第141話『意志伝承』

 巨躯を揺らして歩み寄る。
 肩に乗せていた布で包まれた巨大な塊を下ろして地に着いた。

 勢いで少しハダけた布からは黒と銀それに茶の鮮やかな紋様の見える巨大な戦斧。
 その圧倒は俺がこの世界に来て初めて向き合った敵。

 そして、シキガミの俺を初めて認めた奴。

「――うお、おお!」


「――久しいなコウキ。約束を果たすぞ」

 俺一人分はある屈強な腕に倍はでかい図体。
 バサッと布を取り払うと獣の顔が現れた。
 軽く頭を振るとばさばさと鬣が広がる。

 百獣の王ライオンを模した獣人。


「アルベントォーーー!」


 獣人の勇者――アルベント・ラシュベル。
 この街でもその名は高く、泣く子も黙る獣人、ライオンの傭兵である。
 重苦しく輝く戦斧を軽々と持ち上げ


「シキガミのコウキの名の下の戦ならば参加させてもらおう」

「なんだお前、あんなのとも知り合いなのか?」
 剣聖が眉を顰めて溜息を吐いた。
「おうっ! またこっちに来てたのかっ!」
「ああ。コウキには返さないといけない借りが多いからな」
 腕を組んで鼻息荒くそういった。
 数々の戦争を駆け抜けて不敗。
 しかも最前線に居続ける前線に置いて最強を謳う勇者である。
 これほど心強い味方は居ない。



「な……何が起きてるんですかヴァンさん……?」
「いえ……もう…………

 コウキですから……」

 世界に誇れる知識の殿堂が搾り出すようにその言葉を言った。
 その表情は驚いているのか笑っているのかアキにも分からなかったけれど――。
 奇跡を呼び寄せている――。
 そう感じる。

 救える可能性のある作戦が、救える作戦に変わった。
 より確実なものにする為にヴァンツェはグラディウスへと歩み寄った。
 ――かつては、修行という名の下に共に旅をした仲間である。
 知らぬ仲ではない剣聖は彼を邪険にはしなかった。
「よう。久しぶりだなヴァン!」
「グラディウス。貴方にはもう一つ頼みがあるのですが」
「ん? ああ、あの二人だろ?」
 ズバリそれです、とヴァンがすぐに答えた。
 ――今回の戦は人の量ではない。
 前線に世界最高の質をそろえる必要が有る。
 剣聖はそれに残念だが、と首を振る。
「あいつらはこの町にいねぇんだ。
 竜士団の名前を聞いてな、もしかしてと思って俺だけでグラネダに来たからな」
 ……竜士団の名前流布も侮れない。
 お陰でこんな大物が釣れてしまったのだ。
 固唾を呑んで剣聖を見るアキに気づいて罰が悪そうに頭を掻く。
「なんだ、その……縁があるな」
「……戦うんですか……」
 キッとその眼を鋭くしてグラディウスを睨む。
「まぁな」
 別の意味でグラディウスは気持ち悪さを感じていた。
 トラヴクラハ。それにその娘アキは自分が殺したはずである。
 心臓を貫いた人物が生きていること程不気味な事は無い。
 ソレを治せるような人物はグラネダの神医ぐらいのはずなのに。
 死をも恐れぬ勢いで名うての剣豪を倒し続ける彼でも彼女には寒気すら感じる。
 運がいい、とたったそれだけで此処に立っていられる程世界は甘くは無いはずだ。
 剣聖には彼女はとても不気味に映り――。

「……戦争中は背中に気をつけてくださいね……」

 だからちょっとした苦手意識が芽生えていた。
 運が良いとか、運命とかそういったものが苦手な彼だからこそ。
「き、キモに命じとくぜ……」
「きもく命じとくぜ?」
「言ってねぇよ……オイ、何とかしてくれよ。
 後ろからブッすり刺されちまう」
 剣聖がジト目でコウキに訴えるとフルフルと黒髪が左右にゆれた。
 そしてピッと指を立てて苦笑を浮かべる。
「自業自得じゃないの?」
「それもそうか……いや、今ぐらい後ろ盾にはなれよ」
 流石に視線が痛いと熱視線で焦げそうな肩に手を当てた。
 コウキはうんうんと頷いて彼女の方へと数歩歩く。
「アキっ」
 彼女を呼んで少し手を猫手気味に挙げた。

