閑話.『竜士が往く! 10』

 大丈夫だ。ファーナの気質を信じるだけ。
 グッと拳を握って覚悟を決める。

 胃の中の異常な臭いに当てられて少しクラクラする。一刻も早くここから出たい。マスク代わりのタオルに香水ふりかけてその状態だ。胃酸はかなり強烈で、容赦なく先ほど食べた物を溶かしている。ちょっとえぐい光景に慣れていないアイシェとアイルは眼を閉じてルーちゃんと一緒に耐えている。最悪ルーちゃんがいればお尻側から出られるかもね、と言ったらあの二人は絶句してわたしを見ていた。当然と言えば、当然の反応であるけれど。
「おい、本当にやる気なのか」
「他に方法はある?」
「ねぇけど……もっとマシな方法は無いのかよ」
 わたしがやる事は皆に伝えてある。
 それもまた妙な顔をされたが、皆承諾してくれた。一番年上で一番経験者であるわたしを立ててくれるらしい。まぁ実力は見せた訳で子供のワイバーンぐらいならどうと言う事は無い事実と余裕からわたしをこの中では一番実力がある人間だと満場一致でしてくれたのだ。
 外に出たのはわたしとディオ。消化通の肉片の上に乗って、二人で胃の壁を目指していた。
「え? 心配してくれるの?」
「馬鹿か。別に心配なんかしてねー」
「……ディオ、素直じゃないってよく言われない?」
「今そんなのかんけーねーだろ! 話の腰を折るんじゃねぇ!」

 怒られてしまった。今までそんな事はなかったのだけれど、やっぱりこんな時に無駄話をするのは非常識っぽい。
「うーん、わたしにはこれ以上はないけど」
「……ならいいよ別に」
「もしもの時は、お願いね」

 今わたしがやろうとしている事は、このブレスレットに対してマナを大量に収束する事。
 そして収束量超過<リダンダル>を起こす事だ。

 何が起きるかは分からない。法術が危険と言われる理由は主にこれであって、酷い場合は身体ごと吹き飛んだなんて事もあったらしい。自身の収束量を分かっていれば大した事は無い、とファーナは言う。その分杖や剣に収束するときにはとても気をつけなくてはいけない。
 わたしが今回期待しているのは、この腕輪に付与されたファーナの気質の影響だ。多くの場合は剣や自身の気質に左右される。わたしの持っている剣には術式回路は無く、術式の指向性は無い。完全にニュートラルな剣である。   そしてわたしの受けている加護とファーナの祝福があるのならばこれが最も炎術適正を持ったわたしの武器となる。

「……やっぱり俺が変われないか、その役」
「やっぱり心配してくれてるんだー。ディオは優しいねっ」
「うっせ! だから話の腰を折るな! アンタは女だろ! そういうのは男がやる事だ!」
「さっきも説明したけど、この中で適役なのは炎術加護を受けてるわたしだけ。
 これなら……絶対、収束量超過<リダンダル>で――」
「爆発して、死んだらどうすんだよ!」

 そう、爆発する。炎術性の高いものはほぼ爆発が起きる。

「それは仕方ないかな」
「仕方ないって、そんな簡単に諦めるのか!」
「諦めてないし、わたしを死ぬみたいに言わないでくれない?」
「いや、十中八九死ぬだろ」
「嫌だよ、わたしまだソードリアスに戻って大会出ないといけないし」
「どんだけ重要事項になってんだよ……」
「強くなるチャンスじゃない? しかも戦女神杯は、必ず加護者の人が来るって話しだし」

 そう、戦女神杯になるとその名の戦女神に加護されている者は必ず現れるとされている。
 つまり、ほぼあそこにはコウキさんが現れる。
 更にわたしが最も憎むべき存在もだ。あの二人を合わせてはいけない。例え男の約束がどうのとか言われても、女だから関係ないですって押し通っておこう。

「……わかった。死んだらその剣俺にくれ」
「絶っっ対死ぬもんか!!」

 わたしは剣を抜き放って構える。胃に剣を差し込んでから一気に爆発させる。イメージは剣の先から中心にかけて爆発してくれれば最高の成果が出る。刺すだけではおそらく吐くに至らない。なので思い切り爆発をすればいい。それが今回の作戦の理由だ。
 妹分も居る事であるし、今情けない所を見せて居ても仕方ない。ファーナが居てくれれば簡単だった。でも今はわたししか居ないのである。勝手にアイシェを連れてきた手前、わたしが皆を連れて帰らないと示しも着かない。この子達はわたしが守って然るべきである。

