第91話『訣別の時』



 コウキの虚ろな視界の中で交錯する剣。
 鎖が鳴り響き、真っ赤に染まる。
 次の瞬間には金色がソレを突き抜けて、更に紫の軌跡が一刀両断する。
 氷の刃が大きく空間を埋めて炎がソレを溶かし、水の上を雷が走る。
 血のような真っ赤な風が舞い――4組が部屋を四つに分かつ。


「もう遠慮は無用と言う事だな」
 紫電の神子がようやく、と言った風に言う。
 彼女は初めからそうだった。
 だから必然のこの結果になんの動揺も無い。
「キツキ……!」
「タケヒト。アレはもう貴様の友などではない。

 敵だ。

 認識しろ。我等が超えて通らねばならぬ道だ。
 殺すつもりなら。こちらも殺すつもりでかかる。
 それが戦いだ」

 キツキが金色の薙刀をタケヒトに向けた。
 ――殺意と一緒に、視線を投げる。

「そうだタケヒト。
 俺はお前等を殺す。
 その為に存在する。シキガミは、そういう命だ」
 ブラウンの瞳が細められる。
 憎しみ。それを持って忌々しげに顔を歪めた。
「何でいきなりそうなんだよ!!
 洞窟の前でだって、まだ友達だっただろ!?」
 剣を強く握って叫ぶ。
 タケヒトもまた平和主義の一端である。
 このまま皆と協力して、奇跡的な逆転で……全員で助かるなんて漠然とした夢を持っていた。
 抱かずには居られない希望。
 コウキによって皆が抱えていたもの。
 だがそれを振り切って――金色の薙刀を駆る彼は。

「それより以前から俺はこの世界は不公平だと思っていた。
 考えても見ろ。
 この世界は俺たちには不利過ぎる。
 殺すなんて概念は無い世界から来たんだからな。
 俺はそんな甘さのせいで負けるのはゴメンだ。
 だから選んだ。
 王の呪い<エングロイア>は俺の能力の一つになったんだよ。

 まだ分からないのか? 俺はお前等を殺せる。そういう力だ」


 大袈裟に大手を広げて笑うキツキ。
 狂気を孕んだ笑顔は彼の異常さを物語っている。
「――やっぱただ呪われてるんじゃねぇか!?」
「……別に今納得は必要ない。

 理解だけしとけよタケヒト――!!」


 立ち位置から一瞬で詰め寄ってくる。
 ――鏡光ノ瞬は、移動、攻撃手段として最高峰である。
 その技の完成度の高さや属性から彼に属する戦女神の強さを窺うことが出来る。

 ガンッッ
 一突き、詰め寄ったタケヒトの剣の面を押す。
 ギィンッッ
 二撃、その大剣を大きく横に弾く。
 ガコォッッ!!!
 そして顔面に思いっきり蹴り。

 ――その無駄の無い連撃の何一つ。
 タケヒトには反応する事が出来なかった。

「――っが!?」

 数メートルを転げて壁に激突する。
「タケヒト!」
 神子が駆け寄って行くのを見届けてキツキはアスカを振り返った。

「――っ」

 恐怖。その威圧で後ずさる。
 何故、どうして。その疑問をぶつけた所で彼と同じ結果が待っている。
 だから恐怖で震えた。
 あの刃は。容赦なく自分を殺す事が分かったから。

 その姿を見てキツキは興味を失ったように目を逸らす。

「コウキ」
 血を滴らせて右腕を血で染めたコウキを見る。
 息が荒く、ひたすら痛みや焦燥と戦う。
 声をかけられて初めてその焦点をキツキにやった。
「――はぁっ、キツキ、やめろよ、そういう、の……!
 らしく、ないっじゃんっ……!」
「俺らしくない? 悪役がか?
 馬鹿だな。最後に勝ったやつがヒーローなんだ。
 らしいからしくないか。決まるのはこの戦いが終わってからだよコウキ」

