第40話『再会の塔!』


「ママー! アレ見て!」
「まぁ……? 何かしら」
「あ! 人だよ!」
「空から……!?」
「すごーーい! ゆっくり落ちてるー! 魔法使いかなぁ?

 あ、早くおちた!!」














ドォォォッッ……!!
























「び、びっくりしたぁぁーー!」
その声と共に土煙が晴れていく。
そんな風情のある情景の中、俺は二人を両脇に抱えた状態でその中心に降り立っていた。
ある意味男らしいぞ今。
もし道端にそんな奴を見つけたら空気のように無視したいね。

イチガミコウキ今日も元気です。

ヴァンツェ・クライオンっていう万能術士と別れて、3人で旅を始めた。
ファーネリア・リージェ・マグナスは俺の神子にして王女。
普通ならヒィって身を引くぐらい身分が高い。
その高貴さって言うのは容姿にこれでもかってぐらい反映されていて、
金色の髪に透き通るような白い肌、それに魅入るほど綺麗な真紅の目をしている。
歳は俺よりひとつ下。
格好こそ首もとの見える術士服に外套を着ているという冒険者スタイルなのだが、
いやぁ美人って服選ばないんだねホントってぐらい似合っちゃう。
と、まぁ最近再認識した所でこんな所かな。
今度から微妙にマイルドな態度で接しようと思う。

そして今や彼女の親友アキ・リーテライヌ。
この子もまた凄いんだ。
竜神加護者の子で生まれながらの第4位クラスの加護能力を持つ。
ぱっと見は俺と同じぐらい。でも二つ上のお姉さん。
身長も俺より低くて丁寧と言うか人懐っこい喋り方をするため
あんまりそういう歳の上下が気にならない。
目が大きくてニコ〜っと笑うのが絶えず人を和ませる。つまり可愛い。




「も、申し訳ありません、まだ長時間は使えないようです……」
ファーナが途中までの術を行使していたのだが効力が切れてこの状態だ。
俺内蔵の衝撃緩衝を使えば確かに大丈夫ではあるのだが心臓に悪い。
今は全員で恐怖に打ち震えている。
早速ヴァンのありがたさが身に沁みた――。
「あ、ありがとう御座いますコウキさん」
「いや……さ、さりげなく凄いヴァンの存在を再確認したよ……。
 ま、次までに距離を測って使える様になるかもうチョット長く使えるようにならないとな!」
ヴァンは何食わぬ顔で全員を浮遊させ着地させて見せたが――……
それはやっぱり術士として彼が優秀である証拠だ。
まぁ、命名を受けた彼に優秀と言う言葉は軽すぎるのだが。
「は、はいっ頑張りますっ!」
プルプルと拳を震わせてファーナが決意表明。
怖かったらしい。
目の端に見える涙は見なかったことにして置いてあげよう。









『今回はこのジャングルのトラン方面に見える塔に小箱がある』
カードを囲んで皆で見る。
淡い光を湛えていて俺達にこれから目指す場所を教えてくれる。
それだけの目的のために作られたカードが喋る時間は少ないのどうしても手短になるみたいだ。
「塔……? あ、見えるな」
「小箱は塔の頂上なのでしょうか?」
『あぁ。だが今回――……いや、野暮なことはいわねぇ。いつも通り頑張ってこいや』
何かを言うのをやめていつも通り気前良く送り出すカード。
「なんだよ。気になるじゃん」
『……今回で4つじゃねぇか。4つごとに少し嫌な事が起きやがる。気をつけな』
「嫌なこと……? っていうか全部で小箱何個あるの?」
今まではあんまり気にはしなかったが当然の質問だ。
いくつ――あと、何度落下すればいいのか……。

『箱は全部で20だ』

「にじゅう〜〜〜!?」
くらっとくる。
あと16回もスカイダイビングするんすか……。
コメカミを押さえる俺を無視してカードは言葉を続ける。
『それと……嫌な事ってのは俺にもわかんねぇんだ。
 それは例えば敵が二倍になることかもしれねぇし、誰かが戦えなくなることかもしれねぇ。
 最悪は想像するなよ? 今のオマエラじゃそんなもの想像しきれねぇ。
 まぁ準備は怠るな。俺から言えんのはそれだけでぇ』
それだけって……
まぁ分かるだけの情報をくれたのに悪いことは言えない。
カードは光を失って元に戻った。
次は小箱を開けるまで、か。
「うっし。分かった。ヴァンも居ないし引き締めて頑張ろうなっ!」
「はいっ」
「では参りましょう」

