第78話『王に捧げる大迷宮』
*アスカ
「もーーやーーーだーーー!!
もぅやああああだあああああ!!」
「我侭言うなやアスカ。あと、五月蝿いと寄って来るで?」
「ルーちゃんっもうルーちゃんだけが頼りだよーっ
ジェレイドとか死体とか死ねばいいのに」
「死体と同じ扱いは酷すぎると思わへんっ? つか死体、死んでるやん」
あたしはルーメンを抱きしめて恐怖を和らげようとする。
「キュゥゥー」
大丈夫ですか、と聞いてくるルーちゃん。
「大丈夫じゃなーーいーーっ怖いーーっ!」
更に強く抱きついてうわぁっと泣き言を動物にぶつける弱い自分。
ルーちゃんも苦しそうだがこうしてないと怖い。
怖いものは怖いに決まってる。
なんでまた死体と戦う羽目になってるのー!
もう怖すぎてやだ。
壁画を見た時点で帰りたかった。
折角会った皆とはぐれちゃうし。
「ゆーてる割には自分ザクザク倒すやん」
「あんたがやらしてんでしょ!?」
それにちゃんと倒さないと局部だけでも動くし……!
腕だけとかでズルズル動かれると鳥肌が……。
うぅ思い出しただけで最悪な気分だ。
「しっかし妙に風あるなぁ」
どっか外に出れるんか? そんな事を言いながらキョロキョロと辺りを見回す。
ああ、そんなことはどうでもいい。
誰かあたしを地上に連れて行ってください。
「カゥッ」
シキガミ様、落ち着いてください、とルーちゃん。
ペロペロと頬を嘗められてなんだか気分が和む。
「え、え? ルーちゃん……」
「カゥッキュゥークゥキュ」
シキガミ様は強いから、全然平気ですっ頑張って下さいっ
そう励まされる。
「え、えへへっそうかな……」
もふもふとした多い毛をサラサラと撫でながら気分を落ち着ける。
ああ……かわいい……ルーちゃん可愛いよ……!
ルーちゃん壱神君に貰えないか頼もう。
荷物は率先的に持ってくれるし、障壁は出せちゃうし可愛いしもう最っ高っ。
「クゥッカウッ」
僕も早く師匠の所に戻らなきゃ、とルーちゃんは言う。
そう、この子は壱神君を師匠と呼ぶ。
もう可愛すぎる。
じゃなくて、ホント壱神君を慕っているようだ。
一緒に来てほしいなって頼んでも師匠と居ると意外と頑固な所を見せる。
色んなものに好かれるなぁ壱神君って。
ホントその才能は羨ましいと思う。
「ほれ。ぼっとせずにとっととこんな物騒な所出ようや」
「あ、うんっ」
ジェレイドと並んで歩き始める。
ルーちゃんは抱いたまま周囲に気を配る。
壁画沿いに右に歩いて、行き止る。
「あ、行き止まり」
「ハズレか。んじゃ引き返そか――」
そう言って振り返る。
カタン……
カタン……コト……
カタン……コトン……
規則的な音が聞こえて、背中に嫌な汗が流れた。
ただ、振り返っただけなのに。
ここは行き止まり。
要するに袋小路。
道は一本しかなくてさっきの下の階よりは道幅が広いと思う。
反射的に自分の武器を取って構える。
光は一応ジェレイドが固定した光を放つ法術で照らされている。
自分達の周り5メートルぐらいがちゃんと見えるがそれ以上は離れるにつれて薄暗く不気味になる。
20メートルは離れて居るそれは妙に白く反射して光る部分が一気に恐怖心に火をつける。
「何……!? 何あれ何あれ!?」
「――気をつけや……」
カタンコトンという規則的で不気味な音は、鮮明に聞こえる。
やたらと見上げる位置に白い棘々したものが浮いている。
ジリジリと後ろに下がってしまう。
「――っ! アスカ!」
ジェレイドがあたしを振り返って叫ぶ。
「下がるなアスカ!! 罠や!!!」
「え――!?」
カタンッッッ!!
バシュッッ!!!