「いきます!」
「おう!」

 わたしの掛け声にディオが答える。
 間髪入れず、わたしは一番近くにみえる胃の壁に大牙を思い切り突き刺す。

「いっけぇーーーーーーーーー!!」

 ヂヂヂヂッ! 明らかに収束量超過を起こした腕輪が赤い稲妻のような光を放った。ピリッと腕が痛んだような気がしたけれど、まだ全然なんでもない。
 そして、次の瞬間、ズドンッ!! と酷い破裂音が聞こえた。それは赤い糸のような稲妻になって、バンッとわたしの右肩で爆発する。あと少し左だったら首だった。けど、セーフ!
 背中に滝のような冷や汗が流れた。どくどくと自分の血が吹き出るけれど、剣を抜くまでわたしの仕事は終わらない。

『ゴォォォオオオオオオ!!!』

 恐らく、グレーとワイバーンが鳴いた。胃の中でも聞こえる絶叫は、その激痛を物語っている。そして激しい揺れが起きて、ルーちゃんが囲んでいる球体壁が胃の中をバウンドする。

「キャアアアアアア!!」
「うおっ!? ヤバイ! おい、大丈夫か!?」

 剣を引き抜いてよろけたわたしをディオが支えてくれる。後ろにそのまま倒れたら悲惨な事になっていた。

「いたっ! 大丈夫っ!」

 突然、ぐるんと天地が変わる。そして異様な浮遊感と音と共に、胃が収縮を始めた。

「ルーちゃん! お願い!!」
「キャゥ!」

 ルーちゃんはアイシェにものすごいしがみ付かれている。できれば放してあげて欲しい。じゃないと色々やりづらそうだ。あんな役ばっかりだなぁルーちゃん。

 ディオと一緒に纏められて、みんなで一緒に胃の中を跳ね回る。そして、こみ上げる色んなものと一緒にその喉の上へと上って行った――。

 その途中の光景は壁の特性から出る光のお陰で結構はっきりと見えた。ただ眼を閉じるわけにもいかず口元を押さえて我慢して見る。

「……最低の光景だよね」
「……奇遇だな、俺もそう思ってた」
 ヌルヌルとしたものとドロドロに溶け掛けたものと赤黒い血が混ざり合って酷い図が出来上がっている。極力薄目でそれをみて、外に出たところを見極める必要がある。
「出たら頭に飛びつくからねっ」
「了解」

 その一言を交わしている間に――ドパァッとわたしたちは色々なものと一緒にグレートワイバーンの口から飛び出した。
 青い空、綺麗な空気。ああ何てこの世界は綺麗なんだろう。
 戦が終わったあとはいつも綺麗な世界だけが待っていてくれる。そうであって欲しいものだけれど。

「解除!!」
「カゥゥ!!」

 わたしたちを囲っていた術式壁が解除されて、ぶわぁっと風に襲われる。降下している最中で全員が風に押し飛ばされる。ルーちゃんが咄嗟に方向を変えたお陰で、嘔吐物と一緒ではない。ぐるんと視界が一転すると青白緑茶色といろんな色が見えた。空と渓谷と森だけでかなりの景色の回転で目が回る。まだグレートワイバーンは空を飛んでいたようだ。
 しかし、これでは近づけない――なんとか、近づかないとまた食べられてしまう。とりあえず近くを飛んでいたルーちゃんを確保して、素早くバッグに入っていてもらう。
 天地逆さまとなって離れていくグレートワイバーンの背を焦りながらわたしは見送るしか出来ない――。

