第219話『姉の願い』

「あたしと一緒に勝てば、その運命からは逃げられるんだよ!」
 覇道は俺が道を切り開くために使っているものだ。もしかしたらループという概念に対しては物凄く協力に作用するものなのかもしれない。
 ただ俺の運命に掛かっているものに対して俺はそれをどう発動させれば良いのかわからない。物理的に剣を振って空間を開く事はもっとも簡単なことなのかもしれない。
「ずっとコウキがシキガミなんてやる必要は無い!
 いいじゃん、どうせ誰かがやるんでしょ? 繰り返されるって運命なんでしょ?
 そんなのいいよ、あたし達がどうこうしなくていいよ!
 役目を果たして、普通に暮らせればそれで! それでいいじゃない――!」

 限りなく身内である彼女の言葉である。
「姉ちゃん」
「コウキ、一緒に逃げよう?

 あたしが何とかしてあげるから……!」

 必死の形相で俺を見る。俺の為に必死だからこそ心に響いて言葉が淀みそうになる。俺の見ているその先の話は何も解決しないのに。
「それじゃあ意味が無いんだ。
 俺が逃げちゃいけないんだ!

 俺が皆を巻き込んだんだ!」

 友達を巻き込んでおいて自分だけ逃げるなんて無責任がここで通用するわけが無いし、到底する気にもなれない。
 この事はちゃんと会った時に話せるといいなぁ。
「だから、皆で。この話を解決したい。
 シキガミを終わらせる方法について――」
「無理に決まってるでしょ!!
 世界の法則よ!? 神様がそれはできないって言ったんでしょ!?

 そんなの変えられる訳ないじゃない!!」

 世界を見上げて悲痛な声で叫んだ。
 そう、俺に出来る事じゃないしどうやらこの結末で会える神様に出来るわけじゃない。簡単な願いを叶えてもらっただけでも数個程度。その程度で叶えられる願いじゃカバーしきれない。

「じゃあ変えられる奴に会いに行こう。
 そうしよう!」

 俺がポンと手を打ってそういうと、何かがブチギレたような表情でツカツカと魔女は歩み寄ってきた。
 そして、パァンと舞台に響き渡る音で平手打ちを炸裂させ、そのまま俺の胸倉を掴んで睨みをきかせる。
「そんなハイキングみたいなノリで行けるわけ無いでしょう!」
「面会手続きがあるならするよ! アポ取るよ!」
「そういう話じゃない! あたしは本気で言ってるの!!」
「俺だって本気で言ってる!!」
「このお馬鹿!! もう一回洗脳してやる!!」

 グッと顔が近づいてきたのを避けてグッと顔を抑える。

「やめろぉ! ノーセンキュー!
 三日で三人にチューされてただでさえちょっと照れくさいっていうのに!!
 まだ言い訳も謝罪もしてないんだぞーー!!」

 三人で見事にその話題を回避して笑っている。良くない事だけど、謝ってお礼は言っておきたい。

「あんたまた誑してるの!?」
「またって一回も誑した事無いよ!! 濡れ衣だ!!
 姉ちゃんが洗脳なんかするから俺が白雪姫扱いされるんだよ!!」
「知らないわよそんな事! コウキ言ったってあたしの言う事聞かないでしょ! ていうか誰の言う事も聞かないでしょ! すぐそうやって傷だらけボロボロになるんだから前から気をつけてって言ってるでしょ――」

 俺達がギャーギャーと言いあっている後ろで皆がその様子を眺める。
 本当に姉弟喧嘩と見なして害は無いということになったのだろうか。


「あ、ああ、姉弟喧嘩になってしまいました……というか、本当に姉弟だったのですかね……?」

 今だ信じ難い。コウキは嘘を言っていないにしてもそれと魔女を信じるかどうかは別である。となれば信じる基準はヴァンツェ・クライオンのみとなる。
 ヴァンツェに対しては信用してもいいだろうとは思う。故にヴァンツェを信用する形で二人の話を鵜呑みしてみる事にする。

