閑話『友人語り2』

*アスカ

「橋が閉鎖とか聞いてへんわ……」
「はぁ。ホント。付いてなーい」

 戦争の緊張から解き放たれ、一先ずグラネダを離れる事にした。
 一週間ほどは滞在していたのだけれど、すぐに次の戦争の噂が流れ始めて心苦しさから逃げるようにあたし達はグラネダを去った。
 次の拠点地に選んだのはアルクセイド。結局出兵だのなんだのでどちらもかわらない国情ではあったのだけれど、思い入れと傷跡がすくない此処の方が落ち着けた。

「ジェレイド、足元気をつけて。階段あるから」
「お。おー」

 時間が過ぎるほどその人が限界に近づいていくのは分かっている。
 この戦いはもう長くない。
 あたしの我侭に付き合って逃げてくれているそいつは何も言わないで毎日能天気に寝たり笑ったりしている。
 そんな素振りは見せない。
 現に他の神子達と会うと飄々としたいつも通りの彼を振る舞う。まるで出会ったときと何も変わらない。
 でも聞けばあたしにだけは本当の事を話してくれる。自分のシキガミに嘘は意味が無いって。

 眼鏡を掛けているが殆ど見えてない。色の差が分かる程度だといっていた。
 人の気配が読み辛いのかよく人にぶつかる。
 味も臭いも分からないって言う。

 あたしの言葉以外はもう聞こえづらいって。

 身体が弱るわけじゃない。
 思考や意識が死ぬわけじゃない。
 命が尽きるわけじゃない。

 それでも死と同意義の終わりなのである。

 それを彼に享受させてしまうわけにはいかない。

 今、手を引いているのはあたしだから。


 ジェレイドのペースに合わせて五段程度の階段を上って、上りきった事を伝えた。階段を上る時の緊張がほぐれ、少し速いペースで歩きはじめる。彼の身長は高く、一歩があたしの一歩とは全然違う距離になる。あたしが少し速いぐらいで歩いて丁度ジェレイドが歩きやすい速度になる。
 人を避けるのは少し大変になるので大きな道は避ける。
「お……?」
 ぐいぐいと引っ張っている途中で何かに気付いたのかジェレイドが少し足を止める。後ろに少し引かれる様な感覚を感じてあたしも足を止める。

「どうしたのジェレイド? 宿はもうすぐ――」
「いや……あっちに双子おんで」
 こいつは目を閉じておけと言うのにまた勝手に見て……。はぁと溜息をついてジェレイドが見る方向に視線を流す。黒髪に白黒のドレス服みたいなのを着ている彼女は見つけやすい。
「双子……って。ああ、ムラサキちゃんとクレナイちゃんね」
 女同士のシキガミと言うことで実は少し話した事がある。
 人形みたいな子達で頭に作っているテールの方向が対照的だ。人形みたいな二人で洋服はゴスロリっぽいものを好んで着ているようだ。此方には背を向けていて
「いや、片割れだけやな……。
 なぁアスカ。お前はコウキみたいになんもかんも助けたいと思うか?」
「ジェレイドが“訊く”なんて珍しい……」
 まぁ質問だけ投げてやっぱええわ、と言う事は多々ある。答えが見えたからだろう。
 隠し事は意味を成さない。ジェレイド的には喋らないより喋る方が百倍答えとして正確や、と豪語しているので言葉にして言わせるのはきっと正確さを要求しているのだろう。
 言葉に出すという事は有限実行をさせるためにさせる行為なのか。それをずるいと思う事もあったけれどやはり喋るというのは思うよりも強く残る。
 言葉にできなければ信念にならないのだ。

「……そう思ってるのかもしれないけど、あたしにはあんな事無理ってわかってるもん。
 でも……あたしに出来るならやる。
 何かあたしに出来そうな事ありそうなの?」

 戦争の時にイチガミくんに呼ばれるまであたし達は森の中で傍観していた。目の前で起きている物凄い騒ぎの中心にはグラネダの神子とシキガミが居て、皆が必死に戦っていた。
 呼ばれたときは嬉しかったんだと思う。必要とされたと分かった瞬間に全力で飛び出した。八割方恥ずかしいから止めて欲しかったって言うのもあるけれど。

