第117話『コウキ隊発足』


 茶に赤の映える空間で机には大きな地図が描かれていた。
 窓から見える外の景色はステンドグラスみたいに綺麗な色をしている。
 会議室というこの部屋は広く豪勢だった。
 急ぎ用ということでおっちゃんの近くに俺は立っている。
 席に座ると妙に遠くなるのだ。
 ヴァンとアキが机を挟んだ向かい側。
 ルーはファーナが抱きかかえている。
 久しぶりに俺たちがパーティーで揃った気がする。

 そんな俺達だがどうせあと2,3日で出発の予定だった。
 ある意味幸運だったと王様は言う。
 カードで飛んでしまえば――そう、俺達が何処へ行くかなんて分からない。
 いつ帰ってくるのかもだ。
 だから今事態が起きることは幸運。

 そう言った王様に言い返したのはファーナだった。
 自分達が居なければこんなことにはならなかったのでは。
 王様は首を振った。
 神子の居ない国は堕ちた。
 そうでなければ狙われなかったわけではなく、恐らく同じような結末になっただろう。
 ただ、圧倒的唯一の戦力の前に国が落ちる様があっただけ。
 ――だが。

 この国には、お前達が居てくれた。

 そう、この瞬間である奇跡。
 だから俺たちの役割。
 ファーナが決意を固めた。
 だから俺の決意も固まった。
 俺は国を守る英雄じゃない。ファーナを護る剣だから。
 彼女の意志に答えるために、少し強く拳を握って、続きを促した。





「お前達には――……先行して偵察をしてもらいたい。
 サシャータまでは通常通りに行けば3日は掛かる。
 まずグラネダの橋を渡り森を越える。ここで1日。
 そこからは登山になる。
 そこは1日かけて登り終え、2日目でサシャータの中心都まであるかなくてはならない」

 グラネダ王、ウィンドが地図を辿った。
 ファーナの父親で鉄拳の王と呼ばれる武闘派の王である。
 王様なんだけどおっちゃんって呼んでる。
 別に呼ばれ方を気にしないし、むしろ自然すぎて気づかなかったらしい。

 で、そのおっちゃんは道順を辿り丁寧に教えてくれた。
 いい終えて俺もこの地図で言えば西側……トラン側しか旅をしていないがまだまだ全国は広いみたいだ。
 この地図は一応世界地図ということらしいがまだまだ未開の地や、新しく出来た土地、というのが存在するらしい。
 なんて忙しいんだ……ていうか、地図は描いてあるけどあってる保障は無いってすげぇな……。
 こういうところこそ確かに人工衛星とか必要なのかもな。

「本来ならソレが正しい……が今回は急ぎだ」

 キラッと鋭い眼光が俺を向いた。
 そして妙にニィっとした顔で笑う。
 歳が歳だけになにやら考えてる風味な顔をされるとさすがに恐い。
 王としては年齢は若いし動くからだろうか顔も若い方だと思う。
「ま、まさか……アレをお使いになられる気ですか?」
 俺より先にヴァンが反応した。
 その声に嬉しそうにさらにヴァンのほうを見る。
 ヴァンはその整った顔の眉間に少ししわを寄せた。さらに蒼い眼が細められる。
 どう見ても迷惑そうな顔である。

「今使わずにいつ使うのだ!」

 出たよ……そのセリフヤバイよ。
 言い放つおっちゃんは元気で楽しそうである。
「……で、アレとは?」
 ファーナが父親に聞き返す。
 ちょっとだけムッとした顔で紅の瞳を父親に向ける。
 そういえば髪がだいぶ伸びた。
 最初肩口くらいだった髪は背中の肩甲骨あたりまで伸びている。
 んー。なんとなく大人っぽい雰囲気? いや、ちがうな……。

 王様が得意気に腕を組んだ横でヴァンが溜息をついた。
 ああ、なんか凄く嫌な予感……。


「聞いて驚け、北の国までひとっとび!
 森も山もなんのその!
 必殺法術陣・ジャンピングスターを使う!」



 うさんくせぇえええええ!!!


