閑話.『竜士が往く! 3』

 お母さんが竜に食べられた時の記憶は影絵のように鮮明だ。
 わたしを庇った父に抱かれて竜のブレスを避けた。その向こう側の光景はわたしに笑顔を向ける母と銀竜。
 叫んで手を伸ばしたけれど、届かない。バクッと噛み付かれて、ブンッと顔を振り上げた。
 ブシャァっと赤い血が飛んで、竜がその顔を振り上げた勢いで何かが此方へと飛んできた。
 わたし達の目の前で、ドッと落ちて、ドクドクと血飛沫を出した――お母さんの、右手。それを吐気が擦る程鮮明に覚えている。今まで見たものの中で一番怖かった。

 わたしは叫びながら父にしがみ付いた。

 ごめんなさい、ごめんなさい、って叫び続けた。

 一歩だけ動いたの。怖くて、怖くて。でも父や母の傍に行きたくて。その一歩のせいで竜が此方を向いた。

 絶対動くなってお母さんが言ったのに。

 竜は、そのままいつの間にか消えていた。
 母の右手もマナとなって世界に消え、そこに残ったのは形見となった十字架剣の腕輪だけだった。

 その時初めて父が涙を流した。
 どうして自分には二人とも救ってやる事ができなかったのかと――声を漏らした。

 オセレッタさんもショックから泣いていた。
 彼女が伯父に伝えようとしていた事は――お腹に子供が居るという事だった。それをもっと早く言えれば変わったかもしれないと悲しんだ。
 父曰く伯父はそれでも変わらなかっただろうという。自分が交代を焦りすぎたのだ自分を責め続けた。

 その逆鱗の物語は、わたしが勇気を貰って動き出すその時までひたすらに自分を苦しめる夢となる。

 ――あの夢を見なくなって随分経つ。沢山の幸福な記憶で埋めてくれた友人。そしてなによりも奇跡の対面。あの人はあんな事を気にしてなんか居なかった。胸張って生きろって行ってくれた。きっと竜のように、大きかった人。




 戦女神杯の前で皆武器が入用なのだ。皆がこの武器の街を順繰り巡ってそれぞれ自らに合う武器を探す。
 わたしも武器探しの途中ではあるのだけれど、どうも懐も心もとないしクルードさんのところでアルバイトをする事になった。
 剣自体は良い物だった。すぱすぱと色んな物が切れるし、例えば石程度では刃こぼれしないような物もある。剣術の達人が何処を見るのかは分からないが、こういうのも大事だ。基本的に黒鉄という素材は、重く密度が高い。けどその分の威力と鋭さが出せて、良く切れるモノが多い。そもそも加工する時に力が要るもので、真鍮としては主力だが単体ではあまり使われないものらしい。
 そんな良い剣がありながら何故閑古鳥が鳴いている状態だったのかは謎だ。前の店はアルベントさんや、なじみの傭兵をお客にしていたみたいだ。
 このソードリアスに店を出したからには、有名な店になるという野望はあるみたいだ。それ自体はとてもいいことだと思う。
 そんなこんなで最初の仕事は呼び込み。やってみれば、少し人に声をかけられる程度であまり効果が無かった。

「どうだい調子は」
「あ、お疲れ様です。それが全然こっちに来ようとしてくれません……」
 そこにあった出店で買った飲み物を渡してくれる。壁にもたれかかりながら煙草に火をつけていた。
「ま、そうだろうな」
「やっぱり何かあるんですか?」

 わたしが言うと、クルードさんがポツポツと話しだした。

「……ソードリアスは多分一番獣人の割合の多い場所だろう。
 街という大きな割合で存在できているのは此処しかないからな。
 で、まぁ話は変わるが最近町長が変わった。いや、前任が居なくなっただけだから代理だがな」
「そうだったんですか」
「あいつはまぁあっち側の人間からの信頼は厚いが、こっちからは全然だ。
 オヤジもアイツは嫌いだって言ってた。当然オレも大嫌いだ」
「その人がもしかして獣人街を嫌っているんですか」
「ま、そゆ事」
「いい人ばっかりなのに……」
「はっは、そういってくれるが、世間はそうじゃねーのよこれが。
 主に獣臭いとか言われちゃってね。あ、俺今臭う?」
「この街暑いですからみんなおんなじようなものじゃないですか……」
「そうだろ? 汗だくになってみんなで叩き上げた街だってのに。
 まぁ元はそうだったのかもしれんがね。それでも身体はなるべく洗うようになったし、臭い云々自体はもう解決した話なんだが――難癖はいくらでもつくもんだよな、ホント」