 唇を噛んだその瞬間、キラッと銀色に輝く光の線が見えた。それは背中の中心へと向かっている線で、その先には見覚えのある銀色のナイフが刺さっている。

「――捕まえた!! アイル!!」

 彼女は右手のナイフをワイバーンの背に、左手のナイフをアイルの目の前に投げた。それを掴んで、アイルがディオに手を伸ばす。

「うん!! ディオ!」
「ほら、掴まれ!!」

 あっという間に、三人が繋がる。そしてディオがわたしへと手を伸ばしてきた。
 ――息ピッタリだ。わたしは笑いながらその手を取る。何笑ってるんだ、とプリプリ怒るディオを見て更に笑えた。
 アイシェがワイヤーを引いて、ワイバーンに近づく。
 灰色の鱗にみるみるうちに近づいて、尻尾付近にアイルちゃんが着地した。ワイバーンの背近くは風が少し弱めだ。それでも手を放せば十分に吹き飛ばされるだろうけれど。
 着地の大勢を取ろうかと思ったところで、ぐいっと手が強く引かれた。風も強くなって、何事かと思ったが――。
 アイルが、ワイバーンの背を走り出した。鱗はデコボコしていて、かなり足場としては悪いものだと思う。それをものともせずにアイルがわたし達を引いて真っ直ぐアイシェの所まで。落下の力を借りているので、殆ど体重は関係なかっただろうけれど、それでも二人を引いて走るのはかなり力も要るしこの状況を走るバランスも必要だ。口にナイフを銜えて、両足と左手を使ってぐいぐいと風の中を逆送する。そもそも身体が浮き上がるのにどうやっているのだろうか。異様に低い姿勢とかが関係していそうだけれど。
 そう思っているうちにアイシェの居る背の中心へと辿り着いた。ワイバーンは降下を止めて一度上へと飛び上がる。

「ありがとみんな!」
「お姉ちゃん此処からどうする!?」
「頭に行くっ!」

 青空に吸い込まれるように高く舞い上がって、雲に当たる。
 山の高いところに行くと雲に当たれたという話を聞いた事があるが、実際に当たったのははじめてである。この風をきる感覚もかなりスリル満点だ。
 頭が小高い丘みたいだ。本当にこのワイバーンは大きい。

「次、落ち着いたら角まで一気に走るよディオ!」
「分かった! 遅れんなよ!」
「アンタ逐一大口叩きすぎ!」

 アイシェに突っ込まれたところで、ブワッと空気の動きが変わった。景色も広大ひろがる空の風景を見せてくれ、もし観光なら綺麗だなぁと感心できただろう。現にアイシェとアイルは、はぁ、っと息を呑んでいた。わたしは何度目かの光景だ。眼下に広がるその光景は何度も何度も誰かと一緒に見てきた。すべて鮮明な記憶である。
 わたしとディオは間髪居れずに各々がツノへ向かって走り出す。わたしが左、彼が右だ。
 この一瞬を逃す手は無い。この一瞬のみがわたしたちの勝機への道――。


 その“竜の道”を、わたし達は駆け出した。


 アイルが低い姿勢をとっていたのは最低限空気抵抗を受けない獣的な走り方をするためだ。彼女が竜士としてどういう修行を積んできたのかは知らないけれど、それを見よう見まねでわたしもワイバーンの上を仮神化を使って一気に走る。
 そして、グレートワイバーンの急降下が始まった。わたしたちを振り落とす為のその行為はわたし達が居なくなるまで続けられるだろう。
 壁みたいになって身体を押し上げてくる風に向かって何とかツノの裏へと辿り着く。そこは風が遮られていて、先ほどまでの場所とは全然違う。

「うぉ!? あああーーーー!」

 風に押し上げられたディオが足をワイバーンから離してしまう。
 しまった――。此処からではとても助けに行く事ができない。せめてルーちゃんに球体壁で保護しておいてもらわなくては、と指示を頼もうとしたその時、後ろから物凄い勢いで彼をキャッチして、ツノに体当たりをするようにアイルが彼の到着を助けた。
 あの子、凄いなぁ。
 わたしの素直な感想である。余談だけれど彼女は動物と感覚同調することができ、あれはグレートワイバーンの動きが出している風に乗っただけらしい。命綱にアイシェのナイフを持っていたが、かなり連携の取れた三人だ。なんだ散々仲が悪いように見せておいて微笑ましい限りだ。