「絡みづらいネタで喧嘩してて止めるに止められない……」

 二人の喧嘩にたじろぐのはファーネリアだけではない。居場所の無い三人がただその光景を眺めるのみである。

「いえ、いっそ私はお二人に入ってもらいたいです。そしてそのカオスを眺めたい」

 いっそのことならばとヴァンツェが提案してそれは即座にファーネリアに切り捨てられる。

「却下。ヴァンツェ、貴方最近全く隠さなくなりましたねその性格」

 特にロード事件以後は全く隠さない。ロードも偏屈な性格だが彼も相当なものだと認識を改めた。それでもファーネリアに対しては紳士的であるし彼の価値自体はファーネリアの中で変わる事は無い。
「ははは、口に出すか、出さないかの違いだと思いますが。
 まぁ一応油断はしないように。キスをされたら、また二人ともやりに行くんですよ」
 ヴァンツェは二人を指してニコッと笑った。
 洗脳が成立したらもう一度コウキの白雪姫コースである。
 二週目のキスとその後の気まずさに耐えられるかどうかを問われた二人は顔を見合わせて頷いた。

「早めに引き離しましょう」
「そうですね」


 俺達はファーナとアキに喧嘩を止められて、噛み付きそうな姿勢からまた距離を取る。
 姉ちゃんと喧嘩をすると妙なモヤモヤ感が残るのは何でなんだろうな。基本的には俺が悪い時は謝るが、謝られた事は殆ど無い。俺別に悪い事しようとしてないし、絶対に折れてやるものかという心持でふんぞり返るように腕を組んだが、右腕の傷が痛くて悶えた。

「ああ、大丈夫ですか。もうキュア班に行きましょう。
 詳しい話は落ち着ける場所でしませんか、お姉さん?」
「嫌。あたしはコウキを救いたいだけなの。
 貴女たちと一緒に居るとコウキが死ぬの。絶対にそれは避けさせないと……!」

 色んな感情が混ざった表情だった。

「俺はファーナのシキガミだって言ってるだろ!」
「そもそもアンタがシキガミ側に居るのが危ないって言ってんの!
 ただでさえヒーローごっこが好きなんだからすぐそんな役回りになっちゃう!」

 ごっこといわれて喉元に言葉が出かける。俺がやってきた事は確かにそうなのかもしれない。英雄と言うには幼稚だし、自分の力が全てではない。
 もしかしたら皆に迷惑だと思われているのかもしれない。
 そう思っている俺の前に出たのはファーナだった。

「沢山の物を救ったコウキを馬鹿にしてはいけません。
 貴女も彼に救われたのにどうしてそんな事を言うのです」
「コウキさんが誰かを助けるのは英雄気取りだからじゃないです。
 助けたいという意志で助け、止めたいという意志で戦争を止めました」
「貴方が思っているほど安い覚悟でコウキは戦っていませんよ」

 皆の言葉に不意に泣きそうになる。
 俺がやっていた事を認めてくれる仲間がいて、意志を汲んでくれる。これほど嬉しい話が他にあるだろうか。
 逆にその光景に怒ったのは魔女――いや、姉ちゃんだ。

「英雄を英雄のままにして頼り切って殺しているのは誰だと思ってるの!?
 器だの何だの言われてるこの身体の何が価値なの!?
 神様なんかどうでもいい!
 あたしは本当に大切だと思う人を守りたいだけなの!

 どうしてそれを分かってくれないの!!」

 助けたいから助ける。それに於いて手段を選ばないだけ。魔女がやってきた事は理にかなう守るという行為である。
 時にはどんな殺人犯より容赦なく人を殺し、どんな政治家よりも汚い策略をめぐらせる。そうやってしか守れない時にそうなるのが彼女である。

「俺だってそうだよ。助けてあげたいだけ」

 助けてくださいと言われれば助ける程度の優しさは元々持ってたつもりだ。
 こんなに長い事一緒になるとは思って無かったところも無くは無いが今や修行の旅はライフワークである。