 人種差別かぁ……何処に行っても聞く話だ、とファーナが憤っていたがやはり此処もそうだった。
 工業都市ソードリアスは暑い街だ。歩けば嫌がおうにも汗を掻く。ファーナは日傘を差して歩いていたが、そうやって居る人はなにもファーナだけじゃない。
 人は多い。
 集客する方法を考えた時に、声を張る以外の何が出来るだろうか。
 ファーナみたいに歌が上手いわけじゃない。どうするかなぁ。
「……あの、こっちの広場にいくつか持ってきて売れませんか?」
「んーこっち側出店にゃ許可とショバ代が要るんだ。しかもボッタクリだからな。街の人間は誰も好んでださねぇよ。せいぜいこうやって声張ってんのがいいとこなんだわ」
「そうですか……」
 難しい条件だ。
 しかしこのままでは埒が明かないのも事実。

 沢山の思い出の中からコウキさんの謎トークを思い出してみる。
 例えば八百屋さんを見て言った言葉が元気良くていいよな、とかそんな事。商売の基本の笑顔が一番身につく場所だって言ってた。
『ま、俺が一番好きなのスーパーの試食だけど』
 そういう顔がやたら嬉しそうで笑っていた。
 うん、確かに食べれるっていいよね――。

「あ」

 閃いた。試す、でいいんだ。
 ただちょっと勇気が必要だ。
「何か思いついたのか?」
「はい! その、武器をいくつか借りたいです!」
「おお、なんかやる気だな!
 いいぞ言ってみ!」
「はい! 剣と石です!」
 姿勢はそのまま、首をゆっくりと傾けた。わたしもそれに合わせて同じ行動をした。


 準備。視線を集める為には周りとは一線を画した何かが必要だ。
 例えばコウキさんの真っ赤なコート。例えばファーナの歌声や今身近な所ではアルベントさんのような巨躯。
 残念ながらわたしにはそんな立派な特徴が無い。あのパーティーで一番地味な子だった。
 ただ、唯一。
 女の子には視線を集める魔法が一つある。誰にでも使えるというわけでもないが、とりわけ効果は高いといえる。
「さ、さぁ!! 皆さんお立会い!
 えと、あの、やっぱり変わってくださいクルードさん!」
 自分で声を張ってみようと思ったけれど、段上に立つ自分は緊張で台詞が全部吹っ飛んだ。
「はっはっは!
 さぁみんな! 寄った寄った!
 そこの水着のかわいこちゃんが持ってるのは黒の鋼鉄剣!
 ん? たわわで股間の鋼鉄剣が立派になってくるかい!?」
 感嘆の声や口笛が飛ぶ。
 ぶわぁっと真っ赤になったと思う。恥ずかしいが後悔しても遅い。
 肌を晒す。あまり使いたくは無いものだったが、露出を高める事によって視線は集まるものだ。
「女が持っちゃ様にならねぇ、なんてナンセンスだぜにーさん達!
 これからこの子が見せてくれる……そりゃ勿論、剣の切れ味だ!」
 すっと自分の顔の横に煉瓦を出してそれをコンコンと叩く。
「いくら剣を振り回したって、煉瓦や石に当たっちまえば弾かれちまう。
 ガンガン付き壊すのはツルハシの仕事だ」
 ぽんぽんと煉瓦を手の上で玩んで、此方に視線を送ってくる。
 ここからが本当のパフォーマンスだ。外せない。ギュッと剣を握って上に振り上げるように構えた。本当は真っ直ぐ普通が良かったのだけれど、どうせその格好ならそうしたほうがいいと言われた。言われると本当に恥ずかしい。
「だが!
 見よ黒く輝く鉄!
 これが本当の武器の価値だ!!」

