第174話『翼陸の友軍条約』

 光の軌跡を目の中に残してジワリと空に慣れる様に消えていく。
 顔を上げて再び空を見上げて赤い術式線が見えない事を確認して安堵した。

『何故止める?』

 竜がわたしを見下ろした。

『強い者が生き残る事が世の理である。
 在り方を間違えねば殺す事も選択肢でしかない。
 我々は数より個を価値あると見る』

 わたしの隣にはコウキさんもファーナも居ない。
 幻だったかと言うとそれも違うだろうけれど、――そう今のは母、シルヴィアの状態に近かったんだと思う。
 わたしが望んだ世界ではあるけれど、拒絶の意思がある。ただわたしに手を添えてくれたのはきっとわたしが持っている記憶か。今は竜世界だから何が起きたっておかしくは無いのだけれど。わたしの願望の再生が行われるとは思わなかった。わたしだってちゃんと分かっている。コウキさんやファーナだって、其処まで都合よく動けない。だからここは自分で何とかするしかない。
 でも安心した。傷口からは血が出なくなった。呼吸も落ち着いて傷は痛くない。わたしが立っていられるのは支えられているからのようにも思える。

「さぁわたし達個人が生きているだけじゃ、この世界にはならないですから。
 わたしたちはこの戦争はおかしい。不当だと思っています。
 ……ただわたしは戦争自体を否定したいんじゃないです。
 想いの為に戦う事、それはいつでも無意味を生むばかりではありませんから」
 わたしは竜神様に語りかける。友人二人の代弁でしかない。でもわたしが学ばなくてはいけないことはそこにある。コウキさんの行動力にファーナの思考力。天秤を持って歩こうと言うのならばわたしは確かに自分を量るものを持っていなければならなかった。
「ファーナとコウキさんが言うんです。
 シキガミが引き金になって起こした戦争にどんな価値があるんだって。
 ただやらされてるだけの戦争なら無駄死にだって。
 わたしもそう思います。父は何故セインが閉じたのか疑問を持っていました。セインとグラネダ……因縁があるのならこの機会に晴れれば、と。
 わたしが見えている公平はそこまでです。まずは手を止めて話せれば。変わると思うんです」

 竜神様はわたしをみて低く咽を鳴らした。威圧感はあったけれどそまっすぐ竜神様を見上げる姿勢は変えない。

『だが其が守っているのは戦争をする民に見えない』

 流石は神である。わたしを良く見ている。
 その言葉を貰ってわたしは素直に頷いた。

「――はい。わたしはまだ友達の為にしか戦ってません。
 わたしは今、胸を張って竜に成れるほど立派じゃないんです。
 もっと、世界を歩かないと。
 もっと、感動しないと。
 もっと、知らないと。
 この世界でわたしがなりたいものになれないのに、わたしが竜に成るだなんて変な話でしょう……!」

 本当におかしな話だ。赤裸々に言ってしまえばわたしはまだファーナやコウキさんと遊びたい盛りである。わたしが巻き込もうなんて言った事だってそうだ。なんて子供なんだろうか。
 わたしは寂しいと言う言葉を半ば忘れる程に楽しい日々だ。これを逃すなんてとんでもないと思う。わたしだって欲張りな一人の人間である。その別れの時間が近づいているのも分かるけれど、わたしが我侭でいればもう少しぐらい続くんじゃないかって思っている。
 わたしが守りたいのはそんな暖かい友達だけ。此処に立っていて苦笑いしか出来ないほど二人に依存しているおおよそ竜など遠いわたし。

『アキ・リーテライヌよ。
 其は天意裁判、竜に――満たない。
 活躍は見事。その渇望で身を神に高め、一歩足が踏み入った――だが、神に足らぬ。

 因って、死罪とする』

「――」

 息が詰まった。
 ああ此処で死ぬんだって、覚悟した。
 抵抗手段は皆無だ。先程のファイアブレスでマナも全てつかったようなものだし、実際立っているのでやっとである。
 だったら誰も見届けてはくれないだろうから自分で自分の最後ぐらい知っておかなくてはと竜神様を見ていた。

