43.GW(2)


*Ryoji...

 ゴールデンウィークの二日目は日曜日。
 天気はそこそこ晴れていて過しやすい日になりそうだった。
 そんないい天気。
 皆と遊びに行ったりするのもいいだろう。
 だが、今日はなんだか―――二度寝がしたい。
 京の病気がうつったのだろうか。
 まぁ、そんな気分になったので二度寝していた幸せな朝。

 ―――昨日、ケンカが会ったらしいがそんな素振りは食事中全く見えなくて。
 女の子って不思議だよナァ? と柊と首を傾げた。
 俺はもう殆ど夜中だったけど家に帰ることにした。
 自分の布団で熟睡したかった。
 俺と柊と京と詩姫全員でテンション高く柊の家を出て、一番遠い詩姫を全員で送って、
 柊は俺たち二人と最後に家の前で別れて―――。
 家に帰ってすぐ、着替えもせずに寝ていた。
 限界だったからな……。
 柊は主に被害者なのによく付き合ってくれる。
 今度ラーメンでもおごってやるかな―――。



 ピーローリピロリーピロリー♪
 ピロリーピロリロロリー♪
 プッ
「―――……もしもし……?」
 やる気があるんだか無いんだかよく分からない携帯の音楽にとどめをさす。
 誰だ……こんな朝っぱらから電話をかけてくるのは……?
『も、ももしももし? えぇっとっ涼二さんのお宅でしょうか!?』
「いや、確かに涼二さんのお宅ですけど」
 携帯にかけといてそれはないだろ。
 まだまだ突っ込みどころはあるが勘弁してやろう。
『あ、やっぱ寝てた? ごめんね?』
 眠い目を擦りながら時計に目を遣る。
「ん。ま、―――おわ、もうこんな時間か。起きねぇと、で、何か用か?」
『あぁ〜……ぅんっ! えっと! 遊びに行こうよっ!?』
 何で疑問系なんだ?
 時刻は9時過ぎ。
 それより前に1度起きた。
 サッカーの練習も無く、朝の日課のためだけに起きて、もう一度布団に倒れた。
 正直、疲れはまだ残っている。筋肉痛で体が軋でいるのだ。
「おう。カラオケか? 良いぞ別に」
 詩姫と遊びに行くイコールカラオケ。そんな図が頭に浮かび上がる。
『うんっ!』
 電話の向こうから響く元気な声に思わず笑いが漏れる。
「柊と京は?」
『えっ!? あ……あぁのねっ今日は涼二と行きたい所があってねっ!』
 行きたい所?
 俺に思い当たる場所なんてカラオケと防波堤ぐらいだ。
「ふ〜ん? わかった。なら30分ぐらいしたら迎えにいくよ」
『うんっうんっわかったっ!』
「じゃー」
『うんっ後でねっ』

 プチッ
 パチンっと携帯を閉じてベッドから起き上がる。
 シャワー入ってすぐ寝てしまったので寝癖が凄い。
 頭だけ何とかするか……。
 とりあえず着替えてリビングへと向った。


 それがデートの誘いだということに朝飯を食いながら気づいた。



*Shiki...


 ベッドの上に正座して携帯をじっと見つめる。
 薄いピンクをした丸っこくて可愛い折りたたみの携帯電話。
 その可愛い携帯の無機質な画面に映し出される文字。
 水ノ上涼二と書かれた画面。
 後はコールボタンを押してしまえばいい。
 時計表示を見ると今は8時59分ジャスト。
 9時になったら電話しようと心に決めてじっとその時を待つ。
「あはんっ。あいうえお〜」
 声を出す。昨日は凄い喋って今顎がなんだか微妙に筋肉痛だけど……うんっいける。
 よし、もう一度セリフの練習っ
『もしもしー』
「もしもし涼二? あ、やっぱ寝てた?」
『いや、ついでに起きるしいいよ』
「ゴメンね? ね、今日暇かなっ? 一緒に遊ばない?」
『へ? いいけど。柊と京は?』
「涼二と二人で行きたい所があるんだっ」
『そう? ならあとで迎えに行くよ』
「うんっばいばいっ」