 その光景を見終わった頃には丁度雲を抜けて、緑色の大地が迫ってくるのが見えていた。スカイダイビングとコウキさんは言っていたが結構怖い思いをした記憶がある。

 この光景を見ながらわたし達が最後にする事は――。

 剣を鱗に突き刺して、拳を握る。今回ばかりはこの剣はただのわたしを固定する棒の役割を持ってもらう。反対側のツノの前では同じく仮神化したディオが同じように拳を握っていた。ディオはアイルちゃんが抱きつく事で安定を保っているようである。
 ズキン、と右の肩口が痛む。酷い裂け方をした。応急処置なんてする暇も無いので血は未だに流れ出ている。握っている拳は左だけれど、必然的に剣を掴む手にも力は入る。
 しかしそんな事に気を取られている暇はない。一刻を争うのだ。今この力を生かせなくてどうする。痛みを忘れるために仮神化に集中して――拳の先にだけ、意識を集中する。

「ルーちゃん、合図!」
「キュー!」

 パァッとルーちゃんの使用した術式が、異様に眩しい光を放つ。その光は太陽を見たような眩しいものだ。目暗まし用で、目の端には白い光の残光が残る程だ。でもわたしが拳を放つと決めた場所は逃げないので関係ない。
 この頭から無造作に剥き出た骨を容赦無く、竜人の怪力を持って叩く。仮神化でどのぐらいになるかなんて分からないけれど、少なくとも母はドラゴンレプリカの足を取る程度には力を持っていた。それがわたしに備わっていないわけがない。
 それに密度を高めたこの状態なら絶対にこの脳を揺らす事ができる。出来なければ振り落とされて死ぬ。それだけだ。故に死ぬ気でこの一撃を叩き込む。

 ガギャァァンッッ!!
 ズゴォォォンッッ!!

 同時に鳴り響いた音が凄まじい勢いだったことを示す唯一の手がかりだ。
 わたしが殴ったツノは――メキメキと亀裂が入り、節々がパリパリと欠片を飛ばした。ディオの方も同じように亀裂が入っている。

『――カッ……!?』
 断末魔のような短い鳴き声が聞こえた。

 そして、ふっと術式の掛かっていた身体から酷い風の嵐が術式行使光の残光を残しパッと緑色に光って消える。
 緑色の森が近づいてくるのは変わらない。後は自然落下だ。全員がグレートワイバーンを蹴って空へと身を投げ出した。グレートワイバーンはその重さもあってみるみる速度を上げて落ちていく。

「俺達の――!!」

 ディオが雄たけびを上げる。
 風で顔がすごい事になってるけれど、ワイバーンの行方を見届けるのをやめない。

「勝ちだああああああああああああああああああ!!!」


 ズドォォォォォォォンッッ!!

 大地を揺れ、大量の鳥が飛び立つ。そして木のへし折れる音と地響きが盛大に響きわたる。そしてその横たわるグレートワイバーンの身体を覆うように土煙が立ち上った。
 突然一つの山が出来上がったような――そんな光景。

「よしっ! ルーちゃん!」
「カゥーーー!」

 ふわっっと球体に包まれて安心する。ルーちゃんのサポートが無ければどうなっていた事やら。胸を撫で下ろして、三人に纏められた球壁を見上げる。

「ちょっと、お尻さわんないでよ!」
「意図的じゃねぇよ! さわいでんじゃねー!」
「……重い……」

 一番下になってしまっているのは、ディオに抱きついていたアイルである。ディオがワイヤーを引いて引き寄せて、お尻から抱くような姿勢になっていたらしい。

「わりぃ、場所は変わる。ほら、動けよアイシェ」
「や、ちょっとっ変なトコさわるなぁ!」
「あうっ」
「コラアンタ! ドサクサに紛れて今度はアイシェの胸なの!?」
「めんどくせぇえええ!」

