第232話『遠吠え』

「ぷっはっは! まぁ、急くなタケヒトよ。
 主ぁカッとなると考えもせずに結論を出すのが良くない。
 折角強い腕っ節が泣くぜ?」

 カラカラと笑い声が響いた。まるでこのときを待っていたかのように晴天の日が雲間から差す。
 ナナシがその身を持ってタケヒトの剣を受け止めて、アスカの目の前で止めていた。
 体の半分まで剣で貫かれていて、尚健常かのように振る舞う。

「女を斬る時は道理を通せ。
 てめぇの馬鹿を、押し付けるな。
 分かったか?
 今のお前は誰かのせいにして刀を振ってんだ。
 それはてめぇの魂だタケヒト。

 迷ったまま女に振るなんざ己が許さん」

 それは責める様な口調ではなく、教えるような口調だった。

「……どうすりゃいいってんだ」
「……そいつを、自分で考えな。
 てめぇの女の為か、てめぇの為か。
 言われた事をやるんなら餓鬼でもできる――ゴホッ。
 てめぇは成すべきが何かを見てねぇ」

 ずるり、と剣を押し返してあっという間に血が服を染める。
 ナナシが血を見てから一瞬まるで今から戦うかのような鋭い視線に気圧されて一歩後ずさった。

「ハァ、全く――つまんねぇことしちまった、なぁ――」

 後ろに倒れ掛けて、踏ん張るようにして前のめりになった。
 その後ろで怯える四法さんは、その様子に小さく悲鳴を上げる。

 動揺した。自分の答えじゃないと言われて剣が鈍った。
 どんなに固い岩だろうが真っ二つに出来るようになるまで、愚直に剣を振っていたというのに。

「タケヒト! 成すべきはこの戦いの勝利! 戦いの頂点だ!」

 シェイルが言う。本当にそうなのか? 疑問を持って動揺してしまっていた。
 キツキはそうした。
 そうしなかった奴が居る。
 オレはどうしたかったんだ。

 オレはただ強くなる事だけを考えてた。

 それは簡単な話で、この戦いに則った合理的な思考だ。
 最も特化しているのがキツキで甘い部分を全部捨てる所まで徹底したやりっぷりだ。
 オレはと言えば答えを出さずに奇跡を待った。

 この戦いの先は知れている。
 考えないようにしてはいるものの。終わった先に何も残らないなんて事はオレにだって分かった。だってそうだろう、全員で殺し合いで、俺達は道具。
 用が無くなればオレはお役ゴメンで消されるのだろうし、シェイルもそうだ。器と言われるからには、彼女が彼女として生きる事は無いのだろう。
 じゃあオレが守ってるものって何なんだよ。

 無意味に進むだけの戦からは目を背けたかった。

 それでも勝たなければ。
 本当に何も残らない。
 俺達が戦った意味でさえ。

 だからオレは再び剣を掲げる。


「おおおおおおおおおおおおおおお!!」


  ドンッ――!!

 急に視界が揺れて横向きに宙を舞った。
 いてぇと思った瞬間に何が起きたのかは理解した。

 本当に大事な時に、タイミングを外さない。

「何やってんだタケェーーーー!!」


 赤いコートが舞ってアスカ達とタケヒトとの間に現れた。
 いつも都合の良い所に呼ぶ。そして現れる。


「い、いぢがみ゛ぐっん……!! ファーナぁ……!」

 ボロボロと泣き始めるアスカをファーネリアが介抱する。

「アスカっ! 傷がたくさん……! ヴァンツェ、治癒をお願いできますか」
「ええ。お任せください。さあアスカ此方へ。ロードはキツキを――そちらの重傷者です。彼をお願いします」