「………………完璧っ」
 そう、そんなにしゃべることなんて必要ない。
 ただ遊ぶことを約束して一緒に遊ぶだけ。
 一人二役を綺麗にこなして携帯に目を戻すと、9時を超えていた。
「ぁわっっ―――」
 何故か急いで携帯を手にするとコールのボタンを押して携帯を耳にする。

 えっと、最初はっ……あれ? なんだっけっ!?
 ぷるるるるるるっ
 ぷるるるるるるっ
 ぷるっ

『―――……もしもし……?』
 ―――っっ!!
 緊張の糸が急激に張り詰めて、正座をして背筋を伸ばす。
「も、ももしももし? えぇっと涼二さんのお宅でしょうか!?」
 何言ってんのあたしはっ!?
 涼二に向かってかけたんだから当たり前でしょっ
『いや、確かに涼二さんのお宅ですけど』

 ですよね〜っ!

 明らかに寝起きな声でも的確に答えをくれる。
 さすが涼二。
「あ、やっぱ寝てた? ごめんね?」
『ん。ま、―――おわ、もうこんな時間か。起きねぇと、で、何か用か?』
 き、きたっ本題っ!
「あぁ〜……ぅんっ! えっと! 遊びに行こうよっ!?」
 マニュアルどおりの言葉じゃどうしても疑問系になってしまう。
『おう。カラオケか? 良いぞ別に』
 どうもあたしはカラオケしか行かないと思われているみたいだった。
「うんっ!」
 えぇ。カラオケも行こうと思ってましたよ。
『柊と京は?』
 あ、あれ? なんか本当にマニュアルどおりにしゃべってるなぁ涼二……。
「えっ!? あ……あぁのねっ今日は涼二と行きたい所があってねっ!」
 言って、それが凄い恥ずかしい言葉だと気づいた。
 勝手に頭に血が上ってくる。きっと今顔は真っ赤だ。
『ふ〜ん? わかった。なら30分ぐらいしたら迎えにいくよ』
 あ、ここも想像通りっ。
 なんだか通じ合ってる気になってちょっと嬉しい。
「うんっうんっわかったっ!」
 自然とあたしの返事も弾む。
『じゃー』
「うんっ後でねっ」
 プツッ

「………………よっしっっ!」
 達成感から自然と声が出る。
 グッと拳を握った。

 ハッとそんな恥ずかしい自分に気付いて赤面する。

 ―――は、始まる前からコレで大丈夫なんだろうかあたしは……っ




Ryouji...

「涼ちゃんっこっちの服は? あーん、イマイチっやっぱりこっち」
「いや、普通の服で良いんじゃないか?」
「もーダメよ〜? だって今日はデートなんだから、ちゃんとした格好しないとっ」
 いや、親父のスーツ引っ張り出さなくてもいいだろうに。
「いいって……もう出なきゃ」
「あーっまちなさい涼ちゃんっあ、あ、ちょっ―――まってぇ〜」
 スーツの散らばった親父の部屋に母さんを置いてけぼりにして自分の部屋に戻る。
 携帯電話と財布をポケットにしまって、準備完了。
「もぅ! 待ってって涼ちゃんっ!」
「スーツは着ないって」
 スーツを抱えている母さんに牽制をかます。
 そんなにスーツがあったのか……。
「え〜……」
 子供みたいに頬を膨らませて、そんなことを言う不詳母。
 歳を考えて欲しい。
「大きなお世話よっ」
 フンッなんて言いながらスーツを俺の部屋に投げ出すと、今度は俺のクローゼットをあさりだした。
 うちの母親はホントに服が好きだ。
 直感で俺や父さんに似合う服があるとすぐに買ってくる。
 見た目と同じで感覚も若いのか、センスはかなり良い。
「はいっこっちのGパンとシャツ」
 ポンポンと俺の前に服が投げられる。
 まぁ、こっちは普通の服なんで任せてもいいかなと思う。
「んっいい感じっじゃぁ次はワックス入れてみましょうかっ♪」
「いや、それは―――」
「ほらほら〜っ早く早くっ」
 ノリノリだ。
 手を掴まれて洗面台まで連れ去られる。
 ―――面白いくらいいじられた。




 暖かい風を受けながら詩姫の家への道を歩く。
 五月晴れの空を見上げると鯉幟がそよそよと風に泳ぐのが見える。
 ゴールデンウィークの2日目。
 ナナ達は今頃バイトにいそしんでいるんだろう。
 ちょっと遊びに行くというのは忍びないが、そこは割り切ろう。
 しかし、なんとも作り上げられた髪型とか気になって仕方無いのは何でだろう。
 ついでに周りの視線が俺の頭に集まっている気がする。
 なんだか妙にそわそわしてしまって、足早に詩姫の家を目指した。

 織部家のインターホンを押す。

 ドドドドッゴッガタンッ!!