「おお。ワイはほら、乙女心は流石に見通せても訳がわからん。ちょっと話きいたるぐらいしたほうがええかもな。ありゃ相当……」
「アンタもお人良しになったよねぇ」
「……ワイもあいつ等にあてられとるんかなぁ……」
「んじゃあ行ってくるわ。一人で大丈夫?」
「ま、ワイが言い出したんやしええよ。
 行って来い」

 アルクセイドでシキガミが一人。戦況をみればおかしい話だ。
 実は此処に車での道は既に閉鎖されていて一般人の通行は許されていない。ジェレイドが色んな術を駆使してようやくこの街に入れているのだ。
 いくら力が強いとはいえ騒ぎ無しで此処に居られるわけがない。
 となるとやはり此処にずっと居たという事になる。

 此処に来て分かったことだが、どうやらあたし達がグラネダで戦争している間にアルクセイドとクロスセラスも一戦交えていたようだ。其方の戦況は酷い物で、どちらの戦力も五千人近く削れたという話もある。指揮を執っていたアルクセイドの総指揮者、次期王と呼ばれていたアルクセイド王の息子も彼自身の無敗の記録に幕を下ろすことになった。
 後継者が居なくなった国は混乱の最中だが民に行く当ても無いのが事実。先にグラネダやクロスセラスとは戦争をしたという話が出回っている。当ても無くこの国を飛び出すと、同じようで酷い環境が待っているわけだ。
 六天魔王が本物なのかどうかは分からないけれど、やってきた事はかなり彼らをこの世界でいきなり国盗りを行う為の行程の終盤だと思う。この国があの黒騎士を王として受け入れた時、世界は彼の思惑通りに周り始めるんだろう。

 終わりの不安が蔓延する慌しい街で、一人噴水の端に座り込む一人の女の子。
 見た目で分かるのは恐らくクレナイだと言うこと。サイドテールは左側。着ている服の基本色は白色。明るい服を着るのは彼女の担当という認識で間違いない。色の好みは名前どおりだった気がする。
 彼女は明るい方担当だと思っていたが意外とナイーブな面を持ち合わせていたようだ。そういうところは実は自分に良く似ていて思い悩んでいるかどうかはすぐに分かる。

「神子と一緒に居ないと、シキガミは役に立たないよ?」
「……アスカ……」
「どうしたのこんなトコで? 迷子?」
 あたしの質問にちょっと赤くなってぷるぷると頭を振った。
「ち、違うよっさすがにウチはムラサキみたいに呆けとらんもん!」
「それにしちゃ元気ないなぁってね?
 何かあったの?」
「あ、アスカには……関係ないけぇ。ほっといてよ」

 さてどうするか。確かに関係ないと言われればその通りだ。
 無駄に首を突っ込む前に引っ込むのが本当はいいのだろうけれど、ジェレイドがわざわざあたしに行かせたという事はかなり危ない状況なのかもしれない。

「ハギノスケさんだっけ。あの紳士な人」
 あたしと会ったときは顔あわせだけして笑って去っていって、普通に素敵な人だったんだけどイチガミくんはワカメ野郎と豪語してひたすらぷんすか怒るっていた。イチガミくんが嫌いな人っていうのは結構珍しい。でもジェレイドも気に食わんと言ってツンツンするので大変だった記憶がある。
「ハギノスケ……がどうかしたん?」
「前に一度食事をしたんだけど」
「は!?」
「いや、別に何も無いよ? 大分前の話だし。ご飯食べてチョット話しただけ」

