第175話『おかえり』


 飛び出したラエティアを瞬時に助けにきたのはやはりキツキだ。普通に俊足では勝てるだろうが、術式で移動を行えるキツキは正に光速で動く。ただその光速の移動の間では人を掴んだりはできないようだ。当然他人と一緒にその移動も出来ないのでただ横にでて引き寄せるのが精一杯だったようだ。あの攻撃を正面から受けても十中八九押し負ける。その中でシェーズと言う人が放った二発の攻撃が少しだけ斧の軌道を左にずらして――斧が地面を深々と抉り取った。
 直後大きな隙が出来たが、赤翼の兵士は剣を下げた。その隙にアルベントは大きく引いて大勢を立て直す。そして赤翼の兵士はティアへと視線を移して険しい顔をした。何故飛び出してきたのか、と赤翼の兵士は訊いた。もうこんなの止めよう、と涙を流しながらティアが叫ぶ。確かに行動的なところは残っているが、ティアはなんだか雰囲気が変わった。主張するその確固たる意思が伝わってきた。自ら思って、それを実行するようになった。王女らしいとは言えないけれど、十分立派な事である。
 そしてそれを見たファーナが同じくアキの前へと立って、戦いを止めさせた。セイン軍、グラネダ軍とも、――それ以上の犠牲は無かった。

「キツキ!」
 呼び止めたけれど、キツキは足を止めずに歩いていき、ティアに手を引かれて飛び立った。敵として存在するそいつを煮え切らない気持ちて見送る。
「アイツ、まだ変わんねーな」
「タケ……。二回ぐらい殺されてなんだけど、まだ納得いかねー。
 俺なんか嫌われるようなことしたかよ」
「んや。アイツはアイツで自分なりの最善の答えをだしてああしてんだ。
 全員を助けるなんて仕組み上出来無い事じゃなくてさ、確実に出来ることやってるだけだ。逆に言えば誰に殺されたって文句いわねーだろうし」
 タケが剣を収めて、腕を組む。
「どうせまだ見つかって無いだろ?」
「ぐぅの音もでねぇよ」
「はっはっは。それなそれで、腹を括るしかないだろ? 俺達は自分の意志じゃない所で戦う事になるんだ」
「ほら、でもみんなでその道を探してこそ幅がさ……」
「幅か……コウキ。オレ達はな、別に助かる道を探してないわけじゃない。
 キツキも諦めるって言葉は使ってたけど、全然そんな風な顔してなかったしな。
 結局は戦うなら、負けねぇぞっていう約束だ」
「諦めるって……?」
「先に殺しあわない前提を諦めたんだ。だから殺すために強くなっていく。この中の誰にも負けないようにさ。じゃないと神子が死ぬんだぜ?」
「そう、だけどさ……」
 事実を突きつけられると、痛いところだ。実際に俺はまだ解決方法なんて見つけ出していないから。虹剣が見せてくれた夢の通りにだってなりたくは無い。この結末をみて、一番賢く動いているのはやっぱりキツキじゃないか――。
「まぁ、アイツはコウキを信用する前提でそうするって言ってたけどな!」
「どーゆーことだよ」
 タケヒトはカラカラと笑って、手をひらひら揺らしさせながら俺に言う。
「まんまだぜ? これにたどり着くならコウキだろうから、俺等はとっとと強くなっとこうぜってな」
「それずるくね? 俺も混ぜてくれなかったの?」
「さぁな。でも大体は、お前に他人に頼らせないためじゃね? ほら情けは人の為ならずだぜ」
「それ巡り巡って自分に帰って来るから情けをかけろって意味だし!」
 間違ったことわざ覚える現代っ子は冷たいよ!
「現代語は額面通りが流行りなんだ」
 そうテキトウに誤魔化して笑うと、タケはグラネダへ向かって歩き出した。まぁキツキも助ければいい事を考えてていいならそれはそれで気が楽になったと思う。当然、俺は何発か殴ってもいい権利を持っていると思うので正気に戻った後ぐらいにちょっと殴ろうとは思う。