「コウキは範囲が広いだけよ! ヒーローごっこはいい加減にして!」
「ヒーローにはなれなかった!」

 強く叫んでしまって、その人が黙り込む。

「……戦争で助け切れなかった人だって居たしさ。
 俺がやってるのは、助けれる人を助ける事だけ」

 結局あの戦いを止めてくれたのは二人の姫と竜士と勇者。壱神幸輝の出番は最初の一発だけだった。

「でも死に掛けた!」
「いろんな人が助けてくれてる」

 数え切れないいろんな人が俺を助けてくれている。

「そうやって前のコウキも死んだの!
 ねぇ、分かってお願い!
 その運命からは逃げられないの!
 あの人の呪いはそういうものだって分かっているでしょ!?」

 姉ちゃんが必死に俺に訴えかける。
 ファーナがそれに反応して聞き返した。

「コウキの受けた呪いの正体とは? 貴女ならば解けるのでは?」

 ファーナの言葉に姉ちゃんはキッと彼女を見返す。

「できるならやってるわよ! 壱神幸輝という存在に賭けられた呪いはあたしのも解けない!
 作戦ではあったけど、妹神子に剣を向けたコウキはあの人に呪われた!
 あたしが使ってる程度の呪いとは訳が違うの!
 “運命”っていう単位で捻じ曲がるように出来てる!
 普通に死ぬ事は許されない!
 何度も何度も“シキガミの壱神幸輝”を繰り返す! そんなのあんまりじゃない!!」

 呪いとかそういう単位で考えるものではないと彼女は叫ぶ。
 つまり俺の人生の回り方は決まりきっていて次も必ず空から落ちては誰かを助けるという事を続けるのだろう。俺が俺のままでずっと最初の頭に戻るならずっと同じ事を繰り返して居ても不自然だとは思わないだろう。

「だから“シキガミ”なんて言われるのよ!!
 人の人生を何だと思ってるの!!
 あたし達は道具じゃない!!!」

 誰かを助けては終わる。
 道具と言われるが言葉的に何かが引っかかる。

「あー。あれなんだっけファーナ。ドゥワドゥワ?」

 いきなりの俺の質問に物凄い険しい表情になるファーナだが、少しだけ間を置いて眉間に皺を寄せて俺に聞いた。

「……もしかして導く者<ドゥークント>の事じゃないでしょうね?」
「あ、それそれ。あいた」

 どう間違えたらそうなるのですかっと頭の横にチョップを貰う。それを笑って俺は姉ちゃんを向き直る。

「メービィは俺の事を導く者って言ったよ」

 なんでそんな風にシキガミとは別の単語なんだろう、と思わなくも無かったけれど。きっとシキガミの役割を示す意味で使っていたんだと思う。

「シキガミって道具みたいな扱いはされてないよ」
「そんな演技はいくらでもできるの!」
「そうかな。まぁ疑うのもいくらでも出来るよ。
 俺は嘘吐いてないって信じてるよ」
「嘘を吐いていなくてもやってる事は同じなの!」
「じゃあやっぱりシキガミって役割は終わらせなきゃな」

 ますますそう思う。道具って言われても結局それが続いていくだけじゃ何も終わらない。そうなる事を受け入れるしかない現状ならその後の為に働くべきだ。
 ぶるぶると肩を震わせた姉ちゃんがギリッと歯を鳴らしてうな垂れる。俺に何を言っても通じないと分かったのだろう。
 喉の奥から搾り出すように言う。

「……もう……いい。
 わかった。コウキがやりたいようにやれば良い」
「助けようとしてくれてありがと」

 そう言ったが彼女は何も言わず、フッと浮き上がって去ろうとした。

「貴女はどうするのですか」

 ファーナの問いに、クルッと水中で振り返るようにふわっとした動きで回って見せた。
 そして唯一つ、彼女は姉と同じ言葉で真っ直ぐ俺を見て言った。

「私もやりたいようにやる。それだけ」
「コウキを助けるというだけでは無意味です」
「……そんな事分かっている……。あー。面倒くさい弟よね」
「面倒くさいのはどっちだよ!」

 俺の言葉にムッとした姉ちゃんが何かを言おうと口を開きかけた。

「どっちもどっちですよ」

 完全に傍観者となっているヴァンが口を滑らしたかのようにそう言って、おっととワザとらしく口元に手を当てた。

「嘘だ!? 姉ちゃんより俺は面倒くさく無いよ!」
「これの何処が面倒くさくないって言うの」
「なんだとぅー!?」

 姉相手だと真面目に腹が立つ。沸点も低くなるが許すのも簡単だ。それは兄弟が居る人なら分かってもらえるはずだ。
 しかし喧嘩の内容は基本的にしょうもないものなのである。
 結局俺達は睨み合って姉が仕方なくといった風に眼を逸らす。

