第101話『戦女神の神話』

*コウキ


 ――夜。
 程よく涼しくて、藍色の帳が世界を覆う。
 やっぱりこの場所の気候が一番好きだ。

 ジェレイドと四法さんはすぐに見つけれた。
 まぁ元々目立つ二人だったし。
 往来のど真ん中でライブやってたジェレイドを捕まえて、神殿に連行した。
 戦いでの影の薄さについて言うと割りと気にしていたらしく、箱の引渡しの変わりに料理のフルコースを要求してきた。
 ファーナが呆れつつ了承したので俺も厨房せんじょうに入って昼過ぎからずっと調理せんそうに参加していた。

 戻ってきた神殿はファーナの家。
 城の一角に大きく存在する国神殿。
 その主としてずっと過ごしてきたファーナの家なのだ。
 そして今日、食堂を借りて大いに盛り上がる為に俺はグラスを掲げた。
 眼の前に並ぶ色とりどりの料理。
 俺とアキとスカーレットさんの作った合作フルコース。
 いや、コースはこれからどんどん来るんだけど、作れるところは手伝った。
 やっぱ手のせいで結構手間取ったんだよなー。
 ちくしょーとかちょっと思いながらまぁ邪魔する前にとっとと厨房から出た。
 料理を運ぶのはルーができるかなーと思ったんだけど……
スカーレットメイド長……むしろコック長に捌かれるので逃げている。
 食堂までがギリギリ。厨房に動物を入れない完璧主義者だ。
『ココに入る動物は食材です異論は認めません』
 あの台詞は怖い。
 と言うわけで俺やアキが運び出しとかを手伝って並べた。
 お手ごろな時間にみんなを呼びに行って今――全員が席についている。
 ファーナが長い机の中心。その両隣の席にヴァン、アキが並んでる。
 俺はアキ側の隣。ふふふ……。そう。この配置には意味があるっ。
 そして俺の正面に四法さんとジェレイドが並ぶ形だ。
 


「前線組みお疲れ様でしたーーー!」

『乾ぱーーーーい!!』

 カシャンッ!
 ぷにっ! ぷにっ! こーんっ!

 前線組の盛大な打上げを催す事になった。
 残念ながら王様達はやっぱり不参加らしい。


「あぅ、あの〜〜〜っ」
 アキが遠慮かちに声を上げた。
「何?」
「どんどん食べてくださいねアキ」
「そうです遠慮はいりません」
 俺とヴァンとファーナが彼女に言う。
「いや、そうじゃなくてっ」

 みんなでグラスを額や頬に押しつけて満面の笑みで笑う。
 アキの突き出されたグラスには四法さんとジェレイドが乾杯していった。
「顔が冷たいです〜っ!」
『そうですね』
 みんなで声を合わせる。
 しかも笑顔で視線を外さない。
 グラスの向こうで慌てるアキ。
 俺とファーナは両隣りで挟み打ち。
 ヴァンはなんとグラスを持っていない。
 わざわざ浮かしてファーナの前という位置からグラスを届かせて居る。
 額に当たって結構いい音が響いた。シィルの分かな……。
「みんな怒ってるの!?
 怒ってる!?」

「べっつにぃ?」
 ぶっちゃけ言いたい事はいっぱいあった。
 でも、それを咎めるなんて出来ない。
 守られたのは俺だし。
「わたくしは怒ってます」
「ファーナ……」
 しゅんとグラスの向こうでうなだれるアキ。
「ファーナはさ、めっっちゃくちゃ泣いてたんだぞ!」
「あ、貴方もでしょうっ」
「俺は一日で3デシリットル泣いたけど、ファーナは一週間毎日1デシリットル泣いたんだぞ!」
 比喩だけどそんな感じ。
 ほんと――毎日泣いてたのを俺は知ってる。
「何故そのような微妙な単位を……。
 というかあまり喋ってばかりだと二人に料理を食べ切られてしまいますよ?」
「うぅ……何でそれだけ言いながらグラスはわたしにつけたままなんですかっ?」
「流行ですから」
 ヴァンは薄く笑って自分も食事を始めた。

