第240話『助けて』
『長い話になりますが、まず竜世界と竜の話をさせてください。
竜は神々の作った生物の中で最も強く、賢く、長命です。彼らは自分達の方が優れた存在と証明する為に神々と戦争を繰り返しました。
その戦いの末に、竜世界をお創りになられました。
しかし竜との戦争は終わりませんでした。
そして生まれたのが精霊世界。
神々の加護を得て、竜と戦う使命持つ私達の世界です。
四つの世界の誕生です』
『第四位以下の世界、人界プラングル。
第三位世界、竜界バハムーン。
第二位世界、精霊界ヴァルハラ。
第一位世界――神界ルルネス。
あなた方ならきっと、到達するでしょう』
『終末戦争は神々が行う事です。
状況も規模も様々です。
しかし己の矜持に従って戦い、勝敗を決します』
『敗戦した者は消える運命にあります。
完全な消滅が、神々の死です。
そう言う意味ではプラングルよりも過酷です。
自らの無意味が決定した瞬間に神々は貴方達に助けを請います。
……これ程、惨めな事は無いでしょう』
『貴方達は神々の希望です。
それはもう、蜘蛛の糸のような――いえ、もっと残酷ですね。貴方達が意のままに動かないという意味では、蟻に命を託したも同然です。
私が酷い事を言ったというのなら、戦う事を止めたシキガミとその後の神の話をしましょう』
『どのような結末が来ようとも、神々はその結果に何を言うでもありません。
親のような心持で貴方達を見守ります。それが最後の役割です。それ以外何をする事も出来ません。
此処まで来た、貴方達は例外です。
過去最大人数がもしかしたら到達してしまう。
竜世界も、精霊世界も、この先も全てが前人未到です。
きっと貴方にしか出来ないでしょう。
貴方がたの歩く道は希望です。この先の活躍も楽しみにさせてもらいます』
夜の森は程よく涼しく、無視の声が穏やかに響いていた。頭上には星空が広がっていて絶好のキャンプ日和だといえた。
焚き火を囲んでいる俺達は彼女の手料理を食べながらその演説を聞いて居た。
これがまた美味しい。レシピを聞いたら、五つまでなら教えてくれると言った。そこにも戦女神ルール適応されるのか。
それはさておき、簡潔な現状確認と世界についての説明をして欲しいとお願いした。
どうやら凄い事をしているらしいという認識が生まれてきたような気がする。
「なるほど、喧嘩で負けたから助けてって事か」
『貴方の解釈レベルに落とすとそうかもしれませんけれど、もっと意味があるのです。
余り物事を小さく考えすぎると、いらぬ怒りを買ってしまいますよ』
「……肝に銘じとくよ」
メラミルトに睨まれたのが素直に怖かったのでそう言って暫くだまって食事を摂る。
戦争を喧嘩と例えるのはやはり不謹慎か。本当に起きてる事だ。グラネダで見た戦争みたいに。
でも重い話は苦手なんだよな。
「終末戦争の理由ってなんなの?」
『神同士の不義であったり、侵略であったり、世代交代だったり、世界改革であったり、理由は様々です』
「神様も大変なんだなぁ」
俺が実感無さそうな事を言うとキツキが小さく手を挙げてメラミルトに質問をする。
「俺達が呼ばれた理由は何となく分かるんですが、一つの国の中で固定されてる理由って何か知っていますか?」
『過去に勝者がそうしたのです。私の血族を呼ぶように、と。
元々は多元世界の人種無差別の選別だったのです』
「なるほど……その理由は何となく察しが付きました」
「え? なんでそんな事したんだ?」
「2年で分かり合えないんだよ。言葉は同じにしても文化が違いすぎるし姿も違う。
神子もシキガミも種族が違うんじゃ完全に敵なんだ。戦う以外の選択肢が生まれづらい。
