第76話『大事件』
*コウキ
大波乱のお昼が終了して、俺達は坑道の入り口前に立っていた。
「まさかあの中で一番黒いのがコウキだとはな……」
「ああ……俺達はコイツの手の中で踊らされてたってわけだ」
タケとキツキがこそこそと話している。
「そんな大層なもんじゃないだろー」
諮ったっていうか。悪戯しただけだし。
「それよりさー今回この人数ってことはすごいの?」
四法さんがそう聞いてきた。
二人同時に同じ場所に小箱が落ちていた。
それは鏡のアルマに宿って凄いことになっていたが。
――なんだったんだろうなあのダルカネルの塔は……。
2つであのデカさってことは今度はどんなのなんだろうな……。
「……まぁ、11対4だったとしても圧勝だと思わない?」
「あ、そっか……でも、前は……」
自分が複製されるという素晴らしい敵だった。
つまり――やっぱり。
「油断禁物だな。んじゃぁ行こうっ」
皆を見回して言う。
『おー!』
半分くらいが反応してくれた。
それに満足して俺は坑道を進むことにした。
隊列先頭に立つのがシェイルとタケの二人。
道も知っているしぴったりだろう。
続いてシィルとヴァン。
遠隔の攻撃手段を持っている二人がそこ。
真ん中に四法さんとジェレイド。
そしてティアとキツキ。
この4人は後で前に出る。
まぁ疲労も考えてのことだ。
そして、一番後ろが俺とファーナ。それとルー。
俺の知覚範囲は広いので不意打ちされる心配が少ない無いぞ。
……この面子でとりあえず行く道で負ける訳が無い。俺はそんなことを考えていた。
坑道は斜めにずっと下に下りている。
二つに三つに分かれながらずっとだ。
「あーあ。これじゃアタシ活躍する場所無いじゃんっ」
四法さんがつまらなさそうに言う。
「ええやん楽で」
ジェレイドがのほほんとした顔で言う。
ホント危機感無いよな……。
「もーアタシらもちょっとぐらい活躍したいじゃんっ」
エイッと、天井の鍾乳石っぽいやつを持っている槍でコンコンつついた。
「あーッこらやめい」
「こういうのって、人の頭めがけて落ちてくるんじゃないの?」
「全部が全部そやったらみんな穴だらけや」
「――ん?」
キツキが急に振り返る。
「なんだ?」
「おい、変な音するぞ」
「コウモリじゃね? さっきもコウモリの声がするって言ってたろ」
「いや、違う。もっと知ってる音だ」
「こう、ミシミシ言ってて……」
キツキが言って耳を澄ます。
……何か、俺もどんどん悪寒がしてきた。
なんでだろう。
さっき、四法さんが突いてた辺りが凄く気になる。
「…………ねーねー。前の人見えなくなったよー?」
えっ?
俺は前を見る。
確かに光が見えなくなっていた。
不味いぐずぐずしていて置いていかれた。
「やべっ追いかけないと……!」
「……! コウキ、アレを見てください」
ファーナに掴まれてもう一度後ろを振り返る。
「何処?」
「ほら――あの鍾乳石から水が」
水道から水を出すみたいに、水があの石から漏れていた。
キツキの顔色が良くない。
「キツキ……」
「皆……急げ――
割れるぞあそこ!!」
キツキがそういった瞬間、バシィ! っと音がして水が噴出した。
「……やばいで。水脈の下かいなここ……!」
「あ、アレってアタシのせい!?」
「いや、あの音自体はそれより前から微かにあった……!
くそ、コウモリにやられたなホント……」
「今なら戻れる!」
「前の4人はどうするんだよ!?」
「しゃーないやろ!?」
「みんなーーーーーー!!! 戻ってーーーーー!!!」
四法さんが叫ぶ。
――ピシッ
「どーーーしたーーーーー!!!?」
タケの声がした。
まだ声が届かない位置まで行っているわけじゃないみたいだ。
「水が――!!!」
もう一度叫ぶ四法さんをジェレイドが口を押さえる。
「もうええ……!」
そう言って彼女を連れて道を戻ろうとする。
ガブッッ
「ッッ!」
ジェレイドの手を噛んで彼から離れる。
「水が漏れてきてるの!!! 早く戻って!!!」
――ピシィィッッ!
悪寒の走る音が響く。
バシャアアアアアアアッッ!!