「がおーっ!」
 そして何故かコウキが急にがるがると吠え出した。
「くわぁーっ!」
 それに対抗してかキッと爪をむく格好をしてアキが吠えた。
 拳法でもなんでもない何かの格好で睨みあう。
 彼の力が必要な事は彼女も理解はした。
 理不尽にも納得しなければいけない状態に納得がいかない。
 それだけのことに自分が気づけるか、諦めるまでその葛藤が続くのだ。

「おいヴァンツェ。あれらは放し飼いにしちゃだめだろ」
 傍から見れば子供の遊びに相違ない。
 ヴァンツェから見れば微笑ましいとも言えるいつもの光景である。
 ただやっている事の割には複雑な視線が飛び交っているが気にしないで置く事にした。
「餌代が浮くんです」
 竜と虎の放し飼いなどさぞ凄まじい光景になるだろうがヴァンツェにとって目の前のアレは可愛いものである。
 見た目どおりじゃれあっているだけである。
 自分達で納得するまでやってくれれば周りに被害を出すほど悪い子達ではない。
「なるほど……」

 ざざっとコウキが攻め入ってお互いの手を掴んだ状態で固まった。
 ギリギリと力負けするのが男の方でずいずいと顔が迫ってくる。
 しかし彼女の耳元に顔を近づけた彼が何か一言彼女に呟いてその争いは収まった。
「――それにしても、惚れた方が負けとは良く言いますね」
 少し離れた場所でポツリとヴァンツェが呟いた。
 その言葉に二人をみて少し苦笑する。
「――……しょうがねぇだろ。惚れてんだから」

 争いの種が解放されたとばかりにニヤニヤと二人を見ている。
 ヴァンツェが見た分には好戦的な人物では有るが、それでも喧嘩に明け暮れるような日々を送る人ではない。
 名だたる剣豪や戦士達に挑み、本当の意味で無敗の最強の剣士。
 剣聖<グラディウス>の名を得て幾千年。
 不死身ではない。
 転生しても必ずその名を頂く――そして未だに。

「相変わらずだな」
 そう言ってライオンが勇ましい顔に皺を寄せて笑った。






 青空には太陽が中天し少し間があった。
 燦々というよりはもうジリジリと照りつける太陽は夏の気候を作っていた。

 黒い姿に縁が有るのかな、とも思ったが始めからそうだったひとをどうこう言っても仕方が無い。
 一陣の風が俺たちに向かってきてその存在を知らしめた。
 ざわざわと聞こえる声の群れの中を割って現れた黒い鎧の戦士。
 徒手空拳でナイフ一つ持っていないように見えた。
 それにその姿は見覚えがあった。
「……鉄拳かぁ」
 民衆から聞こえるその名を反復する。
 ただでさえ固い拳を鎧に守らせてもっともシンプルな手段で戦う者である。
 黒い鎧だがキラキラと光を反射する。
 光の入り方ではほぼ白にもみえるだろうか。

 この国を建国したのは元々は平民ともいえる者である。
 貴族階級は存在はするが軍は完全実力主義の下に国を作られている。
 各国への往来を利用した商業で急激に発展し、季節ごとに催される祭り事には毎回多くの人を集める。
 人を集める多くの理由には、名だたる英雄の名がある。
 
 戦王<トラヴクラハ>
 かつて戦争を治めた最強の一団。その頂点で名と命名が共に有った英雄トラヴクラハ。
 神壁<ハイグランダー>
 重鎮な鎧を纏い傷の付く事の無いとされる難攻不落の騎士バルネロ。
 神言を預かる者<ディヴォクス>
 比類無き速度そして知識を持つ詠唱術の最高峰ヴァンツェ・クライオン。
 鉄拳<ブラッカーフィスト>
 鉄をも砕く凶器の拳で国と信念を守り続け、国王となったウィンド。

 あの王にしてこの国が有る。
 それは間違いない。
 その勇姿は、最近になってからは見られなかった。
 軍事の態勢が整い、若く優秀な人材が現れたからである。
 たとえ力で劣るべく敵でも数で圧倒する事もできる。
 質も量も整った軍勢は大陸最強とも言われている。


