第139話『小光の大志』


 走る走る。必死で走る。
 ダメだどうしても体の大きさが違うし体力も違う。
 それでもあんなに悔しそうにしている皆を見ているのは苦しくて。
 辛そうにしている神子様をどうしても助けたくて。
 せめて僕だけでも。せめて守るだけでも。
 息を切らしながら必死で走る。
 姿は見える事はないだろう。得意技の一つだ。
 それを使って完全な死角から走り出した。
 自分と言う存在が其処に居るという事は誰にも認識できなかったはずだ。
 きっとあの三人たちですら気づかなかった。
 もしかしたら師匠には見えていたかもしれない。
 視覚のまやかしに掛かりにくい人だったから。
 きっと心配をかけてしまっている。
 でも少しでもその師匠の為に役に立ちたい。

  守れる奴ぐらい何やったって守らなきゃいけねぇんだよ!!!

 その意志に。僕が成って見せるから――!

 小さな体に宿した意志はとてつもなく大きい。
 大きいからこそ、その勇気を奮わせ荒い道を走る。
 たくさんの力の使い方を学んだ。
 進むべくが何たるかをあの人に見てきた。
 後悔しないために僕がするべきことは力の全てを駆使してあの人を守る事だ。

 つかず離れず。
 本当に大事な瞬間にあの人を守る。
 あわよくば――僕が盗んでしまおう。
 機会を窺うんだ。せめて夜を待たなくてはいけない。
 ずっと追いかけ続けなきゃいけない。
 浮遊だと早さが足りない……!
 だから走らないと!


  馬の煙の後ろを走る小さく勇敢な金色毛並みの幻獣の姿は敵の誰にも見えはしなかった。













 あの黒の騎士が通った後は残酷だった。
 なぎ倒された木々。
 その中にあった死体を見て吐きそうになった。
 真っ二つになって苦悶の表情のまま死んでいるその騎士達。
 ――戦争、だった。
 命の取り合いが始まったんだ。
 アイツが何の為に始めたのかは知らない。
 でも、ああはなってられない。
 きっとこの戦いは俺達が何とかしなきゃいけないことでもあるんだ。
 偶然だけどその当事者になったのが俺。
 向こうみたいに戦争に長けてる訳じゃないし……。
 俺がシキガミと戦わないといけないのは確かだ。
 兵隊もあるし不利だとは思えないけど……。

 拾った名前の打ち込まれたプレートをそこに居る全員分拾って。
 アンデットモンスターになると困るからと、ヴァンがその場で火葬する。
 焔には浄化の効果があるらしい。
 火葬で骨になればそれはモンスターになりえない。
 地下迷宮でみたゾンビをみれば凶暴性やおぞましさが並々ならないのはよくわかる。
 騎士なんてのがそうなってしまえばさらに厄介だ。
 あくまでも心を殺して作業的にテキパキとヴァンがこなして。
 彼が燃やす揺ら揺らと燃える火は、いつもより冷たく見えた。










 ドゴォォォンッッ!!!



 滅茶苦茶痛かった。
 ドアぶち抜いてその先の廊下の窓から飛び出したぐらいだ。
 アクションスターも驚愕の本気ぶっ飛び。
 2階じゃなかったら死んでたね。ほんと。
 衝撃緩衝が効くとはいえ、着地をしないと流石に痛い。

 シキガミじゃない――正確にはファーナのシキガミではなくなった俺は一旦体制の立て直しの為グラネダへと戻ってきた。
 当然戻ったからには報告しなきゃいけない。
 報告するからには全部正直に話さなきゃいけない。
 話したからには大人しく殴られなきゃいけない。な?
 ファーナがさらわれる一部始終を聞き終えた王様はツカツカと俺に寄ってきて全力でブローを放ってきた。
 声も出なかったし息も出来なかった。
 内臓が破裂したんだと思う。思いっきり血も吐いた。
 叫び声とか兵士とかいっぱい集まって大騒ぎになった。
 同じ会議室にいたアキが飛び降りてきて俺を起こしてくれた。

「コウキさん!! 酷い……!! これじゃ死んじゃう……!
 担架を!! 囲まないでキュア班を呼んで下さい!!」

 交通事故に合った時に似てる。
 あの時の俺なら死んだね。
「こ、コウキさん!? 起きないで横になっててください!
 すぐにキュア班の人が来ますから……!」
「……いや、いいよ……あとで行く……」
 許しを請いたいわけじゃないから、そのまま立ってもう一回会議室までズルズルと歩いた。


