第121話『名誉挽回計画』

 灰色の城に灰色の空。茶色い大きな門を潜って城の中へ入った。
 中は木々で溢れていて、手入れも行き届いた広い所だ。
 湧き水の噴水などもあって、まさに公園のような城庭。
 城の豊かさは国の豊かさである。
 権力誇示としても使われるが発展する国というのは横暴にそういうことをしないだろう。

「いっ!? うわーっ結構派手に壊れてるなぁ」
 走っている途中、瓦礫を見て思わず声を上げた。
 城の一角の塔が真っ二つに折れて城壁を突き破っている。
 ……俺のせいじゃないよね……?

「コウキ! あそこに!」
「やっぱ俺のせいかな!?」
 ドキーンと心臓がなってファーナを振り返る。
「違います! 白黒の騎士がっ」
 パンダ騎士か!

 ファーナの指差す瓦礫の塔の上。
 ハルバートを背に俺達を見下ろす。
 曇天の空に白と黒は溶けない。
 そのコントラストがくっきりと鎧の形を描く。


 くっそ今ので効いてなさげじゃちょっと辛くないか?
 じりっと少し足の位置を下げる。

 走って斬り付けて――。
 でも、後ろが城だ。
 そろそろ王女様たちもいるかもしれないし、あまり暴れて城を傷つけないようにしないと。
 てか……城の中に行ったよなあの神子。
 いよいよコイツの相手なんかしてる場合じゃないんだけど……シキガミ、だよな。
 それならさすがに俺が相手しなきゃだよな。
 でもパンダさんとか言ってるしなぁ……良くわからない。
 まぁ俺もワンコ君だからもしかしたら彼女はシキガミをそうやって動物扱いする人なのかもしれない。
 武器であるといわれた俺達は本当に兵器的な能力を持ってる。
 特殊な生まれだし。ある意味人ではないのだと思わなくも無い。
 かといって俺は必要以上にそれを気にするような性格じゃない。
 別に人間らしく生きようと思えば可能だから。
 そう、俺達がどうあろうとするか、その生き方で変わってくるのだ。

 俺が剣を構えて、戦闘態勢に入る直前に俺の前に青の髪が靡いた。
 仮神化――。そしてその姿のアキが手を翳す。
 前に立ってアルマの大剣、アウフェロクロスを出現させる。
 ズッ……! と重量感のある音を立てて大地に刺さり、アキがソレを片手で持ち上げた。
「コウキさんたちはあの人を追ってください。
 ここはわたしたちが食い止めますっ」
 わたし達? てことはヴァンもか?
 後ろを向くとヴァンは既に片手を上げ詠唱の体制だった。
「でも、アイツシキガミかも……!」
「大丈夫ですっ」
 ぐっと元気に拳を握ってみせる。
「それにアキを放っておくと勝手に死にそうなんだもん」
 俺は前科者をジロジロと細い眼で見る。
「うっ! 別に死なないですからっねっファーナっ」
「……本当ですか?」
 酷く心配そうな顔で聞き返していた。
「ファーナまで!?」
 ショックだったらしく、戦闘態勢だった髪の色が青から赤に戻った。
 どうやら出鼻をくじいたのかもしれない。
 悪いことかもしれないがアキだけで無茶をさせるのは――。

 そんなことを思っているとクスクスと笑い声が聞こえた。
 銀色の髪が靡き、余裕の笑み。
 いつも俺達を見て楽しそうに笑うヴァンツェ・クライオン。

「大丈夫です。私が見張っておくので安心して行ってきてください」

 そう、剣聖の時とは違う。
 ちゃんと自分の欠点を補う人が後ろに居てくる。
 俺達が強かった理由の根本にヴァンの存在がある。
 ヴァンは強いけど、俺達を育てるためにあまり強い法術は使わなかった。
 本当のピンチだけ、颯爽と助けてくれる。
 今俺達は追いつけただろうか。
 ヴァンは俺達に追いつかれるからと、噂では魔法使いの下へ修行に行ってたけど……。
 それからの詳細は今でも良くわからない。
 でも、確実に今までとは違う。
 ルーン術という術の幅を広げてきたし、今まで以上に不敵な存在になったように思う。

