未完成の友人 後編



「災難だ……」
 銀髪のエルフはうな垂れた。精神的疲労に強いはずの自分がこうも疲れるとは、全く彼女は大したものだとある意味感心すら覚えた。
「全くだ」
 どういしたおれを訝しげな目で見た後、何となくすべてを投げ出したような溜息をついて机に肘をついて顎を乗せた。
「いつもああなのかあの子は」
 彼が手配書のような人間ではないし、彼女に管理されている人間だとわかってからヴァンツェは警戒は無意味と悟った。
 それよりもあの台風のような勢いで叱り続ける彼女の元にずっと居て自分がコレだけ疲労すると言うのに彼はどうやって耐え続けているのだろうかと疑問に思った。
 その疑問は彼の馬事東風な態度を思い出すとすぐにスルースキルであろう事は明白だったが。
「いや、大人しくしてりゃ子供みてーだ。基本的にお嬢様だからな。アレやこれに興味をもってウロウロするんだ。
 でも今みたいに街を壊したとか非道徳な事だったりとかには厳しい」

 負け犬が二人。遠吠えはもしかしたら聞こえるのかもしれないが遠くだから良い。
 長い事叱られ空腹を満たす為に鬼の居ぬ間に二人酒。
 夜更けの町はこういった酒場が結構遅くまで賑わっている。
 アリーはおれ達に説教を行ったせいもあり、今日は疲れたと早めに就寝した。解放されて盛大にうな垂れたソイツを連れておれ達は遅めのメシと反省会を行っていた。
 こうも盛大に怒られる人物がおれ以外に出来たのが嬉しくて最初にガン垂れて云々の件はすっかりどうでも良かった。ただおれの話す愚痴の意味を知って反応してくれる奴が居てくれるこの感動を誰かにもわけてあげたい。

「ねーよマジよー。分かってるけどこっちの喧嘩だぜ?」
「……まぁオレは殺す気だったけどな……もうどうでもいい……」
 溜息が重い。ぺたぁっと頭をカウンターに置いて疲れを見せた。
「だよなあれ聞くと萎える萎える。お、酒きたぜー」
「ああ」
 かこん、と二人でジョッキを合わせて一気に呷る。冷たいそれが一気に喉を通って仕事上がりの一杯として最高の引き立てをしてくれる。その一杯の為に生きれる理由もそういった報われる快感によるものが大きいと思う。
「ふーっ生き返る!」
「……ウィンド、あんたなんであんなのと旅が出来るんだ」
「ああ、まぁおれはチョット事情が複雑でな。あいつに助けられたからな。そういう約束なんだよ。おやじー中ジョッキ二つ」

 城に落ちて。罠に引っかかって。おれはもしかしたらあそこで命を失っていたのかもしれない。一生を棒に振ることになっていたかもしれない。それならあの子を守るぐらい。傍に居てやることぐらい造作も無い。
 シキガミが詳しくなんなのか。神子がどういうものなのか。実際おれは余り把握はしていないのだけれど、彼女を守らなくてはいけない結論が変わらなければそれでいい。そういうものだって割り切っている。単純明快で分かりやすいじゃないか。おれは彼女を守るためにこの世界に呼ばれた、と。
 ヴァンはそれ以上は聞かなかった。それよりも何故かおれの元の世界の話に興味を持った。法術の無い世界。技術が発展し、それと共に汚染が加速した科学文明世界。懐かしくて寂しくなる。酒もあったせいか適当な事を喋りながらおれは泣いてたらしい。
 本当に気兼ねなく話せる奴に会ったのは久しぶりだった。別におれ自身は何を隠すわけでも無い。ただその世界の話はあまり口外して欲しく無いというとあっさりと頷いたのは印象に残っている。