 スッと、キツキが黄金の薙刀を構える。


 ザッ、とそこに立ちはだかるのは青い髪を揺らす竜人。
 苛立たしげにキツキを眺めながら剣を構えた。

「――邪魔」
 キツキが一言冷たくそう言い放った。
「アンタがね」
 怯む事無く言い返す。



「術式:鏡光ノ瞬<きょうこうのまたたき>!!!」
「術式:降り注ぐ流星の如く<スティ・ラグマ・テンスター>!!!」

 白の閃光と赤い術式行使光が交差する。
 喜月の直線上に設けた光の鏡。
 その全てが一つ真っ赤な軌跡に貫かれた。
 ――砕ける光の鏡。
 術の途中で放り出されて、高速で床を滑るキツキ。
 術の特性を知られれば打ち砕かれる事もあるだろう。
 正にその弱点を突かれた。
 舌打ちして金剛孔雀を構える。

「ブッ潰す!!!」

 叫んで突進したのはシルヴィア。
 その気迫は今までで最高。
 そうさせたのは彼女と――あの子の怒りだった。
 二つの意志がガチリと同じ方向で一致する。
 淀み無い力の循環、迷い無い唯一つ――大切な物を守るその行動。
 ・・・
 わたしが守るから――!!

 ジャララララララ!!! ズガンッッ!!!

 キツキのかわした剣が深く壁に突き刺さる。
「術式:竜王の踊るが如く<ドラグ・フォン・ヴィーヴァ>」

 ズォ――!!!
 彼女の宣言の瞬間に巨大化する鎖と剣。
 大蛇のようにうねり、引き抜かれ――彼女の有り余る力に振り回される。

 ズトンッッ!! ガガガッッ!! ガシャッ!!!

 災害のような凶悪さでソレは暴れ回る。
 壁や地面は深く抉れ一撃ごとに部屋が揺れる。
 当然蛇のように動き、伸縮自在とする彼女のアルマならではの技だ。
 それを転げまわるように回避しながら確実にシルヴィアとの距離を詰めるキツキ。
 武道においての冷静さでは彼はとても優秀だといえる。
「術式:閃光――!」
「術式:茨が舞う如く<ルソ・デール・スランファ>!!」

 キツキが宣言し終わるより早く、次の術を紡ぐ。
 先手必勝を謳う彼女の必殺は全ての技の先出しそして相手の先読み。
 その能力は竜運加護とともに凄まじい物だ。
 相手とは実践数がそもそも違う。
 彼女は戦争、紛争大小あわせて数十の命を賭けた戦を乗り越えている。

 彼女の持ち技は威力が高く見切られやすい技の数々だが先手に限り大きなダメージを与える事ができる。
 その特性を理解している彼女は迷い無く、その剣を振るう――!

 鎖が金剛孔雀に絡む。
 力比べは――瞬時に勝敗を決した。
「――っ!」
 キツキが中に浮き、大きく宙に投げ出される。

「術式:水妖の演舞<アラクア・チェルド>!!」

 ――ヴァンツェの声が二人の間を通る。
 次の瞬間にはキツキの周りに法術陣が出現しその中心にいるキツキを狙っていた。
 水弾が来る――!
 思考が巡った瞬間に体が防御の体制に入る。


 バシャァッッ!! パシャァァンッッ!!


 水が弾け辺りに水飛沫が舞う。

 その中心には――キツキの姿は無い。


「――ティアか。助かった」

 金色の羽を羽ばたいてラエティアが飛んだ。
 そしてゆっくりと部屋の中心へと降り立つ。

「――っ、よか、ったっ……!」

 眩暈と共に倒れるティア。ソレを小さな驚きと共にキツキが支えた。
 強い感情は伝わる。シキガミと神子は以心伝心し感情を共有しながら戦う。
 同じ感情を覚える共感であれば力に変わるだろう。
 だがティア自身にはあまり見られない負の感情。
 それを強く受け続ける事は彼女には苦痛だった。
 涙が出るけど。頭が痛いけど。
 キツキの為に――堪え、声を殺して。
 かすかな心の声を感じて飛んだ。

「――……」

 キツキは手から消えた金剛孔雀を見届けて小さく溜息を付くと彼女を抱えた。
 そして何も言わず。
 二つの小箱を開ける。
 苦する事無く当然のように開いた小箱から二つの光が飛び出し、カードが9の文字を描く。
 そのカードを手に取り掲げたまま次に移動するためにマナを通す。