 俺達をじっくり眺める四法さん。
 口の中のパスタを十分に味わい飲み下して口元を拭うと布を当てたまま俺を見た。
「仲良いねホント」
「でしょ」
 四法さんが止めにきた。
 ね? とジェレイドに同意を求めて何も言わないでモゴモゴ食べ続けた彼の足を踏みつける。
「ぐむ……!!」
 紳士の嗜みに長けている彼も流石に吹出しそうになっていた。
 それを根性で耐え切って水を一気に飲み干す。
「はぁ……おまっ……鬼かアスカっ……!」
「しらなーい」
「ったく。そっちもそろそろ限界ちゃうんか?」
 グラスに囲まれて既に無反応になってきたアキ。
 まぁこのままじゃ食事も出来ないし。
「あっはっはんじゃーお疲れ〜」
 グラスをアキの顔から放してみんなで再び乾杯。
 カシャンッとまたグラスの甲高い音がして四つグラスが交わった。
 ついでに空気を読んだ四法さん達ともグラスを交す。
 よし。とりあえず満足っ。
 そう思ってぐいっとそのお酒を飲み干す。

「顔が冷たいです……」
 唸りながらほっぺたをぐしぐしする。
「はははっ冷たいのとお酒と併せて二倍効果であったかくなるよっ」
 後から血行が良くなって凄く顔があったかくなるに違いない。
「むっ」
 半分頭の中だったがグッと指を突き立てると俺だけにお返しが来た。
 プスッと爪が刺さる。
「いたっ!? 俺だけ!?」
「コウキさん以外に手が届きませんっ」
「いたたたたた。刺さりっぱなしですよお姉さーん」
「刺してますから!」
 悪気のあるウフフな笑みをしいてぐりぐりと指を進めてくる。
「ねー。ご飯食べない?」
 四法さんがはぁっとため息をつく。
 あまりぐだぐだしていたからだろうか、スカーレットさんの目つきが厳しい。
 折角作って貰ったご飯だし、美味しいうちに食べないと駄目だよな。
 その反省の意味を込めてイタダキマスと言って食事を始めた。



 和やかな日常を過ごす。
 本当に食事は美味しくて、スカーレットさんには何度もお礼を言った。
 アキと二人で何度も美味しいと言ってるとファーナみたいに逃げる可愛い人だ。
 でもいつの間にか戻ってきて、飲み物を注いでくれたりするあたり完成されたメイドさんだと思う。

 食事はそんな感じ。
 本当に、ただ懐かしい『おかえり』と言われる様な空間。
 久しぶりに話す六人。
 初めて会った時の事から。
 順に追われる時間。

 もう少しで元通り。

 だから。頑張らないと。





 夜も更けて空が星に覆われた。
 フカフカのベッドからボーっとそれを見ていると、部屋の扉がノックされた。
 コンコンコンっ
 俺は素早くベッドから起き上がって、扉の前へ行く。
 コンっ
 無駄に居ますよ宣言。
 トイレノックと言う。
 コン
 それに表からのノックが返る。
 むぅ……やるな。
 コンコン
 コンコンコン
 コンコッコーンココッ
 ――ノッてきた。
 カッコッシュコーンココッコッコッコーンココッコッカッコットントン


「って、早く開けてくださいよコウキさんっ」
 さすがに耐えかねたのか外から声がした。
「あいよーっと。もうちょっとでサビだったんだけど」
「サビとかあったんですか……」
 ガチャンとドアを開けてその声の主を見る。
 ああ、やっぱりアキか。
 髪が濡れていて肩にタオルをかけている。
「あ、風呂上り?」
「はい。コウキさんもう寝ます?」
「いいや。さっきまで本読んでたし、もうちょっと起きてるよ」
「あ、そうなんですか? 少しだけお邪魔してもいいですか」
「いいよーどうぞ?」
「お邪魔します……」