 バッと投げられた石が高く宙を舞う。それが落ちてくるタイミングに合わせて、上から下へと剣を振りぬいた。
 パキィン! と音が鳴って綺麗に宙で真っ二つになる。
 実際クロードさんの作っている剣は質が高い。この程度は造作も無い剣が店中にごろごろ転がっている。
 手首を返して、空中でもう一閃煉瓦を斬る。これで八百長を疑われる事は無いだろう。

「女の子が振ったって石が真っ二つ!
 切れ味と威力が売りだ!」

 からからと音を立てて落ちたそれを見て、大きな歓声が上がる。
 この剣も結構使いやすい。

「野郎共! こんな可愛い子が使った剣が欲しいかァー!」
『うおおおおおおおおお!!!』

 なんか違う! わたしが目指してたのとなんか違う!
「そーゆーのは違うと思います!」
「はっはっはぁー!
 その剣はプレミアもんだなー!
 いい剣扱ってるぜ! 戦女神杯の吟味に来てるなら一度足を運んでくれよなぁ!
 獣人街のクルードの店で待ってるぜー!」


 そのまま大通りのいたるところで色んな剣芸をやってみせる。一番受けが良かったのは壁蹴りから高く石と同じ高さまで上がって、落下までに十回切て見せたときだ。
 それは一番街の入り口近くで、大きな広場だった為、一番人が集まった。
 少しでも効果があればいいなぁ、とクルードさんと帰っていると、前に妙に人だかりが出来てるのが見えた。獣人街で人だかりが出来ているのは珍しい。
 その向こう側で此方を見た一人の獣人がピョンピョンと跳ねた。
「アニキぃ! アニキー!」
「……って、ありゃウチの店か!!」
 クルードさんは一応弟子さんを取っている。チップという名前の猫の顔の獣人さんだ。とても弟子さんらしい愛嬌がある。
 宣伝に出ている間、店番を任せて居たのだが――二人で顔を見合わせて頷くと取り合えず店までの道を走る事にした。

 目が回るほど忙しいとはこの事か。一番それが体感できるのは飲食の業界だ、とコウキさんが胸を張っていたのを覚えている。確かにお昼時にクルクルと回るように注文取りと配膳を繰り返すのは忙しそうだ。
 とはいえこっちも忙しいと言うのは変わらない。ちなみにもう服は着た。あれ以上我慢ならなかったので流石に店内の仕事は普通の服とエプロンを借りた状態でやっている。
「いらっしゃいませ! 突剣ならこちらですね」
 求められればまずそこに案内する。
 まずはお客様の欲しい物を瞬時に判断して装備品から何と無くこの剣が良さそうだなと言うのを渡してみる。わたしのセンスで似合う似合わないを決めているので拒否されることもある。さらに言えばこういうのは自分で選びたいという人が多いので基本的にはそういう剣が置いてある場所を紹介する。
「此方などがオススメで密度が高くてスマートですし、ここ術石やガラス細工なんかもはめられますよ」
 一通りの特徴は教わっているので、それにあわせて良い所を紹介する。勿論付けれるものをつければ重くなってしまう。つけなければ、付いてないと思われてしまう。それも嫌な人は嫌だろうし。
「あ、重心ですか? 勿論変えれますっ」
 色々とサポートの面で安心させるというのも大事だ。後で磨ぎに来てくれたり、足を運んでもらえる機会が増える方が断然いい。
「クルードさん! この剣の調整お願いします!」
「あいよー! あ、ねーさん良いの選んだねぇ!」
「あ、こちらのお客様はお会計ですー!」
「まいどッス! こっちの剣は鞘がこれかこれになるッス! 研磨剤は一緒にいかがッスか?」
 最近の作品なるべく外で見てもらえるように外へと出して、クルードさんが接客している。
 わたしはなるべく女の人の呼び込みと対応、そしてレジをやる。
 時折チップさんがレジをやっていて、まいどありッス! っていうのがなんか可愛い。

