第126話『魔女魔眼』
「国を壊す……ですか。
私は国を壊すと言えば城を壊していましたが」
ヴァンはそう言って俺を振り返る。
「…………確かにコウキの言う方法で国を壊すのは簡単です。
が、もう少し国民に思慮を持つべきではないでしょうか」
「や、分かってるんだよ。
目が覚めて家が無いとかさ。最悪じゃん」
まるで災害や戦争みたいじゃないか。
仕方ない、運が悪かった……そうやって割り切るぐらいしか出来ないかもしれない。
「だったら……」
「だったら、王女様は命を?
ダメだよ。それも最悪じゃん」
ヴァンに視線をやると厳しい表情で俺を見ていた。
俺だって譲るわけにはいかない。
ルーを触りながら不満いっぱいにヴァンを見る。
鼻をつんつんしてたらついに噛み付かれた。痛くは無いけど。
そんな俺をみてヴァンは溜息を吐きながら応える。
「必ずしもそうとはいいませんが……。
今回は一軒や二軒という程度では済まないですから……。
グラネダであれば、可能であったかもしれません。
資源には恵まれた土地ですし
王家は信敬に溢れ、リージェ様は信仰を集め、軍は信頼を持たれています。
そしてそれは同じ王家に帰結します。
……だからあの国は強いですし、困難を越えるだけの力があるのです。
言葉程軽いものではありません。コウキ……」
その国を建国から支えてきたヴァンの言葉は重い。
時間も人も資材も必要だろうし。
壊して作るって積み上げたものが大きいほど難しい。
「……でもさ……おかしいよ。
国を守るために死ぬの?
コレだけの人がいて、誰も助けてくれないの?
此処に俺たちが居て、助けられないって?
……なぁ……何のために、俺たちは此処に来たの?」
「……」
珍しく、ヴァンが言葉を返さない。
たぶんヴァンには凄くキツイ事を言ってるんだと思う。
俺は少なくとも、王女の手助けをしにきた。
目の前で辛そうに視線を落とすあの人だって助けられる権利がある。
……呪われても守り続けられた王女……その騎士の意志を無駄にしたくない。
大衆正義を成せばきっと俺が間違ってる。
俺は俺のエゴで王女を守ろうと言っている。
「ごめんヴァン譲れないんだ。
……王女様と国が無事な結果を出すにはどうしたらいい?」
俺にはその答えが無いから。
他の方法を聞き出せれば、と俺はヴァンに問う。
「……現状、“呪い”と呼ばれているものの発動は確認されていますが
術的発動に至るまで、そして術的解除方法が不明です。
通常、呪いが条件を満たしている間発動すると考え、その成立を不可にする為の行動方法を提示して現在の2つです。
せめて発動の方法が分からなければ解呪には……」
ヴァンは腕を組んで思考の格好のまま呟く。
発動方法……。
俺にはホント皆目見当がつかない。
結局ファーナに何度か法術を習ってみたけどこれといった成果は無い。
知識も大して持ってないし。
「こう、夜中に藁人形を打ち付けるとか」
「なんだかとても怖い方法ですね……」
ファーナに軽く引かれる。
だって俺が知ってるのってそのぐらいだしさ。
それに軽く笑って真剣に考え始めた。
「呪い……のろい……まじない……」
同じ字を書くんだぞ。
でものろいとまじないじゃなんかものの怖さが違うよな。
でも映画とかでもおまじないからこうホラー方面に流れるやつって多かった気がする。
ガチで怖いから止めて欲しいよな。でも見たいという不思議。
それにしてもよくわかんない。
現象として視覚的に確認できる呪いを見たのは初めてだ。
辿り着いた最短の答えは不成立にさせる事である。
生憎俺の頭じゃその程度が限界っぽい。
「……おまじないでしたら、心当たりがありますよシキガミ様」
――
沈黙の圧し掛かっていた部屋に聡明な声がした。
適当に呟いてただけで予想だにしなかった返事が来て素早くその方向へ視線をやる。
それを言って小さく手を挙げていたのは――。
「ロザリアさん……? まじないの心当たりって?」
ってかなんでロザリアさんが……?
