第235話『超竜虎火炎砲』

 暖かい夢を見た。
 太陽の下で、眼を閉じているような。自分は寝ているのだと気付いたのは少しそのままぼやけた景色を眺めていたからだ。
 暖かい空気、暖かい風。自分は誰かに抱き付いて眠っている。それは多分コウキだろうとすぐに目の前のぼやけた物体に赤い色を付けた。
 手を繋いでいる。これはコウキとアキ。
 三人が連なる夢の中に、恐怖は無い。ただ静かに時間が過ぎる。


 夜中に少し眼が覚めた。なんだか熱い、と少しボタンを外す。目の前の彼は姿勢を変える事なく規則正しい寝息を立てている。
 両手は既に何も握ってない。何となく、右手は彼の枕の下に差し込んで、頭を抱え込むような姿勢になって寝なおす。そう、全ては寝ぼけて、何となくやったことだ。すぐに眠気がやってきて、眼を閉じる。


 なんだか寒い気がして目が覚めた。少し布団から出かけていたようだ。今は暖かい物が中心にあるので其方へと体を寄せる。彼が起きたのか腕を頭の後ろにやってくれた。更に体を密着させて、暖かさを感じる。暖かくなると瞼はすぐに合わさってきた。一番近くで熱を感じる。それはきっと――幸せな事。


 確かに俺は布団に包まれて寝たわけである。ただ今朝の布団は妙に重い。
 目を開ければほら、肌色が見える。というか、アキが八割ぐらい俺を下敷きにしていた。
 ファーナも俺の右手を枕にしていて俺に密着している。手が下腹部に乗っていて割と危ない位置にある。
 意外と寝相悪いというべきか。なんかいろいろ良くないこの体勢……! 脳内で変な雄たけびを上げてから目を見開く。脱出しよう。
 ファーナにしていた腕枕をそっと抜いて、アキを移動させる。顔の上をむにぃ、という感触が通って行った。
 軽く思考が停止した。
 ……おはよう! 俺!
 そして俺は迅速にアキとファーナに挟まれた状態から脱出した。
 主にアキを転がして俺の居た場所に寝かせただけだけれど。すぐにファーナを抱き込んでスヤスヤと寝入る。
 そういえばアキのパジャマボタンが八割ぐらい空いてたけど、暑かったんだろうか……。別にまじまじと見たわけじゃない。顔が轢かれただけで他はどうと言う損傷は無い。強いて言えばファーナが今同じ目に合っている。次に起きるのはファーナだろうなと思う。
 俺が起きるとルーメンが顔を上げたが、すぐに頭を下げて寝なおした。
 何事も無い清々しい朝を迎えた。多分俺は夢のような幸せの最中に居たんだろう。しかしそれは夢の話。ああ、全く。二人して無防備すぎるだろ。
 忍び足でそっと部屋を出た。
 部屋からタオルを持って水場へと繰り出すとタケが先客に居て顔を洗っていた。
 このやり場の無いテンションをタケと朝練する事で発散しようと決めて、朝の挨拶を投げかけた。




 正午を回り正門を出て少し歩いた後、人気の少ない地域へと飛んだ。
 良く知らない地名を叫ばされた。絶叫する俺をみて、タケに恥ずかしい奴めと突っ込まれた。今度やらせてやるよ、と笑い掛けておいた。
 その空の旅を一番嬉しそうにしていたのがラエティアで、自分の力以外で飛ぶ事が本当に面白い感覚なんだそうだ。俺達にとってのお馴染みになってしまったこの移動方法だが当然ほかの人が目にするのは初めてのはずだ。

 乱暴な着地に驚いて変な声と共に翼が飛び出してキツキに抱きついたティアに皆の視線が集まった。彼女はそのままバフバフと物凄い風を巻き起こして二メートルほど飛び上がると、ゆっくり下りてくる。
「ティア、大丈夫だって」
「意外とチキンハートだったりするの?」
「こ、こんなの誰でもビックリするよー! もー!」
 バフゥと羽で叩かれているのか仰がれているのか分からないが金色の羽がペシペシと俺の顔に当たる。
 そうか、ティアは飛べるもんな。衝撃緩衝のこととかあんまり分かってないのかもしれない。
「シキガミ任せなんて乱暴じゃないですか?」
 キツキがティアを落ち着かせながらヴァンに言う。
 多分キツキ自身もティアの翼に任せて居たのだろう。羨ましい……。
「我々は翼を持っていませんから、どちらかと言えば普通と言ってもいいかもしれませんね。
 まぁ私が改良してもいいんですが、今はこのままが面白いと思うのでそうしているんです」
 ヴァンは飄々とそう言って、視線を上げた。
「まぁそれに、ここならクレーターの一つや二つ増えてもどうと言う事はありませんしね」