 俺の全力の心の叫びは届くことは無かった。


 今世紀最大の胡散臭い名前の法術陣。
 まぁ意味は俺でも良くわかる。
 ジャンプ&スターだろ?
 飛んで、星に……。
 ……
 ……
 ……当然星になるのはカンベンだ。
 カードだけにして欲しいよ、ホント……。

 と言うわけで早速、だ。
 準備が整っている俺達はすぐさまそのジャンピングスターのある場所へ連れてこられた。

「王様! よくぞいらっしゃいました! ジャハハハッ」
 そこに現れたのはモジャモジャと髪が被い茂った物体A……。
 その白衣からキュア班の研究者か何かだろうという人物が現れた。
 声から想像するに年齢はおっちゃんと同等か少し若いぐらいか。
 なんせ顔は見えない。もじゃもじゃしてて。
 や、全方向が髪の毛なんだ。前見えてるのかなぁ……。前なのか後ろなのかもイマイチだし。
「カリウス、ご苦労。
 ジャンピングスターの実け……オホンッ! 行使を願いたい」

「今……実験っていいそうになってませんでした……?」
 アキが小さい声で俺にささやいてくる。
 すぐ隣に赤茶色の頭が見える。
 丁度俺の目線が頭のてっぺんぐらいの女の子にしては長身。
 欠点ではなく全て彼女を引き立てるものであるが。
 可愛い顔立ちの彼女が上目遣いに俺にそう聞いてきた。
「多分……ね。ヴァン。カリウスって人……?」
 ヴァンを巻き込んでさらに聞いてみる。
 表情も格好も変えず、彼は小さい声で喋りだす。

「カリウスは研究者の一人です。
 術の研究者としては交通や城壁の構築に大きく貢献しています。
 彼は見てくれは変人ですが素直で国王には絶対の信頼を寄せています。
 王も彼を気に入っているようでよく遊びに来るようですよ」

 聞き終わって二人を見てみれば子供みたいに笑いながらなにやらを話している。
 いつでも行使する準備は整っているとか。

「……そういうの、ヴァンの仕事だと思ってたよ」
「私も確かに術士として研究もやりたかったのですがなにぶん管理の仕事がありまして。
 是非、ジャンピングスターというもののご説明をお願いしたいのですが」

 言葉の半分を俺ではなくカリウスというモジャい何かに向けた。
 二人の会話の切れ目に割って入る形になりカリウスという人がこちらをたぶん向いて恐らく驚いた。

「おお! ヴァンツェ様! 説明いたしましょう。ジャハッ
 ジャンピングスターは空術陣第五系の派生起動に成功したものです!」
「ほう……。空の五系、ですか」
 ふむ、といつものように思考に入る形を取った。
 ――それがオカシイことにその瞬間は気づかなかったが。
 ヴァンはこと術に関しては間髪を入れずに答えを返す。
 術を行って何をしたか、そういうものの意味が分かればすぐに次を促す。
「………………五系の派生?」
 ヴァンが訝しげな声を上げる。
 王様もニヤッと笑っている。
「なるほど……お疲れ様です。
 で、その効果は?」

 なんだか良くわからない説明が目の前で流れていく。
 あれだな……こう、初めてバイトに入って、専門用語が分からない状態。
 というか本当に何の意味なのか良くわからないのでファーナに聞いてみることにした。
「ごめん、俺さ、ぜんっぜん詳しくないからわかんないけど、
 アレ? 電車の300系がカッコイイとかそういう系?」
 電車好きの言う500系だから何なのかさっぱりといったところだ。速いのか?
 クスクスと笑いながら口元に手を当ててファーナが話し出す。
「……でんしゃが何かなどはさておきですが。
 まず法術陣が何か、それを分かっていますか?」
 おっと、コレは基礎だ。流石に俺だってわかる。
「法術を使ったときに出るやつだろ? 手の前とかにひゅーんって」

