第123話『小さな守護者』
僕は皆の足下を走る。
と言うのも僕自体が小さいわけだし当然ではあるのだが。
ルーメンと名前を貰って幾月か。
すっかりその名前にも慣れ、由来となる体の色もより艶々になってきた。
毛並みに気を使ってるわけではないけど、毎日誰かにブラッシングしてもらえる。
それなのに最近あまり役に立てなくて師匠の活躍に舌を巻くばかりである。
今、そんな師匠と別行動になった。
お姫様護衛の重大任務!
……だけど強い騎士様が付いてるからまた僕は役に立たないかも。
騎士様はグラネダでも屈指の人で、凄く凛々しい人だ。
ロザリア様という方で銀の髪と
お師匠様も凄く強いからって言ってた。
とりあえず、活躍できるできないは置いといて、僕はちゃんとお姫様を守らなきゃいけない。
お姫様でも神子様と違って、本当に戦わない人なので僕がここにいる理由はちゃんとある。
とりあえず僕の空間浮遊でその人を運んでいる。
師匠達とは違って運動できないお姫様はやっぱり迅速な行動に支障が出る。
そこで僕がまたこうやって運ぶ事になったのだ。
「――っと、ここで行き止まりですね」
騎士様が足を止めたので僕もそこで止まる。
師匠達と分かれて、大通りではなく、小道を進んで6番街の貴族の家に僕達は走った。
その間姿を消して走ったしバレてはいないと思う。
その家の庭の小さな小屋から地下へ入り、そこからお姫様の言うとおりの道順で地下道を走った。
道は整備されていたが、本当に迷路みたいな道だった。
先頭を行く騎士様が光の法術で道を照らしてずっと走っていた。
白銀の鎧を着てずっと走っていたのに息切れも殆ど無い。
女の人なのに凄いなぁ、なんて漠然と思う。
「そこを上に行くと、城の中に入れますわっ」
「了解です」
お姫様が指差した所はレンガが交互に一つずつ抜けていて、手足をかければ上へと行けそうな場所だった。
「あっ、わんちゃんはどうしましょう?」
「わんちゃん……あ、ルーメンですね。
この子はかの有名な幻獣、カーバンクルです。
では安全を確認してから連れて上がりましょう」
お姫様と騎士様の視線が僕に集まる。
「カウッ」
僕は一人でも大丈夫ですっと自己主張してみる。
でも師匠じゃないから言葉は通じない。
だから僕も空間浮遊を使って浮き上がってみせる。
「ふふ、賢いですね本当に。
ルーメン、ここは浮遊のための結界が邪魔になるでしょうから王女様は下ろしておいてください。
ではすぐに安全確認をしてまいります」
言ってすぐ、その人は行動を始める。
浮き上がるように上に行き、天井をゆっくりと押し上げた。
小さな隙間から誰も居ない事を確認したのだろうか、その天井だった石をずらして自身が上に出た。
「――大丈夫です」
「良かった。では……」
お姫様がその言葉に反応して、ゆっくりとその壁を登り始める。
うーん……やっぱり遅い。
僕は後で行こうとその姿を見守っている。
なんていうか……遅いし、危なっかしい。
なんどかヒヤッとさせられるような場面があったが何とか騎士様の手の届く場所に辿り着き引き上げられた。
僕もすぐにその後に続き、上へと辿り着く。
――城のどこなんだろう。
結構薄暗くて、すぐ目の前は階段。
すぐに円筒形に曲がっていると言う事はどこか塔の一角なのだろうか?