とか思って首をかしげているとなんて言えば良いのか迷ってる感じで部屋を視線で一周して
やっぱり真っ直ぐに俺に視線を直して言う事を決心したようだった。
「はい。あの魔女によると私も魔女家系らしいです」
「えっそうだったの?」
ロザリアさんとヴァンを交互に見るとヴァンは小さく頷いた。
たぶん知ってたんだろうな。
「……恐らく。銀の髪で生まれる家系らしく私すら先ほど初耳でしたけど。
しかし私は法術も人並みですし到底魔法に近しい呪いについては見当もつきません。
ですがほんの少しですが……ひとつ、思い当たる節があります」
胸に手を当てて小さく頷くロザリアさん。
「……俺、ついてきてくれたのがロザリアさんでホント良かったと思うよ」
――心底そう思った。
他の誰かならこの提案は無かった。
「いえ……役に立ってからその言葉は受け取ります。
……とりあえず聞くだけ聞いてみてください」
「おうっ」
「私は母に自分の血の話は聞いたことがありません。
ですが、母は私に小さい頃一つおまじないを教えてくれました。
お恥ずかしながら幼少の自分は弱くて泣き虫でしたので、勇気の出るおまじない、と」
「うんうん」
すっごい期待に満ちた目でロザリアさんを見る。
そのせいかやはり思い直して軽く視線を逸らされた。
「……やっぱり関係ない気がしてきました」
自信をなくして来たのか妙に難しい顔で天井を仰ぐ。
「とりあえず言うだけ言ってよぅ。
さぁ俺に勇気の出るおまじないカモン!」
俺は両手をばっと開いてその話の続きを促す。
「まぁ確かに私一人では難しい話だったので。
シキガミ様、少し立って見ていただけますか」
「おっけー!」
俺はルーを降ろして、座っていたベッドから立ちあがる。
とりあえず中腰状態で彼女を見上げた。
「……少しは中腰の意味ではありません」
「違うの? じゃぁ……」
「じゃぁ、じゃないです。普通に立っててください」
「コウキさん話が進まないですよ〜」
「コウキっ、ふざけないで下さいっ」
「コウキ……時と場所を考えて下さい」
皆に怒られた。
なんとなくショゲたのでしゃがんでルーの鼻をつつくことにする。
「最近みんな冷たいんだよなー。ルー」
カプッ
ルー……お前もか。
「はいっ」
どんとこいの姿勢を続けるためにとりあえず少し足を開いて仁王立ちしておまじないを待つ。
「では、シキガミ様は私の眼を見ていてください」
そう言って部屋の端に立って俺とは遠い位置で対峙した。
言われるまま彼女の眼を見る。
ブルーの綺麗な目だ。
……なんか見つめ照れると少し照れてくる。
彼女は右手をゆっくりと顔に当てて指の間から俺を見るような格好をした。
自然とその瞳に魅入ることになる。
「心強く、貴方に勇気を」
――ふっと、一瞬。
ほんの一瞬だけ、彼女の眼の色が変わったように見えた。
それは本当に一瞬で気のせいかもしれない。
まじないらしいそれはすぐに終った。
まぁそんなもんなんだろうけど。
彼女は少し恥ずかしそうに頬を掻きながら微笑む。
「……全身を眼中に収めてその願いを言う、というものです。
自分にかけるときは鏡などを使用します。
私が知っているのはこれだけです。
まぁあまり有用な話ではありませんかもしれませんが」
俺たちはふむ、と一同が納得したようにそれぞれの思考に入った。
その中で一人だけ身を竦め王女が頭を振る。
「ど、どうなされましたかピアフローン様?」
ロザリアさんがすぐその異変に気づいて彼女を気遣う。
王女はその身を抱いたまま震え出す。
「……同じ、です。私が、初めて、魔女と遭遇した時と――
法術の行使光のような――赤い、瞳を……あ……!」
「ピアフローン様――!?」
情緒不安定な王女を部屋へと移動させそこはアキとルーに任せた。
……立て続けにいくつも事件が起き続けて磨耗しない方がおかしいけど。
あの人は国の主で、しかもその命でもしかしたらこの国は助かるかもしれない。
