第74話『協力者』

さてっ!
旅立ち――
随分と久しぶりな気がする。
いつも思う。
カードを使用する度にリセットでまた新たな旅が始まる。
キレイな区切りなんだ。
すべての感情にケリをつけて、スタートするべきだ。


「用意はよーい?」
俺が振り返ると一番最初に目が合ったのはヴァン。
「私は大丈夫です」
ブルーの眼を俺に向けてしっかりと応える。
しかもあからさまにスルーしやがった。
「あたしはホントいつでもいいよ」
シィルが答える。
さすが元竜士団だ。構え方が違う。
しかもまたスルーだよ。
「大丈夫です。コウキも大丈夫でしたか」

「…………うん…………」
壁に頭をつけて体重を預ける。
あーあ。
もう、あーあ。
俺地面と壁に対して45度だよ。
比率はイチイチルートニだよ。あーあ。
ウケるなんて思ってなかったんだ。
楽しくねぇよって突っ込んでくれれば良かったんだ……。
「そんなに凹まないで下さい。
 解っていた事ではありませんか」
「……仕方なかったんだ……別に……うん……」
ファーナに優しく撫でられた……悲しくないやい。

「今のはダジャレと言うやつでしたかっ?
 楽しくないぜってカッコよく突っ込むんだってお父様に良く言われますっ」
「さすがだアイリスぅ!」
手を握ってブンブン上下に振る。
アイリスもレモン色の髪をぴょんぴょん跳ねさせながら笑ってくれた。
人の反応って素晴らしい!

「コウキっ……!」
逆の手を握ってファーナに引っ張られる。
「むあっ!? な、なに?」
無言で、頬を膨らませてアイリスを見ている。
「うふふふふ……うふふふふふふふ」
彼女も彼女で何か思うところがあるらしく俺の掴んだ手をギュッと握り返してくる。
な、なんだこの光景!?
「コウキモテモテですね」
ヴァンが明らかに笑いを堪えた顔でそんなことを言ってきた。
「な、何だよコレっ? ヴァン、俺なんかしたか!?」
「さぁ? お二人に聞いた方が早いのでは?」
手の平を空に向けて肩を竦めるヴァン。
二人には凄く聞きづらいんだけど……。

「あ、あのう、よければ俺を半分に千切る前に理由を……」

実は二人に結構な力で引っ張られている。
『なんでもありませんっ』
グイグイグイグイ……!
二人に問答無用で引きちぎられそうになる。
「あああああああ千切れるぅぅぅぅぅ!
 こう、肩の辺りがっミチミチって!
 心持胸の辺りからパッツリ半分に割れるぅぅぅぅ!」

つか、そろそろ旅立ちなんだけどーーーっ!





「はぁはぁはぁ……」
流石に千切れるかと思った。
「だ、大丈夫ですかコウキっ」
「も、もうちょっとで中間から新しい俺が生まれるとこだったさ……けど、何なのさ?」
「シキガミ様っ引っ張られるのに理由なんて要らないんですっ!
 わたくし達姉妹のスキンシップです!」
「なんてハードなスキンシップなんだ……中立はキツイぜ……!」
近いうちに新しい俺が俺から生まれるかもな!

「ふーん。何でもいいんだけどアリス、あんたなんでその服着てるの?」

シィルがアイリスを見て片眉を下げる。
昨日買った身軽な服。
気分だけでもと言う事で丈夫な冒険者達が着るような服だ。
「走りやすいですから!」
元気一杯に彼女は応えた。
「……なんで走るの?」
一応俺は聞いておく。
「これ以上はシキガミ様にも言えませんねっ!」
「いや、魂胆は見えてるんだけどね?」
なんか隠す気はあるのか無いのか……。
付いてくる気満々じゃん。
「よし。まぁとりあえず城下に下りよっか」
「えぇー!」
「見送ってくれるんだろアイリス?」
明らかに不満だと顔に浮かばせるアイリス。
カードで飛ぶのは街を出て平原で、かな。
「ぷぅっ! 置いてけぼりは酷いんですっ!」
「おお、さも元々連れて行ってもらえるような言い方ですね。
 あまりの自然さに連れて行ってしまいそうです」
「ヴァン冗談言ってる場合じゃないって」
「はぁ……スゥ」
パチンッとファーナが指を鳴らした。
音も無くスカーレットと言うファーナのメイドが現れて、アイリスの両手を捕まえた。
「あ! スゥ! は、放してくださいっ!」
「申し訳ありませんがそれはできません」
バタバタとアイリスが暴れているのにもかかわらず、彼女は微動だにしない。
そういえばオークとのハーフだから力仕事もできる的な話も聞いた気がする。
「それではスゥ、後はお願いします」
「はい。行ってらっしゃいませファーネリア様」
その言葉を聞いて俺達は歩き出す。
そいや即効薬ってここにも売ってる店あったし買いに行こうかな。