「あっ! コラ! 待ちなさい!!」

 シルヴィアが剣を投げるが――ひらりと木の葉のように揺らめいてソレを避ける。


「――もう嘘は吐かない。
 コウキ、タケ、四法さん。次に会うなら俺は敵だ。
 迷わず殺せ。俺もそうする。

 ……ようやく……殺せる」


 偽りではない言葉を、彼は笑って言った。

 激しい光を放ち始めるカード。
 その光から青白い光が混ざり術式陣を描き始める。

 そして――光に呑まれ、消えた。






 ――シン、と静寂が訪れる。
 ジャラッと小さく音を立ててその剣の鎖を握る青髪の竜人、
 そして考えるように顎に手を当てる銀のエルフだけが立っていた。



 黙って手を出さなかったジェレイドは安堵の息を吐いた。
 刃がこちらに向かなかった事は幸運。
 アスカを戦わせるにはデーモンズ・カーストのような強制力と冷静さがいる。
 元々見えている分の強さでもキツキの強さは分かっている。
 彼は神子を守るためだけに戦っていた。
 神子に戦わせる事無く、彼女の歌と自分の力のみで試練を超えてきた。
 この中で一番、経験値の多いシキガミらしい存在だった。
 彼の取った行動は――彼自身による作用。
 予期せぬ結果を招いたようだがその真実を知るのはジェレイド唯一人。
 ジェレイド自身、その天眼の能力で知った事は口外しない。
 彼自身の引いているルールだ。
 気持ちや過去は人に悟られたくないと思う人間が多数のはずだ。
 それは当然。
 思うこと、と言うのは口外しない限り黙秘であり侵入が許されない事である。
 眼によって強制的に見ることが出来てしまうが彼もそんなことぐらい理解している。

 だから唯その状況を納得して――小箱の元に歩いた。

 合計6個の小箱。
 それを全て持ってそのうちの二つ。
 紫電の紋章のついた小箱はシェイルに投げた。



 礼も無く受け取るとキツキ同様カードを取り出す。
 敵意を宿した鋭い瞳が全員を見回す。
 彼女は――そうだ。もっとも神子らしい神子。
 自らの為にシキガミを行使し、もとより躊躇は無い。
 タケヒトを支えて立たせると何か一言耳元で呟いた。
 その声に小さく頷くとタケヒトは頭を振って一人で立った。

「コウキ」

 頭を押さえて顔面を蒼白に変える友人を見た。

「タケ……」

 口に溜まった血を唾と一緒に吐き出して拭う。

「――対等じゃなくなった。オレとお前等は」

 三人が、それぞれに秀でた部分を持って、バランス良く立っていた。

「対等だろ……! 何も変わって無い!」



「オレは……許せねぇ。キツキにもお前にも劣る自分が……!
 今までそうだったお前等と対等じゃないなら――!

 オレも、全力でお前等の敵になる……!!」



 ――ィン!
 タケヒトの言葉の最中で二つの小箱は開き、カードの数字を同じく“9”に変えた。
 そしてまたほぼ間髪入れずにカードの術式が発動する。
 青白い魔法陣が微かな紫電を帯びながら広がって二人を包み込む。
 ずっと対等――同じ意味でライバルだと思っていた奴らが遠い。
 コウキは仲間に恵まれている。
 キツキは強さに恵まれている。
 ソレに対して自分が何も出来ていないその劣等感。
 アスリートとしてのプライド。
 単純明快な行動理由を持つ彼の譲れない能力関係――。

 あいつ等はもう自分の手の届かない場所に居る。

 それを死ぬ気で追い越さなければいけない。
 キツキに当たれば迷わず殺される。
 コウキと居ても何れ戦う事になる。
 戦況の不利を買うのは自分で、甘えてるばかりでは自分が許せない。

 弱い自分などそう何度もぶち当たっても嬉しくは無い。
 鍛錬は欠かさない。
 技だって貰ってるし剣だって預かった。
 それでも自分の力が追いついていなくて結局ボロ負けした自分が許せない。
 歯がギリッと鳴るほどの嫉妬のような情念に強く大剣を握った。

 そしてその刃はコウキに向けられた。


「オレは――!
 お前等だけには、絶対、負けたくねぇんだよ!!!」


 誓った。
 オルドヴァイユに強くなると言った。
 それでも今までは甘かった。
 もっとやるべき事があるはず。出来る事があるはずだ。
 命名でも何でも受けてコイツラの前に立つ時には……!!