 睨まれて少し焦りながら良いわけをする。そう言えば許婚の人がこのムラサキとクレナイだった。余り誤解されそうな発言は慎まなくてはいけない。
 大迷宮の後に一度ばったり出合って何故か食事をおごってもらったのだ。
 あたし達の状況に付いて聞き出すためだと分かっていたので別に話して困る情報は言わなかった。仲良し組みなんだなと、言って去っていった。それが良いことなのかどうかは分からないが、このまま行けば苦労する事もその時に言われている。

「心配?」
「し、しとらんっウチ等は、ホラ……信頼しとるし」
「うん、その時に二人が一番心配だって聞いた。
 個人的に戦争には参加させるなって頼みに行くって言ってたし」
「ほうなんじゃ……ウチ等、全然会えん……」

 不安いっぱいの表情が色んな感情を帯びていく。
 あたしより一つ年下でなんだか後輩を見ているような気分になる。あまり先輩風を吹かすのは得意ではないけれど何となく力になってあげたい感じになる。

「そういえばもうイチガミくんには会った?」
「……ああ、グラネダのね。変な奴じゃけど面白かったわ」
「あ、そうなんだ。仲良くなれそうでしょ?」
「ふん、あんな軽い奴駄目じゃ。男なのに厨房に入るし。おにぎりはおいしかったけど」
「あっは! そうそう、一緒に料理手伝ってくれたりいろんなこと話してくれたり面白いんだよね!
 人気者なんだよイチガミくん。良い子だから周りの人も過保護でねっファーナちゃんとかずーっとイチガミくん見てるの!」
「炎の神子は嫉妬の炎も大概燃えやすそうじゃしねぇ……。やっぱり軽い男じゃと気苦労が耐えんわ」

 軽い……か。まぁ彼自身無防備ではある。ノリも軽いがきっちりとやりたい事に筋がある。
 彼はあたし達全員を助けようとしている。それ自体が可能かどうか怪しい世界で出来ると信じて歩くのは難しい事だ。あたしからすれば、イチガミくん自体がその可能性だと思う。
 やろうと思わなければ出来ないだろうし、彼は足りない知識をこの世界の仲間に借りる事ができる。しかも優秀な人間が集まるのだからこの上なくその条件に近い人間は彼なのだ。
 戦争で会ったイチガミくんは相変わらず。にゃーくんはやっぱりイチガミくん側よりだ。強さが堂に入ったものを感じる。勝てる気がしない。
 でももっと勝てる気がしないのは八重くんなのだけれど。
 光速で動く能力と、今のあの冷徹さ。怖いぐらいに強い。
 イチガミくんに剣を向けたということは誰にだって向けてくる。もちろんあたしにも。
 あたしは彼にとって特別な存在にはなれなかった。
 唯一彼が味方をしているのは魔王。その神子はイチガミくんは姉ちゃんと呼んでいるようだ。確かに、あの人に似ている。

「クレナイはムラサキに嫉妬したりしないの?」
「嫉妬……?」
「だって同じ人の許婚なんでしょ?」
「そうじゃねぇ……。わからんけど。
 ウチはそんな風に思った事は無いんよ。二人一緒なのが当たり前じゃったけぇ」
「そうなの……?」
「そうなんよ」
「そんなもんなの?」
「そんなもんじゃねぇ。
 もうちょっとムラサキがアスカみたいに張り合いがいある性格じゃったら違ったかも知れんけど。
 よわっちぃ子じゃ。ウチがしっかりせにゃ」

 正妻とか側室とか色々と制度はあったような時代に生きていて、二人一緒にあの人の許婚だったというのは変なんじゃ無いだろうか。そう思った事無いというのはそういう風に育てられたから、と言うことになりそうだ。
 サイドに纏められた髪の毛の束をぐるぐると指に巻きつけては放すという指癖は中々抜けなかったりする。髪先がそれによって癖を得てしまうのであたしはやらないようにしている。それでも電話や長話の間はぐりぐりとやりがちだ。だからポニーにして前に来ないようにしているんだけど。

