第227話『浄化ファイア』

 分岐路の中心は少し広めだ。六人が立っていてもまだ全然広いと感じるぐらいだ。
 地下空間は何時も息が詰まる。長くは居たく無い場所だ。特に皆に見えてないものが見えてる俺は本当に倍の神経を消耗している。
「はぁ……」
「コウキ大丈夫ですか」
 真っ先に心配してくるのはファーナである。その台詞はもう何回言われたか覚えていない。
「うん、いや、うん……」
「ど、どっちですか……というか大丈夫じゃないですね……?」
「いやぁ、流石に床を叩きながらブツブツ言ってる声がずっと聞こえてるとなんか消耗するよな」
 和気藹々と過している俺達とは真逆に切羽詰まっている。
 神性2位とか言われてるぐらいだし頑張ればゴッドゴーストバスターパンチとか出来んのかな俺。炎陣旋斬あたりをぐるぐる振り回していればなんとかなるのかな……でもそれはどうなんだろうか。
「確かに……コウキにだけですものね。
 しかし、それならばやはり何とかしておいた方がいいでしょう」
「そうですね。コウキさんだけ妙に消耗しちゃうのもアレなんで。
 一番前を歩いて一番神経使ってもらってるはずですからね」
 ファーナとアキがそう言うと俺を見た。

「やりましょうか浄化ファイアとやらを」

 ファーナが立って部屋の中央へ向かう。俺とアキもそれに着いて行って俺はその亡霊に向かって手を翳した。ヴァンたちは通路の奥まで行っているので飛び火の心配はないだろう。
 何となく不意打ちしているみたいでやだなぁと思わなくも無いが、自縛霊であろうその姿にはジワジワと恐怖心を埋め込まれるような狂気がある。
「えい。浄化ファイア!」
 パンッとファーナが俺の背を叩いて叫んだ。パァっと俺の両手に術式線が輝いて巨大な炎の玉が出現した。自分が術を使っているみたいでこれは凄いと思う。
 ボゥ! と炎が直撃し、その霊が絶叫を上げる。

『ぐぎゃあああああ!!!』

 パシィッ! その声量に思わず耳を塞いだ。部屋中に響き渡って、付近の煉瓦にも皹が入った程の衝撃となって俺達に襲い掛かる。
『ジャマヲ――スルナァ!!』
 予想外。予想外の事態に驚いて俺はファーナに体当たりをするように掴んで、後ろへ引き下がる。
 何かが燃えている塊だった場所から炎の形が人型になって出現する。
「モンスター――!」
 ジャラララッ――! アキの大牙が出現し、同時にその剣を繋ぐ鎖の音が鳴る。ブンッとそのまま一撃が炎のモンスターを狩るが、スゥッとまたもとの形に戻っていく。
「ルー! 壁を!」
「カゥゥー!」
 ピカッっとルーの宝石が光って光り輝く壁が出現する。それと同時に俺もファーナを背にして剣を抜いた。
 しかし、それもスルゥっとあっけなく抜け出しす。
「キュ!?」
 その炎の中で見えないはずの表情が、ニィッと笑ったように感じる。ボゥっとその影を大きくして俺達の二倍ぐらいの大きさになる。
「な、何ですかあれ……!?」

 どうする――ファーナを背にしているから炎陣旋斬が使えない。かといって他の持ってる剣の物理攻撃はアキがやったように通じないだろう。
 考えている間に炎の人影が拳を振りかぶった。

 俺は部屋の隅に向かって飛び退いた。対角線上に飛び退いてしまったのは俺のミスか。他の罠のありそうな道に飛び退くよりはマシだと思ったのだが、すぐに逃げ道がなくなってしまう。
 その拳は振りかぶった後に炎を吸って大きくなり、身体半分ぐらいの大きさになる。

「ファーナ――!」
 そう叫んで、両手の剣を放す。
 同時にファーナがグッと俺の背中に両手を当てて叫んだ。
「炎月輪!!」

 円形武器炎月輪は、特殊な形の剣だ。
 その鉄はこの世の何でも無く、その特別さは命よりも尊いと言われる程貴重でもある。
 聖剣だなんて、言いすぎだろうなんて思っていたけれど――今その聖剣としての真価が試される場面である。

 バゴォンッ!!