「ここは城の後ろ側の塔の一番下の部分になりますわ。
螺旋階段になっていて、通常はこの壁の向こう側の階段を使う事になりますが逆側がこの通路になっています」
お姫様がそう説明して階段を指して歩き出す。
あまり広い場所でもないのでここはお姫様には歩いてもらう事になった。
「ここを昇ると何処へ繋がるのでしょう?」
螺旋の階段を登りながら先頭を歩く騎士様がそう訊いた。
「ココを昇ると途中で図書の間の裏に出ますわ。
一つ動く本棚がありますので本棚を引けば中へ入る道が出来ます」
ぐるぐると登ると本当に本棚の後ろと分かる場所に到着した。
その一つの本棚には滑車が着いていて、正面から押せば動くのだろう。
でも当然通常は動かないように歯止めが掛かっていて、別の本棚にソレを外せるように細い糸のようなものが伸びていた。
正に舞台裏の真実を僕は目撃してしまったようだ。
「本来は表からこの本を押すと、その歯止めが外れ歯車により本棚がズレるのでそこを押すのです。
おなかが空きました」
最後の言葉はおなかが鳴るのに被せて言った。
もう凄く開き直ったお姫様。僕は師匠に許可されてる分の食料を取り出して渡す。
「キュゥ」
「あ、有り難う御座います……。
動物に食料を分けてもらうとは何とも妙な……」
確かに僕もそういう事態になるとは思ってなかった。
なんと言うかすごく申し訳ない気分になる。
「ああ、良いのです。有り難う御座いますルーメン。
貴方が優秀な幻獣であることは理解しました。
だからそんなに可愛く耳を下げないでください」
しゃがみこんだお姫様に頭を撫でられる。
「王女様、急ぎましょう」
「そうですわね……おなかも減りましたし!」
そう言ってお腹を押さえながら動き出す。
大変そうだ。
本棚の後ろから図書の間という場所に出る。
高い天井に届く本棚に沢山の本が詰め込まれていた。
滞った古い紙の匂いがする。
「此処は正確には図書の間ではなく書庫ですわ。
古い本が納められています。
ここからあちらの扉を出ると図書の間ですわ」
「了解です。ここからは慎重に――」
ドゴォォ……!! ガゴゴゴゴゴゴ……!!!
「な、何!? 何ですの!?」
「地震!? 危ない! 本が!」
「カゥゥゥゥ!!」
――ィィン!!
急に城全体が大きく揺れた。
まるでどこかが崩れたような地響き。
書庫には窓が無い為外を確認する事は出来ないが凄まじいことになっていそうだ。
――師匠だろうか。
なんとなく、そう思う。
今朝だってグラネダの練習場を派手に壊した。
なんとなくその響きに似ていた。
僕は落ちてくる本からみんなを守るために障壁を展開。
頭を抑えて蹲っているお姫様もそれを庇おうとかぶさった騎士様もまとめて囲んだ。
球形の障壁のお陰で、二人を避けるように本が積み重なる。
「キュゥ〜?」
「ん……? 障壁……か。有り難う。
君は本当に優秀だ。
さぁ王女様、早く行きましょう。あの戦いが激化していつここも巻き込まれるやもしれません」
「そ、ソレは困りますわ!
お城は壊さないで頂きたいです!」
「その要望には応えかねます。
何しろシキガミや神子……そういった神に近い人間の衝突ですから。
最初に申しました通り、私達では逃げる事が精一杯です」
「……っっ」
「さぁ、ただ中の様子見だけでも、私達は無理をさせてしまっているのです。
ただ貴方だけは私の命に代えてもお守りさせていただきます。
――だから、急ぎましょう」
「何故……!
何故あんなモノが……!
余りにも酷いではありませんか……!
突然れて……勝手に国を壊して……!
ソレに対して私達は余りにも無力で……!!
あんな人達居なければ良かったのに……!!」
――師匠は。
師匠は、そんな人じゃない。
国を壊すなんて程遠い。
仲間を守るために毎日必死で生きてる。
どんなに絶望的な状況からでも全部覆して、希望を与えてくれる人なのに。
その人を知らないくせに、誰かに罵られるのは、酷く悔しい。
「――そうですね」
騎士様は同意の言葉を漏らした。
悔しい。僕はここで何も伝える事が出来ない。
人の持つ言葉を僕は喋ることが出来ないから。
「神子やシキガミという役目が無ければ――全て、違っていたのでしょう。
神子という役目を負っていなければリージェ様も、立派な王女となっていました。
彼女は嘆いていました。
国の役に立つ事が出来ない自分を許して欲しいと」
「当然でしょう!!
