第176話『無くした/背負った』

 滞る事無く動かす事の難しさは管理に携わった事のある人間にしかわからないだろう。誰かが行うリーダーと言う役目において、自分が居なくなる事を前提に組織を作る事は殆どの場合においてない。リーダーと言う役目の跡継ぎを作ってしまうと、途端自分は不必要な物になってしまう。故に難しい。自分が更にその上に立つべく力を見せ続けなくてはいけない。歳を重ねる事によって威厳というもので押さえる事も可能であるけれど、彼はそうはしなかった。
 ヴァンツェ・クライオンは元々グラネダの財務に携わった官職者である。しかし元大神官かつ最もファーネリアに近い者である。国王直々に護衛を任命されたのはファーネリアが神子と分かったその時である。聡い彼にだからこそそう言って任せたものであって彼がやってきた事は並大抵のことではない。激しい業務を行いながら国に貢献し、後継人の掘り出しや、教会を中心に人種差別を消す為の密かな活動をやってきた。お陰で彼が旅に出るとなってすぐにも混乱は無く、滞りなく国が回るような手回しがされていた。優秀である姿を説けばきりがない彼であるが此処数十年において突然姿を消すというような事は無かった。故に彼を慕う者からは心配をする声も上がった。
 しかし一番古い友人は気にも留めなかった。ウィンドからすればヴァンツェは何時去ってもおかしくは無い存在だったからだ。あえて彼がその理由を聞くような事も無かったけれど、聞いたところで答えも決まっている。だからこそそれ自体は気にはしていなかった。とある一つの可能性を除いて――。


「魔女による“呪い”の可能性……」
 報告書にはそう記されている。可能性として挙げられるものは全て書かれている。自分の素性調査なんていうのもあるけど、この戦争の後の会議で一番信憑性の高いものとなってしまった。
 戦争の後は慌しかった。帰国後すぐ主要人との会議が始まりその後に国民への説明と報告。そしてセインとの首脳会談と矢次に事は進んで行った。ファーナも報告書の作成や教会での無事の顔見せ等色々と後始末に追われた。そして一番冷や汗をかいたのが国王直々の“警告”だ。竜士団など強制中立行為には迷わず交戦すると子供達に向ける目ではなく、大人として対峙した王様がそう言った。しかしそれも頷ける。今回の戦争中断は意外と国民から批判の声が上がった。当然自分達の家族や友人が死ねば怒りの声も大きくなる。そう、戦争を中断するという事はそういう人たちの声を無視することだ。いくら道徳的正論を固めたとしても、己の意志で動く事が出来る限り予測不能の反乱分子が動き出してまた戦争が始まることだってある。現状は油断の出来ない迅速な行動が必要だと城全体が駆け足で動いていた。
 本来ならばヴァンもそういったものに駆り出されていくのだろうけれど、今の政治的戦力ダウンは確かにグラネダには痛いと言えた。こんな時にどうしたんだろうと思うけれど……わからないものは俺達にだって分からないものだ。
「命名者のヴァンツェに呪いが効くんでしょうか……?」
「でも警戒するように……かぁ。まぁ当然だよね。でも見た目黒くなるし分かるよね」
 個人的に一番気になるのは魔女が囁いていた事なんだけど、それが何かは色々とゴタゴタがあって聞けなかった。
「リージェ様、そろそろ……」
 控え室で待っていたファーナを神官の人が呼びに来た。神殿で行われる本日の朝の祈りの時間に護衛として駆り出された。何をしていればいいのかと彼女に聞くと寝ないように立っていてくれと言われた。まぁ俺がするのは護衛なので多分ファーナの言っている事もあながち冗談じゃないなぁと笑った。
 日が昇る少し前に手早く準備をして神官の一日は始まる。彼女の朝がこの祈りの時間で始まる為早いのは知っていたが、結構多くの人たちが朝からこのファーナの祈りの時間に集まるんだなと驚いた。控え室に入る前も入り口で色々な人に挨拶をしていたりして無事でよかったと沢山の人に喜ばれていた。神殿のアイドルという一面を垣間見て、少し自分が場違いな人間だなぁと感じた。
 ファーナはその神官に返事をして、俺に目を合わせると行きましょう、と言って立ち上がった。緊張している様子は無く、むしろ楽しそうである。だから俺も特に気にかけずいつも通りに彼女の後に続いた。