「はぁ。なんか話しとったらすっきりしてきたわ。ありがとねぇ」
「え? うん。どういたしまして。
 なんか思いつめたら相談してね。ただでさえ変な世界なんだから溜めてたら頭が爆発しちゃうよ」
「アスカはええ子じゃねぇ。普通にしとったらええお嫁さんになれるわ。
 でも今日は口癖聞いてないんじゃけど、機嫌ええんじゃ?」
「まぁ別に腹が立つことも無かったし。
 てか、挨拶だと思われてるの? 地味にショック」
「ごめんねぇ、別にそういう意味じゃなかったんじゃけど。
 ところで身体がでかくて器の小さい神子は?」
「言ってあげないで。気にして凹むんだから」
「残念じゃ。憂さ晴らしにからかおうと思ったのに」

 だからあたしに任せて逃げたのだろうか。クレナイがクスクスと笑う顔は前に見た時と同じ笑顔になった。可憐な少女だ。ムラサキと一緒だとかなり目立つ。二人と一緒に歩いていたのは不良僧侶と呼ばれる人だったけれど。ジェレイドとは気が合っていたような気もする。身長が同じぐらいだっただろうか。大きい人間は大きいとしか覚えていない。

 少し他愛も無い話をしていると、周辺の人たちが騒然とし始める。
 何かと思ってお城のほうの道を見ると軍靴を鳴らす音が響いた。
 黒い一団はグラネダでも見た。あれは魔王軍と呼ばれる一団だ。更に数を増やしたようでザクザクとなる重い鉄の音は気持ち悪いほど足並みをそろえて歩いている。
 噴水は真ん中に位置するオブジェだ。二人で道の端に移動してその様子を見守る。
 受け入れられていない軍隊とはいえ、確実にこの国を守っているのはその軍隊なのである。民衆はただ見送らざるを得ない。
 少しずつ――それを羨望の姿にするものもみえるのも確かな事だった。

「……おらんかった……」
「え?」
「六天魔王は今の隊におらんかった。と言う事は城におるんじゃ」
「そう、だろう、けど……」

 そんなことを確認してどうするんだろうか。
 軍隊が過ぎ去って、またゆっくりと元の街に戻っていく。
 クレナイは城を睨むように見上げて、一つ息を吐いた。

「ねぇ、アスカ。もしね、ウチとムラサキが双子じゃないって言ったら、驚く?」
「え!?」
「あっはっは! その反応だけでええよ。
 そりゃそうよねぇ」
「えっえっ!? 双子じゃないの!?」
「……いや、双子みたいなもんじゃけぇ気にせんとって」
「そっくりじゃん! 双子じゃないわけが無いというか……!」
「まぁ、どうでもええ事じゃけぇ気にせんとって。姉妹にしか見えんわあんなん」

 普通に混乱するあたしをみてクレナイは満足げに笑った。その屈託無い笑顔に毒気を抜かれる。どうやらからかわれていたらしい。

「……ジェレイド以内からあたしからかったって事?」
「あ、分かった?」
「折角心配してあげたのに!」
「余計なお世話って言うんじゃ!
 じゃあ、アスカももう神子んとこ戻りぃ?
 ここら危ないけぇ。魔王も魔女もいつくるかわからん。はよ街出たほうがええよ。
 幸い橋一本あるけぇ、こっち側の町にはあんまり人はこんじゃろうとは思うけど」
「う、うん……分かってるんだけど出るのも危ないから、宿で大人しくしてようって」
「はぁ……あんた髪綺麗で目立つんじゃけ、結って帽子は被っとき」
「え、うん。ありがと」

 そういえば会って一番初めに髪が綺麗な事を褒められた。さすが女の子目線というところである。
 クレナイもムラサキも可愛くて良い子だ。しっかりしていて決意めいたものを瞳の中に感じる。
 何かをする為に此処に居たのだろう。迷いとか不安みたいな物がなにか吹っ切れたように見えた。