 最強に――!

 ――キィィィンッッ!!!






 光に飲まれて、タケヒトの姿が消える。
 残されたのは手負いのコウキ達とそれを見守るアスカとジェレイド。

「なんでだよ……!」

 涙した。
 あの子が居なくなった時と同じ。
 居なくなった友達の為に流す涙だった。

 コウキの左腕からは依然止まらない血が流れ出ていた。
「コウキ、血が……っ止まりません……!」
「っ……ぅ……――ハァ……!」
 流石に限界だったのか、倒れこんでしまうコウキ。
 それには全員が駆け寄った。
「カゥ!」
「コウキ! ……左腕を貸してください。応急処置を。一時的に冷却しておきます。
 数時間以内にキュア班にたどり着けばまだ希望があります」
 ヴァンツェが左腕の傷口を冷やすために術式を唱える。
「コウキ……! わたくし達もカードで出るべきでしょうか」
 コウキの傷口を押さえたり縛ったりしているファーネリアはコウキの血で真っ赤になっていた。
 だがソレは気にする様子も無くひたすらコウキに話しかけている。
「……まずいわね」
 シルヴィアが辺りを見回すが出口らしき物は無い。
 ココから出るには冗談ではなく地上に向かって斜めにぶち抜かなくてはいけない。
 ただヘタに半端に破壊を行うと、生き埋めの危険性がある。
 多少回復したとは言え、固い岩盤を長く打ち抜くことは出来ないだろう。
「ヴァンツェ!」
「分かっています……! ですが、この空間は……!
 その壁で全て法術は吸収されます!
 私ではいくらやっても無意味……
 ですが、今解呪を試しています。もう少し時間を――」
 ――それはこの部屋の呪いの為に。
 古い法術とはいえ王を封印していた年月を耐えてきた術式は強固な物だった。
 解除するには時間が無さ過ぎる。
 破壊するには危険過ぎる。
 カードで移動するのは無謀過ぎる。
 同じジレンマでも今度は全員に関わる問題だ。
 全ての行き詰まりのどれかに賭けるしかない。
 過去全てそれを決定してきたのは――





*コウキ


 ――なんでだよ。
 タケがスポーツのプライドだけは高いのは知っていた。
 キツキは何時だって周囲の為に最良の選択肢を取るのは知っていた。
 でも、その結果がコレかよ……!
 友達と殺しあうのがシキガミなのかよ……!!

 地べたは冷たくて余計辛い気分になった。
「コウキ、大丈夫ですかコウキ!」
 ファーナが心配してくれている。
 残念ながらどう考えても大丈夫な状態には見えないんだろうけど一応頷く。

「こんな時のアンタでしょ!?」
「……少し黙ってください」

 騒いでいるのはシィル。
 ヴァンが黙って壁を触ったり小さく術式を使っていたりと色々考えてくれているみたいだ。
 多分俺が助かる線で考えてくれてる。
 それはすっげぇありがたいんだけど。
 喧嘩してる場合じゃない。
 シィルは基本的に他人を救う事に不器用だ。
 だから感情的になって焦っている。
「ファーナ……」
 ああ、傷口が痛い。
 もう傷口ってレベルじゃねぇな。
「もうこれ……傷口じゃなくて蛇口じゃね?」
 シリアスな顔で固まる。
「もうっそんな冗談を言っている場合では無いでしょうっ」
 笑いたくても笑えないのだろう。困ったような顔で言う。
 時には空気読まないことも必要な事もあるんだぞ?
「よし……立つか。手貸してもらっていい?」
「だ、ダメです。安静にしていないと、あまり血を失うわけには行かないでしょうっ」
 右腕で地面を押し上げる。
 左腕が無い為少しふら付く。
 右足もダメだ。あまり力を入れられない。
 まぁだが座る状態ぐらいにはすぐなれた。

