第35話『足跡の消失』

俺達はアキの親父さんを探して、金色の鎧を着た男性を追いかけている。
目撃情報的にはアタリっぽい。
更にいらないことにノヴァまで目撃してしまって一目散に逃げた。
あははは。顔も覚えてねぇや。
ともあれ、クランクスに行かなきゃ始まらない。
つか、さっきクランクスこっちとか言ってたよなぁ……やだなぁ……。
そんなことを考えつつ歩いてクランクスを目指す。


「あの……本当にありがとう御座いますっ」
会話の途中、アキがペコリと頭を下げる。
父親が見つかるといいな的な話をすると必ずこうなる。
大したこと無いって言ってるのに……。
「んにゃ? 俺のおかげって訳じゃないから皆に言ってあげてよ」
「はいっ……! ありがとう御座いますっ
 でも……コウキさんって基本がずるくないですか?」
俺を見て頬を膨らませるアキ。
「そう?」
「確かにずるいですねコウキ」
ファーナはくすくすと笑いながら同意する
「確かにセコイですねコウキ」
ヴァンはクスクスと蔑みながら俺を見る。
「ヴァン! 何かそれ違う! 何か違う! 否定でき無いけどさ!」
「何が違うのでしょう? ずるいもせこいも同じ意味を含みますよ」
ワザと知らない風味に手を上げる。
「いや! 今の明らかに俺を馬鹿にしたろぅ!?」
こう、言葉の上で玩ばれている気がするっ!
「ははは。さ、行きましょう」
「イジメいくない〜っ!」






「そういえばコウキ?」
「虐める気か!?」
バッと戦闘態勢を整える。
耳を塞ぐだけだが。
「ち、違いますっ私はそのようなことは致しませんっ」
「素直になれない愛情の裏返しですね?」
ファーナの後ろでポツリと言うヴァン。
「だ、だからっ!」
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ? コウキさんは全部受け止めてくれるよ」
慈しみというか可哀想な目でアキが俺とファーナを見た気がした。
「違います! コウキに聞きたいことがあるだけで何故ここまで発展するのですか!?」
ファーナが耐えかねてか多少声を荒げた。
最近ファーナが良く怒ったり拗ねたりするのは、俺達に心を許してきているからだろうか。
「あはははっ怒んないでよ〜っほら、コウキさんっここで慰めてあげないと!」
「怒りの矛先が俺に向くだけじゃん……んで俺に聞きたいことって?」
「……もういいですっ大したことではないですからっ」
あ、ほら拗ねた。
「拗ねんなよ〜うりうり」
膨れた頬っぺたをつつく。
マジファーナの拗ね方って可愛いと思う。
「あっやめっやめてください〜」
「仲睦まじいことで」
冒険の道中、爽やかな笑い声がモンスターの沸き立つ森の中に響く。
いやぁまぁ……こっちじゃ普通なんだよねぇ……。

















「あ、敵!」
俺は感覚内に入った敵を察知して叫ぶ。
大分察知と言う作業に慣れてきて前衛を正式に任されている。

ザザッと全員が一気に陣形に広がる。
道が広いので俺が右、俺の後ろにファーナ、アキが左、その後ろのヴァンとなっている。
全員が広がったと同時に、目の前にモンスターたちが現れた。

「はっ! 数はそんなにいないなっ!」
8体。一人2体計算するとそんなにいないだろ?
最近二桁が普通だったのでなんとも感覚がおかしいのかもしれないが。

俺は東方の剣と地精宿る剣を抜いて構える。同じくアキが青眼のツルギを抜いた。

――最近の流行は省エネ戦闘。どれだけエネルギーを省くかを競い合っている。


いかにアルマを使わずに戦うかというところだ。
ただ使わないと成長しないので必ずそれが正しいとはいえない。
ヴァンがいままで俺達を止めなかった理由はそれだ。
この前の夜襲われてからその忠告を受けた。

「アキ! そっちの狼から! 俺は蜘蛛から順に叩くっ!」
「はいっっ!!」
走りながらそう伝えると俺達は敵陣へと突っ込む。

「収束:50 ライン:喉の詠唱展開
 術式:諷の言霊ストラレイファン!」

フワッとほぼノーディレイで放たれた法術は真っ直ぐコウキに向かって飛ぶ。
「うお!? 体が軽い! アキ! 一回下がって!」
「はい!」
アキがバックステップで俺の範囲以内から居なくなったことを確認して俺は両手の剣を低く構えた。
敵の目は全員俺に向いている。
もっとだ。もっと近寄れっ!

