第241話『門番』

「アルベント、ここでも手を貸してくれるか」
「当然だ」
「ありがとう」

 俺達は握手する。
 アルベントは二メートルを超える巨体の持ち主で初めは滅茶苦茶恐かった。絶対世紀末でも生きていける身体能力があるはずだ。
 味方になってくれたのは偶然でしかない。見た目通り強く短気な所があるが、実際は情に深く義理堅い人だ。俺の味方になってくれるという口約束を守ってくれたぐらいだ。これ程強く優しい人を俺は知らない。
 俺達の握手が終わった所でメラミルトがフッと姿を現した。
 基本的には従属中の戦女神は姿を現さないが習わしのようだが、彼女は自分から姿を出す珍しい部類の戦女神なんだそうだ。普通は主たる英雄に迷惑が掛からないよう喧嘩売ったりしないらしい。多分彼女は大物になるだろう。
 スタスタと俺の前に立つと腕を組んで俺を見た。目線は同じぐらいだ。ゴツゴツした鎧は戦女神は皆着ている。ラジュエラほどの派手さが無いのは戦女神内の階級のせいだろうか。それでも清楚に見える彼女には似合っていると思えた。

『勇者とは!』
 突然ビシッと指差して俺に言う。
「うわっビックリした! メラミルトっていっつもこういうテンションなの?」
「割とな」
 アルベントがフン、と鼻を鳴らす。その性格に少し困らされているようだ。
 しかしそれを意に介する事も無く、メラミルトは同じ言葉を繰り返した。
『勇者とは!』

 戦女神ってこういう口上好きだよなぁ。
 とはいえあまりぐずぐずしていると斬りかかられそうなので聞かれてる事を考えてみる。

「俺に聞いてるの?
 そうだなぁ、うーん。
 勇猛果敢!」
 ビッと両手を斜めにポーズを取る。
『当然』
 彼女は満足げに頷く。
「実質剛健!」
 更にポーズを変えて言う。
『勿論!』
 ぐっと拳を握って彼女が答える。
「一騎当千!」
 両手を挙げて拳法的な構えを取る。
『その通り!』
 かなり興奮してきたのか満面の笑みでそういった。
「巨大戦斧!」
『もう一声!』
「立派なたてがみ!」
『がおー!』
「勇者でへーい!」
『はーい! って違います!』

 パーン! と俺の挙げた手を勢い良く叩いてから俺を指差す。ノリノリだったくせに。
 がおーと言った辺りでタケが噴出して笑ったので正気に戻ったのだろう。

『まったく、貴方は悪乗りが過ぎますっ』
「えー? 俺のせいー?」
『そうですよ!

 勇者とは!

 剣の切っ先です!』

 再び指差した彼女の指先が俺の鼻先を掠った。

「その心は!」
『一番よく振り回されるでしょう』
「なんだか辛い一言になってない?」
『最も傷跡という歴史を残し、戦場を切り開く事ができる者です。
 辛いのは然り、傷を多く負うのも然り、磨り減るのも然り。
 磨耗する前に斬ってしまうのです。
 そして鋭利である為には砥がなくては。
 砥ぐ為の石は貴方の意志。
 さあ、剣主である貴方はどんな意志を見せるのでしょう』

 歌う様な口ぶりからスラスラと言葉が湧いて出る。
 アルベントが居る手前、下手な事も言えない。

「てっぺんまで!」

 でも言える事って差ほど無い。
 明確な理由はもう出来た。

 あとは底に手を伸ばすだけ。

 笑う俺にいつも通りぶっきらぼうに、アルベントが笑い返した。
 多分これで伝わったはずだ。俺が背負うこの後ろに佇む十一人と一匹。これでひたすらこの世界の頂上を目指すのみだ。
 俺達は一同、バベルの塔へと向かう事になった。