 俺はあまり前に出るような存在ではないので教壇の端の方で静かに待機する事にした。教壇と言うよりはステージに近く、大聖堂とも言えるこの場所にはとても多くの人が集まっていた。ファーナが神殿で行うのは聖書の読誦と聖歌の斉唱である。とくに聖歌の方が凄くて軽くコンサートに来ているような気分になった。精霊が踊るという現象でキラキラと小さく光る赤い光も見えて暖かく感じた。コーラスにも気合が入っていて十人程度のバックコーラスがとても綺麗に聖堂に響く。日が昇り始め、ステンドグラスに光が入り幻想的に輝く聖堂で歌うファーナは、凄く特別な存在なのだと再認識する。
 歌が終わると大きな拍手に包まれ、聖歌隊と彼女が深く礼をした。彼女がこちらを振り向いて満足げに微笑んだのが少し気恥ずかしくて目を逸らして俺も拍手を送った。そしてファーナが先日の国王様の行動の意味と、自分はその行動によって犠牲者が少なくなって嬉しかったことを伝えた。そしてこれから働く皆への見送りの言葉を述べて今朝の礼拝の解散となった。多くの人たちはぞろぞろと帰って行き数人が段上を降りた彼女に握手を求めたり、祈りを捧げてから礼拝堂はゆっくりと人を減らして行った。
 そして最後の一人が去っていったのを見送ってから、ファーナがこちらへと歩いてきた。他の神官の人たちは掃除を行いその後に本日の業務が始まるらしい。このあと普段なら彼女とヴァンは城に戻って業務だが、ファーナは冒険疲れが出てしまって居る時はこの後寝てしまうらしい。
「お疲れ様でしたコウキ。退屈でしたでしょう」
「いやいや。ファ……リージェ様はすごいなー尊敬しちゃうなー」
「もう、そんなこと思っていないでしょうっ」
「だってあんな大勢居る前で平然と歌っちゃうし。スーパーアイドル?」
「そ、そんなことないですよ。今日はとても緊張しましたし……」
「全然そんな風に見えなかったけど……」
「ふふ、だって今日初めて来てくれた方がいらっしゃいますし。わたくしも張り切りますよ」
「そうなんだ。まぁ確かにこれだけ大勢居ると毎日新しい人って居そう」
 この聖堂に入っていた人数はちょっと数え切れない。長い椅子の数は左側に二十はあるんじゃないだろうか。両側を合わせると倍になって四十だろうか。白い柱がいくつもあって椅子と椅子の間を赤い絨毯が真っ直ぐに伸びる長い聖堂空間が広がる。これだけ大きな聖堂があって立って見ている人も居た程だ。ファーナは「そうではなく……」と小さく言って俺がその言葉に振り返るとプルプルと頭を振ってコホンと息をついて間を取ってから俺を見た。
「さて、お城に戻りますよコウキ」
「わかっ……かしこまりました、リージェ様」
 先ほどからチラッとこちらを見る神官の目が厳しいので口調を整える。確かにここらで一番目上の人物にぽっと転がり込んできた俺がタメ口なのは許せないのだろう。敬語に関してはヴァンすらそうだった、としか言いようも無い。だからこの場でおかしいのは俺だ。郷に入って郷に従うという言葉を知っているのでそう振る舞っておこうとそう言葉を使うと凄く訝しい顔でファーナがこちらを見る。紳士ポーズの時もそうだがそんなに似合わないのだろうか。まぁ分からなくも無いけれど。
 扉を開けてどうぞ、と彼女の行動を促す。俺がここに居るのはヴァンがやっていた護衛の代わりというのもある。だからこそちょっとでも似せる努力は必要なんじゃないかと思う。
 ファーナが歩みを進めて俺もそれについてあるいていく。扉を閉めてから振り返ると、なんだか凄く頬を膨らませている彼女が居た。
「えっ何? どうしたの?」
「コウキ、言っておきますが、貴方はわたくしの従者ではありませんっ」
 ずいっと歩み寄ってファーナが俺に言う。今日は強めに主張してくるな。
「えっいや、ほら、護衛って従者じゃん?」
「そうなのですがっ! そうじゃないのですっ違うのですっ」
「あっはっは……まぁ分かったよ。堅苦しいのは無しだね。変だし」
 ファーナに気を使わせるというのも確かに変な話だ。やっぱりいつも通りに振る舞おうかな、と笑って下らない雑談でも始める事にした。
「そもそも俺の服がこれなのも良くないよ。ちゃんとしすぎてるし」
「そうですか? それは似合ってますよコウキ。むしろ毎日着ることをオススメします」
「赤いから?」
「別にそこまで赤を推しはしてませんっ」
「超笑顔だし。いや絶対赤いから推してるよね」
「ふふふっ。さぁ行きましょう。あ、そうでした。アキにも着て貰いましょうっ」
 ファーナを見ていると此処の神官服は彼女の好みに合わせて作られてあるんだなぁと思う。押さえられた赤色ではあるが、神官の高位になるほど赤の割合が多い。その中で彼女が真っ赤だと言うことがこの国の象徴として高い位置にいるのだなぁと実感する。ただ気付けばもう萎縮するほど遠い間柄じゃない。
 いつの間にか俺にはとても近い存在だったけれど……。なんて怖い物知らずなんだと今更ながらに思う。