「あああっシキガミ様お姉様!!
 どうかわたくしも連れて行ってくださいー!
 お願いしますぅー!
 わたくしも冒険したいー!
 うにゃあああぁぁぁぁぁっ!!」

よいしょ、と担がれてお城のほうに連れて行かれるアイリス。
「お土産買ってくるから授業がんばれよ〜」
笑顔で俺は手を振る。
「はいっ! 頑張って下さいシキガミ様お姉様〜〜!」
それにブンブンと両手を振って応えて彼女はお城の中に消えた。
「……どっちの話でしょうね……はぁ……」
「ん? どうしたの?」
俺はファーナを見て首を傾げる。
「い、いえっなんでも無いですっさぁ行きましょうコウキ」
「うっしゃぁ出発っ」













準備にはさほど時間は掛からなかった。
歩いていくついでの時間だしな。
草原に出て回りに人が居ない事を確認する。
俺はカードを出してもう一度皆を見た。

「改めて! 用意は」
「いいです」
「大丈夫です」
「いいからさっさと行こうよ〜」
「カゥ!」

「…………うん…………」

俺は、カードにマナを通した。

――ィンッ!
真っ白い光が空中に魔法陣を描いた。
「うわ、これは同じなんだ」
シィルが笑っている。
「はい。全く変わっていません」
「ってことはやっぱり落ちるんだ?」
「落ちますね」

光がカードに収束する。
――飛ぶ!
眼を閉じる。
次は――どこだろ――?

ィィィィィィン!!















『おうオメェら元気かよ!』
「よ! 久しぶり! 次は何すればいいんだ?」

俺たちが今回連れて来られた――もとい落下してきたのは思いっきり山の中だった。
空から大きな町は見えなかったので野宿になるだろう。
『良く聞きやがれ。今回はこの山のどっかにある廃鉱の奥でェ』
「廃鉱? 石炭とか掘るのか?」
俺が知ってる掘り出すもんって石炭とか宝石ぐらいしか知らないしな。
『ちっげぇよ。元々はシン原石掘るためのモンだったみてェだがよ。
 今じゃ掘り尽くしたんでほったらかしてるんだとよ』
「げ……なんか明らかにモンスター盛りだくさんの空気がプンプンすんだけど」
だって……廃鉱だぜ?
ありきたりバッチリな肝試しコースつかロープレルートっていうか……。
『いるだろーよォ……原石の欠片目当てに入り込んで死んだ盗賊やらの死体にモリモリ宿ってよォ……
 ぐへへへへへ』
「気持ちわるい笑い方するなよぅっ!」
こいつ俺らがわめき散らすの楽しむ気かチクショウ!
『はっはっは! まぁがんばんなぁ!』
それだけ言うとカードは光を失う。
うーんどうにかもうチョット長く稼動しねぇかなぁ……。