 その振りかぶってから放たれた拳の衝撃に、炎月輪の面で受け止める事で自分の緩衝術式を発動させる。
 鉄以上に固いもん殴って痛く無いものか。普通の人なら痛くて飛び跳ねる所だ。――まぁ相手は亡霊なわけだけど――ピタリと俺の衝撃緩衝が全部の衝撃を流してお互いに止まる。そんな風に使うのは初めてだったが、案外行けるものだ――と思っていると目の前からその炎を纏った亡霊が吹き飛ぶ。
 ジャラッっと鎖がなって、アキの持つ大剣に白色の術式ラインが輝いていた。
 術式剣大牙。ヴァンが魔改造したその剣は術式収束のほかに単体で書かれている術式を発動させることが出来る。魔法使いの杖のそれと行っても良い。
 咄嗟に使えるなんて機転が利くな、と少し感心しながら炎月輪を双剣に変えて両方の切っ先を亡霊に向ける。
「ファーナ威力は強めで炎を連続で当てよう!」
「は、はい!」
 此方に襲い掛かってくるぐらいなのでやっぱり炎は効いている。倒れこんだ亡霊に剣の切っ先から集中砲火が始まる。
 ――ボウゥ――ボボボボボボボボ!!
 まるでマシンガンのように炎の玉が飛んでいく。それは爽快な光景だった。
『グオオオオオオオオオオ!!』
 叫び声もモンスターじみてきた。言葉すらも一気に消し飛んで言ったようで、その場でブンブンと両手を振ってその炎の玉を弾き始める。
「効いてる! 最後の一撃は強く行こう!」
「はい!
 術式:――新空の白銀の弾丸<カエルム・アーゼンタ・バレット>!!」

 炎月輪の切っ先が真っ白に、太陽のように光る。その光を眩しそうに手を交差して亡霊は怯んだ。
 弾丸系の術式はファーナが持っている術中でもどうやら威力が強く加減は出来ないというものらしい。でも最高にカッコイイ技だ。まさに必殺技と言っても良い威力をファーナだから持ちえる事になっている。
 皆眩しさに備えて顔を背ける。術士側には大きめの術陣が光を淡くして通すので狙いを外す事は無い。それでも眩しくて目に光の跡が焼きつく。余り長くは見ていられない――!

「発射<ショット>!!」

 ドンッ!! ファーナの宣言と共に風に押されるような衝撃が走る。眩しさも限界になって一度眼を閉じた。ズドォッと何かに当たった音がして、禍々しい気配は消えた。
 ゆっくりと目を開けると目の前にはもう何の気配も無く、燃え盛っていた炎も無い。
 プチブレスよろしく消し飛ばしたみたいな丸い空間があって、壁の砂が露出していた。
「……た、倒せましたか……?」
 ファーナがそう言って息を飲む。ファーナに動くなと言って炎月輪をもって警戒しながらそいつが居た辺りに近づく。

 ボゥ!! 何も無い場所から突然二つの緑色の火の玉が現れてそのままファーナに向かって飛ぶ。
 いきなりの事に全く反応できなかった。ヤバイ――!

 シャンッ――!
 甲高い金属が引っかかれる音に意識が行く。黒鉄剣、宝石剣が途端に赤い軌跡を引いた。彼女は咄嗟に俺が突き刺しておいた剣を床から引き抜いてそれを思い切り振り上げる。
 バシュゥ!
 その緑炎は双剣に掻き消されるように消えた。まるで双剣士のような動きだ、と感動したが剣に振られて少しよろけ、黒鉄剣がすっぽ抜けて背後の壁に突き刺さった。
「お、おお! 大丈夫か!?」
「は、はいっ! なんとかっ!」
 わたわたとしていていつのもファーナっぽい。
 剣を構えている時は別人のように感じたのだけれど、それだけ必死に頑張ったということだろう。剣が赤い軌跡を引くのはファーナの属性体質の強さのせいだ。
 後ろに刺さっていた剣が落ちそうになったので剣を投げて弾こうと振りかぶったが直前の所でアキがパッとキャッチして地面に突き刺す。
 アキとルーがファーナに寄ってカバーしてくれるようなので俺は調査を続ける。

 一応警戒しながら辺りを振り返り、元居た場所に手を触れるが何もおきない事を確認する。
「大丈夫っぽいね。やぁ、びっくりした」
「びっくりしたのは此方ですよ……」
 ファーナがため息をつきながら胸を撫で下ろす。
「無闇に除霊などと言ってやるものではないですね」
「今のが雑魚敵か……たしかにチョットやだなぁ」
「なるべくああいうのが居ても探索の必要が無いなら関わらないほうが良さそうです」
 ファーナにそう言われてしまうともうそうするしかないだろう。
 実際俺だけだと歯が立たない状態の敵である。