 チラッと神子が顔を埋めて震える姿を見る。
 重傷者のキツキは喋りはしなかったが冷静にコウキ達の姿を確認していた。

「さすがシキガミですね。生命力は称賛に値します」
「……それほどでも」

 喜月は生きている。そしてこれから彼らが治してしまうのだろう。
 唐突に来たそいつらに困惑する。
 そして――唐突に、怒りがこみ上げてきた。




 久しぶりのように思えたプラングルの空を飛んで。
 俺達が現れたのは快晴のアルクセイド。

 その都にかつての面影は無かった。
 瓦礫の山に巨大な傷跡。いわゆる爆撃に匹敵する術式の打ち合いに城が耐え切れなかったのだろう。例えばグラネダなら城や城壁には対法術衝撃緩衝の術式が書いてあったりするのだが、シキガミはその枠を超えるような大出力の術式を行使できる。シキガミ同士の戦いはまさに大戦争だと言っていいのだ。
 傷跡が大きければ大きいほど、心が痛む。国のシンボルが無くなった今――この国は壊れてしまったのだろう。
 俺達が居ればどうにかなった話ではないだろう。むしろ俺達が参加してもっと酷い事になってなかったことを喜ぶべきなのだろうか。

 タケに立ちはだかった俺の背後は大変だった。
 明らかに両足が吹っ飛んでて何時死んでもおかしくない顔色のキツキと泣きじゃくる四法さんとラエティア。
 見ただけで状況は最悪なのが分かった。

「馬鹿野郎!!
 何喧嘩してんだ!!」
「なんだよ……今更来てヒーロー気取りか」

 怒りの気を満たせてタケが言った。
 俺が遅かったからだ。それは認めざるを得ない。
 全てが終わった後と言ってもいい。コレだけ大きな戦いになったというのに、俺は何にも関与していないのだ。

「折角シキガミ全員助けられるかもしれないのに!」


 タケヒトは顔色を変えず、そういうだろうと思ったとため息をついた。
 予想外の反応に驚いたのは俺の方で焦って二の句を継ごうと口を開くとシェイルさんに遮られた。

「お前は何様のつもりだ」

 偉そうにしていた覚えは無いのだが――何様かと問われたと言う事は俺は何か癪に触る事をしたらしい。
 鬼のような形相のシェイル・ストローンは初めて会った時と何ら変わっては居なかった。

「……少なくとも普通のシキガミ様じゃないね。
 つか何てったって生きてるんだ。
 俺達に意志があるんだから反発だって生まれるだろ。
 王様にだって人は反乱する。
 正しく無いとか不公平だとか。
 話しあいで済めば良いんだけどさ。
 当の本人が顔すら出さないなら行くしかないだろ」
「神に逆らうなど……!」

 この世界でも神は当然神として神聖な触れてはならないモノである。
 崇め奉り、この世界の生を得た者として生きていく――。
 神様は俺達の世界よりずっと近い。それはいいことだ。存在や加護を信じられる。毎朝熱心な信徒達が大聖堂一杯に居て祈る姿を俺は忘れられない。
 俺はこの世界のあり方を否定したいんじゃない。否定されているのは俺達なんだから――。

「俺達の人生は、この戦いの先には無いんだぞ!?
 例えタケが勝っても、二人の人生はその先には無いんだ。
 前回勝った俺が、他の人は生かしてくれってお願いしてやっと一部の人たちが生きただけ。
 神子とシキガミの記憶も無くなってたらしい。
 どうしてか? 本当は居なくなるはずの人だったからだ。
 そもそも俺達に関しても居ないはずの人間だしね。

 そんなことを延々と繰り返す事になる!」

 俺の声はタケに届いているだろうか。
 まるで感情はもうないかのようにタケは動かないし、敵意もそのままだ。

「タケヒト! コイツを殺せ!」
「タケ! 俺は嫌だぞ!」

 シェイルさんと俺の声が被る。
 タケは一度まばたきをして、剣を構えた。
 仕方が無い。俺も剣を抜いて構えた。そうしないと、多分本当に死ぬだろうから。

「はやく! コイツは!

 世界を壊そうとしている!!」


 シェイルさんが俺を異端者を摘発するかのように叫ぶ。
 途端タケが瓦礫を蹴って俺の方へと飛ばしてくる。

 俺が背にしているのは治療中のロードさんとキツキ、そして四法さん。
 その瓦礫を受ける必要がある。

 次の攻撃の為に振り上げている剣が見える、あれを受けると死ぬ――!

