第145話『世界記憶』


 小さいながらも露天風呂の温泉に浸かって和んでいた。
 突然繰り返されるさっきの言葉を思い出すたびにとりあえず頭までもぐる。
 違うんだ。ほら、アキは別にやましい意味でそういうのを言ったんじゃない。
 俺も紅茶を詰まらせたのは、唐突で少し面白かったからだ。
 「子供かっ」みたいな突っ込みを入れたかったのに紅茶に阻まれたんだ。
 妙に間を持ってしまいちゃんとした事もいえなかったからなんか後から無性に恥ずかしくなった。
 後でちゃんと聞きにいこう。
 添い寝ちゃんは必要ですかって。
 なんだよ添い寝ちゃんって……。

 寝るだけなら全然構わない。
 冬は良く姉ちゃんが布団に入ってきていた。
 人のことを湯たんぽだのなんだの……。
 女の人は筋肉があんまり無いから手先や足先は冷たくなりやすいらしい。
 冬場に廊下を歩いて俺の部屋にやって来た姉ちゃんの足なんかは寝てても軽く目が覚めるほど冷たかった。
 まぁ、どれだけ俺が冷たがっても面白がるだけだったのだけど。

 ぼこぼこと気泡が昇っていくのを水中から見上げて、酸素を求めてもっそりと水面へと頭を出す。
 髪の水をばしゃっとオールバックにするみたいに搾り取ると俺は風呂を出る事にした。
 元々あまり長風呂派じゃないし。

 風呂を出てパジャマにしている服に着替えると首にタオルを引っ掛けて部屋に戻る。
 一度ちらっとアキの部屋を見たが静かなものだった。
 もう寝たかな? 多分だけど。
 せめてオヤスミぐらい言えばよかったなぁ、なんて苦笑して俺も部屋へ戻った。

 寝る前にはいつも剣を手入れする。
 というのもそれを癖にする事で毎日綺麗で、何時使っても大丈夫なようにできるから。
 それは初めて貰ったあの東方西方の剣からずっと続けていて今も変わらず続いている。
 ただ剣が高級になったので結構神経を使う感じだけど。

 ゴンッと壁伝いに何かを打ちつけたような音が聞こえた。
 たぶんアキだろう。大丈夫だろうか。
 というか寝たと思ってたのに何をやってるんだろう。筋トレかな?
 まぁ起きてるなら後で件の話でもしに行こうか。
 何も無ければ無いでそのままいつものように眠るだけ。

 宝石剣は何時見ても溜息が出るほど綺麗だった。
 控えめに深い赤色を反射する上品な宝石が柄や刀身に埋め込まれ、純白とも言える刃が黒い紋章線を一層際立たせて芸術品のよう。
 しかしその剣はかなり使い勝手が良く、刀身の長さは余り無いが柄が長めに持てるため相手の不意をつけたりする。
 法術剣としても優秀なはずだけど、俺はぶっ放す専門なので余り役立てれていない気がする。
 柄に巻き付けられた革は俺の手の型がついて握りやすい。
 使い込んでいる証拠だとアキが言ってた。

 慣れた作業はすぐに終わった。
 音も立てずすっとその剣を鞘に仕舞うとベッドの横の棚に立てかける。
 そしてもう一つの剣、シルメティア・オーバーを手に取った。

 俺が触れると虹を引く。
 それは俺が認められているってことでいいのだろうか。
 別に意味も感じなくは無い。
 でも大体の意味は同じだろう。
 そしてその剣を少し引き抜いて――その刀身の眩い光に眼を閉じた。









 虹色の光。明るいような。それでもそれぞれの光だけだとこの空間には暗い。
 まるで夢を見ていたときのような感覚。
 一度だけキツキの神子が夢に入ってきた事が有る。その時の状態にそっくりだった。
 神様も夢に現れる事があるらしい。俺はそれに一度も遭遇した事は無いんだけど。
 俺の場合は会いにいけるから良いんだって言われた事が有る。
 戦女神が見えるってお前の目はどうなってるんだという話らしい。
 シキガミはやっぱり凄いんだなぁと思わずには居られない。自分の事とは到底思え無いのだけど。

 虹の光は何度かチラチラとちらついて、急に一箇所に集まりだした。
 同時に俺の意識的な何かが同じように形を持って収束する。
 一番初めに出来た床の上。
 降り立ったのは俺だ。
 いつもの服。宝石剣が腰にある。
 ペタペタ自分を触れる事を確認して、ほぼ起きている状態なのも理解した。
 崖の底みたいな場所に立ってて道が四つ大きく分かれていた。
 見回せば未だに世界を作っている途中で何処かのお城のようにも見えるし、
崖の下のようにも見えるし、何処かの村へ続いているようにもみえた。
 立っている真後ろはなにか真っ黒な道だ。黒いカーテンが有るというか、底から先は無いといわんばかりの黒い場所。
 色んな光が此処に届いているが、此処から先には行かないみたいだった。