「おっと、意外とあっさり片付けてしまいましたね」
 そう言ってヴァンがゆっくりと歩いてくる。
「ヴァン! 手伝ってくれても良かったのに」
「別にそこまで苦戦する相手では無いと思ったので。
 リージェ様が活躍してくれて嬉しいです」
「うぅ、誇るべきなのか怒るべきなのか……」
 珍しくファーナが反応に困っている様子だ。術で乗り切った事を褒められているのは嬉しいが観光に徹されていた事が何となく癪、と言う所だ。それ自体は大体同じで皆で抗議の眼差しをヴァンに送るが
「皆さんなら大丈夫だと信じていましたので。特に不安な点はありませんか?」
 とにっこりと言われて皆で無駄に照れる。
「大丈夫だよ。探索に戻っていいよ。ここは俺らが守るし」
 それに頷くとヴァンはまた道を戻っていく。俺達はまた通路側に戻って大人しく待つことにした。

「さっきの身体捌き良かったよファーナ! 見直した!」
「え、ええとありがとうございます。
 その咄嗟でよく分かってなかったのですが、アキとの修行が効きましたかね」
 そう言ってファーナが照れながらアキを見る。
「ファーナ必死だったもんね〜、たった一日とはいえ、ねっ? ねぇ〜?」
「や、やめ、止めてくださいっ全然その、そんなっ」
 ファーナがアキに弄られている。微笑ましい光景だ。多分あの子達との旅で褒め殺しを体得したアキはファーナの弄り方が少し変わったなぁ。

「わたしさっきみたいな敵と戦った事ありますよ。
 モンスターリストに載ってました。亡霊術士っていって懸賞金的には普通でしたが、ダントツで厄介でした」
「え? でもどうやって倒したの? その修行中って確か術式も何も無い時期だったんだろ?」
 アキが話してくれた話だと、術式はゼロの状態からスタート。賞金首モンスターの退治が終わるまでは術式技は何一つ使えなったそうだ。全力で戦い終わったところで竜神様が竜虎火炎砲だけを使えるようにしてくれたんだとか。
 ちなみに竜虎火炎砲<ファイアブレス>はどうも俺とファーナが関係しているらしい術なのだが全く身に覚えが無い。本人がまぁ分からないなら分からないでいいんですよ、と嬉しそうだったのできっとそれでいいんだろう。
「ええと……その笑わないでくれます?」
 ちょっとだけモジモジと人差し指を合わせて動かす。
「笑わないと思うよ。よっぽど面白い事してなけりゃ」
「……その時仮神化の密度を変える事を覚えたんですけど、どうやら仮神化していると――殴れるんです」
 あー、となんか間抜けな声が出た。
 その反応はその反応で傷ついたらしくしょんぼりするアキ。
「あ、いや、あのカッコイイ白い状態だろ? アレは凄いわ」
 アキの白い仮神化。とても強そうなオーラを纏って相手を圧倒する。その使い方はアルベントの方が一枚上手だったようなのだけれど、それでもアキには純粋な“生まれ”の強さを感じる。――戦王<トラヴクラハ>の風格。
「はい。多分竜に近い状態だからか当たるんです」
 少し持ち直したようでちょっと照れくさそうに笑いながらそう言った。
「なるほど〜殴り倒したのか亡霊術士……」
 女の子にボッコボコにされるなんて……近接もうチョット頑張ればよかったって思っただろうな。
 アキは武器を持ってなくても全然強い。剣で無くても短刀や素手等も全然使いこなせている。そこに来ると俺は喧嘩的な作法と逃げるしかしないので、剣が無くなる事は割と致命的だ。そこでシキガミはアルマを内包しているという状態が俺の能力の底上げに大きく貢献してくれている事が分かる。
「別に今のもボコボコやってくれて良かったのに」
「だ、だって熱そうじゃないですか……。あんまりにもやりようが無ければそれでも良かったんですけど」
「あぁ……確かにね」
 ファーナの熱量のせいなのかやたらと真っ赤に燃え上がった幽霊は若干トラウマになりそうなほど怖かった。というか仮神化してても熱いものは熱いのな。