「……いてぇ……」
「何だ、死んでなかったのか。凄いな」
 開口一番にそう言ってきたおっちゃんにはまだやっぱり殺気があった。
 めちゃくちゃ恐い。
 会議室の両開きの扉の片側の蝶番の金具がはじけ飛んで扉が傾いていた。
 その先の窓は壁を砕いて窓が丸ごと抜けている。
 ……奇跡だな……。
「こ、コウキさん! やっぱりキュア班に先に行きましょうよぅ!
 そのままじゃ死んじゃいます……!!」
「大丈夫だいじょうぶ……シィルは心配性だなぁ」
 うふふと笑いながらデコを押す。
「だめですよ!! 末期ですよ!
 私がお母さんに見えてたらダメなんです〜!!
 お願いですからコウキさん〜〜!」
 というか俺の知ってるシィルはそもそも同じヒトだったんだが……本人には分からないか。
 ヘラヘラしてるのも流石に限界で、保てたか保てなかったか分からないが
もう少しだけ待ってと言うとアキが殆ど泣いてる状態で頷く。
 俺は明らかに血の気が引いている頭と最高に悪い気分を押し込めておっちゃんに向き直った。

「……相手はシキガミで、しかも多分別格なんだ。
 軍隊が要る。隊長クラスなら一人でいいから……救出に協力して欲しいんだ」

 ファーナが抜けた。
 そして俺がシキガミ本来の能力を失った。
 その抜けを補うにはどうしても――アキ程度の恵まれた人間が必要だ。
 アキはここの騎士に誘われた事がある。

「だ、だったら私が――」
「下がれロザリア。必要ない。
 私情で手を出すな――死ぬぞ。
 悪いが、救出にはここからは騎士を出せない。
 それに百人兵長レベルは正直連れて行っても話にならないだろう。
 そして千人で出迎えようものならファーネリアが危ない。そうだな?」
「……間違いないと思うよ……」
 世界がゆらゆらしてきた。息苦しい。
 ぶんぶん首を振って深呼吸する。
「では、却下だ」
「国王! お言葉ですがそれは冷たくはありませんか!
 せめて一人騎士がつけばいいことではないのですか!」
 声を荒げて席を立つロザリア。
 もう少し狭く見えた会議室は今は皆出払っている為閑散としていた。
 国王は言葉を変えるつもりは無いらしくロザリアさんを睨む。
「では騎士隊長が抜けた穴を誰が補う」
「それは……」
「適任など居ない。
 グラネダがいかに軍力に恵まれた国だとはいえお前達ほどの者はそうそう居ないのだよ。
 立場と状況を理解しろ。
 お前達と並ぶカルナディア、アルゼマインが敵に回った。
 お前達が行っても二の舞になる可能性がある!」
 怒声が響く。ビリビリと
 ロザリアさんが何かを言おうと口を開いたのに俺が被って言った。
「いや……ありがとうロザリアさん。もう十分だよ……。
 国王は国を優先しなきゃいけないしさ」
「では、どうするつもりなのですか……」
「城下で、傭兵、を雇うよ」
「……それで、どうにかなるのですか」

 ロザリアさんが明らかに声のトーンを落としてそう言った。
 傭兵はあまりいい噂を聞かない。
 戦争の匂いを嗅ぎ付けて、今沢山集まってきているらしいが――。
 先払い報酬だけ受け取って途中で居なくなったりする場合もあるらしい。
 労働者根性を疑うよな全く。
 かといってこんなに危険な仕事も他には無い。
 頃合を見て逃げてもらうことも大事になってくる。
 勇ましいよりは、逃げ足が速い方がいい。

「するよ」

 生きてくれる方がいい。
 俺もそのほうがずっと楽だ。
 だから生きるに長ける人たちを連れて行くのはいいことだと思う。
 ロザリアさんは納得したようなしていないような表情でたどたどしく俯くと声を絞りだす。
「…………貴方がそう言うのであれば……」
 そう言った後、王に非礼を詫びて席に座った。
 王は顔を顰めて地図を睨みつけていた。
「ありがと――う、ぷ……!」
「シキガミ様!!」

 一気にこみ上げてきて、会議室を出る。

「担架っ!
 キュア班さん!
 こっちです〜!!」


 アキが叫ぶその声を聞く頃には再び血を嘔吐して――今度は完全に気を失った。











 新手の病気と一瞬思われたが服を脱がした瞬間に真っ黒になってる脇腹を見て
久しぶりに戦慄が走ったと腕利きの医師は言った。
 それでも治すのが天下のグラネダキュア班。
 キュア班という医療施設の発祥地でどの国よりも発展した治療をしている。
 中でも総班長という役割の人が凄くて、神医といわれている。
 それがファーナを治した人なんだけど。
 その総班長直下の人たちが総動員で俺の治療に当たったらしい。
 ものの数時間で赤黒かった痣が消えて、正常になった。
 通常ならありえないのだが、どうやら俺の体はえらい元気らしい。
 でも間違いなくその先生たちのお陰なので俺は真摯にお礼を言った。

