32.秋野家
*Ryoji...
太陽光作戦第二弾を京に施して目を覚まさせた。
しぶしぶ京は洗面台に向かう。
俺は先にダイニングにお邪魔することにした。
「あ、京起きた? ありがとね涼二君」
「ど、どーいたしましてっ」
―――焦る。
「? どうしたの?」
勝手にキョドる俺を見ておばさんは疑問をぶつける。
―――さすがにここは逃げられない。
「いや、別に、何でもないっす」
「そ? ごめんね? 京、最近アクティブだから」
「―――っ!?」
知ってんの!? という俺の声にならない叫び。
しかし何も無かったようにキッチンに向き直って調理を続けるおばさん。
多分、大丈夫。
「涼二君、そんな立ってないですわれって」
「あ、はい」
おじさんに手招きされて食卓につく。
「で、ぶっちゃけどうなんだ。京を連れて行っおぶぅぅ!!!」
ガゴッっと鈍い音を立てた何かが食卓の上に転がる。
変形した鍋だった。
何か赤―――…。
その鍋は、スッと俺の前から消えた。
テーブルに朝ごはんを乗せていくおばさんはにっこり笑うと
「今日は自信作なの、今日こそは涼二君を唸らせるわっ」
と爽やかに笑った。
―――あれ? さっき何か―――?
「え、あ、ははっ月乃おばさんの料理はいっつもおいしいじゃないですか」
「あらっ上手いこと言うようになっちゃってっ
でも、涼二君、一度もおいしいって食べてから言ったこと無いんだからね?
師匠の愛息子だし、今日は張りきっちゃった♪」
そう言いながら手際よく、テーブルに3人分の食事が並べられる。
「おはよ〜……」
あまり目が覚めてないような京がフラフラとダイニングへやってくる。
―――…思考が一瞬止まった。
京は、気づいて、無いよ、な?
「よっ、目覚ませよ。今日はちょっと豪華な朝ご飯みたいだぞ?」
平静を装って軽く話しかける。
ゆっくり俺の隣に座りながら、テーブルに並べられた朝ごはんを見る。
―――内心、俺は焦りまくっていた。
「あ……ホントだ。知らない料理まである」
京は普通。何事も無かったように進む。
―――よかった。
「んふ〜対師匠愛息子用のスペシャルメニュー」
ブイッと京にピースをする。
「それなら私にも教えてくれればよかったのに……」
京はちょっとムッとした顔でいただきますと小さく言うと、その知らない料理をぱくつく。
「あ、おいしい」
その言葉につられて、俺も視線を下げる。
変な形をした卵だ。
……まぁ料理に疎い俺の見解だけど。
「いただきます」
俺も手を合わせて、その卵に手を伸ばす。
ニュッて感じの感触。
サンドイッチの中身の卵を綺麗に纏めた感じの卵。
―――視線が痛い。
おばさん、そして京からも熱い視線が集まる。
「―――んぐ」
『どう?』
口に含んだ瞬間二人は同時に聞いてくる。
―――ふわっとしている。
サンドイッチの中身のようにマヨネーズやらの調味料でベタベタさせてない。
シンプルな味わいだ。
「―――…美味しい」
素直に、そう言えた。
「―――っ」
おばさんは驚いたような顔をすると、俺たちとは反対側の席へと歩く。
ドムッ
「ごはぁぁぁっ!!!? なぜぇぇ!!!?」
謎の被害がおじさんへ。
あ、忘れてた
「し、涼二君が美味しいって言った! 言った!!」
ガクガクとおじさんを揺さぶる。
「おおおぉぉおちちつけけ」
抜け出すことが出来ないのか、ガクガクと揺らされっぱなしだ。
おばさん、こんな性格だったんだ……。
チョンチョンと、肩に何かが触れる。
「ん?」
「りょーうじっ♪ はい、あーん」
「……何?」
「私、朝こんなに食べれないよ〜」
「ごるぁぁぁぁあああ!!! 親の前で新婚さんごっこたぁ良いどきょごはぁぁ!!!」
鳩尾に、鋭い閃きが見えた。
再びテーブルの向こうにおじさんは沈む。
「どんどん食べてね、涼二君っ」
よどみない笑顔でおばさんは笑う。
「はい―――? いただきます」
再び俺は食事を進める。
……あれ?
「ほら、涼二。あ〜ん」
「……そこに置いてよ……自分で食べるって」
おばさんがニコニコと俺たちを眺めている。
かなり上機嫌みたいだ。
京はさっきから食べきれない料理を必ず「あ〜ん」をつけて渡す。
「え……いや?」
上目遣いですねる。
……反則じゃないですか?
―――俺は無言で箸に口をやる。
「……涼二君ってかわいいっ」
おばさんがキャッと声を上げる。
「でしょっ!?」
京がそれにあわせる。
さっきまでの泣きそうな顔は何処にっ!
女って怖い……そう思いながらもぐもぐと献上品を味わう。
美味しい……。
『ご馳走様でした』
「お粗末さまでした〜」
俺と京は同時に食事を終える。
「みーちゃん機嫌良いね」
不意に、おばさんはそんなことを言った。
「―――ふふ、ちょっとねっ」
俺のほうを振り向いて艶っぽく笑う。
そして、また、爆弾発言。
「朝、涼二に抱いてもらったから」
『!!?』
俺を含めてその場一同絶句する。
―――ばれてた―――!?
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
テーブルの向こうで何かが黄泉がえる。
「京ぉぉぉ!! パパは認めんぞおおおおぉぉぉ!!!」
ダァン!!!
テーブルを両手で突く。
涙は血の涙だ。頭からも噴き出ている気がする。
「抱きついてきたのはそっちだっおじさん落ち着いて!」
―――刹那、その後ろを流れるように黒髪が通った。
「お前らっちゅう……ぼう……あがり……―――っ」
すぐに、おじさんの暴走は止められた。
再びテーブルの向こうに沈んでいったおじさん。
おばさんはまた、毒気無く笑うと、
「さ、そろそろ学校の用意はじめないと」
と言って俺を促す。
時計を見るともう結構な時間だ。
「あ、やっべ。またあとでなっ」
俺はそう言ってその場から逃げるように家に戻った。
―――そもそも、選ぶなんて俺にそんな権利……無いのに。
俺は、迷っている―――?
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