 その時は忘れていた。
 あの人の影は何処までも俺に付きまとう。
 それは不幸じゃない。
 俺が、幸運である理由。

 塔が近づくと共に、全ての終わりが近づく。
 きっと此処が最後の――平穏な、世界。



 移動はまた竜の力を借りる事にした。ご飯を多めに盛ってご機嫌を取ってからのアキのお願いで軽く了解してくれた。今回はシィルに頼み込んで皆で頭に載せてもらったのだが、コレがまた物凄い景色を見る事ができた。遠くまで見えるようになり、流れる景色は本当に映画みたいだった。流れる緑と浮遊する島がビュンビュン流れていって、太陽に追いついてしまうのではないかと思う程早かった。
 頭に乗るに当たって、急発進急ブレーキで放り出されても知らないからと忠告されている。実際そういう加減が聞く速度じゃない。感動が鳴り止まないこの場所で皆開いた口が塞がらないという風に絶句していた。いつもクールなファーナやシェイルさんだって同じような顔だったのだから面白い話だ。
 そんな栄えある景色を眺めながらメラミルトの指針に合わせて移動する。彼女すら唖然としていたのだから神様ってなんだろうとか、戦女神の威厳ってなんだっけとかそんな事を一瞬考えたがやっぱり景色が凄いので俺もすぐに口を半開きにする人に戻った。
 思い出したようにメラミルトがアレですと口にした時、遠くにやたら大きな木があるなぁと思ってたものがぐいぐい近づいてきて、それがようやく赤茶色のレンガで巨大な塔だと分かった時に俺が叫んだ。

「でけぇぇぇぇぇえええ!!」

 それは塔だ。蔦が這い、レンガの積み重ねられた塔。
 しかしその大きさの塔が本来地上に存在するわけが無い。地面に強度だってあって真っ直ぐそんな大きな建物を建てるのは至難の業なのだ。地下深くから雲を突き抜け、先が見えない塔なんて初めて見た。
 しかも俺達は竜に乗っていて雲の下とは言え結構高い場所を飛んでいる。
 シィルが一度雲の上に行くと羽ばたいて高度を上げた。雲の上にでて、遮る物が無くなった太陽が容赦なく照りつける場所で、俺達はさらに上を見上げる。
 なんだこの塔は――!

 シィルの体は竜体で羽を広げると60メートル以上あるはずだ。それなのにシィルの体が小さく見えるほどの巨大な塔。
 もっと上に上がろうとして、突然物凄い強風に襲われた。全員シィルが落下するのに冷や汗を掻いたが、すぐに持ち直して飛行を始める。何か特別な力が働いているようだ。まぁそう簡単に行くとも思っていなかったけれど。そして見たところ窓が無い。途中から入る事も難しいようだった。
 攻撃してみるか案も出たが、当然否定された。キツキが言うに『こんな脆そうな名前の塔を自分で壊して本当に倒壊されたら何の意味も無いだろ』だそうだ。確かにバベルの塔なんて俺たちからすれば怖い場所である。

 下から行こうという話になって、シィルが滑空を始める。
 巨大な竜の滑空はダイナミックで気持ち良い。でも飛行機の着陸を見守るような心境になる。ちょっとそわそわする。

 雲の下に降りた時に俺達はソレに気付いてしまった。

 塔の前には門番が居た。
 それに、視界が開けた瞬間に気付いた理由。

 その門番は恐ろしく巨大だったからだ。

「でぇけぇえええええええええ!!」
「それ以外の感想は出てこないのですか?」
「かっけぇぇぇーーーーーーー!!」
『あたしの方がカッコイイし!』
「シィルは浪漫の塊だからな!
 ああ、どうしよう! どうやって通してもらおうか!」

 本当にでかいでかいと言ってばかりだが、でかいのだから仕方ない。
 頭上には何の鱗で出来ているのか巨大な角の着いた兜。
 肩に銀色の巨大な肩当をしていて上半身はそれ以外に目立った防具も服も無い。巨大で荒い縄に縛られたズボンで足は裸足。隆々とした筋肉の巨体が両手で巨大な剣を両手で押さえていて塔の前に阿修羅像のように佇んでいた。

『千年門番、ギガースのラフロレク。
 巨人の神々の血を受けるその末裔です。
 ここで千年の門番を言いつけられており、その役目を果たすと天界へ戻れるのだと聞いています。
 現在七百年と三十六日目。此処から先へ進んだ者はいません。
 さあ、どうしますか』
「聞いてないよ!」
『言ってませんから。しかも中のことは私何も知りませんっ』