「ここ何処?」

 とりあえずありもしない天井にむかって言ってみたが当然返事は無かった。
 それぞれの景色がはっきりしだして、騒がしい声も聞こえ始めた。
 右手側は階段が続いていて大勢の人たちの声がする。
 真っ直ぐいける道はそのまま谷底のような場所を示していて風が吹いてきていた。
 左手側は洞窟を抜けるような光があってその先に森が見えていた。
 なんだかリアル真理テストにでもかけられてる気分だ。

 でも人が居る方が気になるよ実際。
 他はなんか不気味だしさ。
 というわけでコツコツと音を立てて階段を登る。
 そこにはすぐに辿り着けて、視界が大きく開けた。

 大勢の人たちが騒いでいた。
 カラーンと、教会の鐘の音がする。

 城の内壁より内側。要するに城内だが、本当に城の端っこに降り立った。
 長い柱が幾つも立っていて、高くその屋根を支えている。

 目の前に聳える城には見覚えがあった。
 ――アルクセイド。多分。
 ほぼ確信では有るが違和感を少し覚えた。

 世界に数少ない現役の古城と言われていた城は俺が見たときには灰色の城だった。
 ファーナが言うには王が世代を変わるときに城全体の壁を真っ白に塗り直すらしい。
 正にその直後みたいな純白と言ってもいい白さ。
 世代交代でもあったのか、ならあの俺にマナーを教えてくれた王様は……。

 人だかりの最後尾が見えてそこに歩み寄ってみる。
 遠くに見える段上に並ぶ男女が見えた。
 一人は黒髪の男性で、白い花婿衣装。もう一人は真っ白でブロンドの髪の花嫁。
 お城に溶け込みそうなほど白い衣装。
 高く翻る国旗は揚々として見え、国全体がその二人を祝福しているように見えた。
 要するに、公開された結婚式らしい。

 手を振る二人へ送られる声援とその言葉。
 二人は手を取り合って満面の笑みで手を振っていた。
 そして、その叫びの中から、驚くべき事に気づいた。

『ムト様!』
『シートリミス様!』

 皆が声を張って叫ぶ名は、前世代シキガミと神子の名前。
 俺はその真偽を確かめようと一番近くに居た人に触れようとしたけど――。
 すっと、その身体を突き抜けた。


 ここは最初に思ったとおり、夢で相違ないだろう。
 ゼロの試練かに近い俺の幽霊状態だが、誰一人俺に気づく人は居ない。
 その式中調べてみて、その段上にも上がって二人の間に立ってみたりしたけど誰も突っ込んではくれなかった。
 普通ならまぁ城の外なり牢屋なりに行くことになるだろうけど。
 とりあえずかなりの時間をそこで見たり触ったりしようとしたけど、本当に何も起きない。
 それでちょっとだけ発見した事が有る。
 中心の台場になっている場所の両袖も台場よりは低いが少し小高いスペースになっていて、
其処には貴族に見える煌びやかな服を着た人たちが居た。
 ――俺が知ってるアルクセイドの王よりも若いマルドナーガ国王。
 その人も椅子に座って其処に居た。
 そして新婦側のスペースにアイリスに似た人を発見した。
 ビックリするぐらいそっくりだ。アイリスだと思って二度見したぐらいだ。
 良く見たら目の色が違って飛びのいた。
 これがその過去の事だと言うのならグラネダの王妃様の若かりし頃となる。
 新郎側におっちゃんがいるかどうかも見て回ったが、
黒髪で一発でわかるおっちゃんが居ないのは遠くから見てすぐに分かった。
 城内や外にはことごとく壁に阻まれて行けない。
 城壁を越えてみようと思ったが――。

 外の世界は、無かった。

 盛大な拍手が終わると同時に、世界に夜の帳が掛かるようにゆっくりと消えていってまた俺は最初に居た場所に立っていた。



「な、なんじゃこらどっこいせだな……」

 とりあえず、城の出来事を終えての俺の感想である。
 俺はまたこの夢世界の中心、三叉の岐路の中心に立っていた。
 城へと続く階段はまたあって、初めに見たときと同じような喧騒が聞こえている。

