第60話『1週間め!』





「う――ぐ……あ……!」

僕はその声に目を覚ました。

「く……っ! やめろ……!」

師匠が夢に魘されている。
悪い夢でも見ているのだろうか。
布団の中ほどに居たのでそのまま声のするほうにモゾモゾと動く。
「く、だめだ……!」
顔をしかめて手に力を込めた。
『師匠……』
少しでも楽になればと思い頬を嘗めた。
夢から覚めれば――楽になる。

「違う……! あと1時間……ガクに……!! あれ?」

…………何の夢だったのだろうか。
師匠は目を覚まして僕の方に目をやった。
「ルー……お前か……もう少しで3割のままレジに行く所だったよ……サンキュ」
『あぅ、それはそんなに苦しい夢なんですか?』
「あぁ……大ダメージだ……」
頭を抱えて溜息を付く師匠。
「家計に」
『家計!?』


そんなグッドモーニング。カゥ!



僕の師匠はシキガミのコウキ様。
神子様はお姫様で僕にルーメンという名前をくれました。
お前は俺に似ているという理由で可愛がってもらっています。
何が似ているのか良く分からないけど……。

僕は元々、盗賊団の一員でした。
初めは悪気は無くて……暴れる女の人を眠らせたら、
えらいって褒められたのでいいことなんだなって思って、
額に刻み込まれている法術を盗賊団の人のために使ってたんです。
でも、それが悪い事なんだなって気付いて少しの間使わなかったら、
ナイフを突き立てられて食べられそうになりました。
必死でもがいたけど、適わなくって、眠らせれるのも一人ずつだし、
どうしようもなくってあの人たちに従って暮らしていました。

あの人たちも、最初からあんなに悪い人達じゃなかったんです。
元々あの人たちはとっても大きな貿易船で働いていました。
僕は――気付いたらあの人たちの船の上で。
お母さんも、お父さんも知りません。
皆僕を可愛がってくれたし食事だっていっつもちゃんとくれてました。

でもある日、その貿易船は難破してしまいました。

僕とあの人たち以外は海に沈んでしまいました。
海で皆途方にくれて、陸地が見えたけど、どんどん木片と一緒に潮に流されていきました。
何人も、海で命を落として、木片に掴まる本当に数十人だけが残りました。
陸が見えなくなって1日。
眠くて1人が溺れて――僕も、死ぬのかなって思いました。

嫌だ。
僕は、こんな所で死にたくない。
この人たちも、家族や帰る場所があるのに。
気付けば――僕は球形の空間ごと陸地に運んでいました。

見知らぬ場所、見知らぬ土地。
でも大陸であるなら帰れないわけが無い。
でも……でも。

そこは極寒の大地だった。
街を求め彷徨い歩き、とうとう数人になった頃街を見つけた。
でも、その町も資源に苦しむ街であの人たちを受け入れてはくれませんでした。

初めは生きるために――仕方なく。
人を襲っていました。

もう、引き返せなくなる事を知らずに。

最初はお金が溜まったら皆で帰るつもりだった。
暖かいあの大きな港町に。
でもあの人たちは、見失った。
どういう顔で、街にもどればいいのかと。
酒に溺れて当たり前のように人を襲うようになった。
いつの間にか、それが当たり前になって……!
人攫いの盗賊団になってしまいました。


師匠は全員を殴り倒したけど、誰も殺さなかった。
それはとっても感謝している。
あの人たちは、罪を償ってまたあの潮の匂いのする港町に帰って欲しい。

「守れる奴ぐらい何やったって守らなきゃいけねぇんだよ!!!」

八つ当たりで悪いけどなんて、続けてたこの言葉。

僕にも……こんな強い意思があれば……。
こんな事にはならなかった。
だから、この人についていってみることにした。
この人みたいに強くなれる気がしたから。カゥッ。









僕がこのパーティーに入れて貰って一週間が経ちました。

あの日グラネダという国に帰ると言って今はその道中です。
この人達についていて言える事は連携が凄いってこと。
僕が体験した戦闘の感想。
個々の強さも然ることながら素早い戦闘展開は圧倒的です。
師匠は目にも止まらない速さで駆け出すと空かさず竜人様が飛び上がって大剣を投げる。
鎖の音が鳴り響くと同時に真っ赤な炎が追って師匠は敵を切り倒しながら炎へ導く―――