例え其処まで考えず責任感だけにしても一つの賢明な判断だと思うよ。時代が絞れてなかった事はコウキがある意味解決しちまった。
友人関係のお陰で早い人間同士の理解と問題の解決が出来るようになったんだ。そう考えれば、残りの四人を同じような知り合い関係にしたのも対等に争わせる為かもな」
「そっか、そういう考え方もあるのか」
「お前はどういうつもりで呼んだんだよ……」
「やぁ、この四人ならきっと何とかこんな感じになるって思ってたよ。その時は、ね。
まさか記憶リセットされちゃうなんて思いもしなかったし」
結局ゼロスタートだった事に変わりは無い。仲間割れも起きたし、一つ別の話に進む道も出来上がっていて、俺だけが外れていた。
「コウキの呪いは解けますか」
ファーナの質問がメラミルトさんに飛ぶ。しかし答えたのは薄笑いしたキツキだった。
「空気が読めない呪いは死んでも治らなかったから無理じゃないかな」
「それなら女難も無理だろ」
「薄幸体質も治んないよね〜」
好き勝手言いやがって。ファーナがちょっとだけソレに笑うとメラミルトが俺に目配らせをしてファーナを見る。
『呪いと言うのは、シキガミに回帰する呪いのことですね』
「はい」
『……解呪自体は行えると思います』
「何か引っかかる所があるのですか」
メラミルトは押し黙る。言いづらいなら言わなくてもいいんだぞ、と言うと、少し考えた上で、ファーナを見た。
『一つ確認致します。
この戦いの後に、“シキガミを生かそう”とお考えですか』
「現にわたくしの父は生きています」
『……そうですね。
それはここにいる彼に願われてそうなっているだけです』
「……どういう事ですか」
『まず、問います。
貴女方は、何回運命無視<フォーチュン・キラー>をお使いになられましたか』
メラミルトは真剣な表情で俺達に問う。
思い出す為に指折りしながらその時の事を考える。
「えっと……何回? 最初はあれだ。攫われた時でしょ。んで、アキが死に掛けた時……」
「二回ですね」
「思ったより無かった。でもまだあるんじゃないの?」
「いいえ。アレ以降は使えるとは言っても封印されていたりコウキが自分でなんとかしてしまったりで結局使ってはいません」
そうか、と俺が相槌をうつと、メラミルトは一つ指を立てた。
『ではあと一つですね』
「え?」
『貴方がこの先で叶えられる願いの数です。
運命無視<フォーチュン・キラー>はカードが発現させますが、運命無視は神の力を使います。
貴方達の幸福の量はそれを“発生させる対価”でしかありません』
皆が静まり返った。パチパチと木が燃えて弾ける音だけが響く。
そうか、やっぱり強い力にはそれだけ意味があるよな。
そして頼りすぎるのもやっぱりよくなかったわけだ。
なんだろう、公開余命宣言を受けたような空気になる。
「よかったじゃん。シキガミの決まりをなくすぐらいはお願いできそう。
皆でやればなんとかなるかもだし」
途端、ぶわぁっとファーナの目に涙が宿る。
「……ぜ、ぜん、ぜん、よく、ありません……!
貴方は今……!
この戦いの果てに死ぬと言われたのですよ!?」
ファーナが激昂するが、そのせいか俺は冷静である。
そこまで怒る事じゃないんじゃないかと彼女を宥める言葉を使った。
「どうしようも無いじゃん。寿命がほら、二十歳だったと思えば」
元々十七で死んでる。其処から先の人生を別世界で過せただけでもラッキーだったというべきだと思う。
ボロボロと泣きながら俺を見て、彼女は急に立ち上がる。
「あ、ちょっと、ファーナ何処行くの!?
遠く行くと危ないよ!」
ファーナは俺の声を無視して走っていく。
気分が高揚した時によくそうなる。
どうしようもない衝動から――彼女は逃げる癖がある。
「行ってやれよコウキ」
「言われなくても行くし! ご馳走様です!
