第43話『鏡の正体』



「変なのがいっぱい居るぅぅぅぅ!!」

俺達は走り回る。
叫んでいるのは主に四法さん。

『ははははははははははは』

後ろ――と言うかいたるところから声が響く。
闇の中にはいたるところにジェレイドが存在した。
それは幻影のようで、時々飛んでくる法術が撹乱される。

「もう全部死ねばいいのにーーーー!!!」
「それはワイも含んでるんか!?」

本物の叫びが聞こえた。


塔に戻ってきたのはいいもののファーナやジェレイドの姿がなかった。
そして、俺達を出迎えたのは”夜”だった。
その法術を使うことの出来るジェレイドは鏡の中……
つまり、鏡の化身がどこかに居るはずなのだ。


『術式:火狐の三爪イングニヴェルペス

闇の中を走り回っていると、たまに炎の法術が俺達を掠めていく。
鏡のファーナとジェレイドのコンビ。
……普通ならありえない。

「きゃぁ!! ファーナちゃんっっあたしの服ちょっと焦げたーー!!!」
「も、申し訳ありません、いえ……私ではないのですが……!」
「お気に入りなのに〜! ジェレイド! アンタ死ね!!」
「理不尽!?」

いい感じに連携している。

視界はゼロって訳じゃない。
ただ月無しの夜並の暗さにいきなりなっているせいで目が利かず、
見える範囲で対応しようとすると迫ってきた瞬間ぐらいしか見えない。
炎に関しては光を放つので見えやすいのだが――
いきなり降って落ちてきたように炎が現れて襲ってくるため、
やはり直前ぐらいに気付くことになる。

とにかくこの視界の悪さをどうにかしないとっ。
「……!」
足を交差させながら右へ左へと俺は体を動かす。
火狐の三爪イングニヴェルペスは炎が爪で引っ掻くような軌道で襲ってくる基礎術。
その法術の”爪”の部分になる濃い赤い線は最も温度が高く、当たると肌が裂ける。
俺はその法術を避け、二歩後ろへと跳ぶ。
炎の部分が大きく、火傷は避けられない状態だ。
くそ……なんとか――

「――え!?」

俺は目を見張った。
二歩でかなり離れたハズなのに炎がバウンドして俺を追いかけてきた。
「うっそ――!」
咄嗟に捻った体を掠って服と肌を焼き裂く。
「うわ――づぅ……!!!」
爪で切られたとは違い、傷口を無理矢理焼かれるためかなり痛い。
焼かれても血のにじむ傷口を押さえて闇を睨む。
「い、壱神くん!? どうしたの!?」
暗闇の何処からか声がする。

「あ、首が取れたー」

「壱神くんホント!? 大丈夫!?」
「落ち着けアスカぁ!! 首が取れたら喋れんから!!!」
「コウキ!? 何処に落ちていますか!?」
「お前もかぁ!!! そもそも拾いに行かれんやろ!!」

「馬鹿者。戦いの最中に巫山戯るな」
その声に驚いて振り向く。
暗闇の中に大きなシルエット。
だがその暗闇の中で黄色くきらりと光った。


「うわっ!!?」
何事かと思ってまた数歩下がったがすぐにそのシルエットに思い至った。
――アルベントだ。
「ご、ゴメン!」
「分かればいい。しかしコウキ、あのリージェ様は本物ではないのだな?」
「え……? あぁうん。見えてないけど本物は鏡の中だ!」
「あぁ、では砕いて構わないのだな!?」

――もしかして。

「見えるのか!?」
「当たり前だ! 主が言うならすぐに砕いて見せよう!!」

姿がそっくりだからといって迷っている場合じゃない。
俺は虚空、先ほど炎が飛んできた方向を指す。

「――アルベント! 砕いて!!」

「承知!!」

丁度そのとき飛んできた炎をかわしてアルベントは闇い駆け出す。
斧の光りが一瞬だけ見えてミシミシという共鳴の後、大きく床が振動した。
「何!? 何が起きてるの!?」
床を叩き割る音が大きく響いたとほぼ同時に――鏡の割れる音が響いた。

ガシャアアアアッッ!!

