08.距離

*Syu...

 柔道を三日間やってメダルが一つ。金色って三つ分の価値はあるのかねぇ?
 元々スポーツの推薦で来たオレ達はこういった功績を学校に残す事で初めて意志を達成したと言えるのではないだろうか。それを言っていたのは頭の良い友人で、言われた瞬間には腕を組んで頭を傾げたものだ。
 なんたってスポーツ推薦で受かったのはラッキーで、競技成績が良いのはオレが頑張ったからだ。それはオレの物だ。学校ではずっとその運動部を頑張るという約束があるがその頑張る部分さえあればオレ達の存在は許されるはずだ。だって三年間頑張った先輩をオレは馬鹿にしようとは思わない。でもそれだと学校はオレの努力を勝手に誇っていることになる。その通りだ。親がうちの子は凄いのよって自慢するそれと同じ。
 だってオレはこの学校に柔道部があるとは知らずに一番近いし入る事に決めただけだ。
 まぁ涼二の言っていた事は学校側から見た意見の一つである。全員がそうなる事は難しいがこれで柔道部が面目を保っていられるならそれでいいんじゃないだろうか。
 オレの目標はまだ変わらない。終わっていない。

 土曜に京ちゃんが妙に頑張る決意を固めていて、ずっと心配していたがメールをやっている分には元気そうに見えた。
 別に何事もなければそれに越した事は無いとおもいつついつも通り京ちゃんの家の前で待っていた。
 何時も癖になった時間に来ても同じぐらいに出てくる奴が居なくて暇になる。もうちょっと出るのを遅らせてもいいのだが何時も出る時間だったのをずらすとそわそわするのだ。
 そして約束の時間ジャストぐらいには京ちゃんが扉を開く。それにあわせていつもの挨拶をした。

「おっはよーう!」
「あ、おは……御機嫌ようっ」

 唐突に挨拶の仕方が何故か優雅になった。

「……ごきっげん、よう……!?」
 笑顔が眩しかったので眩しいのポーズを取りながらその言葉に驚く。
「うん。変だよね。どうせ私には似合いませんよー」
 ぷっと頬を膨らませつつ扉を閉める。
「ああ、うん。可愛いかわいい。怪我大丈夫?」
「うん。大分治ったよ〜」
 くるくると手を回しながらオレに見せてくれる。何処に怪我があったかは余り覚えていないけれど、治ったみたいなら良かった。
「結局友達作戦は?」
「成功っ!」
「おおっ。やったじゃん。褒めてつかわそう」
 そういいながら頭を撫でてみる。
「ははっありがたき幸せ〜」
 京ちゃんも笑いながらその行為を受け入れる。この分なら本当に大丈夫そうだ。オレが出るまでもなくやっぱり京ちゃんは出来る子だな。と結論を出す。

 そろそろ行こうか、と話を切り出そうとして前からある人たちが近づいてきている事に気付いた。

「秋野さん、御機嫌よう」
 金色の髪の目立つ演劇部部長。先輩が一人混じるっていうのがなんか珍しい気がする。
「オハヨース」
 一言で言うとチャラい。色黒で茶髪の子。同級生で確かに目立つので見覚えはある。
「おはよう」
 あと少し不機嫌そうな子。完全に解らないが同級生だ。リボンの色が一年カラーだからわかった事だけど。

「あ、お早う御座いますっ、二人もおはよっ」
 ぺこりと行儀良く京ちゃんが挨拶を返す。この三日で何があったんだろうか。
「……誰? や、先輩はわかるぜ」
「うん。紹介すると折沢沙羅先輩とマシロちゃんとミサトちゃん」

 並んでいる順に京ちゃんが紹介してくれる。チャラいのがマシロちゃんでテンション低いのがミサトちゃんのようだ。

「おっす。オラ士部柊。よろしくな!」

 何処に行っても多分アホの子でオレは通ってるはずなのでとりあえず元気良く挨拶してみた。

「あー、噂の柊くんねーよーろー。でけーな!」
 色黒のマシロと呼ばれた子がオレをバシバシと叩く。
「いや、わりぃね、オレに触れた人たちからは0.1ミリずつ身長吸い取ってっから」
「ちょ、アタシもじゃん。返せー!」
 それでもその子は京ちゃんよりは身長あるし女の子としては普通の大きさじゃないだろうか。

「さぁ、学校へ行きましょう」
 こちらの様子を見て微笑む先輩が声をかける。
「はーい」
 それに皆頷いて学校へと歩き出す。無言になられると半端なく居辛いぞこれ。
「これなんの集まりなんだ? 演劇?」
 とりあえず近くにいたマシロちゃんとやらに聞いてみる。
 茶色い長い髪は特にいじっては居ないみたいで手櫛でさっと後ろに流しながら此方を向く。
「いや、アタシは違うよ。
 アタシみたいなシャイガールにゃ演劇はむりだしー?」
「場の度胸はあんだろ。初対面でオレを叩くやつなんか居なかったぞ」
「にゃっはっはっは! それとこれは違うんじゃない? あ、アタシは麻白でいいよー。アタシも柊君って呼んじゃうし?」
「まぁなんでもいいけどよ」
 馴れ馴れしいというか。まぁオレも同じようなもんだしそれでよしとした。
 前の三人をさて置きと麻白ちゃんが一歩分くらいの間が出来たのを見計らってからヒソヒソと尋ねてきた。