 馬車で城に戻ると、丁度アキが顔でも洗った後なのか水場からゆっくりと歩いてきていた。
「アキ! お早う御座います」
 彼女が途端に笑顔になってアキに歩み寄る。具合が悪そうにも見えないし、彼女もこちらを見ていつも通り笑みを見せた。
「おはようファーナ、コウキさん」
「おっはよー」
 俺が片手を挙げて挨拶をしていると、アキがもの珍しそうに俺を頭の先からつま先まで視線を往復させる。
「あー、いつも通り赤いけど、違和感があると思ったら、神官正装だったんですね」
「確かにいつも赤いけど」
 赤の占有率で見た目を計っていたりするのだろうか……。
「確かに赤いですけれど、全然違いますよ。ほら此処の赤なんて落ち着いていて良いと思いませんか」
 ファーナが何か拘りがあるらしく赤について語り出す。アキはその話に少し微笑みながら頷いて、そんなに赤が好きなら鏡を見ることを薦めていた。それについては俺も同意である。


 アキの体調には異常は無いらしい。あの時は何か言おうと思っていたが寝て起きたら忘れたとアキは笑った。
 朝食を摂って、少しお茶の時間となった。報告書は昨日のうちに書いてしまった為今日は待機の時間となる。神殿は平常通りの朝である。ヴァンが居ないからか少し物足りなさはあったけれど、見た目だけならばいつもの日常に戻ってこれたと思う。
「あ、ちょっとお願いしたい事があります」
「うぐっ何? 腎臓は売りたくないよ?」
「眼球ひとつでいいですよ〜?」
 にっこりと怖い事を言うアキ。
「ぎゃーーっそれもヤダーーっ!」
「って、違いますよ! わたしそんな事しませんーっ。ちょっと街で買い物するのでついて来て下さい。あっファーナは出れる〜?」
 アキが聞くとファーナは少し困ったような顔をした。
「ええと、分かりません……ですが一応厳戒態勢ですから出れないと思います」
「うーんやっぱり厳しいかなぁ。仕方ないね。今は王様も忙しいだろうし会いにくそうだし……」
「というか今まで良く許されてたよね、何ヶ月もの外出が……」
「ヴァンツェが居た事が何より大きいでしょう。それに、アキが居る事も」
「わたしっ?」
「ええ。同性である貴女が居てくれる事が一番安心できると父は言っていました。どこで何をしでかすか分かりませんしどんな目にあうかも分かりません。一緒に居られる時間が長い人が居る方が安心できるではありませんか。
 それにわたくしはこの通り表面上の振る舞いと結果が何一つ噛み合いませんから……心配ばかりかけてしまいます」
「ファーナ……」
 アキがちょっとだけ言葉を濁したけれどすぐにファーナに向かってそんな事は無いよ、と言った。
「わたし達も同じぐらいファーナに心配かけてるからっ」
「それもそうですね」
 あっさりとそれを肯定してファーナが笑う。
「良く身体に穴が開いたり、腕が吹っ飛んだり武器を無くしたり……あ」
 ファーナが紅茶を口に運ぶアキを見てピタリと動きを止めた。アキもその視線に気付いて口に入れた紅茶だけを飲み干して右手の手首を押さえる。
「えっ、あ。ばれちゃった?」