国の役に立つどころか危険に――……!」
「そうです。
望んでそう生まれた訳ではないのに、彼女はそうだった。
それでもあの方は、あの国で象徴として生き、国民の信頼を得ているのです。
グラネダの国にリージェの名を知らぬ者は居ません。
シキガミ様を得て、更にその活躍は広がっています。
――皆がそうだ、と思わないでください。
その運命に“何故”を突きつけるのは余りにも残酷です。
シキガミは強大な力を得る“資格”が、あるだけで実際に強くなるには途方も無い覚悟の上に立たなくてはいけない。
――そして神子の命を背負わなくてはいけない……。
それでも希望を失わずに剣を振るうあの子達を私は強いと判断しました。
確かに、強いです。
――覚悟があるからです。
少なくとも私の知っている神子とシキガミは、壊すためではなく守るために剣を振るっています。
今、貴女を助けるために、命を危険に晒してくれています。
……それを忘れないでください」
「それなら……!
全部救って見せてくれてもいいではありませんか……!
強いのでしょう!?
私達は弱いのです……!
たった一人に滅ぼされそうになるほど……!
貴方達はそう、国の希望となるお二人に恵まれたっ!
私達は!?
騎士に恵まれた訳ではなく、ただ地の利と代々続く貿易で細々と成して来た国なのです……!
助けてください……!
お願いです……!」
お姫様が泣いている。
――そうだ。自分の無力を嘆くのは同じ。
救えるものなら救っただろう。
同じ力があれば立ち向かった。
――国の為に。
「当然です!」
『当然です!』
きっと僕の声は二人には理解できなかった。
いつもと同じ鳴き声だと――。
「――ふふ。貴方も、彼に毒されているのですね」
分からないはずなのに、そう言った。
「私達が成して見せます。
この国を救い、丸ごと悲しみを消して見せましょう。
やってできないことなんて何も無いんですから」
言って、薄く笑った彼女が驚いたままの王女の手をとり、立ち上がる。
「急ぎましょう」
師匠みたいな顔で笑って、本の山を抜け出す。
僕も黙ってソレに続いた。
ズドォォォオオオオン!!!
二度目の地震は図書の間を出て姿を消す術をかけてすぐだった。
というか、丁度目の前の城の一部が光の後に見事消し飛んだ。
「なんだーー!? 何が起きたのーー!?
うお!? 城が欠けてる!!?」
師匠の声だ。それに竜人様。
「アキがやったの!? すげぇえええ!! 俺らは平気ーー!」
どうやら今のは師匠じゃないらしい。
ここからでは正門側は見えず、四方が城の壁に囲まれた中庭が見える窓がある。
お姫様が突然窓を開いて身を乗り出した。
「し、城を壊さないでくださいーーー!!」
やっぱり主張はしておくことにしたようだ。
そんなお姫様の口を塞いで騎士様が走りだす。
場所がばれては意味が無いのだ。
僕らは足音を消して迅速にその場所から離れる。
今は敵の姿は見えないハズである。
「お、王女様っ目立たないでくださいっ」
「でもっお城は崩さないで欲しいのですわっ」
「お気持ちは分かりますが……ルーメン、王女を浮遊で再び連れて行きましょう」
「クゥッ」
了解して、僕は王女を空間で囲むと浮上させる。
空間の色が出ているのでその上から不可視の術をかけておいた。
一応一度認識していれば見えるが認識が無いうちには見えない術だ。
僕達は御互いを確認できるが相手からは見えないと思う。
でも足音なんかで簡単にみつかるので注意が必要だ。
ジェスチャーで伝えるためにそろそろと歩いて見せて騎士様を見上げた。
鳴き声を上げず口元を動かした。
これでわかって欲しいです〜……カゥ。
……ああ、なるほど、と騎士様も口を動かして一度深呼吸をして僕を見てから動き出す。
師匠以外に通じるとは思って無かったのでちょっと感動した。
お姫様に先に場所を聞いているため走って移動している。
それでも足音は立たないし、速い。
お姫様は僕の空間浮遊で浮いているため足音は立たない。
――移動中、全く人の気配が無い。
匂いもしない。
王座のある謁見の間には誰も居なかった。
今は王室へ向かっている。
匂いを途中の部屋ごとに確認してみているが、やっぱり人の匂いが全く無い。
――たまにあるんだけど、途中でイキナリ消えるみたいに途切れる。
「あらあら、見当たらないと思ったら……姿を消していたのね」
突然の声に騎士様と同時にぴたりと止まって来た道を振り返った。
クスクスと笑う声と――フードを被った女性。
女の人と分かるのはその出で立ちと声からである。
雨避けフードからは……なんでか神子様の匂いがする。
でもあの人自体は違う匂いだし一体なんなんだろう……?