その白い棘の部分が一気にあたしめがけて落ちてきた。
板に棘を刺したようなもので、黒く塗られた木のアームに支えられて浮いているように見えただけなのだ。
そして、端まで追い詰めてハエを叩くみたいに針を叩きつけ串刺しにする。
「カゥゥゥゥゥッッ!!!」
――キィィンッッ!
バギィィッッ!!!
ルーちゃんが額のルビーを真っ赤に光らせて壁を展開する。
あたしをすっぽり囲み、障壁の強度が勝ったのか単にその仕掛けが古かったのか激しく砕けた。
「アスカ!!」
「――……っは、あ、……」
――腰が抜けた。へたっとその場にしゃがみこむ。
びっくりした、どころの話じゃない。
死んだと思った。
「無事やな!?」
「う、う、うん……! な、なんと……か」
ガタガタと体が震える。
ルーちゃんが居なかったら死んでた。確実に……。
その仕掛けは極簡単なもの。
四輪の土台に簡素に柱を立て、ロープを車輪に巻きつけた風を動力とするもの。
木組みの部分は見えにくいように黒く塗ってある。
木の先の板の所は不気味に見えるように光を反射しやすい白。
そして車輪を少し楕円形に作ることにより不気味に近寄ってくる。
一定距離を進むと刃物を結んだロープが、アームと板を固定しているものを切り――
その板の範囲のものを潰す。
どうやらその板も風を受ける役割を負っていたようだ。
って、ジェレイドが言ってる。
あたしには説明されてもちんぷんかんぷんだった。
だから、この階に人が上ってきたら動き出して潰すために作られたモノって所だけ理解した。
つまりそういう罠。
「こんなん何百年前の仕掛けやねんって話やけどな」
こんなん一種のネタやで、と言ってぐりぐりあたしの頭を撫でる。
「そ、そ、うなの?」
今だ震えは止まらない。
本当に……怖い。帰りたい。
でもここが試練なんだから通過する以外に道が無い――最悪だ……死ねばいいのに……。
何とか震えを止めてルーちゃんを抱いたままジェレイドに引っ付いて歩く。
「……ビビリやなぁ」
はぁっと溜息を吐かれるが怖いものは怖い。
だから何も言わずに大人しく掴まって付いて行く。
「……普段からこんぐらい大人しけりゃかわええのに。いたたた」
好き放題言うその口を封じるために腕をギュウッと抓む。
「はいはい。黙っとるわ」
あたしのしがみ付いてる手とは逆の手を軽く上げて黙る。
慌ててあたしはくいくい服の裾を引く。
「なんや?」
「……喋っててっ」
「くはっ……」
口元に手を当ててクツクツと笑うジェレイド。
笑いたければ笑えばいい。あたしはホント超怖がりだ。
コイツといて静かなんて事は殆ど無かった。
まぁやる気の無い時はひたすら寝ているので静かと言えば静かだがすぐあたしが起こして連れまわしてた。
町に出れば色々あって一応冒険者の身分なのであんまり服とか買えないけど一人で見てるよりは楽しいし、
コイツは結構博学みたいなので聞けば答えが返って来る。
やっぱそういう人と一緒に居ると楽しい。
それとコイツの話が面白いというのもある。
――つまり、こいつと一緒居るのが楽しいと感じる自分が居るのだ。
「アスカ」
なによ。
言葉にせずにその顔を見上げる。
どうせバカにするんでしょ。すればいいよっもう!
「……いや、うん。ええか。ええわ」
「?」
「キュゥ?」
「いや、どうもしてへんよ。
にしてもすっごいなぁカーバンクル。ふわっふわやで」
「うん。でも撫でたら結構サラサラしてるよっ」
ルーちゃんを撫でて和む。
「カーバンクルはな、ホント昔から貴重やってん。
額のルビー狙ったハンターがわいてなぁ可哀想な位狩られとった」
「ルビー? これルビーなの?」
「まぁ市場に出ればそういう名前になっとった。
実際はえらい特殊な魔道石でな、コレがあれば魔法使いとも言われとった」
「クゥキュゥ……カゥ?」
コレは取れたら石になるって言うのは聞いてます……違うんですか?