「術式:黄昏の紅蓮の弾丸<アドル・イグニス・バレット>」

 動かなかった理由は二つある。後ろに守らなきゃいけない人が居る事とファーナの詠唱が聞こえた事。
 肩口を掠めて炎の弾丸が瓦礫に直撃する。瓦礫を消し炭にして突き抜けてタケヒトの手元へ一直線を描いた。手元を狙われたら当然剣筋を変えざるを得ない。ファーナの出すアレに焼かれたら手なんて残らないからだ。
 ファーナは俺が動かない事を知っていたかのように狙い打った。タケは行動を変えて剣を早めに振り下ろす。スパァッと弾丸が真っ二つに割れてタケの剣に熱い線を残して霧散した。

「コレは神子とシキガミの戦ですコウキ」

 ファーナに言われて、頷く。俺が今避けなければならない戦いだ。
 でもタケの剣の切っ先は俺に向けられていて、神子共々戦闘態勢である。

「お前は……」

 タケが口を開いた。
 熱を持って陽炎に揺らめく剣を持っているのに熱そうな素振り一つ見せない。俺やファーナは加護持ちだから、基本的には熱には強いのだけれどタケは鍛えた肉体だけで耐えている。
 此処に来た頃に比べればずっと体は鍛え上げられている。筋肉の量は明らかに増えているし肉体のバランスは完璧だと言っても良いと思う。
 シキガミが“普通に体を鍛える”事は一番脅威になる。
 このプラングルでは加護という力が働いている。その上での肉体の扱いに慣れる事がもっとも重要だ。
 地味なロードワークが得意なタケが一番強いと思っている訳はそこにある。
 どんな策を組み立てられても、対応して負けない体を作ることは脅威だ。

「コウキ、お前……! オレ達がやってきた事を!

 何だと思ってるんだ!」

 努力で積み上げられた最強。これほど怖いものは無い。
 タケは憤って斬りかかってくる。

 タケが怒っているのは何か。俺はそれを理解する必要がある。

 一閃を掠めるようにいなしてなんとか避ける。タケの剣に関しては本当に方向を少しずらすのが精一杯だ。振り下ろしは片手だがアキ並みの巨大剣は俺の片手剣とそう大差無いスピードである。
 右手と左手を持ち替えてすぐに切り替えしてくる。軸になっている手が変わってすぐ

「強くなる事とかの事か? それもと試練?」
「どっちもだ! オレ達がどんな思いで越えてきたと思ってるんだ!
 何だよ今更! 全部無駄にする気だろ!?
 必死に剣なんか振り回してたと思ってんだよ!
 何でここまで体鍛えたと思ってんだ!
 今まで何を犠牲にして……! 此処に立ってると、思ってんだよ……!」

 きっと俺はタケのやってきた事を知らな過ぎる。
 でもこの惨状の上に立って――この戦いは、知らない事にしようだなんて言えない。
 かといって、名乗り出て責任が取れるとも思えない。どうせ糾弾されて処刑だ。法があろうが無かろうが関係なくそうなる。
 俺たちはとっくに人の死の上に立って生きてる。
 責任を取るべきが正しいが、後の在り方を俺に問われても正しい答えが出る気はしない。
 当に取り返しが付かない場所に立っている。
 考えるとドツボだ。この顛末をどうするかはいずれ決めなくてはいけない。

「オレはさ……その消えるってので正しいんじゃねぇかって思えてる。
 神子とシキガミはこういう存在だ。
 爆弾じゃねぇか。あっちゃいけねぇ」
「力は使い方次第でなんでもなるだろ。
 やってきたものを完全に捨てるわけじゃないしさ、むしろ結果を知ってるからそうしたいんだ。
 それに消えるって言っても一時的だろ?」
「簡単に言いやがって」
「簡単じゃないから一緒にやろうって頼みに来たんだ」
「いいや、軽いねお前は、いっつも!」
「そうかもしれないけどさ。
 こんなんでも真剣だし!
 やりたい事は言わずに居られない!
 皆みたいに俺は偉くないし、我侭なんだ!」