ファーナ待って!」
俺は食器を置いて駆け出す。森の中だからあまりスピードは出ない。お城の中よりはすぐに追いつけるだろう。と甘く見た。
法術が発動してしまえば雑草だらけの地面を走る俺よりも木を蹴って走るファーナのほうが早くなる。
なんか意外な特技を見せられた気がした。あとファーナに負けた感じが地味にショックだった。
木を蹴る必殺技で何とか追いつけるか、と思ったけど別に俺ニンジャな訳じゃないから枝を掴んで慣性で飛び回ったりできない。枝にぶつかって普通に落ちる。あと掌を怪我すると思う。
何とか見失わないように追いかけて、やっと彼女が止まった頃には月が良く見える湖畔に辿り着いていた。先ほどメラミルトを落としてしまった場所とは違って、大きくて空から浮かぶ島からの水を受けている湖だった。月を大きく映していて、静かな風が流れる。
俺は森の中で散々蜘蛛の巣のようなものに引っかかったり、枝や葉で引っ掻き傷ができていて草まみれという散々な感じになっていた。
顔を上げると、ファーナが湖の畔に座って水を覗き込んでいるのが見えた。一先ずその姿に安心して彼女に近づく。
ファーナはもう泣いていなかった。キラキラと光る湖面の波を見ている。憂いの有る綺麗な横顔に少し息を飲む。あまりまじまじと見るものでもないかと思った。
「ファーナっ」
「……わかっています。……貴方がこの戦いでしか生きられない事は、知っていたんです」
「じゃあ尚更、なんで逃げたんだよ」
「わたくしがそれを口にしなかった弱さと……それを受け止めた貴方のギャップが悲しかった。
……最初にそれを告げた時に貴方はわたくしを助けてくれたでしょうか」
「むしろ、そのためにしか生きてないんならそれに尽くしたよ。
ファーナを助けないならもっと無意味じゃんか」
ファーナとちょっとだけ距離を開けて、湖で汚れを取る。
切り傷は汚れを落とすと何処にあったのか良くわからないぐらいになった。精霊界だから治りが早いんだろうか。
「まぁその辺はなるようになるとしかいえないけどね」
「貴方はわたくし達の命に届こうとしているのに?」
「まだ届いてないよ。最後まで油断しちゃ駄目だ」
「貴方にできるのにわたくしには出来ないのですか?」
「それは……わかんないよ。
とりあえずファーナ達が先だって思ってるからさ。
俺達の事はあんまり考えてなかった。
他の皆はフォーチュンキラーあんまり使ってなさそうだから生きる選択をするかもしれない。
ただでさえ無理な事してるんだから、あんまりそこから先は考えないようにしてた。
シキガミは自分の命は自分で何とかするっていうのはそれで納得してたよ」
「それはあまりにも不平等ではありませんか!」
「だから運命無視と、あとのお願い事、っていうのがあるんだろ?
十分優遇されてたじゃないか」
「わたくしはそんな風に考えられません」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「……それ、は……」
「……どうしようもないじゃんっ」
自分で言ったのにすごく他人事のように感じた。
温度の無い冷たい言葉だった。
俺にはその方法を思いつかない。
――考えるのを止めてる。
自分の事でいっぱいいっぱいになって、ここで変な失敗をしても意味が無いわけで。
だったらせめて、と続く言葉を笑いながら言う。
「だからせめて、楽しく終わらせよう!」
諦めの境地というか、死の容認というか。
これに関しては病気を危ぶむような物だと思った。もちろんリハビリしてなんとかなるならそうするがそういうものでもないわけだし。
体の衰弱が無いわけだから危機感も無いまま俺はまた死ぬんだろうな。そう考えるとまた寂しい気分になる。
ファーナはまたボタボタと涙を零すのに、慌てて口を走らせる。追い討ちのような言葉になっていることに気付かなかった。
「皆と仲良く旅して。
美味しい物を食べて。
シキガミの役目果たして。
ファーナ達を見送れたら。
俺はそれでまんぞ――ぬおああぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁ!?」
不意にドンッと視界が揺れた。ソレと同時に急上昇が始まる。俺はきっと、完璧なフリーキックのような放物線を描いて空を飛んでいたと思う。
本日二度目の泉ダイビングする事が決まってぐるん、と一回転する間にいつの間にか俺の後ろに立っていた人の顔を確認した。
怒った様な顔で思い切り足を蹴り上げたシルヴィアがふん、と鼻を鳴らしていた。
バシャアア!
