第49話『不幸の襲撃』




言える訳が無いじゃん。

また友達と戦わないといけない運命を知らせるなんて。
俺には言えない。
――いつかは辿り着いてしまう事実だとしても。
タケヒトとキツキもこっちの世界に居るって。
ただそれだけなのに――こんなにも罪悪感に苛まれる。
隠し続けることだろうか。
でも、せめて彼女にはまだこの絶望を知って欲しくないからか――
あって確かめてもらったほうがいいのだと納得することにした。
理由がある限り殺されることは無い。

せめて――彼女と会う二人が、あの言葉を口にしないようにと願う。











――……話せないってなんだろうな……。













「俺たちも行こうか」

ドアが閉まって暫くして俺は首を鳴らしながら起き上がる。

「――はい」

ファーナが起きているのは知っていた。
感情の揺らぎが伝わってきたから。

「ファーナ……実は四法さんと分かれるのすっごい寂しいんだろ」
「いえ、そんなことはありませんっ」
「仲いいもんね。アスカちゃんいい子だし」

アキも起き上がるとファーナの頬をグリグリと突く。
そんなこと無いです、と口を尖らせるファーナに微笑みつつみんなで片付けを始めた。




すぐに終わって部屋を出る。
するとクルードさんがそこに立っていた。

「おう。おはようさん。はええな。もう出て行くんだな」
「ははっ見つかるとよくないって言ってたじゃないですか。
 短い間でしたけどお世話になりました」

俺たち三人がそろって頭を下げるとクルードさんはお安い御用さと言って手と尻尾を振って見せた。

「お友達の方は先に行ったけどいいのかい?」
「はい……もともと、一緒に旅はしてなくてたまたまあっただけなんですよ」
「そうかい。まぁ気をつけていきな」
「はいっそんじゃ――」

一応警戒しながら外に出る。
日が昇る方向が明るいだけで殆ど夕闇。
村の出口のところでアルベントが手招きしているのが見えた。

――どうやら誰にも見つかる事無く村の外に出れたみたいだ。
村がどんな所なのかは全然堪能できなかったなぁ……。
嫌われてるんなら仕方ないか……。

「これから何処へ行くのだ?」
「わたくし達はこのカードで次の試練へと飛びます」

アルベントがカードを見て眉を上げる。

「カード……?」
「そそ。このカードが次の試練の場所教えてくれるんだ」
「――そうか」
「アルベントはどうするの?」
「――あぁ、これからフレイズアーチに出る予定だ」
「フレイズアーチ?」

俺が首を傾げるとファーナが補足してくれる。

「フレイズアーチは南の工業都市ですね。
 工業資源が豊富でとても大きな国です」

確か村のためにお金を稼いでいるんだっけ。
たぶんそこに傭兵の仕事とかがあるんだろう。

「そっかっじゃ、またなっ! ありがとうっ!」

呆気ないけどそれ以上言うことが見あたらない。
アルベントから数歩離れた位置でそのカードを発動させた。

――ィィンッッ!!

光で魔方陣が描かれていく。
それは俺達3人を包んでより強い光を発しだす。

「――そんじゃっっ!」

俺はアルベントに向けて手を振った。
アルベントもそれに答えて軽く手をあげた。

――次の試練へと俺達は――
















ズキンッッ!!!







ハッキリと、その予感は俺の頭を直撃した。
一瞬涙が出そうになるほどの頭痛を感じて俺は背後の空を見上げた。

空には真っ赤な奇跡を描いて何かが飛来している。
空高くを飛ぶそれは、7本が綺麗に扇状に広がりながら飛翔する。
俺には、それが何なのかわかった。

7本が同時に大きく円を描くように降下を始めた。


「アルベントーーーーーー!!!」

叫んだ。
同時に俺は走り出す。

「どうしたのですかコウキ!?」
「コウキさん!?」

ファーナとアキが同時に声を上げる。
光を帯びるカードと魔方陣。
俺その中から飛び出て剣を持った。
――赤い軌跡は、俺の見たところによると……!
アルベントの手前まで走って振り向くと東方の剣で赤い軌跡を描いていた矢を切り落とした。
俺が振り返った時にはその光は絶頂になって――


「コウキさんッま――ッ!!」
「ッコウキーーーーーッ!!」

――キィィィンッ!!

耳鳴りのような高い音を立てて二人が光に包まれて消えた。






「すまないコウキ……だがいいのか……!?」
「よくないけどっそれより見て!!」

もちろん色々事態はよろしくないに決まってる。
でも見えたもんを放って置く事が一番よくない!
後味悪い後悔なんかしたくは無いんだ。

俺は他の矢が落ちた方向を指差す。
――もくもくと白い煙が上がり始めていた。

「――燃えてる! このままだと村も燃えるって!」
「……! チッ……!! 私は村に戻って皆に伝えねば!」
「俺は――!」

原因がわかってる。
後はあいつがどこに居るのかだけわからない。
あいつはどこに居るんだ……っ!?
前はそうだ、城門の上に立っていた。
高い場所といえばやっぱり……!

俺はダルガネルの塔を振り返る。
――届くのか……あんな場所から。村からは1キロぐらい離れているはず。
高さがあるといってもこの位置からだと人差し指を翳せば隠れるのに。
でもあの塔を見ると、胃がチクチクする。
何が見えるというわけでもないのにドッと冷や汗が流れる。
絶対あそこに居る……っ。

「塔に行く! たぶんあそこからだっ」
「わかった! 村のみんなを避難させたら私も行く!」

俺はその場所をにらみつけて道なりに走り始めた。
























――そうか、あいつには、俺が見えるのか。

ィンッ!!