 アキを部屋に招きいれて椅子を勧める。
「ありがとう御座います」
「いやいや。ていうか、髪それじゃ濡れる事無い?」
「あー。まぁ、そうですね」
 髪が長いと背中に当たってパジャマが濡れる。
 パジャマってか簡素な服なんだけど。
「んー? タオル巻かないの?」
「へ? どーやって巻くんですか?」
「えっとねーじゃぁ俺が髪上げるからタオルを両手で持って」
「あ、はい」
「んで真ん中額で押さえて、ぐるっと、そそ。
 で、額側に端が来るから中を裏返して固定する」
 ねーちゃんがよくやってたなぁなんて思いながらその光景を見る。
「あ、すごい。画期的かも」
「だろ〜?」
 俺はねーちゃん居なかったら分からなかった。
 アキにもそうやって教えてくれる人は居なかったんだろうな。

 お風呂上りのいい匂い。
 なんかすげぇ恥ずかしいことしてんじゃないの俺。
 そんな考えを振り切るように、もう一つある勉強用の机から椅子を引っ張り出して対面に座った。
「よいせ。
 にしても今日はご苦労様。
 アイリスとの話どうだった?」
「あ、アイリス様とは本当にいろいろ話しましたよ。
 最後には泣いてましたね……。
「ああ、またか」
「あはは……ファーナと話した時も泣いたんだって。
 握手して……よかった、おかえりなさい、って言ってくれました」
 そっか。やっぱりいい子だなぁアイリスは。
 お土産持って帰ってきた甲斐があった。
 そう思いつつ、その話にそっか、と頷く。
「そういえば本を読んでたんですよね」
「うん。ヴァンに借りたんだ。ラジュエラの本」
「ラジュエラ? 戦女神の?」
「そう。戦女神って、大体全員逸話みたいなのがあるんだって。
 童話っぽいやつだけど、ラジュエラにもあるって聞いたからさ」
「童話ですか」
「あっウマイね。どうゎですか。ウマイ!」
「そ、そんな風には言ってませんよぅ」
 笑いながら俺は机に置いてた本を取る。
 童話というか、戦女神の神話を集めた本。
 目次には何百人という戦女神の名が記されている。
 ペラペラーっとめくってアキに渡した。
「あんまり長くないし読んでみるといいよ」
 アキは頷いて、本を自分の近くに寄せる。
「丁度いいや。なんか飲み物作ってくる。紅茶でいい?」
 読んでるのを眺めていても仕方が無いか、と俺は席を立つ。
「あ、はい。ありがとう御座います」
 頷いて俺は部屋を出た。
 そうだなぁ。
 他の人にも感想を聞きたいし丁度良いや――。
 俺は月明かりに照らされる廊下をキッチンに向かって歩いた。





 ――戦女神ラジュエラ。
 彼女はそれはそれは美しい竜人でした。
 女性でありながら強く、気高く。
 人の最高峰の位の人でありながら加護神のような存在でした。

 彼女には夫が居ました。
 それは剣聖<グラディウス>と名高い双剣の主。
 二人は双剣の主であり普段は仲睦まじい夫婦で村人からも好かれて居ました。
 厄災を遠ざけ、人々と平和に暮らして居ました。

 あるとき人々はそんな二人に嫉妬を抱きます。
 王でも無く神でも無い。
 同じ人でありながら竜人と呼ばれ崇められる。
 そんな二人が得た能力と名声は少しづつ――人々の悪意に変わった。

 ある日グラディウスは村人から山に化け物が出たと駆出されます。
 村の子供が山の神様の祠の封印を解いてしまったのです。
 解放に嗤う神にグラディウスは勇敢に挑んで行きました。
 そして――勝ったのです。身体に呪いを受けながら彼は村を守りました。
 ですが、そんな彼に村人は言います。

 『邪神の呪いを受けし汚れた化け物め。
  二度とここに戻るな』

 罵声と石から逃げて彼は山に籠ります。
 自分の何がいけなかったのか分らないまま、獣の様に叫びました。
 ですが村人を恨んで居た訳ではありません。
 ただ――会いたい人の為に。