激しい水飛沫が飛ぶ。ああ、折角乾かしてもらったのに。
俺に付いていたのは女難とかじゃなくて水難だったようだ。
頭から水を被ったというのに頭は冷えず、服が水を吸って重いのと同じぐらい気分も重かった。
辺りは余計に暗く見える。
シィルに蹴られて対岸近くまで飛んだ。
ケツの下から持ち上げられるように蹴られたとはいえ、普通はこんなに飛ばないだろ。竜の力っていうのが半端ないんだろう。
対岸まで泳いで今日二度目だが服を脱いで絞る。川の水って冷たいから長く浸かっていると体力を吸い取られる。それに着衣で真水を泳ぐのは辛い。
絞った生乾きの上着を着なおして更にテンションを下げた所に草を踏む音を鳴らしてシィルが来た。
「頭は冷えた?」
「すげー冷えた。風邪ひきそうなぐらいね」
この皮肉っぽい返し方がなんだが映画っぽく思えてちょっとドヤ顔をしてみた。シィルからしてみればただの嫌味だろうけど。彼女は両手の平を上にしてさらに
「どうやらまだ冷えてないようねぇ」
「何だよちくしょー」
「あんたがクソしょーもない事でファーナ泣かすからでしょうが」
「ホントだよ。今そんな先のことなんて考えてもしょうがないのに。泣く事もないだろ?」
「あんたさ、ファーナが泣いてる理由ちゃんとわかってないでしょ」
「そうなのかな。俺はシキガミーズの未来がない事を泣いてくれたんだと思ったんだけど」
「おばーか」
「なにおうっ」
「あんたさ、自分の事嫌いなの?」
「別に普通」
数年前は自分が嫌になってたこともあった。でも色々と俺は変わったと思う。俺は皆に思われているほど、前向きな人間じゃない。
「普通あんたって命投げ捨てるの?」
「そりゃあしないけどさ」
「気に入らないわねぇ……らしくないわ、さっきから。あー、やだ、やだ。
でも。しかたないわねぇ。今日はあたしが説教してあげる」
そう言うとシィルはコホンと咳払いをしてピッと俺を指差した。
「あんたが今どのぐらい駄目かって言うとねぇ、ウィンド達と仲間になった時ぐらい駄目ね」
「その喩えじゃ何が何だかわかんないよ」
俺の言葉に駄目ねぇと言わんばかりにため息を吐くと急に真面目な顔になって俺の目を見た。
「“助けて”ぐらい言いなさいよ」
その言葉に少し驚かされた。
彼女らしくない言葉だと思ったからだ。
「あんたは強いから、そうなんだろうと思ったわ。
強くなった奴はすぐに勘違いするの。
自分は強い。その言葉は盲目にしていくわ。
どんどん他人が頼りなく思えるの。
勝手に孤立した気になって。いつの間にか声が枯れる。
それを言えなくなって居た時に、大事な言葉だって気付くわ」
結構自分では悪い癖を持っている事は自覚している。
自分の事になると途端に人を頼らない事。自分の事は自分でやるべきだとは思うがいざ人を頼るとなって気が引けて、諦めてしまう。それを非難されているのだ。
自分の命の事も考えられないなんてバカなことだ。それぐらい、俺だって知ってる。
でもこちら側に立った人間はいとも容易く、諦めの言葉が口に出来るんだっていうのもわかった。
「だって神様がらみの問題だろ? 生きる死ぬなんて既に運じゃない?」
「神子がそうだったのをあんたは自分でその運を外側から回避して此処に立ってるんでしょ」
「そうだけど、これ以上アウトローって……」
右手で頭を抱えると、胸倉をつかまれた。
月の光に影ってはいたけれど、いつも通り強い意志が宿った表情だった。
「あるわよ。必ずある。
まずあんたがそう思いなさい!」
彼女は何を確信しているのだろうと思ったがすぐにその指先は俺に向いた。
これってあれだな。シィルは何にも思いついてないって事だろう。
その意図は理解できたけど押し付けがましく堂々としているのは彼女の面白いところと言うか。
この状態で放って置くと壁に突き当たるたびに猪突猛進を始めるのがわかってしまった。彼女に言わせたなんとかなるというのは多分力づくの話だ。
彼女は励ましに来ただけだ。
「ははははははは!!