 起きた時は真っ白な天井が眼に入った。
 また病室に寝転がって一夜を過ごす事となって仕方ないと素直に其処で休む事にした。
 本当は剣を振っておきたかったんだけど、どす黒いオーラを纏ったアキに笑顔で止められた。
「今度無茶したら……本っっ気で泣きますよっ……?」
 と徐々に笑顔が消えて目を潤ませていた。女の子ってずるいと思う。
 王様が酷いとぶちぶちと言いながら膨れていた。
 でも俺はそうは思わない。
 何で見殺しにするようなことをしたのか。
 俺達だって自己嫌悪で死にそうだった。
 だからどうあっても助けに行くつもりだった。



 気づかなかった。
 シキガミじゃない瞬間っていつだったんだ。
 最近って言っても……ファーナは傍にいたし。
 そういえば身近に感じる事ができないというか心遠いというか――。

 繋がりがなくなった。
 コインとカードが離れるだけ。
 カードのお陰で彼女の喜怒哀楽は手に取るように分かったけど、あの瞬間に全部分からなくなった。
 もし俺の存在が拒否されているのなら。
 拒否されてるのに一緒に居ないといけないのは恐い。
 それは相手や自分にとってどれだけ辛い負担になる。

 最後に感じたのは困惑というか不安って言うか……恐怖みたいな。
 俺にはあやふやだったけど……見て欲しくないところというか……。

 ヒミツって有ると思う。
 誰でも知られたくない事って有ると思うよ。
 感情の動きでもさ、結構分かる事って有る。

 俺自身も結構隠し事は多い。ほぼバレたけど。
 悲しいって表に出さないし、コンプレックスとか。
 恥ずかしいぐらい泣いて――同じぐらい、ファーナが泣いてくれて。
 貴方はソレでいいと、言ってくれた。
 あの時の言葉は嘘じゃない。

 ちょっと驚いたのは驚いたけど、ファーナが言ったわけじゃないし。
 大して気にするほどじゃない。
 言い聞かせてるだけかもしれないけど……。


 控えめなノックの音がした。
 誰が来たかは何となくわかる。

「起きているでしょうか……?」
「うん。開いてるよ」
「失礼致します。シキガミ様」
 銀色の髪をした女性が静々と入ってきて頭を下げた。
「夜分にすみません。お体は大丈夫ですか……?」
 その凛とした佇まいは彼女をあらわす行動のひとつ。
 誰に聞いても彼女の評価は生真面目で正義感の強い人だという。
 俺もその通りだと思うけど。
「うん。大丈夫。勇気リンリンだよ!」
「……」
 冗談が通じない人にやってしまった。
 ちょっとは慣れたから大丈夫かなって思ったんだよ。
「ゴメンナサイ」
 スパーンとベッドの上で頭を下げる。
「い、いえっその……すみません。
 少しだけお時間宜しいでしょうか」
「うん。動くなって言われてるけど寝れないからボーっとしてたんだけだし。
 何かあった?」
 ベッドから足を下ろして座るとロザリアさんに椅子に座る事を勧めた。
 すぐに終わるので、と言って彼女は首を振って断るとそのまま話を続けた。
「カルナディアとアルゼマインの事です」
「うん」
「リージェ様の事も……心中ご察ししますが……
 もし、あの二人が主君に当たるあの方を傷つけるようなら、遠慮は要りません」
「そっか……」

 アルゼがちょっと首切ってたとか言わない方がいいな。
 さすがにあの瞬間はちょっとカッとなったけど。
 騎士の道理を守れって事なんだろうけど、呪われてる相手に対してまで貫く事じゃないと思う。
 あとで一発から五発の範囲で殴ってやろうとは思うけれど。
 そう思うと、俺もおっちゃんと大差ない。
 一発で済ませてるぶんおっちゃんは立派だ。