見惚れる様な連携。
その体制は崩れなかったし、師匠を突破したモンスターも竜人様の飛び交う大剣を前に神
子様までは届かないです。

その大剣が長く鎖で横なぎに大きく払われると神子様が歌を歌い師匠が炎月輪を投げます。
ここで課せられた僕の役目は残った敵を空間展開で一ヶ所に集めることです。
そして――

「収束:70 ライン:左腕の詠唱展開!

 炎虎の咆哮ライネガンツ
 
 
そこに神子様の放つ大きな火の球――!

ゴゥ――!!

綺麗で残酷なオレンジに包まれてモンスターが燃える。
僕と神子様で出来る連携だ。
どんなイレギュラーが発生しても師匠達がキッチリ対応して片付けてしまいます。
盗賊団では隠れて闇討ち、イレギュラーは逃げるが基本だった僕には目まぐるしいです。
でも、ちょっとづつ勇気がついていっている気がします。

「よし! やった!」
師匠は戦いが終わるとそう言ってカキンッと竜人様と軽く手甲を合わせて勝利を祝う。
更に流れるように神子様とパンッと手を合わせて僕を掴んだ。
「よくやったルー!」
『あぅ、ありがとうござああぅあっそのっみなさんっああぅっ尻尾とれますっ耳に指がっあぅーっ』
さらに師匠に寄って来た竜人様と神子様にもみくしゃにされながら戦闘は終了した。

もみくしゃにされて毛がもさもさと乱れたので体をブルブルと振って馴らすと師匠を見上げた。
『いつもこんなレベルの高い連携をやってるんですか?』
「レベルは知らないけどいつも通りやってるよ」
撫でて満足したようで何か適当な事を話ながら事も無げに言われるってことは本物なんだろうなぁ。
やっぱり師匠たちは凄いんだ。

此所に居てやっぱり僕は強くなれたと思う。
空間展開の速度は速くなったし、使いどころも掴めて来た。
それは師匠が良く指示してくれたから覚えれた。
上手く使えると撫でて貰える。
ハッ、いやっその、撫でてもらえるのがうれしいんじゃ……嬉しいけど、
それが目的じゃなくてっ強くなれますっカゥ!






パタパタパタ
尻尾を振ると床に当たってそんな音を立てた。
耳をピンと立ててジィーッと師匠を見つめる。
尻尾を振るのが疲れてきた。
それでも見つめる。
見つめる。
パタ……
疲れたので尻尾を振るのをやめた。
そしたら耳も横に垂れた。
分かってるんだけど、それでも師匠を見上げてた。

「……わかったよ。あげるよプリン」
あぅ〜もらっちゃった〜!
師匠が選んで食べてる物って、大体凄く美味しいってわかった。
だから、コレも美味しいんだろうなぁって思ってた。
「雑食だよなぁルーって」
美味しい物は何でも食べますっカゥ〜!









ご飯の後、師匠についてチョット町外れまで来た。
最近師匠はちょっと森の戦いにはまっている。
理由は割と単純。
「だってさ! 木を蹴って飛びながら移動できるんだぞっ! スゴクネ!? カッコヨクネ!?」
と言うわけで師匠は何回木を蹴り進んで進めるかに挑戦中だ。
最高記録は8本らしい。
どうしても最後には高さが足りなくなって落ちてしまうと言っていた。
そこそこ大きな並び立つ木を見つけてその間でピョンピョン飛び跳ねていた。
「こう、アキみたいに宙に飛ぶように出来ればいいんだけど、どうしても体重が下に流されるからなぁ」
『じゃぁ剣とか木に刺して足場にしたらいいんじゃないですか?』
「あーそうか。いや、でもそれは邪道だっっ! いかんっ!」
そう叫びながらビシッと指を差された。
「いいかルー! ニンジャなのだよ!!」
『ニンジン!?』
「こう、シュバッとバババッと動くんだ!」
師匠は手と足を言ったままに素早く動かす。
『師匠と同じなんですか!?』
「え? 違うぞ?」
『師匠もシュバッとバババッと動くじゃないですか!』
「違う違うもっとだもっと。
 シュバ――ン!!
 ダダダダダバーーーン!!
 って感じだ!」
なんだか良くわからないがとっても凄そうだ。