それと同時に夜が消える。
恐らくジェレイドの方が方術を切り自分も攻撃に移るためだろう。
俺は目を細めて音のした方を振り返る。

「――まだだっ鏡のもう一人の方が――」

残ってる。と言おうとした矢先に思いの他軽快な足取りで床をけりアルベントは跳躍。
あろうことかそのまま壁を蹴り更に高く跳躍し――
その音は響いた。

ガシャアアンッッ!!

恐らくは人の形だった鏡が粉々に砕ける。

「うわ――すご……」

呆気に取られたように四法さんが呟く。
獣的な重量感のある動き、更にあの大きさだ。
それが羽のように軽々と動く姿は圧巻としか言いようが無かった。
――……俺、あんなのと戦ってたのか…………。
命があることを何となく幸運だな、と思った。



























「――っやぁ!!」
ジャララッと甲高い音を引きずって剣が飛ぶ。
手首のブレスレットから伸びる精一杯の長さまで来たのを確認して思いっきりぐるっと回った。
ブォッン!!!
周りの草を一直線に刈り取ってそれでもわたしが目標にしていた化身は軽々と避けてしまった。

鏡の化身と戦っていて分かったことがいくつかある。
わたしの戦い方はアウフェロクロスの一辺倒だ。
アウフェロクロスは剣だがわたしは剣として使い切れていない。
「――ふぅっ」
剣を戻して構えた。
自分で自分のあら捜しなんてめったに出来ることじゃない。
コウキさん的に考えるなら――倒すついでに、強くなっておこうと思う。
なんて、自分の考えがコウキさんに似てきたことに苦笑しながらわたしは剣を両手で持って構えた。


悔い改めよポェニテティアム・アギテ


ドンッ!!

超重量超加速の一撃が私に降りそそぐ。
自分が受ける側となると厄介な技だ。
同じアウフェロクロスでそれをなんとか受け流すと深々と地面に突き刺さった。
わたしはすかさず空に跳躍していた彼女の着地地点へと飛ぶと、化身に斬りかかる。

一閃――!
振り返って自分の腰から肩まで振る。
そこでピタリと剣が止めた。

大剣にしては振り方が小さい。
それもそうだ。彼女には勢い任せに振り抜く必要と言うものは無い。
最も単純な――力技での解決。
ほぼ剣に振られない彼女はあの大剣を最小限で最大限に生かすことが出来る。

空中に居た鏡の化身はその一閃を鎖でガードするが、勢いを殺しきれず少しだけ脇に剣が入った。
そして落ちていた方向が急転換し、横へと飛ばされる。
それを二歩、アキが追いかけてさらに一撃思いっきり突く。
大きさが大きさだけにリーチもかなりあるこの剣は容易くまた相手に届いた。

『ぐ――っ!!』

両手の籠手でそれが首に刺さるのを防ぐが――その両手に亀裂が走ることになった。
ざざざざっっ!!!
体を上手く傾けて、鏡の化身は着地する。
パリッと鏡が割れて一瞬だけ鏡の化身の姿が揺らいだ。

「よし……!」

わたしは間髪いれず次の攻撃のために走った。
剣を上に投げると鎖を思いっきり引き、鏡の化身めがけて振り下ろす。
早く戻ってファーナを助けないと……!
『――ああァっ!!』
剣を戻した鏡のわたしが思いっきり力を込めてわたしに剣を弾き返してきた。
「――わ!?」
わたしは驚いてステップを横にずらしてなんとか剣を掴む。
大きく縦に振りかぶっている鏡のわたしを確認する。

ドクン……!