……――今だっ!

「――術式:炎陣旋斬えんじんせんざん!!」

――ヒュッ!

一転目は両手を広げた剣先までが剣の攻撃の最大距離。

ヒュンッ!

回転の二転目は剣から刀身の半分を足した分が攻撃領域。

シュウッッ!

回転の三週目は剣の2倍までが攻撃領域。
そして最後の一撃の為に両足を踏ん張って上半身の回転を止めると、
反動を使って思いっきり逆回転を繰り出す。

――ッボゥ!!

その四撃目は――焔が敵を追いかけるその範囲、およそ剣の距離の3倍が攻撃範囲となる。

これがラジュエラから授かった第二の剣技――炎陣旋斬。
どうしても1対多になることが多い戦闘で一気に蹴散らすための剣技。
エンジンゼンカイでは無いぞ? エンジンセンザンだぞ?
炎だけだと威力が弱いので倒しきれないことが多いが、そこはすかさずアキが戻って殲滅してくれる。

「――術式:残光の抱擁アトゥワン・パンラ!」

ダンッ……!

ヴァンの術式の加護を受け、高く飛び上がった後ピタリと空に停止する。
「――幾多の罪を赦し賜えジャド・ジュレーヴ!」


ジャラララッッ!!!

鎖が大きく鳴り十字架剣が彼女の手に現れた。
彼女は大きく振りかぶってそれを投げる。

ズゴンッッ!! ジャララッ!! ズドンッ!!

モンスターに刺さって更に勢い良く引き抜くと2撃、3撃と続ける。
巨大な十字架の雨――あっと言うまに全ての敵は消滅した。







「毎回思うんだけど……」
うーんと腕を組む。
「はい?」
ブルーだった髪の色が引いていき赤茶に消える。
「アキって激しいよな……」
「そ、そうですか?」
だって絶対性格変わってる。
こう、行き過ぎたら高笑いする感じで。

「コウキ……」
「ん? あ、ファーナっさっきはあんがとすげぇよ今の。効き目ばっちり」
ファーナの手を掴んでブンブン振ってみる。
「は、はいっありがとうございます」
困った風な顔をしたあと嬉しそうに笑った。
「でもあれはいきなり使われるとびびるなぁ今度から一声頂戴?」
「はい。わかりました。それで……疑問、なのですが」
「ん?」

「コウキはラジュエラと何をやっているのでしょう?」
不安そうな表情で俺を見上げる。
「ラジュエラと俺が? 修行つけてもらってるけど?」
あーそいや大体俺が入って帰るまでに皆先に帰ってるけど、そういうのやら無いのかな。
他の人より喋ってる時間とか、そういう時間があるから長いんだろうな。

「修行!? 戦女神にですか!?」

アキが口に手を当てて驚く。
「へ? あ、うん。だって見えるじゃん?」
喋れる剣も当たる。
しかも相当に強い。それなら戦うしかないじゃないか。
「普通見えませんよっ!」
「え!? なんで!?」
今度は俺が驚く。
だってラジュエラは見える。
メービィは一向に見えないのだが。

「――なるほど……それで最近怪しいほど強くなっていたのですね……」
納得と言うようにファーナはコウキから目を離さず頷く。
「怪しいって……俺別に大した事してないって」
何となく悪いことをしているような気がしてきて頬を掻く。
べ、別に悪くないよね? 使えるものは使えと先生に習ったんだ。
「仮にも神と呼ばれる存在と対峙する事は『大した事してない』では済まないですよ……」
はぁ、とヴァンにも溜息を吐かれた。
「そ、そうか……うん。ごめん」

