第67話『決意順番!』


「――良く帰ってくれた。コウキ君、ヴァンそれにアキ殿も」
国王様がいつも通り人払いをかけて王座を下りてくる。
王妃も同じくその横についた。
「アリーーーーーーーーーーーーィィ!!」
帰るなりあの人は王妃様に飛びついた。
「えっ!? ああっ、アキさん!?」
突然の事態に慌てる王妃様。
まぁ当然だ。すっげぇ驚いたみたいだ。
「もー! つれないなぁアリーまでっ!
 あたしシルヴィアだよー!」
「えっ!? あ、あれ? えと、エルフのハーフでしたっけ?」
とりあえず時間的な流れから突っ込んでみることにしたみたいだ。
「ううん、死んだらしいよ?」
「ですよ……ね? あれ? アナタ、私疲れてるのかしら?」
王妃は困り果てて眉間に指を当てて王様の服の裾を引いた。
「まてまて。アキ殿……ではないのか……?」
「あっはっは! アンタもおっさんになったねー!」
バシバシと派手に王様の肩を叩いている。
むぅっと訝しげな顔をしてヴァンに顔を向けた。
「うむ……ヴァン。とりあえず説明頼めるか?」
「御意」
ヴァンツェはそれらしく優雅に頭を垂れて喋りだす。
「恐らく彼女は本当にシルヴィアです。
 記憶もマグナス大戦前のもので全て筋が通っています。

 シルヴィア、ウィンドのしでかした恥ずかしい出来事トップ10を下から言ってみてください」

シルヴィアは少し考える素振りを見せてピッと指を一つ立てて話し出した。
「まずアルクセイドで女風呂に突っ込んできた」
「第10位が!?」
思わず俺が突っ込む。
「うん。しかもウィンドも真っ裸でね」
「もしかして王様変態っ!?」
うわぁっと俺は数歩距離を取る。
「まて! もういい! いいっ!! シルヴィアなんだなっ!?」
「そうだって言ってるじゃん!」
「いいなー若いのいいなー」
王妃様が自分より背の高いシルヴィアさんを撫で始める。
「あーアリーあたしより年上になっちゃったんだ〜っ
 お母さんになってよ〜っ」
シルヴィアはもうホント歳の差なんてお構い無しだ。
ああ、うん。
なんか見たことあるそんな光景。
良くアキとファーナがべたついてたなぁ……と感傷に浸ってみる。
「……ヴァン、何故こんな事が?」
「はい。国王様はご存知でしたでしょうか、神性ランク4位の人間同士が戦うとどうなるのかを」
「……いや」
「……簡単に言ってしまえば、天意裁判<ジャッジ>が起きます。
 アキさんは剣聖と戦い、天意裁判を超えました。
 恐らく……」
ヴァンが俺に一度視線をやって少し言い辛そうな顔をした。
「恐らく、アキさんを生き返らせるために使用したフォーチュンキラーの影響かと思われます。
 アキさんがジャッジを超えて、すでに復帰不可能で
 代わりの人格として入れられたのではないでしょうか……」
「クソエルフ」
ビシッと親指を下に手を突き出してその不快さをアピールするシルヴィア。
「まぁ、明らかに失敗ですね」
何だろ、笑顔で青筋浮かべてるヴァンが非常に怖い。
「だとコラ! 表出ろクソエルフっ!」
「ははは。いいから早く此処が王城で彼らが国王と王妃だと言う事に気付きなさい。
 少ない脳みそでも少しは態度を変える気が起きるでしょう」
「はぁ!? 何言ってんの! アリーもウィンドも別に気にして無いって!」
王妃様を抱きしめたままクワッと叫ぶ。
なんか顔が見えないとファーナに見えるな……あのポジションは。
「まぁそこは事実ではありますね。
 ですがたまたま人払いしてくれているからいいですが人に見られるのは大変よくありません。
 というか、言葉使いを何とかして頂けないと今後謁見に呼べませんよ?」
「はぁ。お前等は相変わらず仲悪いんだな……ああ、コウキ君にはすまないが少し席を外してもらって構わないか?」
王様が何となく場の端でポツンと立っている俺に言ってくる。
確かにさっきから居場所が無くてむずむずしていたので助かるかも。
そういえばこの4人が前回の……優勝者なのかな?
まぁ生きてるし、多分そうなんだろうけど……。
「あ、はい」
「出来ればファーナの様子を見てきてくれ。落ち込んでいるだろう……」
「……そうします。失礼します」