ルーちゃんが質問を返す。
その口調はなんだかファーナちゃんに似ている。
「ああ、寿命で死んだら石コロになるんやけど、
法術でマナ供給の仕掛けをしてから取ると――って生々しいなやめよか。
まぁそんな最低な事して強力な術を手に入れようとしとる奴等がおるんや」
「ホント……こんなかわいいのにー」
ルーちゃんは何か真剣に考えているようだけどあたしはグリグリと撫で回す。
でもそんな事には慣れているのか自然に撫で回されている。
「――でもな、ルーメン」
ジェレイドが笑ってルーちゃんの鼻の所に手を当てる。
「カーバンクルだってタダ狩られとった訳じゃないんやで?
カーバンクル狩りは一攫千金の大仕事やった。
頭はええし、大技使ってくるし殆どのやつはタダじゃ済まんかった。
一時期は人のほうが頭が悪いって言われるほどええ性格しとったよ」
鼻の頭を指先ですりすりと撫でられながら大きな真っ黒い瞳をぱちぱちと瞬きをするルーちゃん。
カーバンクルは随分と昔から細々と存続してきた生き物。
神の使いや幸運の象徴とされてきて、多くは人に崇められてきた存在。
しかし法術が発展し、その宝石の価値を知ると術士たちが目の色を変えてそのカーバンクルを狩りだした。
それにはカーバンクルもさすがに応戦した。
その凄さは――何百年も、法術がその額に匹敵する術を編み出すまで一匹たりとも掴まらなかった事。
それに――何度も戦って、逃げて、殺さず。
ただの一度も――不幸を呼ぶ存在にはならなかった事だとジェレイドは言った。
「ワイはなー、一番誇り高い動物やと思うわ」
ぐしゃぐしゃとルーちゃんの頭にまで手をやって撫でると優しい笑顔を浮かべたまま歩き出す。
ぴるぴると耳を動かしてカゥッとだけ鳴いた。
「――うん。ルーちゃんは立派だよ」
あたしが怖くて動けなかった時もちゃんと守ってくれた。
「――キュゥー……」
僕は強くなっているのかなと小さく呟いた。
「うん。強くなってるよ。きっと」
壱神君を師匠と呼ぶのなら。
きっと勇敢になれるに違いない。
だからきっとあたしじゃこの子の思いには適わないんだろうなぁ――そう思ってしまった。
あたしも毛並みにそってルーちゃんを撫でながらジェレイドについて歩いた。
*タケヒト
――全員と逸れた。
偶然……って事も有りうるな……。
後続の全員が消えた事に少し焦りを感じた。
ランプに火を入れて、道を何度も確認したがどう見ても繋がっている様子は無い。
更に焦って術式をぶち込もうかと思った。
だが――シェイルにそれを宥められた。
お前のトモダチと言う奴はこんな事で死ぬような奴じゃないだろうと。
たった一言で、ああそうか。と納得した。
オレが生きてるのにあいつ等が死ぬようなことは無いだろう。
何で死んだのか分からん奴等しかここに居ないんだ。
あれ? 死んでるから意味なくね?
ん?
まぁいいや。
あいつ等が絶体絶命的な状態を自分で何とかしないわけが無いんだ。
だからいつも通り――あいつ等を信じようと思った。
俺達は先行して進んでいた。
まぁ道も知っていたし大丈夫だろうと進むと――
なんだかよく分からん迷路にぶち当たった。
初めてゾンビって奴に遭遇したがまぁ気持ち悪いのなんの……。
アイルビーバック風味の手首が残ってたがそれすら動き出すしな。
掴まれた足首ごとシェイルに焼かれそうになった。
そんなやっとの思いで迷路を攻略するとでっかい壁画。
不思議な事にオレには読めた。
ランプで照らしてポツポツと読めば結構物騒な意味だったが。
地上に居る時に言語の壁が無いって聞いたけどホントなんだな……。
ま、コミュニケーションはグローバルになるに越した事は無いよな。
階段を上って真っ直ぐか右の道が有ったがそのまま真っ直ぐ進み始めた。
――そして、その階は最後、扉が用意されていた。
「ふぅ。罠も多かったしここらでボスか?」
「さぁな。扉自体も罠かもしれん。気をつけろ」
「はいよっ」
その石の扉――というか、円形の石が向こうに繋がる部屋の前に転がっているので横に転がして道を開けるのだ。
溝があるのでこれはやっぱり扉だといえる。
「――どっっっせいっっ!」
気合を入れて一気に転がす。
かび臭い空気が一瞬したが、それ以外は特に何も起きない。
シェイルを見ると頷いたのでその部屋に入ることになった。
剣を構え先行しシェイルと二人素早く部屋に入る。
こう、イメージは警察とかの突入して銃を構える感じに似てる。
油断はしない。
部屋は20メートル四方はあるシェイルがランプを翳すと中央に不自然に突起する場所があった。
……近寄れって事だ。
何事もこっちから動かなきゃ始まらない。
近寄るとそれが石棺だという事が分かる。
何か出るな。
「……シェイル。先手必勝だと思うんだが」
「……まぁ好きにしてみろ」
オレはその言葉を聞くと間髪入れずに走る。
「おおおおお!! 正々堂々なんざ入り口に置いて来たぜーーー!!」
ブォンッッ!!!