 偉そうに言われても仕方ないのだが、と何か突っ込もうとした時にシィルが地面に降り立った。
 シィルはでかいと言った。確かにでかい。背中で走り回って遊べる。
 だがその巨人――シィルのさらに倍ほどの大きさがあるように思う。山のような巨人とはこの事だ。

 距離を置いて降り立ったシィルをぎょろりとした瞳で見て、顎を擦りながら珍しそうに呟いた。

『あぁ、でかい鳥だな。焼いたらウメェかな』
『御生憎様。鳥じゃないわ、竜よ。
 一応其処を退いてくれるのか聞いてあげるわ』
『小さいくせに、態度がでかい』
『スリムなボディに夢と希望と強さが詰まってるだけよ。
 門番なんてしがない仕事してるおっさんに用は無いの。
 もっと上で仕事してないあいつ等に用があるの。
 そこをどけてくれる?』
『ははははははは!
 威勢も気概も良い竜だ!
 大きさはそこそこだな。飼ってやっても良いぞ? ん?』

 シィルがブシュゥーと口から煙を吐いた。
 あ、これヤバイパターンだ。

『シルヴィア、少し待ってください』
 ヴァンがそこで割ってはいる。
『あ゛!? あんでよ!』
『ほぉ、なんだ。神言語を使える者が蟻の中にも居るのか』
「あぁ、さっきからちゃんとした声で聞こえてたのって神言語なのか」

 俺の問いにヴァンが頷く。
 プラングルだと聞こえもしなかったがここだと聞こえる。空気が違うんだろうか。

「そうです。さあ皆さんも準備してください」
「何のですか?」

 ヴァンが口走る言葉に一同息を飲んだ。
 早くもヴァンのペースである。シィル相手じゃないから油断していた。といっても俺がヴァンを出し抜けるほど頭良く立ち回れるとは思えないけれど。
 俺達は一同頷いて、

「こんな所で、立ち止まる訳に行きませんから」

 そう言ってヴァンは振り返って手を翳す。
 そして揚々と口にした。

 それにしても、今日最初で最大の難関をまず強行突破か。
 此処まで俺達をまともに相手取るような素振りは見せなかった。

『戦線布告です。
 其処を退かないで下さい番兵。
 まぁ、貴方の価値は其処に立っていることだけですから、退く事はできませんよね』
『ぬかせ、豆粒風情が。神を相手に侮辱とは良い度胸だ』
『はははは――!
 此処で門番をする神など。
 使い道が無い故でしょう?』

 煽る、煽る。
 神をも恐れぬこの罵倒。シィルも面白くなってきたのだろうか、その口上に乗る。

『あはは! そうねぇ、アンタは既にペットじゃない!
 ほら、吼えてみなさいよ! ワン!』

 シィルは昨日の事、根に持ってるんだな。
 巨人はいよいよ笑ってない。
 俺達の準備は整った。

 後は合図を待つだけだ。


『上等だ、この蝿共が――。
 跡形も残さず、っ!!?』

 術式が発動する瞬間は大技であればあるほど眩しい気がする。当然その後もだ。

『ドラゴンブレス!!』
『竜虎火炎砲!!』
『裂空虎砲!!』
『緑電刺突!!』
『大輪雹華!!』
『金剛孔雀・光撃!!』
「みんながんばれー!!」

 総火力攻撃と言うやつだ。
 コレで効果があるのは油断をしていた敵の殲滅や初回に投じる火力を増やして相手の戦闘意欲を喪失させる事が目的となる。グラネダで戦ってきたヴァンツェ・クライオンという人のやり方だ。
 確かに現状のグラネダを鑑みるに、火力一掃というのはかなり効率の良い話だ。本来相手の陣地でこんな事はしないだろうが、門番の手前である。
 一番最後は黄金が神子、ラエティアの大きな声援である。キツキいわく、コレは言わせておいたほうが良い事が起こるそうだ。ラッキーヒットと言うよりは、クリティカルヒットを生みやすくなるらしい。気持ち意ほど皆が同じタイミングで発動できたのはきっとそのお陰なんだろう。

