ToNewStory3
*Miyako...
コン。
窓が鳴った。
今日は涼しいのでクーラーはつけないで窓は開けている。
たまに強い風が吹いていたが―――そのせいだろうか。
蛍光灯が無機質に照らす部屋。
もう何年もいるから慣れきっているのだけれど、他人から見れば冷たく見えたりするの だろうか。
コン。
また鳴った。どうやら気のせいではなかったようだ。
窓が鳴るのは小石でもぶつけられたからだろう。
私は勉強机から椅子を放して投げられてくるものを警戒しながら窓を覗いた。
「みやちゃーん」
下かな、と思ったら目の前だった。
涼二の部屋からヒメちゃんが手を振っている。
「ひめちゃん」
私も釣られて小さく手を振った。
別にヒメちゃんがあの部屋に居る事は珍しい事じゃない。
よく見かけるし、あの部屋は何時だって真夏なんだと私は思っている。
窓から身を乗り出すと湿気た風が吹いていた―――。
そういえば台風が来ていたような。
夜に直撃するんだっけ。だから今こんなにも風があって涼しい。
「台風きてるよ〜帰らなくて大丈夫なのー?」
「おばさん送ってくれるって! ねっ! 明日午後には台風居なくなっちゃうらしいから遊びにいこー!」
「いいよー」
我ながらいい返事をした。
ヒメちゃんは満足げに満面の笑みで笑う。
「やったー!」
いつも、最初に誘ってくれるのは私。
嬉しいなぁやっぱり。
「それじゃ、そろそろ雨降りそうだし、閉めるね」
「うんー! アリガトー! またね〜っ」
「ばいばーい」
私も笑って窓を閉める。
見ると、ヒメちゃんが窓から糸のついたゴムボールを回収しているのが見えた。
ああ、アレか窓を叩いてたものの正体は。
多分投げたのは涼二。
ヒメちゃんじゃ……うん。
風も強いし正確に当てるのは難しかっただろう。
というか、多分窓に入れることを狙ってたんだと思う。
あのゴムボールには何度も狙われた記憶があるし。
……というか携帯電話という文明の利器があるのになぜワザワザアナログな方法をとったのだろう。
聞いても面白そうだからに他無い気がするからいいんだけど。
気が付くと笑っていた私は自分の頬っぺたをつまみながら宿題を終わらせる作業に戻った。
*Shiki...
うれしい。
こんなにも幸せ。
日常が満ち満ちている。
明日も涼二の家に遊びに行こう。
みやちゃんと柊くんにも遊びにに行こうって言ってあるしっ。
「ありがとう御座いましたっ」
「ううん。またいつでもきてね今からでも」
「あははっ折角送ってもらったのにっ」
おばさんもとってもいい人だ。
あたしを心配してくれるし本当の娘のように扱ってくれる。
「ふふっそれじゃまたね」
おばさんは言いながら運転席から小さく手を振って車を発進させた。
そのテールランプが見えなくなるまで見送るとあたしも自分の家に戻る事にした。
あたしの家は駅から五分。コンビニまで三分。
学校までは四十分かかるけど結構快適なマンション。
涼二とみやちゃんの家までは歩いて十五分ぐらいだ。
このマンションの五階があたしの家。
今は両親もお兄ちゃんも出ているのであたしの一人ぐらしの家となっている。
一人暮らしに憧れてる子にはいいなぁとかよく言われるんだけど、
一人暮らしの辛さを知らないからそんなこと言えるだけなんだよ?
まぁ一人の気楽さって言うのは確かに有る。
でも一度怠けちゃうとすぐに部屋が汚くなったり食事を疎かにしたりしてしまう。
冷蔵庫の中身だってなかなかちゃんと管理できない。
あたしはもう十年近くやってるからね。自信あるよ。うん。
涼二のおばさんにも良いお嫁さんになるって言われたしっ。
お、お嫁さんか……なんか……うん……照れるなぁ……。
こう、涼二が新聞広げて、木の多い家のであたしがご飯を作って一緒に食べて……。
子供とかできて……っ一緒に遊んだりして……。
キラキラと光の多い割と理想的過ぎるその妄想を広げてみたりする。
あ―――それも、いいな……なんて―――……。
あ、あはははは!
学生だしねっ!
そ、それにシンガー志望だしっ!
パタパタと妄想を振り払ってエレベータに乗った。
うー……最近本当にどうかしてるかもしれない。
そんな妄想をするほど、涼二にベタ惚れな自分に気付いて赤面する。
悪い事じゃないんだけど……なんか……程々にしないと怒られそうだ。
……みやちゃんに。そう思ったら微妙に空笑いが出た。……うん、なんかごめんなさい。
ピーンとエレベータが止まる。
五階に到着しスーッとドアが開いた。
あたしはいつも通りカバンから鍵を出しながらエレベータを出た。
自分ちの扉に鍵を入れてガチャンとまわす。
小気味いい音と同時に鍵が開いた。
「ただいまー」
まぁ誰も居ないんだろうけどいつも通り帰る。
パチッと電気をつけて靴を脱ごうとして、止まった。
…………
何も無い。
あ、あれ……?
無い……
靴箱は……?
あれ??
靴を脱ぎ捨ててリビングのドアを開ける。
―――無い……!
なんっっっにも無い!
テレビもソファーも本棚もカーペットもピアノも全部無い!?
「なんで!?」
いくら泥棒でもカーペットやソファーまで盗むのか!?
まさか引っ越し泥棒!?
綺麗に盗まれすぎてぐうの音も出ないよ!?
ピンポーン―――
呼び鈴が鳴る。
混乱の最中にありながらあたしはふらふらと玄関に歩いた。
「は、はい」
ガチャン、と扉を開ける。
「織部詩姫様でいらっしゃいますね」
そこに立っていたのは見知らぬ女性。
全身黒い服に身を包み、礼儀正しく頭を下げた。
そしてメガネをくいっと上げてアタシを見た。
「なんっ何でしょう??」
その雰囲気から何となく一歩引いてあたしは聞いた。
「お迎えに上がりました」
「はい??」
「深雪様より伝言です」
そう言ってあたしに手紙を差し出した。
その宛名はあたし。
その字には確かに見覚えがあったし、お母さんのサインもあった。
「な、何―――?」
あたしはその封を切って手紙を取り出す。
も、もしかして―――
コレはあの人の悪戯!?
ああ、それも考えられなくも無い。
あの人はやる。できる。
甘い物嫌いなお兄ちゃんを永遠と甘い物で苛めるぐらいだ。
きっと今回もなんか変な思いつきに違いない!
あたしは手紙を読み進める。
そして、読み終えて、手紙を落としてしまった。
黒服の女性がソレを拾い上げて丁寧に畳むとあたしに持たせなおしてくれた。
そしてメガネを指先でくいっと上げるとあたしの目を見て手紙の内容を繰り返した。
「今日より、アメリカへとお越し頂きます」
どどんっ!
あたしの中で太鼓がなった。
言葉に出来ないものがどんどん膨らむ。
いろいろな質問だけが溜まりに溜まって、破裂しそうだった。
その状態を人は混乱と呼ぶのだろうか。
「ええええぇぇぇーーー!!!?」
近所一体にあたしの叫びが響いた。
Vox series Finished.
To Be Continued.
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