頭の中でニンジンが爆走する。
木々の間をすり抜け空に高く飛び上がると、そのまま空を走り出してしまった。
小刻みに揺れ動いて、跳ねる葉っぱ。
月夜のシルエットから姿を現す――ニンジン。
そうか、僕が知らないだけでニンジンはそんなに凄かったのか……!!

『す、すごいですね!!』
「だろう! 分かってくれたか!」
『捕まえるのが大変そうですっ!』
「当たり前じゃないかっ土の中に隠れたり、飛んだり、火を噴いたり、手裏剣投げたりするんだっ」
『そうなんですかっ!!?』
驚きだ!

僕の頭の中では農家のおばちゃんが土に隠れているのを素早く抜いて距離を取り、鎌を構えた。
ニンジンは葉っぱの裏から手裏剣を取り出すとそれをおばちゃんに投げて高く飛び上がる。
おばちゃんはその手裏剣を全て弾くとニンジンに向かってものすごい速度で走り、同じように跳ねて鎌を振りかぶった……!
しかしそれは罠だった!
ニンジンは分かっていたかのように反り返るとおばあちゃんに向かって火を吐いた。
顔をしかめてその炎を避ける術がないと覚悟を決めるおばちゃん。
真っ赤な炎に包まれたかおばちゃん。
しかし――その炎は、おばちゃんには届いていなかった。
ヒュンっと炎を弾く鍬を振り回しながらおじちゃんがニヒルに笑った。
おばちゃん分かっていたかのようにおじちゃんの肩に手をやって更に高く飛び上がると――ニンジンに鎌を振り下ろした。

「変わり身の術とかも使うんだっ。一瞬にして丸太と入れ替わったり――」

シュンッッ! おばちゃんはすぐにそれはニンジンの感触じゃないと気付いた。
ニンジンはいつの間にか丸太と入れ替わっていた……!
そうニンジンは……おじちゃんの後ろ――!!

「それでさ、分身の術〜とかいって分身しちゃうんだっ」

おじちゃんはそれに気付いていた。
着地してすぐに風車のように大きな動きでおじちゃん特注の長い鍬がニンジンを貫いた……が、それは幻のように消えた。
続いて目の端に映るオレンジに反応して鍬を振るうがまたしても幻影で本当は――逆側!
おばちゃんが気付いた時にはもう手遅れだった。
ニンジンは大きく反り返り、最大火力でおじちゃんに炎を吹きつける……!!
おじちゃんはギリリと鳴るほど歯を食いしばって腕に力を込めた。
農作業をこなす逞しい腕の筋肉がミシミシと悲鳴を上げる。
少しぐらい食らっても構いやしないと最悪を避けるために鍬を振るう。
でもそれでも大怪我は免れない――そう思っていたとき、黒い影が鍬よりも早く炎を吐き出すニンジンへと向かった。
――おばちゃんの鎌だ……!!

『す……凄いです! 師匠!』
「だろうっ最後には煙でドロンっと居なくなっちゃうんだ!」

鎌が炎を吐き出すはずだった口に直撃して、ボンッッとニンジンは煙になった。
収穫の失敗である。
おじちゃんは苦笑いで頭を掻く。
おばちゃんも溜息をついて仕方無さそうに笑うと恥ずかしそうにアリガトね、と口にした。
まだまだ若い夫婦である。
今日はここまでで暖かいご飯を食べようと、月明かりの下に並んで家路に着いた――。

すべて、僕の脳内での妄想なんだけど。

『あぅあぅ〜……師匠ぉこれからはもっと大事に食べますぅ……』
「……何で泣いてるんだルー?」

今日から野菜は感謝して食べようと思います。カゥ!