『本来ならば。それが正しいが、其は幼すぎる。力を持たせすぎたな』
 どっと背中を冷や汗が流れた。九死に一生とはまさにこのことか。
「おお、脅かされたんですかっ!? ほ、本気で心臓とまるかと……!」
 いろいろ解けた自分の中での緊張や恐怖がなにやらと混ざって混乱する。そんなわたしに向かって竜神様は変わらない瞳と言葉を向ける。
『止まらぬ。止まったところでこの竜世界では死ねぬ』
「それは……どうも、といいますか……」
 竜神様でも冗談とか言うんだ……。それに対してのリアクションなんて取れるのはコウキさんぐらいのものだろうけれど。
 竜神様は何も意に介せず、言葉を続ける。

『では罰則。まずはその十字架剣を回収する』

「えっ!? そんな、これは母の形見で……!」
 母の形見のもう一つ。絶対に壊れないと思っていたけれどそんなことは無かった。これでわたしに残る形見は無くなってしまうことになる。

『そしてもう一つは主の全ての技の剥奪』

「ええええっ!」
 困る。それは困る!
 確かに異常な速度でもらった技ではあるけれどそれぞれに意味があって、数少ないわたしの自信のひとつだったのに。
『相応しきを得よ。それは主のものでは無い。
 無くして知れ。其の位置を。
 其は逃げた試練にもう一度立ち向かえ。さすれば全てを手にする事ができよう』

 ゴォン……
 再び遠くの空に鐘が響きだす。判決を言い渡されたわたしからゆっくりと剣が消えていく。
「あ……」
 剣を失い、さらに技も自分の中で曖昧な言葉に代わっていく。わたしを助けてくれていた剣――それが、消えてなくなる。そしてわたしの持っていた技の名前も記憶から薄れていく。
 わたしは弱くなる。そしたら、きっとあの二人にはもう付いていくこともできないだろうか。そう考えるととても悲しい。

 ゴォン……

 世界に色が戻る。目の前から竜が消えていく。竜世界は虹色の靄のような光に変わって、最後の最後に『其は何も失っては居ない。誇れ』と声がした。
 世界が色を取り戻しかけて、再び傷口が少しだけズキリと傷んだ。

 ゴォン……

 竜世界は幻のように去っていった。ざわめきと共に空が色を取り戻し、皆が灰色の鎧と軍制服の赤と青の色に分かれた。土と草が色を取り戻して、やっとわたしの知る世界に帰ってきた。冷たい空気を感じて、少しだけ驚く。感じる世界差の温度や重圧の感覚が全く違う。感覚に酔うような気分もあって片膝をついた。今が勝負の最中だった事を少しだけ忘れてしまっていた。
 バルネロ様がこちらを見て、ザクザクと重い足取りでこちらへと歩み寄ってきた。これでは竜に殺されても結果が同じだったのではないかと思う。
 アウフェロクロスを具現化しようとしたが、右腕にはブレスレットが消えていた。あとはサブとして持っている晴眼剣だが、技が無い今どれ程の技量があればあの壁に打ち勝つ事が出来ようか。少なくとも今持ち合わせている技術で足りるのならばわたしはそもそも苦戦しなかった訳である。戦況は絶望的である。
 その最中に小走りにわたしとバルネロ様に割ってはいって来た。

「――そこを退いてください。リージェ様」
 両手を広げ、その言葉を受けても彼女は動こうとはしない。
「退きません。
 ……どうしてもと言うのならば、わたくしを殺して通りなさい」