「んー……とりあえず、他も見て大丈夫なのか……?」

 今度はのどかな方である左手側の洞窟の出口になっている方を見た。
 ええい。もうなんか知らないけどとりあえず全部行ってみよう。
 ザクザクと土の音を鳴らしてその洞窟の出口へと向かった。


 ――長閑な鳥の声。爽やかな光と水音に包まれた平和な森に出た。
 そよそよと風が吹いていて、本当にいい空気だ。
 チョットだけホッとして、俺は辺りを見回す。
 俺が出てきた洞窟の穴は、絶壁に対して開いているものでここは到底上れそうもない。
 森は何処まで続いてるのか良くわからない深さだ。
 この洞窟の前がちょっと開けているのが良かったのか遠くに煙が上がっているのが見えた。
 火事というよりは焚き火っぽい上がり方だ。
 何もなしで森にもぐるのは危ないしとりあえず煙を目印にして俺はそっちへ行ってみる事にした。

 森を進むと、煙の正体よりも先に小屋が見えた。
 ……さっきの事を考えると、あまり人に会っても話す事は出来なさそうだがせめてここが何なのかのヒントが欲しいし。
 小屋の前に立って、ノックが出来るかどうか試そうとして手を振ったその勢いで中に入った。


『何で黙ってたんだ……!』
『だって……』


 うわぁ……修羅場だった……!
 さっき見たムトと言う人と……多分シリトリスさん。

『シートリミス……』

 ごめんなさいシートリミスさん。
 心の中で全力で謝罪して二人の様子を見た。
 間違いなく俺はお呼びじゃない。

「お、お邪魔しま……」


『神子の寿命が短いだなんて、聞いてないぞ……!』



「は……?」


 待ってくれ。
 それ、俺も聞いてないぞ。

『ごめんなさい……どうしても、言えなくて……っ』
『……』
『ごめんなさい、ムト、どうしても、貴方と一緒に居たくて……っ!
 こんな所まで逃げてきたのに……っ』

 神子が泣く。
 ムトは慌てて彼女の肩に手をやる。

『あと、どのぐらいだシリス……』
『……っ貴方が……っシキガミがこの世界に来てから二年……。
 だから……あと……』

 その先を言わせないように、彼は彼女を強く抱きしめた。
 途方も無い、絶望感に包まれた表情。

 ちょっとまて、俺がこの世界に来て、どれぐらい経った……。
 こっちの年の数え方なんて知らなかったけど、収穫祭がどうだとか。
 次の街への移動に一週間なんてのはざらだった。
 特に遠くからグラネダヘ戻る時なんてのは一ヶ月なんて過ごしたことも有る。
 街の気候で春夏秋冬はとっくに過ぎたような気はする。
 ――丸一年ぐらい……?
 それじゃぁ……あと、

 一年……?

 自分自身もその言葉に打ちひしがれていると、ムトは俺の身体をすり抜けて小屋の外へと飛び出した。
 そして、空に向かって叫んだ。
 神子である彼女は顔を抑えて泣いていたが――突然咳き込んで、床に倒れた。
 走り寄ろうとしたときには、また世界が暗闇に飲まれて消えた。






 嫌なものを見た。
 ファーナは俺たちの中で守られるべき位置に居てもう一年である。
 もう、半分だ。
 あんな状態を見せ付けられて、まだ半分も有るだなんて思えるならきっと相当な覚悟の上に立っている。

 もし助けたいなら俺の楽観を捨てなければいけない。
 キツキはそうした。

 ああ、成るほど喜月。
 ようやく、本当にようやく分かった。
 最初に俺たちが一緒に居られないって言った理由。

 『殺す』って、俺に向かって言った理由。

 俺たちは本当に“神子を救う為”に此処に居た。

 ずるくないか、あいつら、俺にだけそうやって大事な事隠しやがって。

 何が望んでエングロイアを飲んだだの言ってやがんだ喜月の野郎……!

 全部あの子の為の茶番で……!


 “本当に戦わなきゃいけない理由”を全部知ってたんじゃねぇか……!!



 タケには言ったんだろう。
 じゃないとあいつが殺すなんて言う理由も見つからない。
 なんで俺には教えてくれなかったんだよ……チクショウ……。
 ファーナは――……多分言わなかっただろうな。ずっと今まで黙っていたんだ。
 メービィにしても、俺には絶対そういう自分や彼女にだけ来る不幸は話さない。
 ギリギリと歯が鳴る。怒りか悲しみのような感情を噛み殺す。
 叫びたい衝動みたいなのがあった。恨むぞ喜月……。






 そして、最後に見えるのは目の前にある真っ直ぐの道。
 道はうねっていて、先は見えないが崖の底のように見えた。
 切り立った高い壁は遠くで光が見えていて薄暗くもその道に光を与えている。