 俺の性分になってしまった。
 辛くても笑って過そうって、何年も前から自分の中で決め込んで。
 出来上がった俺がこの姿である。

「俺が死ぬ事より腹が立って仕方無いのはさ!」

 俺は無防備にタケに近寄る。
 ファーナから離れていると言ってもいい。
 タケは俺に剣先を突きつけた。喉元に切っ先があるのは落ち着かない。
 それでも俺の激情は熱を増すばかりだ。

「神子が当たり前みたいに生きる事を諦めてるってことだ!」

 今の間だけの命だって知っていて。
 当の昔に諦めたかのように、進もうとしている。

「生きるってそうじゃないだろ!!」

 心の底からそう思う。病気を患ったら直そうとする。
 ファーナは先を生きたいと思っている人間だ。グラネダの事を色々と考えて、意見を纏めて議論して。そう言う事が出来る人間だ。
 “無理だ”と思って抱え込んで黙って消えていくつもりだった。

 タケの感性は一番俺に近いはずだ。
 一緒に馬鹿な事やってくれたし、お互いに信頼はあった。
 結局この世界で一番信用して一緒に戦ってくれてるのもタケなんじゃないか。

 言葉よりは熱意を伝えなきゃいけない。
 どうだったかじゃなくて何をするかを伝えなきゃいけない。

「頼む! タケ!

 俺達と一緒にこの先を生きる為に戦ってくれ!!」


 細い細い希望の糸を辿っていくことになる。
 この先は第三位世界と第二位世界を通る必要がある。
 ドラゴンの住処と、ラジュエラだらけの世界だ。今から緊張して冷や汗が止まない。

 でも俺は全部助けるって決めたんだ――!



 俺の叫びに一つ息を吐いて――タケヒトはゆっくりと剣を下げた。一歩踏み込めば殺せただろうが、もうその気配は無い。

「……シェイル。
 やっぱ俺はコウキの意見に賛成だわ」

 興が殺がれたと言った風に頭を掻きながら、タケはあっさりと剣を引いた。
 シェイルさんは色々と考える所があるようで顔を伏せて暫く黙っていた。

「タケヒト」
「……なんだよ」
「黙っていたが、我等はずっと自分が死ぬ運命を知っていた」

 俺がいった事を辿るようにそう言って彼女は頭を下げた。きっとそれが彼女にとってのお詫びの言葉だったのだろう。

「だから必死だった。
 せめて転生をするべく、醜くもがくのが私の生だと思っていた」

 それが神子とシキガミの戦だ。

「タケヒト」

 彼女は顔を上げてタケと目を合わせた。

「お前は」

 向かい合って、確かめるように彼女は言う。

「そんな事は無いと……言ってくれるのか」

 シェイルさんの声が揺れた。
 強気でいつもぶれない強い声をした人が始めて弱々しい女性のように見えた。

 タケは息を大きく吸った。

「当然だ!

 生きてくれシェイル!!」


 清々しいほど大きく響いて、呆気に取られた彼女は暫く瞬きも忘れたようにタケを見た。
 ビリビリと響き渡った声に驚いたのは俺たちも同じだ。
 あまりのカッコよさに痺れたぜと声をかけようかと思ってやめた。俺は今言った事について向き合わないといけない人が居る。
 俺が振り返った時に、ファーナは笑っていた。



「お疲れ様です」
「疲れたよ。気分的に」

 実際には殆ど動いてないから、緊張が解かれただけの疲れだ。
 タケが仲間になってくれたならやっとスタートラインに立てたような気がする。
 勿論俺が真っ先にタケの名前を指定して飛んできたのはタケを最初に仲間にしようと思ったからだ。本当は最初みたいにぶつかり合いになると思ったんだけどお互いの不安は同じものだったようだ。