 戦場に居るのだと痛感する。この被害を出しておいて良く止まってくれたとおっちゃんには感謝をするべきだろう。
 戦場の空は雲が流れて、徐々に晴れ間が広がっている。雲の間から差す光が少し暖かい色を帯びてきた。戦いの後が残る中に焦げた臭いの風が吹く。息を吸うと肺が焦げそうな気がした。
 俺も戻ろうと振り返ってすぐ、妙にふら付いている赤茶の髪を見た。アキだな、とすぐに分かったけれど手には大きな剣も見えないし、誰かに気付かれている様子もない。かなり消耗したのだろう。あまり見れなかったけれど、その様子は後で聞くとして倒れそうなアキに走り寄る。
「アキっ大丈、夫――?」
 肩を支えたけど――見えた横顔は真っ青で、痛そうに胸を押さえていた。聞くまでも無く絶対に大丈夫じゃない。
「アキ、傷は此処だけ? 背負うよ。病院まで我慢して」
「あうっ、は、い……すみま、せん……っ」
「今度はお願いなんか聞かないからな! 絶対やだぞ!」
「あはっ、頑張ります……」
 痛々しくアキが笑う。それがまた、嫌な思い出を掘り返す。息を呑んだ。
 これは間に合わない……! 今野戦病院に何人の患者が居るのだろうか。その中で俺達が優先してもらえるかなんて目に見えている。
 助けなきゃ――。恩人だぞ……俺は二度も助けられた。でも俺は一度も助けることが出来ていない。
「……ありがとう、御座います……そんな、悲しい顔、しないで下さい……」
「……」
 アキのペンダントがあればそんな傷どうと言う事はなかったのだろう。願うだけの治療で治せてしまう奇跡の道具。最初だって遠慮なく矢を引き抜いて一瞬で――。
「遠慮なく……」
「コウキさん……?」

 ぴこーんと頭の中にオレンジ色の閃きが湧いてきた。なんでオレンジ色だと思ったのかはわからないけれどとにかく閃いた。俺はゴソゴソと簡易バッグを漁って二瓶の薬を取り出す。

「アキ。超痛いけど、ここで治療しようか」

「えっ……ど、どういう、ことですか」
「具体的に言うと……遠慮なく即効薬吹き込もうと思って」
「えっ」
 俺と置かれた小瓶の速攻薬を見て合点が行った様で痛いのか嫌なのかよくわからない表情で驚いたような声を出した。
「はい、コルセット外すよージッとしててくださいねー」
「やっ、あのっこうきさ、ん、もしかして、此処でですかっ!?」
「うん」
 言ったとおりだけど、と言いながらモシャモシャ紐を解いていく。
「せ、せめて、どこか、隠れてっ、あのっ、聞いてっ……!」
「ダメ。今回は急ぐよ」
 そういって準備を進める。紐を解き終えてコルセットを外し、自分のコートを広げてアキをその上に寝転ばせる。アキの息遣いが細かくなって、額は汗ばんでいる。一応タオルを出して汗を拭く。
 冷静にならないと迅速な救護活動は行えない。偉そうに言っていた俺の伯父の言う事を反復しないといけないのは心苦しいが友達が助けられるならなんだってしようと思った。

