第51話『文句と決行!』


「……」
「……」

――空から降りた二人は無事着地に成功した。
妙に冷静だったファーナが距離を考えて法術を行使し、見事成功させたのだ。
静かにファーナはカードを眺める。
アキも何か言葉を出そうとするが無言でカードを睨む彼女の様子に気圧されて声をかけれないようだ。

「――解っていました」
「……え?」

突然ファーナが口を開き一瞬反応が遅れる。
カードを握り締めたままファーナは俯いた。

「――コウキが、誰かを助けることに我を忘れることなんて、
 城で襲われた時から解っていました……。
 ちゃんと自分の命の事だって考えてるってわたくしは分かっているつもりです。」
「……」

アキは何も言わずファーナを見る。
その手は小さく震えていた。

「……ただ……ただ……ですよ…………」

ついに感極まったのか、涙を流し――


「コウキの……っっバカぁーーーーーーーーっ!!!」














王女様の渾身の叫びが響いた。
















こんにちはみなさん。
今日はお日柄もよく絶好の旅日和です。
長旅用の水筒にもちゃんとお茶が入ってるし。
体調も良好で自分のことにまったく文句のつけようはないです。
ただ、ですよ。

「ここ……何処なんでしょうね……」
「……わかりません。なるべく騒ぎにならないように人気のない所に落としているそうなのですが」

確かに町の中心に落とされても困る。
でもせめて街道の脇とか……。
飛ばしてる方から言わせれば飛んでる間に確認できると言いたいのだろうけど今回はそんな余裕なかったし……怖くて。
コウキさんが居ても着地は非常に怖いのだが……緩衝術式の実績は保障されているし。
何より落下している間に必死に喋るコウキさんが面白いので
結局怖いのか面白いのか良く分からない落下になる。

「で、カードさんは?」
『おう! お嬢ちゃん2人か! コウキの坊ちゃんはどうした!』
「……飛ばされる間際に色々あってはぐれてしまいました」
『おう! 知ってるぜ!』
「なんで言わせたんですか!?」
『はっはっは! コウキっちも今大変みたいだな!
 おっと時間がねぇや。聞いてくれ。
 二人が今いるのは、ノアン・ナ・マルボンでぇ。
 分かりやすく言うとシルストリアからノアン側に歩いて7日だ』

「あっ、女装の」
「女装の街ですね」

わたしもファーナもポンッと手を打って納得する。
言い回し的に誤解を受けるがそのイベントの記憶が強く残っている。

『――んで、見事に4回目の不幸は的中したみてぇだな。
 ま、生きてただけマシだと思っときな』
「何故4回ごとにこのようなことが?」

いかにも不服と言う顔でファーナがカードを見る。

『さぁな。神のみぞ知るって奴じゃねぇか。
 理由なんてあろうが無かろうが起こることが分かってんだ。
 心構えはしとけと言ったろ?』
「……そうですが……納得行きません……」
『ま、今回はこの程度で終わったんだ。
 寝て起きりゃコウキの野郎の場所も分かる訳だしな。
 さて、今回の内容だが!

――神性の小箱はブルブレッグってェ河に落ちてる』

「……待ってください。河の何処に……?」
『まず落ちた場所ってのがブルブレッグの河にあるブルブレッグの滝だ。
 そっから流されたかどうかはわからねェ』
「ちょ、ちょっと待ってください! それじゃその滝から探して行けって事ですかっ!?」
『ま、そーゆーこってェ』
「そ、そんな……」
「な、なんだか……難易度あがってません?」

わたしはふと思った疑問を口にする。
1個目とか2個目とかとの落差が激しい気がする。

『あぁ。なんせもう全部の小箱は地上に落とされてるからな。
 時間が立つごとにヤバくなんのは当たり前でェ』
「……あの」
『おう! 時間無いから手早くな!』
「破いてもよろしいですか」
『!? おおいっ! それはやめっ――!』

シュゥゥゥ…………
カードは光を失ってただの白い紙になった。
ファーナはカードを持ったままプルプル震えている。

「ファーナっ! ダメだって! ダメだってファーナ!」
「……ふぅ。冗談ですよ」
「ちょっとカードが横向きだけど!? 指先に力入ってるよ!?」
「ふ、ふふふっ嫌ですわそんなことありませんのに」
「その妙な言葉遣いも怪しいよファーナっ!」