 最前線に立って国を守り続け、大きな信頼を得た鉄拳の王が――目の前に立ちはだかる。
 ドラゴンレプリカと戦った時にその姿を見た事が有る。
 圧倒的な威圧感のある姿は意図的なものだ。

「よ、おっちゃん。仕事は?」
 殺気立って居るのを分かっていていつも通り話しかけた。
「……代官に押し付けてきた」
「うわっ可哀想に……」
 資料の山がせっせと運ばれていく様子が眼に浮かんだ。
 おっちゃんの直下の家臣の人だからめちゃくちゃ忙しいはずなのに。
「あとさ、折角だけど、おっちゃんは――」

 この傭兵隊には入れられない。
 実力は折り紙つきで申し分ない経験が有る。
 非常に勿体無いけど、国王だから。
 もうこの人が前線に居るのは危ない。
 言いたくは無いが死んではいけない人なんだ。
 俺だってこの中の誰一人として死ぬ事は許したくはないんだけど。
 喋っている途中でおっちゃんが高速で二歩を取って地面を滑るように走り出した。
 また殴られるんだろうな。
 そう思ってまた覚悟を決める。

 ガキィィィッッ!!!


 その鉄の拳がピタリと止まる。
 俺の剣じゃなくて重鎮な斧。
 甲高い音でギリギリと鉄が悲鳴を上げる。

「あ、アルベントっいいんだ、その人国王だからやめとかないと!」
「そんなものは知らん!
 私が許したシキガミはコウキだけだッ。
 王だろうが英雄だろうが他のシキガミがコウキの道を阻むなら私が斬り捨ててやろう!!」

 重苦しい風音で斧を振りぬき風ごと鎧を着た大人を押しのけて高くその戦斧を構えた。
 シキガミ嫌いは治っていないらしい。
 本気で真っ二つにしに行きかねないと思ってアルベントを制する。
「なぁアルベントっ大丈夫だって。志願者だろ?
 対応は俺たちがやるから」
「だが、コウキ! こんな奴にみすみす殴られる必要は無い!」
「わーかったよ。だからちゃんとやるって。

 おっちゃん! 俺と勝負だっ」

 アルベントが鼻息荒く一歩引いて斧を肩にかけた。
 それと同時に俺が一歩踏み出して、双剣を抜く。
 ヴァンは何も言わず見守っていて、アキが少しだけきょろきょろと三人をみて手を固めた。
 ズンッと一歩踏み出してウィンドが構えた。
 ドコからあんなに重い音が出せるんだ、と心の中で言っておいて俺も深呼吸をして力を抜く。
 空気圧が上がったみたいに張り詰めて、息苦しくなる。
 涼しい顔をしているのは剣聖だけで後は皆一様に不安や怒りを見せていた。



 助けられるかどうか。
 それが俺たちに掛かってる。
 品定めされて――負ける様なら向って行くのも無駄に等しい。
 本当なら皆を連れて嫌だって言って逃げたかな。
 不遜な態度しかしない俺に対して、大らかにも笑って許す人間だ。
 剣なんか向けられないよ。
 でもおっちゃんが此処に来た理由は分かる。
 多分立場とかも理解してる。
 ただ確信とか納得とかそういった物が無いと手放せない想いがある。
 ファーナの為だから素直に殴られようと思ったけど。
 それなら俺も、真摯に向かうべきじゃないか。




 先手を切って動き出したのはコウキ。
 宝石剣が赤い軌跡を引いて瞬時に半分の距離を詰める。
 同時にその半分を詰めたウィンドが愚直とも言える大きな一振りを体をブレさせながら放った。
 その拳に丁度コウキが宝石剣の柄頭を合わせて振り下ろす。
 金属同士の激しいぶつかり合いで火花が見え、コウキは軽業をするようにその手を軸にウィンドを飛び越えた。
 赤い大きなコートがぐるっと舞う様は眼に映える。
 観衆からも驚きの声が沸く。