「アキ、貴女……! 十字架剣を失くしたのですか……!?」

 ファーナが驚きを隠さずにその言葉を放った。――気付かなかった。けれど、今は外しているだけなんじゃないかと一瞬思ったけれど、そんな空気は無くてアキはちょっとだけ苦い顔をして顔を上げた。
「うん……。ほら、ファーナが声をかけてくれた時に、壊れて……。
 お母さんの形見だったんだけど、それを壊すような人間には持たせておけないって竜神様に他にも色々回収されちゃった……」
「竜神様に……、いつ、ですか?」
「戦ってる最中。天意裁判が起きたの、気付いた?」
「えっえええっ!?」
 ファーナが物凄い勢いで驚く。俺もそんなファーナに驚いた。なんかすごい事なんだろう。
「あっでもコウキさんもファーナも、助けてくれてありがと〜っ」
 にこーっと笑うアキの笑顔からほんわか花が咲いている気がする。
「えっ何かやったっけ?」
「そもそもわたくし存在が感知出来ていなかったのですが」
 首を傾げる俺達にアキが満面の笑みで笑いかけてくる。
「ううん。わたしが死ななかったのは二人のお陰。竜神様のファイアブレスを止めさせたんだよ!」
「……?」
 一緒に居たはずなのに違う冒険してる……。そのことが腑に落ちなかったのでとりあえず色々聞いてみた。説明が難しい、と少しだけ困ったような顔をしたけど、すぐに顔を上げてあった事を一つずつ話してくれた。
 コウキさんなら見ているだろうと言われたが白黒の世界や、竜には覚えが無かった。素直にそんな覚えは全く無いというと「じゃあ、やはりこちらの世界の神が干渉しない別世界という説が一番近いのかもしれません」と言って竜世界の事を話してくれた。
 要するに竜の竜による竜の為の世界ということだ。干渉を許されるのは天意裁判に招かれた者。視覚を許されるのが竜人のみ、という感じになるらしい。他は神様だろうが精霊だろうがシキガミだろうが干渉できないようだ、という仮説が今出来た。現に俺は本当にアルベントの戦いを見ていただけで何もしていない。俺で言う所の祭壇に招かれたという奴だ。もっとも、天意裁判の方が緊張感に溢れて居そうだけれど。

 アキは話を終えるとまた一口だけ紅茶を飲んで小さく息をついた。その顔には憂いは無い様に見えた。
「……で、最初に戻るんですけど、一緒に買い物に言って欲しいって言うのは剣選びです」
「なるほどね……いいよ。俺でもあんまり役に立てないと思うよ」
「いえっコウキさんが居ればいい剣に巡り合えますよ〜。何て言っても虹剣を引き当てた人ですし」
「確かに。コウキを連れて行くのは正解でしょう」
 そうかなぁとは思うけど。気持ちって大事だと思ってとりあえず自慢げに任せろと言ってみた。二人はその姿にクスクスと笑っていた。

 とりあえず付いて行く事にしてファーナも一先ずは外出許可を仰いでみる事にした。忙しいはずなのにファーナが面会を願うと、すぐに来いと返事が来た。戦争を終えたから仏頂面で俺達を迎えた王様が、俺達を見て手を止める。
「お早う御座います国王様。貴重なお時間申し訳ありません」
「全くだな。で、用件は?」
「はい。実は少し外出許可が戴きたく……」
「ああ、いいぞ行って来い」
「えっ、あの……」
「後ろの二人は一緒だろう?」
「はい、そうです」
「なら構わんさ。本来なら姫は易々外に出せん。
 だが正直な所、神子とシキガミなんか言葉で束縛してもいくらでも逃げたり出し抜いたりする手段があるからな。逃げれば捜索、見つけて退治をするにも被害の方が多く出る。何をやっても国の出費が嵩むだけで意味が無い。
 外出はもう私の許可を得ずとも自由にするといい」
 そんな言葉が出てきて意外だと思ったのは俺だけではないはずだ。
 聞いてはいけない気がするが俺はひとつ訊いておきたいことがあった。
「いいの? お姫様をそんな野放し状態で……」
 絶句しているファーナの変わりに言った。すぐにギロリと睨まれて背筋に嫌な汗が流れる。

「いいわけあるか。ちゃんと守れ!