そんな俺を見て三人は視線を合わせる。
「……やっぱりですよ?」
二人にアキが言うと全くと言う風に頷く。
「ですね」
「コウキ、貴方は……」

『ずるい』


もーどうしろってんだよー……。

















クランクスについた俺達は早速宿屋を取った。

俺達が宿を取ったのは3番街の端。
クランクスはあまり大きくは無いとは言え1から4番街まで存在する。
今までの特徴的にトラヴクラハと思われる金色の鎧を着た人は、
1番街か2番街に宿を取っていた。
一度3番街にも取っていたので一概にそうとも言い切れないが――
しかし、確率は高い。

「いいですか? いつも通り宿が拠点です。
 コウキがリージェ様と。私とアキは一人で回ります。
 一番街をアキさん、二番街をコウキとリージェ様。後は私が回ります。
 一通り収集が終わったら此処に戻ってきてください。いいですね?」

「はいっ」
ヴァンの説明をもどかしそうに待つアキ。一刻も早く探しに行きたいようだ。
その様子を分かっているようでヴァンも早口に言葉を紡いだ。
「それでは朗報を期待してます――解散」
「うっし! いこうぜファーナっ!」
「はいっ」


一斉に宿屋の前からそれぞれ1番街、2番街、3番街への道へと走り出した。
最後の情報戦――それに、もしかしたら本人を見つけることが出来るかもしれない。
全員でコレが最後になることを祈って――。




*アキ




わたしは1番街につくとまずは露天から回っていくことにした。
目撃証言を得られればそれが一番速い。
――と、コウキさんに気付かされた。
確かに父の格好は目立つので目に留まりやすい。
普通は宿屋の名簿を見てもらったりして確認するものだけど――。
どうやらお父さんは偽名を使っているらしい。
宿屋で確認した名前は父の名ではなかった。
もちろんもしかしたら違うかもしれない。
でも、わたしは殆ど疑っていない。

コウキさんが間違っていたことはわたしが知る限りでは、無い。

今わたしは父親を探して――走っている。




*コウキ




「ファーナ、あの武器屋お願い。そのあと順に露天回っていって欲しい。
 俺あっちの酒場みてくるっ」
小走りに走りながら俺達は2番街へとやってきた。
大体の町の特徴としては1番街が一番大きく2番街が次に大きい。
だが、商業用として一番栄えるのは大体2番街だ。
よって店が多く情報も多い。
酒場に聞きに入るよりは、今は見るだけでいい。
もしかしたら居るかもしれないし。
「はい。分かりました。コウキもお気をつけて」
「おう! んじゃっ!」
まぁ大きいからといって圧倒されている場合でもない。
パパッと二手に分かれて俺達は情報収集を始めた――。







*ヴァンツェ







――ふぅ、さて。
眼鏡を直して街を見回した。
ここに居ることはまず無いだろうが、目撃証言は得られるだろう。
何しろ金色の甲冑。
あれは趣味と言うわけでも無いが恥ずかしげもなく着て歩けるのはあいつだけだろうとも思う。
銀や銅の色をした甲冑はよく居る。金は稀だ。
普通の冒険者として着て回るには目立ちすぎるし重過ぎる。
……まぁ、それでもアレは何もきていないのと同じような動きをする化け物だ。
――懐かしい。少し、昔を思い出す。
奴がグラネダに来たときのことを。

――グラネダは、今の半分にも満たない小さな国だった。


それでも一国の王女として――神子として背伸びをしていたアルフィリア。
シキガミとしての自覚無しで……それでも信念だけは貫いたウィンド。
彼等が丁度王と王妃として就任したとき――二人を狙って、大軍が差し向けられ戦った。
シキガミとしての力を失い、記憶の無かったウィンドとアルフィリアを守って戦ったのが――トラヴクラハ。
当時軍の指揮を執っていた私には有り難い存在だった。
彼が将軍として居ることにより士気も上がり戦力も格段に向上した。
それにより――不利だったあの戦いを勝利し、急激に国は大きくなった。
ウィンドは捕虜や奴隷は取らなかった。
まぁ、お陰で財政が大変だったが――本当にアイツは人を集めるのが得意だった。
ウィンドの人柄に惹かれて、沢山の人が集まった。
今や有数の大国家として名乗りを上げている。