「あははははは!」

 ああいう仲良し三人組なんだなってすぐに理解できた。
 アイシェの願いはこれで叶った。

「――任務達成かな。アリガトねルーちゃん。町に着いたら好きなもの買ってあげるっ」
「キューっ! クゥ!」

 行きも約束したのだけれどルーちゃんはその言葉にとても喜んで、カバンの中でバタバタと尻尾を振った。
 ゆっくりと降りる光の球が、蒼穹の中でキラキラと光っていた。



 落下の衝撃で完全に折れていた角を回収して、クロスセラスへと戻った。時間的には行きと同じだけれど、気持ちの軽さが違った。皆が晴れ晴れとした顔で歩く道は色んな話をした。アイルちゃんが動物と同調できると聞いたのもそのときである。
 その討伐賞金は額面通り。賞金は全額アイシェちゃんの治療に当てる事に賛成した。あれだけ苦労して怪我もして無報酬なのは少しため息も出るが仕方ない。現場の判断力と度胸は付いた気がする。何よりあの三人を見ると、この依頼はやってよかったと思えた。
 自分は一泊してから戻ろうかなぁなんて思っていたら、ギルド前でウィルター夫妻にばったりと出あった。二人とも丁度娘達を探してクロスセラスを訪れたようだ。傍らに居るポッキィがわたし達の所へと導いたのだろう。
 事情を話すと、三人は面白いほどポコポコと父親にゲンコツやらチョップやらで叩かれていた。そして二人はわたしに頭を下げてお礼を言ってくれた。その言葉はありがたく受け取っておいて、ディオが元凶だと指差しておいた。

「余計な事をぶりかえしやがって!」

 と叫びながら彼はチャックさんに追われて逃げて行った。少しは懲りてくれるとありがたい。

 その平和な光景に息を吐いて、空を見上げる。今は丁度午後だ。お昼を食べて出発してもいい気がする。
 大体予定通りである。帰り道に同じ道を使うならもう少し早いとみてもいい。ソードリアスからクロスセラスを完全に安全な道にしながら少し早く戻って、アルベントさんに稽古をお願いしようか。ああ、確かにそれでもかなり捗る。

「お姉ちゃん?」
「あ、うん。わたしもう行こうかなって」
「えっ!? もう行っちゃうの!?」
 アイシェはわたしと母親をキョロキョロと見て、やっぱりわたしに向き直った。そして深く頭を下げる。

「っ、私を一緒に連れて行ってください! お願いします!!」

『アイシェ!?』

 驚いたのはわたしだけじゃない。その場に居た全員である。
 声をそろえて彼女を呼んだため、周りの視線もいっきに彼女に集まった。それをものともせず彼女は言葉を続ける。
「私足手纏いかもしれないですけど……! いえ、足のハンデがあるぶん、絶対に足手纏いなんですけど。
 私もお姉ちゃんみたいに、強くなりたい……私は竜士になりたい!
 グラネダについたら治療は受けますっ。だからそれまで一緒に旅をさせて欲しい!」
「ちょっとまて! 無謀だろ!」
 ディオが彼女に言うと顔を上げてアイシェが言う。
「私はお姉ちゃんの竜士団に入りたい。
 私の――いや、私達の夢だから。
 アキ竜士団でわたしは恩を返したい……」
「脚が治ってからでいいだろ」
 チャックさんが溜息を吐きながら言う。それはもっともである。
「ううん。私は足が治る前にもっと強くなる。
 それで脚が治ったら翼が生えたみたいなもんでしょ?
 それならもっとおねえちゃんを支えられる」
「いい加減にしろ。それ以上迷惑をかけるんじゃねぇよ」
「でも――!」
 チャックさんが止めるのも分かる。
 皆が心配だと言うのも分かる。そう言うのが嫌で嫌で。積もり積もっての騒動が今回の事だ。それをまた繰り返すなら今回の話は何だったのかと言うことになる。勿論治療費が入ったのだから、という事もあるけれど結局グラネダへ治療をお願いしても受けられるのは数年後だ。そう、天才医師はむこう数年予約で埋まっているそうだ。

「いいよ! アイシェちゃんなら大歓迎!」

 きっとわたしがこう言ってしまえば話がこちら側へと進んでくる。彼女は実は話術が凄く上手い。三人纏めてついてくるはずだ。それはこの道中だけかもしれないが楽しそうである。
 その二つ返事は親譲りか、とチャックさんに呆れられたけれどどうやらなんとかなりそうである。

 かくして、わたしはアイシェとアイル、そしてディオの三人を連れてソードリアスに向かう事になった。ディオはアイシェを背負う役で、アイルがその監視役。

 わたしの旅は――ソードリアスで再び、大きな運命と交差する。

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