12.試練(2)

*Ryoji...

 男子第二試合が開始された。
 相手は青いゼッケンの柊のチーム。
 柊とともにセンターサークルに入る。
 ―――でかい。
 俺より10cm近く身長が高いこいつに一度もジャンプボールで勝ったことは無い。
 当然といえば当然だが。
 二人の間にボールを持った先生が立つ。
 そして無言で垂直にボールを高く放り投げた。

 ピッ!

 ホイッスルが鳴る。
 それが試合開始の合図だった。
 俺と柊は同時にジャンプして手を伸ばす。
「―――っ!」
「もらったっ!!」
 パァン!! と勢い良くボールが弾かれる。
 指先にボールが触れたが意味が無かった。
 青いゼッケンの奴にボールが渡り、ドリブルで左からあがって行った。
 俺は着地してすぐ、ゴールした目掛けて走り出した。
 当然柊も、その後を追ってくる。
 ドリブルで突っ込んで行った奴が、赤のゼッケンの奴に阻まれて止まる。
 ボールを持ってしまいパスする相手を探している。
 とりあえず俺はゴール下に入って様子を見る。
 そして、柊を探してそっちに向かって思いっきりダッシュした。
 ―――案の定、ボールは俺がダッシュを始めた直後、
 逆サイドにいた柊に無理やりパスされた。
 そこを思いっきりパスカットして誰も居ないコートに向かって走る。
 後ろから来る柊の足音を無視して思いっきり走った。
 ダッダンッ!!
 二歩で踏み切ってジャンプする。
 パスッ……
 そんな音を立ててボールはネットをくぐった。
「次とろーぜっ!」
 そう言って柊はすぐにボールをとり、試合を開始する。
 休んでいる暇なんか無い。
 俺はすぐさま相手のマークに入り、コートを走り回る。
 ―――柊にボールが渡った。
 試合進行は早く、半分で20−20の大接戦だ。
 ここで流れを持っていかれるのはつらい。
 俺は近くに居た味方に声をかけて、柊のマークにつく。
 柊はおもむろにニヤリと笑うと。
 俺のほうに向かって突っ込んできた。
 俺はボール奪取のため姿勢を低くして、ボールを弾きにかかる。

 ダダンッ!!

 ―――っ!?
 突然目の前から柊が消えた。
 俺は隣を見ると味方を挟んで、その向こうを柊が走り抜けようとしていた。
 消えたように見えるのはクロスオーバーの効果と、二人を2歩で踏み切る柊の速さのせいだろう。
 俺はバックステップで飛んでボールを追いかける。
 が、あと数センチのところでボールに触れることは出来なかった。
 そのまま走りこんでレイアップシュートを決めて降り立つ。
 22対20。やばいな。

 ふと気づいて周りを見渡す。
 試合がまだなのか試合が終わって暇なのかいつもの面々がライン際に座って手を振っていた。
 それに余裕無く手を振ると試合に向き直る。
 味方のスローインで右にパスが行く。
 柊がそれに向かって走っていく。
 俺は左のライン際に立つと手を振って走り出した。
 俺に気づいた味方からちょうどいいロングパスを受けて、そのままライン際を走りあがる。
 ―――よし。柊も遠い。
 ちょうど、詩姫たちの前に来たとき目の前に別のボールがこぼれてきた。

「―――っ!?」

 ドグッッ

 そんな鈍い音とともに思いっきりボールを踏みつける。
 俺は持っていた試合用のボールを思いっきり放り投げると、派手にこけた。
『涼二っ!』
 何人かの声が重なる。
 俺は顔を上げボールの落ちた位置を確認しようと周りを見た。
 ―――柊と敵はボールを持っていない。
 かといって味方もボールを持っておらず、もっと前線を見ていた。
 不意に頭の斜め上のほうでガンッという鉄にあたる音と、

 ザンッ―――

 ネットをかする音がした。
 瞬時にそちらに振り返る。
 リングとネットの真下にボールは跳ねていた。
「よっっし!」
 こけたままガッツポーズをとる。
 ピッとホイッスルが吹かれ得点がカウントされる。
 22対23―――っきた!
「大丈夫? 涼二っ」
 詩姫が駆けつけて起き上がるのを手伝ってくれる。
「大丈夫かー水ノ上ー?」
 少し遅れて先生の声が響く。
「はい! 大丈夫です!」
「ほんと、大丈夫?」
 そう聞いてきたのは朝陽だった。
「あぁ。さんきゅっ2人とも」
 本当に簡単に感謝の言葉だけを伝えて試合に戻っていく。
 俺が復活の意味で手を振ると試合は再開された。