 ファーナやヴァン、俺だってそうだが術式の行使があれば法術陣が現れて消える。
 その術陣は一つの何らかの模様を描く。
 衝撃緩衝術式の時は二枚。かな。足元に一枚とその上に円形の術陣が重なる。
 ファーナは頷いて説明を続けた。
「はい。そうです。
 ちなみにこれは研究員の専門用語になるのでわたくしもあまり詳しくはないのですが……。
 単純に、その術陣の重なった枚数が系列になっています。
 五系というのは5枚の法術陣ですね」
 なるほど。系列は簡単だ。
「じゃぁ派生っていうのは?」
「派生というのは五系の正術式として一つ術式があるとします。
 それと同じ術陣を並び替えたり大きさを変えたりして違う術が発動する場合があります。
 それが派生、ですね」
 ピコッと人差し指を立てて簡単に説明を終えたファーナ。
「なるほどっ」
 凄く分かりやすかった。
 アキと一緒にうんうん頷く。
「へぇ〜でも術陣式で書いてるって事は設置型?」
 うーんとアキが顎に手を当ててヴァンたちを見る。
「そうですね。詳しくは知りませんが」
「ん? 設置って?」
 設置型だから言葉のままなんだろうけど。
 何で普通のものと分かれてるんだ?
 アキがゆっくりと俺のほうを向いてハッとする。
「あ、それはそのままの意味ですよ?
 ラインでの術式からシンを受けて術陣を構成するのがいつもファーナやヴァンさんが使ってる奴。
 逆にそのまま術陣を書いてそこにマナを与えて発動させても同じ効果が出るんです。
 また、集団でマナを集めて発動させる術式なんかも設置してからの発動が必要になりますし」
 なるほど。なんか集団儀式が必要だったりするものがあるって事か。

 それにしても枚数、か……。
 枚数で一番凄いのを見たのは……フォーチュンキラーかな。
 初めてアレを発動させた時なんか多分百とかそんぐらいあったぞ……?

「なぁファーナ、もしかしてカードって凄い?」
「はい? シキガミの、でしょうか」
「そう、それ」
「凄いも何も……魔法のようなものだと言っているではありませんか。
 それは貴方も同様なのですよ?」

 ドスッとファーナの指が腕に押し付けられる。
 半目でぐりぐりとやられているあたり、やっぱり俺は相当な無自覚だったらしい。



 俺が初級講座を開いてもらっている間にヴァンが説明を聞き終えた。
 こちらに丁度向き直ったところに、俺が話しかける。
「よし、じゃぁヴァン、ジャンピングスターを一行で説明してよぅ!」

「乗ると飛んでいきます」


 そのまんまだった!


 思った通り過ぎて何も言えず唖然としていると、ヴァンがやはり詳細が必要ですね、と付け加えた。

「これは空属性術式なので王妃様の使える術式の参考に作られた術陣です。
 本来なら力加減だけを指定できて、上に飛ばしたり横に飛ばしたりする術陣なのですが、
 それに目的を指定することができるようになったようです。
 つまりここからアルクセイド、と指定して飛べばアルクセイドまで飛べる代物です」


 あ! 知ってる! 俺ソレ知ってる! 
 キツキんちでやったゲームだけど!! ルーメンみたいな感じの魔法!

「ただし、緩衝術式の無い場所に落ちると――

 死にます」

「死ぬの!?」
「死ぬんですか!?」
 アキと同時にヴァンに突っ込んでしまった。
 そんな俺たちに手を翳してフッと笑うヴァン。
「はい。通常ならば、ですが」
「……ああ、なるほど。そこで早速コウキの出番ですね」
 ファーナが笑って俺を見た。
 お陰で役目は瞬時に理解できた。
「……ああ……俺がクッションね……」

 いつも通りではあるのだが。







 カリウスという研究員とおっちゃんに連れられて、研究塔の屋上へ足を運んだ。
 研究塔の屋上は城より立っている場所が低い。
 背面は崖と絶壁になっていてデンジャラス。
「しかし、この位置からサシャータに飛ぼうとしたら崖に衝突しませんか」
「します! ジャハハハッ」
 ヴァンが言ったことは盛大に肯定された。
 カリウスってひとは笑い方が特殊というか。ジャハハ。いいなジャハハ。
 モジャいけど。
「ハッハッハ! ヴァンツェ。お前らが飛ぶのはあっちじゃない。こっちだ」
 王様が背面から城のほうを指差した。
 城を超えれば向こうはたしか丘があって開けていたとは思う。

 王様は俺達のほうへ向き直って腕を組んだ。
 風が大きく舞い、羽織ったマントが翻る。
 黒髪が靡き、鋭い眼光が俺達を見回す。
 空気だけで真剣だとわかって俺も王様に視線をやった。