 俺達が降り立ったのは荒野だった。穴だらけで草も余り生えていない。風が吹きぬけると思わず眼を閉じた。確かにここは呼ぶのにうってつけかもしれない。

「ここ……もっと大きくて高い山だったんですよ」

 そう言ったアキが遠くを見るように目を細めた。
「知ってるの?」

「はい……ここは――」

 遠くですらない。彼女は記憶を見ていた。

「竜士団の終わった場所です」

 ここにはもう何も無い。
 トラヴクラハ竜士団が解散し、ここで新たにゼットという新団長を迎えた一団が誕生しようとしていた。その終わりを見た、数少ない生き証人。アキが静かに景色を眺めた。

「あぁここです。ここでわたしのお母さんは……」
 そう言ってちょっと歩くと大きく抉れた場所へ歩み寄る。そこは大体三メートルほどの幅があって人一人は余裕を持って入れる穴だった。
「もう凄かったんですよ。赤い頭が巨大な岩が振ってきたみたいに地面にぶつかって、凄い音がして」
 彼女は真剣な顔をしていたが俺達を見回してはっとして笑う。
「すみません、そういうのじゃなくって。その。
 悲しいとは思いますし記憶もいいものではありません。
 終わった事を悲しんでも今更過ぎますから。
 そんな事があった、わたし達竜人と呼ばれる人間でも、いとも呆気なく竜には負けたという事実を知って置いてください。
 決して気を抜いていい相手では無いと思います」

 彼女は無表情よりは少し難しい顔をしているように思うが、それでもあまり感情には出そうとしていないようだった。
「無理に思い出さなくていいですよ」
 ファーナが小さく首を振ってアキに言った。
「ファーナ……ありがと。悲しい気持ちにはなるんですけどね。
 遠い話でもありますし今更どうこう言っても何も起こらないのが事実です」
 アキは俺達を振り返る。そしてちょっとだけ頭を下げた。
「少しだけ黙祷をさせてください。ほんの少しでいいですから気持ちを汲んでから、竜に挑みたいです」

 そう言ってから一同が頷くと彼女は少し微笑んでからその穴の前に座った。ファーナがそっと並んで、一緒に祈る。ファーナがやると途端に何かの加護を帯びそうだ。
 そこにあの人は居ないけれどせめて、あの日此処で散った人たちの手向けになれば。

 一分程度の黙祷を終えて二人が振り返る。それに頷いてから俺は皆を見回した。
 ついに始まる――最期の試練。皆が決意を秘めた、表情で頷いた。



 さながら竜の巫女様だ。皆に見守られるアキの姿を見てそう思った。
 竜を呼ぶために彼女を利用するというのは心苦しいのだが――。
 もっとも近い道を創れるのは彼女のような“竜人”だ。ただし本来俺達が割って入る事は出来ない。

 俺が割って入るにも難しいらしく、降臨している間に動く事が許されるのは竜人だけであとは時間が止まったかのように動かないし、竜達の行動の干渉は受けない。何が起きたか分からないまま、アキが居なくなるという可能性もあったのだ。
 しかし今回は何が何でも付いていく必要がある。

 血の盟友<エンブレム・ブラッド>はアキへの大きな負担が懸念された。俺たちシキガミが特定人物の血を飲み、ある呪文を唱える事で一時的にシキガミの能力を得る事が出来るという魔法である。何故魔法かというと、この術はカードが実行するからだ。俺に使っている力を一時的にアキやロザリアさんに移した事がある。それは大局を傾ける凄まじい力となった。

 本来竜が到来するタイミングは仮神化できる人間が長時間その状態で居たとき、または命名を冠する人間を食べる為に不定期に出没するそうだ。
 仮神化出来る人間が感情や肉体の極限に至ることが条件なのだ。
 ならば話が早いと出てきているのがエンブレム・ブラッドという魔法だ。これで何処まで行けるだろうか。