俺自身も整理をつけないといけない事が多い。
報告をして、すぐに解放してくれたのはありがたかった。
















誰かが死ぬ。
そんな気分を味わったのは久しぶりだった。
自分が死ぬのは案外納得いったし、仕方無いと思った。
ああ、でも――

こんなに悲しいと思ったのは久しぶりだった。

改めて姉ちゃんには悪い事をしたなぁと苦笑いをする。
大切な人が死ぬって、そういうこと。
残った人は――悼み悲しんで、死を飲み込んで……っ
それでも、生きるしかない……
それが、自分が死ぬってことだった。

だから、言ってんじゃん。
生きろよ。


「な、ファーナ」
「……何がですか」

「いや、落ち込んでるだろうから様子見て来いってさ」
ファーナは自室には居なかった。
だから何となく分かる心の方角だけを頼りにフラフラと歩いてついたのは――
この城下を一望できる城の頂上だった。
「すっげーーー! 高いな!! 気持ちいー!!」
「ふふっそういえば高いところがお好きでしたね」
「あぁ! 馬鹿だからな!!」
そう。高いところは大好きだ。
絶叫マシンだって好きだが空から落ちるのだけは怖い。
なんか、こう、腹のそこからせり上がってくる恐怖とも快感とも着かないビリビリ感が半端じゃない。
着地する瞬間は何時だって死ぬって思う。
「……日がたってもその答えは変わらないのですね」
「へ?」
「――初めて、この城に来た時から貴方は何も変わらない。
 それを……少し羨ましく思います」
「むー俺だってまだまだ成長期だぞー!」
「そう言う意味ではないのですが……ふふふっ」
「笑われたし……」
「も、申し訳ありません……ふふっでも、コウキは何時でも面白いです」
「褒めてるんだよな?」
「もちろんですっ」
よかった。元気でたみたいだ。
俺もちょっと恥ずかしくて街に視線を移して笑う。
相変わらずデカイ。
しかも平地だから遠くまで見えるし景色は最高だ。
こういう景色って高い場所からしか見えない。
だから高いところって好きだなと思える。

「コウキ」

呼ばれたのでもう一度彼女を振り返った。
真紅の眼が俺を見据えて、真剣な顔をしていた。
改めてその顔を綺麗だな、と思ってしまった。
確か――初めてあったその時も。
常に自分だけではなくみんなを考える思考の広さ。
学ぼうとする姿勢は何時だって変わらずなんでも吸収してきた。
必死な姿だって見た。
俺の中にあるお姫様像なんて全部ファーナに塗り替えられた気がする。

「……ファーナも、変わってないよ」
「え、あっ! もぅそれは褒めてませんねっ?
 わたくしだって成長期ですっ!」
「いや凄い褒め言葉」
「た、確かにアキと比べるとですね……えっ!?」
「俺が言ってるのは志の話っファーナはずっと変わってないよ」
確かに日々感じる意志。
彼女は公然と考え、平等を考える。
国を豊かにするために勉強して、国民を思って政策を考える。
普通の人にそんな思考は無理だろうしそこまで動ける人間も少ない。
俺より年下だけど……ちゃんと王女様やってる。
まぁそんな恥ずかしい事面と向かって言い切れるわけないし、とりあえず話し戻そうか。

「で、さっきなんか言おうとした?」
不思議そうに俺を見るファーナに問う。
「……いえ……その、こ、コウキは、この国が好きですか……?」
「――そーだねー。うん。好きだよ」
「何故、ですか?」
何故を問われるとは思ってなくてちょっと考える。
「うーん……」
この世界に初めて来て。
初めて会ったのはアキ。
サイカの村でちょっとお世話になりつつ次の日には市場。
ちょっとっていうか今考えれば割と稼いでたよアレ。
服を買って歩き回ってゴタゴタに巻き込まれて……実は次に会った縁のある人ってアルベントなんだよな。
アルベントと戦って。
――初めて、炎月輪を持った。

