第238話『精霊世界』

「でかぁ!! たかぁ!!」

 銀色のドラゴンの背に乗って叫ぶ。竜の鱗に付いている棘の上に乗ってみたがやはり頭の上が一番高いので個人的にはそこに乗せてもらいたかった。
 竜世界の果てで深淵の先へ繋がる超巨大扉。それに見合う体格である竜の背に乗って、俺たちは進行する事になった。

『しっかり掴まってなさいよ!』

 シルヴィア・リーテライヌはその力を存分に発揮する為に再び巨大な銀の竜の姿をとった。
 俺は棘下に降りて片膝を付いた状態で待機する。背中に居るのはシィルが行動するのに特に気を払わなくて良いようにするためだ。

 彼女が竜となってその扉を開けてくれるのは頼もしい限りだ。ヴァンにだけは乗るなと散々言い合ったが後で俺がまたシィルの好きなものを作るのを条件にその喧嘩を収めてもらった。
 その後、ゆっくりと構えの体勢に入ったシィルに俺たちは息を飲んで各々鱗の棘に掴まる。

 ズン、ズン、と両足を大きめに開いて頭を下げるような戦闘姿勢になった。
 銀竜が肺を膨らませると背中も大きく膨れ上がるのがわかる。
 口元に大きく術式が広がる。バリバリと雷を伴って背中の棘の上を彷徨う。みんなの髪の毛が無駄に逆立つ。ルーが特に酷い。毛玉状態が悪化している。

「うおおおお! こええええ!」
「シルヴィア! シルヴィア! 普通に開けませんか!?」
「聞こえてませんね!」

 竜の術式収束の轟音が響く中で俺達の声なんて蚊みたいなものだ。シィルは普通に開ける気は無いらしい。この世界の果てでこの扉壊すつもりなんだろうか。ヴァンはもう危ないから止めろというのも止めてしまった。竜になった元ライバルと言うか

「シェイル、変換率あげてやれないか」
「そうだな……万一降ると面倒だ」

 紫電の二人が何か話し合って、シェイルさんが竜の表面に手を付く。彼女が少し眼を閉じて何かを呟く。暫くすると放電されていた頭上の雷がフッと消えて、竜の体が銀色に輝きだした。

「まぶしっ! 何やったの!?」
「ああいうのって確か纏め切れないマナが暴走してんだ。
 オレ達紫電はそういうエネルギー変換効率を良くする事が出来るんだ。まぁ身体強化が得意だしな」

 そうか、タケ達はそういう感じだった。素直に感心していると竜が首を大きく仰け反らせた。
 全身を光らせていた光がフッと口元に集まって三度巨大な術式陣を光らせた。
 耳鳴りを感じて思わず耳を塞いだ。全員がこれから起こることの大きさを理解した。
 集積超過は無い。変換率が良くなったと言うのと関係していると思う。

 これが竜となったシルヴィア渾身の――

『ド ラ ゴ ン ブ レ ス !!!』

 シィルの声が響いた。この声は竜が出しているのではなく、思念というものに近いらしい。
 轟音と影も出来ないような光に包まれて一斉に眼を閉じた。
 耳を塞いでも振動が響く。脳を揺らして上下の感覚が薄れていった。

 暫くしてようやく足元の感覚が戻ってきて自分達が竜の背で残らず倒れている事に気づいた。


 タケですらぴくりとも動かせなかったその扉は、今まさに音を立てて崩れ落ちた。熱に焦げ付く鉄がドロリと溶ける。分厚さを見るに、それは扉ではなかった。押したって引いたって、開く訳が無い。シィルのやり方が正しい開き方だったようだ。
 闇がすぐ傍にある中で、隙間から光が溢れ、その世界を覗かせる。
 竜は勢い良く羽ばたくとその光の中へ飛び込んで行った。俺たちはその扉の名の通り――世界に挑む。




 空を見上げれば島が浮いている。いくつもの島から流れ落ちる水が大地に落ちて川になっている。島から島に掛かる橋も見え、鳥が生き生きとその空を泳いでいた。
 竜世界にも圧倒されたが、この世界にもまた圧倒された。世界を渡るというのが特別な事じゃなくなってきた事が異常なのだろう。しかし俺の感覚を刺激する感動は何時も新しい空気の感触から全身に巡って体の奥から冒険心を引っ張り出して来る。
 とりあえず目に付くだけで空に島、その果てまで続く塔。巨大な街、水の吹き出る尖った山岳、と沢山の足を向けて歩き出したくなる場所がたくさんある。