 さらにとんでもないことを言って、その槍兵の足を止めさせた。

「狡い事をしているのは承知の上です。わたくし達は曲がりなりにも“姫”ですから。このやり方は狡いのです」
 リージェはセカンドネームであり、ほぼ一般に通用するファーナの通称である。
 その名前は通貨としてもその名は使われており、この場所の国の創始より受け継がれる姫の名前である。本来ならば現在の第一位継承権を持つアイリス様が冠するべき名である。けれど持ってしまった以上その何恥じる事の無い生き方をしなくてはいけないとファーナは言っていた。
 両手を開き、凛とした立ち振る舞い。ファーナはこういった局面で非常に勇気ある行動が取れる人間だ。誰もが息を呑み言葉を聞いてしまう。

「ですが聞いて下さい!
 わたくし達は貴方がたに死んで欲しくはありません!
 お願いです時間を下さい!」

 見れば――。
 セインのほうの戦いも止まっている。シキガミが総動員でアルベントを止めていて、セインの神子も訴えかけている。ラエティアも確かに姫である。ファーナもその状況をみて此処に入ってきたのだろう。どちらか片方だけで止めたとしても意味が無い。この絶好の機会を――彼女は見逃さなかった。

「全ての状況を把握出来ている方に話があります!
 セインの神子もそれを望んでいます!
 中立戦線は貴方がたを否定するものではありません!

 話し合いをしましょう!

 グラネダの神子とセインの神子がそれを望んでいます!」

 高らかにグラネダの姫が叫んだ。それは面白いほどに効果覿面で、ざわめきと両隊長の沈黙を生んだ。
 自らを扱う最高のタイミングで最高の役割を果たした。

 わたしが誇る友人。
 ――わたしが得てきた、一番大切なもの――。



*ファーナ

 折角アキが作ってくれたこの好機を使わないわけにはいかなかった。それがアキを守る為とあれば使わないようにしようとは思っていたがこの身をなげうってでもこの戦争を止めるべきだと思った。
 空は雲が流れて少しずつ晴れてきた。たまに日も当たり、個人的には勇気が湧いてくる。空気は少し冷たい。先ほどの天意裁判で何があったのかは良く分からなかったが、アキは無事であるしなんだかより強く絆を持った気がする。だからきっとこの後にも彼女にはありがとうと言うだろう。
 やがて騒々しい人を割って現れたのはグラネダの王。王国紋章を背に刻み、その黒い鎧を背負う鉄拳王。職人に作らせた特別な造りの鎧は荘厳な雰囲気を持っていて 王であるその人を引き立たせる。
 兜で余り見えないけれど、父の表情は苦笑いしているのが分かった。

「やれやれ。娘が賢いと苦労するな」
「お父様……。ご理解感謝致します」
 ぎこちない挨拶をする。王である姿の前にはやはり緊張する。
「ああ。無事でよかったファーネリア」
 思ったよりもずっと優しい声がして、戸惑った。
 心配をかけたんだと思う。申し訳ない気持ちも沢山あった。
「……はい。お陰様でなんとか助けられることになりました。
 ヴァースには無理をさせてしまいました。わたくしの方で起きた事の詳細は後程報告します」
「ああ」

 それだけを言って不敵な笑みを残して歩み出した。それに付き添うようにすこし後ろを歩いて戦場の分離線付近で足を止めた。
 グラネダ王は誰もが一度見れば忘れないほどの容姿をしている。黒髪の黒鎧。鎧は金で控えめに紋様を描いており、丁寧な造りだとわかる。そして背には大きく王家紋章を背負い、そこに一切傷つけることを許していない。

「セインの王!
 見ているだろう!
 最初に言っておくが我々の目標がセインでは無いとは言え、攻撃を止めないならばこちらにも止める道理は無い!
 話に応じる気があるなら――!」

 そこまで言った所で、遠くにこちらへと真っ直ぐ飛んでくる影が見えた。その影は徐々に大きくなり、銀色の翼を持った――王族の人間である事が分かった。
 セインの階級は翼人特有の物で羽の色で全ての役割を決める。その頂点に君臨するのは銀色の翼の王族。
 実際に会うのは初めてだ。ラエティアの件を除けばセイン自体に外交官が行くような話すらも聞いたことは無い。
 見れば父とそう変わらない年の王に見えた。濃い青の髪色で鋭い目付きが印象的である。