「あー確かにヴァンが居るならっ」
「そうですね」

 すぐに納得できるこの信頼。
 優しい笑顔で頷いて急いでください、と俺達を急かす。
 早速駆け出した俺達の足取りは軽かった。




*アキ

「……」
 二人を見送ってがっかりうなだれる。
 意外と後に引きずるタイプの精神ダメージを貰ってしまった。
「大丈夫です。二人とも貴女が心配なだけですから」
 そんなわたしを察してくれたのか、ぽん、と背中を後押ししてヴァンさんが優しく慰めてくれる。
「……余計に情けない気がします」
 敵を見上げる。
 動いては居ないが、さっきよりも大きく見える。
 ああ、心がちょっと負けそうだ。
「貴女なら信用はすぐに取り返せます。
 ええ、もう少しトラヴクラハやシルヴィアに近づく気持ちが必要ですが」

 そう言ってヴァンさんは動こうとしている騎士に向き直った。


 お父さんやお母さんに近づく気持ち……?
 あの人たちとわたしの違うところ。
 幸いわたしはあの人の過ごした記憶そのものが残っている。
 ずっと残る大切なもの。

 お母さんを追ってみる。
 答えがあるわけじゃないけど、どうするだろうか、と。
 そんなの決まってるとすぐに思い立った。

 相手に向かって強い視線を投げる。
 そして大剣を掴み持ち上げると、ジャラッっと鎖が鳴る。

「わたしが相手になります!」

 もっと。より戦いを知り、駆け引きを知り。
 お父さんやお母さんのようになりたいから。
 大声で宣言して、アウフェロクロスを相手に向かって投げる動作に入る。
 久々かもしれない。
 本気で剣を投げていい相手と戦うのは――!

 全身のバネを使って剣を投げる。
 鎖が甲高い音を立てて物凄い勢いで真っ直ぐ飛んだ。
 初撃の剣を瓦礫から飛び上がって避け、騎士はそのままわたしの方へと向かう。

 相手には隙は少ない。
 あの装備の少なさで甲冑と打ち合えるコウキさんは本当に尊敬に値する。
 ――いつ、わたしは追い越されたのだろうか。
 あのひとは確かにずるいけど、わたしだって確かに成長してきたのに。
 わたしは何一つ変わってない気がする。

 アルマであるアウフェロクロスを一旦消し、再び手元で具現化させる。
 近づいてきた騎士に叩き込むように剣を振り下ろす。
 思ったよりもずっと俊敏な動きでそれがかわされる。

 ガキィィッッ!!!

 無詠唱の氷の弾が叩き込まれる。
 突然の事に揺らぐ相手。
「――そのまま戦ってください」
 声が聞こえた。
 返事は行動で表す。
 ぐるっと体を一回転させるように捻って、足を靴の裏で蹴り飛ばす。
 体よりも足を蹴られる方が体制が崩れ易い。
 ソレを教わったのはもうずっと子供の頃。

 ヴァンさんは一体何を言いたいのだろうか。

 一度だけ、ヴァンさんを怒らせたことがある。
 確かな物差しを見つけろと言われた。
 コウキさんたちと沢山の道を歩いた。
 きっとヴァンさんがいてしまえば、どこに居ても、わたしたちはこの人に助けられてしまっただろう。
 でも沢山苦労しながらわたしたちはここまで来た。
 そこで答えらしい答えを得たのかと聞かれると、悩んでしまう。
 わたしは助けられっぱなしだった。
 コウキさんとファーナだけが成長していって……置いていかれたような気もする。

 コウキさんは毎日死んでいると笑っていた。
 その意味がいまだに良くわからない。
 わたしも一度死んだようなものだが。
 もう二度とアレを味わいたいとは思わない。
 あの時の痛さとか、感覚とか。
 生々しく全部覚えてる。
 ――痛くて。辛い。

 それなのに、何で笑っていられるの?
 何で強くなっていくの?