そしてこのパーティーになって初めての冒険が幕を開けた。















ちなみに、状況は森の中で――迷子だ。





辛うじて分かる”塔”という目印に対して真っ直ぐ突き進んでいる。
ヴァンが居ないので何処の何の建物なのか全然分からない。
ヴァンは分かる所は風景だけで分かっちゃう。
あぁ……俺達は偉大な文明を失った。
でも、前向きに考えれば自分達で知っていくっていうチャンスだ。
ってかそうしろっていってたもんなヴァンも。

「あの塔って何なんだろうな……?」

塔って言われると3種類ぐらい思いつくと思う。
まず白いきょと……灯台みたいな真っ直ぐ寸胴な建物。
あとは上に行くにつれて細くなる建物。
最後はゲームに出てくるイレギュラーな形をした建物とかだ。
基本的に高ければ塔だしな。
俺達が目指しているのは例に漏れず白い巨塔だ。
「さぁ……。廃屋の天体観測施設でしょうか?」
「天体……天文学術施設ですか」
「あ、あくまで可能性の話ですけど。
 そういう施設は木より高いことが望まれますから、可能性は高いと思いますけど」
「ちっちっ! 甘いなアキっ。
 天体観測施設ってそれを見越して山に作るもんだよ。
 より空に近い場所にってね」
言ったように此処は森。
山はすぐ傍に見えるがそこに建造物がある様子も無い。
「そうなんですか〜……じゃぁ、アレは何でしょうね?」
だよなぁ……。
グルグルと巡る会話を止め処なく話しているうちに目的の塔は目の前へ到着していた。



「でっけー!」
「大きいですね!」
アキと二人で感心しながら見上げる。
「……感想はそれだけなのですか?」
ファーナはこういう大きさの建物は見慣れているらしく俺達を生暖かい目で見ていた。
「失敬なっ田舎モンだからって馬鹿にするでねぇっ!」
田舎の頑固オヤジ風に渋くきめる。
イマイチ分かってもらってないみたいだが。
「そーだそーだ〜」
珍しくアキが俺に乗ってファーナを弄るとファーナが俺達を見比べて焦り始めた。
「え、あっあの、私は馬鹿にしたわけではありませんがっ」
真面目に焦ってる辺りこの手の冗談は通じナイっぽい。
俺とアキは目を合わせて苦笑いするとアキがペターっとファーナに抱きついていった。
そこらへんは良くわかんない女の子の基準だ。


塔は石レンガ造りの趣のある建物だ。
螺旋状に溝が入っており窓がいくつか見える。
正面の門までに何本か柱も立っていて石の間から草が生えていたりして手入れされていないことが分かる。

「随分と古いようですね〜」
アキが塔の上を見上げながら言う。
確かにその塔の周りには植物のツルが巻きつきかなり上へと伸びている。
「とりあえず塔の周り見てみよっか」
「そうですね」
意外と慎重になって行動を始めた。


そしてグルッと塔の周りを見て何もないことを確認したそのときだ。










「うおおおおおおおおおおっっ!!」
「きゃーーーーきゃーーーーーっ!!
 何とかしなさいよアンタ! 男でしょーーっ!!?」
森に良く響くハスキーな声が響く。
「お前が何とかしろやシキガミやろーーーっ!!
 つかお前が連れてきたんやろがーーーーっ!!!」
それと特徴的な訛りのある喋り方。

「つれて来たんじゃなーーいーーっ! 付いてきたのーーっ!」

叫び声と土煙が前方から近づいてくる。
なんだろう。この言い訳聞いたことあるきがするなぁ……。

「…………何やら元来た方角が騒がしいですね」
「聞いたことある声ですね〜……」






「あーーーもーーーっっ!! 死ねばいいのにーーーーっ!!!」








「あっやっぱ四法さんだ」
「アスカですね……」
「アスカさんだ〜」
全員が同時に言ってそれぞれ顔を合わせる。
オマケのように思い出されるジェレイドを不憫に思わなくも無い。
「……やっぱり?」
俺は二人に笑いかける。
すると二人で一度目を合わせて俺を振り返った。
「だってあの声と」
「あのセリフは彼女のものですから」
アキのセリフをファーナが次ぐ。
言うことは分かりきっていたのだろう。
満場一致を確認してとりあえず頷く。
「行く……?」
「行きますか?」
「……行って差し上げましょう……」












……
……
……

「いや、この度はまたお世話様です。ホントすんません」
ペコリとお辞儀するのは白髪と褐色の肌が特徴のジェレイド。
顔を上げるとなはは〜と頭を掻いて能天気そうに笑う。
「ホンマ助かったわぁ。このアホま〜たやりおってなぁ」
「アホじゃないっ! あたしのせいにしないでよ! 死ね!」
変わらない二人を見ると和む。

「な、何? あたしの顔なんかおかしい?」
「何ゆうてんの。いっつも可笑しいがな」
クスッと口に手をあてて笑うその姿に真っ赤になって四法さんは怒る。
「うっさい! あんたは死ね!」

「あれ? ヴァンツェのお兄さんはおらへんのか?