先ほど恋人だった人が死んで、自分の呪いは解けてしまった。
御伽噺みたいな、綺麗な絶望。
アレから一度も、お腹空いたとは言わなくなった。
彼女は証明してしまった。
己が身で、その呪いの対象を消してしまえば、解ける事を。
死ぬ事を安易に受け入れて、少しだけ心休まったような顔をした。
――それを許さないのは俺。
俺は黒白の騎士じゃないけど。
俺みたいにずるい力じゃない努力であそこまで強くなった人間が守ろうとしたもの。
そんな人が簡単に命を投げる選択をしなくてはいけないのは間違っている。
その人を模れたかどうかは知らないけど。
俺が同じ選択を出来ると驕る訳じゃないけど。
ただひとつ。俺なりの方法で答えを出す。
……あの人には、生きてもらうから。
ファーナとヴァンとロザリアさんと俺の4人で次の作戦を練る。
ロザリアさんはこちら側で引き続き会議である。
「ヴァン、今のさ、瞳がなにか関係してるの?」
「……ええ、魔女は総じて魔眼持ちと言われますが……。
そうですね……なるほど……」
ヴァンは超思考モードらしい。
自分で答えをだして納得しているような言葉をだす。
「でさ、解く方法はわかりそう?」
「……今思考しています」
「そっか……」
じゃぁもう少し待ってみるかな。
俺も考えないといけないけど。
そう思ってベッドに座りなおして考える。
「あの……」
思考を始める前にファーナから声がかかった。
「ん?」
「ロザリアのおまじないは、効いていますか?」
「もちろん。もう勇気リンリン!」
「……」
酷く恥ずかしそうにロザリアさんが手で顔を隠す。
ホントのところはよくわかんないけど。
言葉は聴いてしまったので暗示的に効くかもしれない。
意外にも次は思考していたと思っていたヴァンから言葉が出た。
「……それにコウキだと神性位が高すぎて効かないかもしれません。
ロザリア、もっと直接なもので試していただいていいでしょうか?」
「構いませんが……」
ヴァンは部屋を見回してテーブルの上に目をつけた。
砂糖の入ったカップを開けてスプーンで固まりを取り出す。
それを裏返した陶器の蓋に乗せてテーブルの中心に置いた。
「ではそこの砂糖の塊に……そうですね、“割れろ”と同じ事をやってみてください。
後恐らくですが、手は関係ありません。
相手に自分の眼に注意を向かせるためのものでしょう。
集中してやってみて下さい」
ぴっとその砂糖を指差す。
「え、そんなので割れるの?」
「恐らく」
なんとなくだがそれは確信に近い頷き方だと思った。
「ほら、でもさっきさ、ね……じゃないや魔女の呪いって限定がどうの言ってたじゃん?」
「そうですね。あの魔女は限定呪語を使用しました。
しかしロザリアは今のまじないでそれをしなかった。
憶測ですが……
呪語は限定するとなんらかの作用で強弱があるのかと推測しています。
それに地域を限定しなければ世界の全てにその作用をかける必要がでてきます。
限定の言葉を口にしているだけでその実は――魔法、なのかもしれません」
「魔法……?」
みんなの視線がロザリアさんに集まる。
「あの、その、私には、判りかねるのですが」
「ええ。魔法というのも大げさですが。魔女の魔眼作用と文献にはあります。
さぁ、試してみていただけますか?」
「……わかりました。では――」
ロザリアさんは息を呑んで、ゆっくりとテーブルの上の角砂糖に眼をやった。
――……。
静かに集中して居る姿に俺は呼吸も忘れて見入る。
――……。
ピンと張り詰めた空気の中で静寂が侵食する空間で唯一ロザリアさんの瞳だけが動く。
銀色の髪は小さく揺れ、恐らく少し眼に力を入れている。
だからだろうか――さっきよりもよりはっきり、その眼は赤く、朱色を宿す。
『割れなさい』
まるで超能力を披露するかのような距離。
彼女は手をださずテーブルの上には積み上げられた砂糖だけ。
そしてその砂糖は――。
ピシッ――!