「ふふ、まぁ精々首を洗って待ってなさい――ワンコくん?」

 スゥッと髪の色が銀色に戻る。仮神化みたいな状態だったんだろうか。いつも通りフードを被りなおして今度は振り返る事も無くふわっと浮き上がった。
 そしてその人は音も無く姿を消し、舞台にはざわめきだけが広がった。



 キュア班で治療を受けてから俺の現状についてを説明する事になった。別に何も変わっていないと思うけれど、思い出した記憶の話をした。
 以前の神子の名前は思い出せない。ウィンド達と同じ状況かもしれませんね、とヴァンが言って多分そうなんじゃないかと頷いた。
 月の神子と星の王子だったと思う。星の王子は姉ちゃんの神子に対して俺が言ってたあだ名でしかないけど。ヴァンに訊いてみたがそうですね、以外は答えてくれなかった。ファーナに配慮したのだと勝手に解釈して俺もそれ以上聞かない事にする。
 記憶としては最後の記憶だけが鮮明にあって、他はおぼろげなのである。江戸時代後期の平民生活模様ぐらい微妙で思い出せない。テスト前に暗記する物だからなぁあれって。
 知らないなら知らないままでと持ちかけていたのはやっぱりヴァンだった。その何故を問うと

「この戦いの間はこの戦いに集中してください。戦が終われば、何を話す事も厭いません」

 と言われた。この戦いに集中しろというのは尤もである。
 結局ヴァン以外に知識源は無い。俺にあるのはシィルに齧られた事があるとかお姫様最初の料理が何か入り何かとかその程度の話だけだ。我ながら下らない事は良く覚えているものである。
 結局舞台で話した事以上の実のある話は出来なかった。

 俺の話が尽きた所で、アキの試合の時間が近いという話になった。腕の治療はほぼ終わっている。決勝の前にもう一度軽く術をかけるかと言っていたがその必要すらないだろう。グラネダのキュア班に治り過ぎてキモイと言わしめた肉体をなめてはいけない。自然治癒が早いというのは嬉しい物だ。
 グラネダキュア班と違って緩い感じなので俺は入院を断ってアキとアルベントの応援の為にコロシアムへと戻ることにした。



 お昼一番の試合はこの町で一番名高い英雄アルベント・ラシュベルが段上に現れるだけで物凄い熱狂に包まれた。
 一回戦は圧倒的な勝利だったらしい。ディオにはお疲れ様としか言いようが無い。俺だって真面目に対峙して勝てるかどうかなんて分かったものではない。今更ながらアキがその目の前に立つ事にハラハラし始めた。
 ただアキの人気も凄かった。これまた大歓声が沸き起こって声援が送られている。大会に残った紅一点がベスト4に残っているという状態が正に奇跡。それが更に人気に拍車をかけているのだろう。彼女ならばあるいはと思わせる試合でもあったのだ。

 試合開始の声はすぐだった。
 ブワァっと会場が再度沸いて、一層盛り上がる。

 ダンッと一歩大きく踏み出してアキの髪の色が変色した。ぞわっと軽く鳥肌が立った。仮神化は天才かつ、意思の強い人間にしかできないとヴァンに教わった事がある。

「うお! やっぱアキが白って新鮮!」
「うぅ、頑張ってくださいアキ!」

 何やらファーナは緊張しているようで妙に力んだ面持ちでアキを応援していた。

 ジャラララっと鎖の音と共に出現する大牙が見る見るうちに白く染まっていく。全身から白い淡い光のようなものがフワッと上がって消えている。マナの密度の高い状態になっているというのが分かった。その姿は見ているだけで息を呑む。神々しいというべきか少し小麦色に焼けた肌にその髪色は物凄く目立っていた。
 全力状態だと自分の所有物に侵食していくと聞いたけれどここまで凄いのは初めて見るかもしれない。思わず席を立ってうおおっと叫んでいると第一閃がぶつかる。
 ガキィッと甲高い衝突音が響いて、すぐに二発目の剣戟が飛ぶ。早さや強さは桁違いのようで、アルベントの半分ぐらいにしか見えないアキが力でアルベントに勝つという物凄い光景が見れた。
 何発か打ち合って最後の大振りを受けたアルベントは舞台の端までザリザリと音を立ててスライドする。思わず片手を付くほど滑ってハッと顔を上げる。
 すぐに飛んで来ていた大牙の一撃を避けて大斧を構えた。