「……」
「……お久しぶりで御座いますな。先代王様には世話になった。
 ユークリタス大戦以来十数年、我等はようやく立派に国と呼ばれるようになり、感謝しております。
 さて、本件。
 我々には貴方がたに攻撃を受けるいわれは無いとしています。我々が軍を整えたのは対六天魔王の迎撃用。我々の姫奪還の為です。
 セインが何故我々と戦うのか。それを教えて頂きたい。その上で戦うと言うのなら正々堂々――、

 グラネダが受けて立ちましょう」

 士気が満ちる。この王あってのこの国である。
 その背中は晴天の下で果てしなく大きく見えた。

「……一つ聞きたい事がある」
 セインの王が重々しく口を開いた。懐疑に満ちた視線と言葉遣いであるがぐっと耐えてその言葉を待つ。
「我々つい数週前に黒い鎧拳士と十人程度の一団の襲撃にあった。
 グラネダ王、それは貴方では無いか」
「はて。最近はめっきり戦にも出る事も無かったので。そろそろ大国という自覚を持てくれと軍に椅子の上に縛られる故。ここ一、二年では遠征にも参加しておりませんな。まぁそれが真実かどうかの判断はお任せするが」
「……」
 父は確かに数年戦には出ていない。わたくしが知っているだけの範囲ではあるが数年での国外への出向はただ外交に勤しんでいたはずだ。
「……それに、そいつらがどうあったのかは知らないが、私がセインに行くならコレぐらいかもう少しマシな人数を揃えますな」
「血気盛んなのも変わらんな」
「伊達に蛮国の英雄王と呼ばれては居ませんからな。ですが私とて負ける気の喧嘩に意味は皆無ですな」
 先代王と言っていたが、つまりユークリタス大戦前と後で王が変わったということだろう。
「ふむ……」
「……そういえば。最近出没する魔女は姿を変化させる事や、人を操る事ができるそうだ。操られた者は黒い鎧を纏い、魔女を守る為に狂戦士と成ると」
「本当か」
 眉を顰めて問う。父は小さく頷いて話を続けた。
「当然、嘘では無い」
「本当です。魔女はサシャータで王族殺しの主犯で賞金を賭けられた罪人です。
 わたくし自身も捉われていました」
 少しでも証言の足しになればと発言をする。信じて欲しい思いは通じるだろうか。
「何ならばこの件はサシャータに問い合わせてもらってもいい。サシャータは一時壊滅的な被害を受けたが何とか立ち直しているようだ」
「ふむ……その件に近い事例なのか」
 依然としてセイン王の表情は険しい。この場で信じろというのはやはり無理な話なのだろうか。そんな中で父は毅然として話を続けた。
「その可能性は高いですな。
 加えて魔女自体には移動距離は関係無いそうだ。神出鬼没を極めている。魔眼や呪いを使ってみせる実力があり、やりたかったからやったなど愉快犯的な発言情報も多い。何をやったかなど魔女が捕まるまでは知れませんが。私たちが持ちえる現状その可能性は高い。我等が軍を出しているのもその愉快犯に姫が捕まったからだ。今はこうして奪還に成功し、此処に居る。
 魔女がけしかけた戦争であった場合、当人達は当に姿をくらませている以上、我々の戦争は確かに無意味ですな」
 こちらの知りえている情報の全てを話した。あの人たちの目的は何一つ分かっていないがそれぞれの戦う理由が消えた以上確かに私達の戦いは無意味になる。
 父は国を閉じた何故を問うでもなく、ただこちらの情報を提示して返答を待つ。
 セインの王は腕組みをし、少しだけ赤い羽根の兵を見た。
「……シェーズ、どう思う?」
 アルベントと戦っていた双剣兵がさっと畏まって王を見た。
「そうですね……それに私が迎撃した黒い拳闘士は正々堂々を語る風でもなく、もっと隠者的な空気がありましたが……まるで別人かと」
 父が疑われている。それに少し憤りを覚えた。父はそんなことしないといおうと思ったが片手で本人に制された。――自分が疑われているのにグラネダ王は表情を変える事は無い。
「そうか」
「六天は私達を利用して私達を欺いたように見えます」
「気づいていたか?」
「いいえ、ですがどうやら国から一歩出ればそれは分ったようですね」
「……シキガミ殿はどう思われる」
 そう言って今度は逆側に待機していたキツキに問う。伏せ気味だった視線を上げて一度こちらを見た。
「……シェーズさんと同じですね。
 移動距離が関係ないのならば、魔女が偵察して数日中に大軍が用意されることなどすぐにわかった事でしょう。先にノアン諸国とサシャータを落とした実績をグラネダに見せつけ、それに相応しいだけの軍を用意するよう仕向けたのでしょう。
 それを『セインを落とすためにグラネダが大軍を用意した』として我々をぶつけた。グラネダ側の証言を合わせるとそうなります。
 これは推測をでません。本人等に問い詰めねば分からない事も多いです。しかしここまで見解が分かれているのなら真実を語るとも思えませんね。
 それに今姿が無い事も大きな問題です」