大剣が唸りを上げる。
鋭い斬撃が棺に向かって飛ぶ――!!
ガギィィンッッ!!!
――真っ二つ。
石棺を綺麗に通り抜けた。
今のは修行の成果が出てた。
……にしても特に何も起きないって事はアレじゃなかったのか?
オレはシェイルを見るが同じく首をかしげている。
――途端、また声がした。
『王の眠りを妨げる者よ――立ち去れ。さもなくば殺す』
それは見えないものからの脅迫。
「は!! こっちは試練でここに来てんだ! いいからとっとと出て来いよ!!」
『――愚かなる者に制裁を――!』
ゴゴゴゴッッ!!
左右の壁が下がり、ゾンビの群れが出てくる。
更に先ほど真っ二つにした棺から鎧を着た骨が立ち上がる。
全員が武器を所持しているようで動きもここに来るまでにあった賊崩れとは違う。
慣れた様に円を作りオレ達を囲んだ。
シェイルも紫電の加護の付いた細身の剣を抜き戦闘態勢になる。
「シェイル、オレあんまり二対多には向いてねーんだけど」
「なんだそのデカイ剣はやっぱり飾りか?」
「失礼な。一対多なら余裕なんだよ」
「なるほどな――では我は本体を叩くとしよう」
シェイルはゾンビたちの後ろに立つ骨に狙いを定めたようだ。
目立った武器は剣だが――シェイルなら大丈夫だろう。
オレはオルドの大剣を強く握りなおして一度大きく息を吐いた。
とたん、全員の動きがピタリと止まる。
オレが何かすると感じ取ったのだろう。
――だが、もう遅い。そいつ等はオレの射程距離内だ。
「術式:暴風の突針!!」
ガゴォォォッッ!!!
風と共に針の壁がゾンビたちを粉々にする。
それだけで数匹が青白く光をあげて消えた。
そしてボスの骨までの道が開きそこを一気にシェイルが翔ける。
数人のゾンビがそれを追おうとするが――それはオレが許さない。
「一式:逆風のォォ――!!!」
ゾンビたちがオレに吸い寄せられる。
「太刀ッッ!!!」
ザンッザンッッ!!!
閃く二撃がゾンビたちを通過する。
そのままシェイルの居る方向に二歩走って瞬時に振り返る。
姿勢を崩したゾンビたちが一箇所に集まっている。
――今だッッ!!!
「二式:暴風の突針!!!」
ゴシャアアッッ!!!
一気にその場にいた全てを片付ける。
暴風の突針は範囲が広く、本当に壁が迫ってくるみたいなもんだ。
ゾンビに避けれるような代物じゃない。
オレはシェイルの戦いを振り返った。
「――フッ!」
シェイルが拳で思いっきり鎧を殴る。
バランスを崩した相手に思いっきり法術を叩き込むのだ。
「収束:500 ライン:右腕の詠唱展開!
術式:
バチィィッッ!!!
主に雷が走るような音と共に雷の矢が疾走する。
「うお! 骨が見える!」
元々骨なんだが。
「見てるな! 手伝えタケヒト!」
「おう!」
オレは大剣を後ろに構えて姿勢を低く取る。
ホネはオレに気づいて距離を取ろうとするがシェイルが挟んだ状態に持ち込み、その逃げ場を無くす。
「うりゃああっっ!!」
ガギィィンッッ!!!