「珍しい、カーバンクルと騎士様ですね。
おふたりでお城の探検ですか?」
その人は僕と騎士様を見てそういった。
――お姫様は見えていない……?
それとも単に無視してるだけなんだろうか。
でも、それにしても視線すらそちらを見ていない。
「っ何故私達が見えた……!」
「質問を質問で返さないで頂きたいところですが……。
あなた達は此処を踏んだでしょう?」
そう言ってその人が小さく足踏みをするとフッと足元が光った。
「此処を踏むと簡単な術は解除されるようになっていますわ。
私は発動した場所を察知できますし。
これで解決したでしょうか?」
「まだだ。貴女は何者だ」
騎士様は剣を抜いて続けて問う。
「何者……それは私が貴方達に聞きたいのですが。
火事場泥棒ですか?」
「カウゥ!」
違いますぅ! と思わず叫んでしまう。確かに僕は元々盗賊なんだけど……!
多分分かってないけど。
僕を見てまぁ可愛い、とまたクスクスと笑った。
……言葉の壁って厚いと思う。
「違う! 私はグラネダの騎士、ロザリア・シグストーム。
救援の命あって此処に居る!
王は……城の人たちは何処だ!」
剣の切っ先を向けてその人を睨む騎士様。
「まぁ、そうでしたの。申し遅れました。
私はオリバーシル・アケネリー。覇道が神子です。
以後お見知りおきを――」
「貴女が――! リージェ様を襲った魔女か!!」
怒声が響く。
ビリビリと窓ガラスを揺らす力のある声。
「まぁ……ふふふっそうです。
金色の髪の可愛らしいお嬢さんですよね。
今外で会ってきたばかりですよ。
この前は瀕死だったのですが、存外に元気でしたね」
「貴様……!」
「ふふふっそう怒らないでください。
ああ、そうそう。お城の人たちですが、どうやら逃げられてしまったようなのです。
貴方達もそうですが、隠された道と言うのがあるようですね。
貴女のように優秀な騎士が居ましてね。
最後まで抵抗してきて相手をしているうちに居なくなってしまいました」
本当に残念そうにそう言って溜息をつく魔女。
魔女らしい怪しさに満ちていて、確かに近寄りがたい雰囲気がある。
何より僕の本能が近づいてはいけない、と、警告する。
あの人は本当に危険だ……!
「そうか……! ならば此処に用は無いっ」
「そうですか。それは残念です」
そう言ってその人はフードを取った。
構えた騎士様が相手の様子を注意深く見ている。
銀色の髪が見えた。
頬には紋様があって、血のように赤い瞳の色をしている。
なんとなく怖くて、すぐ眼をそらした。
王女のほうを見ると、震えながら口元を抑えて喋らないようにしている。
――きっと、王女に呪いをかけた張本人で間違いないだろう。
「あら、あまり魔女の眼を見つめてはいけませんよ。
心を捕らわれてしまいますよ?」
口の端を歪ませるように、魔女が嗤った。
騎士様は、動かない。
――剣の先が震えているようにも見える。
まさか……。
「ぐ……っ!?」
「さぁ、こちらへ。おいでなさい?」
剣を下げて、酷くぎこちなく騎士様が動き出す。
明らかに様子がおかしい。
一歩、一歩、と魔女の方へと無防備に近寄っていく。
なんとか、なんとかしないと……!