「ごめんなさい……あの子いいこなんだけどちょっと調子に乗っちゃうと
 周りが見えないみたいで」
「いや、大したことないし、良いって」
 俺の試合が終わってからずっとコレばっかりきいているような気がする。

 こけた後、試合を続けて終わりまでやると急に間接が痛み出した。
 保健室の先生によると軽い捻挫だそうだ。
 シップを貼って貰ってひょっこり帰ってくると、近澤さんにいきなり謝られた。
 めずらしく妹のほうだが。
「ボール転がしちゃったのあたしです……ごめんなさい……」
「そっか。近澤さんは怪我しなかったか?」
「―――え?」
「いや、飛び出したんだったら俺、タックルとかしてるかもしれないし。大丈夫だったか?
「あ、え、いやっうん。あたしはっ大丈夫っ」
「よかった、じゃぁ、試合がんばれ」
「……うん、ごめんね……」
 最後は聞こえない振りをして舞台側のコートのほうへと歩いていった。
 本当に俺は気にしてないし、むしろこけた俺に非があるくらいだと思う。



 で、今教室に戻って、姉のほうに謝られてるわけだが。
「でも、捻挫でしょ? しばらくは何にもしないほうがいいよ……明日の朝練は無しだね」
「え、明日にはもう大丈夫だって」
「ダメだよっ! 捻挫ってこじらせるとすっごい厄介だし!
 1週間ぐらい安静にしてきっちり直してからだよっ」
 お、今のは妹に似てたな。
「そうだよ水ノ君。怪我って怖いんだからねっ!」
 突然横の方から会話に割り込んできたのはやっぱり柊。
「キモッ」
 とりあえず言葉と態度で一蹴しておく。
「ひどぃっ」
「うっさいわっ」
「なはははっまぁお前はサッカーの人でもあるしなっ
 足の怪我はきっちり治しとかねぇと後悔するぞ〜?」
 む、なんか現実的なところを突かれてしまった。
 この捻挫に対しては柊も近澤さんと同意見みたいだ。
「あ〜。わかった。おっけ。な〜んもしないよっ」
 しぶしぶそう答えて席にふんぞり返った。
「そう膨れるなよ、ちょっとの間じゃねぇか」
 微妙に柊になだめられている感が否めないが、仕方が無い。
「本当にごめんなさい」
 そしてやっぱり謝られてしまうのだった。

 HRはこのクラスが一番早い。
 高井先生が簡潔に用件だけを伝えて、解散する。
「よっし、帰ろうかいねぇ涼二」
「おう。」
 後は帰るだけだ。
 と、思ったら、もう一度保健室にこいと言われたような気がするな。
「あー。ちょっと保健室いこう。授業終ったらもっかい来いって言ってたんだよ」
「へー? そか。じゃ、いくべ」
「あ、士部」
 急に俺達の間に先生が割って入ってきた。
「へ? なんすか?」
「白宮先生が呼んでいた。後から体育教員教室か
 居なかったら柔道部のほうへ来て欲しいそうだ」
「え? なんですか?」
 そんなことを言われる覚えは無いのか理由を聞き返す。
「分からんが柔道部のことじゃないのか?もう練習に出て欲しいとか」
「んなアホな……」
「ま。知らんがな」
 ふぅっと息を吐きながら外国人みたいなポーズを取る。
 じゃぁ言わなくていいじゃないですか?
 そう心の中で突っ込む。
「ちぇーじゃ、俺ちょっと行ってくるわ」
『おう。揉まれてこい』
 何故か先生とシンクロしてしまった。
 あえて何も言わずにひらひらと手を振って柊を見送った。
 ……もしかして同じ属性だと言うのか。
「じゃ、俺も保健室行ってきます」
 俺も言われたとおりに保健室に行こうと席を立つ。
「ん? 怪我か?」
「はい」
「そうか……しっかり治せよ」
 妙に優しげな顔で俺の肩を叩くと、先生も職員室に戻ると名簿を持って出た。
 何なんだろうな? と首を一度だけ傾げたが分かるわけも無く俺は保健室を目指した。

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