「でもシキガミ化するなら竜倒してもいいんじゃないですか?」
「ちょ、え? いや、その溢れる自信は何なの? 鼻水吹きかけたよ」
 俺が驚きの表情を見せると、アキは面白そうに笑う。確かに倒せる力があるのではと言われたが、目の前に出てくるのは竜神かもしれないと言う事を忘れていないだろうか。
 あと自分で油断しない方が良いってさっき言っただろ。
「すみません、今回一人じゃないって思うと、少し嬉しくてっ」

 彼女の顔は後ろからは見えないがいつも通りというか無茶をする宣言を朗らかにやってのけているというだけだ。
 これは俺が失敗するわけには行かないと思いながら苦笑いがでる。
 俺も結構仲間と一緒なら大丈夫思考になったりはするが、竜相手はちょっとどうなんだろうか。まだ真剣に両手で挑んだ事はないから分からないが、レプリカでアレだけ苦労すれば本物がいかにヤバイかは明白だ。俺たち全員が居てやっと話になるかと言うところではないか。
 何にせよアキは俺が関わらせてしまったのだ。彼女の無事は俺が保障するべきだろう。いや、責任の範囲をいえば俺は此処に居る誰彼構わず守ると言ってしまうのだけれど。

「カードを彼女の背中に押し付けて置いてください。間違いなく最短距離です」
 ヴァンに言われるまま俺はカードをアキの背に押し当てる。アキはフラ付く事も無く壁のように立っていた。鍛えられた体はその程度では均衡は崩れない。ファーナなら一歩は踏み出たかなと思う。
「ふふっ」
「何か?」
「いえ、御札が貼られると元気が出る仕掛けなので」
 俺が首を傾げるとヴァンがクスクスと笑った。そういえばそんな事もあったような……?

 記憶を漁る俺をよそにヴァンは俺達を見回して一つ注意した。
「さて、唐突に呼ばれると言う事は目の前に注意してください。突然竜が現れます」
『おう!』
 全員の声が合わさって空気に気合が入った。
 俺が掴むカードにも力を込める。

「コウキ……」

 俺の手を掴むファーナが心配そうに俺を見る。
 だから俺は大丈夫だと言って笑った。


「よし! 行くぞ!!」
「はい!」
「本当に行くぞ!」
「どんと来いです!」
「本当に大丈夫!?」
「余裕です!」
「忘れ物は無い!?」
「ありません!」
「勇気忘れてきたかも!」
「わたしのが余ってるから分けてあげます!」
「ドラゴン怖くないの!?」
「怖くありません!」
「不安じゃない!?」
「行ける気しかしません!」

 彼女は俺の質問攻めに動じずはっきりと返してくる。

「早くしろよ……」
「とっとと行けー!」
「あ、あたしがドキドキしてきた!」

 逆に俺の行動にキツキとタケの野次が飛んできた。何故か四法さんがドキドキしている。いや、緊張は分からんでもないか。
 この手の掛け合いで俺に不利が巡ってこようとは。

 しかしその返事に関しては嬉しい限りで俺とファーナは思わず笑った。
 やっぱりこの術に関しては――彼女に使ってもらうべきものだった。

「行くぞ!!!」

 本気で言うと俺の手のカードが呼応し始めた。
 パァ――っとカードが光を帯びた。俺の腕から幾つか血管の様な模様が赤い線になって浮き上がる。
 空がブワァっと全身を巡るように光って、手を繋いだファーナの手にまで及んだ。

「血の盟友<エンブレム・ブラッド>!!!」

 俺の宣言と同時に赤い光はカードに飲み込まれる。そして全ての光が飲まれると同時に今度はアキの体にその光は宿った。

「く、ああああああああああああ、あ!!!」

 アキが絶叫を上げると同時に髪の毛が真っ白に染まる。その衝撃は空気を揺らして皆に伝わった。しかし大丈夫かと心配する暇も無くあたりの空気が
 バンッ! という凄まじい音と共に世界が変わった。