 色んな音がドアの向こうから聞こえる。
 俺はなんとなくドアから1歩横に大きく離れる。

 ガタンッ!!

「あッ!」
 大きな音と同時に、小母さんが飛び出て、壁にぶつかった。
 それを軽くスルーしてドアの中を覗き込む。
「よ、おはよ詩姫」
「っ―――お、おはよっ!」
 一瞬返事に困ってたみたいだ。
 やっぱりこの頭か?
「むー、この頭、変かやっぱ?」
 ブンブンブン! と勢い良く頭を左右に振る。
「そんなこと無いよっ!? ……ちょっと一瞬びっくりしたけど」
 やっぱりおかしいのか?
 触りたいが、触ったらもっと変になるよ?
 と母さんに脅されているためあまり不用意に触れられない。
 もともとあんまり髪をいじったりしないのでとても違和感がある。

 詩姫のいつもよりふわふわとさせた髪は大らかなウェーブを描いている。
 普段からあまり化粧はしないと言っていたのだが、
 今日は薄く化粧をしているみたいだ。
 更に大人っぽくなっている。
 少し肩の広めに開いた長袖。
 下は大き目のベルトにデニム生地っぽいスカート。
 そのスカートには他の布生地で装飾が施してあって、なんとなく詩姫っぽい。
 シンプルな格好だが、よく似合うと思う。
 ……決して贔屓ではない。
 なんとなく気恥ずかしくて、詩姫から視線をはずす。
 玄関先で目を回している人が目に入った。
「……どうすんのこの人?」
「……ほっとけばいいよ」
 はぁ。とため息をつく。
 呆れて何も言えないみたいだ。
「ふぅ……まぁ世界をまたにかけるモデルを放置ってのもアレだから……
 部屋に運ぶだけ運ぶか」
「―――もう……ホント仕方無い人でゴメンね……」



 五月晴れの下を二人並んで歩く。
 ブーツを履くと俺と詩姫は身長が並ぶ。
 決して俺も身長が低いわけではない。
 ちょっと気になってしまう。
「ん? どしたの?」
 さっきからチラチラと俺を見ていた詩姫が話しかけてくる。
 ちなみに俺は露骨に詩姫を見ていたが。
「んー。詩姫って背が高いなぁと思ってたところだ」
「……だよね……やっぱりもうちょっと小さい方が可愛くていいよね……」
 はぁ〜、とため息をついてうな垂れる詩姫。
「ん? 別に詩姫の背が高いといけないわけは無いだろ?」
 カッコイイし。褒め言葉だ。
 一応俺も成長期だ。絶対この状態の詩姫に勝てるぐらいの身長は欲しい。
 ……なんて言うか、男として。
「……っりょ、涼二は背が高い子、嫌い?」
 ちょっと上目遣いでそんなことを俺に聞いてくる。
 んなわけ、ないのに。
「いいや? 詩姫に身長で勝ててないのが悔しいだけだ」
 ぶっちゃけ、柊ぐらいの身長が欲しい。
 今すぐ。
「―――っあはっ涼二っぽいねっ」
「え?」
 勝ち負け換算のことか?
 俺は考えるポーズを取って詩姫を振り返る。

『世の中勝負があるから楽しいんだよ?』

 詩姫に完全にハモった。
 な、なんだとっ馬鹿な。
 俺は過去にも同じことを言ったのか。
「あはははははっ」
 心底面白そうに詩姫が笑う。
「変わんないね涼二っ!」
 言って、一歩俺の前に出る。
 負けじと俺もそれに並ぶ。
 すると更に詩姫が一歩前へと歩を早める。

 気づくと二人はダッシュで住宅街を走り抜けていた。
 もちろん、詩姫はかなりへばっていたが。
 ……変な二人組みだった。

前へ 次へ


Powered by NINJA TOOLS

/ メール