 答えが、欲しい。

 いくら考えても、迷う。
 前もこのことを叱られていたのに。
 わたしは、本当に何も――。






『あああもうじれったい!!!
  何やってんのアンタは!?
 それでもあたしの娘!?』

「うぇっ!?」

 突然聞こえた声に動揺して、剣が止まる。
 その瞬間は当然見逃されるはずも泣く、ハルバートがわたしに襲い掛かる。
 その細い柄からは考えられないほどの攻撃力のそれは斧の如くわたしを薙ぐ。
 剣をしまっているような暇もなく、刃に合わせるようにアウフェロクロスの鎖を引き込んでソレを防いだ。
 斬り付けられこそしなかったが、打撃としては十分なそれが脇腹を直撃した。
 盛大に吹き飛んで、ゴロゴロと地面を転がった。

『あーもう! 何やってんの! ほらっ!
 早く立ちなさい! あんた後ろが居る事忘れてんでしょ!?』

「えっ!? はいっへ!?」
 声は、何処から……!?
 起き上がって思わずぐるっと見回す。

『前見なさい前!』

 言われたとおり前を見ると、騎士がヴァンさんに向かって走り出した。
 いくらヴァンさんでも近距離戦は……!
 慌てて走り出して、それでも間に合わないと悟る。
 ヴァンさんは何故か動かない。
「逃げてヴァンさん!!」


 叫んだけど、あの人は動かない。
 白と黒の色がハッキリしたハルバートの白い方が閃いてヴァンさんに降りかかる。

 ピキィィィィ――!

 甲高い音と共に騎士の足元に赤い光が集まる。

 ズ――バゴォォッッ!!!

 赤く炎が爆ぜる。
 騎士の足元から急に爆発したように見えた。
 確かにいつも無詠唱に、見える術を使うヴァンさんだが使う姿勢と行使光はあった。
 ヴァンさんから離れた位置に煙を纏った騎士が着地する。
 わたしはすぐにヴァンさんと騎士の間にたって、再び振りだしの状態に戻った。

「ふむ、ルーンも意外といい威力を持っていますね」
 興味深そうにルーンの術陣が描かれた札を見る。
 ルーン文字……だから詠唱も行使光も無かったんだ……。
「ごめんなさい、後ろ気にしてなくって……」
「ええ。ですが私も身を守れないというわけではありませんから安心してください。
 ふふっ、頼りにしていますよアキ。
 そういえば独り言があったようですが何かあったのですか?」
 何も気にしていないという風にヴァンさんは微笑む。
「いえ、お母さんに叱られたので」
「シルヴィアに?」
 視線だけ騎士に戻してわたしは質問に答える。
「はい……よく、わからないんですけど、声がして。
 頭に響くみたいに聞こえるんですけど姿は何処にも無いんです」
 いきなり聞こえて凄く焦った。
 その結果がこれではあるのだが。
「……あぁ! なるほど“世界の記憶”ですね」
 ヴァンさんの手を打つ音がした。
「でも、それは竜神様がわたしに貸してくれてた仮の魂で……」
「ええ、魂を作るまでに至りませんでしたが、人格を呼び覚ます程度には至ったようです」
「……? ど、どういう意味ですか?」
「つまり、強くなるようにと思って少し闘志を高めるものを作ったつもりでしたが、
 そういう風に働くこともあるのですね」
「えっ作った? 何が、どうなってわたしに作用が?」
 何も理解していないわたしに胸に手を当ててヴァンさんが笑顔でわたしに言う。

「はい、背中にルーンの札を貼らせていただいているのですが」

「背中!? えっウソッ」
 気になるが相手から視線を逸らしたり構えを解いたりしている場合じゃない。
「あ、取ってしまうと声が聞こえなくなりますよ?」
「な、何でそんなものを!?」
 というかいつ――……あ、あああっ!
 最初に背中を押された時……!
 ぽん、と背中に張られる札を想像した。
「貴女におまじない程度に作ったものです」
「それをなんであのタイミングで背中に張るんですかっ」
 子供じゃないですかっ!
 あえてソレは口にしなかったが内側から答えが返る。