 俺達が雑談をしているとスゥさんが俺達を呼んだ。それに応えて俺達は通路ではなく
「……この状態に陥っている正解は、すべての道が発動している状態だからだ」
 右の道には死体だけ。ロードさんは結論を語った後靴を鳴らして一歩、右の道に寄って指差した。
「そちらの道の死体には傷は無かったようですが」
 そう、目に見える外傷が無い。血の跡がないと言うのがそれを示しているようである。
「……傷が無いという事は毒かなにかでの死亡と考えられる……辺りの石に穴が開いているのが分かるか?」
 ロードさんが指差した場所に、丁度手が入るぐらいの大きさの穴が見つかる。俺はパッと見しかみてなくてそういう細かい所は全く気付いていなかった。
「あ、うん。下のところに何個か空いてるね」
「……古典的な罠でな、あそこに毒性の強い生き物を入れてたいたようだ。
 ……いかにもそれらしい鉄の鍵をチラつかせる事で手を入れさせるのさ」
「こわっ!」
 ヴァンが一瞬で発狂したくなるほど苦しくなれる毒はあると言っていた。
 そういうのを入れておいて手を突っ込んで刺されたら終わりなんて、本当に怖い。罠を考えてる人ってホント凄いな。どんな脳みそしてんだよ。
 その道はそういう仕掛けで終わりだったようで次は正面の道の前に立つヴァンが奥を指す。
「そして血の跡と死体がある場所ですが。上から針が落ちてくる仕掛けだったらしいです。
 今はもう錆びたからか発動しなかったですね」
 この辺の罠はやはり地下迷宮のものだなぁと思う。
 人力臭い作りで、知恵を振り絞って作られている。
「そして此方は……恐らく、強力な虫が居たようです。サイズは蟻程度だと思われます。
 骨ごと綺麗に片付ける虫はそうは居ません。岩にも穴を開けると言う強い種でブラッググレゴという種が居たのではないかと推測できます」
 スゥさんが語る先はその血の跡以外何も無い空間で、灰色の石煉瓦が少し汚れている。
 すべての空間がそんな感じではあるが、ここは顕著に汚れているなと思った。
「聞くも無残な死に方してそうな罠ばっかりじゃん」
「……すべて無効化されているがな」
「それで、道は?」
「……此処だろ。キミがそう言ったんだしな」
 ロードさんは床を指差した。ガッとファーナとアキが俺の背中に隠れる。
 あんまり意味無いんだけどな……。
 何かこの道を開くヒントが欲しいところである。
 すべて発動済み、と言う事は探索は安全に出来ると言うことか。

 俺はまず毒穴の方を見に行く。
 ファーナに照らしてもらいながら穴を覗き込むと奥に鍵が見える場所が何箇所かあった。
 一応全部試すと一箇所だけその鍵を取る事が出来た。
 鉄製の少し錆びた鍵でなんだろう、鎖みたいな太さの鍵だ。
「鍵ゲット! これどこかで使えない? 反対側かな」
 次は蟻の巣のような穴が開いた壁を調べる。無数に穴が開いていて真面目に視覚に捉えるとぞわっと鳥肌が立つ。どうやら壁は焦げているらしい。確かに虫類なら焼けば一網打尽に出来そうだ。そういう事をやった術士がいたのかもしれない。
「しかしまぁ無いな」
 ルーメンがスンスンしすぎてクシャミをした以外何も無い。ルーいわく蟻の臭いが薄っすらするだけでやはり何も無いそうだ。
「ん?」
 アキが何かに気付いたようで、ナイフを抜かずその柄でガツガツと壁を叩いた。すると穴だらけで脆くなっていた場所が崩れて何か鉄の塊が現れる。
「これ鍵じゃないですか?」
 アキからそれを受け取って掌の上で並べる。確かに同じような形と大きさである。問題は鍵穴を見た事がないと言うことだ。
「鍵二つめゲット!」
 ピロリーンと自分で適当な効果音を言った後にその鍵はスゥさんに預ける。
「次々ー!」
「コウキが段々ノってきましたね」
 今や絶好調である。その言葉を受けて過剰反応気味に振り返ってみた。
「探索と鍵と謎は迷宮の定番だろ!?」
 ぎゅん、と無駄に勢い良くヴァンを振り返ると何時ものように笑った。
「はっはっは、セオリーと浪漫ですね」
 そう、きっとこういったギミックになんか実は滅多にお目にかかれるものではない。法術トラップは多々あるがギミックとして用意するのはもう昨今ではありえないらしい。きっともう人間認証術式とか出てきてハイテク化しちゃうに違いない。

