなぁ。あぁ、あんがとさんです。ホンマ助かりましたわ」
「いえ、当然のことをしたまでです。お怪我は御座いませんか?」
金色の髪の可愛らしい綺麗な女性。
あ、あああっ勝てないっっ!
金銀で並んだ二人が眩しい気がして眩しいポーズをとる。
「い、いえっなんともないですっ」
「? そうですか……?」
そんなアタシを変に思ったのだろう首をかしげながらそう言って、
アタシ達の後ろに視線をやった。
「いよっ大丈夫だった?」
「みたいですよ」
「そっかっ! よかったっ!」
アタシが振り向いたときには愛らしい笑顔をした男の子がいて、少しドキッとした。
――アタシの知り合いにそっくりだったから。
でも、彼はそんなに背が高くなかったし。
まぁ、成長期だったから伸びただろうけど。
数年あってないので顔もおぼろげだ。
そんなアタシを見てジェレイドが嫌そうに鼻を鳴らした。
「フン、気の多いやっちゃ」
「ち、違うっっ」
ぐいいっとその憎い奴の耳を引っ張る。
「いだだっ」
「あ、皆さん本当にありがとう御座いましたっ!」
「いやいや。今のが俺らの目的だったからさっ気にしないで」
男の子は人懐っこい笑顔のままそういうと敵が居た場所を振り返ってもう一人の女の人を呼ぶ。
「アキーーー? あった?」
「ありましたーっ!」
遠くで手を振るのは赤茶色の髪の女性。
――……あれ? さっき青だったような……?
「それではお二人とも道中気をつけて」
銀色のエルフの人が言うとみんなで赤髪の女の人のところに歩いていく。
一瞬、睨まれたような気もした……が、気のせいかな……。
「アキーっ! それ俺にチャレンジさせて〜っ!」
男の子が走っていく。
なんとなく……なんとなく、その姿をジッと見ていた。
「どしたん? いくでアスカ――?」
「あ、うん今行くっ」
ジェレイドに呼ばれてアタシは歩き出す。
「コウキ、今度はどうでしょう?」
バッとまた彼を振り返った。
今、なんて……?
「コウキ、そんなに必死に叩き割ろうとしないでください。
今までの経験からちゃんと開きますから」
「うわあああっなんでっ何で俺には開けられないんだ〜〜っ!」
コウキ……?
もしかして、もしかすると……っ!
アタシはコウキという人に走りよって顔を見る。
「ぬぅぅぅっ……ん? どうしたの?」
「聞きたいことがあるんだけどっ!」
「何?」
此方が太陽を背にしているから、きっと眩しかったのだろう。眼を細めながらこちらを見て立ち上がった。
「もしかしてっ! 壱神くん!」
もし、あの人ならっ……!
アタシの置かれている状況と同じってことで……!
「……そうだけど……――あ」
アタシは、ついに向こうの世界との繋がりを見つけることが出来た。
驚いた顔でアタシを見る彼を見て確信した。
「アタシ! アタシは四法飛鳥<しほう あすか>っ!!
中学で一緒だったのっ! 覚えてない!?」
元々それほど弱いつながりではなかったと思うのだけれど。
それでも高校に入ってからは会っていない。
「コウキ? 此方の方は?」
物凄く綺麗なその人がアタシを見て首を傾げた。
壱神くんはくるっと彼女を向き直るとスッと手を差し出すようにアタシを紹介する。
「この人はね……我等が中学校、ナンバーワン黙っていれば美人!」
ムッと来て拳を準備する。
「デス・アスカ!」
デス・アスカとは。中学校時代に死ね死ね言っていたアタシに男子がつけたあだ名である。
こうやって彼が惜しげもなく使ってくるものだから割と慣れた。
以来、嫌味で使われても割と何とも思わない程度に慣れたため、逆に学校生活を楽しく送れて良かったのだと思う。彼には感謝すべきなのだろう。
「いっぺん死ねっ!!」
とりあえず、後頭部にゲンコツ。慣れてるとは言え知らない人の前でいきなりそういう使い方をされたくはない。
覚えているかを聞いたのだから素直に覚えているといってくれればいいのに。
相変わらずの失礼さだ。それでも――それだけ、気心の知れた仲である人物だ。
アタシはオーバーリアクションな彼に笑って、再びありがとうとめずらしく素直に口にした。
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