見事に、亀裂を生み、ボロボロと割れ、崩れた。
「おおー! すげー!」
「こ、こんな事が……!」
俺は今にも拍手をしそうなほど歓喜していた。
感動だ。超能力じゃん! 種も仕掛けも無い!
「……今、眼に収束を行いましたか?」
「い、いえっ腕以外のラインはあまり触れたことが無くて……」
驚いているのは彼女も同じのようだ。
珍しく落ち着きの無い様子で角砂糖と自分の手を視線が行き交っている。
「そうですか……ならば恐らく、自然に収束してしまうのでしょう。
本当に微量ですがマナ放出がありました。
成るほど……魔眼作用……コレを呪いというのならば或いはなんとか出来るかもしれません」
ヴァンが顎に手を当てて少し微笑んだ。
俺はヴァンに向き直ってそれを聞くことにする。
「なんとかって?」
「はい、単純に結論を言います」
「おう」
俺はヴァンの眼を見る。
切れ長の瞳には光が入っていて次の言葉はきっと希望のあるものだと予想した。
「呪いを解く事はできません」
「ダメじゃん!!」
なんか凄い笑顔で言い切ってるけどダメ宣言じゃないか!
そんな事を思った俺とは裏腹にいつものように不敵に微笑む。
「ですが、まじないをかける手段があります」
「そりゃ今ロザリアさんが見せてくれたからさ。
てかロザリアさんにしかできないんだよな?」
見たところ大魔法使いって言う感じじゃない。
確かに騎士としての実力は凄いんだけど。
「ええ。彼女にしかできません」
俺はヴァンからロザリアさんに視線を移す。
彼女も小首を傾げて俺を見た。
「何をするんだよ?」
再び頭をヴァンに向けると、指を一つ立て得意げに言う。
「まじないをかけるのです。
――この国に」
国の一望できる距離まで移動して少し小高い岩場の上。
ここだけ下から押し上げられたように真っ直ぐ高く押しあがった岩場で、
見張り用だったのだろうかその中心部に穴があって梯子が真っ直ぐかけられていた。
登って見れば高さはビルの三階とか四階とかそのぐらいだろうか。広さは教室ぐらいかな。
遠くなってしまったあの国は少し黒く陰湿なもやに覆われて見える。
やっと眼中に収まる距離に来たけど……でも結構動いた。
俺たちはあの街の外へとやってきた。
もちろん遊びに来たんじゃない。
ヴァンの提案によりこの国に呪いをかけることになった。
――そう、ただの呪いの重ね掛け。
同じ存在が居る事により実現する、最も単純な解決法。
魔女の呪語に真っ向勝負を決めた呪語はこうだ。
『解呪せよ』
まぁ何も難しい事を考える事は無く、解呪することが目的の今それが一番だろうということになった。
「――遠いです。
とても私の術で届くとは思えません……」
その遠くを見るために手を頭に翳す様が妙に似合っている。
城と街全体を視覚に収めるとさすがに遠い。
「……そうですね……此処に来てわかります。
あんな大きなものに対して呪いをかけるなど……並みの者では不可能でしょう」
銀の髪の二人が並ぶ。
――なんか珍しい光景だなと思った。
「あの……ヴァンツェ様。私は術に関しては並の者なのですが」
ヴァンいわく、彼女には術士の適正があったらしい。
一般兵士時代から優秀でヴァンが法術研究の方にも誘った事があるらしい。
彼女の言う並みの者というのも謙遜で、騎士中では随一の術士らしい。
――そんな風には見えなかったけど、そう言えば壁は走るとかなんとかしてたしな……。
本人としては騎士らしい騎士の方で居たいらしい。だから並みの者なんて言うんだろう。
術が使えても十分騎士らしいと思うんだけどな。
「さすがに適正があっても即興では流石に本物の魔女には勝てそうも無いですね……。
いささか困りました」