 それは当人達には関係なくその間に2合の攻防でまた火花を散らす。
 コウキの剣が鎧に触れるたび、ジュゥッと言う音と共に金属が溶かされその線状の傷から煙があがった。
 着地して間髪居れず攻め入ってきたウィンドに少し押されて後ろに数歩退くと剣の間合いでまた振り下ろす。
 今までとは違う戦いに少し戸惑う感があったが持ち前の勘が間一髪で彼を守っている。
 コウキは今まで敵の懐にもぐる側だったが、今度は距離をとって戦う側になった。
 しかし相手も拳とはいえ、一発貰うと剣と同等以上のダメージを貰ってしまう為全く油断を許さない状況だった。

「ふんっっ!!」

 ビシュッという剣もかくやと言うほどの音を立てて頬を掠める。
 顔面で当たると、砕けるに違いない。
 恐怖と逆の何かのお陰で笑えてきて放たれた蹴りにあわせて地精剣を振って防ぐと、
軸足に思い切り真っ直ぐな蹴りを入れた。
 下がらざるを得ないウィンドにコウキもその反動でクルット宙返りをして少し立ち位置が離れる。

「術式:紅蓮月!!」
 剣の間合いになってから宣言をし、その双剣が真っ赤に光りだす。
 手加減は必要ない。
 轟々と覇気になって伝わってくる相手の業をただ全力で打ち返すのみ――!
 ボクシングのように繰り出される速拳を叩いて弾いて切り返す。
 その度に一歩引いたり、本当にボクシングのように反り返って避けたり鎧を着ているとは思えない動きをする。
 顔面へのジャブを避ける為体を右にずらすと、ピタッとその拳が途中で止まって逆の手がコウキ目掛けて真っ直ぐ飛ぶ。
 それを寸で後ろに跳んで避けたと思ったら踏み込んで大きな回し蹴りがコウキの横腹を蹴り抜いた。
「どはっっ!」
 真っ直ぐ後ろから真横へと跳んでいく方向が変わる。
 さらに――ウィンドの猛攻は止まらない。
「ォォオオオオオオ!!」
 蹴った足を一歩に変えて、コウキの倒れる場所へ向けて踵落とし。

 ズドンッッ!!
 地面が揺れて、足の形に地面が凹む。
 本当に間一髪でソレを避けたコウキが立ち上がって、土煙のたつ方へと踏み込む。
 ソレと同時に土煙を突き抜けて黒い塊が向ってきた。

『術式!!!』

 同時に叫ぶ。
 喧嘩に相違ないがコレも戦争のように思えて仕方が無かった。
 命の取り合いをしているようなもの。
 ラジュエラと毎日のように交わして尚それは恐怖だった。

「雷神嵐舞!!」

 バチバチと真っ白に光を持った拳。
 黒い鎧も例外なく真っ白に染まっていき視界に光が焼きつく。
 竜をも揺らす豪腕が雷と共に風を切り裂きながら迫る。

「裂空虎砲!!」

 断空の一撃を振りかぶる。
 刀身を真っ赤に燃やして、炭の様に真っ黒に光が消えた。
 それと同時に拳にあわせるように最短距離で剣を振る。

 ドッッッ――!!!

 相殺された空気の振動になってあたりへと広がる。
 観衆から悲鳴が聞こえた。逃げ出したりしている。
 ヴァンツェがその場所だけを囲うように大きく壁を出していたが、遠慮なしでやりすぎると被害が大きくなる。
 早めに決着つけなけないと、と歯を鳴らして双剣を強く握る。

 どれだけ思い切りこちらが振っても相手に受け流される。
 鎧の隙間を狙って切り込んで、腹部にいくつかの切り傷は出来ていた。
 ラジュエラ並みではないが、かなり攻略は難しい。
 火花を散らして10以上打ち合って、再び二人に距離が開く。
 そういった伏目は術式タイミングとなりやすい。
 此処も例外なく――むしろ、二人にとっては最後となる一撃を御互い選ぶ事となった。