瞬間の判断は あ、斬られる。 だった。
鏡のわたしには勝利の確信に歪む笑みがあった。
剣を振り下ろすのが速いのは自分でも分かっている。
剣の重さ故に振り上げる側には勝てない。

斬る、上ではだ。

コウキさんの動きを思い出す。
抜群のセンスで二刀を振る彼はいつも踊るように戦う。
その速さの秘密は――回転。
そのステップの切り方と回転が彼を動かす最たるもの。

ドクン……!

振り下ろされる高速の剣。

ザク……!!

剣が体を斬る。
だが――

ガギィ……!!

わたしは逆手に掴んでいるその剣を体を回転させることで相手の剣との間に引き込んだ……!
しっかりと、剣はわたしへの体の傷を最小限に抑えてくれている。
――ザザッ!
二歩、高速で小さくステップを踏んで回転の勢いを殺し、わたしは逆回転をする。
ギィンッッ!
鏡の化身の剣が大きく弾かれた。
一瞬体重が持っていかれ、ふら付く鏡。

剣が体を回る一周は、無防備になる。
当然、あいてもその無防備な瞬間を狙うのだが――条件が違う。
順手に持っている剣が一周を回るのと、逆手に持っている剣が一周回るのでは、刃が届く時間が全然変わってくる。
逆手に持っている場合は当然刃は後ろ。
つまり、通常より半周早い刃は。

ガシャアアアアアアンッッ!!!

体が半周しないうちに、刃は相手に届くのだ。

「は――はぁ……はぁ……ふぅ……」

砕けた鏡の破片が地に落ちるのを見届けて戦闘態勢を解いた。
すぅっと髪の色が蒼から赤に戻る。
「はぁ……あははは……こんな使い方も出来るんだ……」
息継ぎ無しで使ったのは初めてかもしれない。
ただ、ミシミシと悲鳴を上げる筋肉がその過酷さを表している。
「いた……」
ちゃり……っと首から下がるアクセサリーを握る。

すべてを癒す祈りオムニア・サナト・オーロ……』

術式はシンとしてそのペンダントに刷り込まれているため宣言の必要は無いのだが
わたしは小さく口にした。
フワッとそのアクセサリーを中心に光りが舞う。
この瞬間がわたしは大好きだ。
まるでお母さんに抱かれているみたいに暖かい気持ちに包まれる。

「……よしっ! 早く戻らないと――」

バッとわたしは踵を返して、数歩で立ち止まった。

「おーい。だいじょーぶ〜?」
「今のは鏡の砕けた音でしょうか」

傷だらけのコウキさんがひょっこり現れた。
その後ろからファーナ。
しかし、わたしはコウキさんから目を離すことが出来なかった。

「だ、大丈夫ですかコウキさん!」

なぜかと言うと――コウキさんは両手を真っ赤に染めていたからだ。
思わず駆け寄って手を取る。
所々真っ赤に晴れ上がったり切れていたりもする。

「あ、うん。まぁギリギリ。さっきまでファーナに燃やされてたんだー」

あははは〜と冗談交じりに言ってのける。

「全然大丈夫じゃないですよ……?」

なんでこの怪我で大丈夫といえるんだろう。
わたしは迷うことなくその服を掴んで傷口が見えるように裂いた。
「……いたっ!! 痛くないよ!?」
上手く服で隠していた傷を確認すると――結構酷かった。
「なんで強がるんですかっ!」
わたしはペンダントを手にとってコウキさんの治療をはじめた。

「……ちょっと待ってくださいっ!」
ピシッと手を上げてファーナが何かを主張する。
「さっきのの言い方では私がコウキを燃やしたみたいではありませんかっ!?」
「え? 違うって言うの〜?」
「で、ですからっ! アレは私ではなく鏡の私です! 私と同じことをするワタクシが――」
そこまで言ってアレ? とファーナは首をかしげた。
「ほら、ファーナじゃん?」
「ちっちがいますーっ!」