 立場あるものが歩く事に責任が有ると知れ!」

 その怒声に更に背を伸ばして直立をする。ついでに左手が腹を押さえる。何故かズキズキと痛む気がしたからだ。
「ハイッ! 腹の痛みに誓って!」

 フラッシュバックする記憶が仄かに腹を痛ませた。避けれないわけじゃないけど、アレはこの人の所謂ゲンコツなので罰として受けなければいけない。
「次は顔に叩き込むからな」
 笑ってはいるけれど冗談には聞こえなかった。
「二度と攫わせません!」
 ビシッと背筋を伸ばして声を張る。アキも同じように姿勢を正してコクコクと頷いていた。
「うむ。結構」
 満足げに頷いて王様は立ち上がった。俺達の前に立ってファーナを見る。
「申し訳ありません……わたくしが未熟なばかりに」
「今回は流石に肝が冷えたな……お前はグラネダの象徴だ。今回の先行隊にはお前を慕うものを多く行かせ、犠牲者も出た。
 弁えた行動をしろ。勘違いはするなそれは決して動かない事ではないぞ。もっと危険に会わないように注意を払う事だ。
 それにその二人を頼る事は恥ではない。お前の友人だろう? お前の友人はお前を助けるのに金を取ったり嫌な顔をするか? いざと言う時にお前を見捨てるような奴らか?」
「この二人はそんな事は致しません」
 ファーナは淀みなくはっきりと言い切った。
「ならば。お前の問題だ。
 今回の件は済まなかった二人共。戦争に発展させてしまったのもファーネリアの不注意が一番の原因に思う。だから私もこの通り――」
 そう言って王様が頭を下げる。
「こ、国王様、そんなっ顔を上げてください、わたし達はただ……!」
 あわあわとアキが慌ててそれを制する。王様は顔を上げて少し笑みを見せた。
「ああ、兵を救ってくれたのだろう? 不当な戦争を止めろと勇気を持って叫んだ。
 それはバルネロを超えて私に届いた。戦いに負けて、勝負には勝った。恥じる事の無い竜士団の勇姿だった。トラヴクラハが居たら、私の誇りだ、と胸を張って言うだろう」
「勿体無いお言葉です……」
「そしてシルヴィアがウチの子自慢してくるに違いないな」
「全く否定できません」
 王様の冗談に真顔で頷くアキ。ハハハ、と軽く笑って王様は俺を見た。
「コウキ」
「はい」
 目が合った。無表情なので何かはわからないが、呼ばれた意味は理解した。
「頼むぞ」
「はいっ!」
 勢い良く返事をして、王様の部屋を出た。そうか外出は基本的に自由だけれどその匙加減はファーナに任せるしかないのか。大丈夫だ、とは思って居ても魔女の襲撃にあったりなんていうこともある。
 後出来るのは常に見張りをつけるかそのぐらいだが、ヴァンどころか俺すら居ない時に事件を起こすものだから、結局同じで、対応が遅れる。後は俺達の嗅覚次第と言うところだ。

 戦争は終わったんだろう。王様は俺達の話を聞いた上で行動した。しかしその行動を快く思っていない人達も居た。被害になった人たちは少なくないのだ。バルネロ総隊長が言っていたように、被害が出て、足を止める事は――死んだ人たちを報いてやる事が出来ないということだ。そう考える人たちだって居る。家族が、恋人が死んだ。それが戦争にまた繋がる物語だって沢山ある。定石の一つとも言って良い。だから――。
 戦争を仲裁し、戦力に傾きを持たせる竜士団は誰しもの敵だ。グラネダとセインの軍に挟まれた、あんな場所で生きていくんだ。その覚悟は、どれほどの物が必要だろうか。
 アキはあの戦いを経て――何を得たんだろう――。
 カツカツと三人で靴を鳴らして城の中を歩いて、中庭への扉へ到着した。先頭を歩いていたアキが、両手でその扉を押し開けると眩しい光が目に入ってくる。

「あっそうだ。もう一つ、二人には言っとかなきゃ」

 アキが一歩先に外へと出てこちらを振り返って、笑顔を見せた。

「コウキさん、ファーナっ、わたし技も全部無くなっちゃった!」


 むしろこれは毟り取り過ぎじゃないですか竜神様……?
 かなり洒落にならない戦力ダウンを果たしたアキはこれから新たに剣を買うところから始まる。
「わたしも笑うしか有りません。けど、特別に見逃してくれる代償みたいな感じです」
 アキはそう言って笑う。
「よく、それだけのものを取られるだけで生きていられましたね……」
 ファーナが声を絞り出すように言って彼女に追いつくとギュッとアキの手を握った。
「すげーペナルティ……生かしてくれたのって奇跡か」
 死にそうで死なない奴ランキングでワンツーフィニッシュを決めているはずの俺達なら生きている事を奇跡と言うのだけれど。

 全てを言い切って、ああすっきりした、とアキは更に城の門へと歩みを進める。
 清々しいと言えるアキのその立ち振る舞いにファーナと目を合わせて首を傾げるとひとまず彼女について街に降りる事にした。
 街にはまだタケや四法さんも居るし、傭兵隊の人たち様子も見ておきたい。今日はまた短い一日になりそうだと感じながら、俺達は城下へと続く長い道を三人で歩き始めた。

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