「ねぇねぇ、柊くんてば秋野っちの彼氏じゃにゃいの?」

 一応口元に手をかざしていっていたものの声がでかかったようで物凄い勢いで京ちゃんが振り返った。
「ちょっと麻白ちゃん!」
 その姿にありゃ、と言いつつ頭を掻いて笑う。とりあえずオレは肩を竦めながら、
「にゃいの」
 と言葉を返しておいた。
「なんだー。ホントに違うのかぁ。つまんね」
 ホントに違うのをオレに確認したということか。
「結構ですぅ! ほっといてくれよ!」
 オレのほうを向いて言ってきたのでキーッと歯を見せて悔しがってみる。
「なになに? じゃあたしが付き合ってあげよか? アタシもおっぱいあるよ」
「いらねーよ……なんでそこ基準なんだよ」
 あるに越した事は無いと思う事も無いぜ。ああ、正直に言えば好物であるけれども。
「アタシ頭も良いよー? なりはこんなだけどすごくね?」
「自覚あんのかよ。つか頭良いって自分で言うって相当だな」
「うそじゃないし? アタシ上から五番目だよ」
 京ちゃんより成績いいじゃねーか!
 それに普通に驚いて絶句していると物凄いどや顔でピースされた。なんか悔しい。
「は、ハァ!? おま、オレなんかあれだぜ? ケツから一番だし?」
 どーよ、とワーストを誇ってみる。そんなオレを指差してそいつは笑った。
「あっは! ばっかでー!」
「ちぇ。人は見かけによらねーって解ったよ……」
 頭良いギャルなんて怖くて近寄れねーよ。色んな意味で。喋り方はまぁそれっぽいから結局なんとかと紙一重か残念な天才なのかだな。
「でしょ? 付き合う?」
 なぜかずいっと近づいてきてニヤニヤとオレを覗き込む。
「ど、同情はいらねーやい」
「あっはー! アタシも頭良くてカッコよくて優しくてお金ある人がいいなー」
「玩ばれた! オトメンの純情を! 酷い!」
「あはははは! オトメン! 合わねー!」
 腹を抱えてケラケラと麻白ちゃんが笑う。どうもサバサバしたオトコっぽさがあってつるみやすい。ホント見た目じゃわかんねーもんだなとオレも笑っていた。

 適当に昨日あったテレビの話でまた麻白ちゃんと盛り上がっていたのだが、丁度会話が切れた辺りで京ちゃんが話しかけてきた。
「柊くん、昨日の試合は?」
 いつの間に横に居たのか、というかオレはそんなに会話に夢中だったのかと驚きつつ振り向く。
「あ、勝ったぜ個人。えっと……これ金メダル取った写真」
 オレは携帯を取り出して撮ってもらっていた写真を見せる。ちょっと遠めだがオレが真ん中に立っているのはわかる。
 表彰台の上で金メダルを貰うのはなかなか悪くない気分だった。
 その写真を覗き込んできたのは京ちゃんと麻白ちゃん。
「わ、ホントに勝ったんだ! おめでとう!」
 京ちゃんの満面の笑みに満足しているところに、ずいっと一人割り入って来る。
「えっ柊君すげぇじゃん!」
 携帯を取り上げてまじまじとその写真を見る。
「どーだ。惚れたか」
 ふふんとここぞとばかりに自慢げに見下ろした。
「惚れた惚れた。アタシと付き合う?」
 怖気づく事も無くなんかまたそんな事を言い出す。変な奴だ。
 つか言いながらオレの携帯に自分のアドレスを打ち込んで写真を送っている。携帯を打つ速度が尋常じゃない。
「なーんでそうなんだよ。もっと自分を大事にしろよ?」
「今カレシいないんだよねー! つっても前彼もいねーけどぉ! 言わせんな恥ずかしい!」
 そういいながらバシバシとオレを叩く。
 おっさんかコイツは。

「ま、よくわかんないけどー。秋野っちが不機嫌そうだからやめとこっ!
 ちょっと美里ぉ。秋野っちが睨むー」
「自業自得でしょが……ま、あたしはどっちでもいいけど」
「だ、だから何でも無いって言ってるのに!」

 なんか良くわからんな女の子グループって。二人に後ろから掴みかかってその二人の間に京ちゃんが入る。
 和気藹々としてて楽しいと思う。先輩は基本的に見守ってる感じだけどそういう人も必要だよな。
 せめて涼二でも居れば……と思うがそいつが居たら結局こうはなってなかったというか。

 とりあえず京ちゃんがこっちと登校するならオレはもう朝一緒に行くのは遠慮しよう。
 その方が自然だしなと息をついた。

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