 ラジュエラにはグラディウスは死んだと伝えられました。
 悲しみに暮れる彼女に幾人もの男性が挑みましたが彼女は全く相手にしません。

 そして少しだけその悲しみが冷めて剣を持つ様になった頃――。
 彼女に村の女性達が言いました。
 北の山で邪神に取り付かれた魔物が暴れて居る。
 このままでは怖くて外に出られない。
 タスケテ。と。

 彼女は剣を持ちその魔物を退治することにしました。


 魔物は二本の大きな角で山の神に似て居ました。
 ですが明らかにその神々しさは失われ、荒々しく山を荒らして居ました。
 ラジュエラは三日三晩戦ってようやく邪神となった山の神を鎮めました。
 そして……弱った邪神の胸に剣を突き刺します。

 その亡骸は、彼女の夫でした。

 彼女は泣いて、謝りました。
 何度謝っても、亡骸は何も言いません。
 悲しみに暮れ、世界に絶望した彼女は――

 もう一つの剣で、自らの胸を貫きました。

 村人達がやってきた頃には、二人の姿はありません。
 ただ、透明に輝く夫婦剣がその地面に突き刺さっていました。

 その綺麗さに人々は涙を流しました。

 あんなに、綺麗だった理想を失った。

 村の人々は自らの愚かさに気づいたのです。
 自分達の嫉妬に後悔し、涙を流しました。
 二人を神として崇めるために、その剣は山奥の祭壇に奉られました。
 人々はその過ちを繰り返さないよう沢山の奉納と祈りをささげました。

 その双剣を見初めた戦神ランバスティはその剣に名をつけました。



 悲壮なる涙の葬剣<ラジュエラ>



 そして輪廻するグラディウスに永遠にその剣を与え、ラジュエラを戦女神としました。







 厨房を荒らすと怒られるのが目に見えているのでサッとやってサッと片付けてティーカップを借りてきた。
 寝る前だしな。あったかいストレートレモンティー。
 トコトコ返ってきたはいいものの、しまった。扉が開けられないじゃないかと気づいた。
 うーん。
 とりあえず部屋の前まで戻って、部屋の前に花瓶用の棚がある事に気づいた。
 なんていうか、自然すぎたからそういえばあったなぁっていう気づき。
 そこにトレーを置いて部屋の扉を開ける。

「……はぐぅぅぅぅ……ぇ……あっ……」

 号泣してらっしゃるアキを見て戸を閉める。
 わりと感情移入して本を読むタイプらしい。
 とはいえ、目が合ったし入らないわけにも行かない。読ませたのは俺だしなぁ。
 とりあえず何も言わずにスッと入って目をグシグシとしているアキにと紅茶を置いた。
「ぅぅ……ご、ごめんなさいっ……ありがとうございます……っ」
「んーん。どうだったよ」
「ええと……感動しました。やっぱり、ラジュエラ様は凄い美人さんなんですか?」
「え、そこ気にするの?」
「聞いてみたいだけですよぅ。物語もそうじゃないですかっ」
「うーん。まぁうん。超美人さんだ。
 笑うと凄いんだぜ。戦慄を覚える……ヒィーッご勘弁をーっ」
「コウキさんっ大丈夫ですからっ今は居ませんからっ!」

 だって笑ったらいつも俺が死ぬカウントダウンだもんな……。
 ガタガタと身震いをして気を逸らすように意識をアキに持っていった。
 竜人といえば彼女もそう。
 ていうか、シィルも結構笑いながら戦ってた気がする。
 涙目で、はてな、と首を傾げる彼女からは思いもよらない姿だ。

「俺このネタ使ってラジュエラからかって来るよ」
「そんな事したら次こそ帰ってこれませんよ……」
「かなぁ。まぁ本気で来いって言われてるからさ。
 そんぐらいの覚悟はいるかも」
 ふぅっと息をついて自分で注いで来た紅茶を手にする。
 コレを見てどうやって戦意につなげればいいんだろう。

「ラジュエラ様って……意味が……その、『戦場の狂喜』じゃ無かったんですか?」

 『悲壮なる涙の葬剣』と名づけられているその双剣。
 ノヴァは確か戦王との戦いで『戦場の狂喜』と呼んだ。
「ああ……それは俺もシラネ。俺は気になるのはそこじゃなくてさ」
「どこですか?」