 キツキは以外にも冷静に事を見て、分析している。少しホッとはしたがかつてコウキの腕を持って行った人間だ。易々とは許せない。……コウキはすぐに和解してしまいそうであるけれど。
「……しかし我々とて被害が無いわけではありません。
 何卒ご決断を。私共とて戦と在らば負けるわけに行きません」
 シェーズという男はまだ戦意がある。気迫あるその視線をこちらへと向けた。
「そうだな。引かぬとなればな」
 やはり、和解は無理なのだろうか。被害は出てしまった。ここで引き返すことは難しいのはわかる。けれど……!
「ま、待ってくださいっ、こんな無益な戦い……!」
「リージェ様。無益とわかっていてもやらねばならぬ事はやります」
 バルネロに肩を押さえられる。
 前線にピリピリとした空気が戻ってきた。
 このままでは不味い。
 当のグラネダ王も相手に言わせておいてその真偽を見定めているようである。

 グラネダ王はただその様子を黙ってみていて、その話の終わりに一言だけ呟く。

「私は翼陸の友軍条約はまだ生きていると思っている」

 翼陸の友軍条約。一応国的には破棄されたものとなって久しい物である。
 ユークリタス大戦前に結んだ軍事条約だ。セイン、グラネダ共に先代王は仲が良かったと聞いている。封建王国主義の共通があって、互いに踏み込まない間柄でありその上での条約や協力関係の成立が容易だったからとされている。
 マグナスがグラネダに変わってからも、最後まで残ったのが翼陸の友軍条約。その後はセインが国を閉じるまで続いていた。
 内容は簡単だ。お互い軍事において正直である事、その上で援軍を送るか送らないかを判断する権利を持つ。お互い侵攻には興味が薄く、自国の発展に力を注いでいく中守るために行う軍事行動が多かった。故にその条約はお互い滞りなく使用できた。

 ただ一つ破られる事の無かった鉄の掟。確かそれは、

 真実の元に――集結する軍であるとした約束。

 故に、ここに嘘は無いとするグラネダ王の意志だろうか――。ただ一言で王と軍隊長は息を呑んだ。
 その意志は恐らくその条約と生きた人たちにしか分からない何かで繋がっていた。

 セインの王は少し黙考の時間を経て、ゆっくりと手を上げた。

「翼を仕舞え、我が軍よ」

 翼が消え、武器を下ろすセイン軍。同じくして、グラネダの王がバルネロの名を呼んだ。それに応えてバルネロが武器を下げ、手を上げると同じくグラネダ軍が武器を下ろした。
 一陣の風が吹き抜けてその中で少しグラネダ王は口の端に微かに笑みを見せていたように思う。
 その時を持って、この戦争の終了が宣言された。

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