『ありがとうございましたー!』


 その日、日もすっかり落ちた中最後のお客様を送り出した後で、みんなでバタリと倒れ込んだ。
 流石に疲れた。
 店の前で顔を抑えて突然クルードさんが爆笑し始める。
「は、はー! すげぇ! こんな売れたの初めてだわ! ははははは!」
「さ、さすがアニキの剣ッス!
 やっぱ足りないのは客だけだったッスね!」

 どうしても獣人だけじゃ無理がある。この場所へもっといろんな人が簡単に来れるようにならなくてはいけないのだ。
「アニキ……その、素人のオレがナマ言うのもアレッスけど!
 もう職人街へ店をだしましょうよ!」

 此処に居ては売れるものも売れない。
 ここ数日、クルードさんは鍛冶作業はしていない。
 売れないからまず材料費も馬鹿にならないって言ってた。
「……ダメだ」
「アニキ!」
「……オレがこの街見捨ててどうすんだ。
 流れモンだけどよ。ここはもう故郷じゃねぇか」
 クルードさんは煙草に火をつけて一度ふかした。
 フワッと煙があたりに広がる。

「この……戦女神杯に隠れた話なんだが、市長選があるんだ。
 オレっちはなんとしてもそれにオヤジになってもらいてぇ」
「レオングスさんですか」
「ああ。オヤジならこっちの事も考えてくれる」
「立候補ってしてるんですか?」
「いや?」
「えっ、じゃあダメじゃないですか」
「はっは、大会で人があつまるから、候補者の最終決定があって、その後投票なんだ。大味でいいだろ」
「い、いいんですかね……」
「ま、それ自体はオレっちの知ったことじゃないぜ。
 何にせよ、このまま変われるか変われないかのでかい話なんだ。
 武術大会に優勝して、俺を壇上に連れてってくれよ、なぁ」
 そういって投げ出していた身体を起こして前のほうを見た。
「アルベント」
「ああ」

 いつの間にかアルベントさんが訪れていた。それを知っていたかのように声をかけるクルードさん。この二人はもう長い仲なんだなぁと感じる。
 戦女神杯かぁ――。そういえばトップになった人は戦女神から良いものもらえたりするらしい。まぁそれよりも勝った時の名誉の方が大きい。
 それに便乗しようとする市長選のほうが実は性質が悪いように思う。
 夜になると此方の区画とあちらの区画を区切るようにゲートが閉じられた。
 夜移動する事は無かったので気づかなかったが、各門に見張りつきだ。まるで、こちら側はもう外かのような扱いだ。
 これは確かに苛立つだろう。
 普通の人の通り抜けは可能なんだそうだ。此方に宿を取っていても行き来は可能だ。
 これは明確な差別だ。

 わたしが、なんとかできる問題だろうか。市長選があるなら市長を選ぶ市民がなんとかできる。
 わたしの出る幕は無いはずだ。 


「クルードさん」
「お? そだアキちゃんにゃ世話になったし、給料弾まないとな」
「いえ、給料はいいです」
「ええ?」

「剣を――作ってください」

「オレが?」
「はい。だめですか?」
「………………」
「あ、アニキ……」
「…………あ、別にいいんだが」
 真剣な顔をしていた為、息を呑んだわたしたちは拍子抜けして滑っていた。
「べ、別にいいのに引っ張ってたんですか?」
「ん〜まぁ、オヤジがつくらねぇっつんならいいんだ。
 俺ァてっきりあれとおんなじ奴欲しいんだと思ってたしよ。
 あ、おいチップ、伝票まとめといてくれ」
「あ、はいッス!」
 そう言ってチップさんは店内に戻る。
「わたしは……剣が欲しいんです」
「そうか……そいつは何の為に使うんだい」
「わたしの剣は――」

 わたしの剣は何の為に使われるのか。
 竜士団を継ぐ為? 戦争を行う為?