「なんで……死んだのかな……」

 生きていれば。
 こんな悲しい結末じゃなかったはずなのに。

「……好きだった人を殺しちゃったんですよ?
 それって取り返しがつかないじゃないですか……」
 涙の跡が残ったまま。
 憂いを帯びた瞳を下げてアキが言う。
「……取り返しはつかないけどさ……
 死ぬことは償いにもならないじゃんか……」
 俺の意見は、そう。
 生きてくれよ。俺の分まで幸せになんて言わないしそれでもその誰かの幸せは願うけど。
 重なるんだって……アノ人とさぁ……。
 チクショウ――……。

「……わたしも……死んじゃいたいって思うかなぁ……」
 アキは本に手を置いてそう言った。
「……っなんでさっ」

「ええと……好きだから、かなぁ……」

 困ったような顔をして言う。理由となりえることがそれぞれで曖昧なのは分かる。

「うあっもーわっかんないぞ!
 なんでだよ!
 なんで幸せになろうとしないんだよ!」

「うんん。違うよコウキさん。
 幸せになりたいんだよ。
 だから、誰かを好きって、凄い」
「??」

 分からない。
 誰かを好きって、何なんだ。
 生きてないと何も始まらない。


「――そのわたしにも、あんまりわかんないけど……
 一緒に居たいし、触れて居たいし、笑ってて欲しいし、守りたいし、守って欲しい。
 ええとっまだいっぱいあるけど……いろいろ。
 あははっ、わがままかなぁ。
 でも、一人の人に対してだよ。
 想ってるんだよ。
 それに、答えてくれてね、大事にしてくれたらずっと……
 ……大好きなんだよ。きっと。
 ずっと一緒にいたいから」

 刃もその胸を通すことが出来るのだろうか。

「怖いじゃん……」
 刃は銃みたいな一瞬の勇気じゃない。
 身を切り裂く覚悟が必要だ。
 血を流す痛みを受けることが必須だ。
「うーん……理屈にするのは難しいかなぁやっぱり」
「……そっか。
 実は俺さ、こういう風な問いかけを前にやったことがあるんだよ」
「えっ誰にですか?」
「姉ちゃん」
「へぇ……で、なんて?」

 俺は溜息を吐いた。
 姉ちゃんにも聞いた。
 俺が死んだら、なんて冗談見たいな話を。
 あの人はしょぼくれなければとっても前向きで凄い人間だ。

 俺が――弟離れしろよ、と言ったときの話だ。
 その話自体は何度もしてたんだけどな。
 『そんなんじゃ姉ちゃん俺が死んだらどうするのさ』
 『わたしも死ぬ』
 『駄目』
 『えぇー! じゃ、幸輝ロボ作って愛で上げるもん』
 『そういう気持ち悪いことも駄目だっ!』
  そんなの作られた日には死んでても破壊しに行くし。
 『じゃぁやっぱりさびしくて死ぬ』
 『ウサギかよ』
 『にはは。だってー。さびしいから。
  恋する乙女の行動力は最強だしね!
  何だってするんだからっ!』

 びしぃ! と指さされて熱弁されたが何が何やらさっぱりだった。
 その件を思い出して、思わずアキの前で思い出し笑いしてしまった。
 恋する乙女、ねぇ。
 男の俺にはわかんねぇって事だろうなきっと。

 思い出し笑いの事からアキに姉ちゃんが言ったその言葉を話す。
 アキもさすがにそれには笑ったが――。
「やっぱり、コウキさんのお姉さん凄いですね。
 その通りだと思いますっ。
 だから、男の人はずっと一緒にいてくれないと駄目なんですよっ」

「難しいなぁ……」
 単独の意志じゃない。二人の意志として。
 ああそのあり方はなんだろう。

 神子みこ、と、シキガミ、に似ている気がした。

 アキは続けて姉ちゃんについて聞いてきた。
 ああ、今日は結構寝るのが遅くなりそう。
 苦笑しながら、アノ人と過ごした日々を追いかけた。


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