「それだけです。
 貴方は優しすぎますから。守るべきものを間違えないでください」
「……わかってるよ。じゃぁそれも含めて相談なんだけど」
「はい?」

「もし、二人を助けれるなら、解呪を軍隊目前で使ってくれる?」

 今はできない。俺はシキガミのカードを使用する力が無い。
 必然的にファーナを取り戻す事は優先となる。
 それとここでその解呪を使ってしまうと、血族云々がバレる可能性がある。
 ヴァンからは言わないようにと忠告されているけど……。
 もしかしたら彼女がここでの地位を失いかねない。
 だから弁えては置くけれど、助けない算段は立てたくない。

「……流石ですね。シキガミ様。
 もし、私に出来る事があるのならば何でもするつもりです。
 二人を救えるのならば是非そうしたいです」
「ファーナとコインを取り返せば、またエンブレムブラッドが使えると思うからさ。
 その時に最前線に居てくれるなら尚うれしい。
 あ、でもシキガミ状態で使うと、倒れちゃうのか……」
「そうですね、私は一日倒れる事になりますが、二人が戻ってきます」
「捕まえるのとどっちが楽だろう」
 例えばだけど足に傷を負わせて、動けなくするような。
「捕まえる……となると、私たちもほぼ相打ち覚悟になります」
 それにキュア班に頼りっきりになるからこっちはだめかもだ。
 三人とも戦闘不能となるとダメだ。
「うーん……でも、戦ってる最中にロザリアさんが居なくなるとまずいんだよな……」
「陣形にもよりますが、私が倒れるのは良くないです。
 しかし急激なマナ不足による気絶なのでキュア班さえ居れば問題はありません」
「じゃぁこうしよう。あえてあの二人だけを奥に進ませる。
 なるべくキュア班近くで迎撃……あ、こういうのってヴァンとかと話さないとだめだな」
「そうですね、ヴァンツェ様だけではなく騎士全員に聞いてもらう必要がありますが」
「えっ!? あ、いや、そうか……でも、ほら、結構人いるじゃん」
「ええ。ですから私たち隊長が把握して指示する必要があります。
 気を失うことも予定に入れて、想定内としてそのうちの行動も先に指示する必要があります」

 騎士隊はどうしても巻き込む事になる。
 隊長たちが関わっていることもそうだし、やっぱり王女であるファーナである事も。
 考える事が急に増えた。
 コレだから人が多くなるのは大変だ。
 バイトのときはソレをやりがいと呼んでいたけれど。

 俺は軍人でも隊長でもないから、会議には出れない。
 だから俺の要望だけロザリアさんに伝える事にした。
 一応傭兵は募りに行くけど、最悪俺たちだけで出発も考えてる。
 ただ作戦が一辺倒になってしまって、失敗が許されなくなる。
 ソレを避けたいが為の行動だ。だからあまり期待はしてない。

「はい、なるほど、そこで二人をひきつける役ですね……」
 ロザリアさんはさらさらとメモをして作戦を反復する。
 少しだけ質問をしてそれに答えて、そのメモに書き加えると満足げに肯いた。
「はい。ではこの概略で動く事を確認しておきます。
 明日の軍部会議で考慮し、こちら側の動きも決めておきます。
 午後には軍の準備が入るでしょうから夕方にお時間をください。報告に参りますので」

 部屋を出る前にきっちりと礼をして扉を閉める。
 今更になってだけど、俺凄くエラそうだったな今……あっちが直立で俺ベッドで脚組んでた。
 今度はお茶とかで釣って座ってもらおう。うん。
 難しい事を考えたせいか、少し眠気があった。
 寝よう、と思ったけど目を閉じた瞬間に心配事が思い浮かぶ。
 ――フォーチュンキラーがあれば間違いなく今すぐにでも飛んでいく。
 ファーナ大丈夫かな……。

 思ってしまえば、ネガティブな方向へと広がるばかりなのに。
 そわそわして寝れなくなったのでやっぱり起き上がって神殿へ行く事にした。
 メービィに聞けば、ファーナの状態はわかるはず。
 まずなんて言われるかわかんないけど……。それがちょっと怖い。