オルドの剣が甲高い音を立てて――止まる。
「うわっ! かってぇ!」
相手の大振りの剣をしゃがんでかわすとまた距離を取った。
めんどくさいぞコイツ……!
「――恐らくその鎧はアルマだ。気をつけろタケヒト」
「へぇ――やっぱ業物になるとすげぇんだなっ!」
オレは剣を二回三回と鎧に打ち込む。
同じ場所、しかも間接部分を狙ったにもかかわらずちょっと傷がついたぐらいだった。
これじゃ埒があかねぇ……!
シェイルも何発か雷の矢を放って、あまり効果が無い事に気づく。
「――タケヒト!」
再び挟んだ状態になるとシェイルが声をかけてきた。
「なんだ!?」
「時間を稼げ!!」
「――りょーかいっっ!!」
オレはすぐさま距離を詰めて技を放つ。
「――術式:突風の閃き!!!」
――ギィィンッッ!
ホネの鎧に直撃して、鎧ごと空中に浮き上がる。
オレの得意の突き技でそいつを思いっきり上に向かって突き上げた。
あの鎧は相当なアルマなんだろう。
――だから。
そいつは油断して、オレの攻撃を受けたのだ。
「収束:5000 ライン:牙の詠唱展開」
――シェイルの声が通る。
牙の詠唱は特別で滅多に使わない。
オレの役目はコイツの動きを封じ時間を稼ぐ事。
シェイルの頬と顔の横に牙の術式ラインが光る。
中指と人差し指を合わせ地面に両手の指を触れると詠唱を始めた。
「術式:爆雷の暴劇<ラインクゥ・カウト・ホーイン>」
――ィンッッ……
薄く白い光りが地面にゆっくり描かれる。
――間に合わない。
オレは更にホネを追いかけるように大地を蹴る。
思いっきり飛び上がると、更にその鎧にオルドの大剣の一撃を叩き込む――!
ガギィッッ!!!
更にそいつは上へと押しやられ、オレは地面へと着地する。
シェイルの目の前に半分くらい光の円が描かれていた。
ガゴォッッ……!
妙に響く音が頭上で響く。
鎧が天井にぶつかった音だ。
当然、天井に当たったという事は――
落ちてくる。
ちょうど、シェイル目の前に直径3メートルほどの円が描かれた。
その円はホネの真下の地面で、今の所それ以外の変化は起こらない。
オレは後ろに下がって次に起こるであろう事態に備える。
――そして、地面に触れた瞬間、オレもシェイルも眼を閉じた。
「解放<バウント>!!」
ゴォォッッ!!! ズバアアアアアアアンッッ!!!
その円いっぱいに降りそそぐ雷。
跡形も無く分解するホネ。
消し炭ってやつだ。
質の高い雷撃で分子単位に分解する。
光速で通過する雷に耐えれる物体は存在しない――。
彼女ならではの最強の一撃。
オレは眼を開けて敵の姿を確認する。
――もちろん、その姿は無かった。
流石にアルマだった鎧は残っているが――焦げ付いて先ほどまでの強さは感じない。
試しにオルドで斬ってみたが、あっさりと真っ二つになってその役目を終えた。
「――ふぅ。終わったな」
「ああ」
俺が言うと眼を閉じたまま彼女は小さく頷いて言った。
今の法術で難点なのは設置型ということ。
地雷みたいなものだとオレは思った。
威力は高いが動かせないし自分も動けない、か。
確かにリスクは高いがやる価値のある術だ。
彼女は地面に触れていた手を放し、パンパンッと二度手を払った。
「――さて、行くぞタケヒト」
逞しい頼もしい神子様だ。ホント。
オレも一息つきながらその言葉に頷くとオルドの大剣を背中に収めた。
ゴゴゴッッ!!
丁度そのタイミングで部屋の端にまた階段が出現する。
天井がズルズルと降りてきた所を見るとあいつがやっぱり中ボスだったのか。
シェイルはマントを翻すとそっちに向かって歩き出す。
さて、次はゾンビが出るか骨が出るか。
まぁ――鬼がいるこっちは無敵だがな。
オレもその後について階段を上った。
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