ぐいぐいと力の入る手をなんとかカードから離させると無事を確認してファーナのカバンに入れる。
拗ねているのだろうか口を小さく尖らせている。
……か、かわいい……。
なんだろう、コウキさんから離れて素のファーナが見えてる気がする。

「ファーナ、とりあえずこれからどうする?
 コウキさん探して戻るか、小箱探しに行くか」
「……はい。カードの言い分ですとコウキが居る必要は無いようなのですが……」

――居て欲しいんだなぁと言うのが手に取るように分かる。

「確かに。ちょっと失礼な感じ」
「そうですっ。大切な――な、仲間ですし!」

何故か妙に力むファーナ。

「そうそう。パートナーだもんねー」
「そうですっなんでそんな笑顔が張り付いているのですかっ」
「なぁんでだろうねぇ〜?」

たぶん、思ったとおりだこのやろうっていう幸せな笑みが張り付いているに違いない。
わたわたと慌てるファーナがかわいくって仕方ないし。

「それじゃ、コウキさん探しに戻りましょっか」

問題は何処にいるかだ。
獣人の村に戻ってもおそらくコウキさんのことだから動いちゃってるだろうし。
……グラネダに戻るかなぁ。

「……いえ! そのっ大丈夫ですっ!」
「え?」

ファーナが拳を握って突然言う。

「大丈夫ですっコウキは探さなくて別にっ!」
「そう?」
「そうなのですっ」

……あれ? 変な意地張り始めちゃった……?

「……え? なんで?」
「別段わたくし達二人でも戦闘能力に問題はありません。
 それに戻ってまたここに帰ってくる間に試練の難易度は上がってしまいます。
 それならわたくし達だけで終わらせてコウキに会いに行った方が良いでしょう」
「……う〜ん。そうかなぁ……」

個々の戦闘能力として問題はなさそうだけど……
さすがに強い敵になるとわたしもコウキさんの手を借りないと心許無い……
でも、強くなるにはいいチャンス……?
連携の技を磨いてきたけど、個人技についてはあまり成果がない気がするし……。

「…………やってみる……?」
「やりましょうっ! 是非っ!」

ファーナも同じようなことを考えているのだろうか。
妙にやる気な顔でわたしに同意した。
やる気があるならやるべきだ。
コウキさんには申し訳ないけど……

そんな感じで、女の二人旅が決定した。






























まずはじめは現地に行かなくては。
という訳で歩いているのだが――。

「……なんだか寒くなってきましたね」
「……だよね……。雨避けだけどマント羽織っておこっか。
 そっかノアンだもんね……」
「マルボンはそこまでノアンによっている訳ではありませんから比較的暖かいと聞いていたのですが……」
「あははっそれは何処と比較したんだろ。
 レイクレインとかとだったら何処でも暖かいって言えそうだけど」

レイクレインはもっともノアン側にあるとされる極寒都市。
よくよく考えればノアンの平均から見て寒いと言いたいのは良く分かることだが。
とりあえず二人でマントを羽織ってまた歩き始める。
この分だとどこか街についたら暖かい服かマントを買った方がよさそうだ。


運が良かった。
わたしたちは道に辿り着くことが出来た。
ノアンとルアン方面に伸びている道で当然ノアン方面を目指した。
マルボンの街も今日中につけるだろう。
今までのカードでの移動上では必ずその日中に町や村に辿り着けるような位置に落ちていた。
おそらくそういった配慮があるのだろう。

「――寒いですね」

不意にファーナが口を開く。
わたしはまだ大丈夫かなーなんて思っていたけど、ファーナはもう凄く寒そうだ。

「もう結構寒くなってきたね……雪とか降るのかなぁ」
「雪ですか……炎術の効果が薄くなるのであまり会いたくは無いですが……」
「見たくない?」
「見たいです」
「でしょ!」
「ですよねっ」

雪のあまり降らないグラネダ。
降っても積もることは無い。
そんな場所で育ったわたし達は実は凄くウキウキしていたりする。
もう、なんだかわたしたちの体全体からウキウキがはみ出ていると思う。
吐いている息が白い時点でもうグラネダとかシルストリアの気候とは全然違う。







――唖然とするって言うのはこういうことだろうか。
わたし達二人は何も言葉を交わさず、ただ景色を見ていた。

白銀の世界、という言葉がぴったりだ。
本当にそんな世界があるだなんて思ってなかった。
わたしもお父さんの話の中で聞いただけだったのでいまいち実感が湧かなかったが――これは。