『あいつ根がガキだからねー』
 うん、そうかもしれないけど……。
 クスクスと聞こえる笑い声に溜息をつきながら思った。
 お母さんは、本当にお母さん?
『さぁねー』
 うーん……。それらしい人ではある、という結論は出せる。
『どうでもいいのよ、んなこと。
 それよりアンタはもっと派手に戦いなさい。
 細かい駆け引き向いてないから』

 がーん。
 自分の内側から精神的ショックを貰うとは思わなかった。
 確かに運がいいって言うのは折り紙つきみたいなんだけど
 どうも性格が駆け引きって言うのに向いてないのは薄々分かっていた。
 この物言いのストレートさはわたしの知っているシルヴィア・オルナイツのものだ。
 再会、では無いがソレに近い感動はある。

『目先と勘で戦えるようになるのも、強さのうちよ。
 アンタは最前線で最強になれる才能があるんだからいいじゃない』

 最強になれる、才能……?
 コウキさんをみているととてもそうはなれそうもない気がする。

『バカ! イチイチ比べて、ちっちゃくならないのっ!
 おっぱいでっかいでしょ!?
 そのぐらい気合と自信を大きく持ちなさい!!

 ほらっっ剣を構えなさい!!』



 強く剣を握り直す。
 ギリッ……!
 それだけで――少しずつ。
 お腹のそこから青い炎が灯ってくるように何かが溢れてくる。

『そう、アンタにはやることがあんでしょ。
 前は負けたけどもう負けるわけにいかないもの。
 その為に同じ言葉を口にしなさい。
 何のために戦うのかはっきりして挑みなさい!』


 忘れてた訳じゃない。
 出来ないことを恐れるから口にしたくない。
 単に怖がりで臆病なわたしだからそうなってしまった。
 守ろうと思っていた人はいつの間にかわたしよりずっと強くなっていた。
 だからといってわたしが弱くなって足を引っ張るなんて間違ってる。

 わたしはシルヴィアじゃない。
 あの人は居ない。
 今のも――そう、世界の……。わたしの記憶。わたし自身。
 わたしはわたしの中に強い自分を持っている。
 借り物だった性格を自分にちょっとだけ重ねて。
 いつも隠れてた強い自分を呼び覚ます。
 呼び覚ます言葉、それは武器<アルマ>の言霊<シン>に近い。

 決意の言葉は。


「――守るために!!!」



 満足したような気分になった。
 力の充実と一緒に、自然と笑顔になる。
 きっとわたし意外の人にその光景は不気味だろうか。

 なんだろう――融けて混ざってくる感覚。
 あたしがわたしに足りない言葉を置いていってくれて。
 少し心が強くなる。

 ぼやけていた世界が磨かれたみたいに意志が揺らがなくなった。
 シルヴィア・オルナイツの声はもう聞こえない。
 でもその言葉を。意志を継いでわたしが生きる。

 お父さんに貰った戦う技術も、天性のマナの量も――。
 お母さんに貰った強い闘志と、才能でそれを生かす。
 二人の意志がわたしの中で生き続ける。
 わたしの使命であり、誇りであるその意志に恥じなく生きなくてはならない。

 ――戦わなきゃ。

 自然と身体が沸き立つ。
 沸騰するような、それでいて冷静に相手を見据える研ぎ澄まされた感覚。

 大剣が赤から青に変わる。

 わたしの雰囲気が変わったからだろうか、白黒の騎士は一歩引いて槍を下に低い姿勢をとった。
 
 力の循環とその充実を実感して――その瞬間に体が自分の体じゃないみたいに動き出す。
 

『術式:悔い改めよ<ポェニテティアム・アギテ>!!』
『術式:明暗の照突<パンダ>!』

 投げられた剣に、突きを正確にあわせて来た。

 ギギィンッッ!!! ザザザッッ!!

