第32話『仲間を思う』
そういえばさ。
今まで聞きたかったけど聞くの忘れてたことが一個ある。
「アキー?」
「なんですか〜?」
アキが俺の声に反応する。
目がパッチリ大きくて、長い髪が今は括られて頭の上で大きな円を描くように括られている。
一見あまり機敏そうな印象はうけないがそうでは無い。
戦闘すれば最前線に立てるし、料理をすれば厨房に立てる。
気立ては良くて力持ちだ。
才色兼備とはこのことかと。
まぁそんなこの子の7不思議。
解いて見せましょ最初の御題はこちら。
「不思議なんだけど何で戦うときに髪の色変わるの?」
トラヴクラハ探し3日目の宿屋。
ファーナがいつものように術式を習うためにヴァンの部屋に行った。
俺も修行に行こうかな。
こう、アレだよな。パーティーの誰かが努力してる姿を見ると、
負けられないって言う気持ちに駆られるよな。
主人公だけレベルが高くなるゲームって頑張って平均的にしようとするし。
まぁソレはいいんだけど。
今は酒場のカウンター席の端っこでチビチビとジュースを飲んでいた。
アキも一緒でお風呂上りの水分を取っている。
今は赤茶のキラキラした艶のいい髪をしている彼女は、
一度剣を振るうと真っ青な髪を揺らして戦う。
何でさ。
金色になって逆立てとは言わないけどさ。
別に変わらなくてもいいじゃん?
「あ、
……なんだそれ?
「あるかむ……?」
アキがピッと人差し指を上げて得意げに胸を張る。
「アルカヌム・ウェリタって言うんです。
クラスが上がって上位になると起きるみたいです。
加護を受けて肉体が神クラスに近づくと、
肉体が対応するために変化を起こすんです。
コウキさんは、常にその状態にあるんだと思いますけど」
ふむ……え?
「あ、そうなの?」
実は髪の色変わってるとか? いや、ばっちり毎日黒だけど。
「コウキさんは生まれた者ではなくて作られた者ですから。
クラス的にも肉体はすでに影響を受けている状態としているはずです」
ヴァンのお株を奪っていくアキ。
ウンチク王の座が危ないぞ。
「へー。なるほどね。でもその変化って意味あるの?」
「ありますよ〜。神格化していく精神に体がついていけないと
すぐにボロボロになっちゃって動けなくなります。
人間の体では出来ない動きや、行使できない術式を預かることになりますから」
すげぇな。
なんて言うか真面目な理由があったことにビックリだ。
「……でも、あまりあの状態で長くはいれないんです。
戦闘置きに何度か戻るのならいいんですけど、
――
つまり、危険なのか。
「それって、どのぐらいの時間?」
「半日もずっとその状態で居れば天意裁判が訪れると言われています。
わたしも戦闘は長くても3時間以内に片付けろと育てられました。
父は……
――目撃されたのは別人かもしれない。
ジャッジにのまれて、生きた人はあまりにも少なすぎる。
多くの場合は肉体が保てず”人”としての生活はそこで終わるのだという。
そこからは――”神”として、恒久の時を過すことになる。
アキは申し訳なさそうに笑うと飲み物を飲み干して、部屋に戻った。
オヤスミ、と見送る。
――あぁ、意外と簡単に解決しちゃったな……青髪……。
そんなことを思いながら俺も飲み物を飲み干して、宿の外へと出た。
神様……かぁ。
現実、近すぎる存在になったよな。
戦女神に限っては、俺見えちゃうし。
宿屋の裏にある開けた場所で一人剣を振る。
さすがに郊外に行くと今度こそファーナに怒られるだろう。
こんな時、自分の引きの強さに呆れてしまう。
この街は教会はあるけど聖域はなかったしなぁ……。
「ふっ……! ふぅ…………ラジュエラー相手してよぅ」
空を見上げてお母さんに構って欲しい子供みたいな事を言ってみる。
さすがにそこまで都合のいいことは起きないか。
ふぅっと溜息をついてもう一度剣を構えた。
――ラジュエラが言っていた。
一人で修行を積むときは必ず相手の姿を想像すること。
無駄な剣は振らないこと。
俺の場合、型よりは素振りや基礎特訓で自力を上げて直感で動けるようになった方がいいと。
うん。どうせなら実戦がいいよなぁ。
体の奥底から余計なお邪魔虫が出てくる。
チョット出てくるだけだよ〜?
とツンツン俺を後押しする。
やめてくれ。ファーナが泣くだろ。
それだけは――見たくない。
――やることが決まった。
ちゃんと基礎練しよう……。
俺は気を取り直して剣を構える。
――真剣に、目の前の空想の相手と向き合う。
ラジュエラは強かった。
いや、強すぎた。
縦横無尽の剣筋、剣だけじゃない。
足や、体全てを使っての攻撃。
体の軸を上手く移動させて、軸を基準に力を上乗せした激しい剣さばき。
多分十分持ったかどうかも怪しい。
気付いたら体は傷だらけで、最後の一撃を叩き込まれたと思ったら、メービィの祭壇で目を覚ます。
もうそれが何度あったか……。
心折れそうなほど弱い俺――。
でも……強くなるためには――。
だったら……!
何だってやってやるっ!