師匠の真似をしてみる事に決めた。
僕も木々をピョンピョン渡り始める。
9回まで出来るようになった。あれ?
「…………ほほぅ…………」
『……あ、あぅ……師匠?』
「チョット待ってろチクショウ! すぐ追い抜いてやるうううう!!」
師匠は足場が少し凹むほど力んで飛びつくように木に向かった。
ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!
6回、今まで通りどんどん地面が近くなっていっている。
「ふぬぅぅぅぅっっ!!」
ブワッッ!
今までに無いほど師匠は高く跳ねた。
僕も驚いて唯それを見上げる。
でも、高く跳ねすぎた。
しかも頭が下だ。
「だあああああああああっっっ!!」
『師匠!!』
僕は反射的に浮遊空間で師匠を包み込んでその落下の動きを緩やかにさせる。
「おお……助かったーありがメポッッ!!?」
もう大丈夫だと思って浮遊を終わらせるとそのままやっぱり顔面から落ちた。
暫く地面に顔面で直立して、バタンっとうつぶせに倒れた。
『あぅ! し、師匠っごめんなさい!』
「うへっ砂がっペッ。やっぱ狙ってるだろルー……」
『あぅー狙ってないですっごめんなさい……』
「……ふふふふルーゥーーーメェエエエエンッッ」
『あぅ……!!』
乱暴にグシャグシャと撫でられる。
「使いどころはいいぞ。あとはちゃんとした使い方だなっ」
僕をもみくちゃにしながらアドバイスをする師匠。
アドバイスに全く集中できない。
「いいか? 人を下ろす時はちゃんと足を下にっ物を下ろす時も上下を考えて」
『分かりました〜っあ、あぅ〜』
「よろしぃっ!」
言いながら師匠は僕の髭の根元をジョリジョリと弄って遊ぶ。
なんだかむず痒い。

やっと解放されたので全身をブルブルと振る。
振ることでまた少し痒くなりまた振る。
「さて、んじゃぁさっき掴んだコツ使ってみよ」
師匠は何かをさっき掴んだようで嬉しそうに木と木の間に立った。
師匠の背中を見上げて僕は大人しく座る。

「――フッッ!!」

師匠が短く息を吐いて跳躍した。
タン――ッタン――ッタン――ッタン――ッタン――ッ!
さっきよりもずっと大きな円弧を描いて師匠が飛ぶ。
空中で宙返りをすると空に向かって大きく足を突き出す。
そこで更に高度が上がってどんどん木の上に上っていく。
タン――ッタン――ッタン――ッタン――ッタン――ッ!
僕の9回を簡単に超えて、高い木の頂上近くまで行ってしまった。

そして、月明かりを背に、逆さに留まった。

頭を下にしたまま師匠は落下してくる。
あ、危ない――!
僕はもう一度浮遊空間を展開して師匠を地上寸前で止める。
今度はその空間をグルリと反転させて解いた。

「――よしっ完璧じゃない?」
『はいっ師匠凄いですっ!』
「いや、ルーだよっちゃんと出来たじゃないか」
今度は毛並みを整えられるようにサラサラと撫でられた。
やっぱり師匠に褒められるのは嬉しい。
『あぅ。えへへ……』
「よっし。そろそろ戻ろうぜっ」
『はいっ』

こうやって僕は少しずつ役に立てる事を覚えていく。
師匠が教えてくれるから頑張る。
僕も早く一人前になって、もっと頑張らないとっカゥっ!


















バタバタバタバタバタ!
暴れる。
「こらっルー! ちゃんとフロには入れ!」
『怖いです! 嫌です! あぅ〜!』
「俺が嫌ならアキとファーナに入れてもらうことになるけど……?」
『あぅ〜……誰も容赦してくれそうに無い〜……』


そんな1週間。クゥー……。

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