 金属の交わる音と共に、わたしの剣が相手を押していく。
 精錬された正確な突きだ。その精確さだからこそ真っ直ぐ押されている。
 姿勢を崩さないまま数歩分を押された騎士。
 勢いの重さに気づいたのか身体を一転させ攻撃を躱す。
 わたしは三歩で踏み切って飛び上がる。
 身体を大きく捻った状態から独楽のように回りだす。

『術式:幾多の罪を赦し賜え<ジャド・ジュレーヴ>ッッ!!』

 ズドッッ!! ズガッッ!! ガキィンッッ!! ――!!

 剣を投げ、勢いでまた宙を舞い、さらに次撃。
 鎖が絶えず鳴り続け、騎士へと剣が投げつけられる。
 いつもより綺麗な力が入る。
 滞空時間も長く、繰り出す剣が遅く感じる。
 遅いと感じるのは感覚が研ぎ澄まされている今だからだろうか。
 ――グラネダ騎士の総隊長様と戦った時の事を思い出す。

『術式:明暗の乱斧斬<パ・パ・パンダ>!!』

 ガンッッ!! ガゴンッッ!!!

 白黒の騎士が一撃ずつ叩き落としながらわたしに近づいてくる。
 ――やっぱり、強い……!
「ああああああああっっっ!!」
 叫ぶ。それに呼応して溢れ出すマナが赤い光を負って軌跡を引き始める。
 叩き落される度に真っ赤な華の散る様な光をつくり、さらにその光を大きくしていく。

 まだ、足りない。
 剣はもう限界量だろう。
 溢れているから赤く光る。
 具現化させる際に与えているマナはそう、感覚でいうなら100程度。
 これ以上はどう与えても意味が無い。
 仮神化に反応した今が200。

『術式:明暗の影斧<パ・パンダ>!!』
 白黒の騎士の距離に入ったその瞬間に技を繰り出してきた。
 影から伸びる斬撃が下から伸び上がる。
『術式:天から地へ<アラスト・クラニクル>!!』
 赤い軌跡を半円引いて、今度はわたしがその一撃を叩き落す。
 地に降り立つと剣を構えた状態で騎士と対峙する事になった。
 鎧が動かなくなっていたはずなのにこの威力と動きを維持し続ける本当に優秀な騎士。
 あれはハンデではない。意味の無いことである。


「苦戦していますね。もう少し援護は必要ですか?」
「要らないですっ!」
 間髪入れずに拒否する。
 というのも、さっきからわたしの攻撃の合間に法術で助けてくれているのだがその度に騎士がヴァンさんの方へ向かおうとする。
 迷惑をかけっぱなしなのにさらに迷惑をかける訳にはいかない。
「もう一枚お札いりますか?」
「要らないですっ!」
 次を貼られるともう何が起こるのか良くわからない。
 きっと笑っているのだろうけど相手から目を離せないのでその真偽は確かめられない。

 実はコウキさんのときにも単に空中だったから吹き飛ばされただけで地上だったら危なかったんじゃ……?
 コウキさんで懲りたのか中々空中にあがってはくれないし。
 その方がわたしとしては戦いに利がある。
 竜神の咆哮が如く<マキナ・サン・クラマ>だって外さなくて済むし――。

 白黒の騎士とどう戦うか、ソレを考えているとヴァンさんから再び声がかかった。


「では戦いのヒントを一つ。
 かの英雄、戦舞姫<スピリオッド>はそのマナの保持量と技量ゆえ使用しなかったのですが、
 その武器、穿つ十字架剣<アウフェロクロス>は法術剣としてとても優れたものでした。
 さて、その収束を行った剣で戦うと、どうなるでしょう?」

「……強くなるんですか?」
「さぁ? やったのを見た事はありませんから」
 答え知らないんじゃないですか……。
 ものは試し、やれ、という事にだろう。

 わたしは息を吸って、その剣を握る手に集中した。

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