 銀の竜が大きく翼を開いて飛び立った。扉は空中に唐突に現れていて、中心にいましがた大きく開けられた穴が開いていた。

 初めてプラングルの月を見た時の感動と同じものを覚えた。
 新しい世界はいつも感動に溢れている。

「あははは……! すげーーー!!」
「あまり悠長にしてられないぞ」

 俺が声を上げるとキツキが言う。振り返るとキツキは真剣な表情だった。
 そして傍らに居るティアに揺さぶられている。

「ティア、あそこ行って見たい!!」
「こいつが何処に行くか分かったもんじゃない」

 自分の神子の頭を押さえて服をぐいぐいと引っ張れるのに応戦している。
 ずっとこんな調子だったのかキツキ。大変だなぁ。俺とティアがペアだったらもう行ってたなコレは。そんななごむやり取りをみてタケが笑った。

「はっはっは! 元気だなっ。だがちょーっと空気読んだら迂闊に空飛べねえぜ?」
「え? ティア、空気読めるよ! 国で一番飛ぶの速いんだから!」
「風に乗るって意味じゃないぜ。
 あそこ見てみろよ」

 タケが指差した先には、丁度正方形に見える形の何かがあった。俺はすぐに人が並んでいる事に気付いたがティアはぐっと目を顰めてから、びくっと体を強張らせた。彼女は感情を隠さない。驚きと恐怖を覚えたのはあの鋭い殺気を放つ集団のせいだろう。
 俺は鈍いからああいうのは良くわからないけれど敵意を向けられているのは分かる。睨み返すのはいつもタケの役割だった。

「お出迎えか。
 やはり世界の壁を破られたら出てくるのは精霊位だな」
「戦女神だ。準備は良いか」

 シェイルさんとタケは好戦的だ。進んで剣に手をかける友人を頼もしいと思う反面怖いなとも思う。

「良くないって言っても、襲ってくるんでしょどうせ」
「まぁ、それがここ流の礼儀なんやろ」

 ぶつぶつ良いながら四法さんが下が見える場所まで寄って言って下のほうを確認する。ジェレイドもそれに付いて行き、風を和らげる術式を使っていた。
 竜の背中は思ったよりも風がきつい。強い風に長時間当たり続けるのは辛い。俺たちはヴァンの術式によって風を和らげているが、皆各々の神子がその術式を使う役割を持っているようだ。

「わたくしも風除けぐらい自分でした方が……」
「よそはよそうちはうちだよ。ヴァンもルーも居るんだから、お任せだよ」
「そうですね。私達はそれぞれに役割分担はあります」
「だからかなぁ、ほら、他の神子とシキガミの人ってペア感があるよね、みんな」

 アキに言われて確かにと頷いてみる。まぁ俺達が大所帯過ぎるのかもしれないが、コレだけ居れば役どころに困る事も無い。

「仕方ないなー。とりあえずファーナ、ルー持ってて貰っていい?」
「わかりました」

 最強のお守り、というのはあんまりだが、最強の盾の最速の逃げ足を持つルーを彼女の傍に置いて貰う事にする。いつも最高にいい仕事をしてくれるので今回も密かに期待している。モシャモシャと頭を撫でると頑張りますっと一度吠えた。これは癒される。

「ラジュエラの事を考えればきっちり準備して応戦すべきです。行きますよヴァンツェ、アキ、シルヴィア!」
「わかっていますとも」
「ここが正念場だね! がんばろっファーナ!」
『ふーん! あたしが全部倒しちゃうもんねー!』
「面子が頼もしくて俺の出番が来ない気がする! シィル俺頭に乗りたい!」
『やぁよ』
「頼むよー! シィルのカッコいい所を一番言い場所で見たいんだ!」
『んふふ、仕っ方ないわね』