「手加減してると、死にますよ――!」

 ――絶好調な滑り出しのアキに歓声が起こる。

「かっけぇー! 頑張れアキ!」

 俺も大声で応援する。それに応えてくれたのかヒュンヒュンと二回剣を回して真っ直ぐに構えた。逐一カッコイイ。その姿に何故か黄色い声が沸いていた。

「ふん、ただの小娘だと見縊っていたようだ」

 アルベント的にはグラネダの神壁<ハイランダー>と渡り合ったとしても小娘扱いだったようだ。まぁ負け扱いと言っても過言ではないし。戦いの勝敗ではなく、戦争を止めたという事実だけがあの戦いの戦果である。
 それにアルベントは命名持ちだ。そりゃ神壁に匹敵する戦士である彼がそう見るのも仕方の無い話なのかもしれない。
 しかしアキの強さはかなり純粋に上がっている。底力を鍛えて、更に此処から鍛え上げる要素を残している。そう、彼女にはまだ戦女神は付いていないし、竜神加護も完全に戻っていない。伸び代だらけで恐いぐらいだ。

「少しだけ本気を出すぞ」
「全力で無い事を後悔しないで下さいね」
「ほざけ――」

 ズガッ!!
 アルベントが蹴った舞台の端が割れて破片が飛び散った。
 直線ではなく曲線で、しなやかに素早くアキに飛び掛って斧を振り下ろす。
 ガッっと巨大斧が地面に刺さるが皹一つ入らない。飛び退いたアキにそのままグッと引き抜きながら突き出すように斧を振り、瞬時に飛び掛ってアキに大きく振り下ろす。
 その振り下ろす手が一瞬だけ赤い毛に覆われているように見えた。堪らず剣の腹で盛大に受け止め、真っ赤な火花が散るのが見えた。

「あれ――仮神化してる……?」

 今まで気付かなかっただけで、もしかして走ったり攻撃したりするほんの一瞬にそれを発動させるなんてシビアな事をしているのだろうか。

「何か見えたのですか?」

 ファーナに聞かれたので頷いて答える。

「ほんの一瞬、毛が赤くなってるように見えたんだ。腕のトコ。
 足はズボンとブーツで見えないから何ともいえないけど」

 一部分だけって可能なのか? まだ確証は持てないがやっぱり使っているように見える。
 ヴァンがふむ、と唸って眉を顰めた。

「……だとしたら、アキは危ないかもしれませんね。
 アキの一家は強さが大味ですから、細かく強くなれるアルベントの方が有利なのかもしれません」
「ど、どういうことですか?」

 ファーナが聞き返すと指を立てて丁寧な説明を始める。

「アキの仮神化時間は今も削れて居ます。
 長い時間あのままでいると良くないのは知っていますよね。竜を呼んでしまいますし、体力的にもよくありません。
 しかし細かく使えるとなるとその時間は飛躍的に伸びます。しかもコウキの言っている通り一瞬の話というなら彼は一日中だって戦っていられる。流石は名実共に歴戦の勇者と言わざるを得ません。

 対してアキは――あとどれぐらい持つでしょうね?」

 もしかしたらすでに絶体絶命のピンチなのかもしれない。
 キラキラと銀色に見える髪を揺らしてアルベントの猛攻撃を凌ぐアキに俺達は息を呑んで試合を振り返ってその様子を見守る。
 もしアキが同じ事を出来ないのなら――取るべき手段は必然的に決まってくる。
 それに気づくかどうかも重要だ。俺達には声援を送るしか術が無い。

「いけー! 必殺技だぁーー!!」
「アキ! わたくし達がついています!!」

 その声は――この歓声の嵐の中で届くだろうか。

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