「言い訳をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「いいよ」

 ファーナの言葉に何となくむすっとしながら答えるとアキが俺達を見て面白そうに笑った。直接ファーナを怒らない俺がおかしかったのか、それとも言い訳をする側のファーナが妙に落ち着いてるのがおかしいのか。
 何にせよ手順がおかしい状態が面白く感じたのかもしれない。

「まずは謝らせてください。
 わたくしは貴方に全てを話してはいませんでした。
 ……いつ気付いたのですか」
「気付いたのは色々記憶が戻ってきてからだよ」
「そうですか」
「でも知らん振りしてようとは思ってた」

 どうせ言ったとしても無意味な話だったんだから。俺の中で留めたって問題は無いはずだ。

「コウキさんはすぐ口走っちゃう印象がありますけど」
「俺だって人並みに秘密は守れるんですぅ」
「結局言ってしまいましたけど……」
「いやぁスッキリした」

 アキが何気に失礼な事を言うが俺は腰に手を当てて満足げに息を吐いた。
 意識していなければどうと言う事は無いのだ。忘れていれば無いのと同じだ。
 でもタケとシェイルさんは同じものに縛られている事に気づいたから、俺の中で何かがはじけた。

「貴方はわたくしの事を怒っていますね」
「まぁ」
「どうしたら許してもらえるでしょうか」
「……秘密は誰にでもある事だろ?
 相談しづらいもん。俺だって自分の命を相手に背負えって言うのは辛いから何も言わないよ」

 いつかこの事は、まぁいいやと言えるようにならなければいけない。
 ファーナがすみません、と言って目を伏せた。

「ファーナは悪い事してないと思いますよ?」

 アキがファーナを庇うように彼女に後ろから抱きつく。ファーナはその手に少し笑って、罰が悪そうに自分の手を沿えた。俺だってそう思ってる。

「……いえ……わたくしは何度も貴方がたと死線を越えています。
 もっと信じても良かったのです。
 ただやはり、この先どれだけ戦ったとしてもわたくしに訪れる死は避けられないなら。意味は無いと思ったのです。
 わたくしは貴方に感謝していますコウキ」

 ファーナは悲しそうな表情になっていた。
 俺がファーナに不信を抱いているのだと思われたのだろうか。
 流石にばつが悪くなって、一瞬だけ空を見上げてからまたファーナに向き直る。今思いつめるような話ではないのだ。

「もし俺が怒る事があるなら、終わった後に、ものすごいドヤ顔で怒るよ」
「それは――とても面白い光景なのでしょうねっ」

 その言葉にファーナは笑ってくれた。俺はその話は此処までにすることにした。
 だって俺たちは似たもの同士。辛いとか、苦しいとか、そういう弱音は吐きたくない。それは自分で何とかするべき事だ。
 そういう風に抱え込む。だから俺は間に合ったことだけを安堵することにしている。

「……何となくですけど、今みたいな状態のコウキさんを何度か見てる気がするんです」

 アキはうーんと首を傾げた。
 何も不思議な事はなくて、こんな気分になるのは何も初めてじゃなかった。

「だってアキなんか黙って出てくの常習犯だろー」
「あ、やぶへびでした」

 俺の言葉にしまったと言う表情をしたアキが目を逸らしてから逃げようとした。

「弁明をまだ聞いてませんね」
「あぁぅ、ファーナ放して〜っ」

 添えていた手で掴んで放さないようにしているのはファーナ。二人が嬌声を上げてじゃれあう平和な姿に癒されながらふぅっと一息吐いた。
 どうせ皆、言いたくない事や言えない事は抱えている。誰にだって秘密にしておくべき事は存在するはずだ。
 それに一つ、文句を遠吠えしてみただけ。

 俺の――いいや、俺達の声を聞いて。
 受け入れてくれたのなら。それが最も喜ぶべき事だ。

 俺は再び皆を振り返った。

「よし! みんな!
 作戦会議ぃ!
 俺たちはこれから“世界”を渡って“世界の檻<プラングル>”に辿り着く!」

 新しい未知の一歩を――踏み出す為に。
 俺たちは今、此処から本当のシキガミの役割を果たす為に――新しいシキガミになる話を始めた。

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