 湿った空気が強い風になって流れていて、不吉な予感があった。
 それでも俺は其処に行かなくてはいけない。
 これはあのシキガミ、ムトの記憶なんだろうか。
 俺が見なくてはいけないものがここには有る。もしかしたらもっと有用な内容もあるかもしれない。

 全部を知りたい。どうしても必要だ。

 俺は足早にその道へと踏む出す。

 岩が無理やり削られたようなその奥底の空間で対峙する二人を見た。


 片方は虹剣シルメティアオーバーを持って息を上げている。
 もう一人は腹を抑えて何とか立っているという風な黒い鎧の男性。

 歩いてきた崖の幅は余り広くはない。
 だが世界の十字傷の中心であろうこの場所は、コンサートの大ホールとばかりに大きく開けていた。
 真上に来ていた太陽がキラキラと虹剣を照らし、かの剣は黒くその軌跡を引いた。
 二人は呼吸や鼓動のタイミングとは全く関係なく、突如動き出して激しく戦いを再開した。
 野獣のように叫び、ただ拳を、剣を振るう。
 血が飛び散り、肉を切り骨を断つ為にその神経を消耗する。
 その戦いは見ているだけで固唾を呑む。
 考える前に動く、殺し合い。
 二人の激しさに世界が悲鳴を上げる、シキガミ同士の戦い――!

 ムトが銀の線を引いてパッと光を放出した。
 その瞬間、虹剣も七色に光ってパァっとその軌跡の先を斬りつけた。
 その広大な空間の中心にいたのに、端の壁を切って地表を抉っていた。
 黒い戦士は地を這うような姿勢でソレを避け、獣のように両手から地面を蹴ってムトへと一直線に走った。
 隙かさず下がりながら切り返すが――ソレを右手全てで受け止める。
 シルメティアオーバーは鎧の篭手をきりつけ腕半分ほど食い込んだがそこでぴたりと動きを止めた。
 そして、かの戦士の猛獣の如き叫びとともに放たれた渾身の左拳がその鎧を凹ませて突き刺さった。
 一見相打ちのようにも見えたが、其処からは目も当てられない程の正に暴力の乱発。
 あの拳は一発当たっただけで全身が砕けたみたいに酷い衝撃が有る。
 二発目でもう勝負は有りの決定打で剣を離し、思いっきり壁に衝突していた。

 黒い戦士は腕を押さえてただその方向を睨んでいた。
 少し歩み寄るとガチガチと歯を鳴らして、泣いているようにも思えた。
 地中深くの土にまみれたムトは壁にもたれるような姿勢のまま動かなくった。
 俺はそちらへと走り寄って、その姿を確認する。
 同時にその戦士もずるずると重態の身体を引きずって動き出した。

 ムトは軽く気を失っていたのか、黒い戦士が近づくとはっと顔を上げた。
 ポタポタと涙を流して光の中に立つ彼を虚ろな目で見て涙する。
『ウィンド……!』
『何だよ……』
『すまない……! お前に、こんな事を、させる、つ、つもりじゃ、なかった、のに……』
『……』
『はははははは……、
 今更、お前を、殺せば、なんて、バカ、か、僕は……』
『……』
『こんな、救えない、僕を、はァ、殺して、くれて、ありがとう……』

 ヒューっと、彼の呼吸は、何か変な音を含んでいた。

 酷く苦しそうで、見る見るうちに顔は青く血の気を失った。

 笑いながら、ボロボロと涙を零す。

『……すまなかった……シリス』

 最後に一言、神子の名を呟いて――。

 その身体は、世界に消えた。

 ソレを見送って断末魔のように叫んだ戦士の声と共に、俺の存在もまた消えた。






 ――これは……結末だろうか。
 あの親友だと聞いた二人の。

 おっちゃんはこんな事があって穏やかに笑って過ごしていたのか――、いや。
 記憶はないと言っていた。うっすらと思い出せるとかその程度って。
 じゃぁこの鮮明なのは誰の記憶だ。
 記憶……記憶で言えばヴァンのように長く生きていれば沢山を記憶する。
 ヴァンのように長く一緒に居た……この記憶は彼をずっと見てきたモノとするなら。
 虹剣の記憶……?