小さい滝のように噴出す水。
「チッッ!! もうもどれんか……!?」
「そ、そんな……っ! また……アタシのせい!?」
「アスカぁ! しゃーないから責任とろか!!」
「へっ!?」
『暁の星の雫より冷たき光
与えられる無限の冷気』
ピリピリと緊張が走る。
――なんだろう、焦燥感のようなものを感じる。
彼女はその手に双頭の矛を取って掲げた。
『黄昏の月に杯を掲げ
満ちる聖水を刃に変えよ!
キィィィィィィィィンッッ!!!
四法さんが双頭の矛を地面に突き刺した。
するとその場所から一気に地面が凍り、滝の部分も凍らせた。
「――すげ」
ほんとそう思って口にした。
今の水の量は半端じゃなかったがそれを一気に止めたのだ。
「……悪いなぁ。道塞いでもーたわ」
「まぁ、それでも最適の処置だと思います」
ファーナもホッとしている。
「でも、あんまりぐずぐずはしてられ無い。
このヒビ――広がってる。
いくら凍らしたところで、穴が広がるんじゃまた水が下りてくる」
キツキが耳を壁に当てて言って前を見る。
「せやな」
「……多分最終的にはやっぱり全員でぶち抜くか、カードの力借りるしかないな」
帰り道はこの通りだ。
それなら別に穴を掘って出るかキツキの言うとおり、箱を回収して次の試練に飛ぶしかない。
先行していた4人が見えた。
――ピシ。
「……うしっ難しい事は後回しだっ! 降りよう!」
「後回しも怖いねんけどな」
ジェレイドも流石に空笑いでその氷を見ていた。
「じゃぁこの道の幅で氷の壁作っといてよ」
「おお名案。ほなやっとくわ。先降りとき」
ポンと手を打って笑う。
「わかったみんな行こうぜ」
「うんっジェレイドヨロシク」
「アスカはまだ仕事あるんやっつの」
颯爽とジェレイドを置いていこうとした四法さんは首根っこを掴まれる。
俺達は先行する4人と合流して、事情を話すとまた下り始める。
――コレが、最悪の始まりだと知らずに。
ガガガガガガッッッ!!!
ちょ、チョット待て! 崩れる!?
激しい地震が坑道を揺らす。
「うわあああっ!?」
「きゃああっ! キツキーーっ」
「く……!」
「こ、コウキ……!」
ファーナが俺に抱きついてくる。
流石に落盤が怖い。
「……! 見ろ! 地盤が……!!」
先頭を歩いていたシェイルが声を上げた。
「道が――塞がる!!」
タケが走りだし地面がズレて上へと上がって見える穴にシェイルと一緒に飛び込む。
「おい、皆早く……!」
タケが叫ぶ。
「――く……!」
だが他は――
ガガガガガガガガッッッ!!!
全員が、取り残された。
「……」
地面が揺れる中呆然とその穴を見送る。
「と、取り残されたのでしょうか……?」
ファーナが俺に抱きついたまま呟く。
確かにアレにはあの二人しか間に合わない距離だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
徐々に地面の揺れが収まってくる。
目の前は――壁になった。
「……どうする」
「一応、道を戻ってみましょう」
戻れても、氷のあるところだろうが少し戻ってみる。
だが――現れたのは、壁。
「四法さん――! タケ……!」
こんな所で……!
嫌な予感がする。
「完全に分断しましたね……道も人も……。
少し落ち着いて、どうするか決めましょう」
「うぅーキツキ、怖い……」
「大丈夫だティア心配するな……とりあえず、全員生きてはいるみたいだ。
声が聞こえるからな」
「おおっマジで?」
キツキが言うんなら聞こえるんだろう。
「タケは――先に進むみたいだ。
ん……? 四法さんたちも、目の前違う道が出来たって」
「なるほど……閉じ込められたのは私達だけと言うことですね」
――……
割と絶望的な空気が流れる。
「……あっ。見て見て! あそこから水でてる」
言って、ティアが指差すのは向かって斜め上の水。
ちょろちょろとこちらに垂れだしてきていた。
「――ファーナ、あそこ照らせる?」
「は、はい……」
ファーナが炎と一緒に近づいていく。
「――空間……あります! 道です!」
俺も寄っていってみてみる。
――確かに拳ぐらいの大きさではあるが向こうに空間があるのが見えた。
「……でもどうやって掘るんだ?」
キツキが穴を見上げて言う。
「発破なら任せろ! みんな離れてろよっ」
――俺とファーナがその壁に挑む。
『炎を束ね宙を舞い
月の元に舞い降りぬ』
俺は右手に炎月輪を持つ。
――随分と久しぶりな気がした。
すっと、自分の剣しか持たなかった。
そして、やっと分かるようになった。
――コレがどれだけ優れた武器だったのかと言うことを――。
『二対の輪の咆哮
極炎の舞踏』
ミシミシと筋肉に力を入れる。
――マナが、炎月輪に流れて行き、共鳴する。
『
言われるとともに俺はそれを投げる。
炎月輪は思ったとおりの軌跡を描き、壁へと吸い込まれていく。
「収束:500 ライン:右腕の詠唱展開
術式:
そして、ヴァンが俺たちの前に氷の壁を展開する。
――コレを初めて使ったときと同じだな。
ドガアアアアアアアアンッッ!!