そして、ファーナに出会った。

ああ、逃げたな最初。
この街のいい所は街ぐるみで一人を追える団結力だ。
すっげぇやばかった。
ファーナの言った一言。
 あの人を追ってください!
ただそれだけで街の人たちはそれに尽くした。
結果俺は牢屋にぶち込まれたわけだ。
「……コウキ?」
「んっ?」
「なんだかものすごい笑顔になってますが」
「ああっファーナと初めて会った時思い出して」
「えっ?」
「ほら、街の人皆に追いかけられて牢屋に入った」
「あああっあの、その節は申し訳ありませんでしたっっ」
「ははははは!! いや、いい街だよっファーナの一言であんなに人が動いてくれるなんて」

国中に愛されるように。
彼女も国中を愛するのだろう。
遠い――。
そんな存在に思えた。

なんか、不意に不安だった。
俺はやっぱりこの世界じゃ一人なのかな……
当然、帰る家も無いし、放り出されたらその瞬間から冒険者稼業で稼ぐしかなくなるだろうな。
まぁ……わりと優秀に活動できてるみたいだけど。

「コウキ」
「ん」
「あのわたくし……」
「うん」

「わ、わたくしとっっこの国を守ってくれますか!」


バチコーーーーーーーーン!!!

――青空。
ああ、なんだろうこの慣れきった感のある浮遊感。
この後に来る感覚も分かりきってるんだけどチョットだけ頬の痛さが気になった。
あはは、そっかそっか。
俺は今からこの国で一番高い場所から――……落ちるのか。
ぐるっと身体が宙を舞って下が見える。

「ぅぅううううぎゃああああああああああぁぁぁぁぁ!!!
 たけぇええええええーーーーーーーー!!!」
ふふ、分かってたさ。
ここでファーナと二人になったら必ず奴が来るって知ってた。
満足げに俺を見下ろすあのオヤジはこの国の王様だ。

「ああっお父様何を!? ……コウキっ!」
ファーナが手を伸ばす。
俺も精一杯それに向かって手を出す。
あと数センチ……!!!

「わりぃファーナ」
「コウキ……!」

「行ってきまあああああああああああああああああああぁぁ……!!!」



叫びながら落ちていくコウキを見届けて派手な音の中に着地成功の奇声を聞いた。
「ふははは!! 我が娘を手にかけようなど小僧には10年早いのだよ!!」
お父様が人には見せられないような指をビシッと挙げてコウキを見下ろしている。
「もう! 何故お父様が出てくるのですかっ!!」
「なにおう! ファーナが危険に晒されて私が出ぬわけには行くまい!」
「だから何処が危険だと言うのですかっもう!」
この人は本当に訳がわからないことを良くやる。
私が言う言葉に耳を傾けず、乙女のピンチ〜などと歌っている。
何がSOSなのだろうか本当に……。
私は溜息をついて頭を振るとスタスタと城内へと向かった。
……
……
……うぅ……
なんだかこの後コウキに会いづらい……
そ……の……だって、ほら……
あんな事聞いた後だし……
もっと順序とか考えればよかった……
というか、あ、そうだ。

逃げよう。

とりあえず自分の部屋とかに篭って。
明日会えば少しは……!

あ、明日……
会える勇気があるだろうか……?


「今のうちに会っとくべきだよネェ?」
「そうです。こんなおも……重大なことを後回しにしようなんて考えているのですかリージェ様」

どうやら扉の両側に張り付いていたらしい二人がすっと私を挟み撃ち。
アキ――じゃない、シルヴィアとヴァンツェがニヤニヤ私を見下ろす。
「――っ!」
この二人は凶悪だ。
なぜなら私の言葉を聞いた瞬間に吟味して意味を全て汲み取ってしまう。
コウキはあるベクトルだけはすごく鈍いので直接言葉にするしかないのだろうけど
自分の精一杯の勇気をあの言葉にしただけでも誰か助けてください!!

はぁはぁ……少し取り乱したようですがっ!