「カウッ! カゥゥ!!」
叫んで、騎士様のスカートに食いつく。
僕の大きさじゃずるずると引かれるだけ――でも……っ。
何もしないわけにはいかない!
騎士様を止めなきゃでもどうやって……!
僕に出来ることって言えば空間浮遊とか壁とか……!
……! とりあえずそれで!!
「カウゥゥゥゥ!!」
額の宝石が光る。
騎士様の目前で――壁が展開される。
無我夢中で展開した障壁は――良くわからない枚数。
距離にして騎士様なら5歩ぐらいだっただろう。
その間にめいっぱいの光がひしめく。
「まぁ!」
驚きの声が聞こえた。
魔女と騎士様の間で光を放ち、視界を塞ぐ光の壁。
それが連なってずっと騎士様の目の前まで。
最後の一枚は騎士様の目の前では物理障壁。
ついで空間と同じ要領でその壁で騎士様を押し返す方へと動かした。
――割と思いっきり。
「ぶッ!?」
それに逆らう術も無く激突する騎士様。
あああ、なんだかカッコイイところを本当にごめんなさいごめんなさい……!
でも盛大に跳ね返ったせいか視線が外れて、騎士様は崩れた体制を立て直した。
二歩で元の位置に戻って頭を抑えて彼女を見る。
一先ず壁を消して、魔女を再び確認すると同じ場所に立っていてパチパチと手を叩いていた。
騎士様も視界を取り戻して今度は魔女の眼を見ず剣を構える。
「ルーメン!!」
「キュゥ!?」
ごめんなさいっと先に謝りつつ彼女を見る。
「でかしました! やり方はともかくですがっ!」
「ふっふふふふふっあはははっ!
まさかそんな方法で解除されるとは。ふふふっ。
貴女の術耐性も素晴しい。本来ならば、抵抗もできないはずなのですが。
やはり魔女の血族ですね」
「……魔女の血族……?」
「知らないのですか? 銀の髪は魔女の一族でしょう?
外に居たエルフさんもそれは知っていましたよ?」
口元に手を当ててフードを被りなおす魔女。
「……ふん、おおよそ私にはそんなことは関係無い。
私はロザリア・シグストーム。
誇り高きグラネダ第五騎士隊長。
剣に於いてその地位に上り、任を遂行している。
そこを退いてもらうぞ魔女!」
言うが否や、騎士様は今度は自らの意思で魔女へと向かった。
魔女は無言で騎士様に指を向けて、何かを放った。
あくまで何か、である。
ちょっとだけ景色が曲がったような感じで放たれただけ。
騎士様はソレに対して――引かない。
むしろソレに向かって左手を出して――
ガンッッ!!
弾ける様な音と共に物理的なものではないそれを殴り飛ばした。
そ、そんな馬鹿なっ!?
今のは炎を殴って飛ばそうとするのと同じで石ころみたいな扱いできるわけないのに!?
その空間のゆがみだったものは壁に激突して円形にめり込んだ。
そして騎士様は次の瞬間にはもう相手の下へと詰めていた。
今度その視線は相手の眼は見ていない。
高速にその剣を生かした突きが放たれた。
シュッ!
突き出された剣が空を切ったのを確認したと同時に、魔女が消えた。
騎士様も驚いてあたりを見回す。
「あはははっ残念……本当に魔女を知らないのですね。
また今度お相手してもらいます銀騎士さん。
そっちのカーバンクルくんにも、ね……ふふふふ……!」
愉しそうな笑い声。
ソレだけを残して魔女は消えた――。
僕達はすぐに折り返し、師匠達と合流することにした。
所在がわかってしまった以上その方がいいと騎士様が判断したからである。
不安だ。いつ魔女が出てくるかわからない。
でも……今は僕がやらないと……守らないと……っ!
再び大きな音がした謁見の間の方へと僕達は急いだ。
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