音に耳を塞ぐ。
流石に耳を塞いでも結構聞こえた。
氷の壁の向こうでは土煙が立ち込めている。
「……ふぅ……なんつー凶暴な技だよ……」
キツキが耳を押さえたまま言う。
「まぁ別名……イチガミダイナマイッ! って言うんだけどな」
「ださっ」
「ださっていうな!」
「百歩譲ってファーネリアダイナマイトなら許してやる」
「そんなプリティーにしちゃうの!?」
なんて危なげの無い技名に。
「ぷ、プリティーとか言わないでくださいっわたくしがやった訳ではないのに恥ずかしいではありませんかっ」
「じゃ、さらに五十歩譲ってダイナマイトコウキな」
「それ俺が爆発するみたいじゃん! 売れないレスラーみたいだし!」
「譲らなくていいですから普通にの名前にして置いてくださいっ」
「というか、名前がそこまで重要じゃない事に気付いてください」
ヴァンが突っ込む。
「それより、もう進めるみたいですよ」
「おっ。んじゃ行こうか」
穴は結構盛大に開いてた。
穴というか、抉るように道が繋がったので上りやすかった。
「おっしゃ。ファーナ」
後に続くファーナに手を貸す。
「はいっありがとうございます」
よいしょと引き上げて、次の人に手を貸す。
「んっ……と」
「ほい。シィル」
「あ、あんがと」
――ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!
「うわっ!?」
また坑道が揺れる。
「――ヴァンツェ!」
「リージェ様……!」
――まるで、選別されるように。
散り散りバラバラ。
――なんなんだ、ここは……!?
坑道。
光を灯すのはファーナの役目。
――俺と一緒に居るのはファーネリア、シルヴィア。
まだ、マシな方……かな二人とかになった奴等もいる。
「……どうなってんだ……ここ……」
「……意図的……なんでしょうか……」
ファーナが不安そうに、視線を落とす。
「はぁ……生きて出られるかってとこだね」
シィルは辺りを見回して一息つくと、そう言った。
「……そうだな。
――キツキ。聞こえてるか。俺等は全員無事だから。
ヴァンは貸してやるからちゃんと返せよっ」
俺は道があった方向を見ながらそう言った。
「返さなくてもいいけどね〜」
「そんなこと言わないで下さいっ」
「あはははは――生きて、戻らないと会えもしないしね」
少し声が震えているようにも聞こえる。
――あの子に似ていた。
「当然だろ?」
「うん――……こんな時に居なくてどうすんのよ……アイツは」
――うん?
実は心配してるのか?
「……心配?」
「心配じゃないよ」
それじゃ、不安、か。
まぁ……ヴァンが居れば、本当に心配は要らないと思える。
「よし!! とっとと大穴目指そうぜっ」
箱が4つもここにあるんだ。
もうこの穴自体試練だ。
いざとなったら崩壊覚悟でぶち抜くしかねぇしっ。
「こうバラバラにされたって事は意味があるんだっ」
神子とシキガミ単位でなんか試練があるんだろう。
逆に安心できる。
俺達はここに取り残されたんじゃない。
ここで試されてるんだ。
――来るならこいってんだ。
こっちは久しぶりに友達にあってテンションマックスなんだ。
負ける気なんかしないね。
俺は坑道を歩き出す。
「――時々、鋭いんですよね。コウキ」
「……」
コウキが少し前を歩いているのでシルヴィアに後ろから話しかけてみる。
「ご心配なさらずとも、必ずあえますよ」
「別に、アイツ会いたいって言ってないよ……」
「ふぅん? アイツとは誰でしょう?」
皆に、的な意味合いだったのですが。
もしかすると彼女の思わぬ感情を知りえるかもしれません。
「…………アリーに似てるわそのいや〜なところの笑い方」
「ふふふ。わたくしの最も信頼する家臣ですからっ」
「はいはい。会えるとイイネ」
「そうですねっ」
そう答えると足早にコウキに歩み寄る。
逃げられてしまった。
わたくしも光り役なので遅れないようについていく。
――少しずつ、彼女が分かってきたかもしれない。
そのお陰で少しだけ笑顔になれた。
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