俺達が山の周りを歩くとすぐにその入り口らしい穴は見つかった。
岩肌の見える随分と硬そうな感じだった。
まず俺達は適当にそこにキャンプを張って作戦会議を始める。

「廃鉱ですか……大分危険ですね」
「そうなのか?」
「まず、爆発系の術は使えません。生き埋めになってしまいますよ。
 シルヴィアは飛べませんし狭く視界も悪いです」
「わ、割と最悪な感じなんだけど」
場所によってはまともに立って戦闘できないとか色々吹き込まれる。
ただでさえ不安全開なのに不安要素が増えていく。
「地図がないので手当たり次第動かなくてはなりませんし、物資の補給も今望めません。
 できるだけ一気に攻略しないといけなさそうです。
 ルーメン、アナタはなるべく戦闘に参加せずにもしもの時の為にマナを使わないで下さい。
 全員が倒れた時に運び出せるのはアナタだけになります。
 それに休憩の為の空間も作っていただかなくてはなりません」
「カ、カゥ!」
う、うわぁ……なんか緊張してきた。
「コウキ、食料はどのぐらい持ちますか?」
アキが居ないのでここは全部俺担当。
ヴァンに言われて詰め込んできた食材を思い出す。
「えっと……大体一週間ぐらいかな。
 日持ちしないものは持ってこなかったしほんと長持ちする乾物とかもあるから
 三食摂らなきゃもうちょっといける」
「そうですか。このシン鉱で動ける最大日数がそれですね。
 一日三食は守りましょう。ただでさえ緊張を与えているのに肉体的にもしんどいと危険すぎますからね」
うんうんと皆で頷く。
ていうか緊張与えてるのか。
「まずは此処を拠点にして潜るだけ潜ります。
 往復が難しくなってきたら拠点をシン鉱の中の少し開けた場所などに移しましょう。
 そうやって確実なマップを作りながら進みます。よろしいですね?」
俺はこの中があんまり複雑でない事でも祈ろう……。

「わかった。とりあえず、入ってみていい?」
とりあえず広さが知りたい。
見えてる入り口は山の中にあって、そこまで坂道が延びてる。
3メートル四方ぐらいはあるように見えるけど奥に行くにつれて狭くなるんだろうな……。
「そうですね。リージェ様と一緒に少しだけ中の様子を見てきてもらえますか。
 シルヴィア、私達はこの周りをもう少し見て回りましょう」
「チッあんたと〜?」
不満を洩らしているが異論はないらしい。
しかし手馴れてるよなヴァン……。
なんか準備不足でエライ目にあったことでもあるんだろうか。
「ルーは俺らと一緒な」
「カゥッ!」
元気良く返事して耳を揺らした。

「うっしゃぁ! とりあえず行ってくるっ」
「はい。そうですねお昼にもう一度此処に。
 時間はわかりますか?」
「わたくしが懐中時計を持っています」
ファーナがバッグから綺麗な銀の時計を取り出す。
メッキじゃなくてマジ銀だ。
俺は絶対触らない。

「でしたら大丈夫ですね。それでは私達も参りましょうか」
ヴァンが眼鏡を上げながらシルヴィアを振り返る。
「足引っ張んないでよヴァンツェ」
眉間に皺を寄せて言う。
それでも不敵に笑っているので自信があるということだろう。
「おやワザワザ言うということは引っ張って欲しいのですか?
 飛び上がったら引っ張って落として差し上げましょう」
わざと挑発するように言って歩き出す。
「やんなつってんのクソエルフッ!!」
「では皆さんご健闘を」
最後にもう一度振り返ってそう言った。
「おう!」
「ヴァンツェもシルヴィアも気をつけて下さいね」
手を振って俺達は分担された作業にあたることになった。














「入り口は広いな」
「丁度二人で並んで歩けるみたいですね」
ファーナと一緒に入り口に立つ。
ルーがふんふんと鼻を鳴らしてみている。
予想通りの大きさだ。
でも二人で並ぶならちょっと気を使う広さだ。
剣が思いっきり振れないな。
「少し入ってみよう」
「はい」
ファーナと二人、で中に入ることにする。
「……やはりすぐに暗くなってしまいますね。
 収束:5 ライン:掌の詠唱展開固定
 術式:無限なる灯火<ルーフス>」
ファーナの掲げられた掌に焔が立ちのぼる。
そしてそのまま手を放すと、それはその位置で留まった。
なんだか球体の中で焔が燃えていて、綺麗だった。
「すげー」
「ふふ。相性がいいので殆ど収束を必要としないのです」
得意げに胸を張る。
「コレはわたくしを中心にずっとこの位置に留まります。
 わたくしが動けば動きますし」
「便利だなっ!」
「もともとこういう意図で書かれた術式のようです。
 実は覚えたてなのですが成功してよかったですっ」
うんっと満足げに頷くファーナ。
あ、そういえばこの光り、最初の日にグラネダで見たことがある。
「触ると熱いのか?」
「はい。熱いです」
触らなくて良かったと安堵する。