 褒められるとこそばゆいのか尻尾がぐるんと円を描いて回った。
 やった、と思って首もとのヒルクライミングを始めた俺の後ろでヴァンがため息をつく。

「はぁ、貴女竜のくせにそんなにちょろくて大丈夫ですか」
『クソエルフは乗ったら振り落としてふんずける!』
「くすんだ銀竜が……ちゃんと中身入ってるんですか?」
『あ゛? おいクソエルフ! 今すぐふんずけてやる!!』
「おや? そんなに首が長いのに背中に届かないんですか?
 竜って意外と無駄な構造してるんですね、誰かさんの頭みたいに」

『があああああああ!!!
 やっぱり殺す!! 今すぐ殺すぅぅぅ!!』

 シィルの沸点は相変わらずで――その暴走っぷりからも、治る兆しを見せない。
 ヴァンがふわっと飛んで――というか、飛べるのかという突っ込みはさて置き、竜の前に陣取っておもむろにフッと鼻で笑って見せた。

「ヴぁ、ヴァン? ちょっとやりすぎじゃ……!」

『くーーそーーえーーるーーふぅぅぅああああ!!!』

 バヂンッ――!!

 凄い音が鳴って反射的に姿勢を低く取った。
 俺の倍ぐらいある棘がたくさんある背中だがまたその棘の先をバリバリと雷が迸る。
 シェイルさんが瞬時に変換率を上げたほうが自分達の被害にならないと判断したのだろう、先ほどと同じように竜に手を付いて数秒の後に頭上を彷徨っていた電流が消えた。
 そしてやっぱり超髪の毛逆立つ。みんなふわっふわしてる。

 バリバリと口元に雷が溜まったかと思うと一気にあたり一面に術式陣が広がった。円がグルグルと回ってピタリと特定の位置で回転を止める。一本の線がそれぞれに行き渡るように広がっていてそれが雷のように不規則に俺ながら内側から外側へ広がる。
 そしてその光が外まで達するとピカピカと三度光った。
 本日二度目の耳鳴りを感じる。それを駄目だと止めている間も無い。声が届かない。
 ヴァンは不敵に笑っていたのを最後に後は攻撃対象として光の向こう側だ。

 再び凄まじい音と光と共にその攻撃は放たれた。
 二度目でも辛い。背中に居る俺達がかなり甚大な被害を受ける。音と光の衝撃を無抵抗で受けなければいけないのは堪える。
 再び目を開けたのはパチパチと拍手が聞こえてからだった。

「いや、凄いですね。流石ドラゴン」
「い、戦女神の先遣隊みたいなのが全滅してるぞ!」
 涼しい顔をするヴァンが元の場所で浮かんでいる。どうせそんな事だろうと思ったけど、やり方が酷くない? 俺はヴァンに抗議ありの視線を送って苦笑いされた後、タケの方へ行って確認を急ぐ。

 目下はクレーターしかなかった。
 俺にでも分かる。アレは逃げ切れる類の攻撃じゃない。
 意図的にヴァンは戦女神との間に立ってその方向に撃たせたのだ。

 正直言葉が出ない光景だった。

「シィル!!」
『何よ』
「やりすぎだ!!」
『はぁ? 何言ってんのよ。
 あんた真面目にあそこに居た戦女神とやりあう気だったわけじゃないでしょうね』
「話せば分かってくれたかもしれないじゃないか!」
『そーゆー類の存在じゃないって知ってるでしょ。
 どうせ死なないんだし、いいのよこれで』
「つか、分かってて撃ったのかよ!」
『まぁ、撃たされたのは癪だけどねー。どうせ撃ったわ。
 蚤みたいに飛んで来て邪魔だろうし』

 それだけ言うとバサバサと羽ばたいてぐるっと最初の着弾地点のクレーターの跡を辿るように飛ぶ。つか、クレーターだけじゃない。巨大な生き物が通った跡みたいなのが其処から何キロ先に届いているのか分からないぐらいまで伸びている。ビームを放ってから首を振り上げたって事だろう。

『あー全く、スッキリしないわー』

 そんな事を言いながら竜は優雅に空を飛ぶ。
 俺だってモヤモヤするよこんなの。しかしあれだ。ヴァンとシィルをコンビにしておく方が百倍スッキリしない事態になりそうだ。
 猪突猛進する癖があるシィルは、色々な物を吹き飛ばす事で解決を図る癖がある。ヴァンはそれを知っていて利用するし結構たちが悪い。
 俺と一緒に向きの行動をしてもらう必要がある。