「術式!!」
 オレンジと赤が混じったような光が爆ぜて、まるで花火のように一度破裂した。
「炎陣旋斬!!」

 たちまち昇る火柱がコウキを中心に大きく広がる。
「らああああああああああああ!!!」
 この瞬間は絶対に近づけさせないつもりで熱量の最大を意識して体を捻転する。
 その意識により強く呼応する紅蓮の宝石剣は溶鉱炉のような熱を放ちだす。
「術式:風神翔脚!!!」
 息を吐く暇も無いほど迷いの無い判断で、鉄拳の王が風膜を出現させる。
 眼くらましにするつもりだったが――そこに真っ直ぐ猛進してくる黒い影。
 風と共に真っ直ぐ炎を掻き分けて目の前に出現した。
「おおおおおおおおお!!」

 振りかぶるのは渾身の力を篭めた右腕。

 ガギャンッッ!!
 炎に包まれたその中心で激しい音が響く。
 地精剣が粉砕され、破片がスローモーションで目の前を舞った。
 間一髪、地精剣でその軌道をずらし、肩の肉を削ぎながら拳が通り過ぎる。
「――がっ!!」
 痛い――! 車の正面衝突のような力をそれだけの痛みで躱すことが出来たのは幸運。
 左脇に構えていた右手の宝石剣をここぞとばかりに一歩踏み込んで振り切る。
 すれ違い様に胸に向って大きな一閃。

 ギンッッ!!
 胸元の鎧は熱で溶けてバックリと切り分ける。
 それは脇腹に達して、おっちゃんが声を上げた。
「ぐ……ぬ……!!」
 ドザッと土煙を上げて踏みとどまったが、その次の瞬間には俺が追いつく。
 一歩踏み込んですぐさま振り返った俺の方が戻りが早かった。
 ほぼ捨て身だったあちらには斬られた事で立ち直る余裕も無かったようだ。
 後ろから宝石剣を首元に突きつける。
 肩で息をするおっちゃんは動かなかった。

「――……勝負ありです」

 ヴァンツェがそう言うと、辺りに張っていた壁を解く。
 溶岩のように熱を放っていた剣が急激に熱を冷ましていく。
 思い出したように身体が空気を求め始めて、ドッと汗を流した。
 砕けた剣を見てぞっとする。
 この地精剣は固いのがウリだったんだけど、ガラスみたいに砕けた。
 この人も大概メチャクチャだよホント……。


「はぁ……っあああ……!
 おっちゃんは連れてけねぇ!」
「……はっ……別に連れてけなんて言ってないわ」
「王様だからな!」
「分かっている……!」

 傷を押さえる王が振り返る。
 耐え切れない。
 痛みじゃなくて、俺はその意志を伝えなきゃいけない。
 その英雄がやって来たことの繰り返しだけど、その人にとってはとっても大事な事だと思うから。

「ファーナは俺が守るから!!」


 決意は、言葉にすると大きな意味を持つ。
 肩を押さえる俺。
 脇腹を押さえる国王と一瞬だけ眼が合った。


「……ああ、守ってやれよ……」



 深く息を吸って、フラフラと俺の横を歩く。

「……頼んだ」


 歯を食いしばって頷いて。
 すれ違い様にソレだけを言ってそこから歩き去るのを見送る。
 飛んで来たキュア班につれられて、キュア班施設の方へとつれられていく。

 俺は――国王に。
 鉄拳に認めてもらえたんだろうか。




「コウキさん! だ、大丈夫ですかっ!?」

 パタパタと寄ってきて、左肩の傷を見てなんともいえない表情をした。
 剣で斬られるのではなく、肉を引き裂かれたような傷。
 余りのえぐさに放送は禁止されるレベル。
「いや、正直、痛くて泣きたいんだけど……
 今キュア班施設行ったらさ、

 おっちゃんとバッティングして気まずくね……?」

 プルプルと痛みに奥歯を噛んで耐えながらアキに言ってみた。
「コウキさん……」
 アキははにかむ様に笑って、キュっと手を握って俺を見た。
 ふっと顔を下に下げて感動するように震えだす。
 そして、息を思いっきり吸って――

「バカーーっっ!」

 渾身の叫びが響いた。
 傷に響く。マジでびりびりして痛い。
 なのに彼女は手荒く俺の左腕を掴むとぐいぐい引っ張り出す。

「行きますよ!」
「は、はいっいっいたっ! アキいたいぃぃ!」
「知りません!」

 へらへらと笑う剣聖に見送られて――俺たちの仲間集めの時間は終了した。

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