「お前達は王女を追ってもらう。
 合流してサシャータに向かえ。
 あと、小隊として構成するために、一人騎士を連れて行け。
 お前達の知っているヴァース、ロザリア、カルナディア、アルゼマイン。
 一人選ぶといい。会わせておいて正解だった」

 おっちゃんが俺達と騎士を合わせた。
 俺が騎士隊と戦う事になった理由。
 多分、殆どがおっちゃんの意志からはじまってる。
 俺がシキガミとしての役割をこなすためにいつかは実力の誇示はしなきゃいけなかった。

 ――同時に、俺が自分を危険なモノだと認識することになったが。

 一応騎士の前では戦って見せた。全力だ。うん。
 手持ちの技は全部見せたしな。
 好きに選べって言うのは俺達のと相性を考えておいてくれてるんだろう。
 ヴァースやロザリアさんは凄く真面目だ。
 カルナさんは一度も戦っていないがアキが言うには強いらしいし。
 アルゼはヴァースと一緒に戦ってるのを見たけど、二人はかなり強い。
 後先考えずに突っ込んだけどかなりやばかったなぁ今考えると。

「みんなは、誰か希望ある?」

「私は特に御座いません」
 頷いていつも通りの薄い笑顔で俺をみた。
「わ、わたしも、多分、大丈夫です」
 アキはちょっと言葉がつまり詰まり。正直だなぁ。多分あの人の名前があったからだ。
「わたくしもどなたでも問題は御座いません。コウキは?」
 ファーナが俺に問い返す。
 アキは、たぶんカルナさんが苦手。
 カルナさんには俺はロザリアさんに会うなって言われてるし、その二人はやめたほうがいいだろう。
 となるとヴァースとアルゼ。
 二人を見るとアルゼのほうが軽くて旅人に合ってる性分がある。

「じゃ、アルゼかな」

 先日の件で結構仲良くもなったし。
 別に俺は苦手じゃないよ? 女顔扱いされると腹が立つだけで。


「うむ。では、そこの兵。アルゼマインを呼んで来い。見事指名されたとな」
「テーブル7番でーすって」
 おっちゃんの言葉に続けて言うと周りからクスクスと笑い声が聞こえた。
「ハッ。了解いたしました!」
 兵士さんは小走りで騎士を呼びに行く。
 その間に細かい事を聴いておくことにした。

「で、おっちゃん、お姫様ってどんな人?」
「ほう、気になるかね」
 何故か凄く嫌な笑い方される。
「気になるっていうか、知らないから会っても判断できないよぅ」
「はっは。それもそうか。
 まぁお姫様だ。ウチの子の方が1000倍可愛いがな!!!」

 この親ばかはなんとかするべきである。
 ちょっと恥ずかしそうに俺に隠れるファーナ。

「濃いグリーンの長い髪に空色の瞳をしたお嬢さんだ。
 名をピアフローン・フォリア・サシャータ。
 あれは美人だな……
 
 
 ……痩せれば」


 どこか遠くを見ながらおっちゃんがそういった。
 うん。なんか色々伝わってきた。
 すごいガッカリ感漂ってる。
 どうせならもうちょっと努力すれば美人なのにって人も居るよね。



「どうも、こちらが7番テーブルで間違いありませんか?」
 容姿で盛り上がっている最中、意外と早く登場したアルゼ。
「よっアルゼ!」
 その登場にみんな笑って彼を迎える。
「ご指名されて光栄さ」
「よろしくっ」

「ああ――

 と、言いたいところなんだが」
 アルゼマインは快諾したかのように笑った後、少しだけ眉をひそめた。
 そして頬を掻きながら自らの歩いてきた方を振り返る。

「おっ? ロザリアさん?」
 そこに立っていたのは第五騎士ロザリア・シグストーム。
 今朝の事もあって会うなと言われてた手前、少し反応に戸惑った。
「……すまない、シキガミ様。
 どうしても今回の配役、私が行かねばならない」
「えっそうなの?」
 アルゼに聞き返すと、手をパパッと左右に振って肩をすくめた。