 最後の場所はギミックが発動しない場所である。穴がある床の上には棘のついた鉄板がぶら下がっている。どう考えてもこれは落ちてくるだろ。しかしロードさんが真下に立ってみた所罠は発動しなかったそうだ。感圧式のギミックだと思われるが――動かないと分かっていても踏むのはいささか怖い。
「上にしっかりはまり込んでるようにみえるけど……本当にこれ動かないのか?」
 というかこんな道の一番奥に仕掛けて効果あるものなのか?
「まぁ両方がアレですからね。入り口側に何らかの仕掛けをしておけばここに入って調べざるを得ない状態も出来たんじゃないでしょうか」
 ヴァンが言うとおり閉じ込められたりすれば確かにここを調べないといけない状態も起きたんだろう。
「ヴァンは詳しいなぁ」
「作る側にもなってみれば良いと思います。どうやって詰めるかを考えるのは楽しいですよ」
「うん……まぁそんな事考えなくて良いように頑張るよ」
「ふふ、残念です」
 確かに乗ってみると足元でガシャガシャ音がするが特に反応は無い。
 床は上の針と同じ形の穴が下に開いているだけのようだ。
 なんとなく見上げると針の一番奥に窪みがあり、そこに黒い何か変な形があるのが見えた。
「お? あれ鍵じゃね?」
「本当ですかっ」
 そう言ったアキが一歩進むと、ガゴンッと足元がやたらといい音で何かにはまったような音がした。
 それと同時にガシャン、と音を立てた天井が一気に近づいてきた。

 ガシャァンッッ!!

 巨大な音が響いてキシキシと揺らめいた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「お、おお……! 生きてる!」
 どうやらアキが大牙を壁に深く突き刺して止めたようで、ギギっと不安になる音を立てている。
 俺は咄嗟にしゃがみこんだがそのお陰でどうやら針に当たら無くて済んだようだ。ごそごそと姿勢を変えて、鍵だけ取り外してズルズルとその隙間から這い出す。
 ズルッとアキとヴァンに引っ張り出されて助かった、と一息ついた。アキが剣を消すとズゴン、ととても重い音を立てて天井が落ちる。
「どうやら発動しないのではなくて、一人で乗るとしないだけのようでしたね」
 ぱっぱと汚れを落としながらヴァンの話を聞く。確かに俺だけがごそごそしてるぐらいだと発動しなかった。それが荷物を持ってないロードさんなら尚更動く事は無いだろう。
「すみません、わたしの不注意で……」
 アキがそう言うが俺はそれに首を振る。
「いや、これはわかんないししかたない。ナイスカバーだったよ、ありがと!
 でも荷物持ってると俺一人で結構あるのに……」
「わたしは重くないですよ!? 重くないんですよ!?」
 そのアピールは必要なのか。肩をつかまれてワシャワシャと揺らされながら笑う。ファーナとアキの二人を抱えた事があるけど二人ともあんまり重くないんだよね。

「と言うわけで、鍵が三つ、ですね」
 スゥさんの手に預けたのが二つ。さらに今一つで三つの鍵が集まった。多少ハプニングが会ったが、生き物系が絶滅しててくれて本当に良かった。
「……鍵は見つかったか」
 道を戻るとロードさんが床に座り込んでいた。丁度さっき亡霊の人が居た場所で、その床の煉瓦をいくつか引っこ抜いている。
 どうやら彼女はそこに残って手がかりを探していたようで、その下にその鍵穴がある事を突き止めた。
 鉄板が見えていて、どうやらそれは三つの鍵を要求しているようだった。なにやら図柄で何かを示されているようだが俺には分からない。ロードさんは分かっているようで迷い無く鍵を突き刺して、一気に鍵を回した。凄く何気なくやって見せたけど凄いなロードさん。
 ゴォン、と何かが動き出すような音がして――部屋の中央から少しずつ床が下がっていき階段が出現した。無駄に難易度が高い罠だったが一体この先には何があるのだろうか。
 俺は油断しない事を心に決めて、ルーと並んで慎重にその階段を下り始めた。
 長い階段で、少しループしてるんじゃないかとかをうたがってみたが別にそんな事も無さそうだった。灰色の空間がその先ずっと続いた。体感の時間にして数時間。ずっと真っ直ぐでずっと灰色の階段。脇道も罠も無く、時折ある踊り場で何度か休憩をしながら長い階段を下りた所で道の先に明かりが見えた。
 まるで人生のような階段でしたねとヴァンに笑われたが正直長すぎて心折れそうだったので逸る気持ちを抑えつつその階段の終わりへと慎重に向かった。だってヴァンが後ろで、出口付近には罠を仕掛けたくなりますよねって呟くんだもん。ホラー映画でそんなのがあったのを思い出してゾッとしたよ。
 まぁ光っているって事は何かしら光るものがあるということで、ここで光るものがあるといえば人がいるんだろう。ただ少し変に思ったのはその光は松明や照明ではなく――太陽の光のように見えた。皆それに気付いて息を飲む。

 階段を下りきった俺達を待ってくれていたのは意外すぎて信じられない光景だった。

前へ 次へ


Powered by NINJA TOOLS

/ メール