 色々、思考が廻る前に一番最初に思いついた事が結局結論だと思って、思うがままに言う。

「友達を助けたいんです」

 本当にそれだけの為にわたしはここに剣を買いに来た。
 コウキさんが虹剣に辿り着いたみたいに本当のラッキーを重ねないと出会えない物に出会わないと、きっと意味が無い。でも剣がないって言うのはもっと本末転倒だ。
 でもお母さんのように、名前の無いものを買っても後で貰う場合もある。剣の真価は持ち主によっても決まる。勿論無名のままで強い剣だって沢山ある。わたしが期待するならそういうもの。だからクルードさんに会っているという縁は決して偶然ではないと信じてわたしは剣を依頼することにした。

 黒い顔が闇にとける、真剣に何か考えているような素振りからピコッと耳が動いてゆっくりとこちらを見た。

「……アキちゃん、コウキ狙いだっけ?」

 長い間柄であるコウキさん。
 わたしの旅に近くには居ない人だけれどよく名が出てくる。
「そ、そういうんじゃないです!」
 そういえば何かちょっと考えるとコウキさんである。
 わかってる。ええ。自分でも、その。何と無く分かっているからわたしに言わせないで。
「ホントに?」
「ホントですよ〜っ」
「そうかい? 奥手は過ぎると損しかしねぇ。
 きっとお姫様に遠慮してんだろ? そーだろ?
 まぁ人の話に首つっこんでもいい事ないし、やめとくが」
 そこでクルードさんは突っ込むのをやめてくれた。良かった。危なかった。何がかは言えない。
「剣の話に戻ろうぜ。
 んじゃ黒くて太くて長くて大きい奴で良いんだよな」
「なんで急に抽象的に言うんですか!?」
 作ってくれる事になったようだ。しかし――クルードさんの剣と言えば黒いだし、わたしの要望をいえば幅が広くて長くて大きな剣を所望しているのは確かだ。
「へっへっへ、熱い出来立てのをくれてやるぜ」
「いえ、冷めて研ぎ終わったやつを下さいよぅ」

 もう迷っている暇は無い。だから直ぐに欲しい。
 その剣は一週間、付きっきりで作るそうだ。久しぶりにでかい仕事だ、と肩を鳴らしていた。
「――ああ、そうだ、一つ頼まれてくれないかアキちゃん。
 場合によっちゃこの剣の金はいらねぇ」
「えっ! 本当ですか!」
「ああ、アキちゃんなら今日良い宣伝してくれたし、出来ると思うぜ」
「一体何をすればいいんですか?」
「ああ、戦女神杯に出て欲しい」
「ええ!?」

 それは困る、と一瞬思った。約一月後に開催されるそれは余りに時間が掛かりすぎると思ったからだ。……ここから最短で剣を作ってもらってもどうせあそこに居ると言っていた時間に間に合わないのだけれど。そもそもグラネダに戻って会えるとは余り思えない。ならどちらかと言うとそういうイベントは自分から踏んでいくべきなのではなかろうか。
 ひと月。剣が出来て慣れながら修行。強くなる時間があって、更に本番の大会。
 剣が出来て慣れながら帰れば――いや、もっと貪欲にやらないと。もっとも短期間に、強くなる方法。
 それはやはり強い人が居る場所に身を投じる事――!

「出ます!!」
「ほほう、いい返事だな! 恩に着るぜ。アルベントとワンツーしてくれるって信じてるぜ」
「出るならやっぱりワンは譲れませんね」
「お、どうやらイヌ科らしいぜ」

 わんだけにって。クルードさんはその冗談にクスクスと笑う。

「尚更譲れんな」

 ただアルベントさんはそれだけ言って少し口の端を不敵にゆがめた。
 仲間の次は敵である。
 基本的には、クルードさんの看板を背負っているのは変わらない。

「ま、オレは精々二人が真っ先に当たっちまわないように祈ってるよ」

 そう言ってわたしの剣の材質の詳細をちょっと喋って、今日はもう食事を食べて寝ることにした。アルベントさんはただ手入れに出していた斧を取りに来ただけのようだった。
 この一ヶ月に掛かっている。わたしは何が出来るだろう。
 それを全力で考えて、全部実行しなくては。とりあえず、一週間の店番を頑張らなきゃ。そんな事を考えているうちに、その日の疲れからか、すぐに寝入っていた。
 今日はいい夢が見れそうだ――。

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