「貞操の危機!! いいいイチガミくんどうしたの!? ここ外だよ!? 外だよ!?」
 びしぃっと四法さんに指差されたけどそれを見上げていい事を思いついた。
「四法さんがきた! アキの怪我に口で速攻薬吹き込むバイトやらない?」
 俺がやるより多少綺麗に見える光景かなと思った。なんなら背にユリの花を持ってくるぐらいはしてもいい。
「何そのバイト怖い……」
 プルプルと長い髪を揺らして否定する四法さん。
「アキが死にそうなんだ。俺達シキガミが速攻薬吹き込むとすぐ治せる!
 自分で自分には出来なかったけど……っ」
 他人ならなんとかなる。だからこそこの治療だ。
「……あのぅ……わたしの話、聞いて……ます?」
「うん。じゃ、やるよー」
 やるかやらないかの返事は聞かない。恥ずかしいとかそういったものはここで死なれると意味が無いし、あとで盛大に怒られても殴られてもいいから生きていて欲しいのだ。
「……っああ、ああっ! やぁ! そんな……! 今汚いですから……!」
「汚い所なんて無いよ、はい、力抜いて……開いて奥まで入れるから。これ噛んでて」
「んぐ……っ」
 とても見た目はショッキングな感じだ。赤黒くなった傷がやっと血を止めていて、この傷が残ってしまうと酷い事になるのが目に見える。ああどうも俺達にはこういった劇的な回復手段を持ち合わせていないと死ぬようなことばかり起きる……。
 口に速攻薬を含んでから俺は傷口と向き合った。直せるなら、この傷を開く事になっても直すべきだ。
 ぐっと傷口を押すとアキがくぐもった声で呻いて、血が溢れ出す。グロテスクな光景でしか成り立たない荒治療に四法さんが思わず声を上げた。
「ああっ、みみみ皆見ちゃダメ! 
 術式:千雨氷刃!!」

 あっという間に氷柱で壁が出来て、ひんやりとした空気になった。さっきよりもずっと集中しやすい空間だ。口に速攻薬を含んでいたので心の中でとりあえずありがとうを叫んでおく。
「ちょっと、何事ですかアスカ!?」
 壁の向こうでファーナの声がする。丁度良くファーナが来たようだ。あとは四法さんの説明に任せるしかないけれど。ファーナはさっき国王様と話しながら歩いて行っているのを見たけれど、戻ってきて大丈夫だったのだろうか。俺はとりあえず構わず治療を再開することにした。長引かせるとアキに悪い。さっさと直して元気な顔を見せるべきだ。

「んっふぁ……ぃ! ひ……! んぅぅ……!」
「っぃひたっ、アキ、力抜いてっ……! もう少しだから……!」

「何を!? 貴方達はこの荒野の真ん中で何を!!??」
「ファーナちゃんまってっ今は……二人の空間なの!!」
 ええっ!? と困惑するファーナの声。間違ってないけれど、この血で顔面をドロドロにした俺の姿を見せに行っている場合でもないし……。俺は一通り即効薬を吹き込んで、更に傷口の血を舐め取るようにお腹側の傷が閉じていくのを確認する。
 アキは思い切り息を吸うと咳き込んで、少しタオルを赤く染めた。まだ痛そうだ。傷は最初に見たときに分かったが背中まで貫通している。だからこの表側の処理だけでは終われない。
「次、後ろから!」
「うぅぅ……はぅっ……! んんんっ……!!」
 表面の塞がり方を見たところ、この方法でやれば全快も堅い。アキから吹き出てる汗の量が尋常じゃないから体力が無くなるまえに早くやらないと。
「コウキ!?」
「悪いファーナ! 今は止められないんだ!」
 すぐに次の瓶を開けて口に含む。
「ええっ!? 何がですか!? 何を止めないんですかっっ!?」
 罪悪感が止まないけれど傷を開かなくてはいけない――。ぐっと指を押し当てると再び治療を再開する。
「んん……んんふぅっ……!」