その四法さんを軽く無視して辺りを見回す。
そのあと思いっきり足を踏まれて悶えていた。
「ヴァンは修行に出たんだ。今は俺達だけ」
「そうなんだ。順調?」
色々ね?
ファーナに視線をやっていたがファーナはその視線を凄い勢いで避けた。
「うん。もうなんで移動してすぐに落下するのか理由が知りたくなってきたぐらいさ」
「あ、それ聞いた! あたし知ってる!」
はいはーいっと手を上げて自慢げに胸を張ると指を立てて説明を始めてくれた。

「なんでも第3位クラス以上の所在って言うのはこの”世界の外側”って言う定義になるらしいの。
 モチロン、あたし達見たいな例外もいっぱいあるみたいなんだけど。
 で、その世界の外側が、最大限に内側に作用しようとするときにあの距離になるんだって!
 ……だよね?」

とジェレイドに視線をやる。
なんだか小学生が答えを親に確認するような印象を受けて面白い。
「得意げに言っといて聞くなや……」
「確認ぐらいいいでしょっ!」
「はは。まぁその通りやな。
 まぁぶっちゃけた話、クラス3位以上で肉体を保つのは不可能なんや。
 やからこの世界を作ることが許される代わりに触れることが許されなくなるっちゅーわけ」
ふむ……なるほど。
まぁ俺達シキガミはいわゆる例外って奴なんだろうけど……
「はい! 先生! 俺戦女神に触れます!」
「あ……あたしも」
俺達が手を挙げると得意げに髭をさする動作をする。
「ちなみにキミら、自分が何かわかっとるか?」
「はいっシキガミです!」
よろしいと無駄に荘厳に頷くとワザとらしく咳払いをして話を続けた。

「いいかね? そもそも”シキガミ”とは神子の武器や。
 そこを良く理解してもらうとキミらがその体でこの世界に居られる理屈は通るんや。
 キミらの体は武器としてこのプラングルにある。
 ほら武器って持ち主に振られるものやん?
 一応武器にもクラスがあってな、いい武器はクラスが高いんや。
 武器って言うのはクラスアップすることもクラスダウンすることもない。
 だからジャッジにも飲まれんし、歌に逆らうことも出来ん。
 どや? ゆーてることわかる?」

「アイアムブキ!」
「いぇ〜ミーツゥー!」
ガシィ! と四法さんと握手を交わす。
そんな俺達を見てジェレイドは考える人のように深いポーズをする。
そして、その思考の果てに――

「……うん。キミらの脳みそヨーグルトやね」
「まろやかだよ!」
「そうよ!」
多少の発酵は許せよ。
「知るかそんなもんっ!」


「まぁ、ええわ。で、自分らなにしとん?」
「あ! そうそう。これからコレに登るんだ」
俺は自分の後ろに見える塔を指差す。
「ほほー。またエライ場所に小箱きたなぁ」
相変わらず軽い調子で言われる。
がんばりや〜と笑っているところに四法さんが割り込んだ。
「ちょっと! あたしらもでしょ!?」
「そやったな。ははは」
「え!? 同じ場所なんですか!?」
アキもビックリだ。
ファーナとビックリしすぎて声も出てない。
「そう見たいやなぁ。どう? 今回も共闘せぇへん?」
「まじ!?」
それは嬉しい誘いかもしれない。
だってほらカードが悪いことあるって言ってたし、
人数多い方が攻略は簡単だろうし。
「……あなたはまた……」
ファーナは何かを言いかけて口を閉じる。
……ジェレイドが苦手なのか神子同士という観念がファーナを駆り立てるのだろうか。
何となく身構えた雰囲気を感じる。
「ええやん。多分やけど……4個目なんやろ? ワイらもやで」
対してジェレイドはシレッと頭の後ろでうでを組んだりしてる。
事の核心を突いて自分もそうだと晒した。
そうか……聞いたところイレギュラーな不幸みたいだったけど、
5人居れば確かに5分の1ぐらいの不幸になるかもしれない。
「あ……じゃぁ聞いたんですか4個目の……」
アキがジェレイドに質問を投げる。
だが返事は割り込んできた四法さんから返ってきた。
「聞いたっ! 悪いことが起きるってやつでしょ〜も〜ホント死ねばいいって感じ?」
「はぁ……お前はその口の悪さが死ねばいいって感じやな」
「うるさいなぁっ! ジェレイドのバカ!」
本当に呆れた口調で言うジェレイドとプリプリ怒る四法さん。
ほんっと仲いいよな……。