「まぁその限りじゃない。
 僕達の方でも一応話したんだ。
 急襲を考えてこの城に残る戦力は、なるべく多い方がいい。
 しかし情報収集の為に遠征視察の部隊が多く必要だ。
 それが僕とヴァースの部隊。移動慣れしてるし城へ戻る足も速い隊さ。
 カルナ隊は城の専属警備が決まった。
 残るのは彼女だけ、と言うことさ」

 一気に説明して、チラッと彼女の方を見た。
 俺も同じく彼女に視線をやるとがっちり目があった。
 淀みない意志をもったいつも通りの瞳。
「なるほど全然構わないよ。というか怪我とか大丈夫?」
「ええ。貴方のお陰で私は殆ど傷を負わなかった」
「て、手加減とかじゃないよ?」
「本当ですか?」
「…………うん」
「何故目を逸らすのですかシキガミ様」
「ていうか、シキガミ様言うのやめない?」
「やめません。コレは私の敬意です」
「頑固だね……」
「貴方ほどでもありません」
「……驚くほど何も言い返せ無いよ」
「でしょうね」
 にこっと笑って一歩俺に近づいた。

 そして、片膝を地へつき、頭を下げる。
 騎士の礼、服従の姿勢だろうか。

「ロザリア・シグストーム。
 器量不足かもしれませんが……
 是非貴方の隊へ加えていただきたい。
 今朝の非礼を詫びます。申し訳ありませんでした。
 貴方には私の剣を預ける力量があります。
 何よりその生き方に感銘を受けました。
 一度貴方と共に旅をしてみたいのです……どうか是非お連れください」

 跪かれると焦るのは俺が平凡人だからだ。
 わたわたと彼女に立つように言う。
「そんないいよ。
 ていうか……、
 あれ?
 ロザリア隊になるんだよね?」
 今の言い方だと俺の隊になっちゃうぞ。

「いいえ、貴方の隊に。
 このメンバーの長を務めることが出来るのはきっと貴方だけでしょう。
 作戦の提示や詳細行動の指示は私も手伝いますので。指南役か補佐と考えてください」

 俺を見る目がキラキラしてる。
 あれ……っ? おかしくね??

「おっちゃん! なんか変なことになってきた!」
「そうだな。とっとと飛んでいってしまえ」
 耳ほじりながら言われた。
「何そのぞんざいな扱い!? 酷くね!?」

 ヴァンが俺の様子に笑ってメガネを上げながら溜息をつく。
「ふぅ、まぁ良いでしょう。折角のコウキ隊の発足です。
 派手に行きましょう」
 そう言って術陣の上に乗る。
「さぁ皆さん、術陣上へ。
 コウキを中心にして、皆コウキから離れないようにしてください」
 俺はおっちゃんに恨めしい視線を送りつつ術陣の真ん中に立つ。
 ファーナが右手。アキが左手。ヴァンが右肩にロザリアさんが左肩に触れている状態。
 ルーはポケットに入ってもぞもぞしてる。ベスポジ探しだろう。
 後にウィングフォア・イチガミと呼ばれる。
 うん、嘘だ。

「で、この後どうすんの?」
「コウキ、目的人物を叫んでください」
「ええと、誰だっけ?」
「ピアフローン・フォリア・サシャータ様です」
「ぴ、ピアフローン・フォリア・サシャータ?」
「もっと大きな声で」
「ピアフローン・フォリア・サシャータ!!」
「もっと!」
「ピアフロォーン!! フォリアーー!! サシャーーータァァ!!!」
「すみません、カリウス、発動してください」
「了解です! ジャハハハッ!」
「あれ!? 俺関係ないの!? ねぇ!? 何で叫んだの!?」
「コウキ、飛びますよ」
「え――うおおおおおぁぁぁぁっ!!?」

 ――ドッッ!!!

 空気が爆ぜるような大きな音がした。
 同時に俺達の足元から急に形のない不安定な床が俺達を押し出すように一気に体を浮かせた。
 周りに立っていた兵士とカリウスは大きな反動に態勢を崩す。

 そのなかでただ一人、王様だけが揺らぐ事無く俺達を見ていた。
「いってきまぁあああああぁぁぁぁぁぁ……!」

 声が聞こえたのか、おっちゃんが楽しそうに笑って手を振った。
 それを最後に俺達は空の旅を始めた。


前へ 次へ


Powered by NINJA TOOLS

/ メール