 しかしこの合体攻撃、個人的には超気持ち良かった。
 これは子供の時に憧れたロボット最終攻撃に戦隊の必殺技を混ぜるような浪漫を感じる。
 巨人だろうと一溜まりも無いだろう。土煙の立ち上る一帯に、

「あはははは――! よっしゃあああ! やっ――!」

 ゴォっと重い雲の中で雷鳴が鳴るような音がした。同時に頭上が急に暗くなった。

「ってなぁぁぁあああああい!?」

 空に壁があるんだと思った。ただ急激に土煙を割って出てきているそれは、すぐに“剣”だと気づく事が出来た。

『ちっ!』

 バサァっとドラゴンは翼をはためかせて後退した。その勢いに頭の上に乗っていた俺達は振り落とされる事になる。

『うわああああああ!?』

 ほぼ全員が叫びを挙げるなか、俺たちを二分するように壁のような剣が通り過ぎた。その風圧で勢い良く飛ばされる。

「うぉっ!? あっ! ファーナ!!」
「コウキ!!」

 ファーナが勢い良く離れていく。俺達は木の葉のように風に押されて飛び散った。
 シキガミは自由落下する為、術士よりも落ちるのがはやい。

「ふきゅぅぅぅ!?」
「うおっ!? ティア!」

 金色の羽を広げてバッサバサやっているティアが、荒れ狂う風を捕らえきれずグルグルと上下不覚に陥っていた。ティアは確か術士じゃないから落下速度を落とすとかそういう術が使えなかったはずだ。

「タケ!! ティアを捕まえて!」
「あぁ!? 聞こえねーよ!!」
「アルベント! 四法さん!! ティアを!!」

 ダメだ――! 術士が居ない!!
 落下さえゆっくりにしてしまえば下に回りこんで受け止めるぐらいはできるのに! しかも風の音が凄くて声が聞こえて無い! 不味いぞ!

 ズドォンッッ!! 巨大な剣が地面に突き刺ささってさらに後ろから衝撃波のような風が飛んでくる。
 本当に壁のようになって遮られた向こう側が見えない。

『あんたの相手はあたしがしたげる。
 覚悟しなさいでくの棒!』

 シィルが巨人の相手をすることに決めたようだ。と言ってもこんな状況では俺達が戦うことは難しいだろう。巨人が言うように俺達は蟻みたいなものだ。

「ふわぁぁぁあああっ!」

 ティアが追い風に更に目を回してとうとう翼が消えた。意識を失ったようだ。

 ティアに一生懸命近づこうと努力するが、どうにもならない。

 どうする、と頭が真っ白になったところで、甲高い鎖の音が聞こえた。
 聞きなれた音が耳を俺の近くを通りすぎる。その鎖の先には――太陽を背にするアキのシルエットが見えた。

「投げてください!!」

 アキの声がそれだけ聞き取れた。
 鎖を掴んでソレを実行する。もうコレしかない。

「うおおおおりゃあああああ!!!」

 鎖を掴んで思い切りアキをスイングする。横アキの横に流れる速度が一気に上がって滑るようにティアに近づく。しかしまだ足りない。

「タケぇぇぇぇ!!!」

 俺は呼びながらラエティアを指差す。
 アキの鎖も同じようにタケに伸びた。
 タケは――ぐんっとその鎖を引くと――ブンッと一回転させる。

「えっきゃあああ!!」

 足場が無いのにハンマー投げしやがった――!
 しかし流石はタケというか、狙いは正確。まっすぐにラエティアに向かってアキが飛ぶ。アキも目を回したりしてないよな、と一瞬心配になったがそんな事は無かった。
 アキはティアを抱えると髪の色を白く変えた。そして地上二十メートルほどの大きな木に大剣を刺して、鎖を縮めながらグンッと振り子のような運動でまた少し空に上る。体操選手が鉄棒から手を離したときのような綺麗な弧を描いてアキもぐるんと宙返りをする。もう少し小さめの木で同じように落下の勢いを殺し、最後はきにグルグルと巻きつくように動いて綺麗にその勢いを殺しきって着地して見せた。道具が有るとは言え技術で着地する姿はスマートでカッコイイと思った。
 俺たちシキガミはと言うと全員無造作に落下して三つの穴を作り、アルベントは超運動能力で普通に着地した。