「な、何の事でしょう?」
そんな思考なんて数秒にも満たない出来事で汲み取られないハズっ。
精一杯の笑顔で二人に返した。
「ほほぅ。いえ、何も無ければ良いのですが?」
「えーへへへ? いーいのっかな〜?」
ニヤリニヤリ
私だって笑顔を崩さない。
ヴァンツェもシルヴィアも。
わたくしの言葉の真意なんて――
くみ、とって……!

あ、ダメだっ!

顔が赤面する。
逃げないと。
気付いた時にはもう足が動いて走り出していた。





















イ・チ・ガ・ミ!
「スクリュゥゥゥゥ!!!」
俺は無駄に高速回転しながら地面へと向かう。
俺今スケートの選手よりすげぇまわってるよ!
もう4回転なんか目じゃないよ!
この横回転によって浮力を生み出し地面への衝撃を緩衝する事ができるんだ。
ゴメン嘘だ。

こいつでできる事と言えば着地した時の砂埃を上へと舞い上げる事だ。
つまり俺は神様から受けた恩恵を回転の力に使い竜巻を起こしている。
願わくば一番上のあそこにいるオヤジに降りそそげ砂!
とか無駄に考えつつ

ドゴォォォ!!!

毎度おなじみの激しい衝撃緩衝音と共に俺は地面へと着地した。
やっぱりチョットカッコいいポーズに変更して砂埃が晴れるのを待つ。
いや、今度おっちゃんとガチで喧嘩する必要がありそうだ。
チクショウ……妙に良い天気なせいか砂埃が多すぎる。
ゲホゲホと咽ながらこりゃカッコいいポーズもクソも無いなと腕で鼻と口を庇う。
風上に向かって歩きやっと砂埃が消えた。
「あーあ。砂だらけっけほっ!」
服を叩き大分この服も傷んできたなぁと思う。
「ん?」
視線を感じて振り向く。
誰かと目が合ったけどすぐに廊下に消えた。
一瞬ファーナにも見えたけど……あそこからここに下りてくるのは早すぎるし……。
まぁ人が空から降って来れば注目もするか。

あー。上にもファーナはもう居ないみたいだし。
とりあえず神殿のほうにでも行ってみようかな。
足早に俺は墜落した中庭を後にした。





カツカツと靴が鳴る。
煉瓦造りは違うなやっぱり。
なんたって煉瓦だぞ焼いてあるんだぞ。
いやうん。言ってて自分で結構どうでも良いことに気付いたよ。
でも綺麗だよなこの城。
構造は複雑なんだけどどんな場所でも光が入るようになっている。
あとこっそり教えてもらった隠し通路とかはさりげなく気付きにくいように翳っていたり。
すげぇなお城って……。

「あ、こんにちはシキガミ様」
お城と神殿を分ける区域には2人の番兵が立っている。
仏頂面で立っていたかと思えば話せばとってもいい人たちだった。
俺も初めに顔を通してもらったため良く立ち話をする。
「ちわっす。今日も平和だねー」
「はは、いいことですよ。相変わらず私達は忙しいですけど」
「あははっ噂の侵入者?」
なんだか此処の人たちは意外と忙しいらしく、毎日あるお方を食い止めるのが仕事らしい。
誰なのかは教えてくれない。
「はい。先ほども絶大な嘘をつきながら押し通ろうとなさってました」
どんな人物だよ。
非常に興味あるがこの二人以外が居る時には現れないらしい。残念だ。
「うはっ意外とアクティブな人もいるんだねこのお城」
「ええ。実は困るほど居るのですよ」
「あ、シキガミ様も自室にお戻りでしたか?」
「まぁそんなとこ。ホントに用事があるのは祭壇なんだけど。
 あっファーナ戻ってきてた?」
「ええ、リージェ様でしたらつい先ほど自室にお戻りになりましたよ」
そっか。そんなら……あれ?
なんか言う事あったような……。
まぁいいや。とりあえず行ってみようか。
「ありがとーそれなら行ってみるよ」
「はい。どうぞお通り下さい」

扉を開けてもらってその塔の螺旋階段をグルグルと下る。
此処を降りきると神殿側になる。
お城と神殿を繋ぐ道は此処一つなのでああいう目撃情報もすぐ得られる。

とりあえずまず近い方の祭壇に向かって歩いた。

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