 まるで反転したかのような世界。頭上には果てしない竜世界が広がる。
 緑が多く、また空を飛ぶ竜も多い。光の量が違う。鮮やか過ぎるように見えて目を細めた。
 新世界の光景に素直に驚いた。空気の重さもなんだか違う気がする。
 果てしなく広がる木々の大地、大きな川、そして切りたった山肌。そして遠くに高い塔が見える。圧倒的に自然が多い。そして飛び上がる鳥も雄大に見えた。
 大きな世界だ。そう感じた。

 そして同時に目の前に竜が立っていることに気付いた。今さらそんな事に驚いて、グルンと、天地が逆転して足元に感覚が戻ってきた。
 俺はファーナに抱き付かれていて、手の先にすでにアキは居ない。慌てて視線をめぐらせて彼女を探すと竜の足元で白い髪が揺れていた。
「アキ!!」
 俺はファーナを連れて彼女に近寄る。俺達が駆け寄ると同時に、灰色の竜は空高く飛び上がった。
「どうしますか?」
「どうしますって、何を!?」
「竜はわたし達を攻撃するみたいです」
「わかった! 倒そう!
 えーと、そうか、一番威力が高いのが今シキガミのアキか!」
 前に使ったときなんかよりもずっと安定しているように思えた。

 アキは普段赤茶色の髪をしている。それが今は真っ白、というか、銀色なのだろうか。キラキラと光って見える。
 碧緑の瞳も同じく灰色にで、色を失ったように思う。
 彼女は落ち着いた様子で俺達を振り返った。
 今まででは考えられない余裕だ。血の盟友を使った友人達は皆軒並み急激に消耗して、十秒もしないうちに解除される。しかし今のアキは何ともなさそうにしている上に、色々と不思議そうな顔をしている俺達を見て少し微笑んだ。

「暖かいですね、血の盟友<エンブレム・ブラッド>って。
 コウキさんやファーナの力を強く感じます」
「いや、でも大丈夫なの? もっと消耗が激しい印象なんだけど」
「そうなんですか? わたしには全然そう感じませんけど……!
 来ますよ! 伏せて!」

 鉄で鉄を打ったような不思議な音が響いた。アキが自分の黒大剣を蹴った音だとちょっと遅れて理解した。
 ジャラッ!
 と鎖の音が聞こえるが、視線がアキに追いつくまでに数秒かかった。

「コウキ! 裂空虎砲を! 早く!」
「あ、ああ!」

 思わず忘れていた。目の前ではアキが竜と戦っていて異様な事に、彼女が圧倒しているように見えた。
 アキが追いついて浴びせる剣に鱗はいくつも剥がれたし、勢いをつけて殴っていた。勢いをつけて殴る大剣も縦横無尽さをいつもより際立たせている。
 強風が吹いて鳥みたいに素早く高く飛び立つ竜の足に鎖付き大牙を投げつけて絡めとる。

「アアアアアアアアア!!!」

 ガシャァァァ――!
 鎖の音が一際高く響いて空を覆うような巨体が空中でピタリと止まった。
 そしてあろう事か彼女が竜を振り回していた――!
「うおおおお!?」
 質量の差がどうとか言ってる暇も無い。ただその姿に圧倒される。もがく竜が暴れるが浮力の方向を逆にされあっけなく地面にたたきつけられる。
 それでも猫並みの速度で起き上がると再び飛び上がった。
「アキがシキガミで居られるうちに早く皆を呼ぶのですコウキ!」
「分かっ――!? ファーナ危ない!」
 俺はファーナの手を掴むと一気に走り出す。パァっと大きな光があったあと、ドラゴンの周りにたくさんの術式が展開し無尽蔵に光の光線が飛び交った。
 いつもより体が重い。すぐにエンブレム・ブラッドのせいだとは気付いた。この竜の攻撃を避け続けれるか――!?
 俺達の前にはもうその光の束が迫ってきていた。

「術式:燃盛る牢獄<バァン・バーニア>!!」

 ファーナが俺を通して即時発動させる丁度俺達が隠れられる分の壁が出現した。光の束が当たって弾ける度に物凄い振動が襲ってくる。ファーナを抱き込んで伏せ、轟音の中で耐え忍ぶ。
 俺を介して使った術は収束量が多く出来るので強力らしい。しかし俺が今精霊位では無い為かその効果は薄いようで、壁の高い位置ではパリパリと砕けるような音がする。
 それでもファーナはファインプレーをした。俺も役割を見失っている場合ではない。