「カゥ!」
「ん? どうしたルー?」
「キュゥクゥ。カゥカゥッ」
「え、そうなんだ」
「コウキ、何と言っているのです?」
首を傾げてファーナが聞いてくる。
「なんか、誰か人が入ってるらしいよ」
「わたくしたちより先に来ていると?」
「そう。結構匂いが残ってるから数時間ぐらいだろうって」
ルーはまだ入り口を動き回って匂いをかいでいる。
「――そうですか。ここに入る用事があるのはわたくし達だけ……」
「俺達の他のシキガミと神子か……盗賊かな」
「アスカ達だといいのですが」
「叫びで耳が痛くなりそうだけどね」
「それもそうですね。あの声は何処に居ても聞こえます」
俺達はひとまずその穴の中に潜り始めた。
















「……なぁシェイル」
「……何だタケヒト」
足を止めて彼女が振り返った。
オレも足を止めて溜息をつく。
「さっきから全く戻れる気配が無いんだが」
「ああ。そうだな。暗いしな」
「何だよ他人事みたいに言いやがってっ!
 完全に迷ってんじゃねぇかっ!」
声が響いた。
なんせ狭い。
自分の耳に帰ってきて悶える。
洞窟――というか炭鉱っぽい所だ。
いたるところにトロッコの線路が走っていて、すでに光が届かないのでランプの油が切れたら終わりだ。
「お前が地図も書かせず勝手に潜るからだろう」
「ぐあーっ! 自爆かっ!」
「ええい。いいから足を動かせ。今日中に出られればそれでいい」
「くそ〜なんでこんな目に……コレならミレニアとかマルテラに手伝ってもらっヅデッ!」
言い切る前にいい感じに顎を殴られる。
「……何か言ったか?」
「いえ……」
顎をさすりながら思う。
鬼って言わないかコレ。
あ、鬼だったそういえば……くそっ文句にならネェ!
「……! 何か来るぞタケヒト」
声を小さくしてランプを翳す。
消すと真っ暗だ。何も見えなくなる。
目の前の角を曲がった先から足音が聞こえる。
――二人……いや、二匹かもしれない。
向こうもこちらに気付いた。
足音が消える。

――シンと、どちらも動かない。
膠着状態か。

……しゃぁねぇ……近づくか……。
オレは極限まで足音を殺して近づく事にした。
音が聞こえたら、むしろ腹括って走ろう。
シェイルが腕を掴む。
そして静かに首を振った。
行くなと。
確かに待っていたほうが有利だ。
でも向こうも馬鹿じゃないらしく動かない。
不利でも仕掛けて一気に畳めばいい。それが俺の考えだ。
だからオレはシェイルに首を振って剣を持った。
シェイルは少し考えて首を縦に振るとランプを置いた。
動かないと思わせるためだろう。
そこから影が映らないように壁沿いに歩く。

――そして、角にたどり着く。
緊張してきた。
オレは剣を構えて心を決める。
大丈夫だ。シェイルのフォローもある。

ザッッ!!

オレは一気に角へ踏み込んだ。

――目の前!!!
オレは一気に剣を振る。
「だああああああああ!!」
「うりゃああああああ!!」


同時に、剣を振る。

ガギィィィィィィンッッ!!!

大きな音が響いた。
どうやらオレの剣が珍しく止められたようだ。
そして、それが人であるとわかる。


「あれっ? わりぃ! 怪我ねぇか!?」
「いや、こっちも勘違いしてたし。ごめ――」



『どぅぅぅううううえっ!!!?』


お互い飛び退き、対峙する。
コレ再現だ。
あの日あの時の――

「コウキ!?」
「タケぇ!?」


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