 空が晴れて、少し日が傾いてオレンジ色を帯びていた。グラネダもセインも撤収が終わって、辺りは静かだった。鼻につく臭いがうっとおしいけれど、その中を帰途として歩いていた。中立宣言をした八人と一匹がぞろぞろとグラネダへと向かう。傭兵隊は先に戻ってもう報酬を受け取って飲んでいるだろうか。魔女と魔王の行方もそうだけれど、ノヴァは――何処へ行ったんだろう……。思いを馳せると謎になってしまったものが多い。一抹の不安を感じる。この結果の終着点についたわけじゃないからだろうか。
 そんな事を考えていると再び背中が抓られて現実に意識が戻ってくる。アキを背負っているのだけれど、不定期に背中を抓ってくるのは何故なんだろう。そして痛いんだけどやめてもらえないだろうか。まぁ、本人は寝てるから文句も聞いてもらえないんだけど。
「いやぁアキが無事でよかったよ」
「コウキはボコボコだな」
 タケが俺の顔をマジマジと見ながら、うわーっと声を出す。アキに引っ掻き傷とファーナにビンタと後四法さんに良くわからない攻撃をもらったけど、俺は元気です。
「うん……俺の怪我で終わるなら……いいよ……うん……」
「卑猥なことしてっからだって」
「してねぇよ! 噂に聞く何とかリズムに近くて軽く自分で引いたぐらいアレな治療だったって!」
 今の治療は壱神的グロテスク産業に分類された。二度とやりたくないぞ。卑猥だったのは外側の人間のせいであって、俺のせいじゃない。タケははてなと首を傾げて俺を見た。
「何リズムだよ……バカ?」
「芸人的になっちゃうよ。カニかなんかだよ」
「カニリズムって……美味そうじゃねーか」
 じゅるり、と口で言ってからカラカラと笑う。
「確かに真っ赤だけど全く違うものだよ!」
 治療で体力を失って気絶したアキを背負って城壁の外にも広がっていた野戦病院を訪れた。戦争中止直後はけが人の医療班への搬送で色々な場所からの喧騒が聞こえた。病院がいっぱいで野戦病院がいくつも開かれていた。ロードさんを尋ねて、お礼を言うべきだろうかとも思ったけれど、キュア班の人は怪我人の中を走っているし、少しお礼に寄るような空気でもなかった。
 休戦となったとはいえ、警戒は怠れない。外には体力的に余裕のある後続だった人たちや軽症の人間を集めてこれから後の見張りに付くことになったらしい。
 なのでアキはやはり其処で休ませるのはなく城の神殿で看病しようと言う話になった。
 道中では皆がワイワイと俺をいじって来る。と言うのも先程割りと無理やりアキを治療していたので主に女性人から怒涛の非難を浴びている。
「全く。もう少し配慮と言うものを覚えてですね……そもそも、あ、あんな場所で服を脱がすなどっダメですっ不埒ですっ」
 ファーナがまだプリプリと俺を怒り続ける。緊急事態だとか悪かったとか言っても許しては貰えないのでその説教は強制的に聞き続けることになっている。
「悪かったって。後でちゃんと謝るし、なんか言いたそうな顔で気絶したからちゃんとお叱りは受けるよ」
 気絶してるはずなのに首絞める勢いでしがみ付いて来てるし。戻るまでに貧血で倒れるんじゃないだろうか俺。
「……ちゃんと受けてあげてくださいね」
「はぁい……」
 俺がファーナに叱責を受ける横でうぇぇと声だけ気持ち悪いをアピールするのが聞こえる。
「ワイなんかまだ吐気するわー」
「もっとジェレイドは吸血鬼を演じようよ。せめて」
 このままだと吸血鬼どころか情けない一般人なんだけど。
「口の周り血だらけの壱神くんみて一番叫んでたもんね」
 四法さんは情けないなーなんてからから笑っている。血の耐性は男より女の方が強いらしい。毎月見るからね、なんて姉ちゃんが言っていたのを思い出したけど、口に出すとセクハラっぽいからやめよう。
「叫ぶやろあんなん……グロ反対!」
「血が出てないと大丈夫とか?」
「ミイラはかわええな」
 それもどうなんだろう。
「……吸血鬼は向いてないのがわかったよ」