「ああ、でモノのついでにおれに突っかかってきた理由って?」
「あの紙一枚だ」
「マジかよ」
 決断と行動が早すぎるだろ。
「綺麗事並べて、間に合いませんでしたじゃ話になんねぇだろ。
 賊だって書いてあんだ。多少の事故は多めに見られる」
「確かにアレじゃ賊だよな……なんとかなんねぇかなぁ」
「無理だろ。あの子が国に戻るまでは」
「それもそうか。やっぱいっぺん話を付けに行くしかないな」
「はっ? あんたバカか?」
 本気でいってんのか、とソイツはおれを見る。
「えっ? そうだけど?」
 だって取り下げてもらうにはそうやって頼みに行くしかないのだ。
「いやちょっとぐらい否定しろよバカ! 死ぬ気かアンタ!」
「死ぬ気とか無ぇし」
 カウンター席の端で静かに声を荒げるヴァン。
「アホか! よく考えろよ。アンタ所謂賞金首なんだぞ? 出向いたらその場で首刎ねられて終わりだろ。
 アンタ等の神子とシキガミの旅って奴は、あの国ではタブーなんだよ」
 そういって一気に追加のジョッキを呷った。次を頼むと手元のつまみを口に放り込む。
「タブー? なんで?」
「ん、あの国は神を信じない無宗教――、いや、『無神教』国家だ。そういった伝説類なんざ微塵も信じちゃくれねぇ」
「そうなのか。確かアリーが教会が唯一無い国とかなんとか言ってたな」
 誰も彼女の言う事なんて信じなかった。
 夢で神様に会っただなんて、それは唯の私の夢でしかないのだと彼女は困ったように笑っていた。
「そうだ。オレはアンタみたいな世界の多少の不思議は好きなほうだが、あの国はそういったものこそが許せない現実主義国家だ」
「へぇ、おれって不思議体なのか」
「オレの法術が殆ど効かなかったのはアンタで二人目だ。腹立つな全く」
 腕は引っ掻き傷が出来たみたいになっている。
「お陰で傷跡が痒いぜ」
 シキガミという身体は治癒能力が物凄い。先ほど受けた傷は数ミリ程度の深さの切り傷が大量にあったがもう殆どが猫に引っかかれた程度の傷になっている。チラリとこちらの傷をみてヴァンは溜息を吐いた。
「バケモノかよ……」
「わかんね。そうなのかもな」
 おれからすればこの世界がかなり変だからもう何が起きても動じない程度の心構えはある。
「まぁおれからすれば魔法みたいなのぽんぽん使ってるお前等の方がよっぽどバケモノだけどな」
「ははは。法術が珍しいだなんて変な奴だなウィンド」
 ケラケラと笑っておれを指差す。
「お前に言われたかねーよ!
 あ、ヴァンはなんで旅してんだ?」
 何杯目か分からないジョッキを傾けてヴァンに聞き返す。
「オレは――……記憶が無いから。まぁあんまり真面目に聞かなくていい」
「記憶が? またロマンチックだな」
「ははは。かれこれ3年、ロマンもクソもネェ。手がかりも姿も形もねぇよ。いい加減厭きた。
 初めからあった知識だけで生きていけるのは分かってたが……記憶喪失っても不気味なもんさ。
 ま、なんならいっぺんお前もロマンチックに浸れるほどブッ叩いてやろうか」
「いらねぇ。おれあの説教だけが全ての記憶になりそうでよー」
「トラウマだよな……」
 本当にくどい説教は言い回しを変えただけで同じ事を何度も何度も言っている。
「なー! まぁ良い記憶ができたじゃねぇか。
 てかなんだ、やる事無いなら一緒にいかねぇか?
 世界知らずのおれに、
 世間知らずのお姫様、
 記憶無しの魔法使いなんてカッコイイじゃネェか!」

 バランスが取れているように思えた。おれ達二人じゃ圧倒的に無い世間風習。冒険者をやってきたこいつはそれを旅の中で得てきている。
 ヴァンは一瞬変な顔でおれを見た後、腹を抱えて爆笑し、机に突っ伏した。

「くっ……はははははははは!!
 なんだアンタ、さっきオレはアンタを――、殺そうとしたんだぞ?
 神経おかしいよアンタ」
「昨日の敵は明日の友達っつってな。
 いいじゃねぇか。面白いし」
 それ以上は考えてない。また喧嘩を売ってくればそれはそれだ。
 ヴァンは酷く呆れた顔をして揚げ物を頬張る。
「わけわかんねぇ、あの人も、アンタも。大概だ」
「そうなのかもな。まぁ正直姫様はあの有様でよ、もっと世界常識に近い奴が欲しいんだ。
 別に暮らしに必要な知識が無いわけじゃないんだろ?」
「まぁな……」
 腑に落ちないと顔を顰めるヴァン。
「それに法術! あと魔法! あれすげーな」
 ああ、と言って首を振る。
「あれは魔法じゃない。法術だ。詠唱が特別でな。殆ど喋らなくていいんだオレは」
「えっなんだそれ。ヴァン限定なのか。すげーなオイ」
「オレ限定なのかは知らねぇが……そこそこ恵まれた能力みたいだ。
 あんたらみたいなのを見てると霞むけどな」
「まぁ理由なんざ適当でいい。どうだ? 割と楽しいぜ?」
「……興味はある。
 まずお前等、二人の存在とその結末。
 オレはいくつかは知らないがエルフ分の血がある。どうしてもそういう誰も知らないものに弱くてな。見てみたい」
「誰も知らないもの?」
 クツクツと笑いながらあんたが知らないのもおかしな話だよな、言う。