無茶苦茶だなぁシィルは!」
「あんたより真っ当よ!」
確かにそうだ。力づくで何とかするのが実は一番シンプルで確実だ。
シィルはそういうやり方をやって生きてきた人だから分かりやすい。神様にだって脅して掛かるのだろう。そんな怖い話は他で聞く事は出来ないんじゃ無いだろうか。
「そうかもな! でもドラゴンブレスだけで突っ切ろうとしちゃ駄目だぞ」
「あたしはするわよ。他に良い案があればしないわ」
人に言っておいてこの態度である。
「シィルは優しいけど優しくないなー」
「何わっかんない事言ってんのよ。殴るわよ」
グッと拳を握って俺を牽制する。両手を挙げて落ち着かせると隙を見て一歩近づいた。
「わかった。元気付けてくれた御礼をさせてくれシィル」
そう言ってスッと彼女の背中に手を回す。
「はっ!? なに! なに!? なに!?
そういうのいらないって言うか!
あ、あたしじゃなくてアキに!!」
すぐに抵抗して俺から離れようと上半身を逸らせるが俺は離れられないように少し彼女を持ち上げた。
「えっ!?」
「レッツ……!」
お礼参りと言う言葉がある。実はあまり良い言葉として使われることは無い。
目には目を歯には歯を。湖ダイブには湖ダイブをだ。
今日の月が照らす湖面は青く透き通って見える。湖底も見えるぐらい澄んでいる水は容赦なく冷たい。
「スゥウィミンッグ!」
「いぎゃああああああ!」
ザバン! と一つ盛大な音と共に俺達は湖に落ちて笑う。清々しい気分だった。
後で覚えてなさいよと捨て台詞を吐いてシィルは湖を泳ぎだした。ファーナ達の元へと泳いで、シィルがついでに他の全員を湖に引きずり込む。
湖の結構深いところに投げ込まれて足が付かないファーナが、俺に掴まってこほこほと咳き込む。少し水を飲んでしまったようだ。首に抱き付いているので体が密着する。水が冷たいせいか暖かいのが良くわかって少し気恥ずかしかった。アキもちょっと辛いようで俺の腕を浮き輪代わりに抱きついている。タケ辺りに羨ましがられそうなポジションだ。ヴァンは身長高いので余裕で眼鏡を畳んでポケットに仕舞っていた。張り付いた銀色の髪をかきあげてシィルを睨む。眼鏡が無いと凄みがあった。
シィルは満足げな表情で仰向けになって浮いている。ヴァンを気にする様子は全く無く、ルーメンを抱えて満足そうだ。ルーメンは毛太りがなくなってしぼんでいる。お風呂嫌いだからお湯でも水でもすぐに恐怖でブルブルと震える。
このままノンビリ遊んでも良いのだけれど、この湖の水は結構冷たい。巻き込んでしまった事を悪いと思わなくも無いけれど
「ちょっとお願いがあるんだ」
「何の事でしょう?」
ファーナは少し嬉しそうにそう言った。
少しにやけた空気が広がる。
どうせみんな俺が言う事は分かっているのだろう。
「助けてくれ!」
俺が頼りにしてやまない皆は今更か、と笑って同じ言葉を口にした。
『当然です』
――いま、やっと少し怖くなった。
泣きそうになる。
あぁ――死ぬのはやっぱ、怖いなぁ。
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