 巨人が動くのは圧巻だった。まず地響きが凄い。
 二歩地面を揺らして踏み込んで剣を横薙ぐ。
 しかしシィルの方に動きの軽やかさとしては利があった。グルンと木の葉のように横向きに回転してソレをかわす。シィルが小さく見えるというのもおかしな話だ。
 しかし大きさの対比をすれば、巨人から見ればドラゴンがゴールデンレトリバーぐらいに見えるだろうし、そうなれば確かに俺たちは蟻のような大きさとなる。

 ばん、と地面を抉るように蹴飛ばしてドラゴンが距離を詰める。巨人は一歩後ろに引きながら、竜を思い切り蹴り飛ばす。反射で動けば結構な速度が出るらしい。
 ボッ! と音を響かせて竜がボールのように跳ねた。すぐに起き上がるとバサバサと空に飛ぶ。

 巨大生物達が頭上で戦っているのはこんなに怖いのか。蟻の視点の俺たちは息を飲む。

 巨人に向かって右側に落ちたのは俺、タケヒト、四法さん、アルベント、ラエティア、アキの六人である。残ったメンバーは逆側だろう。見事に……アレだな。
 其処まで考えて俺は皆を見る。

「見事にはぐれちゃいましたね」

 アキの言葉に俺は頷く。

「そうだな、脳筋隊と名乗るべきだよな」
「そんなこと言ってませんけど!?」
「ああ、それはオレもそんな気はしてたぜ」
「雪山でトランシーバーを持ってない奴だけはぐれたけど、全員身体能力と生命力で生き残るタイプだよな」
「それそれ。そんな感じ」

 グッとタケが親指を立てて同意してくれる。アキは苦笑いだ。
 アルベントは相変わらずだまって話を聞いていた。
 俺達の話しに四法さんが異議を申し立てる。

「はい! アタシは脳筋じゃな〜い〜っ!」
「法術を使えない奴は脳筋隊なのさ。キツキはルーンの御札が使えるから別枠な」
「うわぁんっ! アキちゃーん!」
「やっちょっとアスカちゃ、やめて〜っ!」

 そんな二人のやりとりにタケといっしょにほっこり顔で見ているとアルベントが空を見上げて言う。

「悠長にしている場合ではないぞコウキ」

 剣は持ち上がって、地震の様な揺れが起きた。
 土煙を抜けて現れる巨人は怒りの表情でドラゴンを睨んでいた。

『殺す……! 殺す……!』

 そう言う巨人の体には無数の傷跡がみえた。
 恐らくといわずとも最初の俺達の攻撃のせいだろう。結構痛そうだが、全員が全力であの程度の傷しか負わないのか、と少し驚愕する。

「とりあえず、シィルに加勢しないと……!
 なんとか巨人の足元に行こう! そんで小指にブラスト・ブランガーしよう! アキレス腱と脛を狙っていこう!」
「ふむ。名案だな。アレだけ大きいとこかすのも大変だ」
「あまりチクチクやっているだけだと踏まれちゃいそうですね」
「もっといいやり方ねーの?」
「うーん……四法さん、タケ、アルベント、アキ、かぁ」

 言い忘れていたがティアは気絶している。
 俺が背負っているので俺の事はあえて数に入れなかった。

「じゃあ……そうだな。四法さんにお願いがあるんだけど――」

 俺たちは一同近寄って意味も無くヒソヒソと話し合う。アキと四法さんは俺の言った作戦に目を覆った。アルベントとタケは恐れ慄く。悪魔の作戦だと非難された。しかし俺達がアレに加担するにはこれしかない。タケは険しい顔で頷いてこの作戦名を決めた。
 『巨人殺し』――俺達が成してしまう快挙を前に付けられた作戦名。
 四法さんが俺の合図で巨大な氷の華を咲かせ――俺達の『巨人殺し』が始まった。

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