目の前に浮かぶラジュエラの剣閃。
ソレを辿るように剣を振るう。
――コウキは知らない。
ソレが戦う者誰もが羨む才能だということを――。
誰も見ていないその場所で、最強の剣の模倣が踊られる――。
この剣が神に届けとは言わない。
せめて――……手の届く人を守る力が欲しいんだ……!
「――彼は、特殊なのですね……」
「あぁ。無対だからな」
月を背に、二人の戦女神が降臨する。
その壮絶に美しい姿はその月すら霞む。
――双剣の戦女神ラジュエラ。
その双剣は5対存在し、確認できるのは4対。
5対目は彼女を伝説とならしめるその武器となる。
背中の中程できられた金の髪が風に流れ、月の光に透ける。
対して、大剣の戦女神オルドヴァイユ。
剣は唯一背中にある明らかに大きな大剣一つ。
誰もがその剣が引き抜かれたときに慄き、死ぬ覚悟を決めるという。
藍色の腰まで届く長い髪が月の光に当たり紫に輝く。
「だから貴女が……しかしあの子は本当は……」
「いや――コウキ自体は我のものだ。
問題は
呟いて顎に手を当てるラジュエラ。
「やはり切り離すのですか?」
「ふむ。今のままでも十分面白いのだがな。
『プラングル』にたどり着くまでには仕上げてやるさ」
オルドヴァイユは同じく視線を下界にして彼の者を見た。
確かに逸材。
ましてやラジュエラが選んだのだ。
間違いがあるわけが無いだろう。
ただ――タケヒトや、他のシキガミとは彼は違う。
「――メービィと言いましたか……癖のある子を拾ってきたものですね」
「ふむ――だがな、メービィでなくともあの子は選ばれた」
運命と呼ぶのだろうか。
その言葉は戦女神を持ってしても容易に使うことは出来ない。
二人の間にそれ以上の言葉は無く、しばらく風に髪をなびかせる。
――一陣の強い風と共にその姿を消した。
――宿に戻るとファーナが入り口の前に立っていた。
「いよ。お疲れ様ファーナ。ただいま〜」
出迎えてもらって
「おかえりなさいコウキ。少しお話したいことがあるのですが」
そう言って彼女は袋からカードを取り出す。
――俺達が移動に使っているカード。
次の試練へと移動できる。
江戸っ子なカードだ。
「これが?」
「はい。先ほど荷物の整理の為に取り出していたのですが……
あ、こちらに来てもらえますか?」
ファーナは俺の手を引くと入り口から建物の横へと回りこむ。
月の光を背にして俺を振り返った。
髪の毛が大きな月の光に反射して綺麗に光る。
「コレを見てください」
――
言われてハッとそのカードに視線を移す。
「ん、あぁ……あれ? カードが透けてる?」
ガラスの様に透明になり光を透かすカード。
青い色の枠を描き、その中心に赤で双剣のシンボルとその下に見たことの無い文字。
そのカードは模様が描き込まれており、月の光に反応して神秘的な綺麗さで光っていた。
「このカード分かりますか?」
「…………俺の名前じゃね?」
それと小箱を開けたときに見た3という数字。
知らないはずの文字……だが意味が分かる。
なんだろう……直接脳に働きかけてくるような……。
「はい。ヴァンツェが言うにはコレは神言語のようです。
見るだけで意図が伝わってくる……真理に通じた文字らしいです」
何となくじっと見て居たくなる模様のような綺麗さの文字を二人で覗き込む。
気付けば顔が触れそうなほど寄り添ってそのカードを見ていた。
「うあっごめん!」
反射的に二人で離れる。
修行の直後みたいに心臓がバクバクいってる。
「い、いえっ! その、綺麗ですよねっこれ」
「うん。だてに男前じゃないよねそのカード」
それは関係ないと思うのですが……と笑うファーナ。
「はははっ! まぁ意味の方はメービィに聞いといてよ」
「そうですねっ」
あははは〜と二人で笑う。
「――どうしてあの二人はこうも進歩が無いのでしょう……」
「まぁずっと一緒ですし焦らず行ってもいいと思いますけど」
ヴァンツェとアキは二人を窓から覗き込んで事の進展を見つめる。
どう頑張っても友達以上恋人未満なもどかしい二人。
頑張っているのはファーネリアだけだが。
「ファーナはもう自覚してるよね。コウキさんは……何も考えてなさそうですね……」
「コウキは恋愛にはトコトン疎そうですからね。私的に非常に楽しいです」
その言葉にアキが確かにと笑って小声でファーナにエールを送る。
「しかし……そろそろコウキにも少しぐらい意識してもらいましょうか」
そう言ってヴァンツェは術式を走らせる。
『収束:50 ライン:右手の甲詠唱展開
術式:
「それでは部屋に――きゃ!?」
「ぬわっ!?」
ファーナがこけて抱き合う形になる二人。
「……ヴァンさん……もしかしてそれだけの為に詠唱術式を……?」
作っちゃったのだろうかこの男。
「ははは。これはこれで色々使えますよ。
主にはマナが少なくなった時に逃走するときなどですね。
――まぁコレは国王様の恋愛補助用に作ったのですが」
仕様用途はいつだって同じだった。
顔を赤くして笑いあう二人を見て二人は満足げに微笑む。
いつだってあの二人はそのままで――。
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