塔攻略の道のりは険しい。

「きゃぁっ! ナニコレナニコレ!?」
「あっ! 四法さんそれは押さないでっ犬のマークはハズレだから!」
「え!?」
「うわっ後ろも壁を押したら危ないって……うわ! 何か飛んできたっ!?」
「あっっご、ごめ……」
ポチッ……
「あ……」
「え……?」
ゴゴゴゴゴゴ……ガタンッ!!
「キターーーーーーーーっ!!!」
「きゃーーーっやーーーだーーーーっっ!!」


――俺達シキガミが先行して塔の中を歩く。
当然のように群がるモンスター、そして罠。
聞いてくれ、今……!!


「鉄球ってまたベタベタなーーー!!!」
「でもリアルにヤバイって死ーーーぬーーー!!!」

「こっちや!!!」
「コウキはやくっ!」
走っていく道の先にファーナとジェレイドが見える。
俺達は全速力で持ち主の手の中へと走る。
ちょうど、左右に分かれて手を差し出してくれている。


ドゴォォォッッ!!!



その鉄球は壁にぶつかって大きくめり込む。
「あ、あぶねぇぇぇぇぇ!!」
「死ぬっ死んじゃうよっ」
四法さんが半泣きだ。
「わ、わたしが代わりますよ」
アキがあまりに可哀想な四法さんにそう申し出た。
四法さんは泣いているのか笑っているのかよく分からない顔で振り向くと
「う゛ん゛っ」
と力強く頷いた。
「あー甘やかさんでええよ。アホか」
それを見てジェレイドが自分に引っ付いていた四法さんをはがして俺の前に突き出す。
しかし彼女はグルンッとターンをして抗議を始めた。
「だってっっだって怖いんだよ!? アンタ死ぬよ!?」
微妙に混乱しているのだろう。
意味のわからない言葉を吐きながら微妙に圧倒する。
「あはははっ無理しなくてもいいよ。じゃ、行こうファーナっアキっ」
四法さんだって女の子だしな。
武器って言われても斬られりゃ痛いし泣きたくもなる。
とりあえず俺達で彼女が落ち着くまで進んでみるか。







「……はぁ。見てみあれ」


鉄球の転がってきた道を抜けた先。
そこは広い一つの部屋のようになっていた。
体育館のような広い空間で床が所々抜けている。
さまざまなトラップの仕掛けられた塔を上るごとに部屋があり、その部屋のトラップをかわすと次の部屋に進める。
ゲームならなんてことは無い。
だが現実に何が起こるかわからないとなると怖くて進めないのが普通だ。
だがあたしが見た先は違っていた。


「あ、コウキさんそこ踏むと危ないですよ〜」
「おっけ。その辺怪しいからこっち回りなよ。ファーナも足元気をつけて」
「えっと……とりあえずわたしもそっちから回りますっ
 そこ飛んでみてください。鎖出しますから」
「行けるみたい。みんなおいで〜。
 ファーナぁ! あそこに向かって炎月輪投げてみよう」
「はい。短縮唱歌ショートライヴでよろしいですか?」
「うん。お願い――……っっしゃっ投げるよー」



滞ることの無い司令塔。
話と行動が気持ちいいぐらいきれいに進む。
連携、と言う言葉が空中に浮かんでいるようにみえる。
あたしはポカーンと三人を見る。
「そ、そんなっありえないって!
 あたしいっぱい引っかかったもん!」
「それをフォローするのがチームワークっちゅうの。
 さっきまでのアスカの動き方、教えたろか?
 コウキの前に出て勝手に進むわ、勝手に触るわ、フォローはしないわ。
 言わせて貰うとチームメイトとしては最悪やな。
 一緒にやってもらってるんや。しっかり覚えていきや?」
そういえば確かに……敵宣言をしておきながらやっぱり共闘をしているのは……
ジェレイドがあたしに役割分担を教えるためなんだ……。
あたしを成長させるためにわざわざ……
――……昔からよく言われた。
一人で突っ走るなとか、勝手なことするなっていうのは。
……確かに、さっきの行動を振り返るとあたしはお荷物にしかなっていない。
こいつの言うとおり……なのがなんだか凄くムカつく。
「……っアンタなんかに言われなくてもやるしっ。死ねっ」

一瞬キョトンとした顔であたしをみる。

「っははは。その意気や行って来いっ」

ニシシシっと歯を見せて笑うとあたしの背中を押し出した。
――絶対、思い通りになんかなってやらない。

あたしは深呼吸をして、皆の方へと走った。

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