「そう。神子とシキガミの行方については諸説ある。定説じゃないんだ。
 あんたらについていけばその最後が分かるかってね。
 神子とシキガミなんてこの世界のイレギュラーでしかないんだ。それなのに最後の最後を誰も知らない。
 まぁそれらが存在する意味ですら曖昧なんだ。
 現れればいきなり最強を名乗って軍事兵器。
 自然災害もいいところだ。そうだってわかった時に捨てる奴だって居るんだ。
 なぁあんたらはこの世界に必要なモノなのかい?」

 片眉を下げて笑いながらおれに聞いてきた。ごくごくと飲み干しながら考えてすぐに出た結論から首を振る。
「さぁな。哲学にゃ興味が無いぜ」
「……まぁそうか。誰にだって同じことが言える」
「――……わかんねぇけど。
 別にいいじゃねぇか。おれ達がどうにかしなきゃなんねぇもんはそうする。
 それ以外は普通だろ。多分」
 出会ったものは仕方が無い。おれがそう生まれてきてしまった事もどうしようもないだろう。
 予想通りだとそいつは言った。
「ああ、やっぱアンタは変だ。シキガミなのに考え方が普通すぎる」
「まぁ普通の人間だからなおれは」
「よく言う」
「……なはは」
「……くはっ」
 二人でよくわからない変な笑いを浮かべてまた別の話を始めた。



 酒場の人間は疎らになってきた。
 おれはヴァンと二人でぷかぷかとタバコを吸っていた。アリーが居ないのでいいか、と思って取り出すと、ヴァンが興味を示したのでタバコは吸えるかと訊いてから一本渡した。
 パイプで吸うやつを紙でまいただけだ。本来ならフィルターなんかもあったけど、あれって技術の賜物なのだと作っていて気付いた。一応フィルターっぽく緩く巻いた紙を付け足しているがまぁ大体これで吸えるしいいか、と言う感じだ。
「確かに楽は楽だな……」
 ケムリを吐きながらヴァンが感想を言う。妙に似合うな。コイツをポスターにするときっと飛ぶように売れるはずだ。
 まぁ好きで吸っているだけの自分的にはどうでもいい感想。アリーも興味をもって居たので一本だけ渡したが結局咽ただけだった。
「紙巻のほうがお手軽でいいと思うんだがどうにも無くてな。
 全部手巻きだぜこれ」
 夢中で作れば割とすぐできるし、慣れて形も整ってる。日に一本程度しか吸わないが、気合を入れる時にも吸う。
 適当なタバコの話にヴァンは生返事をしながらマジマジと火のついたそれを見ていた。


 タバコを吸い終わって少ししたぐらいに立ち上がって、背伸びをした。
 気付けば夕方に顔を出した月が、もう真上に来ている。

「やー久しぶりにこんな話したぜ。お嬢様目の前じゃお下品なお話は出来ねぇしな」
「そりゃそうだ」

 部屋に戻るわ、と言って一つ重要な話を思い出す。
「あーそうそう、一緒に来る件は考えといてくれよ。
 明日の昼に出発だからよ。ここで集合な」
「あー……わかった」
 今の言い方だと此処に来る事を了解したようにも聞こえる。まぁそれはそれでいいのだが。
「じゃな!」
 微妙な顔をしていたそいつに手を振っておいて部屋に戻る事にした。
 一緒に来るならもっと旅は面白くもなる。まぁあいつの人生にどうこうも言えない




 変な奴だ、と残っていた酒を飲みきった。
 人も少ないし自分も帰り時だ。
 その前に、と席を立って後ろのテーブル席へと移動する。
 そこには白いフードを被った女性が座っていた。
 そいつが此処に現れてからオレ達が話している様子をずっと見ていた。あいつもそんなことに気付けないほど馬鹿な奴ではないだろうが――置いていくのは危険じゃないか、と少し笑えた。

「よ、アリー?
 アンタそんなトコに居なくてもこっちに来ればよかったのに」

 あいつがあんなのだからこの子がしっかりするのだろう。チラリと見せた顔はやはり空色の瞳をした彼女でフードの中には金色の髪も見えた。
 自分が彼女を見間違える事は無いと自負している。それはそれだけ彼女が特別な美しさを持つ人であるということでもあるし、自分の記憶力にも自信があるからだ。