「よし、シィル! 誰か居る所を見つけよう! 全部吹き飛ばしたら情報があつまんねぇ!」
『えー? アンタ戦女神でも脅して吐かせようっての?』
「脅さないでいい方法探すよ! 交渉は大丈夫だから! 俺とかファーナとか普通に適任者居るから!」
「お母さん!!」
『な、何よー』
「目的はファーナ達助けることなんだから! 無茶しすぎちゃ駄目でしょ!」
『……』

 あ、凹んだ。このドラゴン、娘に怒られてちょっと凹んだぞ。超巨大な鋼の外郭に杏仁豆腐メンタル。アンバランスは元のシィルと同じで健在である。
 しかし手綱を握るべきが誰かが分かった。俺はアキに小さく耳打ちする。

「え? えぇ、わかりました。
 お母さんっ一度この世界を見て回りましょう!
 目に付くような建物があったら其処に寄って下さい!

 頼りにしてるから!」

『っしゃー! まっかせなさーい!』

 途端に元気になったシィルがバフンバフンと風を叩きだす。
 グッグッと体が空高くに持ち上がって滑空するように飛び出した。物凄い風が巻き起こるのは事前に分かって居たため、ルーやヴァンの展開する障壁の内側に皆で集まった。周りの景色は飛行機に乗っているかのように早く流れて行った。

「ファーナ」
「なんでしょう」
「ヴァンにお説教だろこれ」
「そうですね。ヴァンツェ。少し此処に座ってください。正座です」
「リージェ様、アレは正当な作戦です」
「いえ。暴力です。
 整列して待っていた部隊を一掃して作戦などとは言いません。道徳にかけます。
 確かに勝ったのでしょう。シルヴィアの力で。
 ただその一方的な暴力を一番嫌ったのは貴方でしょうっ! 大体ですね――」

 ああ、始まってしまったと、ヴァンはため息をついた。マグナス家の娘の面倒くささを知っているヴァンは話を続けるファーナを前にして諦めたようにため息をついた。
 最強の一手を打てるシィルとヴァンは、アキとファーナが抑止力になる。
 俺たちは侵略をしに来たわけじゃない。通るだけなんだ。

 ルーメンが障壁を大きめに出している。不思議とこの背中の上ではルーはマナを消費しないらしい。交代での見張り当番を立ててから、一休みする組みと見張りをする組みに分かれた。寝ないために二人一組で術士とシキガミはコンビになる。今は四法さんとジェレイド、キツキとティアだ。キツキ達はヴァンが術を掛けている。やはりティアは術士としては浅いのだろう。それでもやる気はあるようで嬉しそうに竜の右肩辺りに歩いて行った。こうも大きな背中に居るとなんだか落ち着く行動をしたくなるが、シィルから背中で飲食したら殺すと脅されている。それは背中が汚れるからじゃない。自分が混ざれないからだ。
 あまりの勢いに回りも見えづらいので皆でワイワイ話していることしかできない。
 自然とルーの話になって皆でワシャワシャと撫でているとタケがルーこんなでかい障壁作っててに大丈夫か? と話しかけた。
 その障壁の広さは大体俺達全員が大の字で寝ても差し支えないぐらい。十メートル四方以上の広さがあった。確かに今回はやたら広いなとは思ったが竜の背中や人数に気を使ってくれたのかなと思っている程度だった。そう、術式は消耗するものだった。平均的に凄い人しか居なくなってきたから心配することを忘れていた。良くないことだと思いつつ俺はルーを見る。

『心配有難うございますシキガミ様っ! 不思議なんですけど、大丈夫なんですっ。
 此処に居るとどんどん力が湧いてくるんです!』

 嬉しそうに言ってバフバフと毛だらけの尻尾を振る。

「そうなのか。すげーな。ルーお前コウキの弟子やめてオレのとこ来いよ」
「おっと! ルーは俺の弟子だからな! 簡単にはやらないぜ!
 一番ルーを必要としてるのはダントツで俺らだしっ!」
『えへへ、僕頑張ります!
 でもどうしてここではこんなに平気なんだろって思います』
「ヴァン、ルーがどうして此処で術使っても平気なんだろって言ってる」

