第54話『フォーチュン・キラー』

「イヤッッッ!! イヤッ!!」
「ほーら到着。ヒヒッオイ、今日の目玉だぜ」

乱暴に投げつけられて床に転がる。
震えで奥歯がガチガチと鳴る。
嫌だ。嫌だ。
助けて。
こんな――のって、無い。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

「――さて早速剥がすか」
「ひっ……! イヤッ!!!」

近寄ってきた一人をかろうじて蹴り飛ばす。
だが、後ろから近寄ってきたもう一人に捕まる。
嫌だ。
触らないで。
汚される。
嫌だ。
恐い。
助けて。

男の手がわたしの服を掴む。
バリ!!
派手な音を立てて破かれた。

「いやぁぁぁぁ!!!」
「うわっ……最高だねこの子。いい悲鳴してるよー」
「だろ?」
「しかもいい体してるよーへへ」

寒気が湧き上がってくる。
最低だ。最低の男ども。
わたしは力の限り暴れて抵抗する。
思いっきり足に力を入れて後ろから押さえつける男を壁に押し付けて何とか離れる。
でも男たちは卑下た笑みを浮かべるだけでまったく動じない。
寧ろ楽しんでいる。
虫唾が走る。
ピリピリと背中に危険だという信号が流れ続ける。
涙も――。

何故、こんな所で無力なのか。
何で誰も助けてはくれないのか。
いつも、助けてくれていたあの人はここには居ない。
希望が無い。
どうして、こんな時に。
いつだって助けてくれたのに。
頼りすぎかもしれない。
でも、
わたしをあそこから連れ出してくれた、
いつも、わたしの背中にいて、
手の届く範囲は全て助けて、
わたしを、いつも、助けて、

男たちの手がわたしに迫る。


――あっ――ぅ。




コウキさん……!!

































――貴方が必要です!!!





その言葉は、確かな意志を持って叫ばれた。

飛び散る血は、涙は必死で。

ただひたすら友のために。

そして、その希望の名を叫ぶ。


4度目の不幸。
それは、神から与えられた試練。
それは、最悪の形を持っている。
それは、神からの贈り物である。
それは、最高の幸福の前触れだ。

4度目の最悪を乗り越えて――1度だけ許される。





運命無視フォーチュン・キラー


















ファーナの声が聞こえた。
どうしても、それに答えなきゃいけない。
今、ファーナのそばに居なくてはいけない。
ファーナの怒りが悲しみが悔しさが全て伝わってくる。
涙を流しているのは痛みじゃない。
声を漏らしているのは憎悪じゃない。

ただ、希望を求めるその声に。

運命無視フォーチュン・キラーぁぁぁあああああ!!!』

使い方は、体が知っている。
 シキガミに、神子に許された4度に一度の幸福を。

  行使する――!!

伸ばした右手から術式が光を放つ。
目の前で正円の魔法陣がいくつも重なり――道に成る!













ドゴォォォォォン!!!






とりあえず目の前にあった鉄格子を吹き飛ばして、
隣で呆けた顔のファーナを見て笑ってみる。
急に泣き出した彼女が俺にアキを助けてと叫んだ。
近くに居ると、こんなにも強い感情が飛んでくる。
やらないといけない事はすぐに分かった。



















烈火覇陣れっかはじん!!!』
「どぅっっっっっっっせぃ!!!」


バゴォォォォォン!!!

鉄の扉が吹き飛んだ。
――アレは、わたしが連れてこられた地下の扉。
そして、人影が二人。

「はいはいヘイ!!!
 ちょっとまてぇぃ!!!
 野郎が寄ってたかって女の子いじめんじゃねええええええええええ
 ええええええええぅぃああアアアキなんつーセクシーな格好を!!!
 コウキさんのエッチーーー!!」

自分で言った!?
勢い良く鼻血を噴く。ほんともう、指の間から溢れるほど。
なんだか色々勢いが良い――
あは――本物だ――……!!
本物だっっ!

「コウキ!! ふざけてる場合ではアアアキっ!! なんて格好を!!
 コウキのエッチーーー!!」

キャァッと目を逸らすファーナ。
いや、同性でしょ……アアアッわたしってばなんて格好に!!
見ると破られた服から隠されることなく腕のせいでホント張り出すように胸が出ていた。もう全開っっ。
破られた服のせいかどうかは知らないがやけに扇情的に見える。
今の今まで気にもならなかったが言われると急に恥ずかしくなった。

「わっわっ! あああのっすみません!」

何故かわたしが謝る。

「いや! むしろありがとう! ああ!
 ありがとうの現在進行形はないんだろうか!!
 アリガティング!!!」

勢い余って言葉を作った!?
何故こうもハイテンションなのか彼は――もうわたしまで元気になってしまう。

「うぇっ何でもいいから助けて下さい〜」
「よっしまかせろ!!