「……ウィンドが楽しそうだったので見ていようと思っただけです」
「アンタ従者に遠慮すんのかよ」
「ウィンドは従者ではありません」
「まぁ、それはポリシーがそれぞれあるもんか。そうそうアイツあんたと違って全然注意深く無いから気をつけな。
 なんせさっき自分を殺しかけた男を一緒に自分の旅に連れて行こうとしやがる」

 阿呆だあいつは。そうに違いない。
 自分はもっと殺伐とした世界で生きてるから、あいつの能天気を羨ましいと思った。
 あいつみたいにこの世界を愉しんで生きてりゃもっと自分の旅も楽しかっただろうに。

「来ないのですか?
 ウィンドはああ見えて、人を見ますから」
「じゃぁ見る目がねぇよ。オレは札付きだぜ」
「類は友を呼びますね。ウィンドもある意味百万の賞金首ですよ」
 申し訳無い事ですが、と彼女は瞳を伏せる。自分のせいなのであまりどうこうも言えないのだろう。
「おもしれーこと言うね。
 まぁアイツはあんなだしあんたが言うなら無実の罪なんだろうが―――

 オレは本物だ」

 自分の手配書は持ってる。到底自分には似ていなかったし、白い髪の賊となっていた。去り際に一瞬見たとかそんな目撃証言なのだろう。
 差し出された文字だけのその手配書を見て彼女は溜息を吐いた。ウィンドの言うようにもっと顔を明確にするものが必要ですね、と小さく言ってその文章を読む。

「……国潰しの白い髪の賊ですか……確かに貴方ならば。
 しかしこの手配書はもう竜士団が処理したとなっていますが」
「一応処理された。殺された。本当はオレが潰しに行ったんだがまんまと返り討ちにされた」
 凛とした空色の瞳をこちらに向けて彼女は問う。
「何故、貴方は生かされたのですか。理由があるはずです」
「……オレが潰した国は、竜士団が助けた国だ。
 賢明な老王が居てな。竜士団はその王の意志についたんだ。
 だが、老王は戦争が終わってすぐ、息子に殺された。そして王位を継いだ息子が敗戦国に無茶をしだした。
 資材や食料を横暴に献上させ、重い兵役を負わせ、更に奴隷化だぜ?
 吐気がする暴挙だ。なぁアンタなら分かるだろ」
「……確かに」
 不快を顔に出して頷く。胸糞悪いだろうと思う。特に国を背負う立場にある彼女なら。
 もっともオレの意見は他人的でもっと深い内部事情があったのかもしれない。もっと陰謀めいたものがあったのかもしれない。ただオレが訊いた事実を真実として扱っただけの結論。

「要らねぇだろそんな国。そう思った。
 確かにオレは平等を謳う正義の味方でも無い。
 それを裁く権利は無いはずのイチ人類だ。
 だが弱いものいじめする馬鹿を殴るのがオレの生きがいでね。
 結局オレの好きなようにしてそういう結果になっただけだ」

 自分でもバカなことをしたのは承知している。だからトラヴクラハと対峙し、彼と暴力竜女に散々叩かれ、それでも尚お前は間違っては居ないと情けを貰った。それがこの命である。
 情けない。笑われても仕方の無い話だ。

「……貴方は……ですが一人でそれを行っただけではやはり貴方は罪人です。
 自己満足で同じ事をしているだけですよそれは」
「ああ。そうだ」

 否定はしない。ムカつく王家の居る城をぶっ飛ばして清々した。軍から奴隷を解放して英雄気分だった。
 本物の英雄を前にそれは偽善だと現実を突きつけられた。
 考えても考えてもどちらを正義とする事は出来ない。
 彼女は視線を下げてふるふると頭を振った。

「しかし、貴方はもう竜士団に殺されたのでしょう?
 ヴァンツェ・クライオン。
 問いますが貴方はまた国潰しを行う気はありますか」
「さぁな……今やってる事は全部オレの暇潰しだからな」

 彼女はジッとオレを見て、何かを見透かしているようだった。
 他人の目からは何も見えないし、何も起きない。ただ目は口ほどにものを言う。
 暇潰しというのは本当だ。感情のままに動いた結果の国潰し。
 オレは奴隷となった人々の代弁者だ。その元凶を正せばそれは勝利国の人間へと帰っていく。元凶は誰なのかなど、気が遠くなるほど遠い話だ。
 刹那的に。
 そこにその国を吹き飛ばせば、という言葉を聞いて。
 短絡的に。
 酷くそれが妥当な事に思えた瞬間。それがたまたまオレだったというその悲劇の国は滅んだ。
 それだけだ。