遠くに見える塔で光が発せられた。
さすがにこれだけ距離があると矢が届くのにはかなり時間がある。
俺は走りながら明らかに俺めがけて飛んでくる矢を切り捨てる。
集中攻撃しないのは村の方にも矢を飛ばしているからだろう。
早く行かないと大変だ……ッ!

1kmは、俺のマラソンタイム上では3、4分ってところ。
それぐらいが普通だと思うけど――。

「――ははっ。ついちゃった」

ほんの1分もかからずにその塔の下についた。
しかも息切れ無し。
塔の上を注視するが塔の真下になった途端矢が飛んでこなくなった。
逆に怖い。
頭上で赤い軌跡がまた村に向けて発せられる。
くそ……さすがに炎月輪があったとしてもこの高さじゃ届かないよな。
中に入ってまた上るしかないか。


俺は塔へと入る門へと手をかけた。





























「……あっれ〜? めっずらしーなぁ。お客さんだー」

門を開いたその先の部屋にその人は居た。
濃い紫の切りそろえられた髪。
女性だとわかる胸付のボディプレートアーマー。
背中には曲剣……俺の見解だと中華剣のような剣が腰につけられている。
甲冑では無いにしろ十分騎士を思わせる出で立ちをしていた。
目を擦りながら俺を見ているところを見ると寝ていたみたいだ。

「上でハギーがやってるから絶対来ないと思ったのに……
 君もしかして凄い?」
「いや、何なのか知らないけど……あいつ上に居るんだなやっぱ」
「そりゃ居るよ〜」
「悪いけど通して。止めないと」
「ごめんねぇ〜それはできないよ。
 ここで食い止めるのが僕の仕事だから……さぁっ!」

フォンッッッ!!

走りこんできた彼女が抜き放った曲剣を振るう。
剣の速度で言えばタケヒトに見劣りは無い。
そして威力なら間違いなくこの人のほうが上……!
俺がしゃがんでいた剣が柱に刺さったかと思うと、そのまま切り抜いてしまった。
……当たったら即死コースだ。
肩で当たってもスライスされるだろうなこれ。

フォンッヒュォンッフォンッ!!

風を切る3撃をかわして柱の後ろに回りこむ。
――竜巻みたいな剣技だ。
振りが異様に大きい。
アキのように力で剣を使うんじゃなくて流れで使っている。
かなりの剣の使い手だ。
戦うと時間を食っちゃうな……っ。

「――なんで剣を抜かないのかなぁっ!? 僕を侮ってると死んじゃうよっ!?」

侮ってない。全力で避けてる。
剣持ってるより動きやすいから避けるに専念するなら今が最速スタイルだ。
何とかしないと……っ。
俺は視界に入った柱を見て思いきり叩く。

ヒュンッ!!

「うわっ!?」

鈍い銀色の刃物が柱の上から飛び出る。
ふふ、最初この剣に殺されそうになったからな俺。
罠の場所は全部覚えているし……一応、地の利は俺にありそうだ。

「ずるいなぁそういうのっっ!!」

言いながら左下から右肩に切り上げるた剣を頭上で回して縦に振り下ろす。
それを右に避けたはいいもののすぐに剣が俺を追いかけてくる。
俺はあえて懐に潜り込むように彼女に向かう。
そして左手で地精宿る剣を抜き刃を合わせてその勢いに乗って彼女から距離を置くように飛んだ。

「あはっやっと抜いたねー!」
「うん。でも急いでるんで
 ばーいばーい!」

俺は背を向けて階段へと走った。



「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!

 ちょっとっこらっ! 敵前逃亡とは騎士道に反すると思わんのかねっ!?」

ダダダッと二人で塔を駆け上がる。

「騎士じゃないし!!」
「男としてどうかと思うよ僕は!!」

僕って言う人に言われたくないんだけど。
差別か? これ。

「ふふん! こちとら女装すれば天下一と恐れられるコウキくんですよ!
 自分で言ってて悲しいわ!!
 というわけで全力で振り切らせていただきます!!」
「あ!! こらーー!! やめてーー!!
 ハギーに怒られる〜〜〜ッッ…………!!!」

意外としつこく追いかけられつつ塔を駆け上がる。
やっぱり速さには装備の関係もあって俺に分があるようだ。
喋らないってことは本気で追ってきているって言うことだろう。
っていうか、ついてきてもらっちゃ困るんだよね……。
部屋を走りながら俺はあることを思い出す。

「まって…………っ!!」

後ろから結構必死な声が聞こえる。
構っていられない。
俺は3階へと上がる階段の途中の壁を思いっきり押し込む。
四法さんが押した奴だ。
ヒュンッ! と通った矢を避けて階段を駆け上がる。
どうやらあの矢が通った先がスイッチのようで――、
そしてアレが落ちてくる前に全力疾走し滑り込むように次の階へと上りきる。
あの壁を押して数秒間間があった後――。

「へ!? やあああああぁぁぁぁぁ……!!?」

天井から鉄球が降ってくる。

一番したで壁にめり込んだ後、床に描いてある魔方陣で元の場所に戻る仕組みらしい。
使いきりの罠って訳じゃないみたいだ。
作った奴も考えてるってことだ。
いや、ここにきて塔の完全攻略が役に立った。
無効化した罠もいくつかあるけど復活させながら走ってあがろう。


……うん。ちょっと可哀想……かな……。

俺は悲鳴が降りていく階段にナムナムと手を合わせて上へと急いだ。

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