 ――どいつのチ○コから切り落とせばいい?」

割と本気の目で剣を引き抜くコウキさん。
なんだかハァハァと息が荒い。
鼻血のせいか凄くアレだ。

「――全部で!」
「わっ割とオニなアキっ、い、言っとくけど俺のは除外してね?」
「ひぅ……なんでもいいから早く……」
「ちっどうやって入ったのかしらねぇが動くとこの女が――」



――その速さは、男が剣を抜くより疾く。

普通の人には、反応できる速さじゃない。
たとえ盗賊で、腕に自信があっても――今の彼には到底。
ガシャ!!
足で、その剣が抜けないように押さえつけ――そのスピードのまま
ゴシャッッ!!
その男の顔面に肘を入れた。

「悪い。俺、本気で怒ってるから。冗談とか要求とか聞かない」

鼻が完全に潰れて、アキの横に崩れ落ちる。

「お前――!!」
「大体、間が悪いんだよ!!」

ぐるっと身体を捻って裏拳。
ガンッッ!!
今度はアキの左側に立っていた男が拳の衝撃に加え壁に頭を打ち付けて卒倒する。
間髪居れず体全部の羽根を使って動く。

「村一個襲われるのみてさ!!」

ゴズッッ!!! バンッッ!!
奥の部屋に逃げようとして背を見せていた一人に体当たり。
ドアに突っ込んでバルコニーから外に落ちた。

「自分の無力が嫌になってんのに!」

バゴッッ!!!
メキッッ!!!
部屋のテーブルから立ち上がった二人を同時に殴りつける。
顔に、拳がめり込んでいる。

「一人も救えなくてさぁ!!」
「し、知るかっ!!!」

最後の大男が剣を抜く。

「だよね!!

 だから!!
 守れる奴ぐらい何やったって守らなきゃいけねぇんだよ!!!
 八つ当たりで悪いけど!! 絶対まけねぇから!!」





フォッッ!!
大男から意外と素早い動きで繰り出される斬撃。

ヂリヂリと――憎しみが腕を灼く。
コロセ、と誰かが呟く。


――ウルサイ。
それじゃ誰かと一緒なんだよ。
殺しちゃ、意味が無いんだよ。

罪には罰を誰かの法の下に当然される。
だけど。

それは死ぬことでは返せない。
罰って言うのは、

罰は必ず死じゃないんだよ。


「遅い!! ラジュエラの10000跳んで3分の1だっ!!!」


ギィンッッ!! ガッッ!!!
――たった2撃で、全てが終わる。
地精宿る剣が右手の袖に、東方の剣は首の真横でコートのフードを貫いている。

「こ、殺すなっっ……殺さないでくれ……!」
「……ふぅぅぅぅぅ…………わかった。分かってる、よ」

一応、落ち着くように深呼吸したものの、頭の後ろが熱いまま。
今にも右手をそのまま横に薙いでしまえと震える。
睨みつけたまま、了承っぽい言葉を何とか吐いたのだ。
俺の震えが頂点に達して、ちょんっと男の首筋に触れた瞬間――
そいつは泡を噴き失禁しながら気を失った。

































「いや、もう! ほんとありがとう御座いました!!」

俺は土下座して謝っていた。
お礼じゃない断じて謝っているぞ。
アキも適当な服を見て着ているし、一件落着かもしれない。

「いや! あのっっもういいですからっ!」

真っ赤になってプルプルと手と顔を振るアキ。

「いやもう思い出すだけで鼻血がっ!
 立ちたいけど立てないって言うか! たってるからたてないって言うか!
 凄かった!!」
「〜〜〜っは、破廉恥ですコウキ!」
「は、破廉恥なんて初めて使われたぞ!
 つかもう破廉恥どころか爆廉恥ぐらい行っても後悔無し!!」
『爆廉恥っっ』
「…………す、すみません……」

二人でステレオされると、やっぱり少し恥ずかしかった。

盗賊の男達は手枷と足枷をして壊してない牢屋にぶち込んで鍵をかけた。
荷物も全部取り返したし、暖を取って朝を待ってすぐに出る。
――まさか、たった1日でこんなことになっているとは思いもしなかった。

アルベントに村はもういいからと言われて聖域のあるシルストリアより南にあるマルトという町に居た。
獣人の村から歩いて8時間ほど。
昼から夕方にかけて走って半分の時間で到着したが。
そこで祭壇に入って、久しぶりにラジュエラと戦ってメービィにファーナ達の居場所を聞いたら、もうヘトヘトで。
その日はそこで夜を明かして、次の日にはシルトリア。
でもシルストリアでは止まらず野宿覚悟で北に向かった。
――なんというか、妙にそわそわして。

――歩いてるうちに、夜になって、なんだか余計焦るようになって。
――半ば、走っていた。
ファーナの声が聞こえた。
いてもたっても居られなくて。

運命無視<フォーチュン・キラー>

降って湧いたような言葉。
でも――それは、初めから俺に約束された、衝撃緩衝と同じ記述済術式の一つ。
ファーナがカードを通して願う願いと俺の願いが一致した時――
どんなことでも出来る不幸が生む奇跡――!



そしてあの時俺は、目の前に広がった魔法陣に飛び込んだ。




「いや、もう本当――」

頭が上がらない。

「無事で……っ良かった……っ!」

心配で、仕方なかった。

「良かった……!!」

良かった――……涙がとまらねぇ――。
俺の勝手で離れて、無茶させて、こんな危ない目に合わせて。
結局、一人も救えなくて、二人まで失うところだった。

もう、誰も失いたくないのに。

「ごめ――ぶぅぅぅっ!!?」

思いっきり頭を押し付けられて思わず顔を上げる。
当然思いっきり泣き顔を見られることになる。

「ありがとうございます!!」
「ありがとう!!」

同時に、俺の目を見て、言う。
俺は何も言えなくて、結局。



――3人で泣いた。


大事な仲間だから。
運命をぶち壊してでも。
俺の何に変えても。
――助けに行きます。

俺達はまだ、こんなことで泣いちまうガキだけど――まだ強くなれる。
不幸なんざ、クソ食らえってんだ。
二人の頭を抱えて、そんなことを思った。

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