 彼女もまた助ける人間だ。主に自分の片割れであるムラサキの為に動く彼女。
 今何処へ行こうとしているのかを問うと、訊かんとって、と頭を振った。あたしが巻き込まれて良い話ではないらしい。

 あたしは助けられた側だ。あの人にも、ジェレイドにも。
 イチガミくんにもそうだ。何度も一緒に旅の道筋が合って、あたしの精神の保養になってくれている。
 自分が一番面倒くさい上に何の役にも立てていない。そんなのは既に随分と前に気付いていて自己嫌悪をしている事すらもう許されない所まで来てしまった。

「手伝おうか?」

 勇気を振り絞った一言だった。
 相手に巻き込まれるという事を許容する言葉。これを簡単に言ってしまえる人をあたしは尊敬する。でも自然にいえなければ必ず遠慮される。
 もっと言えばこんな風に選択を迫るのではなくて、手伝うよ、と言える心意気が必要だ。

「いやええよ。ウチ等の問題じゃけぇ」
「六天魔王は、クレナイの仇なんでしょ?」

 クレナイ達は元の世界で六天魔王に殺されている。
 それを聞いたときはどう反応すれば良いか迷ったけれど、クレナイ達は過ぎた事だから気にするなとあたしに言った。それでも募る何故が恨みを思い出させるのだろうか。

「そうじゃけど、別にそれはええんよ。よくないけど」
「どっち?」
「確かに恨みはあるけど、アイツに聞きたい事あるけぇ。聞いとかんと」

 ぎゅっと小さな手を握って少し難しい表情をする。
 四人。どんな縁が会って此処に呼ばれたのか分からないがそれぞれ強く思っているものがあるらしい。

「じゃあ、手伝うわ」
「えっ、いや危ないけぇええよ?」
「そんなのクレナイも一緒でしょ?」
「そうじゃけど……アスカは何も関係ないじゃろ? やめとき?」
「あたしがやるって決めた!
 あたしは今まで困ってる人とか他人事は他人事だと思ってたけど、シキガミってそうじゃないって分かった!
 アタシ達は四人が友達。そっちも四人が知り合い。
 偶然じゃないよね。
 だからあたしはクレナイを助けたいの!」
「お気持ちだけで結構」
「ええっ折角頑張ろうっておもってるのにー!」

 イチガミくんみたいな反応をしてしまっているが、これも実は彼の行動の模倣のせいなのかもしれない。
 あたしの方をみて少し視線を泳がせてから気恥ずかしそうに彼女は頭を下げて言う。

「……ありがと。なんか、そんな風に言ってくれるんはアスカが初めてじゃけぇ。嬉しいけど、ええよ」

 なんか急にしおらしくなった彼女にきゅんとした。
 これがツンとデレの境界を行き来する事による胸の高鳴りなんだろうか。

「多分。見つかったら容赦なく殺されるし、逃げ切れる保証も無い。
 キツキって子も居るみたいじゃしね。
 じゃけぇ、ウチの事は心配せんでええよ。
 ウチはシキガミ二人おるけぇ、こういう事が出来る……。
 アスカ……頑張ってね」

 それだけ言って彼女は踵を返して大地を繋ぐ橋、エルパースメンへと向かう。
 本国へと入るためにはその橋を通る他無い。そしてあの大きな城を目指すのだろう。

 ジェレイド、あたしが帰るの遅かったら心配するかな。
 とか。
 多分危ないから彼女の言う事を聞いたほうが良いよね。
 とか。
 あたしを後ろ引かせるための言葉がたくさん浮かんでくる。
 正直に言うと怖いが、彼女もほぼ死ぬ覚悟で城に向かった。

 助けてあげたい。

 助けてあげなくては。

 手を伸ばすのは柵の向こう側じゃない。あたしには出来ることだ。

 閉鎖されているはずの橋をどうやって渡るのかも分からないが、あたしは彼女を追いかけて走り出した。

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