「――壱神くん……」

 四法さんが搾り出すように声をかけてきた。
 俺は少し視界をはっきりさせる為に頭をブンブンと振って四方さんを見る。
 皆が身構えて俺の前に立ちはだかってくれる。
 ファーナが支えてくれてやっと左足で立ち上がる。
 酷くバランスが取り辛い。
 今体重を計ったら絶対痩せ過ぎって出るね。
「あ、あたしは……」
「うん」
「あたしは、変わった方がいいの、かな……」
「それ、俺に聞くんだ?」
 俺は苦笑しながら答えた。
 俺と四法さんの間にファーナが割ってはいる。
「アスカ。聞いたでしょう。このまま甘い関係を続けて居ても後々苦しいだけなのです。
 ……だから出来るだけ早く。関係を断ち切る事が最善だと彼が言っていたではありませんか」
 ファーナが答えは的確でキツキ的だった。
 実際初めはそういわれていた。
 無視して突っ走って現状でも辛い状態を作ったのは俺。
 だからこそ言うべき言葉がある。
 ファーナの言葉の後すぐに俺が続けた。

「俺は変わらない」

 なるべく自然に笑った。
 多分こんな時にこんな事が言えた自分を嗤った。
 でも、間違ってない。


「右足が折れても。
 左腕が無くなっても。
 剣を向けられても。

 絶対、変わってやらないからな……

 あのグロイジャンAとか言うの絶対何とかしてやる」


 最後キョトンとした視線が俺に降りそそぐ。

「くっははははははっ!!
 エングロイアやっつぅに! そこで間違えるかいな普通!
 Aってなんやねん!
 なんやヘコんでないんやなぁコウキっ」

 嬉しそうに笑う氷の神子。
 凄いぞ……全部突っ込んでくれた。
 さすが四法さんの相方だ。頼もしい限りだ。
 俺達のやり取りに全員の警戒が解ける。

「言っとくけど。俺は何にも諦めてないからな。
 死なないし、全員で助かってやるし、全員助けるしっ!」
「そ、そんなこと初めて聞いたのですがっ」
 だって初めて言ったし。
 でもとぼけて笑っておく。
「ん〜? そう?」
「そうですっ」
 ムゥッと俺を睨むので流石に気まずくなって変な笑い方をしたと思う。

「……まぁうん。アタシゃコウキが良けりゃいいかね」
 シィルはさっきまでは何か言いたげに身振り手振りで動いていたが
それが纏まって頭に手をやるとそれだけを言った。
「コウキらしいので私は構いません。やはりコウキはそうでなくてはなりませんね」
 ある意味プレッシャーになる言葉を言いながら笑ってこちらを見た。

 ファーナが俺を抱いて支えたまま数秒睨みつけて溜息を付く。
 ああ、なんかこの流れは想像がつく。
 次の台詞は決まっていて何度も何度も皆に言われてきた諦めの言葉。


「まぁ……コウキですから」

 優しくふっと笑う。

 諦め。そして了承。
 それがその言葉の意味となる。

 壱神幸輝は在り方を変えないことを決めた。
 今までも変わっていない。
 これからも変わらない。
 変わりたくなんか無い。


 消えぬ炎のような意志をその胸に携えて――壱神幸輝は剣を取った。

 そして、自らを加護する戦女神のような壮絶な笑みから右腕に力をこめる。




 周囲の声は聞こえなかった。
 剣の通り道だけを真っ直ぐ見つめ、折れた足に体重を乗せ、歯を食いしばって振りかぶった。


 俺が生きるためにするべきこと。
「後は、任せるっっっ!!!」
 皆を信じる。
 そして、俺の出来る事。

 ――道を、作る事――!!

『術式:――』
 戦女神から貰ったスキル――彼女が最強だと謳う技。
 それが最強でないわけが無い。
 そう信じて疑っていないしコレは俺に使える唯一の“魔法”だと思っている。

『裂』

 大地を切り裂くために。
 助かるんだ。
 全員で。

『空』

 空に向かって真っ直ぐ。
 地上に向かって真っ直ぐ。
 それを道とするために。

『虎』

 虎の咆哮が如く。
 龍に向かって吼える雄姿。
 何時だって脅える事は無い。

『砲』

 身体という砲からその全てを一刀に込め、進むために!

 全てを斬り裂く、最強の一撃を放つ――!



 腕から血もマナも出尽くして、本当に意識が“落ちる”瞬間。
 その最後に見た光景は――。
 俺を支えてくれていた誰かの――金色の、髪の毛だった。


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