「すごい――!」

やっと出た一言。
息を吸うと冷たくて鼻が赤くなりそうだ。
足元の雪をすくい上げて感触を確かめる。
重さは殆ど感じなくて、直に触っているので冷たくて――触っている部分からどんどん氷に変わって行く。
それをぎゅっと固めると手の型がついた小さな雪の玉になった。

「……えい」
「きゃっ!?」

試しにファーナに投げつけてみる。
ファーナは頬を膨らませてわたしと同じように雪の玉を作るとわたしに向かって投げてくる。
投げてくると分かっていれば避けれる。
わたしは軽くその玉を避けたんだけど、足元を踏み固めてしまっていたので滑ってこけた。

「……ぷっははははっ! アキっ玉に当たるより酷いことになっていますよっ」
「うわ……つめたーいっもー酷いなぁファーナ〜」
「自業自得ですっ。さぁ、このまま遊んで居ても冷えるばかりです。
 早く町を見つけて暖をとりましょう」
「そうだね〜」




――寒い。
さすがのわたしもこれは耐えられない。
隣のファーナがびっくりするぐらい真っ青だ。

「ファーナっ大丈夫……?」
「はいっっなななんとかっっっ」

とっても寒そうだ。
町はもうすぐそこだ。
早くどこか宿を見つけて温まらなくては。






マルボンの宿に着いたとき、宿の人にとっても驚かれた。
そんな寒い格好でよくここまで来れたものだと。
わたしはそうでも無いがファーナは足が見えてたりするし……
ブルブル震えてるファーナは毛布を被らせて宿の暖炉の前に座らせておいてわたしは買い物に出ることにする。
……さすがに寒いので厚手のコートを宿で借りた。
ものすごく暖かい……。

とりあえず暖かそうなコートを2つ見繕って購入。
鼠色モサモサしたの見た目も温かいコートと水色と白に赤い刺繍の入ったコート。
もちろん鼠色のコートがわたしの。
もう一つのコートは絶対ファーナに似合うと思って購入した。
暖かさも申し分ないしっあ、ちゃんと値段はまけてもらったよ。
コウキさんから言われたんだけど、お店の人をちょっと両手を合わせて見上げてみた。
それと雪国が初めてだと言うと手袋と耳当てをサービスしてくれた。
とりあえずこれで動けるようにはなるだろう。
自分用のコートを着て宿への道を戻る。
靴も変えた方がいいんだろうけどお金も無駄使い出来ないし、
暫く様子をみてからとりあえずこの環境に順応できるだけの装備を整えよう。

「――あ、お帰りなさい」
「ただいま〜寒いねやっぱり。でもすごいよコートがさ、すっごく暖かいの!」
「本当ですかっ」
「ホントホント。さすがに飛んだり跳ねたりすると風が入るから寒いけど、歩いてて全然寒くないの。
 あ、これファーナのコートっ! どう? かわいくない?」
「申し訳ありません、使いのようなことをさせて……」
「ううん。さすがに唇真っ青にしてるファーナに無理させれないしっ。もう良くなった?」
「はい。お蔭様でっ」

元気ですっと腕を上げてみせるのがなんとなくコウキさんに似ていて笑える。
たぶんコウキさんの行動をずっと見てたり一緒に居たりするから似て来るんだと思う。
気づいてないだろうから当分黙って置こう。

「このコート……かわいいですね」
「でしょ〜絶対ファーナに合うと思って」
「ありがとう御座いますっ」

ぱぁっと本当に嬉しそうに笑ってくれると頑張って選んだ甲斐がある。

「あ、あとね。この手袋と耳当て。
 このコートすっごくかわいいんだけどフードが無くて〜。
 店員さんに聞くとこれに合う手袋と耳当ておまけしてくれたんだ〜」
「あ、なるほど。アキのはフードが付いているのですね」
「そうそう。それに耳当てはわたしの場合取れちゃいそうだし」
「そうですね……でも一つ気になる点があるのですが……」
「うん?」
「……その、この耳当て……」

――何故、猫っぽい耳が付いているのかは聞いてはいけないと思う。
むしろグッチョイス。
わたしは小さく店員さんに親指を突き出す。
だって――これをつけたファーナは絶対……!!

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