 答えが返せる人に質問は集まる。俺の視線にヴァンはいつも通り嫌な顔一つせずに答えてくれる。その受け答えは先生の気質と言えるだろうか。俺たち学生だった人間だって先生を評価する。答えるのが早くて、明確な事を言ってくれる先生には皆良く質問するものだ。ヴァンは間違いなく良い先生だ。

「竜の背中ですからね。収束量超過<リダンダル>している時の放電を見ましたよね。
 あれは自分の肉体にダメージを与えないようにわざと収束量超過を背の表面で流しているのです。
 此処はマナの流れがいい場所ですから自然とシルヴィアのマナが入ってくるのでしょう」
「そんな事が出来るのに収束量超過しちゃうの?」
「通常は術式展開を決めた場所にゆっくりと溜めていくのです。収束にはある程度時間がかかるのです。
 バケツに水を汲んでその水を隣のバケツに移すのに手荒く時間をかけないようにやるとどうなりますか?」
「勢い付きすぎて溢れるかな」
「そうです。それと同じ事が起きています。急ぎすぎる事も同じくリダンダルといいます。
 マナの流動を急ぎすぎていて無駄が多いのです」
『うっさい!』

 賑やかに飛び回る俺たちの頭上にはたくさんの浮遊島がある。やたらと光る虹色の島や明らかに人が住めない燃え上がる島もある。
 まさに目が回るほどに忙しく、開いた口が塞がらない光景ばかりが目に入る。
 水が巻き上がる竜巻を面倒だからと言う理由で避けなかったり、轟々とする雷雲に飛び込んで急に充電を行うシィルに肝を冷やしながら世界を飛び回る。
 竜のビーム沿いに飛んでいたがいつの間にかその傷跡が無い場所まで来ていた。
 長い時間飛びっぱなしだった。建物は殆ど無く、この土地の殆どは森だった。たまに建物らしき物を見つけても明らかに老朽化していて崩れているものばかりだった。
 会話も少なくなってきて、もう日暮れまでの時間も僅かなようだった。
 この世界は何処まで続くんだろう。
 疑問に思ったが、プラングルと同じく、愚問なのかもしれない。
 世界は造られている。きっとこの世界も、未だに大きくなり続ける世界だ。
 俺は障壁の中でひとつ息を付いて竜に話しかけた。

「シィルー! シィルー!」
『なぁにー』
「いっぺん下りてみようよー!
 俺らまだいっぺんも大地を踏みしめてないんだよー!」
『アタシの背中が気に食わないって言うの!?』
「そうじゃないよ! シィルの背中はすげぇけど! 降りてみたいじゃん!
 つかそろそろ休む準備もしないと!」
『んもー。仕方ないわね』

 戦女神達が何処で襲ってくるかは分からない。余り悠長にこの世界を探検している場合でもない。
 上空からではやはり見落としているものもあるだろう。でもこの調子じゃいつその情報に辿り着くやら――。

「んお? ねぇ、あそこ煙上がってない?
 焚き火じゃない?」

 シィルが仕方無さそうに降りる場所を探し始めた時、四法さんが声を上げた。なんだなんだと皆で片側に集まっていく。
 四法さんが言うとおり、森の中に薄っすらと焚き火の煙が昇っているようだった。燃え広がっているという感じではない。つまり誰かが火を起こしている。

「シィル! あそこの近くで落として!」
『わかったわよもー。竜使いが荒いんだからー』

 この何だかんだ言う事を聞いてくれてる感じがたまらなくシィルである。
 シィルはゆっくりとその焚き火へと旋回を初めた。そしてゆっくりと首を捻り始める。その回転が体全体に伝わり俺達の上下が逆転するより早く滑って落ち始める。勢いに乗っているせいで、早めに落とされたが風に乗るように斜めに落下してる。
 少し桃色っぽい不思議な空の色を眺めながら俺たちは思い思いに落下していく。シィルも完全に逆向きになったあたりで彼女も竜化をやめて下に落ち始めた。


 俺の旅は、誰かに支えれていて奇跡的に繋がっている。運が良いという括りに丁度良く当てはまる。
 切っても切れない関係が連綿と連なって世界を造る。

 そこに居た俺と縁の切れない命名者は面白い物を見るように俺達を見上げていた。

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