「コ・ウ・キ・さんっ」

 神殿にのこのことやって来た俺を笑顔で出迎えてくれたのはアキ・リーテライヌ竜人様である。
 思わずゲェっと悪役張りの驚きを見せてしまったのは
予想外にも祭壇の入り口である扉前に彼女が立って待ち構えていたからである。
 その赤毛の髪をポンポンと揺らして軽い足取りで進んでくる様に恐怖を覚えずには居られなかった。
 姉ちゃんにプリンを盗み食いしたのがバレた瞬間に似てる。
 ボクニハドウスルコトモデキマセンヨネ。
「……ハウスっ」
「い、犬じゃないわん!」
 最近ワンコ君とよく言われるけど、ソレは間違いです。
「ダメですっそうやってすぐ無理するんですからもうっ」
「大丈夫! 超元気だよ!」
 キラーッと笑顔を輝かせる俺を既に信じてない眼で見返すアキ。
 どうやら信用が地に落ちているようである。
「ああもう。わかったよっ信じてくれよぅ。剣は振らないし大人しくしてる。
 でもメービィとは話しには行きたい」
「……実は、それにわたしも行きたいんです」
「うん――うん? あれ、二人同時にっていけたっけ?
 いや、そもそもメービィは今……うん。確か俺しか呼べないって言ってたよ」
 呼べるのは俺かファーナぐらい。殆ど神としての力など無いのだと女の子は言っていた。
 アキは盛大に溜息を吐いて視線を下げる。
「ですよね……」
 その心配な気持ちはとてもよく分かるが、その空気はいただけない。
「ラジュエラなら大歓迎してくれそうだけど」
「いえ、あまり死ぬような目には遭いたくないんですけど」
 ぶんぶんと首を振る。
 俺の話を聞くたびにいつも笑顔が引きつってる。遠巻きに苦手意識を持たせてしまっているのだろうか。話してる分には気さくなお姉さんなんだけど俺はどうせ会わなくてはいけない。空気も読める人だから大人しくしていてくれるかもしれないけど。
「あっはっはっちょっと死んでくる!」
「こ、コウキさん〜!
 コウキさんしか、もう救えないんですよ!?
 無理して、居なくなっちゃ嫌です!
 ファーナだってっ、今頃、酷い目にあってるかもっ!
 も、もしかしたら、山賊の時みたいに……!!」

 アキは興奮気味に一気に言うとぐしぐしと泣き出してしまった。
 結局、ファーナを心配してるのは俺だけじゃない。
 皆おなじだ。一刻も早く助けたいと思ってる。
 必死に気にしないようにして、ナーバスな考えを遠くに押しやる。
 一瞬だけあの時のアキの姿のようなファーナの姿を想像して、チリッと背筋に虫唾が走った。

 ……カードを使えなくされたのは、やられた。
 運命無視<フォーチュン・キラー>が使えない。
 今まで凄いとは思ってたけど、当たり前に使えると思ってた。正直滅茶苦茶悔しい。
 

「……でも、大丈夫だよ」
「なんでそんなことが言えるんですか……!?」
 無責任に思われただろうか。
 泣いている彼女の言葉は容赦なかった。
 ソレもそうだと思ってちょっと苦笑したが、そのお陰で不敵な顔で次の言葉を言ったと思う。
「俺の信頼してる仲間が守ってくれてるから」
 今度は存分にその力を発揮してくれると思う。
 後悔は沢山しただろう。だから守る為に必要な事を俺に求めてきた。
 俺が教えれた事なんて無いけど。

「……へ……?」
「ちょっと走ってくのが見えたときは焦ったけどすぐ見えなくなったしさ」
「え、えっと……?」
 くいっと首を傾げて俺を見た。最後のヒントの為に俺は笑う。
「今俺たちの希望の光なんだぜ?」
 それはファーナが与えたその子の名前。
「希望の、光って――あ、あああっ

 ルーちゃん!?」

 今更気づいたんだろうか。きょろきょろと辺りをみて、そういえば居ないと気づいた。
 まぁこの城にいる間はルーは部屋で寝てるか、ご飯食べてるか、引っ張られてるかのどれかだったと思う。
「そ! なんたって俺の一番弟子だぞっ」

「……微妙に心配です……」
 ちょっと考えてうーんと頭を捻るアキ。
 まぁ分からなくもない。でもあの小さな体で俺たちの冒険についてきてたんだ。
「奇遇だね俺も……でも。
 サシャータの王女はちゃんと守った。
 それにロザリアさんだってルーは優秀だって言ってくれた。
 ルーの壁は魔女じゃ破れないってさ。
 俺たちが見てるよりもずっとルーは強いよ」

 俺たちが居る時は基本的に守る必要は無いし守られる必要も少ない。
 だからあまり活躍は無くてもどかしく思ってただろう。
 燻ってた守る為の力。
 それを今こそ――全力で駆使する時。
 ソレを信じる事にした。
 だから俺は全力で助け出す方法を作っておく。
 俺がシキガミとして何と言われようが構わないから。
 守れる奴を守る為に何だってやってやるんだ。

 アキの頭をぽんぽんと撫でて俺はあとで報告する事を約束して祭壇へと足を進めた。

前へ 次へ


Powered by NINJA TOOLS

/ メール