 ふと、考える。俺を重ねて相手は喜月やタケや四法さんだったら。

 俺はこんな事が出来るのか。
 当然、やりたくないに決まっている。
 コレは、俺たちもなりうる結末だ。
 大切な人にして、戦いから逃げて、結局戦う運命を知って、遅くて――。


 そういう人生だったと……俺に見せたのかシルメティア・オーバー。


 俺は再びその岐路の中心に戻され、今度は目の前に虹剣<シルメティア・オーバー>が浮いていた。
 妖しく虹色を見せていて、俺に何か答えを求めているようだ。

『どうする?』

 意思が聞こえた。
 声じゃない。こっちに来てから俺は色んなものと会話する機会があるな。

「どうするって……」
『伝説と呼ばれる剣を持ってしても運命は変わらない。
 少なくとも私を持っていてもその道は変わらない。
 絶望的に貴公の道は戦いの一途。
 友人との戦い。
 それでも貴方は進むのか』

 意思が伝えてくる不思議な感覚。
 伝達はすぐなのに、脳内の理解に時間が掛かる。

「その道に進むのか……」

 反復してようやく理解に至る。

 俺にあんな人生しか過ごせないシキガミの存在を教えた。
 一見の幸せからの転落。そんな事がしたいのか。
 友達と殺しあうような事があって。
 それでも俺は生きていこうというのか――我侭な俺は答えが決まっていた。



「嫌だ! 絶っっ対に嫌だからな!

 コレは我侭で言ってるけど、本気だぞ!」

 早口でまくし立てるように言い切った。
 何が何でもそれだけはと俺は首を振る。
 虹剣は周りに出していた虹を増幅させて、俺を威圧した。


『では私を持つ必要無い』
「ある!!」

 虹が増幅したぐらいで俺が恐がると思うなよ!
 銀色の鞘ベタベタ触るぞチクショウ!
 間髪居れずに叫んで剣を指差す。

「俺は双剣だ! そんな未来に行き着くなんてゴメンだけど……!

 今は! ファーナを助けなきゃ行けない!
 俺は今、そんな終わり方に行き着く事すら許されないんだ!」

『ではアレ以外の道は無いぞ。
 私を手に取るとはそういう事だ』


「じゃぁ……」


 息を吸う。
 剣はただ、俺をじっと見ているようだった。

 俺は剣をさしていた指を後ろの真っ暗な空間に向け、俺は笑った。



「作ろうぜ。

 常識は壁ごとぶち抜くのは得意だよ俺」



 道だろうが常識だろうがぶち抜いてなんぼだ。
 新しいものには常に法則や規則は無い。
 特に人が過ごす人生なんて、生まれると死ぬ以外の法則は無い。
 さらにこの世界に置いては――それすらぶち壊せる可能性だって有る。

 事実俺は腕を取り戻したし、アキも戻ってきたし、神様と話してるし。
 この世界で――やってできない事は無い。

 ――そう信じてる。

 剣は俺の値踏みを終えたのか、スゥッと禍々しく見えていた虹を収束させていく。


『……奇遇だな主様。私もです――』


 ふわっと寄ってきた剣をとって、腰のベルトにとりつけた。
 剣を抜くと軌跡に虹色の残光がある。
 そして自分の後ろ真っ黒な空間を振り返った。

 其処に光は無く。

 俺の未来だとか言いたそうな深い闇。

 カチリと音を鳴らして剣を上段に大きく構えた。

「術式――……!!」

 肺一杯に空気を溜めた。
 左手に、持った剣を強く握る。
 収束していくマナが一度どす黒い塊になって――やがてソレがパキパキと音を立てて割れ始めた。
 その中には虹色の光が詰まっていて、途端、真っ白な光を放出し始める。
 パンッ! と白い光が爆ぜてコウキを中心に七色に広がる線を引く。


「――裂っっ空……!!」


 壁が、何だって言うんだ。
 余命を何とかする事も。
 俺たちの運命を何とかする事も。
 必要なんだ。誰かがやるしかない。
 だってそうだろう?
 でないと俺たちはああなるって言うんだ。
 なら――!


 神様ごと裏切ってでも……!

  俺は俺の友達の為に道を作る……!!


「虎砲ォォオオオオオ!!」


 虹の光が真っ直ぐその闇を突き進んで、遠くにあったその闇にヒビを入れた。

  見えなくても。

 パキパキとソレが大きく広がって――やがて、崩れ落ちた。

  壊せる。そしてそれが――

 そして光に満ち溢れた真っ白な所に変わった。

  道に成る――!


 俺は剣を収めて一息吐くと、首を鳴らしてその光の中へと歩みを進めた――。
 その夢の身体が意識に溶けて――すぐに重さを感じる“俺”に戻ってきた。





 そして、目の前にあったアキの顔に驚いて、右に思いっきり避けて盛大に頭を打った。

 その虹剣の主となったその日は壁をブチ抜けず気絶して寝込んだ割と印象の悪いスタートだった――。

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