二人がワイワイと話しているうちに見えるところの傷の治療、それに服の再生が終わった。
「――はい。治療、おわりましたっ」
アキが満足げに笑ってパンパンッと俺の手を叩いた。
「うん。ホント毎回ありがと。あーざっす!」
体全体に特に異常は無いのを確認して頭を下げる。
「いえっわたしのお仕事ですから〜」
「さすがアキ。えらいえらい」
「……なんだかやられる分には複雑ですね〜」
と言うと、そこでアキが羨ましそうに自分を見るファーナを見つける。
にっこ〜とそれに笑い返す。
「うふふ〜コウキさん、ファーナにもしてあげて?」
「いりませんっ!」
「うん? まぁ機会があればついやっちゃうと思うけど」
「そっか、ざんねんだねファーナ」
「け、結構ですっっ!」
ぷんっと踵を返すと彼女は再び塔への道を歩き始めた――。






















さて、問題なのは――

「まだ小箱手に入れてなーーいじゃーーーーーーん!!!」

コレが不幸か!? 噂の不幸か!?
ほら、ボスは倒したぞ一応!
1リージェにもならない戦いやらせておいて小箱も無いとか洒落にならーーーん!!
「コウキさん、叫んでも小箱は出てこないかと。
「でもさーー……。
  でもさーーーー!!!」
「あーわかりましたから。理不尽に今は耐えてください」
「うおおっいなされてるっ! すっごい俺いなされてる!!」
プルプルと反り返りながら悶えてみる。
「んじゃまぁ、あの鏡砕いてみようや」
ジェレイドが鏡を指差した。
その鏡にはもうアルベントしか映っていない。

……
……
……





「……なぁ……」
「コウキ、あまり聞きたくないのですが」
ファーナがコメカミを押さえている。
「いや、でも進まないし。
 アルベントの鏡も倒さないとだめなのか?」
俺は腕を組んで鏡を見上げた。
アルベントは俺の視線にピクピクと耳を動かした。
多分、状況の整理中だろう。

そして俺が状況を説明しようと口を開きかけたときだ。
「もう先に砕いちゃおうよっ! ジェレイド!」
四法さんが先に動き出した。
「あー……はいはい。短縮唱歌――蒼雹矛双そうひょうむそう
「ふふふ! 見せちゃうよあたしのカッコいい所!
 せええええのっ!!」

四法さんが手にした矛を振りかざして鏡に突っ込む。
「あぶない――」
と、フォローしに走り始めた瞬間――。

 ズプンッ!!

突っ込んだ勢いと同じ勢いで、鏡の中に吸い込まれた。

ズガッ! ズシャァァ!!

派手な音がガラスの中から聞こえた気がした。
多分、四法さんがコケたんだろう。

「ちょっとまてーーーーーー!!!
 何で飲み込まれてるんやお前ーーーーー!!!」

ジェレイドが叫ぶ。もとい突っ込む。
「阿呆ーーーーー! このあほーーーーーーー!!」
「い、痛い……うぅ……何? 何が起きたの!?」
「どーーーしてお前はそーやって厄介ごと起こすかっっ!!!」
「あたしだって起こしたくて起こしてるんじゃなーーーいーーー!

 もーー死ねばいいのにーーーーーーーー!!」

あぁ……始まったよ……。



「と、とりあえず中ってどうなってるんですか?」
アキが鏡を見上げる。
とりあえずもう近づきたくないので皆離れている。
中からだして〜と叫ぶ声が聞こえるけど自業自得なので今は放っておく。

「あの鏡の中には逆さまの世界があるのですが……作りは綺麗です。
 それにあそこにある扉の向こう側の世界はありません。真っ白です。
 映りだしている場所だけがその空間、その世界を作っているようです。
 かなり制限されていますが高等の空間術式だと思われます」
それにジェレイドは感心したように頷いて言葉を繋いだ。
「ほほう。姫さんも分析するようになったんやなぁ」
ファーナがムッとしたのを軽く笑い流して言葉を続ける。
「ははは。ワイも入って気付いたけどその通りやな。
 この鏡全体に術式が施されとる。

 この鏡……相当なアルマやぞ」

ジェレイドが腕を組んでそう言った。


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