私達が戦って守った国。
それがグラネダ。


彼は報酬として辺境に小さな家を求めた。
珍しくただそれだけ。
娘と共に暮らすのだと彼はそれだけ言って城にはもう訪れなかった。
私も彼に会いに行けるような暇もなく――今日まで。

旧友を探して歩く。
さて――見つけたら、多少きつい灸でもそえてやりますか。























*コウキ














日が暮れる頃に皆が宿屋へと戻ってきた。
最後に戻ってきたのはアキ。
「――どうだった?」
「いえ……わたしには見つけることが出来ませんでした」
それを聞いて自分達の結果を言うことを躊躇われたが、正直に言う。
「そっか……ごめん。俺達にも見つけれなかったよ……
 折角何日もかけて追いついたのになぁ……」
「……そうですか」
本当に残念そうに俯いた。
「ふむ……ここにきにて無収穫ですか……」
はぁ……と全員で溜息をつく。
アキがテーブルに座るとウェイトレスさんが注文を聞きにきたのでついでに全員分のご飯を頼む。
「お父さん探しもここで難航かぁ……」
コウキがイスに背を預けながら言う。
「仕方無いですよ。もしかしたら素通りしたかもしれませんし……」
――確かにその可能性もある。
追いかけられていることに気付いて巻かれたという事だってあるのだ。
普通はそうするらしいし……。
そんなことを考えながらおのおのテーブルに視線を向けて意気消沈する。
なんとかしないとな――と、考えていたときだった。


「なぁ皆さん! 俺は感動した! 泣かせるじゃん? 父を尋ねて何千里!?」


――そいつはいきなり現れた。


「え?」

アキが振り返る。
そこには腕を組んで短髪の男が立っていた。
頬には三本と縦に一本の切り傷のようなものがあり強面だが――
「……おい、何泣いてんだよ」
「泣いてねぇよ! 心にキてんだよ! ねぇお嬢さん!?」

ぶわっと涙が溢れていた。
っていうか何処の話を聞いてどう感動したらそうなるんだ……?
全員突然の事態に唖然と彼等を見る。
――どこかで……?
「おいおい……もーワシゃ知らんからな」

ふぅっと溜息をつく真っ赤な髪をした男。

「わりぃ……野郎の涙は見ぐるしぃな。
 俺はエルって者だ。ちょっと隣の席に居たために話が聞こえちまった。
 親父さん探し、手伝ってやるぜ!」

――……熱い。誰だアンタ。いや、エルとか名乗ったけど。
短髪の男はグッと親指を突き出してキランッと歯を光らせた。
「いや、あの……あまり他の人に迷惑をかけるわけにはいかないので遠慮します……」
丁寧に断るアキ。
何となく振られてるみたいで悲しい。

「何、別に金とろうって訳じゃない。迷惑じゃなくて俺が手伝いたいんだ」

キラァァッ! っと歯がさっきの二倍増しで光った気がした――。
あまりの眩しさに皆目を背ける。
――……熱い。
いい人だ。


「あの……わたしたちだけで大丈夫ですので……ほんとお気持ちだけで十分です」
アキが引いている。
やっぱり何か振られてる見たいでかわいそうだ。
実際そうなんだけど。


「むぅ……そうか。あまり無理を言うのも悪いな。大人しく身を引こう」

やっぱりいい人だ。
「――あの……」
俺は口を開く。
「ん?」
「トラヴクラハって人、知らないすか? 金色の鎧の――竜士団の人だったんだけど……」
この街で聞いていて知っているとも思えないが――とりあえず聞いてみた。
エルはしばらく俺をジーっと見て止まるとゆっくりと指を差して。

「ま、じ、で?」

酷く驚いた顔で俺に言った。
「まじで」
とりあえず頷く。




「――……俺知ってる……その人の今居る場所……」

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