 言い訳も何も無い。その目を見返して言葉を待つ。
 空色の瞳は揺らがず、こちらを見たが暫くして、彼女が息をついた。

「――……ならば。わたくし達と一緒に居なさい」

 それは命令のように聞こえたのはなぜだろうか。
「は、? アンタも正気か?」
 だから素っ頓狂な声で聞き返した。
「ええ。国の正し方は壊す事だけにありません。
 わたくしが―――あるいはウィンドがそれを貴方に見せましょう」

 彼女はごく真面目にオレを見てそう言っている。
 あの会話だけでオレの事を此処まで見抜くのか、とぞくりとした。
 彼女は伏せ気味に向けられた瞳は妙な艶を持っているそれに息を呑んで彼女の言葉を待つ。

「……自らを正しく知りましょう。
 貴方の素性は分かりませんが、力の物差しに私達を使ってください。
 その蓄えられた知識の一つ一つの世界に対する正しい使い方を一緒に探しましょう」

 言葉は違えど。
 彼女が出した答えは彼と同じものである。

「……アンタ等、おかしいよ絶対」
「ええ。しかし共に世界を歩む者ではありませんか。
 貴方ほどの法術の使い手ならわたくし達と暫くでも道を同じくしていただけるとわたくしも助かります」
「そりゃどうも。確かに女性を助ける事に依存はない」
 私的にいい笑顔を作ったつもりで彼女を見たが、つん、と顔を背けられた。
「……余りフラフラしすぎて男性の質を下げないようになさってくださいね」
「アンタ、いい女だけどどうもオレに重く掛かるね。嫌がらせそれ?」
 分かってはいるがどうも重圧が凄い。
「あら、わたくしは自分を安売りは致しませんよ?」
 どうやらまだオレ自身への警戒はつづいているらしい。彼女らしいといえば彼女らしいが此処まで来るとウィンドには純粋に嫉妬を覚える。
「その割にはウィンドには……まぁ普通に考えて惚れてるよなアレに。
 なぁ何処がいいの?」
 イイヤツはイイヤツだ。お人好しとも言うがただそれだけならこのお姫様が惚れるのもおかしい。
 そう聞くといきなり純情な少女の表情に戻った彼女が顔を真っ赤にしてあせあせと顔をてで覆う。
「ぷ、ど、どど、何処と、申されましてもわたくし別に彼とは何もありませんしっ、ボディーガードだといっているでは在りませんか、彼も、ほら……」
 冗談抜きで可愛すぎるだろ……。
 ウィンドこれにまだ手を出してないとか賢者かあいつ……。
「その反応は面白いが、……あれに負けてるのが面白く無いなコレ……ふぅーん?」
「知りませんっとにかく、わたくしはウィンドを信じますし、たとえ貴方でも彼を殺す事は至難の技でしょう」
「仲良くなって後ろからグサっと行く腹かもしれないだろ?」
「ではわたくしがその後ろから行きますので」
 その図が何となく想像できて思わず吹き出してしまった。
「ぷっっは! 変だ。相当変だよアンタ等!
 だが、白いことが分かった以上オレはアンタ等についていけない。
 札付きと一緒に居てもろくな事にはならないだろ」
 その言葉に彼女は不思議そうにこちらを見てそして首を振った。
「変なのは貴方ですよ。ヴァンツェ。
 彼ならば貴方一人などちゃんと受け止めてくれます。一緒に笑ってくれます。一緒に悩んでくれます。

 貴方はもう彼の友人でしょう?

 少なくとも彼はそう思っています。何を遠慮しているのですか。
 ウィンドは貴方と対等に笑いあう良き友人ではありませんか。
 ―――……わたくしには、そうなれませんけど。だからその事も含めてお願いします」

 少しだけこちらをジト目で見てふいっと目を逸らすと、彼女は席を立った。ソレを目で追ってまたしても変な勧誘をうけた、と笑った。
 どうやら“友達”である自分は彼女にとって嫉妬の対象らしい。確かに同性同士じゃないと気兼ねなく出来ない話は多い。それだけ今日彼が見せていた表情は彼女にとって衝撃の大きなものだったのだろうか。

 ―――結論としては。あの二人面白い。
 あの二人に興味が湧いた。神子とシキガミはあの二人のついでだ。自分の事は更についでで構わないのだ。故に着いて行って見る価値は大いにある。きっと得られるものも多いはずだ。未完成のオレ達が世界を巡るのだから。
 自分の気まぐれにしても妙に興が乗る。
 半笑いで席を立って自分も部屋に戻る事にした。
 気分は悪くは無い。

 一先ず、明日からあの二人に仕掛ける悪戯でも考えながら今日は寝よう。
 背伸びをすると肺が空気を求めて大きく息を吸った。
 外では満月が少し傾き始めていた。

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