ヴァンも流石にこれ以上は手の打ちようが無いと両手を挙げる。
俺は後ろを振り返って階段の方を見る。
そろそろファーナが上がってくると分かった。
「ファーナ大丈夫?」
「はいっありがとうございます」
「ふぅ……。コウキどうでしたか?」
「うん。今距離をみて、ロザリアさんが無理そうって」
「……そうですか。他に方法は?」
「わかんない。ヴァン、他に方法ありそう?」
「……思案中です。
魔女が神性位がどれくらいなのかは知りませんがやはりかなりの実力者のようです。
彼女に勝る加護や神性を得なくては不可能でしょう」
「申し訳ありません……私ではやはり役不足のようです……」
二人がしゅんと頭を下げる。
折角此処まで来て――。
俺は遠くに見える国を見る。
今は黒い霧に覆われた国だけど、近くに行けば歴史も見えたし、趣もあって綺麗なところだった。
アレを壊すのは……そうか。やっぱり悪い事だよな。
きっと何を守っても間違いではないのだろうけど……。
ヴァンは――。
ヴァンは、考えてる。
いつもは余裕綽々で、何でも出来るんだって顔してる人がさ。
必死に押し黙って経験の全部から難しい解答を得ようとしている。
俺の言いたいことは理解してもらえてる。
俺もヴァンの言っている意味は分かる。
何も分かってない俺が壊すことを提案して、否定して停滞した事を焦ってる。
アキには引き続き王女を見てもらうことになった。
ヴァンはアキに一つ念を押して彼女に囁いていたが――偶然にもそれが聞こえた俺も焦らざるを得なかった。
……ヴァンは彼女が死なないように見張ってくれと、アキに念を押したのだ。
追い詰められてるは王女。
彼女は自分が命を断つ事で国が救われるかもしれない事を知ってしまった。
だから此処に来る事自体がかなりのプレッシャーになるはずだ。
「ヴァン」
「――なんでしょう?」
「ごめん」
「……何故謝るのです?」
「いや……一人で背負わせてるなと思って」
俺たちの中では一番年上で。
このパーティーの先生みたいな役割だ。
導になるのは当然だという自負があって、何を隠そう俺たちの指導者であった事は間違いない。
「……そんな事は気にしなくてもいいのですよコウキ……」
どうってことはないのだといつもの笑みを作るヴァン。
それでも焦りは隠しきれて居ない。
……俺はさ。
最初から、もっと俺だけの世界で完結すると思ってた。
俺が触れる世界。もっと端的に言えば俺の友達を助けれればいい。
自己満足だよ。当然。でもそれが俺にとって一番の幸せの方法だろ?
困ってる誰かを助けるっていう崇高なヒーロー意識じゃなくて、
ただ友達が困ってるから助けるっていう当たり前で小さな話だよ。
時間が流れて少しずつだけど、俺の世界が大きくなってきた。
それは、俺の友達が持つ世界が少しずつ俺の世界にも入ってきたから。
がんばってがんばって走り回って。
それでも俺の知らない友達の友達が不幸になる。
助けたいけど……世界が広すぎる。
ヴァンは――。
多分、この世界で俺を初めて友達だと言ってくれた友人だ。
ヴァンは国を何年も背負って歩いてきた。
だからその国の価値というのを測ることができる。
俺にはわからない。ヴァンが背負おうとしているものが重いってぐらい。
ヴァンの持ってる世界は、俺より大きい。
国王や王妃様と繋げた世界はきっとこんなことで途方に暮れる俺とは比べ物になんない大きさ。
だから俺は――。
「なぁ、ロザリアさん」
「はい、何か?」
俺は変わらず俺の世界の為に。
ヴァンを助けるために、できる事。
「ちょっとシキガミになってみない?」
「は、いっ?」
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