 グダグダと喋りながら俺達はグラネダの門の前に辿り着く。
 脳みそが焼けたみたいに今頃少し疼いた。この戦いの中で考えていた事全部思い出そうとすると吐気すら感じる。何か心に残ったまま、俺達はグラネダへと帰還となった。門を目の前にしてファーナが少しだけ足を止める。
 少しだけ先を歩いて振り返ると遠い目で門を見上げていた。夕日を背に、金色の髪は燃えているように赤を写す。絵画みたいな綺麗な瞬間に見惚れていたけれど、少し不安に駆られて声をかけた。
「ファーナ?」
「あ、はい。何でもないです。ちょっと、久しぶりに帰って来たような気がして……」
「あはは……今日は濃かったしね……。今なら俺も泥のように寝れる気がする」
 今日一日。人生で一番長かった。生きた心地のしなかった日である。
「ふふ。今日はゆっくり休むと良いと思います」
「いや、ギルドで宴会だよ。アキ居ないから俺潰される絶対潰される」
 英雄アキにしておけば彼女にお酌が回り、アキが潰れた時に俺も帰れるという寸法だったのにこれでは俺が集中砲火をもらってしまうじゃないか。
「そういえば、傭兵の方が居ましたね。義勇軍の方でしょうか?」
「いや、ファーナの奪還手伝ってもらうために俺が雇った人だよ」
 もっとも俺が雇ったのは二人でその二人を筆頭に集まってくれた選りすぐりの部隊だ。自由に戦場を駆けた遊撃隊は殆ど犠牲も怪我も無かった優秀さを見せている。
「えっコウキが、ですか」
 口元に手を当てて、ファーナが驚く。
「うん。俺が」
「そ、そんなっお金もかかるでしょうっ」
 そう、腕利きの傭兵は割とちゃんとした報酬で働く。でもちゃんと結果を出すし――いい人達だ。
「ほら、宝石売って貰ったじゃん?」
「ああ、ソードリアスのマーカスさんに売って貰ったものですね」
 ソードリアスから戻る時に護衛の依頼を受けて、宝石商を護衛する事になった。実は貯金しまくってて簡単に持ち運べる資産に憧れた俺が護衛中の暇に売って貰ったのが始まりだ。
「そうそう。一時は詐欺かとおもったけど」
「ふふ。年によって価値がかなり変動しますからね」
 赤い宝石だったためかファーナが凄い羨ましそうに見てきた印象がある。そんなの一杯持ってるくせに、と言うと、いくつあってもかまわないのだと言っていた。
「その価値が今最高潮だったらしくて。色々あったけど傭兵がこんなに雇えましたとさ!」
「気になりますね……」
「俺もルーとファーナに何があったのか気になるなー?」
「えっああ、その……!」
「カゥッ! キュー」
 ルーメンが俺を見上げて言う。
「えっヴァースが?」
 ヴァースに連れて帰ってもらったらしい。聞いたっけそれ。
「る、ルーメンっあまり、その、アレですその……」
「ん? 何慌ててるのファーナ?」
「何でもありませんっ何でもないのですがっ」
 プルプルと頭を振る。何かあったに違いない。ふーんと何故か素っ気無い声が出た。
「あっはっは。まぁゆっくり聞かせてもらうよ」
 取り繕ったように笑って、ファーナに言うと恨めしそうに睨まれた。
「うぅ……」
 なんだかもじもじともどかしいという風に動くファーナが何となく懐かしくも思えた。
「ファーナ」
「……はい?」
 落ち着いたから改めて、彼女の無事を喜ぼうと思った。俺は門の途中に立っているけれどファーナはまだ踏み入っていない。

「おかえり」
 突然の事にちょっとだけ驚いたような顔をしたけれど、俺の言葉に微笑んでから口を開く。
「……はい。ただいま戻りました」
 そう言葉をかけると少しだけ涙腺が緩む。良かった、なんて全体的な感想みたいに素っ気無いけど沢山の意味を込めたたった一言になる。
 改めると気恥ずかしいから、自然を装って「行こっかー」と言いながら皆を追って歩き出す。俺達の背は、温かい夕日に照らされていた。


 この戦争の後に、二人の命名者が消えた。
 一人は最も有名な双剣の主である人間。
 もう一人は、銀色の髪の――。

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