 ギリギリ壁が残った状態で竜の攻撃の区切りが付いた。
 アキが竜に向かって行く鎖の音が響く。
 この血の盟友が切れた瞬間、アキの命が危険にさらされる。

 今、裂空虎砲を撃つしかない。

 剣を抜いて振りかぶる。

「術式:裂空――虎砲!」

 パァっと剣が光を帯びる。
 少し剣に意識を集中して溜めの動作を行う。
 剣が焼けるような色の遷移をする。
 炎術の気質からか、温まるまでの時間のようなものが必要だ。
 本の数秒だけれど、戦いの最中だと致命傷を得るのに十分な時間になりえる。
 その代わり、この技は『最強』を謳う。名前通り、この技は誰にも負けた事は無い。空間に対してすら同じだといえる。

 繋がって皆が来れば、状況は変わる――!
 剣の光が最高潮に達した時、一気にそれを振り下ろす。
 この技を使うと必ず轟音と共に強烈な風が巻き起こる。

 その先の世界が割れて、繋がって。
 俺の友達達が飛び出す姿が見えた。

 けど、それは裂空虎砲の余韻と共に消えてなくなる。

 繋げられなかった。
 失敗した。



 それと同時にドラゴンの目の前で大きな術式陣が広がる。俺達に失敗で絶望させるような時間は与えられなかった。
 ドラゴンが展開した物だ。真っ白な色をしていて目に焼きつくような光だった。
 その光がどれだけ今の自分達にとって不味いものか、すぐに分かる。

「でけえええぇぇぇえ!!」

 その大きさには圧倒され、全力で叫んだ。実に竜の倍はあろうかと言う術陣が、太陽のように輝いている。
 アキが俺達の前に走ってきて背を向けた。

「二人とも、力を貸してください!! 押し返します!!」
「えっ!? マジか!」

 そうか彼女は今、俺達の“シキガミ”。
 俺が今、ファーナと同じ事が出来るなら――。彼女に力を貸すことで通り抜けるのが最も正しい行動になる。
 恐らく俺の裂空虎砲が失敗したのはシキガミではないからだ。
 彼女から安全にその権利を戻してもらう為に必要な事だ。だから今それに全力になればいい。彼女はアレを押し返すつもりだ。それが出来ないという態度ではない。何かの確信を持って言っている事だと直感で理解した。ファーナを見ると彼女も力強く頷いてから俺に言う。

「コウキ宝石剣を! 全力でアキを支援します!」
 ファーナがドラゴンを指差す。
「さぁ、ドラゴンを倒しましょう!
 わたし達はこの戦いに勝たねばならないのですから!

 こちらが前哨戦でしょう!!」

 アキが小さく笑った。酷く嬉しそうだった。
 そのアキにファーナが背中に手を当てる。
「微力ながらわたくしも協力致します」
 俺もそれに習って手を当てると前を見た。死に物狂いでアレを退けるんだ――!
「デカイのいくぞーーーー!!」

 パァァァッと宝石剣が真っ赤に光り輝く。キラキラと焔の精霊の光が地表に舞い上がる。 ファーナの気質のお陰だろう。この収束の光景を綺麗だと思ってしまった。

「ではアキがマキナ・サン・クラマを。皆で撃てばきっとドラゴンのファイアブレスにも届きます」
「じゃあファイアブレスだな! 叫べよ!」
 初の三人合体技だ。俺のテンションは二回点半ぐらいの頂上だ。もう暫く戻ってこないだろう。
「えっそれ意味無いんじゃ?」
 それは言わないお約束なのだ。
「ふいんき大事だよふいんき!」
「ふふふっそうですね! さぁアキ!」

 圧倒的な竜を前にして、皆で笑っていた。
 アキは、そうですね、と涙ぐんで笑った。

 俺とファーナはアキの背中に手を当てて、更に自分の力を流し込むようなイメージをした。
 充実する力が真っ赤な術式ラインになって宝石剣に集まる。
 三人のマナが霧のように剣の表面を流れ、宝石は更に真紅の光を増した。

「この技は、アナタに返します!!」

 アキがそう叫んだあと、剣を大きく突き出した。

 あちらの光が放たれるのが先だった。しかし俺達はそれとほぼ同時に叫ぶ。

『超竜虎火炎砲<ファイアブレス>!!!』

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